説明

交流電圧制御装置

【解決課題】電流極性を持つ誘導性負荷を制御する際の諸問題を解決した1スイッチMERSを用いた交流電圧制御装置を提供する。
【解決手段】
交流スイッチ回路と、交流スイッチ回路に並列に接続され、交流スイッチ回路の電流遮断時に誘導性負荷に流れる電流の磁気エネルギーを回生して蓄積するコンデンサと、交流スイッチ回路に制御信号を与えて、オン/オフ制御を行う制御回路と、コンデンサの両端電圧が略ゼロとなる時点を検出し、制御回路に対して交流スイッチ回路をオンにする指令信号を送るコンデンサ電圧検出回路と、を備えるとともに、コンデンサの静電容量は、交流電源の周波数以上の周波数で、誘導性負荷のインダクタンス成分と共振状態となる容量であって、制御回路は、指令信号の受信タイミングで交流スイッチ回路にオンの制御信号を送って交流スイッチ回路をオンにした後、予め設定されたオン時間(ただし、交流電源の周期の半周期以内の時間)経過後に交流スイッチ回路をオフにする制御信号を送ってオフにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交流電源と負荷との間に接続される磁気エネルギー回生スイッチを用いた交流電圧制御装置に関する。特に、磁気エネルギー回生スイッチを構成するスイッチング素子の数が2個以下である回路形態の磁気エネルギー回生スイッチを用いた交流電圧制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気エネルギー回生スイッチ(以下、「MERS」という)を交流電源と負荷の間に接続して、電流位相を進ませることで負荷電圧を制御できることは既に開示されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
MERSは、逆阻止能力を持たない、すなわち逆導通型のスイッチング素子/回路を用いる。逆導通型のスイッチング素子/回路として、たとえば製造時に寄生ダイオードを内蔵したパワーMOSFETなどの半導体素子、または自己消弧形素子とダイオードとを逆並列に接続したものから成る回路などがある(以下、これらの逆導通型のスイッチング素子/回路を、単に、「逆導通型半導体スイッチ」という)。
【0004】
MERSは、4個の逆導通型半導体スイッチで構成されるブリッジ回路と、ブリッジ回路の直流端子間に接続されたコンデンサとから成る。コンデンサの静電容量は、たとえば、誘導性負荷、送電線路、または発電機などMERSに接続される目的のリアクタンス成分と共振状態となる容量であって、制御の目的・範囲に応じてその容量を選択する。また、コンデンサの静電容量は、コンデンサの静電容量と目的のインダクタンス成分で決まる共振周波数を、逆導通型半導体スイッチのスイッチング周波数以上とすることで、逆導通型半導体スイッチがオフするときゼロ電圧で、オンするときゼロ電流であるソフトスイッチング動作とすることができる。
【0005】
MERSには、少なくとも3つの逆導通型半導体スイッチを駆動するための、ぞれぞれと絶縁した制御回路および制御回路用の電源装置と、4個の逆導通型半導体スイッチを駆動するための制御信号の発生と供給が必要である(以下、この態様のMERSを「フルブリッジ型MERS」という)。
【0006】
フルブリッジ型MERSは、機能や制御範囲が広い利点があるが、逆導通型半導体スイッチの数が4個で、電流が通過する逆導通型半導体スイッチの数が多く、導通損失が大きい問題があった。
【0007】
これに対し、フルブリッジ型MERSの機能や制御範囲が一部制限されるが、1個のコンデンサと、2個の逆導通型半導体スイッチで構成可能な横ハーフ型の簡易のMERS回路(以下、「1コンデンサ横ハーフ型MERS」という)があることは、既に開示されている(たとえば、特許文献2参照)。
【0008】
より詳しくは、1コンデンサ横ハーフ型MERSは、1個のコンデンサと、2個の逆導通型半導体スイッチ同士を逆直列接続した回路を、並列に接続したものから成る。コンデンサの静電容量については、フルブリッジ型MERSと同様である。
【0009】
1コンデンサ横ハーフ型MERSは、両方の逆導通型半導体スイッチを遮断状態にしても、コンデンサに電流が流れるために、負荷電流を完全に遮断できないなど機能に制約がある。しなしながら、部品点数が少ない利点があり、電圧制御、力率制御応用などでは十分な性能を発揮できる。また、逆導通型半導体スイッチを構成する自己消弧形素子の負極端子同士を接続し、負極接地とすることができる。すなわち共通の制御回路用の電源装置で、2個の自己消弧形素子のゲートを駆動でき、制御回路および制御回路用の電源装置が簡素化できる利点がある。
【0010】
1コンデンサ横ハーフ型MERSを交流電源と負荷との間に接続して交流電圧制御装置を構成する場合、1コンデンサ横ハーフ型MERS内の逆導通型半導体スイッチのスイッチング方法には、スイッチングのタイミングの決定方法によりいくつかの方法があるが、代表的なものは次の2つの方法である。すなわち、
1)交流電源の電圧位相に同期して、逆導通型半導体スイッチを構成する自己消弧形素子を、一方の逆導通型半導体スイッチを構成する自己消弧形素子を導通状態(以下、「逆導通型半導体スイッチをオン」という)にするときは、もう一方の逆導通型半導体スイッチを構成する自己消弧形素子を阻止状態(以下、「逆導通型半導体スイッチをオフ」という)にするゲートを駆動する制御信号であって、交流電源の電圧位相との位相差を制御の目的/範囲に応じて変化させることで、コンデンサに発生するリアクタンス電圧を制御する方法(以下、「電源電圧位相同期制御」方法という)。
2)コンデンサの両端電圧を検出して、2個の逆導通型半導体スイッチの両方を同時にオン/オフをする制御方法であって、コンデンサの両端電圧が略ゼロのときに2個の逆導通型半導体スイッチを同時にオンにしてコンデンサを短絡して電流を迂回させ、制御の目的/範囲に応じた電源周期の半周期以内の予め設定された時間だけオン状態を保持した後、オフ状態にしてコンデンサを交流電源と負荷との間に直列に挿入した状態にし、コンデンサを充放電させることで、コンデンサに発生するリアクタンス電圧を制御する方法(以下、「電源非同期制御」方法という)。
【0011】
1コンデンサ横ハーフ型MERSを構成する逆導通型半導体スイッチのスイッチング方法に、電源非同期制御方法を用いるのが利点の大きい方法である。電源非同期制御は、電源電圧位相同期制御に比較して、交流電源の電圧位相を検出する必要が無いため、制御回路をより簡素化できる。また、逆導通型半導体スイッチとして、製造時に寄生ダイオードを内蔵したパワーMOSFETを使用すると、寄生ダイオードが導通状態になるときにMOSFETの部分も導通状態とする同期整流方式の動作となり、さらなる導通損失の軽減をすることができる。
【0012】
電源非同期制御方法は、コンデンサの両端電圧を検出して、コンデンサの両端を短絡/開放する。このとき2個の逆導通型半導体スイッチは、電流に対して順逆双方向に阻止能力があり、電流を制御信号によりオン/オフすることのできる自己消弧形素子/回路として使用されている。すなわち、交流スイッチ素子/回路(以下、「交流スイッチ回路」という)として使用されていることが分かる。
【0013】
1コンデンサ横ハーフ型MERSを構成する2個の逆導通型半導体スイッチを、交流スイッチ回路に置き換えると、1個のコンデンサと、1つの交流スイッチ回路で構成される、より簡易な構成のMERSになる(以下、「1スイッチMERS」という)。
【0014】
より詳しくは、1スイッチMERSの回路として、代表的なものは次の2つが挙げられ、
1)1個のコンデンサと、その交流端子がコンデンサと並列に接続される1個のダイオードブリッジと、ダイオードブリッジの直流端子間に接続され、自己消弧形素子の正極側が直流端子の正極側に、自己消弧形素子の負極側が直流端子の負極側にそれぞれ接続された、1個の自己消弧形素子から構成される交流スイッチ回路から成るもの、
2)1個のコンデンサと、双方向サイリスタ素子、または2個のサイリスタを逆並列に接続した回路から成る交流スイッチ回路とを、並列に接続したものから成るもの、がある。
上述の交流スイッチ回路の例は、従来技術である交流電圧位相制御、またはその逆位相制御で使われていたものであるが、制御により回路に流れる電流を遮断することはない。1スイッチMERSでは、その使用の目的や効果が異なるのが特徴である。なお、自己消弧形素子には、GTOサイリスタ、GCTサイリスタ、トランジスタ、IGBT、IEGT、FET、またはパワーMOSFETなどを使用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2004−260991号公報
【特許文献2】特開2007−058676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、交流電源と電流極性をもつ誘導性負荷との間に接続される1スイッチMERSを、電源非同期制御方法で制御すると、誘導性負荷によっては、流れる電流の非対称性が発生する。誘導性負荷が照明灯具であれば照明灯が低周波で明暗を繰り返すフリッカ現象や、消灯してしまう立ち消え現象の原因となり得る。
【0017】
本発明は、上述のような事情に鑑み為されたものであり、電流極性を持つ誘導性負荷を制御する際の諸問題を解決した1スイッチMERSを用いた交流電圧制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明は、交流電源と誘導性負荷との間に直列に挿入され、負荷電圧を増減させる制御を行う、1スイッチMERSを用いた交流電圧制御装置に関し、本発明の上記目的は、交流スイッチ回路と、交流スイッチ回路に並列に接続され、交流スイッチ回路の電流遮断時に誘導性負荷に流れる電流の磁気エネルギーを回生して蓄積するコンデンサと、交流スイッチ回路に制御信号を与えて、オン/オフ制御を行う制御回路と、コンデンサの両端電圧が略ゼロとなる時点を検出し、制御回路に対して交流スイッチ回路をオンにする指令信号を送るコンデンサ電圧検出回路と、を備えるとともに、コンデンサの静電容量は、交流電源の周波数以上の周波数で、誘導性負荷のインダクタンス成分と共振状態となる容量であって、制御回路は、指令信号の受信タイミングで交流スイッチ回路にオンの制御信号を送って交流スイッチ回路をオンにした後、所定のオン時間経過後に交流スイッチ回路をオフにする制御信号を送ってオフにするが、コンデンサ電圧検出回路がコンデンサの両端電圧が略ゼロを検出してから次に略ゼロを検出するまでの時間が交流電源の半周期の時間となるように、オン時間を調整して制御をすることを特徴とする交流電圧制御装置によって達成される。
【0019】
また、本発明の上記目的は、交流電源の電圧が略ゼロとなる時点を検出する電源電圧検出回路をさらに備えるとともに、電源電圧検出回路が、電源電圧が略ゼロを検出してから所定時間後に、交流スイッチ回路をオフにするに指令信号を制御回路に送って交流スイッチ回路をオフにすることにより、オン時間を調整して制御をすることを特徴とする交流電圧制御装置によって、効果的に達成される。
【0020】
また、本発明の上記目的は、電源電圧検出回路が、電源電圧が略ゼロを検出してから所定時間後に、交流スイッチ回路をオフにするが、所定時間が交流電源の電源周波数に応じた所定の値設定されることを特徴とする交流電圧制御装置によって、効果的に達成される。
【0021】
さらに、本発明の上記目的は、交流スイッチ回路が、2個の逆導通型のNチャンネル型電界効果トランジスタ(以下、単に「FET」という)の第一のFETのソースと第二のFETのソース同士を接続した回路で構成され、制御回路のオン/オフ制御を行う指令信号により、2個のFETを同時にオン/オフを行うことを特徴とする交流電圧制御装置によって、効果的に達成される。
【0022】
さらに、本発明の上記目的は、交流スイッチ回路が、1個のダイオードブリッジと、ダイオードブリッジの直流端子間に接続され、自己消弧形素子の正極側が直流端子の正極側に、自己消弧形素子の負極側が直流端子の負極側にそれぞれ接続された、1個の自己消弧形素子から構成されるものであることを特徴とする交流電圧制御装置によって、効果的に達成される。
【0023】
さらに、本発明の上記目的は、交流スイッチ回路が、双方向サイリスタ素子で構成されるものであることを特徴とする交流電圧制御装置によって効果的に達成される。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る制御方法を持つ交流電圧制御装置によれば、電流極性を持つ誘導性負荷の制御の際に生じる負荷電流の振動を、実用上問題の無いレベルまで抑制することができる。たとえば、誘導性負荷が照明灯具であれば照明灯が低周波で明滅するフリッカ現象や、立ち消え現象を抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明に係る交流電圧制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明に係る交流電圧制御装置を利用して誘導性負荷の電圧制御を行う例を示す図である。
【図3】本発明に係る交流電圧制御装置の動作原理を説明するための図である。
【図4】電流極性による負荷電流の非対称性が表れない場合の、交流電圧制御装置の出力波形を示すものである。
【図5】本発明に係る交流電圧制御装置のスイッチの制御方法を示す図である。
【図6】本発明に係る交流電圧制御装置を放電ランプ(蛍光灯)の調光に利用した場合の回路図を示すものである。
【図7】20Wグロースタータ式蛍光灯に対する調光の実験波形を示す図である。
【図8】蛍光灯極性(電流極性)による波形の非対称性に対する対策の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明に係る実施の形態について、図面を参照しながら説明する。各図面に示される同一の構成要素、部材、処理には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、実施の形態は、発明を限定するものではなく例示であって、実施の形態に記述されるすべての特徴や組合せは、必ずしも発明の本質的なものであるとは限らない。
【0027】
図1は、本発明に係る制御方法を持つ交流電圧制御装置の構成を示すブロック図である。
より詳しくは、交流電圧制御装置10は、交流スイッチ回路40と、交流スイッチ回路40に並列に接続され、交流スイッチ回路40の電流遮断時に回路に流れる電流の磁気エネルギーを回生して蓄積するコンデンサ11と、交流スイッチ回路40に制御信号を与えて、オン/オフ制御を行う制御回路14と、コンデンサ11の両端電圧が略ゼロとなる時点を検出し、制御回路14に対して交流スイッチ回路40をオンにする指令信号を送るコンデンサ電圧検出回路15と、を備える。交流スイッチ回路40は、電流に対して順逆双方向に阻止能力があり、電流を制御信号によりオン/オフすることのできる回路である。
【0028】
図2は、本発明に係る制御方法を持つ交流電圧制御装置10を利用して誘導性負荷30の電圧制御を行う例を示す図である。
より詳しくは、入力用の交流電源20と、誘導性負荷30との間に交流電圧制御装置10が直列に挿入されて使用される。コンデンサ11の静電容量Cは、誘導性負荷30のインダクタンス成分Lで決まる共振周波数が、交流電源20の周波数以上となるように選定する。
【0029】
次に、図2の交流電圧制御装置10の回路の動作原理を、図3に基づいて説明する。
図3は、図1の交流スイッチ回路40として、ダイオードブリッジ12と、ダイオードブリッジ12の直流端子間に接続され、ドレイン側が直流端子の正極(+)側に、ソース側が直流端子の負極(−)側にそれぞれ接続した、NチャンネルMOSFET13と、を使用している。交流スイッチ回路40のオン/オフは、制御回路14がNチャンネルMOSFET13のゲートを駆動する指令信号を送ることで実現される。なお、図3は、動作原理を説明するものであり、制御回路14、コンデンサ電圧検出回路15、交流電源20、誘導性負荷30は図示されていない。また、NチャンネルMOSFET13は、単極単投スイッチ回路記号で示している。
【0030】
図4は、図2の交流電圧制御装置10のコンデンサ11の電圧、電流、制御信号の波形と、図3のぞれぞれの状態に対応する区間を示している。
【0031】
最初に、NチャンネルMOSFET13(以下、単に「スイッチ13」という)がオフの状態で、コンデンサ11に電荷がない状態とする。コンデンサ11は、交流電源20と誘導性負荷30の間に直列に挿入されている状態になる。
1)交流電源20からコンデンサ11に電流が流れ、コンデンサ11を充電する。図3(a)、図4の区間(a)に示す状態になる。
2)やがて、誘導性負荷30のインダクタンス成分Lとコンデンサ11が共振し、コンデンサ11が放電し始め、コンデンサ11を流れる電流の極性が反転する。図3(b)、図4の区間(b)に示す状態になる。
3)コンデンサ電圧検出回路15は、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]となったときを検出し、スイッチ13をオンにする。図3(c)、図4の区間(c)に示す状態となる。このとき、コンデンサ11の両端は、スイッチ13とブリッジダイオード12内の2個のダイオードを通して短絡され、コンデンサ11は、迂回された状態になる。電流は、図3(c)の矢印の向きに流れる。
4)設定されたスイッチ13をオンにする時間が経過した後(オンの状態を維持する時間については後述する)、再びスイッチ13をオフにすると、コンデンサ11に電流が流れ、コンデンサ11を充電する。図3(d)、図4の区間(d)に示す状態になる。このとき、流れる電流の極性は、図3(a)の状態と逆になる。
5)やがて、誘導性負荷30のインダクタンス成分Lとコンデンサ11が共振し、コンデンサ11が放電し始め、コンデンサ11を流れる電流の極性が反転する。図3(e)、図4の(e)に示す状態になる。
6)コンデンサ電圧検出回路15は、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]となったときを検出し、スイッチ13をオンにする。図3(f)、図4の(f)に示す状態になる。このとき、コンデンサ11の両端は、スイッチ13とブリッジダイオード12内の2個のダイオードを通して短絡され、コンデンサ11は、迂回された状態になる。電流は、図3(f)の矢印の向きに流れる。設定されたスイッチ13をオンにする時間が経過した後、再びスイッチ13がオフにすると、コンデンサ11に電流が流れ、コンデンサ11を充電する。図3(a)、図4(a)の状態に戻る。以降、これを繰り返すことで負荷電流位相を制御することで、負荷電圧を制御することができる。
【0032】
上述の交流電圧制御装置10の回路の動作原理の通り、コンデンサ11に電荷が残っている状態でのコンデンサ11の両端短絡を防ぐため、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]のときに、スイッチ13をオンにする必要がある。すなわち、コンデンサ電圧検出回路15で、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]が検出されているときにスイッチ13をオンにすることになる。
コンデンサ11の両端電圧が略0[V]が検出されているときにスイッチ13をオンすると、コンデンサ11の電圧は略0[V]に保たれる。また、スイッチ13がオフのときは、コンデンサ11と誘導性負荷30のインダクタンス成分Lが共振し、誘導性負荷30に流れる電流の極性が反転する。コンデンサ11は共振による充放電が完了すると、再びコンデンサ11の両端電圧は略0[V]になる。
【0033】
<電源非同期制御方法>
図5(A)は、交流電源20の電圧位相と非同期で制御を行う場合を示すもので、「電源非同期制御」方法と呼ばれるものである。すなわち、コンデンサ電圧検出回路15で、コンデンサ11の両端電圧を監視し、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]を検出した時点で制御回路14にオンの指令信号を送り、制御回路14がスイッチ13のゲートに対して、あらかじめ設定された電源周期Tの半周期以内の時間Ton(以下、「オン時間」という)だけオン信号を発し、スイッチ13をオンにする。オン時間Tonに達するとスイッチ13はオフにされ、コンデンサ11の充電が開始される。この制御方法の場合、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]とほぼ同時にスイッチ13をオンにするため、制御の対象となるのは、オン時間Tonのみである。オフにする時間Toff(以下、「オフ時間」という)は、コンデンサ11の充放電時間、すなわち、回路の特性(誘導性負荷30のリアクタンス成分L、等価抵抗R、コンデンサ11の静電容量C)で決まるためである。スイッチ13をオフにしてから、コンデンサ11と誘導性負荷30のリアクタンス成分Lとの共振の半周期後に誘導性負荷30を流れる電流がゼロクロスする。このため、電流位相を制御することができる。
【0034】
電源非同期制御方法は、1つのコンデンサ電圧検出回路15と、1つの制御回路で済み、交流電圧制御装置10の構成が簡素になるなど利点が大きい制御方法である。しかしながら、誘導性負荷30によっては、入力電流の極性による電流の非対称性が発生することがある。たとえば、銅鉄安定器を用いた放電灯の場合には、正の電圧がかかる期間と、負の電圧がかかる期間で電流の流れ方が変わる(非対称になる)ことがある。その場合には、入力電流の極性の影響によりスイッチ13のオン時間Tonとオフ時間Toffにばらつきが生じ、結果、スイッチ13のスイッチング周期tのオン時間Tonとオフ時間Toffの和が電源周期Tの半周期T/2を超えてしまうケースがある。この状態は不安定要因となり、放電灯が低周波で明暗を繰り返すフリッカ現象や、消灯してしまう立ち消え現象の原因となり得る。
【0035】
本発明は、上述のような事情に鑑み為されたものである。本発明に係る交流電圧制御装置10のスイッチ13の制御方法を、図と数式を使って説明する。
【0036】
図5(B)は、本発明に係る制御を説明するためのものであり、スイッチ13のオン/オフの状態を、スイッチング周期毎に調整する様子を示している。
【0037】
<電源周期同期制御方法>
電源周期Tは、交流電源20で決まる。そこで、上述のケースに対応するため、スイッチ13のスイッチング周期tを電源周期Tの半周期T/2に一致させるように制御する。すなわち、電源周期Tに同期させて制御すると、非対称性を緩和することができる。次式(1)で表される条件に近くなるように制御する。(以下、この制御方法を、「電源周期同期制御」方法という)。
T/2=t=Ton+Toff …(1)
上述の式(1)が満たされる状態の制御信号を、「理想パルス」といい、図5(D)で図示されている。入力電流の極性による電流の非対称性をもつ誘導性負荷30の電圧と電流の特性は、一般に非線形である場合が多い。また、電源周期、入力電圧以外に、誘導性負荷30の製造時のばらつき、周囲温度や経年劣化等により特性が変化する場合が多い。あるスイッチング周期t1のときのTon1とToff1の、上述の式(1)との差異Δ1を計算し、差異Δ1が0に近くなるように次のスイッチング周期t2のオン時間Ton2を調整する制御を行う。正の比例定数をKとすると、差異Δ1は、次式(2)で表される。
Δ1=T/2−(Ton1+Toff1) …(2)
また、次のスイッチング周期t2のオン時間Ton2は、理想パルスのときのオン時間(以下、「目標オン時間」という)をTtargetとすると、次式(3)で表される。
on2=Ttarget+KΔ1 …(3)
さらに、同様に、次のスイッチング周期t3の差異Δ2、オン時間Ton3は、次式(4)、(5)で表される。
Δ2=T/2−(Ton2+Toff2) …(4)
on3=Ttarget+KΔ2 …(5)
図5(B)波形から、差異Δ1は負の値となり、オン時間Ton2は目標オン時間Ttargetより短くなる。また、差異Δ2は正の値となり、オン時間Ton3は、目標オン時間Ttargetより大きくなり、オフ時間Toff3は短くなる。以上より、あるスイッチング周期のオン時間とオフ時間の理想パルスとの差異Δによって、オフ時間が短い時は次のスイッチング周期で長くなるように、同様に、オフ時間が長いときは次のスイッチング周期で短くなるように、オン時間を変化させ、この動作を繰り返し行うと、オフ時間と理想パルスのオフ時間との差が徐々に小さくなっていく。上述の式(2)、(3)を一般化すると、次式(6)、(7)で表すことができる。
on(n+1)=Ttarget+KΔn …(6)
Δn=T/2−(Ton(n)+Toff(n)) …(7)
上述の式(7)で、Δnは、理想パルスとの差であるから、電源周期同期制御方法を繰り返すとゼロに近づいていく。n→∞としたとき、Δ∞=0となる。結果、オン時間は、Ton(∞)=Ttargetとなり、目標オン時間に収束することが保証される。
ただし、Ttarget≠0すなわちTon≠0を満たすことが必要になる。
【0038】
日本国内の様に地域によって電源周波数が異なる場所で、交流電圧制御装置10の可用性を高めるには、電源周波数1/Tを検出し自動的に追従させることが望ましい。交流電源装置10に電源周期Tを検出する回路(以下、「電源周期検出回路」という)を追加する必要があるが、この検出回路に電源電圧が略0[V]も検出できる機能(以下、「電源電圧0検出機能」という)を持たせると、スイッチ13のゲートを、上述の電源非同期制御と併せて、電源電圧位相同期制御を併用する制御方法(図5(C)参照)を行い、電源周期同期制御方法と同様に、入力電流の極性による電流の非対称性を持つ誘導性負荷30を安定的に制御することができる。
【0039】
<電源非同期制御と電源電圧位相同期制御の併用>
より詳しくは、図5(C)を参照しつつ説明する。制御回路14は、コンデンサ11の両端電圧が略0[V]を検出した時点でスイッチ13をオンの状態にする信号を発生させるが、電源電圧0検出機能によって交流電源20の電圧が略0[V]が検出されてから所定時間△t後にスイッチ13をオフにする信号を発生させる制御を行うことで実現できる。(以下、この制御方法を、「電源非同期制御と電源電圧位相同期制御の併用」方法という)電源非同期制御と電源電圧位相同期制御の併用方法は、電源周期検出回路の検出結果に応じて、所定時間△tの最大値を適切に設定し、△t≠0から設定した△tの最大値の範囲で変化させることで、誘導性負荷30に印加される負荷電圧を制御することができる。
【実施例1】
【0040】
図6は、本発明に係る交流電圧制御装置10を放電ランプのうち蛍光灯の調光に利用した場合の回路図を示すものである。なお、制御回路14及びコンデンサ電圧検出回路15は便宜上図示を省略している。図7は、図6で示した回路図で、調光の実験を行った実験結果を示すものである。
【0041】
より詳しくは、図7は、図6で示した回路図で、以下の回路定数を用いたときのコンデンサ11の両端電圧、放電ランプに流れる電流、スイッチ13をオン/オフするゲート駆動制御信号の波形を示している。図7(A)は、オン時間(ゲート幅)が2.5msの場合で、図7(B)は、5msの場合を示している。
放電ランプ: 20Wグロースタータ式蛍光管、
電源電圧(実効値): AC100Vrms、
電源周波数: 50Hz、
コンデンサの静電容量: 2.2マイクロF、
銅鉄安定器: 20W用(AC100Vrms/50Hz/22W)
【0042】
図6で示した回路で、スイッチ13のオン時間を略0msから6ms程度まで変化させると、蛍光管の入力電力が5Wから22W(銅鉄安定器の定格電力)まで変化する。
図7(A)、(B)より、スイッチ13のオン時間を制御することによって電流の位相が変化(交流電源からみた力率が変化)し、放電ランプの調光が可能であることがわかる。
【0043】
図7(A)に示したとおり、本発明に係る実施例では、スイッチ13のオン時間が2.5ms近傍においてコンデンサ11の両端電圧が電流の極性に対して非対称となり、蛍光管に目視でも確認できるような不快なフリッカ現象が発生する。交流電源20の電源周期Tの1サイクル中に発生する2つのコンデンサ11の両端電圧の尖頭電圧が同じ電圧にはならず、電圧の異なる二つの尖頭電圧となる。結果として電流の非対称性につながり、蛍光管のちらつきの原因となる。蛍光管の物理的な位置を逆に接続して同様の制御をすると二つの尖頭電圧の発生の時間的順序が入れ替わる(非対称性が逆)になることから、原因は蛍光管に電気的な極性があることによるものであると考えられる。
【0044】
1スイッチMERSの電源非同期制御方法では交流電源20の電圧位相の検出を行っていない。蛍光管の微弱な電気的な極性の差に対しても影響を受けやすいと考えられる。非対称性を緩和する対策として、本発明に係る交流電圧制御装置10のスイッチ13の制御方法を適用する。
【0045】
図8(A)は、電源非同期制御を行った場合のコンデンサ11の両端電圧、スイッチ13のゲート駆動制御信号を示している。図8(B)は、本発明に係る交流電圧制御装置10のスイッチ13の制御(電源周期同期制御)を行った場合のコンデンサ11の両端電圧、スイッチ13のゲート駆動制御信号を示している。
【0046】
図7(A)のような電流の極性に対して非対称性がある場合、図8(A)より、電源周期Tの1サイクル中に発生する2つのコンデンサ11の両端電圧の尖頭電圧に64Vの電位差が生じている。これに対し図8(B)では、16Vまで電位差が改善され、電流の極性に対して非対称となる現象は、大幅に軽減されていることがわかる。実際に、蛍光灯の調光に適用した場合、フリッカ現象は目視できない程度に軽減された。これは本発明に係る制御方法が有効であることを実験的に裏付けるものである。
【符号の説明】
【0047】
10 交流電圧制御装置
11 コンデンサ
12 ダイオードブリッジ
13 逆導通型半導体スイッチ
14 制御回路
15 コンデンサ電圧検出回路
16 交流電圧位相検出回路
20 交流電源
30 誘導性負荷
40 交流スイッチ回路


【特許請求の範囲】
【請求項1】
交流電源と誘導性負荷との間に直列に挿入され、負荷電圧を増減させる制御を行う、1スイッチMERSを用いた交流電圧制御装置であって、
交流スイッチ回路と、
該交流スイッチ回路に並列に接続され、前記交流スイッチ回路の電流遮断時に前記誘導性負荷に流れる電流の磁気エネルギーを回生して蓄積するコンデンサと、
前記交流スイッチ回路に制御信号を与えて、オン/オフ制御を行う制御回路と、
前記コンデンサの両端電圧が略ゼロとなる時点を検出し、前記制御回路に対して前記交流スイッチ回路をオンにする指令信号を送るコンデンサ電圧検出回路と、
を備えるとともに、
前記コンデンサの静電容量は、前記交流電源の周波数以上の周波数で、前記誘導性負荷のインダクタンス成分と共振状態となる容量であって、
前記制御回路は、前記指令信号の受信タイミングで前記交流スイッチ回路にオンの制御信号を送って前記交流スイッチ回路をオンにした後、所定のオン時間経過後に前記交流スイッチ回路をオフにする制御信号を送ってオフにするが、前記コンデンサ電圧検出回路が前記コンデンサの両端電圧が略ゼロを検出してから次に略ゼロを検出するまでの時間が前記交流電源の半周期の時間となるように、前記オン時間を調整して制御をすることを特徴とする交流電圧制御装置。
【請求項2】
交流電源と誘導性負荷との間に直列に挿入され、負荷電圧を増減させる制御を行う、1スイッチMERSを用いた交流電圧制御装置であって、
交流スイッチ回路と、
該交流スイッチ回路に並列に接続され、前記交流スイッチ回路の電流遮断時に前記誘導性負荷に流れる電流の磁気エネルギーを回生して蓄積するコンデンサと、
前記交流スイッチ回路に制御信号を与えて、オン/オフ制御を行う制御回路と、
前記コンデンサの両端電圧が略ゼロとなる時点を検出し、前記制御回路に対して前記交流スイッチ回路をオンにする指令信号を送るコンデンサ電圧検出回路と、
前記交流電源の電圧が略ゼロとなる時点を検出する電源電圧検出回路を
を備えるとともに、
前記コンデンサの静電容量は、前記交流電源の周波数以上の周波数で、前記誘導性負荷のインダクタンス成分と共振状態となる容量であって、
前記制御回路は、前記指令信号の受信タイミングで前記交流スイッチ回路にオンの制御信号を送って前記交流スイッチ回路をオンにした後、
前記電源電圧検出回路が、前記電源電圧の略ゼロを検出してから所定時間後に、前記交流スイッチ回路をオフにする指令信号を前記制御回路に送って前記交流スイッチ回路をオフにするように制御することを特徴とする交流電圧制御装置。
【請求項3】
前記所定時間が前記交流電源の電源周波数に応じた所定の値に設定されることを特徴とする請求項2に記載の交流電圧制御装置。
【請求項4】
前記交流スイッチ回路が、2個の逆導通型のNチャンネル型電界効果トランジスタ(以下、単に「FET」という)の第一のFETのソースと第二のFETのソース同士を接続した回路で構成され、前記制御回路のオン/オフ制御を行う指令信号により、2個の前記FETを同時にオン/オフすることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の交流電圧制御装置。
【請求項5】
前記交流スイッチ回路が、1個のダイオードブリッジと、該ダイオードブリッジの直流端子間に接続され、自己消弧形素子の正極側が前記直流端子の正極側に、該自己消弧形素子の負極側が前記直流端子の負極側にそれぞれ接続された、1個の前記自己消弧形素子から構成されるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の交流電圧制御装置。
【請求項6】
前記交流スイッチ回路が、双方向サイリスタ素子で構成されるものであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の交流電圧制御装置。
【請求項7】
前記FETが、パワーMOSFET又はIGBTである、請求項4に記載の交流電圧制御装置。
【請求項8】
前記自己消弧形素子が、GTOサイリスタ、GCTサイリスタ、トランジスタ、IGBT、IEGT、FET、パワーMOSFETのいずれかであることを特徴とする請求項5に記載の交流電源制御装置。
【請求項9】
交流電源と、1つまたは複数の銅鉄式安定器を有する放電ランプとの間に、請求項1乃至8のいずれかに記載の交流電圧制御装置が直列に挿入された、1つまたは複数の放電ランプの明るさを制御する調光システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−217943(P2010−217943A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−60461(P2009−60461)
【出願日】平成21年3月13日(2009.3.13)
【出願人】(507149648)株式会社MERSTech (22)
【Fターム(参考)】