説明

レンズ鏡筒

【課題】カム筒を固定筒に対して径方向でガタが生じないように回転自在に支持する。
【解決手段】カム筒6の前端側と後端側に、それぞれ一定角度で傾斜したテーパ面15,16を形成する。固定筒5の後端に、テーパ面16に対応する傾斜をもったテーパ受け面18を形成する。カム筒5の前端側のテーパ面15に対応するテーパ受け面22を形成した押圧リング22をコイルバネ20の付勢力でカム筒6の前端部に押し付ける。カム筒6は、それぞれのテーパ面15,16と固定筒5に設けられたテーパ受け面22,18との摺接により、光軸Pを中心に回転自在に支持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固定筒に対してカム筒を回転させることにより、移動レンズを保持したレンズ保持枠を光軸方向に移動させる機能を有するレンズ鏡筒に関するものである。
【背景技術】
【0002】
カメラの撮影光学系やプロジェクタの投写光学系などの光学系の多くは、ズーム用の変倍レンズやピント合わせ用のフォーカスレンズなど、光軸方向に移動するレンズを備えている。レンズを光軸方向に移動させるには、そのレンズを保持したレンズ枠を回転してヘリコイドのリードに応じて進退させるヘリコイド機構のほか、カム筒を回転してカム溝の形状にしたがってレンズ枠を進退させるカム機構などが多用されている。
【0003】
特にズーム用の変倍レンズは、フォーカスレンズと比較して必要とされる移動量が大きく、また2つ以上のレンズを同時に個別に移動させなくてはならないことから、カム筒で移動させるのが通常である。カム筒を利用してレンズを移動させるには、たとえば特許文献1,2で知られるように、移動レンズを保持したレンズ保持枠にカムフォロアを設け、このカムフォロアをカム筒に形成されたカム溝に係合させるとともに、レンズ保持枠の一部を固定筒の直進ガイドに係合させ、カム筒が回転したときにレンズ保持枠がカム溝の形状にしたがって光軸方向にのみ移動するように構成される。
【特許文献1】特開2006−126537号公報
【0004】
特許文献1にも記載されているように、レンズを移動させるためにカム筒を用いたレンズ鏡筒では、レンズ保持枠に、カム筒に形成されたカム溝への係合部と固定筒に形成された直進ガイドへの係合部とが設けられ、カム筒の回転にしたがってレンズ保持枠が円滑に光軸方向に移動する構造となっている。カム筒は、固定筒によって光軸を中心に回転自在に支持されるが、固定筒とカム筒との間の隙間が大きすぎるとカム筒が固定筒に対して傾き、その傾き方向によってレンズ保持枠の光軸方向での位置が不安定になり、またレンズ保持枠とともに光軸に対してレンズが傾いてしまい、ピントを劣化させる原因になる。
【0005】
上記特許文献1記載のレンズ鏡筒は、カム筒にカム溝を設ける代わりにカム筒の内側に凸条カムを形成し、この凸条カムを前後方向から挟むようにフォーク形状をしたカムフォロアをレンズ保持枠に設けたもので、カム筒の回転によりレンズ保持枠を光軸方向に移動させる基本的な構造は共通している。そして、上記弊害に対処するために、このレンズ鏡筒では、カム筒の端部に光軸に向かって突出した複数のバヨネット片を設け、また凸条カムの頂面にも光軸に向かって突出した当接突起を設け、これらのバヨネット片と当接突起とをそれぞれ固定筒の外周面の複数個所で当接させることによって、固定筒に対してカム筒が径方向にガタつかないようにしている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
固定筒に対してカム筒が径方向にガタつくことを防ぎ、しかも固定筒に対してカム筒を円滑に回転させることができるようにするは、固定筒とカム筒との間のクリアランスを15μm〜数十μm程度のオーダーで厳密に管理する必要がある。このことは、特許文献1記載のレンズ鏡筒にも共通しており、結局はバヨネット片及び当接突起と固定筒外周面との間のクリアランスをどの程度にするかを正しく管理しなくてはならない。ところが、固定筒やカム筒にプラスチックの成形品を用いる場合など、成形品の機械的な寸法管理だけで上記オーダーのクリアランスを安定的に得ることは難しい。また、固定筒とカム筒との間に、例えば板バネ状の弾性部材を組み込んで両者間のガタを吸収する工夫も知られているが、部品点数や組み込み工数が増えるだけでなく、バネ部品の付勢力が大きすぎるとカム筒の回転負荷が大きくなり、付勢力を小さくするとバネが変形したときにカム筒が径方向に傾くという問題があり、有効な手段とは言い難い。
【0007】
本発明は上記事情を考慮してなされたもので、その目的は、コストをかけずに固定筒とカム筒との間のクリアランスを適切な範囲に保つことができ、カム筒の回転負荷も適宜に調節可能としながらもカム筒の径方向へのガタつきを防ぐことができるようにしたレンズ鏡筒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記目的を達成するにあたり、カム筒の一方の端部側の外周面または内周面に前記一方の端部側に向かって一定角度で傾斜したテーパ面を形成するとともに、カム筒を回転自在に支持する固定筒に前記テーパ面に摺接するテーパ受け面を形成し、前記テーパ面とテーパ受け面との摺接によりカム筒を固定筒に対して回転自在に支持させ、固定筒にはさらにカム筒が光軸方向に移動することを規制する規制手段を設け、前記テーパ面とテーパ受け面との摺接位置が光軸方向で変化しないようにしたものである。前記規制手段としては、固定筒に固定され、前記カム筒の他方の端部側の端面に当接してカム筒が前記他方の端部側に向かって移動することを阻止するストッパリングを用いることができる。
【0009】
カム筒の両端部に互いに逆傾斜した一対のテーパ面を形成するとともに、これらのテーパ面に対応したテーパ受け面を固定筒に形成し、前記一対のテーパ面と一対のテーパ受け面とを互いに摺接させてカム筒の光軸方向への移動を規制し、かつ回転自在に支持する構成を採ることも可能で、一方のテーパ受け面については、固定筒に位置決めして固定される固定リングの端面に形成してもよく、さらには前記一方のテーパ受け面は、固定筒に組み付けられ、他方のテーパ受け面に向けてカム筒を押圧するようにバネ付勢された押圧リングの端面に形成することも可能である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、カム筒がそれ自身の端部側に形成されたテーパ面を、固定筒に形成されたテーパ受け面と摺接させて回転自在に支持されるため、テーパ面とテーパ受け面との摺接に伴う調芯作用により径方向へのガタはほとんどあらわれることがなく、光軸を中心にカム筒を正しく回転させることができるようになる。また、部品精度や組立精度を必要以上に厳密にしなくても済み、製造コストを抑える上でも効果的である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明をプロジェクタ用のレンズ鏡筒に適用した一実施形態を示す図1において、レンズ鏡筒2は、プロジェクタ筐体3の前面にネジ止めされた固定筒5と、固定筒5の内部に組み込まれたカム筒6、カム筒6の内部に組み込まれた第1,第2レンズ枠7,8、固定筒5の先端部にヘリコイド結合部9を介して設けられたフォーカスレンズ枠10、固定筒5の後端に固定されたマスターレンズ枠12とを有する。これらはいずれもプラスチックの成形品からなり、第1,第2レンズ枠7,8には第1,第2変倍レンズ7a,8aが保持され、フォーカスレンズ枠10にはフォーカスレンズ10aが保持され、またマスターレンズ枠12にはマスターレンズ12aが保持されている。
【0012】
カム筒6の前端側及び後端側のそれぞれの外周面には、それぞれの端部側に向けて一定角度で低くなるように傾斜したテーパ面15,16が形成されている。これらのテーパ面15,16は、カム筒6の成形時にそれぞれの端部側を漸次に肉薄にするような金型を用いて一体成形するのが簡便であるが、同様のテーパ面15,16を端部に形成した筒状の別部品をカム筒6に固着することも可能である。
【0013】
固定筒5の後端側の内周面には、カム筒6のテーパ面16に対応して一定角度で傾斜したテーパ受け面18が形成されている。テーパ受け面18は、テーパ面16との摺接によりカム筒6の後端側を回転自在に支持する。また、固定筒5の前端側にはストッパリング19がビス止めされ、その内側に組み込まれたコイルバネ20及び押圧リング21が固定筒5の前端側から抜け出ないようにしている。押圧リング21の後端側にはカム筒6のテーパ面15に対応して一定角度で傾斜したテーパ受け面22が形成されている。このテーパ受け面22は、押圧リング21がコイルバネ20の付勢によりカム筒6の前端部に押し付けられることによってテーパ面15に摺接し、カム筒6の前端側を回転自在に支持するようになる。同時にこの押圧リング21は、テーパ受け面18と協同してカム筒6が光軸方向に移動しないように規制する規制手段にもなっている。
【0014】
カム筒6はコイルバネ20の付勢力で後端側へと押し込まれ、固定筒5のテーパ受け面18にカム筒6のテーパ面16が押し付けられるようになるが、これによりカム筒6の後端側は光軸Pが中心にくるように調芯される。さらに、カム筒6の前端側もテーパ面15に押圧リング21のテーパ受け面22が押し付けられることにより、光軸Pが中心にくるように調芯される。なお、押圧リング21の外径と固定筒5の内径との間には幾分のクリアランスが必要で両者間のガタを完全にゼロにすることはできないが、前述のようにカム筒6の後端側は光軸Pが中心にくるように位置決めされているから、カム筒6全体は光軸Pに対して大きく傾くことはない。また、コイルバネ20の付勢力がカム筒6に常時加わっているため、カム筒6を回転したときにガタつくことはない。
【0015】
コイルバネ20の付勢力が強すぎるとテーパ受け面18にカム筒6のテーパ面16が楔状に食い込み、調芯作用は高められるものの、カム筒6の回転負荷が大きくなる。逆に、コイルバネ20の付勢力が弱すぎると外力が加わったときにカム筒6が光軸方向に前進しやすくなり、また光軸Pに対してカム筒6が全体的に傾きやすくなる。これらを考慮してコイルバネ20の付勢力を調整する必要がある。なお、テーパ受け面18とテーパ面16との間、テーパ受け面22とテーパ面15との間の摺接による負荷を軽減するには、摺接し合う面の一方に微小な突起を多数配列し、あるいはシボ面にするなどして両者間の接触面積を減らすのが簡便である。
【0016】
図1ではその一本だけが示されているが、第1,第2レンズ枠7,8にはその外周を三等分する位置から3本のピン24が突出している。これらのピン24には、ピン24の突出位置に応じてカム筒6に三本ずつ形成された第1,第2カム溝6a,6bに係合する第1ローラ25と、同様に固定筒5に三本形成された直進ガイド溝5aに係合する第2ローラ26とがそれぞれ個別に回転自在に支持されている。第1,第2カム溝6a,6bは、第1,第2レンズ枠7,8と一体に第1,第2変倍レンズ7a,8aを個別に光軸方向に移動させる形状であり、直進ガイド溝5aは光軸Pと平行な直線形状となっている。
【0017】
マスターレンズ12aを保持したマスターレンズ枠12は、スペーサリング28を挟んで固定筒5の後端部にネジ止めされ、スペーサリング28の厚みや枚数を変えることによりマスターレンズ12aの組み付け位置を調節することができるようにしてある。また、フォーカスレンズ枠10を回転すると、ヘリコイド結合部9を構成するヘリコイドのリードにしたがってフォーカスレンズ10aがフォーカスレンズ枠10とともに回転しながら進退し、スクリーン上に投写される画像のピント合わせを行うことができる。
【0018】
プロジェクタ筐体2の内部には、簡略的に示してあるが画像表示部30が組み込まれ、フルカラーの画像光をレンズ鏡筒2に組み込まれた投写光学系に入射させる。画像表示部30は、例えば光源からの白色光をダイクロイックミラーで分割して得たR,G,Bの基本色光で照明される3枚の液晶パネルと、これらの液晶パネルからの画像を合成するクロスダイクロイックプリズムから構成されている。また、ズームモータ32を駆動すると、減速用のギヤボックス33を介して駆動ギヤ34が回転し、カム筒6の外周に固定されたリング状のギヤ35を介してカム筒6が回転する。
【0019】
上記構成による作用について説明する。画像表示部30からの画像光はレンズ鏡筒2に組み込まれた投写光学系を通してスクリーン上に投写される。投写された画像のピントが不適切である場合には、フォーカスレンズ枠10を回転操作して固定筒5に対してフォーカスレンズ10aを光軸方向に進退させ、スクリーン上に投写される画像を観察しながらピント合わせを行う。
【0020】
スクリーンに投写された画像のサイズを変更するには、プロジェクタ筐体2に設けられたズーム操作部を操作してズームモータ32を駆動する。ズームモータ32の駆動により駆動ギヤ34が回転し、その回転がギヤ35を介してカム筒6に伝達される。カム筒6が回転すると、カム溝6a,6bに係合している第1ローラ25を介して第1,第2レンズ枠7,8がカム溝6a,6bの傾斜にしたがって光軸方向及び光軸回りの押圧力を受ける。このとき、第1ローラ25とともにピン24により同軸で支持されている第2ローラ26が固定筒5の直進ガイド溝5aに係合しているから、第1,第2レンズ枠7,8はそれぞれのカム溝6a,6bの傾斜にしたがって光軸方向にのみ進退移動し、これと一体に第1,第2変倍レンズ7a,8aが拡大方向または縮小方向に移動する。この結果、ピントを変えることなくスクリーン上で投写画像のサイズを適宜に設定することができる。
【0021】
ところで、カム筒6が固定筒5の内側で回転するとき、カム筒6はその後端側に形成されたテーパ面16を固定筒5のテーパ受け面18に摺接させている。また、カム筒6の前端側でもそのテーパ面15が押圧リング21のテーパ受け面22に摺接し、しかも押圧リング21はコイルバネ20により適度なバネ圧でカム筒6を後端側に付勢しているから、カム筒6は光軸P方向だけでなく光軸Pに垂直な径方向でも正しく位置決めされ、ほとんどガタのない状態で固定筒5に対して回転するようになる。
【0022】
カム筒6を固定筒5の内側で円滑に回転させるにはカム筒6の外周面と固定筒5の内周面との間の摺接部分にクリアランスが必要になるが、この摺接部分を例えば後端側で上記のようにテーパ面16とテーパ受け面18とで構成しておけば、カム筒6の光軸方向での位置を後端側に寄せることによって十分に小さくすることができ、カム筒6の径方向のガタをほとんどなくすことができる。なお、カム筒6の後端側への寄せ量によっては、投写光学系に調整が必要になることもあるが、この場合にはマスターレンズ枠12と固定筒5との間に挟まれているスペーサ28の厚み調整を行うことによって対応できる。
【0023】
さらに、カム筒6の後端側はテーパ面15とテーパ受け面18による調芯作用により正確に光軸Pを中心とする位置に位置決めされるため、固定筒5の内周面と押圧リング21の外周面との間に幾分のガタがあったとしても、カム筒6の径方向のガタは前端側だけに限られ、全体的なガタは従来のものよりも格段に小さく抑えることができる。また、図示した実施形態のようにズームモータ32を利用したパワーズーム方式の場合には、ズームモータ32の負荷を軽減する意味では、コイルバネ20の付勢力は弱めに設定しておくのが有利である。一方、カム筒6をマニュアル操作で回転させる場合には、適度な操作感が得られるようにコイルバネ20の付勢力は強めに設定しておくのがよい。
【0024】
図2は別の実施形態を示すもので、先の実施形態と共通な部材については同符号を付してある。この実施形態は、先の実施形態においてカム筒6の前端部に押圧リング21をコイルバネ20で押し付けるのに代え、押圧リング21を固定筒5に固着してストッパリングとして用いる例を示している。固定筒5には接着剤注入用の開口5bが形成され、また押圧リング21の外周面には接着剤溜まりとなる凹部が設けられている。押圧リング21を光軸方向及び径方向で位置調節し、カム筒6を最適な位置に調整した後、固定筒5の開口5bから接着剤40を注入して固化させることによって、カム筒6を光軸方向及び径方向でガタなく回転自在に支持することができる。接着剤40には紫外線硬化型の接着剤を用いるのが簡便である。
【0025】
図3は別の実施形態を示すもので、先の実施形態と共通な部材については同符号を付してある。この実施形態は、投写光学系の結像性能を維持するために、特にカム筒6の前端側よりも後端側のガタを抑える場合に効果的なもので、カム筒5の後端側にだけテーパ面16を形成し、これを固定筒5のテーパ受け面18で支持するようにしてある。カム筒6の前端側は、従来公知のものと同様にその外周面が固定筒5の内周面に摺接して回転自在に支持されている。固定筒5にはストッパリング42がビス止めされ、このストッパリング42をカム筒6の前端面に当接させることによって、カム筒6の光軸方向への移動が規制される。
【0026】
ストッパリング36と固定筒5との間にはスペーサリング43が挟まれ、このスペーサリング43の厚みや枚数を変えることによって、カム筒6の光軸方向の位置調整を行うことができる。カム筒6の前端側には、カム筒6の外周面と固定筒5の内周面との間のクリアランスに応じたガタが生じることになるが、カム筒6の後端側に形成されたテーパ面16が固定筒5のテーパ受け面18と摺接して光軸Pが中心となるように調芯されているから、カム筒6全体としての径方向のガタは小さく抑えられ、投写光学系の結像性能が大きく劣化することはない。
【0027】
図4にさらに別の実施形態を示す。この実施形態では、固定筒5の外側にカム筒6が回転自在に支持されている。固定筒5の前端部の内周にヘリコイド結合部9を介してフォーカスレンズ枠10が組み付けられ、その回転操作によりピント合わせが行われる。カム筒6の前端側と後端側にはそれぞれテーパ面15,16が形成されている。カム筒6は、その後端側に形成されたテーパ面16が固定筒5の後端部に形成されたテーパ受け面18に摺接し、また前端側に形成されたテーパ面15は固定筒5の外周面に組み付けられた押圧リング21のテーパ受け面22に摺接するようになっている。
【0028】
押圧リング21は、固定筒5の前端側にビス止めされたストッパリング45との間で挟持されたコイルバネ20により後端側に向けて付勢されている。図1に示す実施形態と同様に、押圧リング21に形成されたテーパ受け面22は、押圧リング21がコイルバネ20の付勢によりカム筒6の前端部に押し付けられることによってテーパ面15に摺接し、カム筒6の前端側を回転自在に支持するとともに、この押圧リング21は、テーパ受け面18と協同してカム筒6が光軸方向に移動しないように規制する規制手段となっている。
【0029】
カム筒6を固定筒5の外周側に設けたことに伴い、第1,第2レンズ枠7,8には、外側にカム筒6に形成されたカム溝6a,6bに係合する太径の第1ローラ25、内側に固定筒5に形成された直進ガイド溝5aに係合する小径の第2ローラ26がそれぞれピン24を中心に回転自在に設けられている。この実施形態においても、コイルバネ20の付勢力を適宜に調節することにより、カム筒6は径方向にガタつくことなく固定筒5の回りに円滑に回転するようになる。なお、カム筒6の前端部には押圧リング21及びコイルバネ20が外観にあらわれないように、前方に庇状に突出したスカート部46を設けておくのが望ましく、このスカート部46をさらに延ばしてストッパリング45も覆うようにしてもよい。
【0030】
これまでの実施形態では、カム筒6に形成したテーパ面15,16がいずれもその端部側に向かって低くなるように(肉薄になるように)傾斜しているが、図5に示す実施形態では、カム筒6の端部に形成したテーパ面を逆向きに傾斜させている。これに対応し、固定筒5の後端側にはカム筒6のテーパ面16に摺接するように逆傾斜のテーパ受け面18が形成される。また、カム筒6の前端側の内周には、やはり逆向きに傾斜したテーパ面15を有するテーパリング48が固着される。このテーパリング48は、カム筒6に光軸方向に延びた長孔49を通してビス止めされるが、その固着位置は光軸方向に関して長孔49の範囲内で調整自在であり、固定筒5の外周面から突出して形成されたテーパ受け面22に摺接する。
【0031】
固定筒5の後端側からカム筒6を被せた後、前端側からテーパリング48を固定筒5とカム筒6との間を通して挿入し、ビス50によりカム筒6に仮止めする。カム筒6を前方に寄せた状態に保ちながら、テーパリング48のテーパ面15を固定筒5のテーパ受け面22に圧着させ、その圧着力が適切となるようにテーパリング48の光軸方向での位置を調節した後にビス50を締め付ければよい。これにより、カム筒6の光軸方向での位置規制がなされるとともに、後端側のテーパ面16が固定筒5のテーパ受け面18に摺接し、またカム筒6の前端側に固着されたテーパリング48のテーパ面15が固定筒5のテーパ受け面22に摺接し、カム筒6は径方向のガタが生じないように固定筒5に対して回転自在に支持されるようになる。
【0032】
以上、図示した実施形態にしたがって説明してきたが、本発明を実施するに際しては、カム筒や固定筒をプラスチックの成形品にする代わりに金属部品にすることも可能で、この場合には切削加工によりテーパ面あるいはテーパ受け面を仕上げることも可能である。また、テーパ面やテーパ受け面をカム筒や固定筒に一体に形成するだけでなく、金属製のリング状部品にテーパ面やテーパ受け面を高精度に切削加工した後、これらをカム筒や固定筒に固定するようにしてもよい。また、本発明はズームレンズ鏡筒だけでなく、カム筒の回転によりフォーカスレンズや他のレンズを光軸方向に移動させるものであれば、種々の用途で用いられるレンズ鏡筒にも等しく適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明を用いたレンズ鏡筒の一実施形態を示す概略断面図である。
【図2】本発明の別の実施形態を示す要部概略断面図である。
【図3】本発明の他の実施形態を示す概略断面図である。
【図4】本発明のさらに他の実施形態を示す要部概略断面図である。
【図5】本発明のさらに別の実施形態を示す要部概略断面図である。
【符号の説明】
【0034】
2 レンズ鏡筒
5 固定筒
6 カム筒
7 第1レンズ枠
8 第2レンズ枠
10 フォーカスレンズ枠
12 マスターレンズ枠
15,16 テーパ面
18 テーパ受け面
21 押圧リング
22 テーパ受け面
42 ストッパリング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
直進ガイド溝が形成された固定筒と、カム溝が形成され前記固定筒に回転自在に支持されたカム筒と、移動レンズを保持するとともに前記直進ガイド溝とカム溝との双方に係合するカムフォロワが設けられたレンズ保持枠とを備え、前記カム筒の回転により前記レンズ保持枠を光軸方向に移動させるレンズ鏡筒において、
前記カム筒の一方の端部側の外周面または内周面に、前記端部側に向かって一定角度で傾斜したテーパ面を形成するとともに前記固定筒に前記テーパ面に摺接するテーパ受け面を設け、かつ前記固定筒に前記カム筒が光軸方向に移動することを規制する規制手段を設け、前記テーパ面とテーパ受け面とを光軸方向に関して一定位置で互いに摺接させてカム筒を回転自在に支持したことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項2】
前記規制手段は前記固定筒に固定され、前記カム筒の他方の端部側の端面に当接してカム筒が前記他方の端部側に向かって移動することを阻止するストッパリングであることを特徴とする請求項1記載のレンズ鏡筒。
【請求項3】
直進ガイド溝が形成された固定筒と、カム溝が形成され前記固定筒に回転自在に支持されたカム筒と、移動レンズを保持するとともに前記直進ガイド溝とカム溝との双方に係合するカムフォロワが設けられたレンズ保持枠とを備え、前記カム筒の回転により前記レンズ保持枠を光軸方向に移動させるレンズ鏡筒において、
前記カム筒の両端部の外周面または内周面に、各々の端部側に向かって互いに逆向きに傾斜した一対のテーパ面を形成するとともに、前記固定筒に前記一対のテーパ面に摺接する一対のテーパ受け面を設け、これらの一対の前記テーパ面と一対のテーパ受け面とを互いに摺接させてカム筒の光軸方向への移動を規制し、かつ回転自在に支持したことを特徴とするレンズ鏡筒。
【請求項4】
前記一対のテーパ受け面の一方は、固定筒に位置決めして固定される固定リングの端面に形成されていることを特徴とする請求項3記載のレンズ鏡筒。
【請求項5】
前記一対のテーパ受け面の一方は、固定筒に組み付けられ、他方のテーパ受け面に向けてカム筒を押圧するようにバネ付勢された押圧リングの端面に形成されていることを特徴とする請求項3記載のレンズ鏡筒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−145432(P2010−145432A)
【公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−319098(P2008−319098)
【出願日】平成20年12月16日(2008.12.16)
【出願人】(000005430)フジノン株式会社 (2,231)
【Fターム(参考)】