説明

レーザ装置

【課題】実用上好ましいビーム形状のレーザ光を出力することができるレーザ装置を提供すること。
【解決手段】基板上に配列され、多モードのレーザ光を出力する複数の面発光レーザ素子を有する面発光レーザアレイ素子と、前記面発光レーザアレイ素子から離隔して配置され、前記複数の面発光レーザ素子が出力した各レーザ光のビーム形状を整形するとともに該各レーザ光を平行光にする整形光学素子を備える。好ましくは、前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を整形する第1光学素子と、前記第1光学素子が整形した各レーザ光を少なくとも平行光にする第2光学素子と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、面発光レーザアレイ素子を用いたレーザ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、基板上に複数の面発光レーザ素子が配列された面発光レーザアレイ素子を用いたレーザ装置が開示されている(たとえば特許文献1、2参照)。このレーザ装置では、面発光レーザアレイ素子を構成する各面発光レーザ素子が出力する各レーザ光を、各面発光レーザ素子に対応して設けた回折レンズによって1本の光ファイバに集束して出力するようにしている。面発光レーザ素子は、低コストであり、ストライプレーザで問題となるCOD(Catastrophic optical damage)を起こしにくいため、これを用いたレーザ装置は、低コストで信頼性の高い高出力のレーザ装置として期待されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第6,888,871号明細書
【特許文献2】特開2006−91285号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】K.Takaki, N.Iwai, K.Hiraiwa, S.Imai, H.Shimizu, T.kageyama, Y.kawakita, N.Tsukiji and A.Kasukawa,"A recorded 62% PCE and low series and thermal resistance VCSEL with a double intra-cavity structure", The 21st IEEE International Semiconductor Laser Conference (ISCL2008, September 14-18, 2008, Sorrent, Italy), Postdeadline Papers, PD1.1.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、面発光レーザアレイ素子を用いた高出力のレーザ装置を実用化する場合に、低消費電力化のために個々の面発光レーザ素子の発光効率が高く、電気−光変換効率が高いことが要求されている。面発光レーザ素子の発光効率を高くするには、適切なアパチャサイズを選択する必要がある。ここでアパチャとは、選択酸化等の手法により活性層への電流注入を制限する構造において、電流注入のために残された開口のことである。すなわち、アパチャサイズが小さすぎると素子抵抗が大きくなり発光効率が低下する。一方、アパチャサイズが大きすぎると、アパチャの周辺部に電流が集中するなどによって電流の流れ方が不均一になり、やはり発光効率が低下する。したがって、発光効率が高い面発光レーザ素子を実現するためには、アパチャサイズを最適化する必要がある。高発光効率のためにアパチャサイズを最適化した面発光レーザ素子は、たとえば非特許文献1に開示されている。このように高発光効率の面発光レーザ素子は、発熱が少ないため、素子の劣化が抑制されて信頼性も高くなる。
【0006】
しかしながら、非特許文献1のように高発光効率のためにアパチャサイズを最適化した面発光レーザ素子は、レーザ発振の横モードが多モードとなり、レーザ光のビーム形状が複数のピークを有する形状となる。個々の面発光レーザ素子が出力するレーザ光のビーム形状が、このような複数のピークを有する場合、これらのレーザ光を集束したレーザ光のビーム形状も複数のピークを有するものとなり、実用上好ましくないという問題があった。
【0007】
たとえば、集束したレーザ光が、ビーム断面の中心部が窪んでその周囲に2つのピークを有する双峰型のビーム形状の場合、中心部での光強度密度が小さくなる。その結果、このレーザ光を、光ファイバレーザの励起光として光ファイバに結合しても、光ファイバの中心部での光強度密度が小さいため、励起効率が、レーザ光の全光強度から期待される効率よりも低くなる場合がある。また、レーザ加工の用途で、直接加工対象にレーザ光を照射する場合も、ビーム内の光強度分布が不均一であるため、良好な加工条件を得にくくなる。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、実用上好ましいビーム形状のレーザ光を出力することができるレーザ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係るレーザ装置は、基板上に配列され、多モードのレーザ光を出力する複数の面発光レーザ素子を有する面発光レーザアレイ素子と、前記面発光レーザアレイ素子から離隔して配置され、前記複数の面発光レーザ素子が出力した各レーザ光のビーム形状を整形するとともに該各レーザ光を平行光にする整形光学素子を備えることを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を整形する第1光学素子と、前記第1光学素子が整形した各レーザ光を少なくとも平行光にする第2光学素子と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記第2光学素子は、前記第1光学素子が整形した各レーザ光をさらに整形することを特徴とする。
【0012】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を、ビーム断面内の光強度分布の偏差を解消するように整形することを特徴とする。
【0013】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を単峰型に整形することを特徴とする。
【0014】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記整形光学素子が平行光にした各レーザ光を集束する集束光学素子と、前記集束光学素子が集束した各レーザ光が結合される光ファイバと、を備えることを特徴とする。
【0015】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記集束光学素子は、前記面発光レーザアレイ素子の基板面内の温度分布に起因する前記各レーザ光の波長分布を補正することを特徴とする。
【0016】
また、本発明に係るレーザ装置は、上記の発明において、前記整形光学素子または前記集束光学素子は、回折レンズを有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、実用上好ましいビーム形状のレーザ光を出力するレーザ装置を実現できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、実施の形態に係るレーザ装置の模式的な構成図である。
【図2】図2は、図1に示すレーザ装置の模式的な要部構成図である。
【図3】図3は、図2に示す面発光レーザアレイ素子の模式的な平面図である。
【図4】図4は、異なる駆動電流において面発光レーザ素子が出力するレーザ光のビーム形状を示す図である。
【図5】図5は、駆動電流とビーム広がり角との関係を示す図である。
【図6】図6は、図2に示す第1光学素子の模式的な平面図である。
【図7】図7は、第1光学素子の特性を説明する第1光学素子の半径に沿った模式的な一部断面図である。
【図8】図8は、面発光レーザ素子から出力されたレーザ光の整形、平行光化、および集束について説明する図である。
【図9】図9は、面発光レーザ素子が出力するレーザ光のビーム角度θを説明する図である。
【図10】図10は、設計例における第1光学素子および第2光学素子によるビーム角度θの変化を説明する図である。
【図11】図11は、設計例における第1光学素子に入射する直前のレーザ光のビーム形状を示す図である。
【図12】図12は、設計例における第2光学素子から出射した直後のレーザ光のビーム形状を示す図である。
【図13】図13は、集束光学素子の好ましい態様の模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、図面を参照して本発明に係るレーザ装置の実施の形態を詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0020】
(実施の形態)
図1は、本発明の実施の形態に係るレーザ装置の模式的な構成図である。図1に示すように、このレーザ装置100は、筐体10の基台部11に載置された面発光レーザアレイ素子20と、外周を覆うように放熱フィン12が設けられた筐体10の本体部13内に、面発光レーザアレイ素子20と離隔して配置された光学素子群30と、筐体10の突出部14の一端に取り付けられた補助集光レンズ40と、突出部14の他の一端に挿通固定された光ファイバ50とを備えている。
【0021】
面発光レーザアレイ素子20は、高強度のレーザ光LLを出力するものである。光学素子群30および補助集光レンズ40は、レーザ光LLを光ファイバ50に光学的に結合させるものである。光ファイバ50は、レーザ光LLを外部へ出力するものである。
【0022】
基台部11は、面発光レーザアレイ素子20を冷却するための冷却機構11aを備えている。この冷却機構11aとしては、たとえばマイクロチャネルを用いた水冷パイプ、空冷フィン、ヒートパイプ、またはペルチェ素子などを用いることができる。また、放熱フィン12は、レーザ光LLのうち光ファイバ50に結合しなかった成分、たとえば散乱光のエネルギーによって筐体10が温度上昇することを抑制している。
【0023】
つぎに、このレーザ装置100の光学的要素について説明する。図2は、図1に示すレーザ装置100の模式的な要部構成図である。図2に示すように、面発光レーザアレイ素子20は、基板21上に4×4の2次元正方格子状に配列された、16個の面発光レーザ素子22を有している。
【0024】
光学素子群30は、第1光学素子アレイ31、第2光学素子アレイ32、および集束光学素子33から構成されている。これらの光学素子は、離隔した状態または一体化した状態で光学素子群30を構成している。
【0025】
第1光学素子アレイ31は、面発光レーザアレイ素子20の各面発光レーザ素子22に対応させて配列された、複数の第1光学素子31aを有している。また、第2光学素子アレイ32も、各面発光レーザ素子22に対応させて配列された複数の第2光学素子32aを有している。面発光レーザ素子22から出力されたレーザ光LL1は、第1光学素子アレイ31の対応する第1光学素子31a、第2光学素子アレイ32の対応する第2光学素子32a、集束光学素子33、補助集光レンズ40を順次通過して光ファイバ50に到達する。
【0026】
ここで、各第1光学素子31aは、各面発光レーザ素子22が出力した各レーザ光LL1のビーム形状を整形する機能を有する。また、各第2光学素子32aは、各第1光学素子31aが整形した各レーザ光LL1のビーム形状をさらに整形するとともに、各レーザ光LL1を平行光にする機能を有する。すなわち、各第1光学素子31aと各第2光学素子32aの組み合わせによって、レーザ光LL1のビーム形状の整形と平行化とを行う整形光学素子を実現している。また、集束光学素子33は、各第2光学素子32aが平行光にした各レーザ光LL1の束であるレーザ光LLを集束する機能を有する。これらの各光学素子については後に詳述する。
【0027】
つぎに、図2に示す各構成要素について具体的に説明する。はじめに、面発光レーザアレイ素子20について説明する。
【0028】
図3は、図2に示す面発光レーザアレイ素子20の模式的な平面図である。基板21上に配列された16個の面発光レーザ素子22は、たとえば非特許文献1に開示される構造を有する発光効率が高い面発光レーザ素子であり、直径10μm程度のアパチャを有し、アパチャから波長900〜1100nm程度のレーザ光を出力する。出力されたレーザ光はビーム径が広がりながら進行する。また、面発光レーザ素子22の電流−光出力特性としては、しきい値電流が1〜2mAであり、駆動電流がCW(連続波)電流の場合には20mA程度で光出力がロールオーバーする。また、駆動電流がパルス電流の場合には、30mA程度でも光出力がロールオーバーせず、さらに光出力が増加する。なお、後の説明に用いるため、基板21上の面発光レーザ素子22の配列する領域に内側領域A1と外側領域A2とを規定する。
【0029】
図4は、異なる駆動電流において面発光レーザ素子が出力するレーザ光のビーム形状をファーフィールドパターン(FFP)により示す図である。なお、図4(a)は駆動電流がしきい値電流付近のCW電流の場合、図4(b)は10mAのCW電流の場合、図4(c)は30mAのパルス電流の場合をそれぞれ示している。ここで、ビーム形状の光強度が最大値の1/2となる位置でのビーム形状の広がり角度(図4中の対向する矢印間の幅)をビーム広がり角と定義する。図5は、駆動電流とビーム広がり角との関係を示す図である。
【0030】
図4、5に示すように、面発光レーザ素子22は、駆動電流を図4(a)から図4(b)に増加させるにつれて横モードが多モードの発振状態となり、ビーム形状の角度が約11度から約13度に広がるとともに複数のピークが分離し、より顕著な双峰型となる。さらに、図4(c)では、更に高次の横モードが発生し、中央にあらたなピークが発生している。
【0031】
つぎに、第1光学素子31aおよび第2光学素子32aについて具体的に説明する。図6は、図2に示す第1光学素子31aの模式的な平面図である。図7は、第1光学素子31aの特性を説明する第1光学素子31aの半径に沿った模式的な一部断面図である。図6、7に示すように、第1光学素子31aは、同心円状に回折格子が形成された回折レンズである。この回折格子は、中心からの距離によって回折面の角度が異なるパターンを有している。
【0032】
ここで、図7に示すように、角度が小さい回折面31aaに入射した光L1は回折角が大きくなる。その結果、光L1は大きく分散して広がりながら進行するので、単位角度当たりの光強度は弱くなる。一方、角度が大きい回折面31abに入射した光L2は回折角が小さくなる。その結果、光L2はあまり広がらずに進行するので、単位角度当たりの光強度は弱くならない。この第1光学素子31aは、このように回折面の角度が異なる回折格子によって、この第1光学素子31aに入力されたレーザ光LL1の強度分布、すなわちビーム形状を整形する機能を有する。
【0033】
なお、第2光学素子32aについても、図6、7に示す第1光学素子31aと同様に、同心円状に形成された回折格子を有するが、その回折格子のパターンは第1光学素子31aと異なるように設計されており、この第2光学素子32aに入力されたレーザ光LL1のビーム形状を整形するとともに平行光にする機能を有するように設計されている。
【0034】
つぎに、図8を用いて、面発光レーザ素子22から出力されたレーザ光LL1の整形、平行光化、および集束について説明する。はじめに、面発光レーザ素子22から出力されたレーザ光LL1のビーム形状は、模式的に示す形状P1のような複数のピークを有する多モード発振状態の形状を有している。また、第1光学素子31aに入射する直前のレーザ光LL1のビーム形状は、形状P2のような、形状P1がさらに広がった形状を有している。
【0035】
ここで、第1光学素子31aは、形状P2のうち高光強度に対応する位置では光が分散して強度が弱くなり、低光強度に対応する位置では回折光の強度が弱くならないように、その回折格子パターンが設計されている。したがって、第1光学素子31aは、レーザ光LL1のビーム形状を、ビーム断面内の光強度分布の偏差(すなわち、モードに起因する光強度のピーク部分と、ピーク間に位置する光強度が弱い谷の部分との強度差)を解消するように整形する。その結果、第2光学素子32aに入射する直前のレーザ光LL1のビーム形状は、形状P3のような、光強度分布がより平坦な形状を有するものとなる。
【0036】
つぎに、第2光学素子32aは、形状P3にあわせて、レーザ光LL1のビーム形状を、光強度分布の偏差をさらに解消するように整形し、かつ平行光にするように、その回折格子パターンが設計されている。その結果、第2光学素子32aから出射したレーザ光LL1は、そのビーム形状がより平坦であるとともに、平行光となる。なお、光強度分布の偏差の最大値が、ビーム形状の両端に位置するピーク間における光強度分布の平均値の20%以内であることが好ましい。
【0037】
なお、第1光学素子アレイ31における第1光学素子31aの占める面積を大きくして、第1光学素子31aの面積を大きくすることが好ましい。第1光学素子31aの面積が大きければ、回折レンズを加工するにあたり、所定の加工精度にてより複雑で性能の良い回折レンズを実現することができる。また、第1光学素子31aを大きくすることによって、入射されるレーザ光LL1の光強度密度を低くすることができるので、第1光学素子31aの局所的な光学損傷の発生を抑制することができる。第2光学素子32aについても、同様に面積を大きくすることが好ましい。
【0038】
第1光学素子31a、第2光学素子32aの面積を大きくするためには、第1光学素子アレイ31、第2光学素子アレイ32の面発光レーザアレイ素子20からの離隔距離をできるだけ大きくすることが好ましい。この離隔距離は、隣接する面発光レーザ素子22から出射するレーザ光LL1のビーム同士が交差しない程度の距離とする。たとえば、直径10μm程度のアパチャを有する面発光レーザ素子22を100μmピッチで配列する場合、レーザ光LL1のビーム広がり角が15度であれば、面発光レーザアレイ素子20から350μmだけ離隔した位置でのレーザ光LL1のビーム直径が100μmとなる。この場合、第2光学素子アレイ32の面発光レーザアレイ素子20からの離隔距離を350μm程度以下とする。
【0039】
つぎに、集束光学素子33は、第2光学素子32aから出射したレーザ光LL1を集束する。集束されたレーザ光LL1のビーム形状は、形状P4のような、平坦かつ幅の狭い形状を有するものとなる。また、集束光学素子33は、面発光レーザアレイ素子20の各面発光レーザ素子22から出力され、対応する第1光学素子31a、第2光学素子32aにより整形、平行光化された各レーザ光LL1の束を、レーザ光LLとして補助集光レンズ40を介して光ファイバ50に集束する。
【0040】
補助集光レンズ40としては、非球面レンズや平凸レンズを用いることができる。また、光ファイバ50は、コア径が200μm以下、さらには100μm以下に小さいものである。ここで、上述したように、レーザ装置100では、放熱フィン12によって筐体10の温度が上昇することを抑制している。しかし、温度が上昇したとしても、補助集光レンズ40を用いることによって、温度上昇の影響による光軸変動に対するロバスト(頑健性)が高くなるようにしている。その結果、コア径が小さくNA(開口数:Numerical Aperture)が小さい光ファイバ50に対しても、レーザ光LLをより安定して光学結合することができる。また、補助集光レンズ40と光ファイバ50とは、いずれも筐体10の突出部14に取り付けられているため、筐体10の温度上昇によってもその相対位置は変化しにくくなり、一層安定した光学結合を実現することができる。
【0041】
なお、各面発光レーザ素子22から出力された各レーザ光LL1は、その光強度がたとえば10mW程度と低いため、第1光学素子31a、第2光学素子32a、および集束光学素子33に入射するときの各レーザ光LL1の光強度密度は低い。また、面発光レーザアレイ20における面発光レーザ素子22の配置ピッチを大きくすることで、第1光学素子アレイ31、第2光学素子アレイ32の面発光レーザアレイ素子20からの離隔距離を大きくすることが可能となり、第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの面積をより大きくすることができるので、この光強度密度をさらに低くできる。したがって、これらの光学素子の材質としては、耐熱性が低くても加工しやすいガラスや光学樹脂、またはガラスと光学樹脂のハイブリッド材料などの低コストの材料を使用することができる。なお、補助集光レンズ40は、入射するレーザ光LLの光強度が高いので、たとえば石英ガラスなどの耐熱性が高い材質からなるものが好ましい。
【0042】
以上のようにして、レーザ装置100は、面発光レーザアレイ素子20の各面発光レーザ素子22から出力された各レーザ光LL1を、集束された高強度のレーザ光LLとして光ファイバ50から外部に出力することができる。
【0043】
なお、このレーザ装置100は、出力するレーザ光LLの波長を980nm帯とすると、たとえば光ファイバレーザ用の励起光源として好適に用いることができる。また、波長を1064nmとすると、YAGレーザの代替光源として用いることができる。また、波長変換素子と組み合わせて、532nm、350nm、260nmなどの波長を有する波長変換光を発生させるための基本波光源として用いることができる。
【0044】
つぎに、第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの設計例を説明する。なお、本設計は光線追跡法を用いたシミュレーション計算により行われたものである。図9は、面発光レーザ素子22が出力するレーザ光のビーム角度θを説明する図である。図9に示すように、ビーム角度θとは、面発光レーザ素子22のアパチャの中心を基準位置(原点)として、該基準位置からアパチャに垂直に延びる直線(レーザ光の光軸X)からのレーザ光の進行方向の傾き角を表すものであり、前出のビーム広がり角の半分の大きさを表す。また、光軸Xを基準として紙面時計回り方向を位置の負の向き、紙面上反時計回りの方向を角度の正の向きとする。また、第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの直径をいずれも100μmとする。
【0045】
図10は、本設計例における第1光学素子31aおよび第2光学素子32aによるビーム角度θの変化を説明する図である。図10に示すように、本設計における第1光学素子31aおよび第2光学素子32aは、第1光学素子31aへの入射時にはビーム角度θが第1光学素子31aの直径上の位置に対して所定の傾きで線形に変化しているようなレーザ光に対して、第2光学素子32aからの出射時には位置によらずビーム角度θがゼロである、すなわち平行光であるレーザ光になるように設計されている。また、第1光学素子31aからの出射および第2光学素子32aの内部におけるビーム角度θの形状は、ビーム形状の整形、またはビーム形状の整形およびレーザ光の平行光化のために第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの回折格子パターンを設定したことによって発生したものである。
【0046】
ここで、本設計例の第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの組み合わせの第1光学素子31aを組み合せてなる整形光学素子において、図11に示すような複数のピークを有するビーム形状を有するレーザ光を入射した。すると、第2光学素子32aからは、図12に示すような、ビーム断面内の光強度分布の偏差が解消された、きわめて平坦なビーム形状を有するレーザ光を出射できることが確認された。
【0047】
なお、本設計例は、一例であって、第1光学素子31aおよび第2光学素子32aの設計は、面発光レーザ素子22の動作時におけるレーザ光LL1のビーム形状に合わせて、光強度分布の偏差を解消できるように設計すればよい。
【0048】
つぎに、集束光学素子33の好ましい態様について説明する。集束光学素子33は、面発光レーザアレイ素子20の基板21面内の温度分布に起因する、各面発光レーザ素子22が出力するレーザ光の波長分布を補正するように構成することが好ましい。
【0049】
以下、具体的に説明する。図3に示すように、基板21面内の内側領域A1に存在する面発光レーザ素子22は、その周囲を他の面発光レーザ素子22に囲まれているために、動作時に他の面発光レーザ素子22が発生する熱の流入によって、外側領域A2に存在する面発光レーザ素子22よりも素子温度が高くなる。素子温度は、素子の個数、および配列形状や配列間隔に応じて、基板面内においてたとえば50℃〜80℃まで分布する。また、面発光レーザ素子22のレーザ発振波長の温度係数は、たとえば0.07nm/℃程度である。そのため、内側領域A1の面発光レーザ素子22のレーザ光の波長は素子の温度上昇によって長波長側にシフトする。その結果、各レーザ光LL1の波長は、基板21面内の温度分布に起因して波長分布を有することとなる。そこで、集束光学素子33として、この波長分布を補正するように構成したものを用いることが好ましい。
【0050】
図13は、集束光学素子33の好ましい態様の模式的な平面図である。図13に示すように、この集束光学素子33は、回折レンズであり、内側領域A1と外側領域A2との形状に合わせて、回折格子のパターンが形成されている。この回折格子は、その回折面の角度が、各面発光レーザ素子22からの各レーザ光LL1を集束するとともに、このレーザ光LL1の波長分布を補正するように設定されている。これによって、集束光学素子33は、各面発光レーザ素子22からの各レーザ光LL1を、その波長分布にかかわらず結合効率高く光ファイバ50に結合させることができる。なお、回折レンズでは、通常は波長が長くなる程回折角は大きくなるので、長波長シフトを補正するためには、回折レンズにおける回折面の角度を相対的に小さくすればよい。
【0051】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。たとえば、第1光学素子または第2光学素子は、断面が矩形状の回折レンズまたは非球面レンズでもよい。また、集束光学素子は、断面が矩形状の回折レンズまたは非球面レンズでもよいし、平凸レンズでもよい。また、第1光学素子および第2光学素子は、レーザ光のビーム形状をガウシアン形状等の単峰型に整形するものでもよい。また、第1光学素子のみでレーザ光のビーム形状の整形を行い、第2光学素子はレーザ光の平行光化のみをおこなうようにしてもよい。また、第1光学素子と第2光学素子との組み合わせの代わりに、1つの整形光学素子のみでレーザ光のビーム形状の整形と平行光化とを行うようにしてもよい。
【0052】
また、面発光レーザアレイ素子が備える面発光レーザ素子の数は特に限定されず、たとえば100〜10000個とできる。個々の面発光レーザ素子の光出力が10mWの場合、面発光レーザ素子を10×10に配列すると1W程度の強度の光出力が得られる。また、30×30の配列で10W程度、100×100の配列で100W程度の強度の光出力が得られる。なお、面発光レーザ素子の配列ピッチを100μmとすると、面発光レーザアレイ素子のチップサイズは、10×10配列で1mm角、30×30配列で3mm角、100×100配列で10mm角であり、いずれもその光出力に比して非常に小さいものである。また、面発光レーザ素子の配列形状も、正方格子状に限定されず、たとえば三角格子状、円形状、ハニカム状にすることができる。また、光ファイバは、先端部をレンズ加工したものでもよい。レンズ加工した光フィバを用いる場合は、補助集光レンズを省略してもよい。
【符号の説明】
【0053】
10 筐体
11 基台部
11a 冷却機構
12 放熱フィン
13 本体部
14 突出部
20 面発光レーザアレイ素子
21 基板
22 面発光レーザ素子
30 光学素子群
31 第1光学素子アレイ
31a 第1光学素子
31aa、31ab 回折面
32 第2光学素子アレイ
32a 第2光学素子
33 集束光学素子
40 補助集光レンズ
50 光ファイバ
100 レーザ装置
A1 内側領域
A2 外側領域
L1、L2 光
LL、LL1 レーザ光
P1〜P4 形状
X 光軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に配列され、多モードのレーザ光を出力する複数の面発光レーザ素子を有する面発光レーザアレイ素子と、
前記面発光レーザアレイ素子から離隔して配置され、前記複数の面発光レーザ素子が出力した各レーザ光のビーム形状を整形するとともに該各レーザ光を平行光にする整形光学素子を備えることを特徴とするレーザ装置。
【請求項2】
前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を整形する第1光学素子と、
前記第1光学素子が整形した各レーザ光を少なくとも平行光にする第2光学素子と、
を備えることを特徴とする請求項1に記載のレーザ装置。
【請求項3】
前記第2光学素子は、前記第1光学素子が整形した各レーザ光をさらに整形することを特徴とする請求項2に記載のレーザ装置。
【請求項4】
前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を、ビーム断面内の光強度分布の偏差を解消するように整形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【請求項5】
前記整形光学素子は、前記各レーザ光のビーム形状を単峰型に整形することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【請求項6】
前記整形光学素子が平行光にした各レーザ光を集束する集束光学素子と、
前記集束光学素子が集束した各レーザ光が結合される光ファイバと、
を備えることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一つに記載のレーザ装置。
【請求項7】
前記集束光学素子は、前記面発光レーザアレイ素子の基板面内の温度分布に起因する前記各レーザ光の波長分布を補正することを特徴とする請求項6に記載のレーザ装置。
【請求項8】
前記整形光学素子または前記集束光学素子は、回折レンズを有することを特徴とする請求項6または7に記載のレーザ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−4227(P2012−4227A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−136205(P2010−136205)
【出願日】平成22年6月15日(2010.6.15)
【出願人】(000005290)古河電気工業株式会社 (4,457)
【Fターム(参考)】