説明

人工浅場または干潟

【課題】覆砂材の沈み込み、中詰材の圧密沈下、異常時における中詰材の流出などが生じにくい人工浅場または干潟を提供する。
【解決手段】中詰材が、浚渫土と遊離CaO含有量が0.5質量%以上の鉄鋼スラグとの混合材料からなる。この混合材料からなる中詰材が、適度に固結して強度を発現するため、覆砂材の沈み込み、中詰材の圧密沈下、異常時における中詰材の流出などが抑えられ、長期間に亘って適切な状態に維持される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、沿岸域の環境改善を目的に造成される人工浅場または干潟に関するものである。
【背景技術】
【0002】
水質環境改善などを目的として、浅場や干潟の造成が行われている。従来、浅場や干潟の造成は、砕石を用いて沖合に土留め潜堤を設置した後、その岸側(陸側)に中詰材として浚渫土を設置し、その表層に天然砂を覆砂するような工法が採られている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
浚渫土は多量に水分を含んだ軟弱土であるため、中詰材として浚渫土を用い、その表層に天然砂などを覆砂すると、その覆砂材が浚渫土の中に沈み込んでしまう。このような覆砂材の沈み込みを抑えるために、中詰材(浚渫土)と覆砂材の間にシート(ジオテキスタイル)を施工しても、覆砂材の荷重により中詰材が圧密沈下を起こし、造成部分の天端高が低くなる。潮の干満差で生じる干潟は、造成部分の天端高が低くなると、干潟面積が減少するため、機能維持のための補修(覆砂材の再施工)が必要となる。また、台風などの異常時の場合、表層の覆砂材が流出すると、中詰材である浚渫土が表面に現れる。浚渫土は粒子が小さく、波や流れの作用で簡単に流出するため、周辺海域の環境悪化(水質悪化、濁りなど)を引き起こすおそれがある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「浚渫土の生物生息環境創造への有効利用」,用水と排水,Vol.39,No.7,1997
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって本発明の目的は、上述した従来技術の課題を解決し、覆砂材の沈み込み、中詰材の圧密沈下、異常時における中詰材の流出などが生じにくい人工浅場または干潟を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、浚渫土と適量の遊離CaOを含有する鉄鋼スラグとの混合材料が中詰材に極めて好適であり、これを中詰材として人工浅場または干潟を造成することにより、上記課題を解決できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づきなされたもので、以下を要旨とするものである。
[1]中詰材が、浚渫土と遊離CaO含有量が0.5質量%以上の鉄鋼スラグとの混合材料からなることを特徴とする人工浅場または干潟。
[2]上記[1]の人工浅場または干潟において、混合材料中の鉄鋼スラグの混合率が10実容積%以上であることを特徴とする人工浅場または干潟。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人工浅場または干潟は、浚渫土と適量の遊離CaOを含有する鉄鋼スラグとの混合材料からなる中詰材が適度に固結して強度を発現するため、覆砂材の沈み込み、中詰材の圧密沈下、異常時における中詰材の流出などが適切に防止され、長期間に亘って適正な状態に維持される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の人工浅場または干潟の一実施形態を模式的に示す縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の人工浅場または干潟の一実施形態の縦断面を模式的に示すものであり、1は法留め潜堤、2はその岸側(陸側)に設置される中詰材、3はこの中詰材2の上に敷設される覆砂材(例えば天然砂)である。
本発明では、中詰材2として、浚渫土と遊離CaO含有量が0.5質量%以上の鉄鋼スラグとの混合材料が用いられる。この混合材料は、浚渫土中のSi、Al成分と鉄鋼スラグ中のCa成分とのポゾラン反応により適度に固結し、強度を発現する。これにより中詰材が所定の強度で自立できるため、覆砂材の中詰材への沈み込み、中詰材の圧密沈下、異常時における中詰材の流出などが適切に防止できる。また、同様の理由で、(i)浅場や干潟形状を任意に選択できるので、造成区域に制約がある場合でも、必要な天端高さや勾配を持つ干潟面を広い面積で確保できる、(ii)中詰材の形状や高さの自由度が大きいので、棚田状の干潟や、干潟と浅場の組み合わせなど、自然に近い干潟断面の形成が容易である、(iii)波浪制御構造を兼用することができる、(iv)生物生息環境などの多様な機能を付加することができる、などの利点がある。また、場合によっては、法留め潜堤の省略による施工コストの低減も図ることができる。
【0010】
浚渫土に混合する鉄鋼スラグ(鉄鋼製造プロセスで発生するスラグ)としては、高炉スラグ、製鋼スラグ、鉱石還元スラグなどがある。高炉スラグには、高炉徐冷スラグ、高炉水砕スラグがある。また、製鋼スラグとしては、溶銑予備処理、転炉吹錬、鋳造などの工程で発生する製鋼系スラグ(例えば、脱炭スラグ、脱燐スラグ、脱硫スラグ、脱珪スラグ、造塊スラグなど)、電気炉スラグなどが挙げられる。この中でも、遊離CaO含有量の観点から製鋼系スラグが好ましい。
【0011】
また、鉄鋼スラグの遊離CaO含有量が0.5質量%未満では、上述したようなポゾラン反応が十分に生じないため、中詰材として必要な強度を発現できない。但し、遊離CaO含有量が15質量%を超えるとアルカリ溶出量が多くなるため、遊離CaO含有量は15質量%以下が好ましい。
鉄鋼スラグの粒度は特に制限はないが、粒径の小さい方が粒子表面積が大きくなるため、ポゾラン反応に適している。
【0012】
また、海水のpH上昇、施工性、材料分離(浚渫土の含水比が高い場合)を考慮して、浚渫土に鉄鋼スラグを混合した際の混合材料の流動性を最適化することが好ましく、具体的には混合材料のフロー値を8.5〜23.0cm程度とすることが好ましい。浚渫土と鉄鋼スラグの混合材料の流動性が不十分であると、スラグの表面を浚渫土が安定的に包むことができず、海水のpH上昇を招きやすい。一方、流動性が高すぎると浚渫土と鉄鋼スラグが分離してしまうおそれがある。フロー値の測定は、JHS−A−313(日本道路公団規格)の「シリンダーフロー試験」に準拠して行う。浚渫土と鉄鋼スラグの混合材料のフロー値は、浚渫土の含水率、浚渫土と鉄鋼スラグの混合割合などで調整することができる。
【0013】
また、混合材料中での鉄鋼スラグの混合率は、10実容積%以上が好ましい。鉄鋼スラグの混合率が10実容積%未満では、鉄鋼スラグの配合による中詰材の強度発現が不十分となるおそれがある。但し、鉄鋼スラグの混合率が50実容積%を超えると、浚渫土の割合が少なくなるので、ポゾラン反応が十分に生じない可能性がある。
なお、鉄鋼スラグの混合率は上述の通り、鉄鋼スラグの実容積の鉄鋼スラグと浚渫土の実容積合計に対する割合である。ここで、鉄鋼スラグの実容積は、JIS−A−1109:2006またはJIS−A−1110:2006で規定される試験方法により求めた表乾密度を鉄鋼スラグの密度として、配合する鉄鋼スラグの質量から求める。また、浚渫土の実容積はJIS−A−1225:2009に規定される湿潤密度試験方法により求めた湿潤密度を浚渫土の密度として、配合する浚渫土の質量から求める。
【0014】
本発明の人工浅場または干潟について、浚渫土と鉄鋼スラグの混合材料からなる中詰材を施工する方法は任意であるが、通常の施工工事では、施工場所付近で採取された浚渫土に対して、必要な強度を満足するように鉄鋼スラグを添加・混合し、これを現場に施工する。
【実施例】
【0015】
浚渫土と鉄鋼スラグとの混合材料からなる中詰材の必要強度については、下記条件での圧密沈下防止を考えた場合、一軸圧縮強さ90kN/m以上を満足すればよいと考えられる。
・中詰材の施工厚さ:5m
・中詰材の単位体積重量:18kN/m
・中詰材の必要強度:[中詰材の単位体積重量]×[中詰材の施工厚さ]=18(kN/m)×5(m)=90(kN/m
【0016】
浚渫土(三河湾で採取)に製鋼スラグ(転炉スラグ、粒度5mm以下)を混合し、この混合材料の一軸圧縮強さを測定した。一軸圧縮強さの測定は、JIS−A−1216(一軸圧縮試験)に準拠して行う。その結果を、鉄鋼スラグの混合率、鉄鋼スラグの遊離CaO含有率および混合材料のフロー値とともに表1に示す。
表1によれば、浚渫土に製鋼スラグを10実容積%以上混合した混合材料からなる中詰材は、一軸圧縮強さ90kN/m以上を満足している。
【0017】
【表1】

【符号の説明】
【0018】
1 法留め潜堤
2 中詰材
3 覆砂材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
中詰材が、浚渫土と遊離CaO含有量が0.5質量%以上の鉄鋼スラグとの混合材料からなることを特徴とする人工浅場または干潟。
【請求項2】
混合材料中の鉄鋼スラグの混合率が10実容積%以上であることを特徴とする請求項1に記載の人工浅場または干潟。

【図1】
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【公開番号】特開2011−208365(P2011−208365A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74163(P2010−74163)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【出願人】(000166627)五洋建設株式会社 (364)
【出願人】(000219406)東亜建設工業株式会社 (177)
【出願人】(000222668)東洋建設株式会社 (131)
【出願人】(000182030)若築建設株式会社 (39)