説明

レンズ成形用金型

【課題】特別な部材や装置を用いることなく、金型組み付け時の作業性と成形時の位置決め精度の両方を確保したレンズ成形用金型を提供する。
【解決手段】固定型20は、第一のレンズ形状を転写する転写面23aを有する固定型用コア23と、固定型用コア23をクリアランスを設けてとりつける円筒孔22aを有する固定型用胴型22とを備える。可動型30は、第二のレンズ形状を転写する転写面33aを有する可動型用コア33と、可動型用コア33をクリアランスを設けてとりつける円筒孔32aを有する可動型用胴型32とを備える。コア23,33には胴型22,32より熱線膨張係数の大きい材質を用いる。コア23,33は、成形時に、円筒孔22a,32aの内壁22b,32bに圧接しシマリバメとなる圧接面23c,33cと、接触しないカット面およびニガシ面23b,33bを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学レンズをプレス成形するための金型に関し、特に、光学素材を用いてレンズを成形する際に、レンズの第1面の中心と、第2面の中心とが位置ズレしないようにしたレンズ成形用金型に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレス成形用金型は、上型および下型の少なくとも一方が上下動可能になっており、胴型がその摺動を支持している。可動する型と胴型は殆ど隙間がなく、しかも金型に熱を加えて摺動させるため金型の摺動部分の磨耗は激しい。下記特許文献1には摺動面に炭素、二硫化モリブデン、又は窒化ホウ素などの固体表面処理材を高速噴射により表面処理したモールドプレス金型が紹介されている。また下記特許文献2には摺動面に硫黄系化合物、セレン系化合物、カドミウム系化合物、などの固体潤滑性薄膜を形成したモールドプレス金型が紹介されている。
【0003】
図9および図10に示すように、光学レンズを成形する金型50は、固定型60と可動型70によって構成され、光学面を精度良く成形するために鏡面を有するコアを使用している。対向する一対の型板61および71に胴型62および72が取り付けられ、それぞれの胴型62および72に一対のコア63および73が支持される。一対のコア63および73の間が成形するレンズ空間となっており、ここに光学素材80を置いてレンズ81を成形する。一対のコア63および73はレンズ81を成形する転写面63aおよび73aが鏡面となっているので、レンズ81の光学面を高精度で成形することができる。
【0004】
一対のコア63および73は、胴型62および72への取り付けを容易にするため、胴型62および72との間に5/1000mm程度のクリアランスが設けられている。ところが、このようなクリアランスを設けた構造では、コア63および73はそれぞれ勝手な方向にクリアランスの分だけ動いて偏芯が発生する(図10参照)。この状態で成形される光学レンズは第一面と第二面の光軸がクリアランスの分だけ偏芯してしまい、それ以上に精度を向上させることができない。また、可動側のコア73と固定側の胴型62との間で軸ズレによるかじりが発生することもある。
【特許文献1】特開2005−206430号公報
【特許文献2】特開2006−137614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
光学レンズを成形する金型においては、胴型に対するコアの位置精度と、コアを胴型に組み付ける時に必要なクリアランスの確保とを両立させなければならない。すなわち、光学レンズの成形にあっては,表裏面間の軸ズレが問題となるため、成形時には事実上クリアランスがゼロでなければならない。しかし組み付け時には、少なくとも0.005mm程度のクリアランスがないと実際問題として組み付け作業ができない。従って、組み付け時(常温)にはある程度のクリアランスを確保しつつ,成形時(高温)にはそのクリアランスが消滅するようにする必要がある。
【0006】
本発明は、特別な部材や装置を用いることなしに、組み付け時(常温)にはクリアランスを確保し、成形時(高温)にはクリアランスをなくして作業性と位置決め精度の両方を確保することのできる光学レンズ成形用金型を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によるレンズ成形用金型の固定型と可動型は、それぞれに、レンズ形状を転写する転写面を有するコアと、該コアがクリアランスを設けてとりつけられる孔を有する胴型とを備える。前記固定型と前記可動型は、それぞれの前記転写面が同一中心軸上で離間して対向するように配置する。可動型用コアの先端部分は可動型用胴型から突出しており、型閉じ時には、この突出した部分が前記固定型用胴型の孔に進入する。前記孔の内部で前記対向するように配置された2つの転写面によって、加熱により軟化した状態の光学素材をプレス成形する。
【0008】
前記コアには前記胴型より熱線膨張係数の大きい材質を用いる。前記コアの周面の一部に、成形時の温度下で熱膨張によって前記クリアランスがゼロになってシマリバメとなる圧接面を設ける。これによって成形時には前記コアはその軸芯を前記胴型の中心に合わせられる。前記2つの胴型はその中心を同じくしているので、前記2つのコアの軸芯も一致することになる。
【0009】
前記シマリバメとなる圧接面の周囲に前記シマリバメによる内部応力を分散させる応力ニゲ部を設ける。該応力ニゲ部として、前記周面の周方向に120度間隔で3ヶ所のカット面を設け、前記転写面に続く先端部分を圧接面の径より細くしてニガシ面とする。また、前記先端部分の反対側も前記圧接面の径より細くして、成形時の温度下でも前記孔の内壁とのクリアランスがゼロにならないようにした根元部を設ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明による光学レンズ成形用金型は、簡単な構造であるにも係わらず、コアの組付け取り外しが簡単で金型のメンテナンスを容易に行うことができ,メンテナンス後の成形時の位置精度も全く問題なく、軸ズレの発生のない光学レンズを成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態であるレンズ成形用金型の構造について説明する。図1に示すレンズ成形用金型10は、固定型20および可動型30より構成されている。固定型20は、型板21と、型板21に固定された胴型22、および胴型22に嵌合して支持された円柱形のコア23とによって構成され、可動型30は、型板31と、型板31に固定された胴型32、および胴型32に嵌合して支持された円柱形のコア33とによって構成されている。ここでコア23は胴型22、コア33は胴型32よりそれぞれ熱線膨張係数が大きい材質を用いている。
【0012】
図2に示すように固定型20用の胴型22には、挿入されるコア23の円周面と嵌合する内壁22bとフランジ部23fと嵌合する内壁22cを有する円筒孔22aが設けられ、内壁22cは円筒形の一部を平面とした位置決め用のDカット面22dを備えている。可動型30用の胴型32の構造も同じである。
【0013】
図3〜図5に示すように、コア23の先端は、成形される光学ガラス素材40にレンズ面形状を転写する転写面23aが形成されている。転写面23aは、光学精度を保証するため鏡面仕上げになっている。コア23は、先端面に前記転写面23aを備え、円周面にニガシ面23b、圧接面23c、カット面23d、根元部23eを備え、更にフランジ部23fを備えている。
【0014】
コア23の前記円周面は常温下において前記胴型22の内壁22bより小さく、前記フランジ部23fは、前記胴型22の内壁22cより小さいので、前記コア23を前記胴型22に挿入し取り付けることは容易である。
【0015】
前記圧接面23cは、常温下において前記胴型22の内壁22bとの間に0.003〜0.005mm程度のクリアランスができるように作られた円周面の一部であって、円周上に120度間隔で3ヶ所設けられている。前記カット面23dは前記コア23の円周面を平らに削った面であり前記圧接面23cと交互に設けられている。前記圧接面23cは、加熱によって膨張し成形時の温度下では、前記胴型22の内壁22bより僅かに大きくなり、内壁22bとの間がシマリバメとなる。
【0016】
コア23の型板21側に設けられたフランジ部23fは、胴型22の内壁22cとの間のクリアランスを、前記圧接面23cと前記内壁22bとの間のクリアランスより大きく設けられ、前記成形時の温度であってもクリアランスが確保される。また、前記フランジ部23fは前記内壁22c同様に円形であり、フランジ部23fには、前記内壁22cに設けられたDカット面22dと係合する位置にDカット面23gが設けられ、胴型22に対するコア23の軸中心回転方向の位置決めを行っている。
【0017】
次に可動型用コア33について説明する。図6に示すようにコア33の先端面には、成形される光学ガラス素材にレンズ面形状を転写する転写面33aが形成されている。転写面33aは、光学精度を保証するため鏡面仕上げになっている。コア33は、先端面に前記転写面33aを備え、円周面にニガシ面33b、圧接面33c、カット面33d、根元部33eを備え、更にフランジ部33fを備えている。
【0018】
コア33の前記円周面は常温下において前記胴型32の内壁32bより小さく、前記フランジ部33fは、前記胴型32の内壁32cより小さいので、前記コア33を前記胴型32に挿入し取り付けることは容易である。
【0019】
前記圧接面33cは、常温下において前記胴型32の内壁32bとの間に0.003〜0.005mm程度のクリアランスができるように作られた円周面の一部であって、円周上に120度間隔で3ヶ所設けられている。前記カット面33dは前記コア33の円周面を平らに削った面であり前記圧接面33cと交互に設けられている。前記圧接面33cは過熱によって膨張し成形時の温度では、前記胴型32の内壁32bの内径より僅かに大きくなり、内壁32bとの間がシマリバメとなる。
【0020】
フランジ部33fは、胴型32の内壁32cとの間のクリアランスを、前記圧接面33cと前記内壁32cとの間のクリアランスより大きく設けられ、前記成形時の温度であってもクリアランスが確保される。また、前記フランジ部33fには、前記内壁32cに設けられたDカット面32dと係合する位置にDカット面33gが設けられている。
【0021】
次に、本発明の実施形態であるレンズ成形用金型10の作用について説明する。常温下において、コア23および33の外径は胴型22および32に設けられた円筒孔22aおよび32aの内壁22bおよび32bより0.005mm程度あるいはそれ以上のクリアランスが設けられており、前記胴型22および32への前記コア23および33の取り付け取り外しは容易に行える。
【0022】
成形のため前記金型10を加熱すると、固定型20および可動型30を構成する各部材は膨張する。固定型20は、コア23は胴型22よりそれぞれ熱線膨張係数が大きい材質を用いているが、胴型22の内壁22cとコア23のフランジ部23fの間および内壁22bと根元部23eの間のクリアランスは加熱時においても確保されている。しかし、内壁22bと圧接面23cの間では圧接面23cの外径が内壁22bより大きくなり圧接面23cは内壁22bに圧接しシマリバメとなる。これによってコア23の軸中心は胴型22の円筒孔22aの中心と一致する。
【0023】
ここで前記圧接面23cは内壁22bに接触した後も膨張しようとするが、前記内壁22bに圧接しているので膨張できず、その体積膨張は隣接するカット面23dとニガシ面23b、根元部23eが分担する。カット面23dとニガシ面23b、根元部23eは加熱状態においても内壁22bに圧接することがない寸法に設定されているので、前記圧接面23cの膨張によって発生する応力歪を吸収することができる。
【0024】
このように前記コアの円周面にカット面23dとニガシ面23bを設けることによって前記体積膨張による応力の前記転写面23aへの影響がないようにしている。また、前記圧接面23cの長さは必要最小限とし、フランジ部23fまでの間に圧接面23cより細くした根元部23eを設けることで、前記応力歪の発生をより少なくしている。
【0025】
前記カット面23dは圧接面23cの発生する応力を分散・吸収するために設けられたが、これによって前記コアの前記ニガシ面23b、カット面23d、根元部23e、フランジ部23fの各部と、前記円筒孔22aの内壁22b,22cとの間に形成された隙間は、前記光学ガラス素材を成形する空間から金型外部に連通して設けられることになり、ここを窒素ガス等の酸化防止用不活性ガスの導入通路として使用することもできる。
【0026】
可動型30においてもコア33は圧接面33cが内壁32bに圧接しシマリバメとなることによってコア33の軸中心が胴型32の円筒孔32aの中心と一致する。胴型22と胴型32は型板21および31に固定されているので成形時の加熱によって位置ズレを起こすことはなく、コア23とコア33の軸中心は一致することになる。
【0027】
コア33は固定型20のコア23と比べ先端部分のニガシ面33bが胴型32より突出している点が異なる。成形時に固定型20と可動型30が閉じられた時、ニガシ面33bは、固定型20の胴型22の円筒孔22aに進入する。
【0028】
この時、コア33の軸中心と円筒孔22aの中心が僅かでもズレていると、ニガシ面33bは円筒孔22aの入り口の縁に当たってしまうが、前述のように中心のズレはなく、また加熱状態でもニガシ面33bの径は円筒孔22aの内壁22bより大きくならないので当たることはなく、挿入時のかじりの発生もない。
【0029】
また固定型20において、応力を分散・吸収するために設けられたカット面等によって、コア23と円筒孔22aの間に、前記光学ガラス素材を成形する空間から金型外部に連通する隙間が設けられたが、可動型30においても同様に連通する隙間が設けられるので、ここを酸化防止用不活性ガスの導入通路として使用することができる。
【0030】
前記実施形態は、固定型20および可動型30において、コア23,33を円柱形とし、胴型22,32に設ける孔を円筒孔22a,32aとしたが、円柱形、円筒形に限るものではなく、別の形状であっても良い。またレンズを成形する材料は光学素材であれば良く、光学ガラス素材でなくても良い。
【0031】
前記実施形態は、本発明を、両面に球面あるいは非球面を有する光学レンズを成形する金型に採用した場合であるが、一面が平面な光学レンズを成形する金型に採用しても良く、また光学ミラーを成形する金型に採用しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明によるレンズ成形用金型の断面図を示す図である。
【図2】胴型の断面図を示す図である。
【図3】固定型用のコアを上から見た図である。
【図4】固定型用のコアを横から見た図である。
【図5】固定型用のコアの中心線断面を示す図である。
【図6】可動型用のコアを横から見た図である。
【図7】可動型用のコアを先端側から見た図である。
【図8】本発明によるレンズ成形用金型を閉じた時の断面図を示す図である。
【図9】従来のレンズ成形用金型の断面図を示す図である。
【図10】従来のレンズ成形用金型を閉じた時の断面図を示す図である。
【符号の説明】
【0033】
10 レンズ成形用金型
20 固定型
21,31 型板
22,32 胴型
22a,32a 円筒孔
23,33 コア
23a,33a 転写面
23b,33b ニガシ面
23c,33c 圧接面
23d,33d カット面
23e,33e 根元部
30 可動型

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定型と可動型の少なくとも一方の型に、光学面形状を転写する転写面を有するコアと、該コアがクリアランスを設けて取り付けられる孔を有する胴型とを備え、加熱により軟化した状態の光学素材を、前記固定型と可動型の間でプレス成形するレンズ成形用金型において、
前記コアは、前記胴型より熱線膨張係数の大きい材質を用い、成形時の温度下で熱膨張によって前記孔の内壁との間がシマリバメとなることを特徴とするレンズ成形用金型。
【請求項2】
前記シマリバメとなる部分は、前記コアおよび前記孔の一部分であり、
前記コアまたは前記孔の前記シマリバメとなる部分の周囲に、成形時の温度下でも接触しない応力ニゲ部が設けられたことを特徴とする請求項1記載のレンズ成形用金型。
【請求項3】
前記コアは、周面に設けられた前記シマリバメとなる部分である圧接面と、圧接面の周囲に設けられた応力ニゲ部とを有することを特徴とする請求項1または2記載のレンズ成形用金型。
【請求項4】
前記応力ニゲ部は、前記コアの周面の周方向に等間隔に設けた3ヶ所以上のカット面であることを特徴とする請求項3記載のレンズ成形用金型。
【請求項5】
前記応力ニゲ部は、前記コアの先端部分を前記圧接面より細くしたニガシ面であることを特徴とする請求項3記載のレンズ成形用金型。
【請求項6】
前記コアは、前記転写面が形成された先端部分の反対側にフランジ部を設け、前記フランジ部と前記圧接面の間に該圧接面より細くした根元部を設けたことを特徴とする請求項3ないし5いずれか記載のレンズ成形用金型。
【請求項7】
前記コアの前記ニガシ面、カット面、根元部、フランジ部の各部と、前記孔との間に形成される隙間は、前記光学素材を成形する空間から金型外部に連通して設けられていることを特徴とする請求項4ないし6いずれか記載のレンズ成形用金型。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−189517(P2008−189517A)
【公開日】平成20年8月21日(2008.8.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−25722(P2007−25722)
【出願日】平成19年2月5日(2007.2.5)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】