説明

レール軸力測定装置、レール軸力測定方法

【課題】現場において、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることなくレールの軸力の測定を行うことができるレール軸力測定装置等を提供する。
【解決手段】レール軸力測定装置1は、レール7の側面に取り付けられ、レール7を所定の周波数で振動させる加振器3と、レール7の別の一方の側面に、加振器3と別の位置で取り付けられ、レール7の振動状態を検出する受信器5と、受信器5から出力された振動状態のデータに基づいてレール7の所定の振動モードに対する固有振動数を求め、事前に求めたレール7の軸力とレール7の所定の振動モードに対する固有振動数との対応関係に基づいて、レール7の軸力を算出する分析・算出装置6とを具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はレール軸力測定装置、レール軸力測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道等のレールでは、温度上昇に伴う軸力の増加を原因としてレールの張り出しや座屈が起こる場合がある。レールの張り出しや座屈が起こると、鉄道の運行に支障をきたし危険である。これを防ぐため、レールの軸力を測定することが行われる。従来、レールの軸力の測定については、所定の温度の時にレールの遊間で直接応力を測定するか、伸縮継ぎ目でのストロークを測り間接的に測定することが行われてきた。また、ロングレールの場合レールの途中を切断して直接的に応力、歪みを測ることも行われている。
上記実用化されている直接歪み測定法の他に、現在音響弾性法、透磁率測定法、アコースティックエミッション法、X線法、VERSE法をはじめ各種の方法が検討されている。このうち、レールの透磁率を用いてレール軸力を測定する方法の例が特許文献1に示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7−280669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、現在広く実用化されているのは上記の直接歪み法のみである。直接歪み測定法は、軸力の測定に際しレールの締結を外したりレールを途中で切断したりすることが必要であり、測定作業に時間がかかり、また鉄道等の運行に支障をきたす可能性もある。
【0005】
本発明は、前述した問題点に鑑みてなされたもので、現場において、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることなくレールの軸力の測定を行うことができるレール軸力測定装置等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達するための第1の発明は、レールを所定の周波数で振動させる加振器と、前記レールの振動状態を検出する受信器と、前記受信器から出力された振動状態のデータに基づいて前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数を求める分析装置と、事前に求めた前記レールの軸力と前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数との対応関係に基づいて、前記分析装置で求めた固有振動数より前記レールの軸力を算出する算出装置と、を具備することを特徴とするレール軸力測定装置である。
【0007】
上記の構成により、現場で実軌道のレールを振動させることによって求めた固有振動数より、事前に求めた対応関係に基づいてレールの軸力を測定する。従って、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることなくレールの軸力の測定を行うことができるレール軸力測定装置が提供される。
【0008】
前記対応関係は、前記レールを模した解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対し解析を行うことにより求められる。
【0009】
また、前記解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対する解析は、Floquet変換を用いて行われる。
【0010】
上記の構成により、自然状態にある実軌道のレールに即した事前解析を行うことができるので、現場において、自然状態にある実軌道のレールの固有振動数を求めた結果との対応をとることが可能になる。
【0011】
前述した目的を達するための第2の発明は、途中をまくらぎに固定された状態のレールの軸力を測定するレール軸力測定方法であって、周波数を変えながら前記レールの所定の位置を振動させ、前記レールの別の複数の位置で、前記レールの各周波数での振動時の振動状態を検出する検出工程と、前記検出工程で検出した振動状態に基づいて前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数を求める分析工程と、事前に求めた前記レールの軸力と前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数との対応関係に基づいて、前記分析工程で求めた固有振動数より前記レールの軸力を算出する算出工程と、を具備することを特徴とするレール軸力測定方法である。
【0012】
上記の構成により、現場で実軌道のレールを振動させることによって求めた固有振動数より、事前に求めた対応関係に基づいてレールの軸力を測定する。従って、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることなくレールの軸力の測定を行うことができるレール軸力測定方法が提供される。
【0013】
前記対応関係は、前記レールを模した解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対し解析を行うことにより求められる。
【0014】
また、前記解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対する解析は、Floquet変換を用いて行われる。
【0015】
上記の構成により、自然状態にある実軌道のレールに即した事前解析を行うことができるので、現場において、自然状態にある実軌道のレールの固有振動数を求めた結果との対応をとることが可能になる。
【発明の効果】
【0016】
本発明により、現場において、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることなくレールの軸力の測定を行うことができるレール軸力測定装置等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】レールの状態及びレール測定装置を示す図
【図2】分析・算出装置と受信器の構成を示す構成図
【図3】レール軸力測定方法の流れを示す流れ図
【図4】レールモデルを説明する図
【図5】固有振動数と波数、レール軸力の関係を示す図
【図6】レール軸力と固有振動数との関係を示す図
【図7】レール軸力の測定を説明する図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下図面を参照しながら、本発明のレール軸力測定装置等の実施形態について説明する。
【0019】
まず、図1、図2を参照しながら、本実施形態のレール軸力測定装置について説明する。図1は、レールの状態及びレール軸力測定装置を説明する図であり、図1(a)はレールにレール軸力測定装置を取り付けた状態を示す斜視図、図1(b)はレールとまくらぎを示す断面図である。図2は分析・算出装置と受信器の構成を示す構成図である。
【0020】
図1(a)に示すように、本実施形態のレール軸力測定装置1は、加振器3、受信器5、分析・算出装置6を具備する。受信器5と分析・算出装置6はケーブル8で接続されている。
【0021】
また、レール7の下部にはまくらぎ9がレール軸方向で間隔Lごとに設けられる。図1(b)に示すように、レール7とまくらぎ9は軌道パッド11を介して接続されている。まくらぎ9は、防振パッド13を介して道床15の上部に取り付けられる。軌道パッド11、防振パッド13は、例えばゴム等で構成され、レール7やまくらぎ9の揺れを緩和させる効果を有する。
【0022】
加振器3は、レール7の一方に側面に接するように取り付けられ、所定の周波数で鉛直方向の振動をレール7に与える。
【0023】
加振器3は、レールに任意の周波数で振動を与えるための信号を発生させる信号発生装置(不図示)、当該信号に基づきレールに振動を与える加振装置(不図示)等を有する。また、加振器3は、インパルスハンマーによりレールに打撃を載荷するようなものであってもよい。
【0024】
受信器5は、レール7の別の一方の側面に加振器3と別の位置で接するように取り付けられ、レール7の振動状態を検出し振動データとして分析・算出装置6にケーブル8を介して出力する。なお、ケーブル8の代わりに無線による通信を行うことによって振動データを分析・算出装置6に出力させるようにしてもよい。また、レール7の加振器3を取り付けた側面と同じ側面に受信器5を取り付けるようにしてもよい。
【0025】
図2に示すように、受信器5は、加速度計31、アンプ33、A/D変換器35、通信インタフェース37等を有する。加速度計31はレール7の振動状態を加速度信号として検出する。アンプ33は加速度計31で検出した加速度信号を増幅する。A/D変換器35は増幅された加速度信号を量子化し、ディジタルデータに変換する。通信インタフェース37は、ディジタルデータに変換された加速度データをケーブル8を介して分析・算出装置6に出力する。
受信器5は、例えば加速度計31に変えて速度計や変位計を用いた、速度信号や変位信号によってレール7の振動状態を検出するものであってもよい。
【0026】
分析・算出装置6は、受信器5よりケーブル8を介して入力された振動データに基づき固有振動数を分析して求めたり、固有振動数に基づきレール軸力を算出したりする。
【0027】
図2に示すように、分析・算出装置6は、CPU17、メモリ19、表示部21、メディア入出力部22、記憶部23、通信部24、入力部25、出力部27等を備え、各装置はシステムバス29により接続される。
【0028】
CPU17は、メモリ19や記憶部23に記憶されたプログラムを実行し、後述する分析・算出装置6の各種の処理を実行する。メモリ19は、RAMやROMから成り、各種のデータやプログラムを記憶する。表示部21は、ディスプレイであり、後述する分析・算出装置6の処理に伴って各種情報の表示を行うことができる。メディア入出力部22は、CD−ROM、DVD−ROM等を用いた入出力を制御する。記憶部23は、ハードディスク等であり、後述する分析・算出装置6の各種の処理に必要なデータやプログラムを記憶する。通信部24は、RS−232C入出力や、無線通信、モデム等の通信インタフェースよりなり、外部との通信を制御する。入力部25は、キーボードやマウス等の入力装置からなり、出力部27は、プリンタ等を備える。
【0029】
本実施形態のレール軸力測定方法における、振動データ取得や固有振動数の分析、あるいはレール軸力の算出等に用いるプログラムは、予めCD−ROM等のメディアからメディア入出力部22より入力されて記憶部23に格納され、必要に応じてCPU17等により実行される。
【0030】
次に、図1から図7を参照しながら、本実施形態のレール軸力測定方法について説明する。本実施形態のレール軸力測定方法では、レール軸力測定装置1を用いて、図1に示すレール7のレール軸力の測定を行う。図3は、本実施形態のレール軸力測定方法の流れを示す流れ図、図4は、レールモデルを説明する図、図5は固有振動数、波数、レール軸力の関係を示す図、図6はレール軸力と固有振動数の関係を示す図、図7はレール軸力の測定を説明する図である。
【0031】
図3に示すように、本実施形態のレール軸力測定方法では、まず、分析・算出装置6のCPU17が、予め記憶部23に記憶されたモデル解析プログラムを実行し、図1に示す実軌道のレール7に基づいて設定されたレール等の各種条件に応じて、実軌道のレール7について断面構造やレール7とまくらぎ9等の接続状態等を模した解析モデルであるレールモデル10を有限要素法を用いて作成する(ステップ101)。
【0032】
レールモデルについて、図4を用いて説明する。図4(a)に示すように、本実施形態では、図1(a)に示すようなレール7の実軌道に基づいて、解析対象のレールモデルとして、レール7、軌道パッド11、まくらぎ9、防震パッド13、道床15を含み、レール7の軸方向に沿ってまくらぎ9等が周期長Lで配置される無限周期構造のモデル化を行う。後述するFloquet変換により、図4(a)に示すレールモデルの振動モード解析は図4(b)に示す当該レールモデルの1ユニット(レールモデル10)における振動モード解析に帰着されるので、ステップ101では、この1ユニットのみのレールモデル10を解析モデルとして有限要素法を用いて作成することができる。
【0033】
有限要素法により、レール7はその断面や軸方向を、節点において互いに結合する複数の有限要素に離散化される。この際の有限要素の数、形状等の離散化方法は、ステップ101で設定することができる。レール7を離散化した有限要素で表すことにより微小な変形を考慮できるので、より正確な解析結果が得られる。また、ステップ101では、レールモデル10の作成に際し、レール7について、質量密度ρ(kg/m)やヤング率E(Pa)、ポアソン比σやせん断弾性係数G、断面積A(m)や断面2次モーメントI(m)などの値も設定される。なお、レール7については、レール7を振動に伴う曲げ変形を考慮するEuler梁としてモデル化が行われるが、この他せん断変形や回転慣性の影響を考慮したTimoshenko梁としてモデル化を行ってもよい。
まくらぎ9は、質量m(kg)の質点としてモデル化される。軌道パッド11は、レール7とまくらぎ9を接続するバネ定数k(N/m)のバネとしてモデル化される。防振パッド13は、まくらぎ9と道床15を接続するバネ定数k(N/m)のバネとしてモデル化される。道床15は、レール7の軸方向に一様な剛体としてモデル化される。レールモデル10において、軌道パッド11、まくらぎ9、防振パッド13は、長さLのレール7の軸方向の中央部に配置され、当該位置に対応するレール7の有限要素に作用する。これらm、k、kの値も、ステップ101でレールモデル10の作成に際し設定される。また、まくらぎ間隔L等もステップ101において設定される。以上のようにレールモデル10が作成される。
【0034】
続いてCPU17は、所定のレール軸力の設定に応じて、レールモデル10のレール7の軸方向に所定のレール軸力を作用させ、当該状態のレールモデル10に対してFloquet変換を用いた振動モード解析を行い、所定の振動モードに対する固有振動数を求める(ステップ102)。
【0035】
振動モード解析では、図4(b)に示す1ユニットのレールモデル10について、離散化および軸力の設定に伴い得られる有限要素方程式にFloquet変換を適用することにより、振動数、波数、軸力をパラメータとする固有値問題を導出する。これを解くことで振動モードの解析を行う。これについて以下説明する。
【0036】
線状の構造物において軸力と固有振動数は関係し、両端に引張力を与えると固有振動数は高くなり、逆に圧縮力を与えれば固有振動数は低下する。従って、レールについて、(所定の振動モードでの)固有振動数により、レールの軸力を求めることができる。例えば無支持で自由空間中におかれた状態のレールもしくは一様弾性支持状態の無限長のレールを想定した場合、Fourier変換を用いて振動モードの解析を行い、固有振動数を得ることができる。
【0037】
しかしながら、実用化に関して、上記のように無支持状態のレールもしくは一様弾性支持状態の無限長のレールを対象として解析を行うことには欠点がある。実際のレールはその途中がまくらぎにより支持固定されているからである。Fourier解析ではこのように途中で支持固定された状態を定式化することが難しい。そこで、本実施形態ではFourier変換の代わりにFloquet変換を適用し、これに基づくFloquet波数表現によって振動モードの解析を行う。
【0038】
上述のFloquet変換については既知であるが、簡単に説明する。まず、周期長Lの図4(b)の1ユニットのレールモデル10における周期長Lのレール7について、定常問題を対象とし、円振動数ωの下で任意点の変位応答u(簡単のため1次元を考える)が次式で与えられているものとする。
u(x,t)=u(x)eiωt…(1)
ここで、xはレール7の軸方向に沿った位置を表し、図4(b)においてレール7の軸方向の中央部(まくらぎ9等の配置位置)を0とし、図4(b)において右方向を正とするものである。tは時間変数、iは虚数単位である。定常解uのFloquet変換uは次式で与えられる。
【数1】

ここで、xとκはそれぞれ(−L/2,L/2)及び(−π/L,π/L)の区間内の実数である。式(2)より、uはκとxについてそれぞれ次のような周期性を持つ。
(x,κ+2π/L)=u(x,κ)…(3)
(x+L,κ)=u(x,κ)e−iκL…(4)
式(3)は第1種周期性、式(4)は第2種周期性と呼ばれる。また、κは通常の波数に対応するもので、Floquet波数と呼ばれる。
【0039】
ところで、軸力を受ける梁であるレール7のたわみ振動からは、uに関して次の運動方程式が得られる。
EId/dx+Nd/dx−ωρAu=0…(5)
ここで、EIはレールの曲げ剛性、Nはレール軸力、ωは円振動数、ρはレールの質量密度、Aはレールの断面積である。式(5)に対し仮想仕事式を導きだすとともに、上記した離散化に対応して次の有限要素方程式が得られる。
[W†*[K−NC−ωM]{U}=0…(6)
【数2】

ここで、[W]は離散化された各有限要素の仮想節点変位ベクトル、[W†*]はその共役である。[K]は離散化された各有限要素の剛性を示すレールの剛性行列、[M]は離散化された各有限要素の質量を示す質量行列、{U}は離散化された各有限要素の節点における変位を示す変位ベクトルである。N、Nはたわみuの補間関数であり、3次元Hermite多項式により与えられる。なお、[K]、[M]はステップ101で設定された各値に基づいて求められる。
【0040】
図4(b)に示すような周期構造物の1ユニットに関するFloquet原理により、定常解u、w†*は次の第2種周期性を有する。これは、式(2)により、uも式(4)のような周期性を有することによる。
L/2=u-L/2−iκL,wL/2†*=w-L/2†*iκL…(8)
ここで、u-L/2、uL/2は1ユニットの左右レール端部の節点変位ベクトル、w-L/2†*、wL/2†*は1ユニットの左右レール端部の仮想節点変位ベクトルの共役である。式(8)を式(6)に適用し、uL/2、wL/2を消去して次式を得る。
[K’−NC’−ωM’]{U’}=0…(9)
ここで、’は式(8)の条件を課して行列式を整理したために元の行列とは一致しないことを表している。式(6)における[K]、[C]、[M]は実対称行列であるので、式(9)の係数行列はHermite行列となる。さらに、各行列の正定値性より、固有振動数ω及び軸力Nの値は実数値をとる。ステップ102では、式(9)の固有値問題を解くことで、Floquet波数κ、所定の軸力Nに対する固有振動数ωが求められる。
【0041】
結果の例を図5に示す。図5は縦軸に周波(振動)数f、横軸にFloquet波数κを取り、ある軸力Nと、これより大きな軸力Nの場合について、κ−fの関係を示した模式図である。なお、軸力Nはレール圧縮方向を正とし、fとωとの間にはf=ω/2πの関係がある。
【0042】
軸力Nの場合、f(Hz)からf(Hz)、f(Hz)からf(Hz)の間では、これらの周波数を固有振動数として振動がレール上を減衰せずに伝播するモードが存在する。これらはパスバンド周波数と呼ばれる。一方、f(Hz)からf(Hz)の間は振動がレールを減衰せずに伝播するモードが存在しない。これらはストップバンド周波数と呼ばれる。また、軸力Nの場合では、f’〜f’に示すように、各周波数(帯)は低下する。
【0043】
ここで、f(f’)(Hz)を固有振動数として振動する振動モードは、ばね位置を節とし、波長2Lで振動する振動モードである。これは、pinned−pinned resonanceと呼ばれる振動モードであり、図6(a)で表わされる。当該モードでは、感度即ち軸力Nの変化に対する固有振動数の変化量が大きく、加えてまくらぎ9の位置を節として振動するので、理論上、固有振動数がまくらぎ9や軌道パッド11、防振パッド13等の物性値に依存しないという利点がある。従って、このpinned−pinned resonanceの振動モードについて、その固有振動数を調べることによって軸力Nを推定すると好適である。即ち、ステップ102では、所定の軸力Nの作用時の、pinned−pinned resonanceの振動モードにおける固有振動数を求める。ただし、別の振動モードにおける固有振動数について求め、以降の軸力推定に用いてもよい。また、ストップバンドもしくはパスバンドの範囲も軸力Nの変化に応じて変わるので、これらの範囲やその上限値や下限値などを求め、以降の軸力推定に用いるようにしてもよい。
【0044】
Floquet変換を用いることにより、自然状態にある実軌道のレール7により即した解析を行うことができるので、後述する、現場における自然状態の実軌道のレール7で固有振動数を求めた結果との対応をとることが可能になる。なお、Floquet変換の詳細は、阿部和久、古屋卓稔、紅露一寛「まくらぎ支持された無限長レールの波動伝播解析」、応用力学論文集、Vol.10、p.1029−1036、2007.8を参照されたい。
【0045】
分析・算出装置6のCPU17は、ステップ102の振動モード解析を、予め設定された複数のレール軸力に対して行い、レールモデル10における所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードに対する固有振動数と、レール軸力との対応関係を求める(ステップ103)。なお、ステップ103においてレールモデル10に作用させるレール軸力をどの値に設定するかは、目的とするレール軸力の測定精度を考慮して設定される。レール軸力の測定は、実用上5〜10MPaの単位で測定できれば十分であり、例えばこれを考慮して設定するレール軸力の間隔を定めることができる。
【0046】
様々な軸力Nについて上記のようにpinned−pinnedモードの振動モードに対する固有振動数を求め、軸力Nとの関係を示した例が図6(b)の模式図である。図6(b)の縦軸はレール軸力Nで、レール圧縮方向を正とする。横軸は固有振動数である。図6(b)からは、レール軸力Nと固有振動数は1対1の関係にあり、圧縮方向のレール軸力が大きくなるほど、固有振動数は小さくなることが読み取れる。
【0047】
分析・算出装置6のCPU17は、以上求めた所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードに対する固有振動数の値とレール軸力の値との対応関係のデータを記憶部23に記憶させる(ステップ104)。
【0048】
以上の解析が現場でのレール軸力測定の前に行われる。なお、本実施形態では分析・算出装置6のCPU17が記憶部23に記憶されたモデル解析プログラムを実行し以上の解析を行ったが、これに限らず、コンピュータ等の別の解析装置を用いて以上の解析を行ってもよい。この場合、解析結果であるpinned−pinned resonanceの振動モードに対する固有振動数とレール軸力との対応関係のデータは例えばCD−ROM等の記憶媒体に記憶させておき、現場でのレール軸力測定に先立って、当該記憶媒体を用いてメディア入出力部22より分析・算出装置6に入力し記憶部23に記憶させるようにしておく。
【0049】
一方、現場において、図1や図7(a)に示すように、下部にまくらぎ9が設けられた自然状態にある実軌道のレール7の一方の側面に加振器3を取り付ける。また、加振器3の取り付け位置と異なる位置で、レール7の別の一方の側面に受信器5を取り付ける(ステップ201)。
【0050】
続いて、加振器3を用いて、振動データを取得予定した所定の周波(振動)数で、レール7の一方の側面においてレール7に鉛直方向の振動を加える(ステップ202)。
【0051】
受信器5は取付位置でのレール7の鉛直方向の振動を、加速度の時間変化として検出する(ステップ203、検出工程)。検出した振動は、振動データとして分析・算出装置6に出力される。分析・算出装置6のCPU17は、振動データを取得し振動データ検出位置(受信器5の取付位置)の位置情報に紐付けて記憶部23に記憶する(ステップ204)。振動データ取得の際には、分析・算出装置6のCPU17により記憶部23に記憶された振動データ取得プログラムが実行され、上記の処理が行われている。ここで、振動データ検出位置は振動データ取得プログラムを実行するに伴って例えば加振器3による加振位置との間の水平距離として予め入力され、メモリ19もしくは記憶部23に記憶されている。
【0052】
振動データの取得を予定した周波数全てでデータ取得しておらず、振動データ未取得の周波数があれば(ステップ205のNo)、レール7を加振する周波数を変えて(ステップ206)、ステップ202〜ステップ204の処理を繰り返す。振動データの取得を予定した周波数全てでデータ取得したら(ステップ205のYes)、ステップ207に移る。なお、振動データを取得する周波数は、目標とするレール軸力の測定精度等考慮して適宜定めることができる。
【0053】
振動データの取得を予定した位置全てでデータ取得しておらず、振動データ未取得の位置があれば(ステップ207のNo)、受信器5を所定間隔移動させてレール7の別の一方の側面に取り付け(ステップ208)、以下ステップ202〜ステップ206の処理を繰り返して各周波数でのレール加振時における受信器5の取付位置での振動データを取得する。なお、加振器3でレール7を横方向に加振して振動データを得るようにすることもできる。
【0054】
以上のステップを繰り返し、振動データの取得を予定した位置全てで各周波数でのレール加振時の振動データを取得すると(ステップ207のYes)、ステップ209に移る。振動データ検出位置は分析したい振動モードや測定状況に応じて様々に定められる。
【0055】
ステップ209では、分析・算出装置6のCPU17が、記憶部23に記憶された振動モード分析プログラムを実行し、記憶部23に記憶された振動データから所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードに対する固有振動数を分析して求め、記憶部23に記憶する。(ステップ209、分析工程)。
【0056】
例えば図1(a)や図7(a)に示した位置A、B、C、Dをレール軸方向に沿って振動データを取得する位置とする。ここで、各位置間隔はL/3で等しく、B、Cの中間位置にまくらぎ9が配置されているものとする。例えばある低い周波数でレール7を振動させたとき、図7(a)に示すレール7の軸方向の位置A、B、C、Dの振動データ(加速度u”(t))が概略図7(b)のように得られているとする。このときの振動モードは前述の図6(a)に示すpinned−pinned resonanceの振動モードであると考えられ、そのときの周波数をpinned−pinned resonanceの振動モードに対する固有振動数として記憶する。
【0057】
実際の振動モード分析プログラムは、例えば記憶部23に記憶された振動データを読み出して高速FFT等を実行してフーリエ振幅スペクトルを求めたり、異なる位置で取得した振動データ間のクロススペクトルや伝達関数を求めたりするとともに振動データ検出位置情報と合わせて分析を行い、所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードに対する固有振動数を求めるものであり、既知のものを使用可能である。
【0058】
続いて、分析・算出装置6のCPU17が、記憶部23に記憶されたレール軸力算出プログラムを実行し、ステップ209で求められ記憶部23に記憶された所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードの固有振動数より、ステップ101〜ステップ103でモデル解析により得られステップ104で記憶部23に記憶された所定の(pinned−pinned resonanceの)振動モードに対する固有振動数とレール軸力の対応関係のデータを用いて、現場の自然状態にある実軌道のレール7のレール軸力を算出する(ステップ210、算出工程)。以上のようにして、現場の自然状態にある実軌道のレール7のレール軸力の測定がなされる。
【0059】
例えばステップ209で求められた固有振動数が630(Hz)にあたるとする。CPU17は、レール軸力算出プログラムを実行し、例えば図6(b)に示す、モデル解析により得られたpinned−pinned resonanceの振動モードに対する固有振動数とレール軸力との対応関係のデータより、ステップ209で求められた固有振動数(630(Hz))に対応するレール軸力を求め、このときのレール軸力を約40(N/mm)と算出する。
【0060】
なお、ステップ210では、モデル解析により得られる対応関係のデータを図6(b)に示すようなグラフの形で予め出力しておき、測定者がステップ209で求められた固有振動数よりグラフを読み取ることによってレール軸力を算出することも可能である。
【0061】
以上説明したように、本実施形態のレール軸力測定装置等によれば、現場において自然状態にある実軌道のレールを振動させて得られた振動データより所定の振動モードに対する固有振動数を分析して求め、事前の解析によって得られた固有振動数とレール軸力との関係に基づいてレール軸力を算出することにより、自然状態にある実軌道のレールのレール軸力の測定を現場で行うことができる。レール軸力の測定時には、レールを振動させるだけでよいので、自然状態にある実軌道のレールの締結を外したりレールを切断したりすることが必要ない。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係るレール軸力測定装置等の好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
例えば、本実施形態では受信器5の取付位置を順次変えて複数の位置で振動を検出しているが、複数の受信器5を用いて、複数の位置で一度に振動を検出することもできる。
【符号の説明】
【0063】
1………レール軸力測定装置
3………加振器
5………受信器
6………分析・算出装置
7………レール
8………ケーブル
9………まくらぎ
11………軌道パッド
13………防振パッド
15………道床

【特許請求の範囲】
【請求項1】
レールを所定の周波数で振動させる加振器と、
前記レールの振動状態を検出する受信器と、
前記受信器から出力された振動状態のデータに基づいて前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数を求める分析装置と、
事前に求めた前記レールの軸力と前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数との対応関係に基づいて、前記分析装置で求めた固有振動数より前記レールの軸力を算出する算出装置と、
を具備することを特徴とするレール軸力測定装置。
【請求項2】
前記対応関係は、前記レールを模した解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対し解析を行うことにより求められることを特徴とする請求項1記載のレール軸力測定装置。
【請求項3】
前記解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対する解析は、Floquet変換を用いて行われることを特徴とする請求項2記載のレール軸力測定装置。
【請求項4】
途中をまくらぎに固定された状態のレールの軸力を測定するレール軸力測定方法であって、
周波数を変えながら前記レールの所定の位置を振動させ、前記レールの別の複数の位置で、前記レールの各周波数での振動時の振動状態を検出する検出工程と、
前記検出工程で検出した振動状態に基づいて前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数を求める分析工程と、
事前に求めた前記レールの軸力と前記レールの所定の振動モードに対する固有振動数との対応関係に基づいて、前記分析工程で求めた固有振動数より前記レールの軸力を算出する算出工程と、
を具備することを特徴とするレール軸力測定方法。
【請求項5】
前記対応関係は、前記レールを模した解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対する解析を行うことにより求められることを特徴とする請求項4記載のレール軸力測定方法。
【請求項6】
前記解析モデルにレール軸力を作用させた状態に対する解析は、Floquet変換を用いて行われることを特徴とする請求項5記載のレール軸力測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−33348(P2011−33348A)
【公開日】平成23年2月17日(2011.2.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176746(P2009−176746)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【出願人】(000173784)財団法人鉄道総合技術研究所 (1,666)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】