説明

人工頭蓋骨弁

【課題】人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取付性を向上させ、人工頭蓋骨弁の強度を向上させる技術を提供する。
【解決手段】人工頭蓋骨弁10は、頭蓋骨20の骨欠損部21の補填に用いられる。人工頭蓋骨弁10は、骨欠損部21内に保持させるための保持部材30を挿通するための複数の貫通孔11が、人工骨弁の外周端に沿って配列して設けられている。また、人工頭蓋骨弁10には、複数の貫通孔11のそれぞれから外周端に向かって延びる、保持部材30をガイドするための溝部12が、骨欠損部21に補填されたときに外側となる第1の面S1に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、頭蓋骨の欠損部の補填に用いられる人工頭蓋骨弁に関する。
【背景技術】
【0002】
外減圧術後や、人の頭部における外傷や骨種瘍等の病傷の治療のための手術において、頭蓋骨の一部を切断・除去した後の頭蓋骨の欠損部位(以後、「骨欠損部位」とも呼ぶ)を補填する場合には、通常、人工頭蓋骨弁が用いられる。一般に、人工頭蓋骨弁は、その頭蓋骨の骨欠損部位へ取り付けて固定する際には、人工頭蓋骨弁と頭蓋骨(「自家骨」または「生体骨」とも呼ばれる)との間に跨って架設される保持部材が用いられる。そして、こうした保持部材を取り付け可能とするために、人工頭蓋骨弁には、保持部材の取り付けのための貫通孔などが設けられている(下記特許文献1等)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第3571232号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、人工頭蓋骨弁は、頭蓋骨の欠損部位への取り付けが容易かつ迅速に行われることが望ましく、頭蓋骨の欠損部位に取り付けられた後には、その位置ずれが抑制されることが望ましい。そのため、人工頭蓋骨弁では、上述した保持部材の人工頭蓋骨弁に対する固定性の更なる改善や、人工頭蓋骨弁の頭蓋骨に対する取付性の更なる向上が求められている。また、人工頭蓋骨弁では、保持部材を取り付けるための貫通孔などが設けられた場合であっても、十分な強度が確保されることが望ましい。そのため、人工頭蓋骨弁の強度を向上させることについても更なる工夫が求められている。本発明は、人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取付性や固定性、強度を向上させる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態又は適用例として実現することが可能である。
【0006】
[適用例1]
頭蓋骨の骨欠損部の補填に用いられる人工頭蓋骨弁であって、前記人工頭蓋骨弁を前記骨欠損部内に保持させるための保持部材を挿通するための複数の貫通孔が、前記人工頭蓋骨弁の外周端に沿って配列して設けられている人工頭蓋骨弁において、
前記複数の貫通孔のそれぞれから前記人工頭蓋骨弁の外周端に向かって延び、前記保持部材の一部を配置するための溝部が、前記骨欠損部に補填されたときに外側となる第1の面側に設けられている、人工頭蓋骨弁。
この人工頭蓋骨弁によれば、人工頭蓋骨弁の取り付けの際に、保持部材を溝部の取付位置に容易に誘導できるため、人工頭蓋骨弁への保持部材の取付性が向上する。さらに、人工頭蓋骨弁に保持部材が取り付けられた後には、溝部が保持部材の位置ずれを抑制するため、保持部材の位置の固定性が向上する。そのため、人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取付性および固定性を向上させることができる。
【0007】
[適用例2]
適用例1記載の人工頭蓋骨弁であって、さらに、
前記第1の面とは反対側の第2の面には、他の部位より厚みを増した隆起部が設けられており、
前記隆起部は、前記人工頭蓋骨弁を厚み方向に沿って見たときに、少なくとも前記溝部と重なる領域に設けられている、人工頭蓋骨弁。
この人工頭蓋骨弁によれば、溝部を設けた場合であっても、隆起部によって人工頭蓋骨弁の厚みが確保され、人工頭蓋骨弁の強度の確保が可能である。
【0008】
[適用例3]
適用例2記載の人工頭蓋骨弁であって、
前記人工頭蓋骨弁の厚み方向に沿って見たときに、前記溝部と前記隆起部とが重なる部位における厚みが、前記他の部位の厚みとほぼ同じである、人工頭蓋骨弁。
この人工頭蓋骨弁によれば、隆起部によって人工頭蓋骨弁の厚みがより確実に確保されるため、人工頭蓋骨弁の強度の確保がより確実に可能である。
【0009】
[適用例4]
適用例1〜3のいずれか一つに記載の人工頭蓋骨弁であって、
前記複数の貫通孔のそれぞれは、前記人工頭蓋骨弁の外周に沿った方向を長辺とする横長の形状を有しており、
前記保持部材は、前記人工頭蓋骨弁の外周から前記第1の面に沿って延びる第1の部位と、前記第1の部位から折り曲げられて前記貫通孔に挿通される第2の部位と、前記貫通孔から前記第1の面とは反対側の第2の面に沿って延びる先端部とを有する板状部材を含み、
前記第2の面には、前記保持部材の前記先端部の少なくとも一部を収容して保持するための孔部が、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応して設けられており、
前記保持部材の厚みは1mm以下であり、
前記人工頭蓋骨弁の厚みは5〜7mmであり、
前記複数の貫通孔はそれぞれ、短辺方向の幅が、2mm±0.5mmである、人工頭蓋骨弁。
この人工頭蓋骨弁によれば、板状部材を曲げ加工した保持部材によって、人工頭蓋骨弁を頭蓋骨に保持する場合に、人工頭蓋骨弁の取付性・保持性が向上されるとともに、貫通孔を設けたことによる人工頭蓋骨弁の強度の低下が抑制される。
【0010】
なお、本発明は、種々の形態で実現することが可能であり、例えば、人工頭蓋骨弁、その人工頭蓋骨弁の取り付け方法等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】人工頭蓋骨弁の概略正面図。
【図2】人工頭蓋骨弁の概略断面図。
【図3】保持部材の構成を示す概略斜視図。
【図4】保持部材を用いた人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取り付け工程を工程順に示す概略図。
【図5】第2実施形態としての人工頭蓋骨弁の構成を示す概略図。
【図6】第1の実験例におけるサンプル体を示す概略図と、第1の実験例において検証する因子と各因子ごとに設定されたパラメータとをまとめた表を示す説明図。
【図7】各因子の第1と第2の水準を組み合わせたサンプル体の構成例をまとめた表を示す説明図。
【図8】第1の実験例におけるサンプル体の強度の測定方法を示す模式図。
【図9】各サンプルグループごとの強度の測定結果を示す説明図。
【図10】各因子が強度に与える影響を解析するための要因効果図。
【図11】サンプル体の強度の推定値をプロットした推定値プロットを示す説明図。
【図12】第2の実験例において用いた人工頭蓋骨弁を模したサンプル体を示す概略図と、第2の実験例において検証する因子と各因子ごとに設定されたパラメータとをまとめた表を示す説明図。
【図13】サンプル体における貫通孔の他の配列構成を説明するための概略図。
【図14】各因子の第1と第2の水準を組み合わせた8通りのサンプル体の構成例をまとめた表を示す説明図。
【図15】第2の実験例におけるサンプル体の強度の測定方法を示す模式図。
【図16】各サンプルグループごとの強度の測定結果を示す説明図。
【図17】各因子が強度に与える影響を解析するための要因効果図。
【図18】因子A×Cと、因子B×Cとについての推定値プロットを示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施形態および実施例を以下の順序で説明する。
A.第1実施形態:
B.第2実施形態:
C.第3実施形態:
C1.第1の実験例:
C2.第2の実験例:
D.変形例:
【0013】
A.第1実施形態:
図1,図2は本発明の一実施形態としての人工頭蓋骨弁10の構成を示す概略図である。図1(A)は、人工頭蓋骨弁10の概略正面図であり、図1(B)は、図1(A)の二点鎖線で囲まれた領域Aを拡大して示す概略図である。また、図2は、図1(A)に示すB−B切断における人工頭蓋骨弁10の概略断面図である。
【0014】
人工頭蓋骨弁10は、外科手術等において、生体骨である頭蓋骨20(図2では二点鎖線で図示)の一部が切除されることにより形成された孔部である骨欠損部21の補填に用いられるものである。人工頭蓋骨弁10は、一方の面の側に湾曲した略板状の部材であり、水酸アパタイトとリン酸三カルシウムとの複合セラミックスによって構成される。人工頭蓋骨弁10は、頭蓋骨20の厚みに均衡させるとともにその強度を確保するために、5〜7mm程度の厚みで形成されることが好ましい。
【0015】
なお、本明細書では、人工頭蓋骨弁10において、人工頭蓋骨弁10が頭蓋骨20の骨欠損部21に補填された(取り付けられた)ときに外側となる凸面側を「第1の面S1」と呼び、その反対側の凹面側を「第2の面S2」と呼ぶ。図1には、人工頭蓋骨弁10の第1の面S1側が示されている。
【0016】
ここで、人工頭蓋骨弁10は、その外周端面15が以下のような傾斜角を有するテーパ状の傾斜面として構成されることにより、頭蓋骨20への取付性が向上されている。具体的には、人工頭蓋骨弁10の外周端面15は、第2の面S2をその外周端から仮想的に延長された仮想平面VPとの間の角度θが、50〜70°の範囲となるように構成されている。
【0017】
このように、角度θを70°以下となるように外周端面15を傾斜させることにより、人工頭蓋骨弁10の取り付けの際や取り付け後に、人工頭蓋骨弁10が頭蓋骨20の内部へと落ち込むことを抑制することができる。また、角度θを50°以上となるように外周端面15を傾斜させることにより、第1の面S1側の端部の強度が著しく低下してしまうことを抑制することができ、人工頭蓋骨弁10の外周端部の欠損を抑制することができる。
【0018】
人工頭蓋骨弁10には、横長の形状を有する複数の貫通孔11が、人工頭蓋骨弁10の外周端に沿って配列して設けられている。より具体的には、各貫通孔11は、その長辺が人工頭蓋骨弁10の外周端に隣り合うように設けられている。貫通孔11は、保持部材30(後述)を挿通して人工頭蓋骨弁10に取り付けるためのものである。なお、各貫通孔11は、人工頭蓋骨弁10の外周に沿って、偏ることなく分散した位置に形成されていることが好ましい。これによって、頭蓋骨20に取り付けられた際の保持性および固定性が向上される。
【0019】
人工頭蓋骨弁10の第2の面S2側には、各貫通孔11のそれぞれに対応するように、2つの略正円形状の有底孔13が設けられている。2つの有底孔13は、対応する貫通孔11より人工頭蓋骨弁10の中央側に、当該貫通孔11の長辺に沿って配列されている。これらの有底孔13は、貫通孔11に挿通された保持部材30の先端部に設けられたピン34(後述)を挿入して、保持部材30の取付位置を固定するためのものである。有底孔13の深さは、例えば、人工頭蓋骨弁10の厚みの2/3程度であるものとしても良い。
【0020】
人工頭蓋骨弁10の第1の面S1側には、各貫通孔11から人工頭蓋骨弁10の外周端に向かって延びる溝部12が形成されている。溝部12は、各貫通孔11の長辺の幅と同程度の幅を有し、各貫通孔11の長辺から人工頭蓋骨弁10の外周端に渡って、深さ1mm程度で直線状に形成されている。溝部12は、保持部材30の取付位置を固定するためのガイドとして機能する。また、溝部12は、保持部材30が人工頭蓋骨弁10に取り付けられたときに、保持部材30が人工頭蓋骨弁10の第1の面S1から突出してしまうことを抑制する。
【0021】
図3は、人工頭蓋骨弁10を頭蓋骨20の骨欠損部21に保持させるための保持部材30の構成を示す概略斜視図である。保持部材30は、断面が略L字形状となるように、略長方形形状の板状部材の先端部位をほぼ直角に折り曲げることによって構成された部材である。なお、保持部材30は、チタンまたはチタン合金によって構成され、厚みが0.5〜0.8mm程度であるものとしても良い。
【0022】
ここで、保持部材30の部位のうち、曲げ部の折れ目を境界とした長手部位を「本体部31」と呼び、短手部位を「先端部32」と呼ぶ。本体部31の先端部32とは反対の端部側には、ネジ孔33が設けられている。また、先端部32の本体部31側の面には2本のピン34が設けられている。2本のピン34はそれぞれ、先端部32の端面近傍の二角において、本体部31の延伸方向に延びている。
【0023】
図4(A)〜(C)は、保持部材30を用いた人工頭蓋骨弁10の頭蓋骨20への取り付け工程を工程順に示す概略図である。まず、保持部材30を、人工頭蓋骨弁10の各貫通孔11に取り付ける。具体的には、保持部材30の本体部31を、人工頭蓋骨弁10の第2の面S2側から貫通孔11に挿通する(図4(A))。そして、2本のピン34をそれぞれ、人工頭蓋骨弁10の2つの有底孔13に挿入させることにより、保持部材30の先端部32の面と、人工頭蓋骨弁10の第2の面S2とを接触させる。
【0024】
次に、保持部材30の貫通孔11から第1の面S1側に突出した部位を、人工頭蓋骨弁10の溝部12の底面に沿って折り曲げる(図4(B))。なお、このときの保持部材30における本体部31のうち、第1の面S1に沿った部位を「第1本体部31a」とも呼び、貫通孔11に挿通されている部位を「第2本体部31b」とも呼ぶ。
【0025】
そして、各貫通孔11に保持部材30が取り付けられた人工頭蓋骨弁10を、第1の面S1側を上側として、頭蓋骨20の骨欠損部21に配置する(図4(C))。この後、保持部材30のネジ孔33を介して固定用ネジ35を頭蓋骨20に取り付けることにより、保持部材30を頭蓋骨20に固定する。
【0026】
このように、本実施形態の人工頭蓋骨弁10によれば、保持部材30を人工頭蓋骨弁10に取り付ける際に、溝部12が保持部材30のガイドとして機能し、保持部材30の取り付け位置が所望の位置からずれてしまうことを抑制することができる。従って、人工頭蓋骨弁10の頭蓋骨20への取り付けを迅速かつ確実に行うことが可能となる。
【0027】
また、本実施形態の人工頭蓋骨弁10によれば、人工頭蓋骨弁10が頭蓋骨20に取り付けられた後においても、溝部12によって保持部材30の位置ずれが抑制される。さらに、本実施形態の人工頭蓋骨弁10であれば、保持部材30の本体部31が溝部12に嵌り込んでいるため、保持部材30が、人工頭蓋骨弁10の第1の面S1からその厚み方向に突出してしまうことを抑制できる。
【0028】
このように、本実施形態の人工頭蓋骨弁10によれば、溝部12を有することにより、保持部材30の位置ずれを抑制し、頭蓋骨20に対する取付性を向上させることできる。また、本実施形態の人工頭蓋骨弁10によれば、所定の傾斜角を有する外周端面15を有することにより、頭蓋骨20に対する取付性と強度とが確保される。
【0029】
B.第2実施形態:
図5(A),(B)は本発明の第2実施形態としての人工頭蓋骨弁10Aの構成を示す概略図である。図5(A)は、人工頭蓋骨弁10Aの第1の面S1側を示す概略正面図であり、第2の面S2側に形成された隆起部14の領域を示す二点鎖線が追加されている点以外は、図1(A)と同じである。図5(B)は、図5(A)に示すB−B切断における人工頭蓋骨弁10Aの概略断面図であり、第2の面S2側に隆起部14が設けられている点以外は、図2とほぼ同じである。
【0030】
第2実施形態の人工頭蓋骨弁10Aでは、溝部12が設けられた第1の面S1とは反対側の第2の面S2に、他の部位より厚みを増した隆起部14が設けられている。この隆起部14は、各溝部12のそれぞれに対応して設けられており、人工頭蓋骨弁10Aを厚み方向に沿って見たときに、各溝部12と重なる領域内に形成されている。より具体的には、隆起部14は、その形成領域内に貫通孔11と溝部12と2つの有底孔13とが含まれるように形成されている。
【0031】
各溝部12に対応して各隆起部14が形成されていることにより、各溝部12を設けたことによる人工頭蓋骨弁10Aの強度の低下が抑制されている。また、隆起部14の形成領域に貫通孔11および2つの有底孔13が含まれることにより、貫通孔11および2つの有底孔13を設けたことによる人工頭蓋骨弁10Aの強度の低下が抑制される。
【0032】
ここで、溝部12が形成されている位置における隆起部14の高さhは、溝部12の深さdpとほぼ同程度に形成されていることが好ましい。即ち、人工頭蓋骨弁10Aを厚み方向に沿って見たときに、溝部12と隆起部14とが重なる部位における厚みが、隆起部14が形成されていない他の部位の厚みとほぼ同じであることが好ましい。これによって、より確実に人工頭蓋骨弁10Aの強度の確保が可能である。
【0033】
このように、第2実施形態の人工頭蓋骨弁10Aによれば、第2の面S2側に設けられた隆起部14によって、その外周縁部における強度の低下が抑制される。より具体的には、隆起部14を設けることにより、人工頭蓋骨弁10の厚みが薄く(例えば5mm以下の厚みで)構成された場合や、溝部12が深く(例えば1.5mm以上の深さで)構成された場合であっても、人工頭蓋骨弁10Aの強度の確保が可能である。
【0034】
C.第3実施形態:
第3実施形態における人工頭蓋骨弁の構成は、以下に説明する点以外は、上記の第1実施形態または第2実施形態で説明した人工頭蓋骨弁10,10Aと同様な構成である(図1,図2,図5)。また、第3実施形態の人工頭蓋骨弁は、上記の第1実施形態または第2実施形態で説明した人工頭蓋骨弁10,10Aと同様に、保持部材30によって、頭蓋骨20の骨欠損部21に固定的に保持される(図3,図4)。なお、第3実施形態における人工頭蓋骨弁では、人工頭蓋骨弁10,10Aにおける溝部12は省略されるものとしても良い。
【0035】
第3実施形態における人工頭蓋骨弁では、保持部材30の厚みが0.5〜0.8mm程度であり、貫通孔11の短辺の幅wsが1〜2mm程度に設定されている。なお、貫通孔11の短辺の幅wsは、ほぼ2mm(±25%程度の誤差を考慮して、2±0.5mmとしても良い)であることがより好ましい。また、第3実施形態における人工頭蓋骨弁の厚みtsは、5〜7mm程度に設定されている。なお、この厚みtsは、7mm(±20%程度の誤差を考慮して、7±1.4mmとしても良い)であることがより好ましい。
【0036】
また、第3実施形態における人工頭蓋骨弁では、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端との距離が8〜12mm程度に設定されるものとしても良い。なお、人工頭蓋骨弁の厚みが、5mm程度である場合には、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端との距離は、ほぼ8mm(±20%程度の誤差を考慮して、8±1.6mmとしても良い)であることが好ましい。
【0037】
図6〜図18は、本願発明の第3実施形態としての人工頭蓋骨弁に関して、本発明の発明者が行った実験とその実験結果とを説明するための説明図である。本発明の発明者は、人工頭蓋骨弁の強度に影響を及ぼす人工頭蓋骨弁の構成要素を検証するために、以下に説明する第1と第2の実験例を、実験計画法に基づいて行った。
【0038】
ここで、第1の実験例は、人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取り付けの際などに、人工頭蓋骨弁の外周端部に荷重がかけられる場合を想定した実験である。一方、第2の実験例は、人工頭蓋骨弁の頭蓋骨への取り付けの際や取り付け後において、人工頭蓋骨弁の中央部位に荷重がかけられる場合を想定した実験である。
【0039】
C1.第1の実験例:
図6(A),(B)は、第1の実験例において用いた人工頭蓋骨弁の構成の一部を模したサンプル体40を示す概略図である。図6(A)は、サンプル体40の一方の面側を示す概略正面図であり、図6(B)は、図6(A)に示すB−B切断におけるサンプル体40の概略断面図である。
【0040】
このサンプル体40は、長辺を55mmとし、短辺を37mmとする略長方形形状の板状部材であり、上述の実施形態において説明した人工頭蓋骨弁10,10Aと同様な構成材料によって構成した。サンプル体40には、第1実施形態の人工頭蓋骨弁10の構成と対応するように、略長方形の貫通孔41と、貫通孔41から外周端に向かって延びる溝部42と、貫通孔41の近傍に設けられた2つの有底孔43とを設けた。
【0041】
図6(C)は、第1の実験例において検証する因子A〜Fと、各因子A〜Fごとに第1と第2の水準として設定されたパラメータとをまとめた表を示す説明図である。本発明の発明者は、サンプル体40の構成要素のうち強度に影響を与える可能性のある因子として、以下に説明する因子A〜Fを設定し、各因子A〜Fの具体的なパラメータとして、以下のように第1と第2の水準を設定した。
【0042】
因子A,Bは、貫通孔41の形成位置に関する要素である。因子Aは、サンプル体40の短辺と貫通孔41との間の距離dsである。因子Aのパラメータとしては、第1の水準として8mmを設定し、第2の水準として15mmを設定した。因子Bは、サンプル体40の短辺方向における貫通孔41の中心CPの位置である。因子Bのパラメータは、サンプル体40の短辺方向における中心線CL(一点鎖線で図示)と貫通孔41の中心CPとのオフセット量によって設定した。具体的には、因子Bの第1の水準は、オフセット量を0mm(オフセットなし)とし、第2の水準は、オフセット量を3mmとした。
【0043】
因子C,Dは、貫通孔41の形状に関する要素である。因子Cは、貫通孔41の長辺の幅wlであり、因子Dは、貫通孔41の短辺の幅wsである。なお、貫通孔41の長辺の幅wlは溝部12の幅にも相当する。因子Cのパラメータとしては、第1の水準として8mmを設定し、第2の水準として12mmを設定した。因子Dのパラメータとしては、第1の水準として1mmを設定し、第2の水準として2mmを設定した。
【0044】
因子Eは、サンプル体の厚みtsである。因子Eのパラメータとしては、第1の水準として5mmを設定し、第2の水準として7mmを設定した。因子Fは、溝部12の有無に関しての要素である。因子Fは、溝部12を省略した場合を第1の水準とし、溝部12を設けた場合を第2の水準とした。なお、サンプル体40における溝部12の深さは1mmとした。第1の実験例では、上記の因子A〜Fの第1と第2の水準の組み合わせを変えた構成を有する複数種類のサンプル体40を作成した。
【0045】
図7は、各因子A〜Fの第1と第2の水準を組み合わせた16通りのサンプル体40の構成例をまとめた表を示す説明図である。本発明の発明者は、2水準系直交表L16(図示は省略)を用いて各因子A〜Fの第1と第2の水準を組み合わせた16通りの構成を設定し、各構成ごとのサンプル体40を5個ずつ作成した。そして、互いに異なる構成を有する16種類のサンプル体40のグループ(以後、「サンプルグループS01〜S16」と呼ぶ)ごとに、各サンプル体40の強度の測定を行った。
【0046】
図8(A),(B)は、第1の実験例におけるサンプル体40の強度の測定方法を示す模式図である。図8(A)は、強度を測定するための装置を模式的に示す図であり、サンプル体40の側面方向から見たときの図である。図8(B)は、強度の測定においてサンプル体40に負荷が加えられた箇所を示す模式図であり、当該箇所を破線LCで図示してある。
【0047】
この第1の実験例では、サンプル体40を支持部材51,52によって狭持・固定した(図8(A))。このとき、サンプル体40は、貫通孔41と溝部42と2つの有底孔43とが外部に露出するように、外周端から30mmだけ突出させた。そして、サンプル体40の外周端部(端から2mmの部位)をクロスヘッド55によって重力方向に押圧することにより、サンプル体40の強度を測定した。ここで、クロスヘッド55としては、サンプル体40に対して、8mm程度の幅に渡って線接触が可能なものを用いた。このクロスヘッド55によって、サンプル体40の貫通孔41に沿った外周端部位を、幅8mmに渡って押圧した(図8(B)の破線LC)。なお、測定時のクロスヘッド55の駆動速度は0.5mm/分とした。
【0048】
図9は、各サンプルグループS01〜S16ごとの強度の測定結果を示す説明図である。図9(A)は、各サンプルグループS01〜S16ごとに、5個のサンプル体40の強度の測定値(kgf)と、それら5つの測定値の平均値(kgf)とをまとめた表である。図9(B)は、縦軸を強度(kgf)とし、横軸を各サンプルグループS01〜S16のグループ番号として、図9(A)の測定値および平均値をプロットしたグラフである。なお、図9(B)のグラフでは、測定値を黒丸(●)でプロットし、平均値を横棒(−)でプロットしてある。
【0049】
図10は、各因子A〜Fが強度に与える影響を解析するための要因効果図である。この要因効果図では、縦軸を強度(kgf)として、個々の因子A〜Fごと、または、交互作用のある可能性がある2つの因子を組み合わせた因子ごとに、第1と第2の水準のそれぞれについての強度の平均値をプロットしてある。具体的には、第1の水準についての強度の平均値は黒丸(●)でプロットし、第2の水準についての強度の平均値はバツ印(×)でプロットしてある。
【0050】
なお、図10では、2つの因子の組み合わせた因子については、以下のように表示してある。即ち、例えば、因子Aと因子Bとを組み合わせた因子については、「A×B」と表示してある。また、図中の強度の値「15.72」は、全測定値の平均値であり、強度の値「24.48」および「6.95」はそれぞれ、平均値±標準偏差の値である。
【0051】
この要因効果図では、第1と第2の水準のそれぞれについての値の差が大きい因子E,Dが、サンプル体40の貫通孔41より外側の部位、即ち、外周端縁部への荷重に対する強度(以後、「外周縁部強度」とも呼ぶ)に大きく影響することが示された。即ち、この結果から、サンプル体40は、その厚みtsが厚い方が外周縁部強度が向上し、貫通孔41の短辺の幅wsが広い方が外周縁部強度が向上することがわかった。
【0052】
図11は、因子E,Dのそれぞれの第1と第2の水準を組み合わせを変えたときのサンプル体40の強度の推定値をプロットした推定値プロットを示す説明図である。なお、推定値プロットには、プロットされた各点に、95%信頼区間の範囲を示してある。このように、サンプル体40の厚みtsを7mmとし、貫通孔41の短辺の幅wsを2mmとした構成において、最も高い強度の推定値が得られた。
【0053】
このように、第1の実験例では、貫通孔41の短辺の幅をより広く構成した方が、サンプル体40の外周縁部強度を向上させることができた。即ち、人工頭蓋骨弁の外周端部強度を向上させるためには、人工頭蓋骨弁の貫通孔11の短辺の幅を、より広く構成することが好ましい。ただし、人工頭蓋骨弁では、貫通孔11の短辺の幅を、保持部材30の厚みに対して広くしすぎると、貫通孔11における保持部材30の第2本体部31bの固定性・保持性が低下してしまう可能性がある。そのため、保持部材30の厚みが0.5〜0.8mm程度である場合には、貫通孔11の短辺の幅は、1〜2mm程度であることが好ましく、ほぼ2mm(±25%程度の誤差を考慮して2±0.5mmとしても良い)であることがより好ましい。
【0054】
また、サンプル体40の外周縁部強度は、サンプル体40の厚みを厚くすることにより、向上させることができた。即ち、人工頭蓋骨弁の外周縁部強度を向上させるためには、その厚みをより厚く構成することが好ましい。ただし、人工頭蓋骨弁の厚みは、頭蓋骨20の厚みと均衡させることが好ましいため、5〜7mm程度であることが好ましく、最大でもほぼ7mm(+20%程度の誤差を考慮して7.0〜8.4mmとしても良い)であることがより好ましい。
【0055】
ここで、図11に示した推定値プロットから、人工頭蓋骨弁の厚みを比較的薄い5mm程度とした場合には、その貫通孔11の短辺の幅を2mm程度とすることが好ましいことがわかる。このように構成することよって、貫通孔11の短辺の幅を1mmとした場合より、その外周縁部強度を確保することができる。なお、人工頭蓋骨弁の厚みを7mm程度とした場合に、貫通孔11の短辺の幅を2mmとすれば、人工頭蓋骨弁の外周縁部強度をより向上させることができる。
【0056】
ところで、この第1の実験例では、溝部42の有無によって、サンプル体40の強度は大きな影響を受けないことが示された。これは、サンプル体40が5mmまたは7mmの厚みを有しており、深さ1mm程度の溝部42であれば、その有無にかかわらず強度を確保できていたためであると考えられる。また、第1の実験例のように貫通孔41より外側に荷重がかかる場合には、溝部42の形成領域におけるサンプル体40の厚みは、破壊進展距離に与える影響が小さいためであるとも考えられる。
【0057】
即ち、人工頭蓋骨弁を、上述の厚みや貫通孔11の短辺の幅を有するように構成すれば、溝12の有無にかかわらず、外周端部への荷重に対する強度を確保することが可能である。しかし、人工頭蓋骨弁に溝部12を設けることにより、溝部12の形成領域における厚みが5mmより小さくなる場合には、溝部12の形成領域における強度が低下する可能性がある。そのため、そのような場合には、第2実施形態で説明したような隆起部14を溝部12に対応させて設けることが好ましい。
【0058】
C2.第2の実験例:
図12(A),(B)は、第2の実験例において用いた人工頭蓋骨弁を模したサンプル体40aを示す概略図である。図12(A)は、サンプル体40aの一方の面側を示す概略正面図であり、図12(B)は、図12(A)に示すB−B切断におけるサンプル体40aの概略断面図である。
【0059】
このサンプル体40aは、直径100mm程度の略正円形状の円盤状部材であり、上述の実施形態において説明した人工頭蓋骨弁10,10Aと同様な構成材料によって構成した。サンプル体40aには、上記実施形態において説明した貫通孔11に相当する3つの略長方形状の貫通孔41を設けた。各貫通孔41は、その中心CPとサンプル体40の中心CSとを通る仮想直線VL(一点鎖線で図示)が、貫通孔41の長辺方向と直交するように形成した。また、各貫通孔41は、サンプル体40aの外周に沿って略円環状に配列した。
【0060】
さらに、サンプル体40aには、上記実施形態において説明した有底孔13に相当する有底孔43を、各貫通孔41の近傍に2つずつ設けた。ここで、この第2の実験例では、サンプル体40aとして、その厚みや、貫通孔41の位置やサイズを、以下に説明する因子A〜Dの第1と第2の水準に従って変えたものを複数種類作成した。
【0061】
図12(C)は、第2の実験例において検証する因子A〜Dと、各因子A〜Dごとに第1と第2の水準として設定されたパラメータをまとめた表を示す説明図である。本発明の発明者は、サンプル体40aの構成要素のうち強度に影響を与える可能性のあるものとして、以下に説明する因子A〜Dを設定し、各因子A〜Dに対する具体的なパラメータとして、以下のように第1と第2の水準を設定した。
【0062】
因子Aは、貫通孔41の形成位置に関する要素であり、サンプル体40aの外周端と貫通孔41の長辺との間の最短の距離dsである。因子Aのパラメータとしては、第1の水準として8mmを設定し、第2の水準として15mmを設定した。因子Bは、貫通孔41の短辺の幅wsである。因子Bのパラメータとしては、第1の水準として1mmを設定し、第2の水準として2mmを設定した。因子Cは、サンプル体40aの厚みtsである。因子Cのパラメータとしては、第1の水準として5mmを設定し、第2の水準として7mmを設定した。
【0063】
因子Dは、貫通孔41の配列に関しての要素である。ここで、各貫通孔41の中心CPと、サンプル体40aの中心CSとを通る仮想直線VLによって形成されるサンプル体40aの3つの中心角αを想定する。因子Dの第1の水準は、上記の3つの中心角αがいずれもがほぼ120°となる貫通孔41の配列構成であり、図12(A)に示された構成とした。即ち、因子Dの第1の水準では、各貫通孔41はサンプル体40aの外周に沿ってほぼ等間隔で配置された。
【0064】
図13は、因子Dの第2の水準における貫通孔41の配列構成を説明するための概略図である。図13は、貫通孔41の配置位置が異なる点以外は、図12(A)とほぼ同じである。この因子Dの第2の水準では、貫通孔41の配列構成は、上記の3つの中心角αのうちの2つがほぼ90°であり、残りの1つがほぼ180°となる構成とした。即ち、因子Dの第2の水準では、各貫通孔41は不等間隔で配列され、サンプル体40aの片側に偏って配置された。
【0065】
図14は、各因子A〜Dの第1と第2の水準を組み合わせた8通りのサンプル体40aの構成例をまとめた表を示す説明図である。本発明の発明者は、2水準系直交表L16(図示は省略)を用いて各因子A〜Dの第1と第2の水準を組み合わせた8通りの構成を設定し、各構成ごとのサンプル体40aを5個ずつ作成した。そして、互いに異なる構成を有する8種類のサンプル体40aのグループ(以後、「サンプルグループS21〜S28」と呼ぶ)ごとに、各サンプル体40aの強度の測定を行った。
【0066】
図15は、第2の実験例におけるサンプル体40aの強度の測定方法を示す模式図である。第2の実験例では、中央にサンプル体40aを収容可能な略正円形状の凹部531を有する基台である支持基台53に、各サンプル体40aを固定的に保持して、各サンプル体40aの強度測定を行った。具体的には、各サンプル体40aを、各貫通孔41に保持部材30を取り付けることにより、支持基台53に保持した。各保持部材30は、3つの固定用ネジ35によって支持基台53に固定した。そして、強度測定は、各サンプル体40aの中央に、直径30mm、高さ20mmのナイロン製の緩衝材56を配置し、クロスヘッド(図示は省略)によって、サンプル体40aが破断するまで押圧することにより行った。なお、測定時のクロスヘッドの駆動速度は5mm/分とした。
【0067】
図16は、各サンプルグループS21〜S28ごとの強度の測定結果を示す説明図である。図16(A)は、各サンプルグループS21〜S28ごとに、5個のサンプル体40aの強度の測定値(kgf)と、それら5つの測定値の平均値(kgf)とをまとめた表である。図16(B)は、縦軸を強度(kgf)とし、横軸を各サンプルグループS21〜S28のグループ番号として、図16(A)の測定値および平均値をプロットしたグラフである。なお、図16(B)のグラフでは、測定値を黒丸(●)でプロットし、平均値を横棒(−)でプロットしてある。
【0068】
図17は、各因子A〜Dが強度に与える影響を解析するための要因効果図である。この要因効果図では、縦軸を強度(kgf)として、個々の因子ごとに、または、交互作用のある可能性がある2つの因子を組み合わせた因子ごとに、第1と第2の水準のそれぞれについての強度の平均値をプロットしてある。具体的には、第1の水準についての強度の平均値は、黒丸(●)でプロットし、第2の水準についての強度の平均値はバツ印(×)でプロットしてある。
【0069】
なお、図17では、2つの因子を組み合わせた因子については、図10と同様な表示方法で示してある。また、図中の強度の値「23.1」は、全測定値の平均値であり、強度の値「37.8」および「8.5」はそれぞれ、平均値±標準偏差の値である。この要因効果図は、第1と第2の水準のそれぞれについての値の差が大きい因子B,Cと、組み合わせの因子B×Cが、サンプル体40aの強度に大きく影響していることを示している。
【0070】
図17の要因効果図や分散分析による検定結果から、各因子A〜Dは、因子B,因子C,因子D,因子Aの順で、サンプル体40aの中央部位への荷重に対する強度(以後、「中央部強度」と呼ぶ)に影響を与えることがわかった。即ち、貫通孔41の短辺の幅が最もサンプル体40aの中央部強度に影響し、幅が大きい方が好ましい。次に、サンプル体40aの厚みがサンプル体40aの中央部強度に影響し、厚みが大きい方が好ましい。次に、貫通孔41の配列構成がサンプル体40aの厚みがサンプル体40aの中央部強度に影響し、貫通孔41がほぼ等間隔で配列された方が好ましい。サンプル体40aの中央部強度に対する影響が最も低い因子は、貫通孔41とサンプル体40aの外周端の長辺との間の距離であったが、貫通孔41がサンプル体40aの外周端に近い位置に形成された方が中央部強度は向上する。
【0071】
ところで、図17の要因効果図や分散分析による検定結果では、さらに、因子A,Cや因子B,Cには交互作用があり、それらを組み合わせた因子A×C,B×Cがサンプル体40aの中央部強度に大きく影響することが示された。そこで、以下に説明する推定値プロットにより、交互作用を示す因子A,Cと、因子B,Cとについて、最適な設定条件の組み合わせを検討した。
【0072】
図18は、因子A×Cと、因子B×Cとについての推定値プロットを示す説明図である。この推定値プロットには、紙面左側に因子A×Cについて、それぞれの第1と第2の水準の設定を組み合わせたときの強度の推定値をプロットしてある。具体的には、因子Aの第1または第2の水準と、因子Cの第1の水準との組み合わせ(図中で「A11」または「A21」と表示)については、黒丸(●)でプロットしてある。一方、因子Aの第1または第2の水準と、因子Cの第2の水準との組み合わせ(図中で「A12」または「A22」と表示)については、バツ印(×)でプロットしてある。
【0073】
また、紙面右側には、因子B×Cについて、それぞれの第1と第2の水準の設定を組み合わせたときの強度の推定値をプロットしてある。具体的には、因子Bの第1または第2の水準と、因子Cの第1の水準との組み合わせ(図中で「B11」または「B21」と表示)については、黒丸(●)でプロットしてある。一方、因子Bの第1または第2の水準と、因子Cの第2の水準との組み合わせ(図中で「B12」または「B22」と表示)については、バツ印(×)でプロットしてある。
【0074】
紙面左側に示された推定値プロットは、以下のことを示している。即ち、因子A,Cの組み合わせについては、因子Aの第1水準と因子Cの第2の水準とを組み合わせること(A12)が、強度を確保する上では好ましい。また、因子Cが第2の水準である場合には、因子Aが第1と第2の水準のいずれであっても強度は著しく変化しない(A12,A22)。一方、因子Cが第1の水準である場合には、因子Aが第1の水準であるとき(A11)の方が、因子Aが第2の水準であるとき(A21)より強度が向上する。
【0075】
このことから、本発明の発明者は、以下のことを見出した。即ち、貫通孔41の形成位置をサンプル体40aの外周端に近づけ、かつ、サンプル体40aの厚みを厚く構成するほど、サンプル体40aの中央部強度が向上する。また、サンプル体40aの厚みを厚く構成すれば、中央部強度に対する貫通孔41とサンプル体40aの外周端との間の距離の影響は比較的小さい。逆に、サンプル体40aの厚みを比較的薄く構成した場合には、貫通孔41とサンプル体40aの外周端との間の距離を縮めるほど、中央部強度は向上する。
【0076】
また、紙面右側に示された推定値プロットは、以下のことを示している。即ち、因子B,Cの組み合わせについては、因子Bの第2水準と因子Cの第2の水準との組み合わせることが(B22)、中央部強度を確保する上では好ましい。なお、この組み合わせのときに、他の因子A,Cや因子B,Cを組み合わせた条件に比較して著しく高い強度を得ることができる。また、因子Cが第2の水準である場合に、因子Bを第1の水準から第2の水準に変えたときの方が(B12→B22)、因子Cが第1の水準である場合に、因子Bを第1の水準から第2の水準に変えたときの方が(B11→B21)、強度が向上する度合いが大きい。
【0077】
このことから、本発明の発明者は、以下のことを見出した。即ち、貫通孔41の短辺の幅と、サンプル体40aの厚みとをそれぞれ適切に設定することにより、サンプル体40aの中央部強度をより向上させることができる。より具体的には、貫通孔41の短辺の幅を広くし、かつ、サンプル体40aの厚みを厚く構成するほど、サンプル体40aの中央部強度を向上させることができる。また、サンプル体40aの厚みを厚く構成するほど、貫通孔41の短辺の幅を広くしたときに中央部強度が向上する度合いが高くなる。
【0078】
このように、第2の実験例では、貫通孔41の短辺の幅を広く構成することにより、サンプル体40aの中央部強度を向上させることができた。従って、人工頭蓋骨弁においても、貫通孔11の短辺の幅をより広く構成することにより、貫通孔11より中心側にかかる荷重に対する強度である中央部強度を向上させることができる。ただし、前述したとおり、貫通孔11の短辺の幅を、保持部材30の厚みに対して広くしすぎると、貫通孔11による保持部材30の固定性・保持性が低下してしまう可能性がある。そのため、保持部材30の厚みが0.5〜0.8mm程度である場合には、貫通孔11の短辺の幅は、1mm〜2mm程度であることが好ましく、ほぼ2mm(±25%程度の誤差を考慮して2±0.5mmとしても良い)であることがより好ましい。
【0079】
また、サンプル体40aは、その厚みを厚くすることにより、その中央部強度を向上させることができた。従って、人工頭蓋骨弁においても、その厚みをより厚く構成することにより、その中央部強度を向上させることができる。ただし、人工頭蓋骨弁の厚みは、前述したとおり、頭蓋骨20の厚みと均衡させることが好ましいため、5〜7mmであることが望ましく、最大でも7mm(+20%程度の誤差を考慮して7.0〜8.4mmとしても良い)であることが望ましい。
【0080】
なお、第2の実験例では、サンプル体40aの厚みを5mm程度とした場合に、貫通孔41の長辺とサンプル体40aの外周端部との間の距離を、15mmとしたときよりも8mmとしたときの方が、サンプル体40aの中央部強度が向上した。従って、人工頭蓋骨弁において、その厚みを比較的薄く構成した場合に、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端部との間の距離を短く構成することにより、中央部強度の低下を抑制することが可能である。ただし、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端部との間の距離を短くしすぎると、保持部材30による人工頭蓋骨弁の保持性が低下してしまう可能性がある。従って、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端との間の距離としては、8〜12mm程度であることが好ましい。また、人工頭蓋骨弁の厚みが5mm程度であるときには、貫通孔11の長辺と人工頭蓋骨弁の外周端との間の距離は、8mm(±20%程度の誤差を考慮して8±1.6mmとしても良い)であることがより好ましい。
【0081】
さらに、上記の第2の実験例では、サンプル体40aの厚みを7mmとし、貫通孔41の短辺の幅を2mmとしたときに、サンプル体40aの中央部強度が最も高い値を示した。従って、人工頭蓋骨弁においても、その厚みをほぼ7mm程度とし、貫通孔11の短辺の幅を2mm(±25%程度の誤差を考慮して2±0.5mmとしても良い)とすることにより、その中央部強度をより向上させることができる。
【0082】
また、上記の第2の実験例では、サンプル体40aの各貫通孔41をほぼ等間隔で配列した場合の方が、貫通孔41を偏った位置に配列した場合より、中央部強度が向上していた。従って、人工頭蓋骨弁においても、複数の貫通孔11はそれぞれ、人工頭蓋骨弁の外周に沿って、ほぼ等間隔となるように、バランス良く配列されることが好ましい。
【0083】
ところで、この第2の実験例におけるサンプル体40aには、上記第1実施形態で説明した溝部12に相当する溝部を設けなかった。しかし、第2の実験例において、本発明の発明者は、サンプル体40aが貫通孔41より内側の位置において荷重を受けた場合に、貫通孔41の外側の長辺が保持部材30によって押圧されることを観察した。即ち、サンプル体40aに溝部12に相当する溝部を設けると、保持部材30によって、薄肉化されて強度が低下した溝部の形成部位が押圧されるため、サンプル体40aの破断が促進され、中央部強度が低下してしまう可能性がある。従って、サンプル体40aに溝部を設ける場合には、溝部の形成領域における厚みを十分に確保し、当該領域の強度を確保することが好ましい。
【0084】
即ち、人工頭蓋骨弁において溝部12を形成する場合には、少なくとも溝部12の形成領域において、上述の厚みの値を有していることが好ましい。これによって、溝部12を形成した場合であっても、人工頭蓋骨弁の強度の低下を抑制することができる。また、溝部12に対応させて第2実施形態で説明した隆起部14を設ければ、溝部12の形成領域における厚みを上述した厚みの値とした場合であっても、溝部12の形成領域以外における厚みを5〜7mm程度の厚みで構成することが可能である。従って、溝部12の形成領域以外の部位における人工頭蓋骨弁の厚みの増大を抑制できるとともに、人工頭蓋骨弁の重量が増大してしまうことを抑制できる。
【0085】
このように、第3実施形態の人工頭蓋骨弁によれば、その厚みや貫通孔11の短辺の幅を適切に設定することにより、中央部強度や外周縁部強度を向上させることができる。そのため、頭蓋骨20への取り付けの際や、取り付けた後における破損を抑制することができる。また、第3実施形態の人工頭蓋骨弁によれば、その厚みを比較的薄く構成した場合でも、貫通孔11の位置を、人工頭蓋骨弁の外周縁のより近くに形成することにより、外周縁部強度を向上させることができる。従って、頭蓋骨20への取り付けの際における人工頭蓋骨弁の破損を抑制することができる。
【0086】
D.変形例:
なお、この発明は上記の実施形態や実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の態様において実施することが可能であり、例えば次のような変形も可能である。
【0087】
D1.変形例1:
上記実施形態においては、人工頭蓋骨弁10,10Aを頭蓋骨20の骨欠損部21に取り付ける際に、長方形のプレートを変形加工した保持部材30を用いていた。しかし、人工頭蓋骨弁10,10Aは、保持部材30に換えて他の部材によって、頭蓋骨20の骨欠損部21に取り付けられ、保持されるものとしても良い。具体的には、例えば、人工頭蓋骨弁10,10Aは糸状の部材を貫通孔11に挿通させることによって、頭蓋骨20の骨欠損部21に取り付けられ、保持されるものとしても良い。なお、この場合には、貫通孔11や溝部12は、糸を挿通可能な形状やサイズで構成されていれば良い。
【0088】
D2.変形例2:
上記実施形態の人工頭蓋骨弁10,10Aには、保持部材30の固定性を向上させるために、保持部材30の先端部の少なくとも一部を収容して保持する孔部として、2本のピン34を挿入する2つの有底孔13が、貫通孔11に対応させて設けられていた。しかし、保持部材30の先端部の少なくとも一部を保持するための孔部としては、2つの有底孔13でなくとも良く、保持部材30の構成に応じて、2つの有底孔13と異なる構成を有する孔部が形成されるものとしても良い。例えば、2つの有底孔13に換えて、2本のピン34を挿入可能な貫通孔が設けられるものとしても良い。また、2つの有底孔13に換えて、保持部材30の先端部を折り曲げた先端曲げ部を収容可能な長方形の孔部が形成されるものとしても良い。さらに、人工頭蓋骨弁10,10Aにおいて、上述したような保持部材30の先端部の少なくとも一部を収容して保持する孔部は省略されるものとしても良い。この場合には、保持部材30は、その先端部を人工頭蓋骨弁10,10Aの第2の面S2に予め接着することにより、人工頭蓋骨弁10,10Aを頭蓋骨20の骨欠損部21に固定的に取り付けられるものとしても良い。
【0089】
D3.変形例3:
上記第2実施形態において、人工頭蓋骨弁10Aの隆起部14は、人工頭蓋骨弁10Aを厚み方向に沿って見たときに、その形成領域に貫通孔11と、溝部12と、2つの有底孔13とが含まれるように形成されていた。しかし、隆起部14は、溝部12の形成領域における厚みを補填するように、溝部12の厚み方向下方に形成されていれば良い。ただし、人工頭蓋骨弁10Aを厚み方向に沿って見たときに、隆起部14の形成領域に、貫通孔11や2つの有底孔13が含まれていれば、貫通孔11や2つの有底孔13の形成部位における強度を確保することが可能である。また、隆起部14は、硬膜を保護するためにも、徐々に高さを増すようになだらかに形成されることが望ましいため溝部12の形成領域に対して、比較的広めの領域に形成されていることが好ましい。
【符号の説明】
【0090】
10…人工頭蓋骨弁
10A…人工頭蓋骨弁
11…貫通孔
12…溝部
13…有底孔
14…隆起部
15…外周端面
20…頭蓋骨
21…骨欠損部
30…保持部材
31…本体部
31a…第1本体部
31b…第2本体部
32…先端部
33…ネジ孔
34…ピン
35…固定用ネジ
40…サンプル体
40a…サンプル体
41…貫通孔
42…溝部
43…有底孔
51,52…支持部材
53…支持基台
531…凹部
55…クロスヘッド
56…緩衝材
S1…第1の面
S2…第2の面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
頭蓋骨の骨欠損部の補填に用いられる人工頭蓋骨弁であって、前記人工頭蓋骨弁を前記骨欠損部内に保持させるための保持部材を挿通するための複数の貫通孔が、前記人工頭蓋骨弁の外周端に沿って配列して設けられている人工頭蓋骨弁において、
前記複数の貫通孔のそれぞれから前記人工頭蓋骨弁の外周端に向かって延び、前記保持部材の一部を配置するための溝部が、前記骨欠損部に補填されたときに外側となる第1の面側に設けられている、人工頭蓋骨弁。
【請求項2】
請求項1記載の人工頭蓋骨弁であって、さらに、
前記第1の面とは反対側の第2の面には、他の部位より厚みを増した隆起部が設けられており、
前記隆起部は、前記人工頭蓋骨弁を厚み方向に沿って見たときに、少なくとも前記溝部と重なる領域に設けられている、人工頭蓋骨弁。
【請求項3】
請求項2記載の人工頭蓋骨弁であって、
前記人工頭蓋骨弁の厚み方向に沿って見たときに、前記溝部と前記隆起部とが重なる部位における厚みが、前記他の部位の厚みとほぼ同じである、人工頭蓋骨弁。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の人工頭蓋骨弁であって、
前記複数の貫通孔のそれぞれは、前記人工頭蓋骨弁の外周に沿った方向を長辺とする横長の形状を有しており、
前記保持部材は、前記人工頭蓋骨弁の外周から前記第1の面に沿って延びる第1の部位と、前記第1の部位から折り曲げられて前記貫通孔に挿通される第2の部位と、前記貫通孔から前記第1の面とは反対側の第2の面に沿って延びる先端部とを有する板状部材を含み、
前記第2の面には、前記保持部材の前記先端部の少なくとも一部を収容して保持するための孔部が、前記複数の貫通孔のそれぞれに対応して設けられており、
前記保持部材の厚みは1mm以下であり、
前記人工頭蓋骨弁の厚みは5〜7mmであり、
前記複数の貫通孔はそれぞれ、短辺方向の幅が、2mm±0.5mmである、人工頭蓋骨弁。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2012−165879(P2012−165879A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29260(P2011−29260)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】