説明

乗り物用灯具のカバー体

【課題】乗り物用移動体、特に鉄道車両の内部に設置された灯具のカバー体であって、火災時に燃焼したり、溶融・変形したり、破損したりすることがなく、たとえ破損してもその破片が頭上に落下することがなく、有毒ガスの発生がなく、かつ比較的軽量のカバー体を提供する。
【解決手段】乗り物用移動体の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体であって、中間膜3を介して2枚のガラス板1,2が接合されたガラス積層板10を備えてなる乗り物用灯具のカバー体である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乗り物用灯具のカバー体に関する。さらに詳しくは、本発明は、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えており、火災時に燃焼したり、変形したり、有毒ガスが発生したりすることがなく、かつ、たとえガラス板が破損しても、中間に介在する樹脂膜の接着性のために、ガラス破片の落下を防止し得る乗り物用灯具のカバー体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗り物用の灯具として、蛍光灯が多数用いられているが、振動等により高所から床に落下したときの衝撃等によりそのガラス管が破裂すると、ガラスの破片が周囲に飛散して危険である。このような危険を回避するために、例えば、高分子材料を蛍光灯ランプの表面に密着させて被覆した破損時に飛散しない蛍光灯ランプが提案されている(特許文献1参照)。
しかしながら、特急列車などの優等列車などは意匠性が求められるため、灯具はむき出し状態では使用されず、何らかの灯具カバーを設けたり、天井からの反射光による間接照明などを行う。例えば、ガラス管の外周面にガラス飛散防止用のカバーとして、シリコーンゴム、シリコーン樹脂、シリコーンフィルムなどを装着した蛍光灯が提案されている(特許文献2参照)。
しかしながら、このような灯具カバーとして、樹脂等が用いられる場合の最大の問題は、例えば鉄道車両内で火災が発生した場合、有毒ガスが発生したり、炎の熱により容易に溶けて変形し、その溶融した樹脂が頭上から落ちて、人体にやけどなどを起こすおそれがあることである。
【0003】
一方、建築物や乗り物の窓には、合わせガラスが多用されている。この合わせガラスは、複数のガラス板を、ポリビニルブチラール系や、エチレン−ビニルアセテート共重合体系などの樹脂を有機材料として用いた中間膜を介して、積層することにより製造される。この合わせガラスは、耐衝撃性や防犯性に優れているため、建築物や、乗り物の窓に広く使用されている。
しかしながら、このような合わせガラスを、乗り物用灯具に用いた例はこれまで知られていない。また、建築物や乗り物用窓に用いられる合わせガラスを、そのまま乗り物用灯具に用いると、ヘイズ値(曇価)が小さく、すなわち合わせガラスの光の散乱が少ないために、カバー越しに灯具が視認され、見栄えがよくないという問題があった。
【0004】
また、乗り物用移動体、特に鉄道車両の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体としては、火災時に燃焼したり、溶融・変形したり、破損したりすることがなく、たとえ破損してもその破片が頭上に落下することがなく、有毒ガスの発生がなく、かつ軽量のものが要求されるが、このような要求特性を充分に満たす乗り物用灯具のカバー体は、これまで知られていないのが実状であった。
【0005】
【特許文献1】特表2004−505413号公報
【特許文献2】特開2007−42317号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような状況下で、乗り物用移動体、特に鉄道車両の内部に設置された灯具のカバー体であって、火災時に燃焼したり、溶融・変形したり、破損したりすることが少なく、たとえ破損してもその破片が頭上に落下することがなく、有毒ガスの発生が少なく、かつ比較的軽量のカバー体を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記の好ましい性質を有する、乗り物用移動体の内部に設置される乗り物用灯具のカバー体を開発すべく鋭意研究を重ねた結果、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えてなるカバー体により、その目的を達成し得ることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち、本発明は、
[1]乗り物用移動体の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体であって、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えてなる乗り物用灯具のカバー体、
[2]ガラス積層板における中間膜が、樹脂成分としてポリビニルアセタール系樹脂又はエチレン−ビニルアセテート共重合体系樹脂を含むものである上記[1]に記載の乗り物用灯具のカバー体、
[3]ガラス積層板における中間膜が着色剤を含む及び/又は内側(乗り物用灯具側)ガラス板の中間膜と接しない側の表面に着色層が形成されている上記[1]又は[2]に記載の乗り物用灯具のカバー体、
[4]ガラス積層板において、2枚のガラス板の厚さが、それぞれ0.7〜2.5mmであり、中間膜の厚さが0.1〜0.9mmである上記[1]〜[3]のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体、
[5]ガラス積層板の可視光線透過率が25〜75%である上記[1]〜[4]のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体、及び
[6]ガラス積層板のヘイズ値が80〜95%である上記[1]〜[5]のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体。
を提供するものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、鉄道車両などの乗り物用移動体の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体であって、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えており、火災時に燃焼したり、変形したり、有毒ガスが発生したり、火災時に高熱を発したりすることが少なく、かつ、たとえガラス板が破損しても、中間に介在する樹脂膜の接着性のために、ガラス破片の落下を防止し得る、比較的軽量の乗り物用灯具のカバー体を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の乗り物用灯具のカバー体は、乗り物用移動体の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体であって、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えてなることを特徴とする。なお、本発明において、乗り物用移動体の内部とは、鉄道車両など乗り物用移動体を構成する壁体で囲われた内側部分全体を意味し、特に制限されるものではない。具体的には、乗り物用移動体の内壁、天井、床などが挙げられる。
【0010】
本発明の乗り物用灯具のカバー体として用いられるガラス積層板は、2枚のガラス板が中間膜を介して接合された構造を有している。前記2枚のガラス板の材質に特に制限はなく、従来建築物や乗り物用の合わせガラスに慣用されているソーダライムシリカガラスの中から、任意の材質のものを適宜選択して用いることができる。また、このガラス板は、化学強化ガラス、風冷強化ガラス、倍強度ガラス又は強化処理が施されていないフロート板ガラスなど、いずれであってもよい。
この2枚のガラス板の厚さは、得られるガラス積層板の強度及び重さなどの観点から、それぞれ0.7〜2.5mmの範囲であることが好ましく、0.9〜1.3mmの範囲であることが、さらに好ましい。
【0011】
また、該ガラス板は灯具から発せられる光の色調を調整し、また、カバー体越しに灯具が視認できないようにするために、着色層を設けるなどの方法により着色されていてもよい。着色層を設ける部分については特に制限はないが、効果的に印刷でき、また中間膜への影響がないとの観点から、ガラス積層板における内側ガラス板(灯具側のガラス板)の中間膜と接していない側の表面に設けることが好ましい。着色層の厚さについては、高温に曝された際における可燃ガスの発生を抑える点から0.1mm以下であることが好ましく、0.05mm以下であることが好ましい。
着色層を形成する方法としては特に制限はなく、公知の方法で行うことができ、例えばUV印刷等の方法を好適に用いることができる。なお、UV印刷に用いられるインキの種類及び紫外線(UV)の照射条件等については、通常UV印刷に用いられるもの及び条件の範囲で適宜選択される。
また、ガラスを着色することにより可視光線透過率を制御する場合には、後に詳述する中間膜に着色する必要性がないことから、中間膜の選択の幅を広げることができる。一方、中間膜として着色されたものを用いることにより、可視光線透過率を制御する場合には、ガラス板は必ずしも着色されている必要はない。
【0012】
本発明の乗り物用灯具のカバー体として用いられるガラス積層板における中間膜を形成する材料としては、特に制限はなく、従来、建築物や乗り物などに用いられている合わせガラスの中間膜を形成する材料として使用されているものの中から、任意のものを適宜選択して用いることができる。前記中間膜を形成する材料としては、ポリビニルアセタール系樹脂やエチレン−ビニルアセテート共重合体系樹脂などを挙げることができる。
ポリビニルアセタール系樹脂としては、例えばポリビニルアルコール(以下、「PVA」と記す)とホルムアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルホルマール樹脂、PVAとアセトアルデヒドとを反応させて得られる狭義のポリビニルアセタール樹脂、PVAとn−ブチルアルデヒドとを反応させて得られるポリビニルブチラール樹脂等が挙げられる。なかでも、優れた耐候性、強度、接着力、衝撃エネルギー吸収性、耐湿性等の諸機能のバランスにより優れる中間膜が得られることから、ポリビニルブチラール樹脂が好適である。本発明においては、これらのポリビニルアセタール系樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0013】
また、エチレン−ビニルアセテート共重合体系樹脂としては、エチレンと酢酸ビニルの共重合体(EVA)、EVAに塩化ビニルをグラフト重合させたものなどが挙げられ、EVAにおける酢酸ビニルの含量は通常40質量%以下である。本発明においては、これらのエチレン−ビニルアセテート共重合体系樹脂は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0014】
前記ガラス積層板における前記中間膜には、必要に応じ、可塑剤、着色剤、紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤などの添加剤を適宜含有させることができる。
可塑剤としては、例えば、一塩基性有機酸エステル系、多塩基性有機酸エステル系などの有機酸エステル系可塑剤や、有機リン酸系、有機亜リン酸系などのリン酸系可塑剤等が挙げられる。
着色剤は、本発明の乗り物用灯具のカバー体の透過率を調整するため、又はヘイズ値を大きくすることにより、光を散乱させカバー体内部の乗り物用灯具を視認できないようにするために用いられるものであり、特に室内の色調をニュートラルに保つことができることから、白色及び乳白色、薄緑色、薄青色、淡黄色などの淡色が有利である。
紫外線吸収剤、光安定剤、酸化防止剤については特に制限はなく、従来プラスチック添加剤として公知のものの中から適宜選択して用いることができる。
【0015】
当該ガラス積層板における中間膜の厚さは、当該ガラス積層板の接着強度、厚さ及び重さ、加熱された場合の可燃性ガスの発生量などの観点から、0.1〜0.9mmの範囲が好ましく、0.2〜0.6mmがさらに好ましい。0.1mm以上であると、乗り物用灯具のカバー体が破損した際にガラスの飛散を効果的に防止することができ、また膜の扱いが容易である。一方、0.9mm以下であると、火災により加熱された場合の可燃性ガスの発生量を抑制することができる。また、可燃ガスの急激な発生を抑制するとの観点から、2枚のガラス板の間隔は小さい方が好ましく、具体的には0.3mm以下が好ましい。
【0016】
本発明の乗り物用灯具のカバー体として用いられるガラス積層板の可視光線透過率は25〜75%の範囲であることが好ましい。可視光線透過率が25%以上であると、乗り物内の照明として十分な明るさを確保することができ、一方75%以下であると、ヘイズ値を高めたり、着色による色調を制御しやすくなる点で有利である。以上の観点から、ガラス積層板の可視光線透過率は30〜70%の範囲であることがさらに好ましい。
【0017】
また、ガラス積層板のヘイズ値は80〜95%の範囲であることが好ましい。ヘイズ値が80%以上であると、内部の乗り物用灯具がカバー体越しに視認されないため、高い意匠性が得られる。一方、ヘイズ値が95%以下であると、散乱によるエネルギーのロスが少なく、乗り物内の十分な明るさを確保することができる。以上の観点から、ヘイズ値は85〜95%の範囲であることがさらに好ましい。
なお、可視光線透過率は、JIS R3212 3.11(可視光線透過率試験)に準拠し、ヘイズ値は、JIS K7105 6.4ヘイズに準拠した値を示す。
【0018】
次に、当該ガラス積層板の製造方法の一態様について説明する。
まず、前述したポリビニルアセタール系樹脂などの中間膜を形成する材料及び所望により用いられる各種添加剤を含む樹脂組成物を調製したのち、この樹脂組成物を公知の方法により中間膜用シートに製膜する。
次いで、2枚のガラス板の間に、前記の中間膜用シートを介挿し、これらを接着させることにより、所望のガラス積層板を得ることができる。ここで、接着は既知の方法で行うことができ、例えば、中間膜用シートを介挿した2枚のガラス板を70〜110℃程度の温度で加熱した後、加圧することで予備接着(予備圧着)を行ったのち、この予備接着された構成体をオートクレーブの中に入れ、温度120〜150℃程度、圧力1〜1.5MPa程度の条件で加熱加圧して本接着(本圧着)を行う方法がある。また、中間膜用シートを介挿した2枚のガラス板を、排気により内部を減圧することができる袋(真空バック)内に挿入し、減圧状態で加熱して予備接着(予備圧着)し、その後本接着(本圧着)を行う方法がある。
図1(a)は、このようにして得られたガラス積層板の1例の断面図であって、ガラス積層板10は、ガラス板1とガラス板2とが、中間膜3を介して接合され、一体化してなる構造を有している。
また、前記他方のガラス板の中間膜と接しない側の表面に着色層を有していてもよく、図1(b)に示すように、ガラス積層板10が、ガラス板1と着色層4を有するガラス板2とが、中間膜3を介して接合され、一体化してなる構造を有していてもよい。
【0019】
本発明の乗り物用灯具のカバー体は、このようにして得られたガラス積層板を、従来公知の切断装置を用いて、所定形状に切断し、次いで切断面の研磨処理(面取り)を行ったのち、このガラス積層板を、難燃性シリコーンゴム等にて外周をパッキングすることにより、製作することができる。
【0020】
また、透過色は特に限定されないが、一般的には白色が好ましく、具体的には、JIS Z8729に準拠したL***表色系による透過色の表示方法でa*及びb*が共に−5から+5の間であることが望ましい。ここで、透過色の表示において、光源は標準の光Cを用いた。
【0021】
本発明の乗り物用灯具のカバー体は、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えており、火災時に燃焼したり、変形したりすることがなく、かつ、たとえガラス板が破損しても、中間に介在する樹脂膜の接着性のために、ガラス破片の落下を防止し得るなどの特性を有する。
本発明の乗り物用灯具のカバー体が適用される乗り物用移動体としては、例えば鉄道車両、自動車、船舶、飛行機などを挙げることができる。
【0022】
本発明のカバー体の使用態様について、図2及び図3を用いて説明する。図2は乗り物用灯具30が天井20の窪みに設置された場合を例示しており、乗り物用灯具のカバー体100は、ガラス積層板10、枠体11、及び接続部12からなる。乗り物用灯具のカバー体100は、乗り物用灯具30の全体を覆うように天井20に設置され、接続部12によって、天井20に固定される。図2に示す例では、ガラス積層板10として平板状のものを使用している。
一方、図3は平面状の天井20に乗り物用灯具30が固定されている場合を例示しており、乗り物用灯具のカバー体100はガラス積層板10、枠体11、接続部12、及び側面部13からなる。図3に示す態様では、ガラス積層板10の形状が曲面状であるものを用いている。このような曲面のガラス積層板はプレス成形等の方法で製造することができる。
【実施例】
【0023】
次に、本発明を実施例により、さらに詳細に説明するが、本発明は、この例によってなんら限定されるものではない。
(評価方法)
(1)可視光線透過率
JIS R3212 3.11(可視光線透過率試験)に準拠し、分光光度計((株)島津製作所製「UV3101PC」)を用いて測定した。
(2)特定波長(350nm及び370nm)における透過率
上述の可視光線透過率と同様の方法で測定した。
(3)紫外線透過率
ISO9050(2003年)の3.6 UV−transmittanceに準拠して測定した。
(4)透過色
JIS Z8729に準拠して測定した。
(5)ヘイズ値
JIS K7105 6.4ヘイズに準拠し、タッチパネル式ヘイズコンピューター(スガ試験機(株)「HZ−1」)を用いて測定した。4回測定し、その平均値で評価した。
【0024】
実施例1
片表面にUV印刷による着色層(着色層の厚さ20μm)を有する厚さ1.1mmのソーダライムシリカガラス板の着色層とは反対側の面と、他の厚さ1.1mmのソーダライムシリカガラス板とを対向させ、その間に無色透明で厚さ0.25mmのエチレン−ビニルアセテート製シート[積水化学工業(株)製、商品名「S−LEC SEF」]を介挿し、約2.7kPaの真空度で脱気した袋内にて、約100℃の温度で予備接着(予備圧着)を行った。次いで、この予備接着された構成体をオートクレーブの中に入れ、温度 約140℃、圧力 約1.37MPaの条件で加熱加圧して、本接着(本圧着)を行い、ガラス積層板を作製した(図1(b)参照)。
次に、このガラス積層板を、ダイヤソーにより、100mm×100mmの正方形に切断して試料とし、上記方法にて評価した。結果を第1表に示す。なお、各測定結果は、着色層の有る側から光を入射させた場合の測定結果である((図1(b)において下側から光を入射した場合)。
【0025】
実施例2
実施例1において、着色層の厚さを15μmと薄くしたこと以外は実施例1と同様にして、ガラス積層板を得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0026】
実施例3
実施例1において、無色透明のエチレン−ビニルアセテート製シートに代えて、白色で厚さ0.25mmのエチレン−ビニルアセテート製シート[積水化学工業(株)製、商品名「S−LEC ENフィルム」]を用い、着色層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ガラス積層板を得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。
【0027】
実施例4
実施例1において、無色透明のエチレン−ビニルアセテート製シートに代えて、和紙調の厚さ0.25mmのエチレン−ビニルアセテート製シート[積水化学工業(株)製、商品名「S−LEC ENフィルム」]を用い、着色層を設けなかったこと以外は、実施例1と同様にして、ガラス積層板を得た。実施例1と同様に評価した結果を第1表に示す。なお、透過率及び透過色の測定はランダムに4箇所の部分を選んで行った。
【0028】
【表1】

【0029】
また、実施例1で作製した灯具のカバー体について、鉄道に関する技術上の基準を定める省令第83条の解釈基準に定められる試験方法I及び試験方法IIにより評価を行った。
試験方法Iは、B5判の供試材(182mm×257mm)を45度の傾斜に保持し、燃料容器の底の中心が、供試材の下面中心の垂直下方25.4mm(1インチ)のところにくるように、熱伝導率の低い材質(本評価ではコルクを使用)の台にのせ、純エチルアルコール0.5mLを入れて着火し、燃料が燃え尽きるまで放置する試験であり、アルコール燃焼中の供試材への着火、着炎、発煙状態、炎の状態及びアルコール燃焼後の残炎、残塵、炭化、変形状態より燃焼判定を行うものである。
また、該試験方法IIは、ISO5660−1:2002に準拠したコーンカロリーメータ燃焼発熱性試験により、総発熱量(MJ/m2)、着火時間(秒)及び最大発熱速度(kW/m2)を評価するものである。供試材としては、縦横約100mmの正方形のもの3枚を用いた。放射熱は50kW/m2、試験時間は10分間とした。
測定結果は、上記3枚の測定値の平均値で評価する。実施例1の灯具のカバー体について試験を行った結果、試験方法Iの結果は不燃性であるとの判断であり、試験方法IIの結果は、総発熱量が6.3MJ/m2、着火時間が78.9秒、最大発熱速度が217.1kW/m2であった。
なお、着火時間とは、試験片から炎が確認されてから10秒以上炎が存在した場合を着火とみなし、試験開始から最初に着火が確認されるまでの時間をいう。
本発明の灯具のカバー体は、総発熱量が8MJ/m2以下と小さく、着火時間が60秒以上と長く、かつ、最大発熱速度が300kW/m2以下と小さい。従って、火災時の燃焼性が極めて小さく、優れた性能を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明の乗り物用灯具のカバー体は、火災時に燃焼したり、変形したり、有毒ガスが発生したりすることがなく、かつ、たとえガラス板が破損しても、中間に介在する樹脂膜の接着性のために、ガラス破片の落下を防止し得るなどの特性を有し、乗り物用移動体、特に鉄道車両の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体として用いられる。また、本発明の乗り物用灯具のカバー体は、カバー越しに灯具が視認されず、意匠性が高い。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明で用いるガラス積層板の断面図である。
【図2】本発明の乗り物用灯具カバーの一態様を示す斜視図である。
【図3】本発明の乗り物用灯具カバーの他の一態様を示す斜視図である。
【符号の説明】
【0032】
1 ガラス板
2 ガラス板
3 中間膜
4 着色層
10 ガラス積層板
11 枠体
12 接続部
13 側面部
20 天井
30 灯具
100 灯具のカバー体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗り物用移動体の内部に設置された乗り物用灯具のカバー体であって、中間膜を介して2枚のガラス板が接合されたガラス積層板を備えてなる乗り物用灯具のカバー体。
【請求項2】
ガラス積層板における中間膜が、樹脂成分としてポリビニルアセタール系樹脂又はエチレン−ビニルアセテート共重合体系樹脂を含むものである請求項1に記載の乗り物用灯具のカバー体。
【請求項3】
ガラス積層板における中間膜が着色剤を含む及び/又は内側(乗り物用灯具側)ガラス板の中間膜と接しない側の表面に着色層が形成されている請求項1又は2に記載の乗り物用灯具のカバー体。
【請求項4】
ガラス積層板において、2枚のガラス板の厚さが、それぞれ0.7〜2.5mmであり、中間膜の厚さが0.1〜0.9mmである請求項1〜3のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体。
【請求項5】
ガラス積層板の可視光線透過率が25〜75%である請求項1〜4のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体。
【請求項6】
ガラス積層板のヘイズ値が80〜95%である請求項1〜5のいずれかに記載の乗り物用灯具のカバー体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−289544(P2009−289544A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139742(P2008−139742)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(506093821)株式会社コロナ宣広社 (2)
【出願人】(000004008)日本板硝子株式会社 (853)
【Fターム(参考)】