説明

ワンサイドボルト

【課題】 被接合部材裏側のスペースが小さい場合にも確実に適用できるようにしたワンサイドボルトを提供すること。
【解決手段】 トルクシェアー型のボルト(10)の頭部(10A)と軸部(10C)との間にスリーブ内面と接する外径の変形ガイド部(10B)を形成し、頭部直下にアール状の変形ガイド面を形成し、ボルトの変形ガイド部と軸部にスリーブ(11)を外嵌し、ボルト軸部にナット(13)を螺合する。
ボルト及びスリーブを被接合部材(14A、14B)の穴に挿通し、ナットを回転させるトルクの反力をセレション部(10D)で受けて締め付けを行なうことにより、ボルト軸部を被接合部材の穴内に引っ張り、スリーブ先端部分の内方への変形をボルトの変形ガイド部によって規制し、ボルト頭部直下の変形ガイド面によって外方に塑性変形させ、スリーブを座金状に拡開させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はワンサイドボルトに関し、特に被接合部材の片側からの作業で締め付けが完了でき、被接合部材の裏側スペースが小さい、危険を伴う、ボルト・ナットの装着ができないなどの場合に適用できるようにしたワンサイドボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
ワンサイドボルトは盲ボルトや片側締込みリベット等とも呼ばれる軸状の盲止め具であり、各種の用途に使用されている。例えば、閉断面形状の角形鋼管柱等を無溶接で接合する場合にワンサイドボルトを使用すると、通常の高力ボルトと異なり、ジョイントボックスに雌ねじを切ったり、裏ナット溶接を行う必要がなく、接合の作業性に優れている。
【0003】
従来この種のワンサイドボルトとして、ボルト軸部にスリーブを外嵌し、このボルトをその頭部から被接合部材の穴に被接合部材の表側から裏側に向けて貫通させ、ボルト軸部にナットを螺合し、ナットを回転させるトルクの反力をボルト端部に設けたセレション部で受けて締め付けることによってボルト頭部と被接合部材との間でスリーブを鍔状に変形させ、ボルトを抜け止めしたものが知られている(特許文献1、特許文献2)。
【0004】
しかし、従来のワンサイドボルトは被接合部材の厚さに比してボルト頭部が被接合部材の裏側に大きく突き出てしまい、被接合部材の裏側にスペースが少ない場合には適用し難い。
【0005】
これに対し、ボルトの頭部裏面をテーパー状に形成し、スリーブの先端部をボルト頭部裏面によって拡開してボルトを抜け止めするようにしたワンサイドボルトが提案されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平11−159509号公報
【特許文献2】特開2006−349098号公報
【特許文献3】特開平10−103327号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献3記載のワンサイドボルトではボルト頭部裏面をテーパー状に形成する必要があるので、ボルトが頭部裏面のテーパーの分だけ被接合部材から突き出てしまい、スペース的に適用し難いことがあった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑み、被接合部材裏側のスペースが小さい場合にも確実に適用できるようにしたワンサイドボルトを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明に係るワンサイドボルトは、頭部と雄ねじが形成された軸部との間にスリーブ内面と接する外径の変形ガイド部が形成され、頭部と変形ガイド部との間にアール状の変形ガイド面が形成され、上記ボルト軸部にはトルクシェアー型のセレション部が形成されたボルトと、該ボルトの変形ガイド部と軸部に外嵌されるスリーブと、ボルトの軸部に螺合されるナットとを備え、上記ボルト及びスリーブがボルト頭部から被接合部材の穴に挿通された状態において上記ナットを回転させるトルクの反力をセレション部で受けて締め付けを行なうことにより、上記ボルト軸部が被接合部材の穴内に引っ張られ、上記スリーブ先端部分の内方への変形が上記ボルトの変形ガイド部によって規制され、かつ上記ボルト頭部直下の変形ガイド面によって外方に塑性変形されることによって上記スリーブが座金状に拡開されるようになしたことを特徴とする。
【0010】
本発明の特徴の1つはボルトの変形ガイド部によってスリーブの内方への変形を規制しつつ、ボルト頭部直下の変形ガイド面によってスリーブ先端部を外方に塑性変形させることによって座金状に拡開させるようにした点にある。
【0011】
これにより、スリーブが座金として機能し、接合強度はスリーブの剪断強度分だけ増えるので、アップできる。
【0012】
スリーブ先端部は、座金のように平板状に拡開してもよく、又図3の2点鎖線で示すように断面の傾斜が残るように拡開してもよい。
【0013】
また、トルクシェア型のボルトを採用すると、ボルトの締付けトルクが所定の大きさに達すると、ボルト軸部のセレション部が破断し、締付けトルクを一定にできる。
【0014】
スリーブの材質は特に限定されないが、焼きならしたSCM435など、HRB87.5〜98.4の範囲内の硬度を有する材質が好ましいことが確認された。また、スリーブの肉厚とボルト頭部直下の変形ガイド面のアールがスリーブの塑性変形に関係していることが分かった。すなわち、スリーブは、その肉厚を外径寸法の1/6〜1/9の範囲内の寸法とし、ボルトの頭部直下の変形ガイド面をスリーブの肉厚よりも大きなアールとするのが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明のワンサイドボルトの好ましい実施形態を示す締付け前の状態を示す図である。
【図2】上記実施形態におけるスリーブを示す断面図である。
【図3】上記実施形態における締付けの途中及び完了の状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を図面に示す具体例に基づいて詳細に説明する。図1ないし図3は本発明に係るワンサイドボルトの好ましい実施形態を示す。図において、ワンサイドボルトはボルト10、スリーブ11、座金12及びナット13から構成されている。
【0017】
ボルト10は軸部10Cに雄ねじが形成され、軸部10Cの先端部にはセレション部10Dが形成され、セレション部10Dと軸部10Cとの間には環状の溝10Eが形成され、セレション部10Dに規定の締付けトルクが作用したときに溝10Eで破断されるようになっている。
【0018】
また、ボルト頭部10Aとボルト軸部10Cとの間にはスリーブ11内面と接するような外径の変形ガイド部10Bが形成され、ボルト頭部10Aと変形ガイド部10Bの間にはアール状の変形ガイド面が形成されている。
【0019】
スリーブ11は円筒状をなし、スリーブ11の先端面は径方向内側に向けて低くなるように、例えば軸線に対して45°の角度で傾斜した傾斜面に形成されている。なお、逆の傾斜面、即ち径方向外側に向けて低くなるように傾斜した傾斜面としても同様の作用効果を奏することが確認された。
【0020】
ボルト10の変形ガイド部10Bと軸部10Cにはスリーブ11が外嵌され、ボルト10の軸部10Cには座金12を介してナット13が螺合され、スリーブ11の先端はボルト頭部10Aの裏面に当接されている。
【0021】
こうしてワンサイドボルトが組み立てられると、被接合部材14A、14Bの穴に表側から裏側に向けてボルト頭部10Aを差し込んで挿通させ、座金12を被接合部材14Bに当接させる。
【0022】
次に、ナット13を公知の工具で保持し、ボルト10のセレション部10Dに公知の締付け工具を嵌め、ナット13を回転させるトルクの反力をセレション部10Dで受け、締付けを行なう。
【0023】
すると、ボルト頭部10Aが被接合部材14A、14Bの穴内に向けて引っ張られるが、スリーブ11は内面がボルト10の変形ガイド部10Bと当たっているので、特許文献1、2に記載のワンサイドボルトのようなスリーブ11の内方への変形が規制され、しかもスリーブ11の先端がボルト10の頭部10A直下の変形ガイド面によって外方の塑性変形がガイドされるので、スリーブ11は図3の1点鎖線及び2点鎖線で示すようにボルト頭部10Aによって平坦な姿勢に向けて次第に拡開される。
【0024】
ボルト10の締付けトルクが規定の大きさになると、セレション部10Dが溝10Eから破断し、それ以上の締め付けができなくなる。このとき、スリーブ11は締付けトルクの大きさによって、実線で示すように平板状に拡開されることもあり、あるいは2点鎖線で示すように平板となる直前の傾斜した姿勢となることもある。
【0025】
こうしてスリーブ11の先端部が拡開されると、ボルト頭部10Aは被接合部材14A、14Bの穴を抜けることができず、被接合部材14A、14Bは確実に接合される。
【実施例1】
【0026】
硬度HRC33、頭部外径22.2mm、頭部直下の変形ガイド面を3rとしたハイテンボルトM16を用い、硬度HRB87.5〜88、外径20mm、肉厚3mmのSUS304製のスリーブを用い、図3に示される締め付けを行った。
【実施例2】
【0027】
硬度HRC33、頭部外径22.2mm、頭部直下の変形ガイド面を5rとしたハイテンボルトM16を用いた以外、実施例1と同様に締め付けを行った。
【実施例3】
【0028】
外径20mm、肉厚3mmのSCM435製のスリーブを焼きならして硬度HRB97.5〜98.4として用いた以外、実施例2と同様に締め付けを行った。
比較例1
【0029】
硬度HRC33、頭部外径22.2mm、頭部直下の変形ガイド面を3rとしたハイテンボルトM16を用いた以外、実施例3と同様に締め付けを行った。
比較例2
【0030】
外径20mm、肉厚3mmのSCM435製のスリーブを焼き入れ焼き戻しして硬度HRB108〜109として用いた以外、比較例1と同様に締め付けを行った。
【0031】
比較例1、2はいずれも締め付け途中でスリーブが十分に拡開せず、締結不可能であったのに対し、実施例1〜3はいずれも締結が可能で、特に実施例2では約2トンの押込み荷重、実施例3の場合には約9トンの押込み荷重が得られた。
【0032】
以上のことから、スリーズは焼きならしたSCM435など、HRB87.5〜98.4の範囲内の硬度を有し、スリーブの肉厚は外径寸法の1/6〜1/9の範囲内の寸法とし、ボルトの頭部直下の変形ガイド面はスリーブの肉厚よりも大きなアールとするのが好ましいことが確認された。
【符号の説明】
【0033】
10 ボルト
10A 頭部
10B 変形ガイド部
10C 軸部
10D セレション部
11 スリーブ
13 ナット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭部(10A)と雄ねじが形成された軸部(10C)との間にスリーブ内面と接する外径の変形ガイド部(10B)が形成され、頭部(10A)とガイド部(10B)との間にアール状の変形ガイド面が形成され、上記ボルト軸部(10C)にはトルクシェアー型のセレション部(10D)が形成されたボルト(10)と、
該ボルト(10)の変形ガイド部(10B)と軸部(10C)に外嵌されるスリーブ(11)と、
ボルト(10)の軸部(10C)に螺合されるナット(13)を備え、
上記ボルト(10)及びスリーブ(11)がボルト頭部(10A)から被接合部材(14A、14B)の穴に挿通された状態において上記ナット(13)を回転させるトルクの反力をセレション部(10D)で受けて締め付けを行なうことにより、上記ボルト軸部(10C)が被接合部材(14A、14B)の穴内に引っ張られ、上記スリーブ(11)先端部分の内方への変形が上記ボルト(10)の変形ガイド部(10B)によって規制され、かつ上記ボルト頭部(10A)直下の変形ガイド面によって外方に塑性変形されることによって上記スリーブ(11)が座金状に拡開されるようになしたことを特徴とするワンサイドボルト。
【請求項2】
上記スリーブ(11)は、その肉厚が外径寸法の1/6〜1/9の範囲内の寸法で、硬度がHRB87.5〜98.4の範囲内の硬度であり、
上記ボルト(10)の頭部(10A)直下の変形ガイド面が上記スリーブ(11)の肉厚よりも大きなアールである請求項1記載のワンサイドボルト。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−220032(P2011−220032A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−92212(P2010−92212)
【出願日】平成22年4月13日(2010.4.13)
【出願人】(591209246)濱中ナット株式会社 (38)
【Fターム(参考)】