説明

ロボットアーム

【課題】均一で安定した予圧を付与することが可能で、軸受の長寿命化が可能なロボットアームを提供する。
【解決手段】リンク機構を用いたロボットアーム10であって、スリーブ41とハウジング42との間に転がり軸受43が設けられた転がり軸受ユニット40が関節部15に使用される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットアーム、特にリンク機構を用いたロボットアームに関する。
【背景技術】
【0002】
従来からリンク機構を用いたロボットアームを備えたロボットが知られている(例えば、特許文献1など)。
【0003】
特許文献1には、図3に示すように、3つの位置制御用アクチュエータ101と1つのエンドエフェクタ用の回転型アクチュエータ102の、合計4つのアクチュエータを備えたパラレルリンクロボット100が開示されている。このパラレルリンクロボット100では、可動部103が各位置制御用アクチュエータ101とそれぞれの平行リンク機構107を介して連結されている。各平行リンク機構107は、位置制御用アクチュエータ101の出力シャフト108に固定され該出力シャフト108と共に回転する第1リンク部材109と、該第1リンク部材109に関節部110を介して一端が連結された2本の第2リンク部材111と、さらに、該2本の第2リンク部材111の他端は関節部112に連結された可動部103で構成され、2本の第2リンク部材111は平行に配置されている。そして、3つの位置制御用アクチュエータ101の回転位置を制御することによって、各位置制御用アクチュエータ101の出力シャフト108に結合された各平行リンク機構107により、可動部103は常にベース113に対して水平を保って、その位置が制御されることになる。
【0004】
このようなパラレルリンク機構を用いたパラレルリンクロボットの関節部には、転がり軸受等の軸受が使用されているが(例えば特許文献2)、これらの用途、動きは多様であり、使用条件によっては大きな剛性が必要とされる場合がある。軸受は大きさが一定ならば、予め設定された予圧によって剛性が左右される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−264881号公報
【特許文献2】特開平5−69379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2のように、軸部材に対しリンク部材を軸受で直接回動自在に支持した場合、予圧の設定が難しく、予圧の付与が均一でないとトルクにうねりが生じてしまい、関節部の動きに支障がでたり、耐久性が著しく劣化してしまうことが予測される。また、軸受を交換する際も予圧をかけ直す必要があるため、交換前と比べて剛性が大きく変化してしまう可能性も高い。
【0007】
さらに、ロボットアームを構成するリンク部材の自重によりモーメント荷重が軸受に作用し、軸受の軌道面が損傷し軸受寿命が低下するという問題があった。
【0008】
そこで、本発明は、均一で安定した予圧を付与することが可能で、軸受の長寿命化が可能なロボットアームを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的は、以下の構成により達成される。
(1)リンク機構を用いたロボットアームであって、スリーブとハウジングとの間に転がり軸受が設けられた転がり軸受ユニットを関節部に使用したことを特徴とするロボットアーム。
(2)前記転がり軸受ユニットには、2つの玉軸受が前記スリーブと前記ハウジングとの間に設けられたことを特徴とする(1)に記載のロボットアーム。
(3)前記リンク機構はパラレルリンク機構であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のロボットアーム。
【発明の効果】
【0010】
本発明のロボットアームによれば、関節部に軸受ユニットを使用するので、関節部に軸受ユニットを取り付ける前に軸受に均一で安定した予圧を付与することが可能であり、安定した剛性を持たせることができる。また、軸受ユニットそのものを容易に交換することができるため、メンテナンスが容易で、軸受ユニット交換後も交換前と同等の剛性を持たせることができる。
さらに、軸受ユニットにはスリーブとハウジングとの間に転がり軸受が設けられるので、ロボットアームを構成するリンク部材の自重によるモーメント荷重がスリーブとハウジングにより吸収されるため、軸受軌道面に作用する力が低減され、軸受寿命が長くなる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】第1実施形態のロボットアームの関節部の断面図である。
【図2】第2実施形態のロボットアームの関節部の断面図である。
【図3】特許文献1に記載のパラレルリンクロボットである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係るロボットアームの各実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明のロボットアームは、例えば図3に記載のパラレルリンクロボット100のようなリンク機構を有するロボットアームに適用可能であるが、特にこれに限定されず、リンク機構を備えた種々のロボットアームに適用することができる。
【0013】
<第1実施形態>
図1は第1実施形態のロボットアームの関節部の断面図である。
ロボットアーム10は、主として、第1リンク部材20と、平行に配置された一対の第2リンク部材30とを備えて構成され、関節部15で第1リンク部材20と一対の第2リンク部材30の端部同士が軸受ユニット40を介して回動自在に連結される。
【0014】
第1リンク部材20には、ロッド部21の一端にロッド部21の長手方向と直交する方向(以下、軸方向と呼ぶ。)にロッド部21を中心に延設された円筒状の連結部22が設けられ、該連結部22にはユニット装着孔23が形成される。ユニット装着孔23は、軸方向に円形に貫通して形成され、軸受ユニット40が取り付けられる。
【0015】
軸受ユニット40は、スリーブ41と、該スリーブ41と略等しい軸方向長さを有し該スリーブ41より大径のハウジング42と、スリーブ41とハウジング42との間に回動中心線Pに沿って並列に配設される2つの転がり軸受43(以下、軸受と呼ぶ。)と、を備えて構成される。
【0016】
スリーブ41は、その全延出方向に亘って一定の外径を成す円筒状、すなわち、回動中心線P上に貫通孔41aを有し、その外周面に、例えば、フランジ部や環状凸部などが設けられていない、いわゆるストレート軸として構成されている。
【0017】
ハウジング42は、その内部が延出方向に沿って中空を成す円筒状に構成されており、その内周面に周方向に沿って環状凸部42aが設けられているとともに、その外周面がストレート軸として構成されている。なお、この環状凸部42aは、周方向に沿って連続させて若しくは断続させて形成してもよい。
【0018】
このような構成を成すスリーブ41及びハウジング42において、その材料は、特に限定されず、任意の素材を適用することができるが、本実施形態においては、ロボットアーム10が熱に弱い電子部品の組立に使用されうることを考慮して運転中に軸受43で発生した熱が外部に伝達しないことが望ましい。そのため、スリーブ41とハウジング42の材料としては、軸受43の内外輪43b、43aの熱伝導率よりも小さく第1及び第2リンク部材20、30の熱伝導率よりも大きいことが望ましい。
【0019】
軸受43は、相対回転可能に対向して配置された外輪43aと内輪43bと、外輪43aと内輪43bとの間に転動自在に組み込まれた複数の玉43cと、複数の玉43cを周方向に所定の間隔で回転自在に保持する保持器43dと、を備える深溝玉軸受である。左右の軸受43は、同じPCD(ピッチ円直径)を有するものである。なお、深溝玉軸受に限らず、使用条件等を考慮してアンギュラ玉軸受、ころ軸受、針状ころ軸受等種々の転がり軸受を使用することができ、さらにPCDの異なる軸受を使用してもよい。
【0020】
外輪43aの軸方向両端部には取付溝43eが設けられており、該取付溝43eに、内輪43bとの間にラビリンスを形成する環状で絶縁性のシールド板43fが取り付けられている。これら2個の軸受43には所定量の潤滑剤が充填されている。潤滑剤は、鉱油系グリースや合成油系(例えば、リチウム系、ウレア系等)のグリースや油であり、高温環境用途などではフッ素系グリースまたはフッ素系の油、あるいはフッ素樹脂、MoSなどの固体潤滑剤である。但し、固体潤滑剤は玉43cや外輪43a、内輪43bの軌道溝に直接塗布される。この軸受43においては、シールド板43fとラビリンスにより、例えば、軸受43の外部からの異物(例えば、塵埃)の侵入や、軸受43の内部からの潤滑剤(例えば、グリース、潤滑油)の漏洩などを防止している。
【0021】
また、外輪43aの外周面と内輪43bの内周面には絶縁被膜が設けられており、また、上述したようにシールド板43fを絶縁性とすることで玉43cと軸受軌道面とで発生する静電気が外部に伝達することを防止している。なお、外輪43aの外周面と内輪43bの内周面に絶縁被膜を設ける代わりに、スリーブ41とハウジング42の軸受43と接触する部分に絶縁被膜を設けてもよい。
【0022】
保持器43dには、一例として、冠型の保持器が適用されており、2つの保持器43dは、その開口を互いに向かい合わせて各軸受43に組み込まれ、外輪43aと内輪43bとの間を回転している。なお、2つの保持器43dは、その開口を互いに同一方向へ向けて軸受43に組み込んでもよいし、他方側(開口とは反対側の閉塞側)を互いに向かい合わせて軸受43に組み込んでもよい。また、保持器43dとして冠型のタイプを適用しているが、この他、例えば、波型保持器、かご形保持器及び合せ保持器など、各種のタイプを適用することができる。
【0023】
このような構成をなす軸受43において、その材料は、特に限定されず、任意の素材を適用することができるが、本実施形態においては、運転中の軸受43から発生する熱により軸受43の内外輪43b、43aが膨張しても軸受軌道面に影響を受けないように、内輪43b及び外輪43aの線膨張係数がスリーブ41及びハウジング42の線膨張係数より小さいことが望ましい。
【0024】
各軸受43には、所定の予圧がそれぞれ付与されており、かかる予圧は、以下のような方法により付与することができる。例えば、2つの軸受43の外輪43a間に環状凸部42aを介在させて、ハウジング42の内周面に各外輪43aを圧入固定する。そして、一方側の軸受43(図1の左側の軸受)の内輪43bに軸方向(同図の左右方向)に対して一方向き(同図の右向き)の予圧を付与し、その状態で当該軸受43の内輪43bをスリーブ41に圧入固定する。同様に、他方側の軸受43(図1の右側の軸受)の内輪43bに軸方向(同図の左右方向)に対して他方向き(同図の左向き)の予圧を付与し、その状態で当該軸受43の内輪43bをスリーブ41に圧入固定する。これにより、2つの軸受43に所定の予圧を付与することができる。そして、このように予圧された軸受43を備えた軸受ユニット40が第1リンク部材20のユニット装着孔23に圧入される。圧入は、2つの要素間、例えば、第1リンク部材20のユニット装着孔23とハウジング42との間、スリーブ41及びハウジング42と軸受43との間のはめあいが中間ばめ又はしまりばめのときに選択される。なお、圧入に限らず、接着剤などにより接着してもよい。接着は、2つの要素間のはめあいがすきまばめのときに選択される。
【0025】
各第2リンク部材30には、一端の連結部31に貫通孔31aが形成される。そして、軸受ユニット40をユニット装着孔23に装着した第1リンク部材20Aの連結部22の軸方向両側に各第2リンク部材30を配置し、軸受ユニット40の貫通孔41aと第2リンク部材30Aの連結部31に形成された貫通孔31aの位置を合わせて、第2リンク部材30Aの外側から回動中心線Pに沿ってピン50を貫通孔41aと貫通孔31aに取り付ける。なお、ピン50は、軸受ユニット40の貫通孔41aに嵌合して第1リンク部材20と一体に回転し、第2リンク部材30と摺接して第1リンク部材20に対する第2リンク部材30の相対回転を許容する。
【0026】
上記構成のロボットアーム10は、関節部15で第1リンク部材20と一対の第2リンク部材30の端部同士が軸受ユニット40を介して連結され、不図示のアクチュエータにより第1リンク部材20と一対の第2リンク部材30がピン50を回動軸として回動する。
【0027】
以上説明したように、本実施形態のロボットアーム10によれば、関節部15に軸受ユニット40を使用するので、関節部15に軸受ユニット40を取り付ける前に軸受43に均一で安定した予圧を付与することが可能であり、安定した剛性を持たせることができる。また、軸受ユニット40そのものを容易に交換することができるため、メンテナンスが容易で、軸受ユニット交換後も交換前と同等の剛性を持たせることができる。
さらに、軸受ユニット40にはスリーブ41とハウジング42との間に転がり軸受43が設けられるので、第2リンク部材30の先端に荷重が作用してもモーメント荷重がスリーブ41とハウジング42により吸収されるため、軸受軌道面に作用する力が低減され、軸受寿命が長くなる。
【0028】
また、スリーブ41とハウジング42の材料としては、軸受43の内外輪43b、43aの熱伝導率よりも小さく第1及び第2リンク部材20、30の熱伝導率よりも大きい材料を用いることで、運転中に軸受43で発生した熱が外部に伝達せず、ロボットアーム10を熱に弱い電子部品の組立に適用することができる。
【0029】
また、内外輪43b、43aの材料の線膨張係数がスリーブ41及びハウジング42の線膨張係数より小さいので、運転中の軸受43から発生する熱により軸受43の内外輪43b、43aが膨張しても軸受軌道面に影響を与えることなく軸受寿命が長くなる。
【0030】
また、絶縁性のシールド板43fを用いるとともに、外輪43aの外周面と内輪43bの内周面には絶縁被膜を設けることで、玉43cと軸受軌道面とで発生する静電気が外部に伝達することを防止することができる。
【0031】
<第2実施形態>
次に本発明の第2実施形態のロボットアームについて説明する。図2は第2実施形態のロボットアームの関節部の断面図である。なお、第1実施形態と同一又は同等部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0032】
第1リンク部材20Aは、ユニット装着孔23が形成された連結部22の軸方向両端部から平行にロッド部21が一体形成され、第2リンク部材30Aは、一本のロッド部32が断面略U字形状の連結部31と一体形成され、第1リンク部材20Aの連結部22と第2リンク部材30Aの連結部31同士が軸受ユニット40を介して回動自在に連結されて、本実施形態のロボットアーム10Aの関節部15を構成している。
【0033】
この軸受ユニット40においては、スリーブ41の貫通孔41aに雌ねじが形成される。そして、軸受ユニット40をユニット装着孔23に装着した第1リンク部材20Aの連結部22を収容するように第2リンク部材30Aの連結部31を配置し、軸受ユニット40の貫通孔41aと第2リンク部材30Aの連結部31に形成された貫通孔31aの位置を合わせて第2リンク部材30Aの外側から回動中心線Pに沿ってボルト51で貫通孔41aに螺合させる。このとき第2リンク部材30Aの貫通孔31aはボルト51の外径より僅かに大きく形成されており、回動軸であるボルト51に対し第2リンク部材30Aが回動する。
【0034】
以上説明したように、本実施形態のロボットアーム10Aにおいても、第1実施形態のロボットアーム10と同様に、関節部15に軸受ユニット40を取り付ける前に軸受43に均一で安定した予圧を付与することが可能であり、安定した剛性を持たせることができる。また、軸受ユニット40そのものを容易に交換することができるため、メンテナンスが容易で、軸受ユニット交換後も交換前と同等の剛性を持たせることができる。さらに、第2リンク部材30Aの先端に荷重が作用してもモーメント荷重がスリーブ41とハウジング42により吸収されるため、軸受軌道面に作用する力が低減され、軸受寿命が長くなる。
【0035】
なお、上記各実施形態のロボットアームは、上記実施形態に例示したものに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0036】
10、10A ロボットアーム
15 関節部
20、20A 第1リンク部材
30、30A 第2リンク部材
40 軸受ユニット(転がり軸受ユニット)
41 スリーブ
42 ハウジング
43 転がり軸受

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リンク機構を用いたロボットアームであって、スリーブとハウジングとの間に転がり軸受が設けられた転がり軸受ユニットを関節部に使用したことを特徴とするロボットアーム。
【請求項2】
前記転がり軸受ユニットには、2つの玉軸受が前記スリーブと前記ハウジングとの間に設けられたことを特徴とする請求項1に記載のロボットアーム。
【請求項3】
前記リンク機構はパラレルリンク機構であることを特徴とする請求項1又は2に記載のロボットアーム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−93075(P2011−93075A)
【公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−251963(P2009−251963)
【出願日】平成21年11月2日(2009.11.2)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】