説明

レーザ溶接方法

【課題】容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができるレーザ溶接方法を提供する。
【解決手段】レーザ溶接方法では、接合体20の裏面となる第1部材21の端部22側から溶接予定領域Rに沿ってレーザビーム34を照射する。この溶接予定領域Rは、第1部材21において縁22aから後退した位置、つまり、第1部材21の縁22aではなく第1部材21の平坦面に設定される。そのため、金属材の縁を狙ってレーザビームを照射する従来の方法に比べて、作業者が照射領域を明確に把握することができるので、照射位置にレーザビーム34を容易に照射することができる。したがって、溶接部25の形成に高い技術とレーザビームの照射位置の狙い精度とを必要としないため、容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属材の溶接形態として、一方の金属材の端部と他方の金属材の端部とを重ね合わせて溶接する隅肉溶接がある。例えば特許文献1に記載のレーザ溶接方法では、一方の金属材の端部と他方の金属材の端部とを重ね合わせて、金属材の表面に対して斜めとなる方向でレーザ光を一方の金属の端部の縁に照射して隅肉溶接をしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−18583号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来の溶接方法では、溶接部の形成に高い技術とレーザビームの照射位置の狙い精度とが要求されるため、作業者の技量によって溶接部の品質にばらつきが生じるおそれがあった。また、レーザビームの照射位置がシビアであるため、レーザビームの照射位置がずれてしまうと、溶接部が形成されなかったり不完全な溶接部が形成されるといった問題があった。特に、鉄道車両に使用する大型の金属材の場合には、不完全な溶接部等が形成されると修正することができず、金属材を破棄しなければならない。
【0005】
また、フィラーワイヤを供給しながら溶接を行うことで溶接部の損傷等を防止する方法も考えられるが、フィラーワイヤを供給するためのパラメータを設定する必要があり、工程が複雑化するといった問題もある。
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができるレーザ溶接方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のレーザ溶接方法は、金属材同士の重ね合わせ部分にレーザビームを照射して溶接することにより接合体を形成するレーザ溶接方法であって、一方の金属材の端部に他方の金属材の端部を重ね合わせる工程と、重ね合わせ部分を隅肉溶接する溶接工程とを含み、溶接工程では、一方の金属材においては端部の縁を含むように端部を貫通し、且つ他方の金属材においては端部の縁から後退した位置において端部を貫通する溶接部が形成されるように、接合体の裏面となる他方の金属材の端部側からレーザビームを溶接予定領域に沿って照射することを特徴とする。
【0008】
このレーザ溶接方法では、接合体の裏面となる他方の金属材の端部側から溶接予定領域に沿ってレーザビームを照射する。この溶接予定領域は、他方の金属材において端部の縁から後退した位置、つまり、金属材の縁ではなく金属材の平坦面に設定される。そのため、金属材の縁を狙ってレーザビームを照射する従来の方法に比べて、作業者が照射領域を明確に把握することができるので、照射位置にレーザビームを容易に照射することができる。したがって、溶接部の形成に高い技術とレーザビームの照射位置の狙い精度とを必要としないため、容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができる。
【0009】
さらに、高い技術が必要なくとも、確実に隅肉溶接を行うことができるので、溶接部の品質が作業者・技術者の技量に依存しない。そのため、作業者の技量の差が溶接品質に与える影響が少なくなり、品質のばらつきを防止することができる。さらに、フィラーワイヤを使用しなくとも、健全な溶接部が形成されるので、フィラーワイヤを使用する従来の方法に比べて、工程を簡略化することができる。
【0010】
また、溶接予定領域は、一方の金属材の端部の縁から2mm以下の領域であることが好ましい。この場合には、金属材同士の重ね合わせ部分に確実に隅肉溶接することができる。
【0011】
また、レーザビームを照射して溶接部を形成した後に、一方の金属材の端部側の溶接部を研磨する研磨工程を更に含むことが好ましい。このレーザ溶接方法では、金属材同士を貫通する溶接部が少なくとも形成される。そのため、たとえ溶接部に不具合が生じたとしても、溶接部の表面の凹凸等であるため、溶接部の表面を研磨するだけで修正できる。また、一方の金属材側に形成される溶接部は、接合体の表面側となる。そのため、その溶接部を研磨することにより、露出される部分の美観を保つことができる。
【0012】
また、一方の金属材の端部において、レーザビームの照射位置の対向部位にアシストガスを供給することが好ましい。これにより、溶接部の表面の酸化を防止することができる。
【0013】
また、一方の金属材の端部を囲み、溶接部の表面形状に対応した形状を有する載置治具に金属材を載置した状態でレーザビームの照射を行うことが好ましい。これにより、溶接部をより確実且つ良好に形成することができる。また、溶接部の表面の酸化をより一層確実に防止できる。
【0014】
また、載置治具は、金属材とは異なる材料で形成されていることが好ましい。この場合には、溶接部を綺麗に形成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係るレーザ溶接方法の一実施形態を用いて製造された接合体を用いた鉄道車両構体を示す図である。
【図2】金属部材同士の接合体の要部を示す断面図である。
【図3】金属部材同士のレーザ溶接方法を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照しながら、本発明に係るレーザ溶接方法の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0018】
図1は、本発明に係るレーザ溶接方法の一実施形態を用いて製造された接合体を用いた鉄道車両構体を示す斜視図である。同図に示すように、鉄道車両構体1は、その内部に乗客を収容する空間を有する略箱型の形状をなしており、車両の底部に位置する台枠2と、車両の両側に位置し、窓部及びドア部を交互に備える側構体3と、車両の前後に位置する妻構体4と、車両の上部に位置する屋根構体5とによって構成されている。
【0019】
具体的には、台枠2は略矩形状を有し、車両構体1の底部に配置されている。台枠2の周縁には、両側に位置する側構体3と、車両の前側及び後側に位置する妻構体4とが台枠2を囲むように立設されている。アーチ状の屋根構体5は、側構体3と妻構体4とから構成された空間を閉じるように配置されている。
【0020】
側構体3は、例えば外板11と外板11の内側に配置された骨材とによって構成されている。側構体3には、窓用開口12が4箇所に設けられている。また、窓用開口12間には、ドア用開口13が3箇所に設けられている。窓用開口12は、窓の大きさに対応した矩形の枠部材14によって画成されており、ドア用開口13は、ドアの大きさに対応した矩形の枠部材15によって画成されている。
【0021】
次に、接合体の構造について説明する。図2は、接合体の要部を示す断面図である。この接合体20は、例えば、外板11と枠部材14とから構成される。
【0022】
図2(a)に示すように、接合体20では、第1部材21(例えば、外板11)の端部22に対し、第2部材23(例えば、枠部材14)の端部24が車両の外側面となるように重ね合わされている。第1部材21及び第2部材23は、例えば厚さ1.5mmのステンレス(SUS301)板等の鋼板である。重ね合わせ部分Pは、窓用開口12を縁取るように形成されている。重ね合わせ部分Pには、レーザ溶接によって形成した溶接部25が形成されている。溶接部25は、第1部材21の端部22及び第2部材23の端部24を貫通するように形成されており、重ね合わせ部分Pの隅肉溶接が実現されている。
【0023】
より具体的には、溶接部25は、第1部材21の端部22において、縁22aから所定距離だけ後退した位置において縁22aを含まずに形成されており、第2部材23の端部22において、縁24aを含んで形成されている。
【0024】
このような接合体20を形成する場合、図3に示すように、第1部材21の端部22が上面となるようにして、第2部材23の端部24を第1部材21の端部22に重ね合わせる(重ね合わせ工程)。すなわち、接合体20において、第1部材21における上面が裏面となり、第2部材23における下面が表面となるように重ね合わせる。第1部材21と第2部材23との重ね合わせにあたっては、載置治具(バックプレート)30を用いる。
【0025】
載置治具30は、例えば銅合金製やセラミックス製の定盤である。載置面31において、一方の領域31a(図示左側)の高さは、他方の領域31b(図示右側)の高さよりも第2部材23の板厚の分だけ高くなっている。そして、第1部材21と第2部材23との重ね合わせ部分Pに対応した位置には、傾斜面32が設けられている。この傾斜面32は、溶接部25の表面形状(図2(a)参照)に対応した形状をなしている。これにより、一方の領域31aに第1部材21を載置し、他方の領域31bに第2部材22を載置すると、第1部材21の端部22、第2部材23の端部24及び載置治具30の傾斜面32によって、第2部材23の端部24(縁24a)を囲む閉空間Sが形成される。
【0026】
第1部材21と第2部材23とを載置治具30に載置した後、加工ヘッド33を重ね合わせ部分Pの上方おいて例えば93mmの位置に配置し、第1部材21の端部22側からレーザビーム34を照射する。このレーザビーム34は、出力5kw、ビーム幅0.5×3.5mmである。このレーザビーム34の照射により、第1部材21の端部22への入熱を第2部材23の端部24に伝達させ、端部22及び端部24を貫通する溶接部25を形成する(溶接工程)。
【0027】
レーザビーム24の照射時には、図示しない供給装置を導入することにより、端部24側のレーザビーム34の照射位置、つまり閉空間S内に例えば純アルゴンガス等といった不活性のシールドガス(アシストガス)を供給する。レーザビーム34を重ね合わせ部分Pにおいて溶接予定領域Rに沿って走査し、重ね合わせ部分Pの全てに溶接部25を形成すると、第1部材21と第2部材23との接合体20が完成する。溶接予定領域Rは、第2部材23の縁24aに沿い、且つこの縁24aから2mm以下の領域であり、好ましくは1mm以下の領域である。この溶接予定領域Rは、第1部材21及び第2部材23の板厚に応じて、適宜設定される。
【0028】
ここで、例えば、溶接部25が図2(b)に示すように断面略矩形状や、溶接部25の表面に凹凸等が形成された場合、第2部材23の端部24及び縁24aが溶接部25の形成時に残存した場合には、例えばグラインダー等によって溶接部25、端部24及び縁24aの残存部を研磨(除去)する(研磨工程)。これにより、図2(a)に示すように、溶接部25は、断面が傾斜する良好な形状となる。
【0029】
以上説明したように、本実施形態に係るレーザ溶接方法では、接合体20の裏面となる第1部材21の端部22側から溶接予定領域Rに沿ってレーザビーム34を照射する。この溶接予定領域Rは、第1部材21において端部22の縁22aから後退した位置、つまり、第1部材21の縁22aではなく第1部材21の平坦面に設定される。そのため、金属材の縁を狙ってレーザビームを照射する従来の方法に比べて、作業者が照射領域を明確に把握することができるので、照射位置にレーザビーム34を容易に照射することができる。したがって、溶接部25の形成に高い技術とレーザビームの照射位置の狙い精度とを必要としないため、容易に且つ確実に隅肉溶接を行うことができる。
【0030】
また、上記のように、高い技術が必要なくとも、確実に隅肉溶接を行うことができるので、溶接部25の品質が作業者・技術者の技量に依存しない。そのため、作業者の技量の差が溶接品質に与える影響が少なくなり、品質のばらつきを防止することができる。さらに、フィラーワイヤを使用しなくとも、健全な溶接部が形成されるので、フィラーワイヤを使用する従来の方法に比べて、工程を簡略化することができる。
【0031】
また、溶接予定領域Rを第2部材23の縁24aから2mm以下の領域とすることにより、第1及び第2部材21,23同士の重ね合わせ部分Pに確実に隅肉溶接することができる。
【0032】
ここで、従来のレーザ溶接方法においては、溶接部の形成を失敗した場合、TIG(ティグ)溶接による補修や、溶接部へのレーザビームの再入射といった方法によって修正する必要があり、特別な技量を必要とした。また、特に鉄道車両の用いられるような大型の金属材の溶接にあっては、不完全な溶接部等が形成されると修正することができず、金属材を破棄しなければならない。これに対し、本実施形態のレーザ溶接方法では、第1部材21と第2部材23を貫通する溶接部25が少なくとも形成される、つまり不完全な溶接部は形成されないので、たとえ溶接に不具合が生じたとしても、溶接部25の表面を研磨するだけで修正できる。その結果、溶接を失敗するたびに金属材を破棄する必要がないので、コストの低減を図ることができる。
【0033】
また、このレーザ溶接方法では、第1及び第2部材21,23とは異なる材質で形成され、端部24aを囲む領域を形成する載置治具30に第1部材21及び第2部材23を載置し、閉空間S内に不活性ガスを流通させながらレーザビーム34の照射を行っている。これにより、溶接の熱影響によって端部24aに形成される溶接部25の表面に形成される酸化膜を抑制することができる。したがって、車両の外側面に露出する溶接部25において、光の緩衝による色むらが抑えられて金属光沢が維持されるため、車両の美観も保たれる。
【0034】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。例えば、上記実施形態では、溶接する金属材として板状の第1部材21及び第2部材23を例示しているが、本発明は、レーザ溶接を用いた隅肉溶接であれば、例えば妻構体4における外板とアーチケタとの溶接、屋根構体5における歩み板と屋根板との溶接、或いは外板と機器箱のフランジとの溶接など、様々な箇所に適用できる。
【符号の説明】
【0035】
20…接合体、21…第1部材(金属材)、22…端部、22a…縁、23…第2部材(金属材)、24…端部、24a…縁、25…溶接部、30…載置治具、34…レーザビーム、P…重ね合わせ部分、R…溶接予定領域。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材同士の重ね合わせ部分にレーザビームを照射して溶接することにより接合体を形成するレーザ溶接方法であって、
一方の金属材の端部に他方の金属材の端部を重ね合わせる工程と、
前記重ね合わせ部分を隅肉溶接する溶接工程とを含み、
前記溶接工程では、前記一方の金属材においては前記端部の縁を含むように当該端部を貫通し、且つ前記他方の金属材においては前記端部の縁から後退した位置において当該端部を貫通する溶接部が形成されるように、前記接合体の裏面となる前記他方の金属材の端部側から前記レーザビームを溶接予定領域に沿って照射することを特徴とするレーザ溶接方法。
【請求項2】
前記溶接予定領域は、前記一方の金属材の前記端部の縁から2mm以下の領域であることを特徴とする請求項1記載のレーザ溶接方法。
【請求項3】
前記レーザビームを照射して前記溶接部を形成した後に、前記一方の金属材の前記端部側の前記溶接部を研磨する研磨工程を更に含むことを特徴とする請求項1又は2記載のレーザ溶接方法。
【請求項4】
前記一方の金属材の前記端部において、前記レーザビームの照射位置の対向部位にアシストガスを供給することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項記載のレーザ溶接方法。
【請求項5】
前記一方の金属材の前記端部を囲み、前記溶接部の表面形状に対応した形状を有する載置治具に前記金属材を載置した状態で前記レーザビームの照射を行うことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項記載のレーザ溶接方法。
【請求項6】
前記載置治具は、前記金属材とは異なる材料で形成されていることを特徴とする請求項5記載のレーザ溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−73046(P2011−73046A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−227374(P2009−227374)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000003377)東急車輛製造株式会社 (332)
【Fターム(参考)】