説明

ワムシ耐久卵の精製・回収方法

【課題】水産動物の餌料として有用なワムシの耐久卵は、ワムシを培養することによって生産されるが、耐久卵回収時に、ワムシ培養水槽に存在するワムシの死骸、糞、それらを栄養物として発生した微生物フロックなどの大量の汚泥の混入が避けられない。本発明は、耐久卵生産培養から回収した大量の汚泥中と共に存在する耐久卵から、耐久卵を分離精製・回収する方法に関する。
【解決手段】ワムシ耐久卵とワムシ培養水槽に存在する不純物の混合物を微生物処理して不純物を溶解させて除去する微生物は酵素のプロテアーゼ、セルラーゼ、ペウチナーゼであり、微生物による不純物処理は反応液中に酵素の濃度は、0.1〜5.0%(W/V)の範囲、処理温度は20〜50℃の範囲で行なってワムシ耐久卵のみの精製・回収方法

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水産動物の餌料として重要な動物プランクトンのワムシに関する。
【背景技術】
【0002】
動物プランクトンのシオミズツボワムシ(以下ワムシという)は、水産動物の餌料としてすぐれており、クロレラやナンノクロロプシスなどの微細藻類を使用して大量生産することができるため、栽培漁業における種苗生産、すなわち、有用魚介類を孵化させ種苗を育てる事業の中で、広く使用されている。
【0003】
ワムシは、一般に、それぞれの水産動物の飼育機関で培養されて餌料として使用されているが、ワムシを生産するための労力は多大である。
ワムシは、株を選び培養条件を整えることによって耐久卵を作ることが知られている。ワムシ耐久卵は長期保存が可能であり、孵化させた後は、水産動物の餌料として直ちに使用することができる。従って、ワムシ耐久卵を大量に生産して保存すれば、必要なときに必要な場所で、直ちにワムシを水産動物に与えることが可能であるため、ワムシ耐久卵を効率よく生産する技術開発が行われている(特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4参照)。
【0004】
ワムシ耐久卵を利用するためのもう一つの課題は、ワムシの培養物からの耐久卵の分離、精製である。すなわち、ワムシ耐久卵の生産培養では、生産された耐久卵と共に、ワムシの死骸、ワムシの糞、それらを栄養物として発生した微生物フロックなど大量の汚泥が存在する。耐久卵が大量の汚泥の中に存在する状態で保存するのは、汚泥中の微生物によって耐久卵が損傷を受ける、悪臭がひどい、大量に保存しなければならず効率 が悪い、海産動物に与えるときに汚泥が海産動物に悪影響を与えるなど多くの欠点があり、実質的に困難であった。
【0005】
上記のように耐久卵の分離・精製は必須であるが、その方法は実験室規模でデカンテーションが行われていたが汚泥の除去は不十分であり、実用規模での技術開発は見出すことができなかった。
【特許文献1】特開2002−306015号公報
【特許文献2】特開2005−87061号公報
【特許文献3】特開2004−275099号公報
【特許文献4】特開2005−8143329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ワムシ耐久卵と大量の汚泥の混合物から、耐久卵を効率よく分離・精製しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、大量の汚泥を溶解又は微細にすることによって、耐久卵を分離・精製することを目的として酵素処理を実施することによって本件発明を完成した。
ワムシ耐久卵と大量の汚泥の混合物を様々な酵素で処理し、溶解又は微細になった汚泥をプランクトンネットで除き、耐久卵の分離・精製の程度を調査した。
更に、分離・精製した耐久卵の孵化率を調査し、酵素処理のよって耐久卵が損傷を受けていないことを確認した。
【発明の効果】
【0008】
純度が高く、孵化率が高く、保存性がすぐれた耐久卵を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
ワムシを培養し耐久卵が生産された培養槽からの耐久卵の回収は、ろ過による方法、遠心分離による方法などいずれの方法でもよく、特に限定はない。例えば、耐久卵の多くは汚泥と共に培養槽底部に沈殿しているため、培養液の上部を廃棄し、沈殿部を汚泥と共に目開き60μmのプランクトンネットによって回収することができる。また、ワムシが耐久卵を保持して遊泳しているなど、浮遊している耐久卵が多い場合は、培養液の全量を回収する必要がある。ワムシの耐久卵の大きさは一般に100ミクロン程度であるので、分離には目開き100ミクロン程度程度またはそれ以下の篩を使用して分離することができる。通常には60ミクロン程度のプランクトンネットを使用することが好ましい。
【0010】
汚泥と共に回収した耐久卵はそのまま酵素処理を行うこともできるが、プランクトンネットによって大型の汚泥をあらかじめ除去し、水道水などで洗浄して可溶性の有機物と海水を除去した後に酵素処理することが好ましい。例えば、目開き200μmのプランクトンネットによって大型の汚泥を除去し、その後、水を加えて静置し沈殿部を再回収するなどの方法がある。
【0011】
酵素反応液に加える汚泥を含む耐久卵の量は、プランクトンネットに取り上げて脱水した状態で10〜90%(湿重量/反応液量)の範囲であり、反応時の攪拌のし易さ及び使用する酵素の経済性から、好ましくは30〜70%の範囲である。
微生物の酵素は、有機物を分解する性質があるいずれの種類でも用いることができるが、望ましいのはタンパク質を分解するプロテアーゼ、繊維を分解するセルラーゼ、ペクチナーゼである。反応液中に加える酵素の濃度は、0.1〜5.0%(W/V)の範囲が適当であり、更に好ましくは、0.5〜2.0%(W/V)の範囲である。
【0012】
反応液の温度は20〜50℃の範囲で可能であるが、耐久卵の高温安定性の観点からより好ましくは25〜35℃の範囲である。
反応液のpHはpH5〜pH9の範囲が好ましく、酵素の反応速度および耐久卵の安定性の観点から更に好ましくはpH7〜9の範囲である。
反応時間は、特に制限はないが、工程上および耐久卵の安定性から汚泥の可溶化又は微細化に要する最短時間が好ましい。通常は1〜20時間程度の酵素処理が可能であり、好ましくは2〜6時間である。
【0013】
酵素反応を終えた反応液からの耐久卵の単離方法に制限はなく、ろ過、遠心分離などによって耐久卵を得ることができる。例えば、目開き60μmのプランクトンネットを通すことによって、汚泥はプランクトンネットを通過し、プランクトンネット上に耐久卵だけを分離・精製することができる。精製した耐久卵はそのまま冷蔵保存して、水産動物やペットの餌として使用することができる。また、室温乾燥、真空乾燥、凍結真空乾燥などによって乾燥品とした後、使用することもできる。
【0014】
上記の方法によって得られた耐久卵は、乾物1g当たりの耐久卵数が40〜100万個と純度が高く、60%以上の高い孵化率を維持しており、1年以上の長期保管に耐えることができる。
【実施例1】
【0015】
ワムシを培養し耐久卵が生産された培養液を静置し、培養液の上部を廃棄した。沈殿部を汚泥と共に目開き60μmのプランクトンネットによって回収し、更に、目開き200μmのプランクトンネットによって大型の汚泥を除去した。その後、水を加えて静置し沈殿部を60μmのプランクトンネットによって再回収し、酵素処理用のサンプルとした。酵素処理用サンプルを30%(湿重量/容積)となるように純水に懸濁させ、酵素アクチナーゼASを1%(重量/容積)になるよう反応液中に添加した。反応液のpHを7.5に調整し、温度30℃で、穏やかに攪拌して酵素処理を行なった。その後、酵素処理物を60μmのプランクトンネットによって回収して凍結乾燥し、乾燥物1gに含まれる耐久卵数を測定して精製程度の評価を行った。
【0016】
それぞれの試験区の耐久卵の孵化率を調べた。実態顕微鏡下で耐久卵100個を拾い、海水中に懸濁させ、25℃、白色蛍光灯3000luxの照射下で3日間保持し、その間に孵化した卵の数を数えた。その結果、酵素処理した耐久卵は酵素処理しなかった耐久卵と孵化率に差がなかった。
【実施例2】
【0017】
実施例1と同じ方法で、酵素パパインを使用して処理を行い評価した
【実施例3】
【0018】
実施例1と同じ方法で、酵素アルカラーゼ2.4Lを使用して処理を行い評価した。
【実施例4】
【0019】
実施例1と同じ方法で、酵素セルラーゼオノズカR−10を使用して処理を行い評価した。
【実施例5】
【0020】
実施例1と同じ方法で、酵素マセロチームオノズカR−10を使用して処理を行った。
複数の酵素について試験した結果、酵素処理を行うことによって精製度は高まり、酵素の中でもプロテアーゼの効果が高く、特にアルカリプロテアーゼの効果が高かった。酵素処理した耐久卵は酵素処理しなかった耐久卵と孵化率に差がなかった。
(比較例1)
【0021】
ワムシを培養し耐久卵が生産された培養液を静置し、培養液の上部を廃棄した。沈殿部を汚泥と共に目開き60μmのプランクトンネットによって回収し、更に、目開き200μmのプランクトンネットによって大型の汚泥を除去した。その後、水を加えて静置し沈殿部を60μmのプランクトンネットによって再回収し、凍結乾燥し、乾燥物1gに含まれる耐久卵数を測定して精製程度の評価を行った。
それぞれの試験区の耐久卵の孵化率を調べた。実態顕微鏡下で耐久卵100個を拾い、海水中に懸濁させ、25℃、白色蛍光灯3000luxの照射下で3日間保持し、その間に孵化した卵の数を数えた。結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0022】
栽培漁業の中の種苗生産における水産動物の餌料として使用できる。
魚類などのペット用の餌として利用できる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワムシ耐久卵とワムシ培養水槽に存在する不純物の混合物を酵素処理して不純物を溶解させて除去することを特徴するワムシ耐久卵の精製・回収方法
【請求項2】
請求項1記載の酵素はプロテアーゼ、セルラーゼ、ペクチナーゼであることを特徴とするワムシ耐久卵の精製・回収方法
【請求項3】
請求項1記載の酵素による不純物処理は反応液中に酵素の濃度は、0.1〜5.0%(W/V)の範囲、処理温度は20〜50℃の範囲で行い、その処理物を目開き100〜50ミクロンの篩にて分離することを特徴とするワムシ耐久卵の精製・回収方法