説明

中空糸膜型濾過器

【課題】製造コストを従来とほぼ同じで、流れの圧力損失大きく増やさず、中空糸膜が損傷しやすい流れを小さくする中空糸膜型濾過器を提供する。
【解決手段】中空糸膜束がその両端を接着固定層で固定され収納されてなる筒型ケーシングと、筒型ケーシングの両端近傍に形成された出入口と、筒型ケーシングの両端に取り付けられ出入口を備える閉鎖蓋とを備えた中空糸膜濾型過器において、第二の流路における中空糸膜束の周方向の流体の流れを遮る障害物を備えたことを特徴とする中空糸膜型濾過器。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は中空糸膜型濾過器に関する。より詳細には体液浄化能力に優れた濾過器として、医療分野などに好適に用いられる中空糸膜型濾過器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、中空糸膜を用いた中空糸膜型濾過器における中空糸膜を保護する方法として、ケーシング内壁と中空糸膜束の間に、中空糸膜束に沿ってケーシング内周面より伸展した舌片状の板を流体の出入口付近に備えるなどの方法が行なわれていた(例えば特許文献1参照)。
しかし、実際の使用時以外に、中空糸膜型濾過器の生産の過程に於ける評価、洗浄等の過酷な条件に晒された場合には、中空糸膜の破断等が発生し、その保護は必ずしも十分なものではなかった。例えば、特許文献2にあるような高分子膜モジュールの評価法を用いた場合、中空糸膜周りの流れは気体と液体の気液二相の流れになる。この場合、気泡の運動による液体の速度上昇と気体の存在により実質液体の流路が小さくなる事で液体の速度が上昇し、これにより中空糸膜に損傷を与える事がある。中空糸膜から透過する気体は、液体の流れに沿ってほぼ均一に出るため、出口側に近づくにつれて気体の量が増える事になる。特に、中空糸膜束に沿った流れが端部で中空糸膜束外に出て束外周を流れて出口に向かう所で顕著になる。つまり、中空糸膜束内から束外に出た流れが次々と合流しながら速度を増して出口に向かう事による。
しかし、舌片状の板を出口近傍の一部に設ける方法では、この板に覆われる箇所以外は周方向の流れに中空糸膜束の外周が直接晒される事になり舌片状の板の効果には限界があると思われる。
また、この他にも製造過程において中空糸膜型濾過器内の洗浄に流体を用いる場合には同様の現象が予想される。
【0003】
また、上記以外に中空糸膜を保護する方法として、特許文献3の様にリング状当り部材で中空糸膜束を覆う方法がある。このリング状当り部材には様々な形状の孔が設けられている。しかし、これは、中空糸膜の保護と同時に流れの均一化をも目的としているため、孔の面積を小さくして圧損を大きくする必要があり、その結果、取り付け装置に余計な負荷がかかってしまう。また、リング状の当り部材を新たに作製する為、製造コストも高くなる。
【0004】
さらに、中空糸膜の全周を部材で覆う方法として例えば、特許文献4があげられる。これはノッチ又は窪みによって形成された櫛の歯状又はスカラップ状の突出部により中空糸膜束を一定の間隔で全周にわたって覆う方法である。しかし、この方法の目的は流体の流れが死角となることを防ぐことであり本発明とは目的が異なる。すなわち、特許文献4の方法は、第二の流路出口が蓋に設けられており、その出口に至る部分の第二の流路は櫛の歯の隙間の上部にあり、第二の流路の流体はそこに向かって流れるため、そもそも中空糸束の外周に流体が濾過器出口に向かうことによる周方向の流れは発生しない。
【特許文献1】特開2003-53158号公報
【特許文献2】特開平5−157682号公報
【特許文献3】特開平11−90182号公報
【特許文献4】特開平10−211421号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、内部に収納される中空糸膜を流体の流れから保護しうる中空糸膜型濾過器を提供することを課題とする。詳しくは、圧力損失の増加を抑えつつ、中空糸膜に直接接する流体の、中空糸膜の周方向の流れを小さくした中空糸膜型濾過器の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記従来の技術によって使用中の中空糸膜の破断等は多少軽減されているが、過酷な条件下では必ずしも十分な効果は得られていない。本願発明者は、圧力損失の増加を抑えつつ、中空糸膜に損傷を与える原因となる、中空糸膜束に接する流体の周方向の流れを小さくするために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本願発明は、以下の構成を有する。
(1)中空糸膜束がその両端を接着固定層で固定されることにより収納されてなる筒型ケーシングと、筒型ケーシングの両端近傍に形成された出入口と、筒型ケーシングの両端に取り付けられ出入口を有する閉鎖蓋とを備えた中空糸膜型濾過器であって、閉鎖蓋の出入口と中空糸膜の内部空間とからなる第一の流路と、ケーシングの両端近傍に形成された出入口並びに中空糸膜束外壁及びケーシング内壁により形成される空間からなる第二の流路を有する中空糸膜濾型過器において、第二の流路における中空糸膜束の周方向の流体の流れを遮る障害物を備えたことを特徴とする中空糸膜型濾過器。
(2)障害物が、筒型ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーである上記(1)に記載の中空糸膜型濾過器。
(3)筒型ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーが、筒型ケーシングの端部近傍から分岐した伸展部分の先端を櫛の歯状としたものである上記(2)に記載の中空糸膜型濾過器。
(4)ケーシング中央から前記櫛の歯の根本までの距離が、前記ケーシング中央からケーシングの両端近傍に形成された出口までの距離より長い事を特徴とする上記(1)〜(3)のいずれかに記載の中空糸膜型濾過器。
(5)櫛の歯の発生間隔が、櫛の歯の高さより大きい事を特徴とする上記(2)〜(4)のいずれかに記載の中空糸膜型濾過器。
(6)櫛の歯のうち、出入口に対面する箇所の歯の幅が、それ以外の歯の幅よりも大きい、あるいは発生間隔が狭くなっている上記(2)〜(4)のいずれかに記載の中空糸膜型濾過器。
【発明の効果】
【0007】
本発明の中空糸膜型濾過器によれば、中空糸膜束に沿ってその長手方向に、中空糸膜束の周方向の流れに直交する障害物を設ける事により、流体の出入口の構成上必然的に生じる中空糸膜束周方向の流れを絶えず遮り、中空糸膜束外周への流体の影響を小さくする事が可能となった。
また、障害物を、ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーとすることにより、流れの圧力損失を従来より抑えつつ、中空糸膜への流体の影響を小さくする事が出来た。さらに、櫛の歯状カラーを、ケーシングの端部近傍から分岐した伸展部分の先端を櫛の歯状として形成することにより、従来と同様な成型法でケーシングを製造する事が出来、コストを抑えることができた。
また、ケーシング中央から櫛の歯状カラーの櫛の歯の根本までの距離を、ケーシング中央からケーシングの両端近傍に形成された出口までの距離より長くする事、つまり、出口を中央に寄せたことにより、中空糸膜束から出た流体は櫛の歯の根本から直ぐに(ケーシング中央に近い)出口に向かう為、中空糸膜束周方向の流れが抑えられた。
これにより、中空糸膜の損傷の原因となる出口付近における中空糸膜束周方向の流れの速度を小さくする事が可能となり、濾過器としての耐久性を増すことができた。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明において中空糸膜型濾過器とは、中空糸を利用した濾過器であって、濾過の対象は、ウィルス等の病原物質を含む医薬品や、その原料としての生理活性物質溶液、血液、体液などである。すなわち、中空糸膜型濾過器には、中空糸を用いたウィルス除去膜や、人工腎臓などが例示される。濾過器は、数百から数千本が束ねられた中空糸膜束が両端を接着固定層によりケーシング内に固定されることにより装填されている。
【0009】
本発明の中空糸膜型濾過器は二つの流路を有し、二つの流路はそれぞれの出入口において外部回路に接続され、外部装置より液体の供給及び回収が行われる。第一の流路は、閉鎖蓋の出入口と中空糸膜の内部空間とからなり、第二の流路は、ケーシングの両端近傍に形成された出入口及び中空糸膜外壁若しくはケーシング内壁により形成される空間からなり、それぞれ出入口は外部回路と接続している。
【0010】
これら第一または第二の流路には、流体として気体又は液体がそれぞれ供給される。
例えば、中空糸膜型濾過器を用いて、透析を行なう場合は、第一の流路には、血液等を流し、第二の流路には透析液等を流すことが例示される。また、中空糸膜型濾過器をウィルス除去膜として使用する場合は、第一の流路には、ウイルス等の病原物質を含む医薬品やその原料となる生理活性物質溶液、血液、体液等を流し、第二の流路には、第一の流路からの濾液が流れる。また、その検査工程においては第一の流路には不活性な気体を、第二の流路には第一の流路から透過した気体と不活性な液体を流す事になる。
【0011】
第一の流路について詳しく説明する。入口より流入した流体は、閉鎖蓋の内壁と接着固定層表面より成る流路を経て、複数の中空糸膜の内部空間へと分岐した後、入口側と同様の構成からなる接着固定層表面と閉鎖蓋の内壁より成る流路で合流し、出口に至る。なお、本検査工程ではこの出口が閉じる。
【0012】
第二の流路ではケーシング端部近傍の入口より流入した液体はケーシングの内壁と中空糸膜外壁より構成される流路を経てケーシング端部近傍の出口に至る。ケーシング内壁と中空糸膜外壁から構成される空間では具体的には次の様に流れる。入口から入った流体は、中空糸膜束の外周を沿うように流れながら徐々に中空糸膜束内に流れ込んだ後、中空糸膜束の長手方向に沿って流れ、中空糸膜束全周にわたって束の外側に流れ出た後、中空糸膜束外周に沿う様に流れながら、出口に至る。ここで、中空糸膜束内とは、中空糸膜と中空糸膜の間のことを指す。従って、第2の流路の入口から入った流体は、中空糸膜束外周から中空糸膜間へと流れ、そして中空糸膜束外周、最後は出口へと流れることになる。
【0013】
尚、本発明で課題とする中空糸膜の損傷の原因や圧力損失は、第二の流路での流れに由来するものであり、以下は特に断らない限り第二の流路に関する流れについて説明する。
【0014】
本発明の障害物とは、流れを遮る障害となる物であればよく、第二の流路における中空糸膜束の周方向の流体の流れを遮る物を指す。
中空糸膜を損傷させる流れは、主に中空糸膜束内、すなわち中空糸膜間から出る流れが合流しながら出口に向かう中空糸膜束外周に沿う周方向の流れと考えられる。従って、中空糸膜束に沿ってその長手方向に周方向の流れに対する障害を設ける事により、周方向の流れを絶えず遮り中空糸膜束外周への直接の影響を小さくする事が可能となる。
【0015】
このような障害物としては、例えば、ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーがあげられる。櫛の歯状カラーをケーシングに設ける構成は、例えば、筒型ケーシングの端部近傍から分岐した伸展部分の先端を櫛の歯状とすることがあげられる。
まず、ケーシングはその胴体部分の内径が一定の筒型であるが、その端部(出入口近傍)では、胴体部分に対して拡径している。このケーシング径が拡大する位置で、内壁を中空糸膜束外周に沿うように分岐させることにより伸展部分を形成する。この場合の伸展部分の内径はケーシングの胴体部分とほぼ同じかあるいはやや広がりをもつものである。従って、第二の流路において、液体が中空糸膜外壁とケーシング内壁で囲まれる空間を中空糸膜束長手方向に沿って流れる箇所では中空糸膜束とケーシング内壁は狭い隙間を有するか直接接しており、流体が中空糸束周方向に流れる箇所(つまり、出入口近傍、端部)でも同様に中空糸膜束とカラー内壁は狭い隙間を有するか直接接している。伸展部分はケーシング端部まで伸展しており、先端を櫛の歯状に形成することにより櫛の歯状のカラーが構成されている。
【0016】
ここで、ケーシングの端部(出入口近傍)は拡径しているため、ケーシング内壁を伸展させて出来た櫛の歯状カラーとケーシングの間には隙間があり、中空糸束内から出た液体は中空糸束外周、即ちにこの隙間を通って出口へと排出されることになる。
なお、障害物として櫛の歯状のカラーを筒型ケーシングに設けた例として、カラーがケーシング内壁から伸展部を分岐伸展させたものを挙げて説明したが、この構成は従来と同様な成型法で一体的に成型するが出来る。
また、櫛の歯状のカラーを筒型ケーシングに設ける別の製造例としては、櫛の歯状のカラーをケーシングとは別体として作製し、ケーシングの内側に接着させる又は嵌合させることもできる。例えばカラーの外周にはめ込み用のねじをきっておき、ケーシングの内側にそれに対応するねじをきっておき、カラーをケーシング内側にねじ込む、などがあげられる。いずれにしても、先端が櫛の歯状のカラーをケーシング内壁に設けることで、圧力損失の増加を抑え、中空糸膜の損傷の原因となる中空糸膜束に接する流体の周方向の流れの速度を小さくする事が可能となった。
【0017】
更に、ケーシング中央から伸展部先端の櫛の歯の根本までの距離がケーシング中央からの該櫛の歯に近接する第二の流路出口(第2の流路出口とケーシングの接続面の中心)までの距離より長くする事が好ましい。これにより、櫛の歯の間の中空糸膜束から出た流れは櫛の歯の根本よりケーシング中央に近い出口に向かう為、周方向の流れは少なくなる。
【0018】
更に、中空糸膜束から出る流れは櫛の歯間の面積で決まるが、同じ面積でも糸の強度の面からは流れに接する中空糸膜の長さが短い方が効果的である。以上、出口側を例に説明したが入口側にも同等の効果が期待できる。
【0019】
櫛の歯の発生間隔とは、櫛の歯間の距離をいい、伸展部が円筒の場合は円筒内径に沿った距離を言う。また、発生間隔は等間隔でも不等間隔でもよい。
また、櫛の歯の幅は、中空糸膜束周方向の幅をいい、均一でも不均一でも良いが、好ましくはケーシング出入口に近い箇所ではその幅は広い方が好ましく、出入口がケーシングと接続する側の断面積の平方根より長い方がよい(図3参照)。また、出入口付近では、幅を広くする代わりに、幅を変えずに発生間隔を密にすることも好ましい。このように出入口に対応する箇所の櫛の歯密度を高くすることで、流体の流れからより一層中空糸膜を保護することが可能となる。
さらに、櫛の歯の発生間隔は、後述する櫛の歯の高さより大きいことが望ましい。
【0020】
櫛の歯の高さとは、櫛の歯の根本から櫛の歯の先端即ち伸展部先端までの距離を言う。
伸展部の先端は接着固定層まで達しても良いし、達せず伸展部先端と接着固定層面と隙間が生じても良い。また、伸展部断面形状は、矩形、円、楕円、凹形状、凸形状でも良いが、糸の接触による破損を防ぐ意味で角部が無い事が好ましい(図5参照)。
【0021】
第二の流路における中空糸膜束の周方向の流体の流れを遮る障害物は、少なくとも出口近傍に設ける必要があり、望ましくは、入口近傍と出口近傍の両端部近傍に設けることが好ましい。出口近傍の方が、条件的には厳しいからである。
【0022】
また、本発明ではさらに、ケーシング中央から櫛の歯状カラーの櫛の歯の根本までの距離を、ケーシング中央からの該櫛の歯に近接する第二の流路の出口までの距離より長くする事、つまり、出口を中央に寄せることが望ましい。これにより、中空糸膜束から出た流体は櫛の歯の根本から直ぐに(ケーシング中央に近い)出口に向かう為、中空糸周方向の流れを少なくすることができる。
【0023】
以下、本発明の実施形態の1つについて図面を用いて説明する。
図1は本件発明に係る中空糸膜型濾過器1の部分断面正面模式図である。図2は図1のケーシング10の断面正面図である。図3は図2のA−A断面図である。
図1〜3の中空糸膜型濾過器は中空糸膜数百から数千本が束ねられた中空糸膜束20が装填されるケーシング10と、ケーシング10の両端に取り付けられた閉鎖蓋30、40とから構成される。尚、ケーシング10はケーシング内壁より分岐した先端が櫛の歯状の伸展部13を有する。
【0024】
中空糸膜束20は、その両端部分をポリウレタン、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等のポッティング材でケーシング内面に液密に接着固定層50で接着固定される。
ケーシング10の端部近傍には、外部回路に接続する第二の流路出入口11、12が形成されている。どちらを出口あるいは入口にするかは、実際の使用に応じて決めて良い。
【0025】
閉鎖蓋30には、外部回路に接続する第一の流路の出入口31が備えられ、閉鎖蓋40にも同様に、外部回路に接続する第一の流路出入口41が備えられている。いずれを出入口にするかは実際の使用に応じて決めて良い。
【0026】
先端が櫛の歯状である伸展部13はケーシング10の内壁より分岐する、伸展部13は胴部131と櫛の歯状の先端132より構成される。胴部131は、中空糸膜束の外周にほぼ沿って中空糸膜束を全周覆うが、櫛の歯状の先端132は中空糸膜束外周を適当な間隔で覆っていれば良い。またその櫛の歯状の先端は接着固定層50近傍に達した際、接着固定層50に接しても、侵入しても、また達せず隙間が存在しても良い。好ましくは、隙間が存在せずに先端が樹脂層まで達している方がよい。また櫛の歯状の伸展部13は胴部131と櫛の歯状の先端132により構成される方が好ましいが、132のみで構成されても良い。
【0027】
櫛の歯の先端132は一定の幅、ピッチでなくとも良いが、外部回路接続の出入口に面する箇所は、その櫛の歯の幅を大きくしている(図3)。櫛の歯の外周は中空糸膜を傷つけない様にアールを設け、角部を落としてある。
【0028】
ケーシング中央から櫛の歯の根本133までの距離L1はケーシング中央からの該櫛の歯に近接するケーシング両端近傍の出入口間距離L2より長くすることが好ましいが、上記の様に先端が櫛の歯状の伸展部13が胴部を有しない場合はこの限りではない。なお、伸展部が胴部を有しない場合とは、ケーシング内壁から櫛の歯状のカラーが形成される場合であり、前記したように伸展部が櫛の歯状先端132のみで構成される場合のことをいう。この場合、櫛の歯の根本までの距離L1、ケーシング中央から第二の流路出入口までの距離L2、ケーシング中央から伸展部の分岐開始位置までの距離L3はほぼ同じとなる。
【0029】
前記の具体的な使用法において、不活性な気体と化学的に不活性な液体を排する場合、出入口12が第二の流路の出口となるが、この時外部の接続する側の断面積C2よりケーシング10側の断面積C1を小さくすることが好ましい。
【0030】
本発明に用いられるケーシングの素材は何ら限定されるものでは無いが、例えばポリカーボネイトアクリロニトリル−スチレン共重合体などにより構成される。
【0031】
本発明に用いられる中空糸膜の素材は何ら限定されるものではないが、例えば、再生セルロース、セルロース誘導体、ポリメチルメタクリレート、ポリエチレン、ポリプロピレンの如くのポリオレフィン、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルナイロン、シリコーン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデンなどのハロゲン含有高分子又はポリエステル系ポリマーアロイ等で構成される。
【実施例】
【0032】
本実施例で用いた濾過器を図1〜4を用いて説明する。本実施例で用いたケーシングの内部には、外径465μm、内径390μmの再生セルロース中空糸膜を約3900本を収納した。ケーシング10はポリカーボネイト製で長さ240mm、内径50.5mm、出入口が形成される拡径部の内径は59.5であり、ケーシング中央から伸展部の分岐開始位置までの距離L3=84.5mm、櫛の歯の根本までの距離L1=101mmはケーシング中央から第二の流路出入口までの距離L2=88mmより長く構成されている(図2)。櫛の歯状カラーについて、各櫛の歯は幅3度、櫛の歯の発生間隔は24.5度であり、これは距離で言うと12mmである。また、櫛の歯の高さは3mmとし、歯の発生間隔が櫛の歯の高さより大きくなるように設け、出入口に対面する箇所では櫛の歯の幅を33度とした(図3、4)。伸展部13の櫛の歯状の先端132と接着固定層50は接する様にした(図1)。なお、中空糸膜型濾過器組立てに際して伸展部13と接着固定層50が接する様に接着固定層となるポッティング材の量を準備するが、接着固定層であるポッティング材表面を一定にする事は難しく、完全に全周にわたり伸展部13が接着固定層50に接しなくとも良い。つまり、部分的に伸展部13の先端部132が接着固定層50に侵入しても、逆に隙間が生じてもよい。
【比較例】
【0033】
比較例として、特許文献1に示す様にケーシング内面と中空糸膜束の間に、ケーシング内周面より伸展した舌片状の板を備えた中空糸膜型濾過器を用いた。当該濾過器のケーシング部分の断面正面図を図6に示す。
ケーシング中央から舌片状板の分岐開始位置までの距離L3=84.5mm、舌片状の板の根本までの距離L1=97mm、ケーシング中央から第二の流路出入口までの距離L2=98mmとなるように構成されている。また、舌片の高さは7mm、幅は90度であり、第二の出入口に対面する位置に設けている。その他の条件は実施例と同じにした。
【0034】
[評価方法]
実施例、比較例の中空糸膜束濾過器、それぞれ30本に対し、前記特許文献2に記載の評価法に基づき、次の手順で評価を行った。第二の流路に入口11より化学的に不活性な液体であるパーフロロカーボンを4L/minで流した。第一の流路には出口41を閉じ化学的に不活性な気体である窒素を入口31より32NL/minで供給し、中空糸膜を介して第一の流路と第二の流路間の膜間差圧が約1325kPaになった所で気体の供給を止め、3秒間その状態を保持した。この評価の際、第一の流路から中空糸膜を透過し第二の流路を流れる気体と第二の流路を流れる液体である気液混合の流体が出口12より排出されるまでの間に中空糸膜の損傷を引き起こす。この後、第二の流路を水で満たし、第一の流路に空気で50〜100kPaで加圧し第一の流路から第二の流路に空気が漏れて気泡が目視で確認できるか否かで中空糸膜の損傷を確認する。気泡の発生が認められた場合を損傷があったと判断する。
【0035】
[評価結果]
上記に基づき破損回数を調べたところ、実施例では0本、比較例では2本の破損が認められし、本発明に基づく形態の有効性が確認された。破損箇所は、舌片に対面する1箇所と、それより45度ずれた1箇所であった。
以上、本発明のいくつかの実施の形態について詳説したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明の精神を逸脱しない範囲で、設計において種々の変更ができるものである。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、中空糸膜型濾過器において、流れの圧力損失を増やすことなく、中空糸膜に損傷を与える原因となる流体の中空糸膜周方向の流れの速度を小さくする事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本件発明に係る中空糸膜型濾過器の部分断面正面模式図である。(実施例)
【図2】図1のケーシング10の断面正面図である。(実施例)
【図3】図2のA−A断面図である。(実施例)
【図4】図3のうち各角度を示した図である。(実施例)
【図5】櫛の歯の断面形状を拡大例示した図である。
【図6】比較例のケーシング断面正面図である。
【符号の説明】
【0038】
1:中空糸膜型濾過器
10:ケーシング
11:第二の流路出入口(入口)
12:第二の流路出入口(出口)
13:先端が櫛の歯状の伸展部
131:伸展部13の胴部
132:伸展部13の櫛の歯
133:櫛の歯の根本
134:矩形の櫛の歯断面
135:楕円形の櫛の歯断面
136:円形の櫛の歯断面
137:凸形状の櫛の歯断面
138:凹形状の櫛の歯断面
20:中空糸膜束
30:閉鎖蓋
31:第一の流路出入口(入口)
40:閉鎖蓋
41:第一の流路出入口(出口)
50:接着固定層
61:舌片状の板
L1:ケーシング中央から櫛の歯の根本までの距離
L2:ケーシング中央からケーシング両端近傍の出口までの距離
L3:ケーシング中央からケーシング内壁より伸展部が分岐を開始する位置までの距離
C1:第二の流路出口外部接続断面
C2:第二の流路出口ケーシング接続断面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空糸膜束がその両端を接着固定層で固定されることにより収納されてなる筒型ケーシングと、筒型ケーシングの両端近傍に形成された出入口と、筒型ケーシングの両端に取り付けられ出入口を有する閉鎖蓋とを備えた中空糸膜型濾過器であって、閉鎖蓋の出入口と中空糸膜の内部空間とからなる第一の流路と、ケーシングの両端近傍に形成された出入口並びに中空糸膜束外壁及びケーシング内壁により形成される空間からなる第二の流路を有する中空糸膜濾型過器において、
第二の流路における中空糸膜束の周方向の流体の流れを遮る障害物を備えたことを特徴とする中空糸膜型濾過器。
【請求項2】
障害物が、筒型ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーである請求項1に記載の中空糸膜型濾過器。
【請求項3】
筒型ケーシングに設けた櫛の歯状のカラーが、筒型ケーシングの端部近傍から分岐した伸展部分の先端を櫛の歯状としたものである請求項2に記載の中空糸膜型濾過器。
【請求項4】
ケーシング中央から前記櫛の歯の根本までの距離が、前記ケーシング中央からケーシングの両端近傍に形成された出口までの距離より長い事を特徴とする請求項1〜3のいずれか記載の中空糸膜型濾過器。
【請求項5】
櫛の歯の発生間隔が、櫛の歯の高さより大きい事を特徴とする請求項2〜4のいずれかに記載の中空糸膜型濾過器。
【請求項6】
櫛の歯のうち、出入口に対面する箇所の歯の幅が、それ以外の歯の幅よりも大きい、あるいは櫛の歯の発生間隔が狭くなっている請求項2〜4のいずれかに記載の中空糸膜型濾過器。




【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−7180(P2006−7180A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−191869(P2004−191869)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【出願人】(303046299)旭化成ファーマ株式会社 (105)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】