説明

伝動ベルト

【課題】心線や、帆布又は短繊維に対する剥離強さを高めつつ、ゴム自体の強度も向上させることにより、ベルトの耐久性を良好にする。
【解決手段】歯付きベルト10は、一方の面側に設けられた歯ゴム11と、他方の面側に設けられた背ゴム12により一体的に形成されたベルト本体13と、歯ゴム11と背ゴム12との境界部分において、スパイラル状に巻かれ、ベルトの長手方向に延在して埋設される心線14とを備える。歯ゴム11の表面(すなわち、ベルト本体13の一方の面)には、歯ゴム11を被覆する歯布20が接着される。歯ゴム11は、HNBR等のゴムと、レゾルシノールと、メラミン化合物と、シリカ等を含むゴム組成物を加硫成形して得たものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、伝動ベルトに関し、特に高温、高負荷環境下で使用される歯付きベルトに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の内燃機関等においては、動力伝達のために歯付きベルトが広く使用されている。近年、歯付きベルトは、エンジンのコンパクト化等により、使用環境の高温化や細幅化が進み、高温・高負荷環境下で使用されることが多くなりつつある。従来、歯付きベルトは、高負荷環境下における耐久性が良好となるように、例えば歯ゴムに短繊維等が配合され、また、いわゆる予成形技術により比較的高モジュラスのゴムが歯ゴムに使用される。
【0003】
さらに、歯付きベルトは、高温環境下では、歯の変形量が大きくなり、内部発熱量も大きくなるため、熱劣化しやすくなるとともに、歯元部分のゴムや帆布が繰り返し大きく引き伸ばされ、クラックが入り易くなる。従来、クラック防止等を目的として、帆布、短繊維、心線等は、RFLやゴム糊等により表面処理が施され、ゴムとこれら部材との接着力が高められている。
【0004】
また、例えば特許文献1に開示されるように、Vリブドベルトにおいては、心線と、心線を内部に埋設する接着ゴムとの接着力を高めるために、レゾルシンホルマリン樹脂又はメラミン樹脂が接着ゴムに配合される構成も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−261489号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、市場の耐久性に対する要求レベルは、近年高まってきており、そのため、高強度のゴムや短繊維を使用し、また、各種部材をRFLやゴム糊により表面処理したのみでは、耐久性を要求レベルまで高めることが難しくなってきている。また、歯ゴムを高モジュラスとすると、帆布や短繊維との接着性や、高温下でのゴム強度が低下しやすい傾向にある。さらに、特許文献1に開示されるように、レゾルシンホルマリン樹脂又はメラミン樹脂を接着ゴムに配合すると、接着力を向上させることはできるが、ゴム自体の引裂強度等が低くなり、歯欠けやクラック等が生じやすくなることがある。
【0007】
そこで、本発明は、高温環境下でも、引裂き強度等を向上させてゴム自体の強度を良好にしつつ、ゴムと各種部材の接着力を向上させることにより、高負荷・高温環境下で使用されるベルトの耐久性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る伝動ベルトは、ゴムと、レゾルシノールと、メラミン化合物とを含むゴム組成物が加硫されて成形されたゴム部を備えることを特徴とする。
【0009】
上記ゴム部は、通常、心線若しくは帆布に接着され、又は内部に短繊維が埋設されるものである。ここで、ゴム部は、アラミド短繊維が内部に埋設されていたほうが良い。また、ゴムは、水素添加ニトリルゴムを含んでいたほうが良い。また、ゴム組成物はシリカをさらに含むことが好ましい。さらに、心線、帆布、及び短繊維のうち少なくともいずれか1つは、RFL処理がなされ、その表面にRFL成分が付着されていることが好ましい。
【0010】
伝動ベルトは、歯ゴムを備える歯付きベルトであることが好ましい。そして、上記ゴム部は、歯ゴムの少なくとも一部を構成することが好ましい。また、メラミン化合物としては、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物が好ましく使用される。なお、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物は、例えば、ヘキサメトキシメチロールメラミン、その部分縮合物であるオリゴマー、又はこれらの混合物である。
【0011】
歯付きベルトは、例えば、心線と、心線を境に一方の面側に配置される歯ゴムと、他方の面側に配置される背ゴムと、歯ゴムの上記一方の面側を被覆する歯布とを備える。この場合、歯ゴムのうち、少なくとも一方の面側の部分は、上記ゴム部で形成されるとともに歯布はそのゴム部に接着されている。
【0012】
本発明に係る伝動ベルトの製造方法は、ゴムと、レゾルシノールと、メラミン化合物とを含むゴム組成物を加硫して、伝動ベルトの少なくとも一部を構成するゴム部を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明においては、ゴム組成物に所定の内添型接着剤を配合することにより、心線、帆布又は短繊維等に対するゴムの接着強度を高めつつ、ゴム自体の強度も向上させて、ベルトの耐久性を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1の実施形態に係る歯付きベルトの断面図である。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る歯付きベルトの製造方法を示す断面図である。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る歯付きベルトの断面図である。
【図4】高負荷耐久性試験におけるレイアウトを示す。
【図5】高負荷耐久性試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の一実施形態における歯付きベルトを示す。歯付きベルト10は、無端状に形成されて、例えば内燃機関等において、従動及び原動プーリ(不図示)に掛け回されて使用されるものである。歯付きベルト10は、原動プーリのトルク(駆動力)を、噛み合い伝動により従動プーリに伝動させるタイミングベルトである。
【0016】
歯付きベルト10は、一方の面側に設けられた歯ゴム11と、他方の面側に設けられた背ゴム12により一体的に形成されたベルト本体13と、歯ゴム11と背ゴム12との境界部分において、スパイラル状に巻かれ、ベルトの長手方向に沿って延在して埋設される心線14とを備える。心線14は、歯ゴム11及び背ゴム12に接着される。
【0017】
歯ゴム11は、ベルト本体13の一方の面側に、ベルトの長手方向に沿って歯部15と歯底部16を交互に形成するものである。歯ゴム11の表面(すなわち、ベルト本体13の一方の面)には、歯ゴム11(歯部15及び歯底部16)を被覆する歯布(帆布)20が接着される。
【0018】
歯ゴム11には、ナイロン繊維、ナイロンを変性した変性ナイロン繊維、アラミド繊維等から成り、繊維長0.5〜10mm程度の短繊維25が混入されるが、歯ゴム11をより高モジュラスとするために、アラミド短繊維が混入されることが好ましい。また、アラミド繊維が混入される場合には、後述する2つの内添型接着剤によって、ゴムと短繊維25等との接着強度や引裂強さ等のゴム物性が改善されやすくなる。短繊維25は、歯ゴム11において、後述するマトリックス100重量部に対して、例えば4〜36重量部程度、好ましくは10〜25重量部程度、特に好ましくは12〜16重量部程度含有される。
【0019】
短繊維25は、後述する内添型接着剤と反応し得る樹脂成分を含む処理剤によって処理されたものであることが好ましく、例えばRFL(レゾルシン−ホルマリン−ラテックス)処理されることが好ましい。RFL処理は、短繊維がRFL処理液に浸漬された後、加熱乾燥される含浸処理により行われる。RFL処理液は、ラテックスとレゾルシン・ホルムアルデヒド縮合物とを含み、これらが例えば水等によって希釈されたものである。また、上記樹脂成分は、ウレタン樹脂やエポキシ樹脂などであっても良い。
【0020】
短繊維25は、歯部15の中央領域では、ほぼベルトの厚さ方向に配向されると共に、その中央領域から歯面に近づくにつれて、歯面に沿うように厚さ方向に対して傾いて配向され、歯部15の頂部近傍や歯底部16近傍ではほぼベルトの長手方向に沿って配向される。
【0021】
歯ゴム11は、ゴムと、各種添加剤とを含有するゴム組成物が加硫されて成形されたものである。このゴム組成物は、ゴムとして水素添加ニトリルゴム(HNBR)を主成分として含むものであるが、水素添加カルボキシル化ニトリルゴム(HXNBR)やニトリルゴム(NBR)等の他のゴム成分を含んでいても良い。
【0022】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物には、マトリックスとして、上記ゴムに加えて、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩を含むことが好ましいが、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩は含有されなくても良い。α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩は、例えば、マトリックス(ゴム及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩の合計重量)に対して、0.2〜0.4程度含有される。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸金属塩は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸と金属とがイオン結合したものであり、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸としては例えばアクリル酸、メタクリル酸等のモノカルボン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸等のジカルボン酸が使用され、好ましくはメタクリル酸が使用される。金属としては例えば亜鉛、マグネシウム、カルシウム、バリウム、チタン、クロム、鉄、コバルト、ニッケル、アルミニウム、錫、鉛等が使用され、好ましくは亜鉛が使用される。そして、例えば上記金属塩としてはジメタクリル酸亜鉛が使用される。
【0024】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、さらに内添型接着剤として、レゾルシノールと、メラミン化合物を含有する。本実施形態では、これら化合物が含まれることにより、例えば加硫成型時の加熱により、メラミン化合物やレゾルシノールが重合されて網目構造が構築されて、歯ゴム11自体の引裂強度等が高められるとともに、心線14、歯布20及び短繊維25に対する歯ゴム11の接着強度も高められる。
【0025】
上記メラミン化合物としては、例えば、アミノ基の少なくとも一部がメトキシメチル化されたメラミン化合物であって、具体的には、ヘキサメトキシメチロールメラミン、その部分縮合物であるオリゴマー、又はその混合物である、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物が使用される。このようなメラミン化合物は、その25℃における粘度(DIN19268による)が3000〜8000mPa・s程度となるものが好ましい。
【0026】
レゾルシノールは、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、0.3〜8重量部、好ましくは0.5〜4.5重量部、より好ましくは1.5〜3.0重量部配合される。また、メラミン化合物は、レゾルシノールよりも配合部数(重量)が少ないことが好ましく、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、0.2〜5重量部、好ましくは0.3〜2.7重量部、より好ましくは0.9〜1.8重量部配合される。メラミン化合物やレゾルシノールの配合量が、上記範囲よりも多くなると、引裂強度や破断強度等が良好になりにくくなる一方で、上記範囲より少ないと接着強度が向上しにくくなる。
【0027】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、シリカを含むことが好ましい。シリカとしては、微粒子又は粉末状等のものが使用される。本実施形態では、シリカに含まれる水分によって、メラミン化合物からホルムアルデヒドが供与され、そのホルムアルデヒドによりレゾルシノールが重合されるとともに、メラミン化合物も重合され、上記したように接着力や引裂強度等が良好となる。シリカは、ゴム組成物のマトリックス100重量部に対して、5〜50重量部、好ましくは20〜40重量部である。
【0028】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、添加物として、さらに、加硫剤、可塑剤、滑剤、カーボンブラック等の公知のゴム添加剤を含む。本実施形態では、加硫剤としては、有機過酸化物系の加硫剤が使用されることが好ましい。
【0029】
歯布20は、特に限定されないが、例えば、ベルトの長手方向に沿って延びる第1の糸(例えば緯糸)と、ベルトの幅方向に沿って延びる第2の糸(例えば経糸)とが織られて構成された織物である。歯布20は、例えば、第1の糸が伸縮性糸、第2の糸が非伸縮性糸で構成され、ベルトの長手方向に伸縮性を有しており、予成形される際にコルゲート状に成形されやすくなる。本実施形態では、ベルト表面の強度を向上させるために、歯布20を構成する少なくとも一部の繊維が、アラミド繊維であることが好ましく、例えば第1の糸の少なくとも一部がアラミド繊維であることが好ましい。また、歯布20には、必要に応じて、RFL処理等の含浸処理等が施される。
【0030】
歯ゴム11を成形するためのゴム組成物は、以下のように用意される。まず、短繊維、シリカ等の加硫剤及び内添型接着剤(レゾルシノール、及びメラミン化合物)以外のゴム組成物の添加剤が、好ましくは下記一次練りより高い温度で、ゴムと共に混練される。次いで、上記内添型接着剤が加えられさらに混練(一次練り)される。この一次練りでは、混練温度は100℃以上であることが好ましく、これにより、シリカの水分が組成物中に放出され、上記したように、メラミン化合物からホルムアルデヒドが供与されやすくなる。一次練りを終えた混合物にはさらに加硫剤が添加され、加硫剤の加硫温度未満(一次練りの混練温度未満)で混練されてゴム組成物が得られる(二次練り)。このゴム組成物は、シート状にされて、歯ゴムシート11’(図2参照)として使用される。ただし、ゴムの混練方法は、この方法に限定されず、例えば、加硫剤以外の添加剤が一次練りや二次練りで適宜添加されても良い。
【0031】
背ゴム12は、従来公知の歯付きベルトの背ゴムに使用されるゴムと同様のものが使用されて良いが、短繊維が混入されていないことが好ましい。また、背ゴム12に使用されるゴムは、歯ゴム11と同様に、HNBRを主成分とすることが好ましく、必要に応じてその他のゴム成分を含んでいても良い。
【0032】
次に、図2を用いて本実施形態における歯付きベルト10の製造方法を説明する。本実施形態では、含浸処理等が施された歯布20が、まず、従来公知の方法により、歯部23及び歯底部24を交互に有するコルゲート状に予成形される。
【0033】
次いで、コルゲート状にされた歯布20の一方の面に、歯ゴムシート11’が圧着され、ゴム付き歯布26が得られる。歯ゴムシート11’は、歯布20に向けて押圧されることにより、歯部23上に相対的に厚く圧着される一方、歯底部24上に相対的に薄く圧着される。また、歯ゴムシート11’に混入される短繊維25は、長手方向に沿って配合していたものが、図2から明らかなように、圧着されるときに適宜傾き、歯付きベルト10における短繊維と略同様に配向されることになる。
【0034】
このように得られたゴム付き歯布26は、歯付きモールド30に巻き付けられる。歯付きモールド30は、円筒形状を有し、その外周面に凹部31と凸部32が周方向に沿って交互に設けられたものであって、ゴム付き歯布26の各歯部23は、各凹部31の内部に配置される。なお、ゴム付き歯布26の各歯部23は、通常、凹部31に完全に一致した形状となっておらず、歯部23と凹部31の間には隙間がある。
【0035】
次いで、歯ゴムシート11’の上に心線14が螺旋状に巻き付けられ、心線14の上にさらに背ゴムシート12’が巻き付けられる。その後、歯付きモールド30は、加硫釜(不図示)内に収容される。なお、歯ゴムシート11’及び背ゴムシート12’は、加硫成型後に、歯ゴム11、背ゴム12となる未加硫ゴムシートである。
【0036】
加硫釜内において、歯付きモールド30上に巻き付けられたゴム付き歯布26等は、例えばスチームにより加熱されるとともに、加硫釜内に設けられた加硫バッグ等によって外側から内側に向けて加圧される。この加圧・加熱により、凹部31内部の隙間は完全になくなり、また、ゴムシート11’、12’等が加硫されることにより、歯布20、ゴムシート11’、12’及び心線14が一体化され、ベルトスラブが成型される。ベルトスラブは、歯付きモールド30から取り外され、適宜研磨等された後、所定幅に裁断されることにより、歯付きベルト10(図1参照)となる。
【0037】
以上のように本実施形態では、歯ゴム11は、上記した2つの内添型接着剤が配合されたことにより、引裂強度等のゴム自体の強度が高められつつ、心線14、歯布20及び短繊維25に対する接着力も高められ、高温・高負荷環境下でもベルトの耐久性が向上される。
【0038】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る歯付きベルトを示す。第2の実施形態は、歯ゴムの構成以外は、第1の実施形態と同様である。以下、第2の実施形態について、第1の実施形態の相違点を説明する。
【0039】
第2の実施形態では、歯ゴム11は、歯部15の大部分を占めるとともに背ゴム12の上に積層され、歯部15の形状に応じた形状を有する芯ゴム部37と、その芯ゴム部37の上に積層され、歯ゴム11の表面に配置される薄厚の歯表面ゴム部38によって構成される。そして、その歯表面ゴム部38の外周面に、歯布20が被覆・接着される。
【0040】
本実施形態では、歯表面ゴム部38は、短繊維が配合されない以外は、第1の実施形態における歯ゴム11と同様のゴム組成物によって成形されたものである。すなわち、歯表面ゴム部38は、シリカ、レゾルシノール、及びメラミン化合物等が配合されたゴム組成物によって成形される。一方、芯ゴム部37は、レゾルシノール及びメラミン化合物が配合されない以外は、第1の実施形態の歯ゴム11と同様の配合を有するゴム組成物によって成形されたものである。なお、芯ゴム部における短繊維25の材料や配向等は、第1の実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
【0041】
以上のように、本実施形態では、歯表面ゴム部38に、上記した2つの内添型接着剤が配合されたため、歯ゴム11と歯布20との接着強度を向上させるとともに、歯面近傍の歯ゴム11のゴム強度を向上させることが可能になる。また、歯表面ゴム38が、設けられたことにより、歯布20と歯ゴム11との接着が、短繊維によって阻害されなくなり、その接着強度をより向上させやすくなる。
【0042】
なお、本実施形態では、芯ゴム部37も、歯表面ゴム部38と同様に、レゾルシノール、及びメラミン化合物等が配合されたゴム組成物によって成形されても良い。また、本実施形態における歯付きベルトの製造方法は、歯布に圧着されるゴムシートが、2層(歯表面ゴムシート及び芯ゴムシート)になる点を除いて第1の実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
【0043】
なお、上記各実施形態では、歯ゴム11、背ゴム12を構成するゴムは、EPDM(エチレン−プロピレン−ジエン共重合体)等の上記したHNBR、NBR、HXNBR以外のゴム成分を含んでいてもよいし、HNBR以外のゴム成分を主成分としてもよい。
【0044】
また、上記各実施形態では、歯布20及び心線14も、短繊維25と同様に、例えば、RFL処理等が施されることにより、その表面に内添型接着剤と反応し得る樹脂成分が付着されるものであることが好ましい。
【実施例】
【0045】
以下、本発明の具体的な例として実施例を示すが、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0046】
各実施例、比較例において、表1に示す加硫剤及び内添型接着剤(レゾルシノール及びヘキサメトキシメチロールメラミン化合物)以外の添加剤を、マトリックスに加えて、120〜160℃で混練りした後、上記内添型接着剤を加えて100〜130℃で混練し(一次練り)、さらに加硫剤を加えて100℃未満で二次練りして、表1に示す配合を有するゴム組成物を得た。
【0047】
【表1】

※1 “-”は未配合または未測定を示す。
※2 マトリックス及び短繊維等の添加剤における各数値は、重量部を示す。
※3 ジメタクリル酸亜鉛含有HNBRは、ジメタクリル酸亜鉛とHNBRを重量比80:20で予め混合したものであった。また、HNBRは水素添加率96%のものであった。
※4 アラミド短繊維としては、繊維長が1mmであるパラ型アラミド短繊維であるテクノーラ(商品名)を使用した。なお、表1において、“アラミド短繊維”は、RFL処理(RF/L重量比=1/5、ラテックスとしてNBRラテックスを使用)したものを示し、アラミド短繊維(無処理)は、RFL処理等の含浸処理がなされていないものを示す。
※5 ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物は、25℃における粘度(DIN19268による)が5500mPa・sであって、ヘキサメトキシメチロールメラミンの部分縮合物であるオリゴマーを使用した。
※6 表1において、*は心線としてアラミド心線を使用したことを示す。
【0048】
[ゴム組成物の物性評価]
以下のように、上記各実施例、比較例のゴム組成物について物性評価を行った。その結果を表1に示す。
【0049】
[切断時引張応力(TS)]
各実施例、比較例のゴム組成物を、160℃、20分間、圧力150kgfで加硫成形してダンベル状5号形のゴムサンプルを作製した。このゴムサンプルを用いて、JIS K6251に準拠し、常態環境下(23℃)、熱間環境下(120℃)で切断時引張応力(TS)を測定した。なお、ゴムサンプルにおいて、短繊維は、引張方向に沿って配向させた。
【0050】
[引裂強さ(TR)]
切断時引張応力(TS)と同様の加硫条件で、各実施例、比較例のゴム組成物から加硫ゴムサンプル「切り込みなしアングル形試験片」を作製した。このゴムサンプルを用いて、JIS K6252に準拠し、常態環境下(23℃)、熱間環境下(120℃)で引裂強さ(TR)を測定した。
【0051】
[歯布に対する剥離強さ(T)]
各実施例、比較例におけるゴム組成物から成る未加硫ゴムシートを、加硫温度160℃、20分間、圧力40kgfで歯布に接着させてサンプルを得た。そのサンプル(幅25mm)を用いて加硫ゴムの歯布に対する剥離強さ(T)を、JISK6256−1に準拠して、常態環境下(23℃)、熱間環境下(120℃)で測定した。
【0052】
なお、本測定に使用した歯布は、経糸と緯糸が2/2の綾織で織られた織布を、RFL処理(RF/L重量比=1/5、ラテックスとしてNBRラテックスを使用)したものであった。ここで、経糸は、110dtexのナイロンのフィラメント糸から構成される非伸縮性糸であるとともに、緯糸は、470dtexのウレタン弾性糸から成る芯糸の周りに、220dtexのパラアラミド繊維糸(商品名.テクノーラ)から成る中間糸を巻き回し、その中間糸の周りにさらに110dtexのナイロン繊維から成るカバー糸を巻き回した複合糸から構成される伸縮性糸であった。なお、緯糸はサンプルの長手方向に沿って延在させるとともに、短繊維の列理方向はサンプルの長手方向であった。
【0053】
[心線に対する剥離強さ(T)]
各実施例、比較例におけるゴム組成物から成る未加硫ゴムシートの上に、長手方向に沿って心線を並べるとともに、その心線の上に補助布を置いて、160℃、20分間、圧力40kgfでこれらを一体化させてサンプルを得た。そのサンプル(幅25mm)を用いて、ゴムの心線に対する剥離強さ(T)を、JISK6256−1に準拠して、常態環境下(23℃)、熱間環境下(120℃)で測定した。なお、実施例11〜13、比較例5、6では心線としてアラミド心線を、その他の実施例、比較例では心線としてガラス心線を用いた。
【0054】
[ベルト性能評価]
実施例1および比較例1については、以下のように、第1の実施形態に倣って歯付きベルトを作成し性能評価を実施した。具体的には、上記接着試験で使用した歯布と同様の歯布を、同様にRFL処理した後、緯糸がベルト長手方向に沿うように、コルゲート状に予成形するとともに、表1の配合を有するゴム組成物から成る歯ゴムシートを歯布に圧着し、ゴム付き歯布を得た。次いで、歯付きモールドに、ゴム付き歯布、ガラス心線、及び背ゴムシートをこの順で巻き付けて、これらを加硫釜内で加硫成型してベルトスラブを得た。このベルトスラブを切断して、歯数92歯、ベルト幅19.1mmのRU歯形を有する歯付きベルトを得た。なお、実施例1、比較例1のいずれにおいても、背ゴムシートには、HNBRをゴム成分とし、短繊維や内添型接着剤が配合されていない同じゴム組成物から成るものを使用した。
【0055】
[帆布剥離強度]
実施例1、比較例1の歯付きベルトを切断して長尺状にするとともに、歯布に切り込みを入れて、引張速度50mm/分で、歯布を、長手方向に沿って歯ゴムから引き剥がし、歯頂における引き剥がしに要する力を帆布剥離強度とした。その結果を表1に示す。
【0056】
[高負荷耐久性試験]
実施例1、比較例1の歯付きベルトについて、それぞれ高負荷耐久性試験により、高負荷作用時における耐久性を評価した。図4は、高負荷耐久性試験に使用した走行試験装置90を示す。走行試験装置90は、歯数が18歯の原動歯付きプーリ91と、歯数が36歯である従動歯付きプーリ92と、プーリ径55mmのアイドラプーリ93と、歯数が18歯のアイドラ歯付きプーリ94を有する。
【0057】
本試験において、原動歯付きプーリ91および従動歯付きプーリ92に、歯付きベルト95を掛け回し、100℃の雰囲気下で歯付きベルト95を4000rpmで回転させた。ベルトの緩み側には、外側からアイドラプーリ93によって、内側からアイドラ歯付きプーリ94によってテンションを作用させた。そして、歯付きベルト95が回転される間、ベルトの各歯には、従動歯付きプーリ92によって、一定の荷重を繰り返し作用させた。本試験においては、ベルトが歯欠けに至るまでの繰り返し荷重回数を測定することにより耐久性を評価した。その結果を図5に示す。
【0058】
まず、表1を参照して、実施例1と比較例1、実施例2と比較例2、及び実施例8と比較例3を対比すると、ゴム組成物に内添型接着剤(レゾルシノールとヘキサメトキシメチロールメラミン化合物)を配合した場合には、剥離強さのみならず、高温時の引裂強さ等のゴム物性も上昇したことが明らかである。この傾向は、実施例3と比較例4の対比からも明らかなように、ゴム成分をHNBR単独とした場合のみならず、HNBRとHXNBRの混合物とした場合も同様であった。このように、引裂強さ等のゴム物性や剥離強さを向上させると、図5の高負荷耐久性試験の結果に示されるように、高負荷・高温環境下で使用されるベルトの耐久性を良好にすることができる。
【0059】
また、実施例1、2、8、9の対比から明らかなように、切断時引張応力、引裂強さ等のゴム物性、特に、高温時のゴム物性は、短繊維量が10重量部より多くなると良好になる一方で、剥離強さは、短繊維量が10重量部より多くなると、僅かに低下する傾向となった。そして、ゴム物性と剥離強さの両方を考慮すると、短繊維は12〜16重量部程度配合するのが最も効果的と考えられる。なお、短繊維量を多くすると剥離強さが低下したのは、帆布または心線近傍のゴム中の接着剤が、短繊維のRFLとの反応に多く消費されたためと推察される。
【0060】
また、実施例2、4〜7を対比することから明らかなように、内添型接着剤の配合量を増やしていくと、剥離強さは良好になるものの、切断時引張応力(特に、熱間)は、実施例2(レゾルシノール1.5重量部、メラミン化合物0.9重量部)の配合量がピークで、それ以上接着剤量を増やすと緩やかに低下した。一方、熱間の引裂強さは実施例5の配合量(レゾルシノール3.0重量部、メラミン化合物1.8重量部)がピークであり、それ以上増やすとなだらかに低下した。そのため、本実施例では、ゴム物性を考慮すると、ゴム組成物にはメラミン化合物を0.9〜1.8重量部、レゾルシノールを1.5〜3.0重量部程度配合するのが最も効果的であると考えられる。
【0061】
さらに、短繊維が配合されないゴム組成物では、比較例5と実施例11の対比から明らかなように、内添型接着剤を添加することにより、ゴム物性自体はそれほど上昇しなかった。また、心線に対する剥離強さに関しては、内添型接着剤を添加することにより上昇したが、帆布に関しては、いずれも帆布とゴムとの界面で剥離せずにゴム破壊が生じ、有意差は見られなかった。そのため、その他実施例の結果と合わせて考えると、短繊維を配合する場合には、内添型接着剤を添加することにより、ゴム物性や剥離強さのより大きな向上効果を期待できることが理解できる。また、実施例2、10、比較例2の対比から、短繊維にRFL処理がなされていたほうが、より効果的にゴム物性を上昇させることができたことが理解できる。
【0062】
なお、実施例12、13、比較例6の対比から明らかなように、ゴム成分としてEPDMを使用した場合には、内添型接着剤を比較的多く配合すると、剥離強さが向上するものの、切断時引張応力や引裂強さ等は十分に改善できないことが理解できる。
【符号の説明】
【0063】
10 歯付きベルト(伝動ベルト)
11 歯ゴム
12 背ゴム
13 ベルト本体
14 心線
20 歯布(帆布)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴムと、レゾルシノールと、メラミン化合物とを含むゴム組成物が加硫されて成形されたゴム部を備えることを特徴とする伝動ベルト。
【請求項2】
前記メラミン化合物は、ヘキサメトキシメチロールメラミン化合物であることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項3】
前記ゴム部は、心線若しくは帆布に接着され、又は内部に短繊維が埋設されることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項4】
前記心線、帆布、及び短繊維のうち少なくともいずれか1つはRFL処理がなされていることを特徴とする請求項3に記載の伝動ベルト。
【請求項5】
前記ゴム部は、アラミド短繊維が内部に埋設されることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項6】
前記ゴムは、水素添加ニトリルゴムを含むことを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項7】
前記ゴム組成物がシリカをさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項8】
歯ゴムを備える歯付きベルトであるとともに、前記ゴム部は、前記歯ゴムの少なくとも一部を構成することを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項9】
心線と、前記心線を境に一方の面側に配置される歯ゴムと、他方の面側に配置される背ゴムと、前記歯ゴムの一方の面側を被覆する歯布とを備える歯付きベルトであり、
前記歯ゴムのうち、少なくとも一方の面側の部分は前記ゴム部で形成され、前記歯布は、前記ゴム部に接着されることを特徴とする請求項1に記載の伝動ベルト。
【請求項10】
ゴムと、レゾルシノールと、メラミン化合物とを含むゴム組成物を加硫して、伝動ベルトの少なくとも一部を構成するゴム部を成形することを特徴とする伝動ベルトの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−108564(P2013−108564A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253958(P2011−253958)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(000115245)ゲイツ・ユニッタ・アジア株式会社 (101)
【Fターム(参考)】