説明

上皮型ナトリウムチャネル活性化剤

【課題】上皮型ナトリウムチャネル活性化効果を有する上皮型ナトリウムチャネル活性化剤を提供する。
【解決手段】クランベリー(Vaccinium macrocarpon)抽出物及びトウガラシ(Capsicum annuum)抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分とする上皮型ナトリウムチャネル活性化剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮型ナトリウムチャネル活性化剤に関する。
【背景技術】
【0002】
有郭乳頭、葉状乳頭、茸状乳頭等舌の表面に存在する味蕾中に存在する味細胞、ヒトの腎皮質集合管(腎遠位尿細管)を構成する尿細管腔膜、肺上皮細胞、血管内皮細胞、皮膚の表皮細胞、結腸上皮細胞等に、上皮型ナトリウムチャネル(epithelial Na+ channel、以下、本明細書において「ENaC」ともいう)が発現していることが知られている。このENaCは、発現する器官、組織によって様々な機能を発揮する。例えば、味細胞に発現するENaCは、味蕾の頂端膜を通るナトリウムの流入を媒介する塩味受容体として機能する。また、尿細管腔膜に発現するENaCは、腎皮質集合管においてナトリウムを再吸収することにより体内ナトリウム量を緻密に制御する機能を有し、体液量、血漿浸透圧、血圧等の調節に非常に重要な役割を有する。
【0003】
加齢、生理状態の変化、心理状態の変化などにより、ENaCの機能が低下すると、味覚障害、下痢、ケラチノサイトの分化の異常による皮膚性状の悪化、肺水腫、低ナトリウム血症等の組織障害又は病態が引き起こされる。そこで、このような組織障害又は病態の予防又は改善の観点から、ENaCの機能を活性化するENaC活性化剤が求められている。
これまでに、ENaC活性化剤として、特許文献1及び2、並びに非特許文献1等に記載がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2005/014848号
【特許文献2】米国特許出願公開第2010/0009385号明細書
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】M.Lu et al.,J.Biol.Chem.,vol.283,No.18,p.11981-11994,2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上皮型ナトリウムチャネル活性化効果を有する上皮型ナトリウムチャネル活性化剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は上記課題に鑑み、鋭意検討を行った。その結果、クランベリー(Vaccinium macrocarpon)抽出物及びトウガラシ(Capsicum annuum)抽出物が、上皮型ナトリウムチャネル活性化作用を奏することを見い出した。本発明はこの知見に基づいて完成するに至った。
【0008】
本発明は、クランベリー抽出物及びトウガラシ抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分とする上皮型ナトリウムチャネル活性化剤に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の上皮型ナトリウムチャネル活性化剤は、優れた上皮型ナトリウムチャネル活性効果を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のENaC活性化剤は、クランベリー抽出物及びトウガラシ抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分とする。
【0011】
本発明におけるクランベリーとは、ツツジ(Ericaceae)科スノキ(Vaccinium)属の常緑低木で、ジャムやジュースなどの加工食品に利用されている。
本発明におけるトウガラシとは、ナス(Solanaceae)科トウガラシ(Capsicum)属の多年草又は低木である。トウガラシの果実は、野菜、皮膚刺激薬、健胃薬、香辛料として用いられている。
【0012】
本発明における前記植物は、その植物の全ての任意の部分が使用可能である。例えば、上記植物の全木、全草、根、根茎、幹、枝、茎、葉、樹皮、樹液、樹脂、花、果実、種子、果皮、莢、芽、花穂、心材等の任意の部分、及びそれらの組み合わせのいずれか1つ又は2つ以上を使用することができる。
本発明においてクランベリー抽出物を得るには、クランベリーの果実を抽出することが好ましい。あるいは、本発明において、色素として市販されているクランベリー抽出物を用いてもよい。
本発明においてトウガラシ抽出物を得るには、トウガラシの果実を抽出することが好ましい。あるいは、本発明において、色素として市販されているトウガラシ抽出物を用いてもよい。
【0013】
本発明において用いる、クランベリー及びトウガラシの抽出物の製造方法については特に限定はなく、上記植物を通常の方法で抽出することにより抽出物を得ることができる。具体的には、前記植物を乾燥させた乾燥物、その粉砕物等を圧搾抽出することにより得られる搾汁、水蒸気蒸留物、各種抽出溶剤による粗抽出物、粗抽出物を分配又はカラムクロマトなどの各種クロマトグラフィーなどで精製して得られた抽出物画分などを本発明における抽出物として用いることができる。
上記の植物はそのまま抽出に供することも可能であるが、より抽出効率を高めるために、乾燥、細断、粉砕等の工程を加えることも好ましい。また、本発明においては、前記抽出物、水蒸気蒸留物、圧搾物等のいずれかを単独で、又は2種以上を組み合わせて使用してもよい。なかでも、本発明の植物抽出物としては、上記植物を乾燥させた乾燥物又はその粉砕物から、抽出溶剤を用いて得られた抽出物を用いることがより好ましい。
【0014】
抽出溶剤としては、極性溶剤、非極性溶剤のいずれをも使用することができ、これらを混合して用いることもできる。例えば、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等のアルコール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等の鎖状及び環状エーテル類;ポリエチレングリコール等のポリエーテル類;ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素等のハロゲン化炭化水素類;ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル等の炭化水素類;ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素類;ピリジン類;超臨界二酸化炭素;油脂、ワックス、その他オイル等が挙げられる。あるいは、上記溶剤の2種以上を組み合わせた混合物を、抽出溶剤として用いることができる。このうち、水、アルコール類、水−アルコール混合液を用いるのが好ましく、エタノール又はエタノール水溶液を用いるのがより好ましい。
【0015】
本発明で用いられる抽出物を得るための抽出条件については、使用する溶剤によって異なり特に制限はなく、通常の条件を適用できる。例えば、上記植物を0〜100℃で1時間〜30日間浸漬又は加熱還流すればよい。また、抽出効率を向上させるため、併せて攪拌を行ったり、溶媒中でホモジナイズ処理を行ってもよい。
【0016】
上記溶媒で抽出して得られた抽出物はそのまま使用してもよいが、さらに適当な分離手段、例えばゲル濾過、クロマトグラフィー、精密蒸留、活性炭処理等により活性の高い画分を分画して用いることもできる。本発明において、植物の抽出物とは、このようにして得られた各種抽出物、その希釈液、その濃縮液、その精製物又はそれらの乾燥末を包含するものである。
【0017】
本発明に用いる抽出物の好ましい抽出条件について説明する。
本発明においてクランベリー抽出物を得るには、クランベリーの果実を搾汁又は水で抽出して得られる果汁を、噴霧乾燥するか凍結乾燥して粉末状にして得る方法が好ましい。
本発明においてトウガラシ抽出物を得るには、トウガラシの果実を100℃以上で油脂(例えば、大豆油、ナタネ油等の植物油等)で抽出する方法、室温から微温(例えば、10〜80℃)でヘキサン等の炭化水素類又はエタノール等のアルコール類で抽出する方法、31〜100℃に加熱し15〜25MPaの加圧下で二酸化炭素を用いて抽出する方法、等を好ましく採用することができる。前記方法により得られた抽出物をさらに31〜100℃に加熱し、7〜10MPaの加圧下で二酸化炭素を用いて辛味成分を除去してもよい。
【0018】
本発明のENaC活性化剤には、前記有効成分のうちのいずれか1種を利用しても、2種以上を併用してもよい。
【0019】
本明細書において、「ENaC活性化」とは、ナトリウムイオンなどのイオン流束の増大、膜電位の増大、電流振幅の増大、電位開口性の増大、ENaC発現の促進などにより、ENaCの機能を増強することを指す。本発明において、「ENaC活性化」とは特に、ナトリウムイオンの流束を増大させ、ENaCの機能を増強することを指す。
【0020】
ENaC活性化の評価方法について特に制限はないが、例えば特開2007−528712号公報に記載の方法を参考にすることができる。
ENaC活性化の評価方法の具体例について説明する。ヒトENaCを安定して機能的に発現する株(以下、本明細書においてENaC安定発現株ともいう)と被検剤とを接触させ、イオン流束の変化を測定することによりENaC活性化の評価が可能となる。イオン流束の変化を測定する方法としては特に制限はなく、パッチクランプ技法、全細胞電流の測定、放射標識イオン流束アッセイ、電位感受性色素又はイオン感受性色素を用いた蛍光アッセイなどが挙げられる。
【0021】
本発明のENaC活性化剤によれば、ENaCの活性化が治療に有効な組織障害又は病態が予防又は改善される。ENaCが発現する組織としては、味蕾、尿細管腔膜、結腸、膀胱、肺、角膜、気道、皮膚、唾液腺、汗腺、乳腺などが知られている。ENaCの機能の低下により障害を受ける組織は、生体内の任意の組織であり得、例えば、舌、眼、耳、皮膚、上皮、血液、リンパ、鼓索神経、食道、消化管、胃、血管、皮膚、肺、心臓、腎臓、膀胱、小腸、大腸等が挙げられる。組織障害及び病態の例としては、味覚障害、下痢、低ナトリウム血症、肺水腫、高カリウム血症、皮膚バリア障害等が挙げられる(例えば、文献S.Zeissig et al.,Gastroenterology,vol.134,No.5,p.436-447,2008;T.Maruo et al.,J.Invest.Dermatol.,vol.118,No.4,p.589-594,2002;N.Randrianarison et al.,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.,vol.294,No.3,p.409-416,2008;F.J.McDonald et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,vol.96,No.4,p.1727-1731,1999等参照)。したがって、ENaCの活性化により、これらの組織障害及び病態の予防又は改善が可能となる。
【0022】
ENaCの活性化が治療に有効な組織障害又は病態について、具体例を挙げて説明する。
ENaC活性と、塩味閾値との間に相関関係があり、味蕾中に存在する味覚受容体細胞で発現するENaCが媒介するナトリウムの流入を促進する物質は一般的な鹹味相乗剤として機能し、ENaCが活性化されると塩味閾値が低下する(塩味に敏感になる)(例えば、国際公開第02/087306号等参照)。したがって、本発明のENaC活性化剤は、少ない塩分量でも十分な塩味を感じさせる塩味増強剤や、塩分の過剰摂取が原因の1種である高血圧の予防・改善剤等への適用が可能である。
また、ヒトの腎皮質集合管(腎遠位尿細管)を構成する尿細管腔膜にもENaCが発現している。尿細管腔膜に発現するENaCは、ナトリウムを再吸収することにより体内ナトリウム量を緻密に制御することが知られており、体液量、血漿浸透圧、血圧等の調節に非常に重要な役割を有する。
クローン病患者は慢性的な腸の炎症が起こっており、下痢などの症状を有している。クローン病患者における腸のENaCの機能を解析したところ、ENaCを介したNa透過性が低下しており、γサブユニットの遺伝子発現が低下する。これは、ENaCの活性化により、下痢などの症状を緩和できることを示している。(S.Zeissig et al.,Gastroenterology,vol.134,No.5,p.436-447,2008等参照)。
ENaCのαサブユニットを欠損させたマウスでは、野生型のマウスに比べて、表皮の肥厚や脂質異常分泌などが起こる、組織切片を観察すると乾癬様な形状である、等の報告がされている。これらは、ENaCがケラチノサイトの分化などに関与にしていることを示しており、ENaCの機能の低下が、皮膚バリア障害を起こすことを示唆している(T.Maruo et al.,J.Invest.Dermatol.,vol.118,No.4,p.589-594,2002等参照)。
肺に発現するENaCは、Naを透過させることにより肺の水分を除去し、肺水腫を予防する役割を担っている。ENaCのβサブユニットを欠損させたマウスでは、クリアランス(水分除去能)が、32%減少することが報告されている。これは、ENaCを活性化することにより、肺水腫の予防が可能であることを示している(N.Randrianarison et al.,Am.J.Physiol.Lung Cell Mol.Physiol.,vol.294,No.3,p.409-416,2008等参照)。
ENaCのβサブユニットを欠損させると、血中ナトリウム濃度が低下し、カリウム濃度が増加することが報告されている。これは、ENaCを活性化することにより、低ナトリウム血症、高カリウム血症を予防できることを示している(F.J.McDonald et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.,vol.96,No.4,p.1727-1731,1999等参照)。
【0023】
本発明のENaC活性化剤は、医薬品、医薬部外品、食品、飲料等の用途に適用することができる。さらに本発明のENaC活性化剤は、液状、固形状、乳液状、ペースト状、ゲル状、パウダー状(粉末状)、顆粒状、ペレット状、スティック状等、ヒトや動物に適用されうる各種剤型をとることができる。
【0024】
本発明のENaC活性化剤を医薬品、医薬部外品に適用する場合、必要により各種添加剤を配合し、前記有効成分を適量含有させて、各種剤形の医薬品又は医薬部外品として調製することができる。例えば、錠剤、被覆錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、エキス剤等の経口医薬として、又は、軟膏、眼軟膏、ローション、クリーム、貼付剤、坐剤、点眼薬、点鼻薬、注射剤といった非経口医薬として調製することができる。これらの医薬は、各種添加剤を用いて常法に従って製造すればよい。使用する添加剤には特に制限はなく、通常用いられているものを使用することができる。その例としては、デンプン、乳糖、白糖、マンニトール、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩等の固形担体、蒸留水、生理食塩水、ブドウ糖水溶液、エタノール等のアルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等の液体担体、各種の動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ類等の油性担体、安定化剤、湿潤剤、乳化剤、結合剤、等張化剤、崩壊剤、滑沢剤、希釈剤、浸透圧調整剤、pH調整剤、防腐剤、酸化防止剤、着色剤、紫外線吸収剤、保湿剤、増粘剤、光沢剤、緩衝剤、矯味剤、矯臭剤等が挙げられる。
【0025】
本発明のENaC活性化剤を飲食品、ペットフード等に適用する場合、食用又は飲料用に適した形態、例えば、顆粒状、粒状、錠剤、カプセル、ペーストなどに成形して提供することができる。さらに、前記飲食品は、一般飲食品の他、ENaCの機能の低下により発症し、ENaCの機能の増強が治療又は予防に有効な症状の予防又は改善をコンセプトとし、必要に応じてその旨を表示した美容食品、病者用食品、栄養機能食品又は特定保健用食品等の機能性飲食品の形態とすることができる。
【0026】
飲食品の形態としては特に制限はなく、例えば、果汁飲料、乳飲料、茶系飲料等の飲料類、キャンディ、ドロップ、ゼリー、クッキー、チョコレート、ケーキ、ヨーグルト、ガム等の菓子類、調味料、調理油、乳製品、パン類、麺類、加工米等が挙げられる。また、錠剤(タブレット)、カプセル、顆粒、シロップ等の美容食品、健康飲食品等としてもよい。
これらの飲食品は、例えば、甘味剤、着色剤、抗酸化剤、ビタミン類、香料、ミネラル等の添加剤、タンパク質、脂質、糖質、炭水化物、食物繊維等の食品原料を適宜組み合わせて用い、これと本発明のENaC活性化剤とを含有させ、常法に従って各種飲食品の形態とすることにより調製することができる。
【0027】
本発明のENaC活性化剤はそのままで医薬品、医薬部外品、食品、飲料等として用いてもよいし、医薬品、医薬部外品、食品、飲料等の添加剤又は配合剤として用いてもよい。
【0028】
本発明のENaC活性化剤における前記有効成分の配合量は、その使用形態により異なるが、医薬品、例えば、錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等の経口用固形製剤、内服液剤、シロップ剤等の経口用液体製剤の場合は、0.00005〜10質量%が好ましく、0.0002〜2質量%がより好ましく、0.005〜0.1質量%がさらに好ましい。飲食品やペットフード等に配合する場合は、0.00005〜10質量%が好ましく、0.0002〜2質量%がより好ましく、0.005〜0.1質量%がさらに好ましい。
【0029】
本発明のENaC活性化剤の投与又は摂取量は、個体の状態、体重、性別、年齢、又はその他の要因に従って変動し得る。成人(体重60kg)の1日当りの投与又は摂取量は、0.005〜2000mgが好ましく、0.02〜200mgがより好ましく、0.5〜20mgがさらに好ましい。がさらに好ましい。本発明のENaC活性化剤は、1日に3回、1日に2回、1日1回、2日に1回、3日に1回、1週間に1回、又は任意の期間及び間隔で投与又は摂取され得る。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例に基づきさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0031】
製造例1 クランベリー抽出物の調製
クランベリー色素(抽出部位:果実、研光通商社より入手)を濃度1%(w/v)となるよう50%エタノールに溶解し、クランベリー抽出物を調製した。
【0032】
製造例2 トウガラシ抽出物の調製
トウガラシ色素(抽出部位:果実、OCI社より入手)を濃度1%(w/v)となるよう99.5%エタノールに溶解し、トウガラシ抽出物を調製した。
【0033】
試験例1 ENaCの活性化試験
前記製造例1及び2で調製したサンプルを用いたヒトENaCの活性化試験を、特表2007−528712号公報に記載の方法に準じて、下記の通り行った。
ヒト腎臓細胞に発現するENaCのαサブユニットをコードするDNAをクローニングしたcDNA(クロンテック社製)を鋳型とし、Pyrobest(商品名)DNA polymerase(タカラバイオ社製)及び下記αサブユニット遺伝子増幅用プライマーを用いてPCR(Polymerase chain reaction)を行い、ENaCのαサブユニットをコードするcDNA断片(αサブユニットPCR増幅断片)を増幅した。
<αサブユニット遺伝子増幅用プライマー>
5’側プライマー:5’-CACCATGGAGGGGAACAAGC-3’(配列番号1)
3’側プライマー:5’-GGGCCCCCCCAGAGGACA-3’(配列番号2)
【0034】
ヒト腎臓細胞に発現するENaCのβサブユニット又はγサブユニットをコードするDNAをクローニングしたcDNA(クロンテック社製)を鋳型とし、Advantage 2 polymerase(クロンテック社製)、及び下記βサブユニット遺伝子増幅用プライマー又はγサブユニット遺伝子増幅用プライマーを用いてPCRを行い、ENaCのβサブユニットをコードするcDNA断片(βサブユニットPCR増幅断片)及びγサブユニットをコードするcDNA断片(γサブユニットPCR増幅断片)をそれぞれ増幅した。
<βサブユニット遺伝子増幅用プライマー>
5’側プライマー:5’-ATGCGGTACCATGCACGTGAAGAAGTACCT-3’(配列番号3)
3’側プライマー:5’-GCATCTCGAGTAGATGGCATCACCCTCACT-3’(配列番号4)
<γサブユニット遺伝子増幅用プライマー>
5’側プライマー:5’-ATGCAAGCTTATGGCACCCGGAGAGAAGAT-3’(配列番号5)
3’側プライマー:5’-GCATGAATTCCAGAGCTCATCCAGCATCTG-3’(配列番号6)
【0035】
前記αサブユニットPCR増幅断片をヒト哺乳動物発現ベクターpcDNA3.1(ネオマイシン(neomycin)耐性遺伝子含有、インビトロジェン社製)に、前記βサブユニットPCR増幅断片をヒト哺乳動物発現ベクターpcDNA4(ゼオシン(Zeocin)(商品名)耐性遺伝子含有、インビトロジェン社製)に、前記γサブユニットPCR増幅断片をヒト哺乳動物発現ベクターpcDNA6(ブラストサイジン(Blasticidin)耐性遺伝子含有、インビトロジェン社製)にそれぞれクローニングし、pcDNA3.1/αENaC、pcDNA4/βENaC及びpcDNA6/γENaCを作製した。
【0036】
HEK293(ヒト胎児腎細胞)を細胞数が1×105cells/wellになるよう24wellプレートに播種し、37℃、5%CO2条件下にて24時間培養を行った。血清使用量低減培地(商品名:Opti-MEM、インビトロジェン社製)100μLに、pcDNA3.1/αENaC 0.3μg、pcDNA4/βENaC 0.3μg、pcDNA6/γENaC 0.3μg、及び遺伝子導入用カチオン性脂質(商品名:lipofectamine 2000、インビトロジェン社製)1μLを添加し、室温で20分間インキュベートした。インキュベート後、混合溶液を前記24wellプレートに添加し、37℃、5%CO2条件下にて24時間培養を行った。アミノグリコシド系抗生物質G418(ナカライテスク社製)800μg/mL、bleomycin系抗生物質ゼオシン(商品名、インビトロジェン社製)150μg/mL、ヌクレオシド系抗生物質ブラストサイジン(インビトロジェン社製)6μg/mLを含むD-MEM培地(Dulbecco's Modified Eagle Medium、ギブコ社製)を用いて培地交換を行い、3日間培養後同様の培地で洗浄しさらに培養を行う操作を繰り返し行い、生育した細胞をENaC安定発現株として得た。
【0037】
ENaC安定発現株及びHEK293をそれぞれ、細胞数が2.0×104cells/wellになるよう96wellプレート(ベクトン・ディッキンソン社製)に播種して、37℃、5%CO2条件下で48時間培養を行った。培地を除去し、ナトリウムフリーリンガー液(Na free Ringer solution;150mM NMDG-Cl、5mM KCl、1mM CaCl2、1mM MgCl2、10mMグルコース、10mM HEPES)で2回洗浄後、ナトリウムフリーリンガー液で調製した10μMの蛍光ナトリウムイオン蛍光指示薬(商品名:CoroNa Green、インビトロジェン社製)を添加し、37℃、5%CO2環境下で45分間インキュベートした。
ナトリウムフリーリンガー液で再度2回洗浄した後、製造例1及び2で調製したサンプルを終濃度が0.005体積%となるよう前記96wellに添加し、37℃、5%CO2環境下で20分間インキュベートを行った。その後、培養液に終濃度が150mMになるようNaClを添加し、FDSS(Functional Drug Screening System、浜松ホトニクス社製)を用いて細胞内に取り込まれたナトリウムイオンの蛍光強度を測定し、イオン流束を解析した。なお、蛍光強度は、NaCl添加後1秒毎に測定した蛍光強度を、NaCl添加前の蛍光強度を1.0とした場合の相対値として算出し、5分間測定した平均値として表した。
【0038】
測定した蛍光強度から、下記に示す方法により、ENaC活性を測定した。
ENaC安定発現株に各サンプル及びNaClを添加した場合の相対蛍光強度(A)からHEK293に各サンプル及びNaClを添加した場合の相対蛍光強度(C)を引いた値を、ENaC安定発現株にNaClのみを添加した場合の相対蛍光強度(B)からHEK293にNaClのみを添加した場合の相対蛍光強度(D)を引いた値で割ったものをENaC活性とした(下記式(1)参照)。下記式より得られた数値が1より大きい場合、ナトリウムイオンのイオン流束が増大していること、すなわちENaCの機能が活性化されていることを示す。結果を表1に示す。
【0039】
【数1】

【0040】
【表1】

【0041】
表1の結果から明らかなように、製造例1及び2で調製したサンプルそれぞれを添加することにより、蛍光強度が増大し、ENaCが活性化した。
なお、ENaC安定発現株におけるENaC活性のNaCl濃度依存性を検討したところ、200mMのNaClのENaC活性は、式(1)において、B及びDが150mMのNaClのみを添加した場合の相対蛍光強度、A及びCが200mMのNaClのみを添加したときの相対蛍光強度で表され、2.0相当であった。表1の結果から、クランベリー抽出物及びトウガラシ抽出物を添加した場合、ENaC活性は2.0以上であった。したがって、これらの成分は、200mMのNaClと同等以上のENaC活性効果を有する。
【0042】
試験例1の結果は、本発明のENaC活性化剤がENaCを活性化することを示すものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランベリー(Vaccinium macrocarpon)抽出物及びトウガラシ(Capsicum annuum)抽出物からなる群より選ばれる少なくとも1種を有効成分とする上皮型ナトリウムチャネル活性化剤。
【請求項2】
ナトリウムイオンの流束を増大させ、上皮型ナトリウムチャネルの機能を増強する、請求項1記載の上皮型ナトリウムチャネル活性化剤。




【公開番号】特開2013−18764(P2013−18764A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−155866(P2011−155866)
【出願日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】