説明

レーザ照射アーク溶接方法

【課題】ギャップを有する重ね継手の隅肉溶接において、均一で十分な溶け込み深さが得られ、継手強度が大きい溶接ビードを上板と下板とに橋渡しして形成することができ、疲労強度を向上させることができるレーザ照射アーク溶接方法を提供する。
【解決手段】上板と下板との間にギャップを有する重ね継手の隅肉溶接個所にレーザ光を照射すると共に、溶接ワイヤと重ね継手との間にEN比率を設定した交流電力を供給して消耗電極ガスシールドアーク溶接を行うレーザ照射アーク溶接方法において、ギャップの長さが増加するに従って、レーザ光のビームスポットの径を増加させると共にビームスポット径に対応させてレーザ出力を増加させ、かつ、レーザ光を下板側に照射させてビームスポットの外形が上板の下端部が下板の表面と重なる継手線にほぼ一致するようにレーザ光を照射する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザトーチから被溶接物にレーザ光を照射すると共に、消耗電極ガスシールドアーク溶接を行う改善されたレーザ照射アーク溶接方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
[従来技術1]
炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、半導体レーザ等を利用したレーザ溶接は、高エネルギー密度の熱源であるので、2[m/分]を超える高速溶接が可能である。しかし、このレーザ溶接では、重ね継手、突き合わせ継手等を溶接する場合、その継手部分にギャップがあるとき、レーザ照射部のビームスポット径が小さいために溶融金属量が少なく、ギャップを埋めながら溶接することが難しい。従って、レーザ溶接においては、被溶接物の継手部分を、ギャップがない状態にする必要があるために、実用上の適用範囲は、非常に限定されていた。
【0003】
上述したレーザ溶接の問題点を解決する1つの方法として、レーザ照射と消耗電極ガスシールド直流アーク溶接とを併用するレーザ照射直流アーク溶接方法が提案されている。この溶接方法は、前述したレーザ照射によって形成される高エネルギ密度の熱源による高速溶接性を確保した上で、直流アークによって形成される広がりのある熱源によって継手部分を幅広く溶融する。それと共に、溶接ワイヤを溶融させてギャップ部分に充填することによって、ギャップのある継手部分に対しても良好な高速溶接を行うことができる。
【0004】
図8は、一般的なレーザ照射直流アーク溶接方法を実施するための溶接装置を示す図であり、図9は一般的なレーザ照射アーク溶接ヘッドを示す図である。また、図8及び図9は、YAGレーザ又は半導体レーザと消耗電極ガスシールドアーク溶接装置とを使用する場合を示している。
【0005】
図8において、直流アーク溶接用電源装置1は、溶接ワイヤ送給機2の溶接ワイヤ送給ロール3の回転を制御して、溶接ワイヤ4が溶接トーチ5の溶接トーチボディ6(図9参照)を通して送給される。また、直流アーク溶接用電源装置1は、溶接トーチボディ6内に設けられた給電チップと被溶接物7との間に電力を供給してアーク8を発生させる。
【0006】
また、レーザ発振機9から出力されたレーザ光10は、光ファイバ11によってレーザトーチ12の集光レンズ光学系13(図9参照)に伝送され、この集光レンズ光学系13によって被溶接物7に焦点が生じるように収束されて照射される。上記のレーザ光10を照射する位置は、被溶接物7のアーク8の発生部に対し適宜な距離を持つ位置である。
【0007】
上述したように、従来技術1のーザ照射直流アーク溶接方法は、ギャップを有する溶接継手への高速溶接を可能にする。しかし、そのギャップの許容範囲は、約0.3mm以下と非常に小さいために、この溶接方法の実用上の適用範囲は、かなり、限定されていた。そこで、以下に、一般的にギャップの許容範囲の大きな溶接方法である交流アーク溶接方法について、従来技術2として説明する。
【0008】
[従来技術2]
図10は、従来技術2の交流アーク溶接方法を実施するための溶接装置を示す図である。同図において、交流アーク溶接電源14は、溶接ワイヤ送給機2の溶接ワイヤ送給ロール3の回転を制御して、溶接ワイヤ4が溶接トーチ5の溶接トーチボディを通して送給される。また、交流アーク溶接電源14は、電極プラス極性と電極マイナス極性とを交互に繰り返す電力を、溶接トーチ5の溶接トーチボディ内に設けられた給電チップと被溶接物7との間に供給する。図11で後述するように、極性切換時に再点弧電圧Vrsを印加することによって、アーク8を再点弧させて、交流アークを発生させている。ここでは、交流アーク溶接が交流パルスアーク溶接の場合を例示する。
【0009】
図11は、上述した交流アーク溶接電源14の出力波形を示す図であり、同図(A)は溶接電流Iwの時間変化を示しており、同図(B)は溶接電圧Vwの時間変化を示す。以下、同図を参照して説明する。
【0010】
(1) 時刻t1〜t2の期間(ピーク期間Tp)
この期間中は、溶接ワイヤが陽極となり被溶接物が陰極となる電極プラス極性EPで、同図(A)に示すように、予め定めたピーク期間Tpの間は溶滴移行をさせる予め定めたピーク電流Ipを通電する。また、同図(B)に示すように、この期間中の溶接電圧Vwは上記のピーク電流Ipの通電に対応したピーク電圧Vpとなる。
【0011】
(2) 時刻t2〜t3の期間(電極マイナス期間Ten)
時刻t2において、電極プラス極性EPから電極マイナス極性ENへと切り換わると、同図(A)に示すように、予め定めた電極マイナス期間Tenの間は溶滴移行をさせない予め定めた電極マイナス電流Ienを通電する。また、同図(B)に示すように、この期間中の溶接電圧Vwは上記の電極マイナス電流Ienの通電に対応した電極マイナス電圧Venとなる。また、時刻t2の極性切換時において、電極プラス極性のアークが一旦消滅するために、電極マイナス極性でアークを再点弧させるには、同図(B)に示すように300[V]程度の再点弧電圧Vrsを溶接ワイヤ(−)と被溶接物(+)との間に短時間だけ印加する必要がある。
【0012】
(3) 時刻t3〜t4の期間(ベース期間Tb)
時刻t3において、電極マイナス極性ENから電極プラス極性EPへと切り換わると、同図(A)に示すように、ベース期間Tbの間は、溶滴移行をさせない予め定めたベース電流Ibを通電する。また、同図(B)に示すように、この期間中の溶接電圧Vwは、上記のベース電流Ibの通電に対応したベース電圧Vbとなる。上記のベース期間Tbの終了時点(時刻t4)は、電極プラス極性期間中の溶接電圧Vw即ちピーク電圧Vp及びベース電圧Vbの平均値が、同図(B)に示す予め定めた電圧設定値Vsと等しくなるように制御されて自動的に定まる。
【0013】
また、前述したように、時刻t3の極性切換時においても、電極マイナス極性ENのアークが一旦消滅するために、電極プラス極性EPでアークを再点弧させるには、同図(B)に示すように、300[V]程度の再点弧電圧Vrsを、溶接ワイヤ(+)と被溶接物(−)との間に短時間だけ印加する必要がある。
【0014】
上述した溶接電流Iw及び溶接電圧Vwを通電する交流アーク溶接方法は、電極マイナス電流と電極プラス電流との比であるEN比率を制御することによって、被溶接物への入熱及びワイヤ溶融量を精密に制御することができる。ここで、EN比率は、一般に、以下のいずれかで設定される。
【0015】
EN比率が、溶接電流Iwと通電期間Tとの積の比率として、EN比率=(Ien×Ten)/{(Ip×Tp+Ib×Tb)+(Ien×Ten)}で設定される。又は、EN比率が、一周期以内の電極マイナス期間Tenの比率として、EN比率=Ten/(Tp+Tb+Ten)で設定される。(例えば、特許文献1参照。)。
【0016】
このEN比率を変化させても、溶接ワイヤの単位時間当りの供給量は一定である。そのために、図12(A)に示すように、このEN比率が小さいときは、被溶接物7への溶け込み深さが増大して、溶接ビード15の余盛が平らになる。逆に、同図(D)に示すように、EN比率が大きいときは、被溶接物7への溶け込み深さが減少して、余盛高さが増大して、溶接ビード15の形状が凸形になる。図12は、EN比率と溶接ビード15の形状との関係を示す図である。
【0017】
従って、上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手の隅肉溶接を行うときは、図13(A)に示すように、EN比率を小さくすると、下板17への溶け込み深さが増大するが、余盛が平らになり、上板16と下板17とに溶接ビード15を橋渡しすることができない。逆に、同図(B)に示すように、EN比率を増加させることによって、上板16と下板17とに溶接ビード15を橋渡しすることができる。しかし、下板17への溶け込みが不足して、溶接不良になるという不具合を有する。図13は、上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手の隅肉溶接を行う場合に、EN比率を変化させたときの溶接ビード15の形状を示す図である。
【0018】
[従来技術3]
そこで、上述した従来技術1と従来技術2とを組み合わせて、レーザ照射と消耗電極ガスシールド交流アーク溶接とを併用するレーザ照射交流アーク溶接方法が提案されている。図14は、レーザ照射交流アーク溶接方法を説明するための図であって、同図(A)は、溶接継手に対し直角方向から見た図であり、同図(B)は、溶接継手方向から見た図である。この溶接方法は、同図に示すように、上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手の隅肉溶接を行うとき、図9に示したレーザトーチ12から出力されたレーザ光10の照射位置を、上板16の下端部16aよりも、少し上の位置16bとしている。
【0019】
そして、溶接トーチ5から発生されるアークを、重ね継手の上板の下端部16aが、下板17の表面と重なる継手線19を狙い位置として発生させて、隅肉溶接を行っている。そして、交流アーク溶接のEN比率を、ギャップ18の長さに対応させて大きくして、上板16と下板17とに溶接ビードを橋渡ししている。
【0020】
これにより、レーザ光10の照射位置を上板16側としているために、溶接トーチ5から発生されるアークがレーザ照射位置に集中して、溶接ビードの余盛高さを増大することができる。また、レーザ光10の照射位置を下板17にしたときに発生する溶け落ちを防止することができる。さらに、上板16に照射されたレーザ光10のエネルギによって、下板17も溶かされているので、溶け込み不足を補うことができる。
【0021】
この結果、図15に示すように、均一な溶接ビード15を上板16と下板17とに橋渡しして形成することができる。かつ、十分な溶け込み深さが得られ、継手強度が大きい溶接ビード15を形成することができる。図15は、従来技術3のレーザ照射交流アーク溶接方法による溶接結果を示す図である。しかし、以下に説明する課題を有する。
【特許文献1】特開2002−192363号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
上述した従来技術3のレーザ照射交流アーク溶接方法によって、上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手を隅肉溶接する場合、図15に示したように、下板17における溶接ビード15の境界部15aの接線角度θ1が大きくなる。この結果、この境界部15aに応力が集中し易くなり、疲労強度が低下する不具合を有する。
【0023】
この応力が集中することを低減する方法として、溶接ビード15上をグラインダー等で平滑に仕上げる方法がある。しかし、作業者が、グラインダー等の切削工具を長時間保持して研削しなければならないので、作業効率が低下する。さらに、作業者が安定して一様に研削することは困難であり、また、被溶接物を傷つけてしまう場合がある。
【0024】
本発明は、上板と下板との間にギャップを有する重ね継手の隅肉溶接において、均一で十分な溶け込み深さが得られ、継手強度が大きい溶接ビードを、上板と下板とに橋渡しして形成することができる。さらに、疲労強度を向上させることができるレーザ照射アーク溶接方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0025】
上板と下板との間にギャップを有する重ね継手の隅肉溶接個所にレーザ光を照射すると共に、
溶接ワイヤと前記重ね継手との間に電極マイナス電流と電極プラス電流との比であるEN比率を設定した交流電力を供給して消耗電極ガスシールドアーク溶接を行うレーザ照射アーク溶接方法において、
前記ギャップの長さが増加するに従って、前記レーザ光のビームスポットの径を増加させると共に前記ビームスポット径に対応させてレーザ出力を増加させ、かつ、
前記レーザ光を前記下板側に照射させて前記ビームスポットの外形が前記上板の下端部が前記下板の表面と重なる継手線にほぼ一致するように前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ照射アーク溶接方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明のレーザ照射アーク溶接方法は、上板と下板との間にギャップを有する重ね継手の隅肉溶接を行うとき、均一な溶接ビードを、上板と下板とに橋渡しして形成することができる。さらに、十分な溶け込み深さが得られ、継手強度が大きく、下板における溶接ビードの境界部の接線角度が小さい溶接ビードを形成することができる。従って、溶接ビードと下板との境界部に応力が集中し難くなり、疲労強度を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
[実施の形態1]
発明の実施の形態を実施例に基づき図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の形態1のレーザ照射アーク溶接方法を説明するための図であって、同図(A)は、溶接継手に対し直角方向から見た図であり、同図(B)は、溶接継手方向から見た図である。同図において、上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手を隅肉溶接する場合、ギャップ18の長さが増加するに従って、レーザ光10の下板17の表面上のビームスポット10aの外形が、重ね継手の上板の下端部16aが、下板17の表面と重なる継手線19よりもほぼ外側(図に示したX1−X2のX1方向)となるように、図9に示したレーザトーチ12から出力されたレーザ光10を下板17に照射している。そして、レーザ照射による溶け落ちを防ぐために、ビームスポット10aの径を増加させている。そして、ビームスポット10aの径を増加させると、エネルギ密度が低下するので、溶け落ちが発生しない範囲で、ビームスポット10aの径に対応させて、図8に示したレーザ発振器9のレーザ出力を増加させている。
【0028】
そして、溶接トーチ5から継手線19を狙い位置としてアークが発生される。また、溶接ワイヤ4と重ね継手との間に供給される交流電力のEN比率を、ギャップ18の長さが増加するに従って、大きくして、隅肉溶接を行っている。このとき、EN比率を大きくしても、レーザ光10のエネルギによって、下板17が溶かされているので、溶け込み不足を補うことができる。
【0029】
この結果、後述する図4(B)に示すように、均一な溶接ビード15を、上板16と下板17とに橋渡しして形成することができる。さらに、十分な溶け込み深さが得られ、継手強度が大きく、下板17における溶接ビード15の境界部15aの接線角度θ1が小さい溶接ビード15を形成することができる。従って、この境界部15aに応力が集中し難くなり、疲労強度を向上させることができる。
【0030】
以下、実施例を説明する。図2は、本発明のレーザ照射アーク溶接方法の実施例の重ね継手を治具で固定している状態を説明するための図であって、同図(A)は平面図であり、同図(B)は正面図である。同図において、上板16及び下板17とも、幅60mm、長さ300mmに切断され、材質が高張力鋼板である。そして、その板厚は、下板17が1.6mmであり、上板16が1.2mmである。下板17を作業台20の上に載せ、上板16と下板17との間のギャップが、0、6mmに保持されるように上板保持部材21を上板16と下板17との間に設けて、上板16と下板17との重ね代を10mmとして、押さえ冶具22で上板16を押えて、作業台20の上に固定している。
【0031】
溶接条件は、レーザ出力が2kWであり、レーザ光10の下板17表面上のビームスポット10aの径が2.0mmとなるように設定し、ビームスポット10aの外形が、継手線19よりもほぼ外側(図1に示したX1−X2のX1方向)となるように、レーザ光10を下板17に照射している。そしてアーク溶接の溶接電流を200A、溶接電圧を21V、EN比率を10%、溶接速度を300cm/分に設定し、レーザの照射位置とアークの狙い位置との溶接方向の距離を3.0mmとして、レーザ光10を先行させて隅肉溶接を行った。
【0032】
そして、溶接部近傍のマクロ断面の観察と疲労試験とを実施した。疲労試験は、図3に示す試験片で、片振り平面曲げ試験を実施した。この片振り平面曲げ試験とは、試験片の一方を固定させて、他方に一定の圧力を継続して加えて振動させて、継手が破断するまでの振動回数を測定する試験である。図3(A)は、疲労試験に使用する試験片の平面図であり、同図(B)は、正面図である。
【0033】
まず、溶接部近傍のマクロ断面の観察結果を説明する。図4(A)は、従来技術3のレーザ照射アーク溶接方法による溶接結果を示すマクロ断面図であり、同図(B)は、本発明のレーザ照射アーク溶接方法による溶接結果を示すマクロ断面図である。従来技術3のレーザ照射アーク溶接方法の溶接条件は、図14において、レーザ出力が2kWであり、ビームスポット径を最小として、レーザ光の照射位置16bを上板の下端部16aから0.5mmだけ上の位置とした。そしてアーク溶接の溶接電流を200A、溶接電圧を21V、EN比率を10%、溶接速度を300cm/分に設定し、溶接狙い位置を継手線19として、レーザの照射位置とアークの狙い位置との溶接方向の距離を3.0mmとして、レーザ光10を先行させて隅肉溶接を行った。
【0034】
図4(B)に示す本発明のレーザ照射アーク溶接方法による溶接結果は、同図(A)に示す従来技術3のレーザ照射アーク溶接方法による溶接結果と比較して、下板17における溶接ビードの境界部15aの接線角度θ1が小さい溶接ビード15を形成することができた。この結果、下板17における溶接ビードの境界部15aに応力が集中し難くなり、疲労強度を向上させることができた。
【0035】
次に、疲労試験の結果を説明する。図5は、従来技術3と本発明とのレーザ照射アーク溶接方法による重ね継手の疲労試験結果を示す図である。同図において、例えば、振動回数が200万回で破断するときの圧力は、従来技術3では、300MPa弱であるのに対して、本発明は、約400MPaである。従って、本発明は、従来技術3の約1.5倍も疲労強度を向上させることができた。
【0036】
[実施の形態2]
図6は、本発明の実施の形態2のレーザ照射アーク溶接方法を実施するための溶接装置である。同図において、レーザトーチ12がレーザ用マニピュレータ30のアーム31の先端に取り付けられていて、溶接トーチ5が溶接用マニピュレータ32のアーム33の先端に取り付けられている。交流アーク溶接電源14は、溶接ワイヤ送給機2の溶接ワイヤ送給ロールの回転を制御して、溶接ワイヤ4が溶接トーチ5を通して送給される。また、交流アーク溶接電源14は、溶接トーチ5内に設けられた給電チップと被溶接物7との間に電力を供給してアークを発生させる。
【0037】
また、レーザ発振機9から出力されたレーザ光10は光ファイバ11によってレーザトーチ12の集光レンズ光学系に伝送され、この集光レンズ光学系によって被溶接物7に焦点が生じるように収束されて照射される。上記のレーザ光10を照射する位置は、被溶接物7のアークの発生部に対し適宜な距離を持つ位置である。
【0038】
ティーチペンダント34からロボット制御装置35に指令信号S1が入力され、このロボット制御装置35からの動作制御信号S2が溶接用マニピュレータ32に入力されて、第1軸乃至第6軸から成る6つの軸を回転させて、溶接トーチ5の溶接狙い位置が制御される。また、ロボット制御装置35からの動作制御信号S3がレーザ用マニピュレータ30に入力されて、第1軸乃至第6軸から成る6つの軸を回転させて、レーザトーチ12のレーザ照射位置が制御される。
【0039】
レーザセンサ36は、ギャップの長さ及び継手線を検出して、その検出信号S4をロボット制御装置35へ出力する。ロボット制御装置35は、ギャップの長さに対応してレーザ光10のねらい位置を制御する動作制御信号S3をレーザ用マニピュレータ30に入力する。また、ギャップの長さに対応した被溶接物7上のビームスポット径に設定するためのビームスポット径設定信号S5をビームスポット径調整機構37へ出力する。このビームスポット径調整機構37は、ギャップの長さに対応して集光レンズ光学系を調整して、ビームスポット径を調整する。また、ロボット制御装置35は、レーザ発振器9にビームスポット径に対応させてレーザ出力を増加させる出力制御信号S6を出力する。
【0040】
レーザセンサ36を設ける位置は、図7(A)に示すように、溶接方向に対してレーザトーチ12と溶接トーチ5との間に設けてもよいし、同図(B)に示すように、溶接方向に対してレーザトーチ12の前方に設けてもよい。図7は、レーザセンサ36を設ける位置を示す図である。
【0041】
上述した溶接装置によって、重ね継手のギャップの長さに対応してレーザ光10の照射位置を調整し、ビームスポット径を増加させると共にビームスポット径に対応させてレーザ出力を増加させて隅肉溶接を行う本発明のレーザ照射アーク溶接方法を実施することができる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】本発明の実施の形態1のレーザ照射アーク溶接方法を説明するための図である。
【図2】本発明のレーザ照射アーク溶接方法の実施例の重ね継手を治具で固定している状態を説明するための図である。
【図3】疲労試験に使用する試験片を示す図である。
【図4】従来技術3と本発明とのレーザ照射アーク溶接方法による溶接結果を示すマクロ断面図である。
【図5】従来技術3と本発明とのレーザ照射アーク溶接方法による重ね継手の疲労試験結果を示す図である。
【図6】本発明の実施の形態2のレーザ照射アーク溶接方法を実施するための溶接装置である。
【図7】レーザセンサ36を設ける位置を示す図である。
【図8】一般的なレーザ照射直流アーク溶接方法を実施するための溶接装置を示す図である。
【図9】一般的なレーザ照射アーク溶接ヘッドを示す図である。
【図10】従来技術2の交流アーク溶接方法を実施するための溶接装置を示す図である。
【図11】従来技術2の交流アーク溶接方法の交流アーク溶接電源14の出力波形を示す図である。
【図12】従来技術2の交流アーク溶接方法のEN比率と溶接ビード15の形状との関係を示す図である。
【図13】上板16と下板17との間にギャップ18を有する重ね継手の隅肉溶接を行う場合に、EN比率を変化させたときの溶接ビード15の形状を示す図である。
【図14】レーザ照射交流アーク溶接方法を説明するための図である。
【図15】従来技術3のレーザ照射交流アーク溶接方法による溶接結果を示す図である。
【符号の説明】
【0043】
1 直流アーク溶接用電源装置
2 溶接ワイヤ送給機
3 溶接ワイヤ送給ロール
4 溶接ワイヤ
5 溶接トーチ
6 溶接トーチボディ
7 被溶接物
8 アーク
9 レーザ発振器
10 レーザ光
10a ビームスポット
11 光ファイバ
12 レーザトーチ
13 集光レンズ光学系
14 交流アーク溶接電源
15 溶接ビード
15a 下板における溶接ビードの境界部
16 上板
16a 下端部
16b 位置
16b 照射位置
17 下板
18 ギャップ
19 継手線
20 作業台
21 上板保持部材
22 冶具
30 レーザ用マニピュレータ
31 アーム
32 溶接用マニピュレータ
33 アーム
34 ティーチペンダント
35 ロボット制御装置
36 レーザセンサ
37 ビームスポット径調整機構
EN 電極マイナス極性
EP 電極プラス極性
Ib ベース電流
Ien 電極マイナス電流
Ip ピーク電流
Iw 溶接電流
S1 指令信号
S2 動作制御信号
S3 動作制御信号
S4 検出信号
S5 ビームスポット径設定信号
S6 出力制御信号
T 通電期間
t1 時刻
t2 時刻
t3 時刻
t4 時刻
Tb ベース期間
Ten 電極マイナス期間
Tp ピーク期間
Vb ベース電圧
Ven 電極マイナス電圧
Vp ピーク電圧
Vrs 再点弧電圧
Vs 電圧設定値
Vw 溶接電圧
θ1 接線角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上板と下板との間にギャップを有する重ね継手の隅肉溶接個所にレーザ光を照射すると共に、
溶接ワイヤと前記重ね継手との間に電極マイナス電流と電極プラス電流との比であるEN比率を設定した交流電力を供給して消耗電極ガスシールドアーク溶接を行うレーザ照射アーク溶接方法において、
前記ギャップの長さが増加するに従って、前記レーザ光のビームスポットの径を増加させると共に前記ビームスポット径に対応させてレーザ出力を増加させ、かつ、
前記レーザ光を前記下板側に照射させて前記ビームスポットの外形が前記上板の下端部が前記下板の表面と重なる継手線にほぼ一致するように前記レーザ光を照射することを特徴とするレーザ照射アーク溶接方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2007−105754(P2007−105754A)
【公開日】平成19年4月26日(2007.4.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−298554(P2005−298554)
【出願日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】