説明

レトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法

【課題】コクのあるレトルトソースを製造することができるレトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】乳化剤、多価アルコール及び水を特定の割合で配合し、前記配合物をよく混合して60〜70℃に温めた後、油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化したレトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法である。また、前記レトルトソース用高油分乳化油脂組成物を含むレトルトソースである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レトルトソースに油脂を配合する場合、油脂と乳化剤をあらかじめ配合して乳化した乳化組成物を調製しこれに水、各種の調味料、具材等を配合して製造することが行われている。
これは、レトルトソースの製造時に直接油脂と乳化剤を添加しても乳化が十分できず、油脂が分離するためである。
レトルトソースの油脂の配合量を多くすることにより、コクや旨みを改善することができるので、レトルトソース中の油脂の配合量を多くすることが試みられているが、単に前記の乳化油脂組成物の配合割合を多くすると乳化剤の配合割合も同時に多くなりにが味などが出て味が悪くなる。
よって、前記乳化油脂組成物の油脂配合割合を高めることが求められている。
このような乳化油脂組成物として例えば、A.油性物質1〜70重量部、B.多価アルコール10〜95重量部、C.HLBが9以上である乳化剤1〜60重量部から成る製剤が知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2004−208555号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
レトルトソースの場合は加熱条件が厳しく乳化油脂組成物の油脂配合量を多くすると油脂の分離が起こりやすく、コクのあるレトルトソースを製造することが困難であった。
したがって、本発明の目的は、コクのあるレトルトソースを製造することができるレトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の乳化剤と多価アルコール及び水を特定の割合で配合しこれに油脂を特定の割合で配合することによりレトルトソースに使用できる高油分乳化油脂組成物を製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。
従って、本発明は、乳化剤、多価アルコール及び水を以下の(A)、(B)の条件で配合し、
(A)多価アルコール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部、
(B)水の質量割合はHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの場合は、デカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計の29質量%〜61質量%、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの場合は、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計の41質量%〜71質量%、デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを同時に使用する場合は、それぞれの配合割合による前記それぞれの水の配合割合の平均値、
前記配合物をよく混合し60〜70℃に温めた後、油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化したレトルトソース用高油分乳化油脂組成物及びその製造方法である。
また、前記レトルトソース用高油分乳化油脂組成物を含むレトルトソースである。
【発明の効果】
【0006】
本発明のレトルトソース用高油分乳化油脂組成物を使用することによりコクのあるレトルトソースを製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明において使用できる乳化剤はHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルである。
これらは、あらかじめ水を添加してある市販品を使用することができる。
本発明において、前記乳化剤以外の乳化剤を使用した場合はレトルトソースの乳化状態が悪くなり油脂が分離したり、食味が劣るなど良質のレトルトソースを得ることができない。
【0008】
本発明において使用できる多価アルコールは、食用に使用できるものであれば特に限定されない。
例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール、マルチトール、キシリトール、エリスリトール、ラクチトール、キシロース、アラビノース、マンノース、異性化糖、果糖、還元水飴などを挙げることができる。
これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0009】
本発明において、乳化剤と多価アルコールの配合割合が重要である。
多価アルコール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部である。
この配合割合より乳化剤が多くなると食味に苦味がでるので好ましくない。
また、この配合割合より乳化剤が少なくなると油脂が分離するので好ましくない。
なお、本発明において、○○〜△△とは○○以上、△△以下をいい、例えば、1〜3とは1以上3以下をいう。
【0010】
本発明において、水の配合割合もまた重要である。
HLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルを使用する場合は、水の質量割合はデカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計に対して29質量%〜61質量%になるように配合する。
HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルを使用する場合は、水の質量割合はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計に対して41質量%〜71質量%になるように配合する。
デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを同時に使用する場合は、それぞれの配合割合による前記それぞれの水の配合割合の平均値となる。
例えば、デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを3:7で使用する場合は、(29質量%〜61質量%)×0.3+(41質量%〜71質量%)×0.7=37.4質量%〜68.0質量%となり、水の質量割合は、デカグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、多価アルコールと水の合計に対して37.4質量%〜68.0質量%となる。
水の割合が前記範囲より少ない場合は、粘度が高くなりすぎて作業性が悪くなったり、ダマになったりして、乳化が十分にできず、前記範囲より多い場合は、油脂が分離して食味が劣るので好ましくない。
【0011】
本発明において使用できる油脂は、食用に使用できるものであれば特に限定されない。
例えば、サラダ油、菜種油、大豆油、サフラワー油、コーン油、ひまわり油、米油、パーム油、やし油、カカオ脂、オリーブ油、魚油、乳脂、牛脂などを挙げることができる。
これらは単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0012】
乳化剤、多価アルコール及び水の配合物をよく混合し60〜70℃に温めた後、油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化する。
攪拌手段は乳化ができれば特に限定されない。
本発明のレトルトソース用高油分乳化油脂組成物は乳化し易いので、回転数が1000min−1程度の攪拌機で十分乳化が可能である。
なお、油脂には脂溶性の色素などを添加することができる。
【0013】
本発明のレトルトソース用高油分乳化油脂組成物は従来の乳化油脂組成物と同様にレトルトソースの製造に使用することができ、製造方法は従来のレトルトソースの製造方法と同様でよい。
このレトルトソースは開封後そのままディップソースとして食したり、水溶液で希釈して飲用したり、ピザやパンや惣菜等にトッピングして焼成したり、パンやドーナッツに注入したりすることができる。
また開封せず湯煎や電子レンジで温めて従来のレトルトソースと同様にご飯やパスタや惣菜等にかけたり、スープとして飲用したりすることができる。
【実施例】
【0014】
以下本発明を実施例により具体的に説明する。
[実施例1〜3、比較例1〜15]乳化剤の種類
多価アルコール水溶液(日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF)12.5質量部(70質量%水溶液に調整、乾物換算8.75質量部)と表1に示す乳化剤7.5質量部(40質量%水溶液に調整、乾物換算3質量部)を鍋で60〜70℃に加温した後、カッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に移し、攪拌(1000〜1500min−1)しながらサラダ油80質量部を少しずつ添加し、高油分乳化油脂組成物を調製した。
【0015】
【表1】

【0016】
表2に示す原料をカッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に投入し、1500min−1で5分間攪拌し、鍋に移し、90℃まで加温した。
150gずつレトルト用パウチに充填し、118℃で35分間レトルト処理しレトルトソースを得た。
【0017】
【表2】

【0018】
前記レトルトソースを熱湯で5分間温めパネラー10名による官能試験を以下の基準で行った。
乳化状態の悪いものは、官能評価を行わなかった。
評価基準
レトルトソースの乳化
○ 乳化状態が良い
△ 乳化状態がやや悪い
× 乳化状態が悪い
レトルトソースの官能評価
○ 口溶けが良くなめらかで非常によい
△ 普通
× 口溶けが悪くねっとりしていて悪い
【0019】
結果を表1に示す。
モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)とショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15およびHLB 16)が最も良い評価であった。
【0020】
[実施例4〜9]多価アルコールの種類
表3に示す甘味度が異なる多価アルコール溶液12.5質量部(70質量%水溶液に調整、乾物換算8.75質量部)とモノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)7.5質量部(40質量%水溶液に調整、乾物換算3質量部)を鍋で60〜70℃に加温した後、カッターミキサー(フォアベルク社製、商品名:サーモミックス)に移し、攪拌(1000〜1500min−1)しながらサラダ油80質量部を少しずつ添加し、高油分乳化油脂組成物を調製した。
【0021】
【表3】

【0022】
実施例1と同様にレトルトソースを調製し官能評価を行った。
結果を表3に示す。
いずれの多価アルコールでも良好な結果であった。
【0023】
[実施例10〜15、比較例16〜22]乳化剤と多価アルコールの配合割合
実施例1において、乳化剤と多価アルコール水溶液を表4及び表5に示す割合にした他は実施例1と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
結果を表4、表5に示す。
なお、表中モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)は40質量%水溶液に調整後の値(質量部)である。
多価アルコールは日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF(70質量%水溶液に調整)を使用した。
【0024】
【表4】

【0025】
【表5】

【0026】
多価アルコール100質量部に対するモノデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部の場合が良好な結果であった。
【0027】
[実施例16〜18、比較例23〜25]水の配合割合(1)
実施例1において、モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)30質量部(無水物)、多価アルコール(日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF)87.5質量部(無水物換算値)、サラダ油800質量部及び水を表6に示す割合とした他は実施例1と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
水の質量%はモノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)、多価アルコール及び水の合計に対する割合である。
結果を表6に示す。
【0028】
【表6】

【0029】
モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)の場合は、水の質量割合がモノデカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計に対して29.9質量%以上、60.8質量%以内で良好な結果であった。
【0030】
[実施例19〜21、比較例26〜28]水の配合割合(2)
実施例1において、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)30質量部(無水物)、多価アルコール(日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF)87.5質量部(無水物換算値)、サラダ油1000質量部及び水を表7に示す割合とした他は実施例1と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
水の質量%はショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)、多価アルコール及び水の合計に対する割合である。
結果を表7に示す。
【0031】
【表7】

【0032】
ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)の場合は、水の質量割合がショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計に対して41.3質量%以上、70.6質量%以内で良好な結果であった。
【0033】
[実施例22〜31、比較例29〜38]水の割合割合(3)
実施例19において、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)を、表8に示す割合のショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)とモノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)の混合物に変更し、水を表8に示す割合とした他は実施例19と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
結果を表8に示す。
表中、A:Bとはモノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)とショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)の質量割合(無水物換算値)を表し、Aはモノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)、Bはショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)を表す。
【0034】
【表8】

【0035】
好ましい水の配合割合は、モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)とショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)の配合割合に比例した。
【0036】
[実施例32〜37、比較例39]油脂の配合割合(1)
モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)75質量部、多価アルコール125質量部、水100質量部及びサラダ油を表9に示す割合とした他は実施例1と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
なお、モノデカグリセリン脂肪酸エステル(HLB 15)は40質量%水溶液に調製して使用した。
また、多価アルコールは日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF(70質量%水溶液に調整)を使用した。
結果を表9に示す。
【0037】
【表9】

【0038】
油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の86質量%以下で良好な結果であった。
【0039】
[参考例1、実施例35〜37、比較例40]油脂の配合割合(2)
ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)75質量部、多価アルコール125質量部、水200質量部及びサラダ油を表10に示す割合とした他は実施例1と同様にしてレトルトソースを調製し官能評価を行った。
なお、ショ糖ステアリン酸エステル(HLB 15)は40質量%水溶液に調製して使用した。
また、多価アルコールは日研化成株式会社製、商品名:ソルビトールF(70質量%水溶液に調整)を使用した。
結果を表10に示す。
【0040】
【表10】

【0041】
油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の86質量%以下で良好な結果であった。
【0042】
前記実施例1〜実施例37、前記参考例1〜参考例3、前記比較例1〜比較例40で得られたレトルトソース用高油分乳化油脂組成物の評価を、表2に示す配合に代えて表11に示す配合で実施例1と同様に評価を行った。
【0043】
【表11】

【0044】
前記実施例1〜実施例37、前記参考例1〜参考例3、前記比較例1〜比較例40で得られたレトルトソース用高油分乳化油脂組成物の評価結果は、表2に示す配合で行った場合の評価と同様であった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳化剤、多価アルコール及び水を以下の(A)、(B)の条件で配合し、
(A)多価アルコール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部、
(B)水の質量割合はHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの場合は、デカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計の29質量%〜61質量%、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの場合は、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計の41質量%〜71質量%、デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを同時に使用する場合は、それぞれの配合割合による前記それぞれの水の配合割合の平均値、
前記配合物をよく混合し60〜70℃に温めた後、油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化したレトルトソース用高油分乳化油脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のレトルトソース用高油分乳化油脂組成物を含むレトルトソース。
【請求項3】
乳化剤、多価アルコール及び水を以下の(A)、(B)の条件で配合し、
(A)多価アルコール100質量部に対するHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステル及び/又はHLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの質量割合は乾物換算で8〜35質量部、
(B)水の質量割合はHLB15以上のデカグリセリン脂肪酸エステルの場合は、デカグリセリン脂肪酸エステルと多価アルコールと水の合計の29質量%〜61質量%、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルの場合は、HLB15以上のショ糖ステアリン酸エステルと多価アルコールと水の合計の41質量%〜71質量%、デカグリセリン脂肪酸エステルとショ糖ステアリン酸エステルを同時に使用する場合は、それぞれの配合割合による前記それぞれの水の配合割合の平均値、
前記配合物をよく混合し60〜70℃に温めた後、油脂の配合量がレトルトソース用高油分乳化油脂組成物全体の70質量%を超え86質量%以下となるように攪拌しながら油脂を徐々に加え乳化することを特徴とするレトルトソース用高油分乳化油脂組成物の製造方法。


【公開番号】特開2010−193730(P2010−193730A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−39549(P2009−39549)
【出願日】平成21年2月23日(2009.2.23)
【出願人】(000231637)日本製粉株式会社 (144)
【Fターム(参考)】