説明

ロボットハンドの指ユニット

【課題】
従来のロボット用多指ハンドは、金属やプラスチック等のリジッドな機構をモータおよびベルトなどで駆動する方式である。柔軟物や壊れやすい物を把持する場合、把持する物を壊したり潰さないようにするためには、トルクセンサや触覚センサ等を用いた柔軟制御を行う必要がある。
【解決手段】
伸縮性を有する外皮11と、外皮11内に設置され、1つ以上の可動ジョイント部13を有する骨格12と、外皮11と骨格12の間に配置され、伸縮により骨格12を可動方向に動かすことができるように配置された2つ以上のエレクトロアクティブポリマー14と、エレクトロアクティブポリマー14の両端部に接続されたリード線15とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、壊れやすい物体を掴むことができるロボットハンドに用いるのに適した指ユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来のロボットハンドとして、物体を把持するためにベルトで各関節を連結する機構が開示されている(例えば、特許文献1参照)。図4に指ユニットの構成を示す。以下、簡単に図面を用いて説明する。
図4において、基台1に対し、複数の指杆71、72、73、74、75が互いに関節21、22、23、24、25を介して直列に連結され、各関節21、22、23、24、25には、各指杆71、72、73、74、75の基端部に固定したシャフト6に対し、プーリ61が回転自由に嵌まっている。又、各シャフト6とプーリ61の間には、シャフト6の回転駆動負荷が所定トルク以下のときは係合し、所定トルクを上回るときは離脱するクラッチ機構5を介在せしめる。各関節21、22、23、24、25のプーリ61は互いにベルト64によって連結されると共に、基台1に最も近い第1関節21のプーリ61に駆動モータ4が連繋している。回転駆動源の回転トルクは、基台1に最も近い関節21の回転体からハンド最先端の関節25の回転体へ順次伝達される。ロボットハンドが物体に接触するまでの無負荷状態では、各関節21、22、23、24、25のクラッチ機構5は係合状態にあって、基台1に最も近い関節21(第1関節)の回転体が回転駆動されることによって、該関節21より先端側の各指杆75は一体となって回転する。
また、ロボットハンドは、種々の物体を把持して所定の作業を自動的に行うロボットとして用いられる(例えば、非特許文献1参照)。把持する物体が卵のような壊れやすい物体である場合には、その物体を把持した時にそれを壊さないようにする必要があり、そのため、従来は、指先に力覚センサを装着したり、指腹部や掌に触覚センサを装着して、センサ情報をフィードバックしながら柔軟把持をするための制御を行っていた。
【特許文献1】特開平5−301191号公報(第2−3頁 図1)
【非特許文献1】川崎他「人間型ロボットハンドGifu Hand III」日本ロボット学会誌、2004年(第22巻)1月号、p.55−56
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、従来のロボットハンドは、各指および掌にセンサを装着する必要があるのでロボットハンドの構成が複雑で高価になり、また、ノイズなどによりセンサが誤動作すると物体を潰したり、落下させて破損する場合があった。
本発明は、このような従来技術の問題点に鑑みてなされたものであり、壊れやすい物体であっても破損することなく確実に把持することができる簡素な構造のロボットハンドの指ユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
上記問題を解決するため、本発明は、次のように構成したのである。
請求項1に記載の発明は、伸縮性を有する外皮と、前記外皮内に設置された骨格と、前記外皮と前記骨格の間に少なくとも1つ配置されたエレクトロアクティブポリマーと、前記エレクトロアクティブポリマーの両端部に接続されたリード線とからなるものである。
また、請求項2に記載の発明は、前記骨格が少なくとも1つの可動ジョイント部を具備するものである。
また、請求項3に記載の発明は、前記骨格が可撓性のある弾性体からなるものである。
また、請求項4に記載の発明は、前記可動ジョイント部は、前記骨格の一端が円柱状と中空円柱状の構造が嵌め合うことにより回動自在に支持されているものである。
また、請求項5に記載の発明は、前記エレクトロアクティブポリマーがフッ化ビニリデンなどの電歪ポリマーからなるものである。
また、請求項6に記載の発明は、前記エレクトロアクティブポリマーがアクリルやシリコーンなどの誘電型ポリマーからなるものである。
また、請求項7に記載の発明は、伸縮性を有する外皮と、前記外皮内に設置された骨格と、前記外皮内に、伸縮により前記骨格を可動方向に動かすことができるように配置されたエレクトロアクティブポリマーと、前記エレクトロアクティブポリマーの両端部に接続されたリード線とからなり、前記エレクトロアクティブポリマーは、前記外皮内の関節に複数個配置され、各々の前記エレクトロアクティブポリマーは独立して伸縮する構成としたものである。
また、請求項8に記載の発明は、前記関節に、屈曲または旋回運動するジョイント部を具備した支柱と、前記支柱の周囲に配置された前記エレクトロアクティブポリマーとからなるものである。
また、請求項9に記載の発明は、前記エレクトロアクティブポリマーが、前記支柱を支点として梃子の原理が働くように配置されるものである。
【発明の効果】
【0005】
請求項1から5に記載の発明によると、壊れやすい物体を柔軟に把持することができ、センサを必要としないため単純な構成で安価なロボットハンドを構成することができる。また、モータやギアを用いないので、動作音が静かで、対人用途にも適している。
請求項6から9に記載の発明によると、螺旋運動を行うことができるので、壊れやすい物体を柔軟に把持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【実施例1】
【0007】
図1は、本発明のロボットハンドの指ユニットの側断面図である。図において、11は指ユニット全体を覆うゴム製の外皮、42は指ユニットの芯となるステンレス製板バネの骨格、14はフッ化ビニリデンなどの電歪ポリマー製のエレクトロアクティブポリマーとなっている。また15は、エレクトロアクティブポリマーの両面に接続されたリード線となっている。リード線は図示しない制御部に接続されており、エレクトロアクティブポリマー14に通電できるようになっている。エレクトロアクティブポリマー14は外皮11内のA側およびB側に配置され、それぞれ単独に通電できるようになっている。
本発明が特許文献1および非特許文献1と異なる部分は、外皮と外皮の内側にあるエレクトロアクティブポリマーが柔軟性のある物体であることと、駆動のためのモータやベルトがないことと、力覚センサ、触覚センサなどのセンサを装着していない簡素な構造である点である。
【0008】
その動作を、図1および図2を用いて説明する。エレクトロアクティブポリマー14に通電しない状態では図1(a)に示すように、指ユニット31はまっすぐな状態である。次に、図1の(b)に示すように、A側にあるエレクトロアクティブポリマー14に通電すると、電歪効果によりエレクトロアクティブポリマー14が長さ方向に伸張する。一方、通電しないB側のエレクトロアクティブポリマー14は変化せずそのままである。外皮11は伸縮性があるので、A側にあるエレクトロアクティブポリマー14が伸張すると、長手方向に伸びるが、B側のエレクトロアクティブポリマー14は変化せずそのままであるため、指ユニット31全体としてはB側に屈曲する。図2は前記指ユニット31を組み合わせたロボットハンドの構成図である。図2において、31は指ユニット、32はゴム製の掌部、33は被把持物である。各指ユニット31はそれぞれ根本部分が掌部32に固定されており、図示しない制御部からエレクトロアクティブポリマーに通電できるようになっている。エレクトロアクティブポリマーに通電しない状態では、図2(a)のようにロボットハンドは開いた状態である。エレクトロアクティブポリマーに通電すると、図2(b)のように各指ユニット31が屈曲し、被把持物33を把持することができる。図2に示すようにこの指ユニット31を5本組み合わせることにより、物体を把持することができるロボットハンドを構成できる。各指ユニット31の表面は柔軟性のあるゴムで、内部のエレクトロアクティブポリマーも同様に柔軟性のある電歪ポリマーであるので、指ユニット31が物体の形状にならって接触するので、物体を傷つけたり損傷することなく、かつ確実に把持することができる。
本実施例では、A、B両側ともにエレクトロアクティブポリマーを用い、通電できるようにしているので、通電する側を変えることで、指ユニット31の関節はどちらの方向にも曲げることができるが、片側だけに通電するようにすれば、人間の指のように一方向だけの屈曲になる。この場合、通電しない側はエレクトロアクティブポリマーである必要がないことは明らかである。
本実施例では、骨格12を繋ぐ可動ジョイント13を各指ユニット31に2箇所配置しているが、用途によって1箇所あるいは3箇所以上にすることもできる。
本実施例では、指ユニット31を5本組み合わせてロボットハンドを構成しているが、指ユニット31を4本、あるいは3本で構成しても同様に物体を把持できることは明らかである。また、指ユニット31を6本以上で構成することも可能である。
本実施例では、掌部32をゴム製にしているが、被把持物33に損傷を与えない材料であればよいことは明らかである。
【実施例2】
【0009】
図3は、本発明のロボットハンドの指ユニットの側断面図である。図において、11は指ユニット全体を覆うゴム製の外皮、12は指ユニットの芯となるプラスティック製の骨格、13は指ユニットの関節として作用するプラスティック製の可動ジョイント、14はアクリルやシリコーンなどの誘電型ポリマーからなるエレクトロアクティブポリマーとなっている。また15は、エレクトロアクティブポリマーの両面に接続されたリード線となっている。リード線は図示しない制御部に接続されており、エレクトロアクティブポリマー14に通電できるようになっている。エレクトロアクティブポリマー14は外皮11内のA側およびB側に配置され、それぞれ単独に通電できるようになっている。
その動作は実施例1と同様で、エレクトロアクティブポリマー14に通電しない状態では図3(a)に示すように、指ユニット31はまっすぐな状態である。次に、図3の(b)に示すように、A側にあるエレクトロアクティブポリマー14に通電すると、電歪効果によりエレクトロアクティブポリマー14が長さ方向に伸張する。一方、通電しないB側のエレクトロアクティブポリマー14は変化せずそのままである。外皮11は伸縮性があるので、A側にあるエレクトロアクティブポリマー14が伸張すると、長手方向に伸びるが、B側のエレクトロアクティブポリマー14は変化せずそのままであるため、可撓性のある骨格42が撓み、指ユニット31全体としてはB側に屈曲する。この際、骨格12は可動ジョイント部13を中心に稼動するので、可動ジョイント部13は骨格の一端が円柱状と中空円柱状の構造が嵌め合うことにより回動自在に支持されている回動自在の構造をしており、関節の働きをする。
このように、ロボットハンドの指ユニット31が柔軟な構造をしているので、壊れやすい物体でも傷つけたり、損傷しないように把持することができる。
【実施例3】
【0010】
図4は、本発明のロボットハンドの指ユニットの側断面図である。図において、31は指ユニット、11は指ユニット全体を覆うゴム製の外皮、12は指ユニット31の芯となるプラスティック製の骨格、34は人工関節、15は人工関節に接続されたリード線となっている。リード線15は図示しない制御部に接続されている。また、図5は、本発明のロボットハンドの人工関節34の斜視図である。331はエレクトロアクティブポリマー、332は支持体、333は支柱である。さらに、図6は、図5に示す人工関節のA-A’ 断面図である。334は、支持体332のどちらか一方と、支柱333との結合部に構成されるジョイント部である。
本発明が実施例1および2と異なる部分は、エレクトロアクティブポリマーが人工関節に配置され、螺旋運動ができる部分である。
【0011】
その動作を、図4および図6から図8を用いて説明する。人工関節34を制御しない状態では図4(a)に示すように、外皮11に伸縮性があるので指ユニット31はまっすぐな状態である。次に、図4の(b)に示すように、人工関節34に制御することにより、指ユニット31を任意の方向に屈曲または旋回できる。このときの人工関節34の動作は図7に示すように、複数個あるエレクトロアクティブポリマー331のいずれかに通電することで伸長させ、残りのエレクトロアクティブポリマー331には通電せずにそのままの形状を保たせることで、図3に示してあるジョイント部334を中心にして、下部支持体332bに対し上部支持体332aを傾けることにより、指ユニット31を屈曲または旋回動作させる。図4はエレクトロアクティブポリマー331が3本ある場合を示している。図7の場合では、エレクトロアクティブポリマー331aは通電せず、エレクトロアクティブポリマー331bとエレクトロアクティブポリマー331cに通電し伸長させることで、屈曲させている。伸長させるエレクトロアクティブポリマー331の組み合わせをかえることで、指ユニット31を自由にどちらの方向にも屈曲させることができる。さらに、連続的に屈曲方向を変える動作により、指ユニット31の旋回運動が可能となる。また、人工関節34にある各エレクトロアクティブポリマー331には、電圧印加側リード線151とグランド側リード線142が接続されている。この接続は、図8に示すように、各エレクトロアクティブポリマー331a、331b、331cの片端には、各電圧印加側リード線351a、341b、341cが接続され、各エレクトロアクティブポリマー331a、331b、331cの他端にはグランド側リード線142が共通に接続されている。伸長させたいエレクトロアクティブポリマー331a、331b、331cにつながる各リード線341a、341b、341cに選択的に通電することで、各エレクトロアクティブポリマー331の伸長を制御することができる。
このとき、各エレクトロアクティブポリマー331が通電することにより収縮するタイプを用いても同様に、指ユニット31の屈曲および旋回動作が可能である。
【実施例4】
【0012】
図9は、第4実施例の上面図である。図において、支柱333が人工関節34の中央よりエレクトロアクティブポリマー331c側に片寄って配置されている。この状態で、エレクトロアクティブポリマー331a、331bに通電し伸長させることで、人工関節34はエレクトロアクティブポリマー331c側に屈曲する。このとき、支柱33がエレクトロアクティブポリマー331c側に片寄っているので、梃子の原理より指ユニット31の大きな屈曲する力を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0013】
ロボットハンドの指ユニットが柔軟な構造をしているので、壊れやすい物体でも傷つけたり、損傷しないように把持する人型ロボットなどにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施例を示すロボットハンドの指ユニットの側断面図
【図2】本発明のロボットハンドの指ユニットの動作を示す断面図
【図3】本発明の第2実施例を示すロボットハンドの指ユニットの側断面図
【図4】本発明の第3実施例を示すロボットハンドの指ユニットの側断面図
【図5】本発明の第3実施例を示す人工関節の斜視図
【図6】本発明の第3実施例を示す人工関節の側断面図
【図7】本発明の第3実施例を示す人工関節の動作を示す斜視図
【図8】本発明の第3実施例を示す人工関節の電気結線図
【図9】本発明の第4の人工関節を示す上面図
【図10】従来のロボットハンドの指ユニットの側断面図
【符号の説明】
【0015】
11 外皮
12 骨格
13 可動ジョイント
14 エレクトロアクティブポリマー
15 リード線
31 指ユニット
32 掌部
33 被把持物
34 人工関節
331 エレクトロアクティブポリマー
331a エレクトロアクティブポリマーa
331b エレクトロアクティブポリマーb
331c エレクトロアクティブポリマーc
332 支持体
332a 上部支持体
332b 下部支持体
333 支柱
334 ジョイント部
341 電圧印加側リード線
341a 電圧印加側リード線a
341b 電圧印加側リード線b
341c 電圧印加側リード線c
342 グランド側リード線

42 骨格
1 基台
4 駆動モータ
5 クラッチ機構
6 シャフト
21,22,23,24,25 関節
61 プーリ
64 ベルト
72,73,74,75 指杆

【特許請求の範囲】
【請求項1】
伸縮性を有する外皮と、前記外皮内に設置された骨格と、前記外皮と前記骨格の間に少なくとも1つ配置されたエレクトロアクティブポリマーと、前記エレクトロアクティブポリマーの両端部に接続されたリード線とからなることを特徴とするロボットハンドの指ユニット。
【請求項2】
前記骨格が少なくとも1つの可動ジョイント部を具備することを特徴とする請求項1記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項3】
前記骨格が可撓性のある弾性体からなることを特徴とする請求項1記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項4】
前記可動ジョイント部は、前記骨格の一端が円柱状と中空円柱状の構造が嵌め合うことにより回動自在に支持されていることを特徴とする請求項2記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項5】
前記エレクトロアクティブポリマーがフッ化ビニリデンの電歪ポリマーからなることを特徴とする請求項1記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項6】
前記エレクトロアクティブポリマーがアクリルやシリコーンの誘電型ポリマーからなることを特徴とする請求項1記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項7】
伸縮性を有する外皮と、前記外皮内に設置された骨格と、前記外皮内に、伸縮により前記骨格を可動方向に動かすことができるように配置されたエレクトロアクティブポリマーと、前記エレクトロアクティブポリマーの両端部に接続されたリード線とからなり、前記エレクトロアクティブポリマーは、前記外皮内の関節に複数個配置され、各々の前記エレクトロアクティブポリマーは独立して伸縮する構成としたことを特徴とするロボットハンドの指ユニット。
【請求項8】
前記関節に、屈曲または旋回運動するジョイント部を具備した支柱と、前記支柱の周囲に配置された前記エレクトロアクティブポリマーとからなることを特徴とする請求項7記載のロボットハンドの指ユニット。
【請求項9】
前記エレクトロアクティブポリマーが、前記支柱を支点として梃子の原理が働くように配置されることを特徴とする請求項7記載のロボットハンドの指ユニット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2006−255872(P2006−255872A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−84407(P2005−84407)
【出願日】平成17年3月23日(2005.3.23)
【出願人】(000006622)株式会社安川電機 (2,482)
【Fターム(参考)】