説明

位相板および位相板製造方法

【課題】所望の特性を有するよう製造することが容易な位相板、および、このような位相板の製造方法を提供する。
【解決手段】位相板10は、略円柱形状を有していて、その円柱の中心軸に沿った方向に屈折率が一定であり、その中心軸に垂直な断面において中心から順に領域11〜18を有する。領域11〜18のうち隣接する2つの領域の境界は中心軸を中心とする同心円である。領域11,13,15,17それぞれの屈折率nと、領域12,14,16,18それぞれの屈折率nとは、互いに異なる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相板および位相板製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、多モード光ファイバを伝搬する高次モード光を位相板によりガウス状分布を有する光に変換する発明が開示されている。ここで用いられる位相板は、石英ガラス板の主面において同心円状に深さ1.2μmの凹部が形成されたものであり、石英ガラスおよび凹部内の空気それぞれの屈折率の差を利用することで位相差を発生させている。特許文献1には位相板の製造方法については記載されていないが、石英ガラス板の一方の面に対してエッチングをして同心円状の凹部を形成することで位相板を製造することができる。
【0003】
特許文献2には、狭帯域光源から出力される光のコヒーレンスを位相板により低減させて干渉縞の発生を抑制する発明が開示されており、また、その位相板を製造する方法も開示されている。この文献に開示された位相板の製造方法では、結晶材料にレーザ光を集光照射して当該集光位置の屈折率を局所的に変化させ、このような屈折率変化位置を多数設けることで位相板を製造する。
【特許文献1】米国特許出願公開第2008/0219620号明細書
【特許文献2】特開平11−246298号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2それぞれに記載された位相板は、所望の特性を有するよう製造することが容易ではない。すなわち、特許文献1のFig.10aやFig.10cに図示されているように、特許文献1に記載された位相板の性能(高次モード光からガウス状分布光へのパワー変換効率)は、石英ガラスに形成される同心円状の凹部の位置精度や深さ精度に大きく依存する。したがって、特許文献1に記載された位相板は、所望の特性を有するよう製造することが容易ではない。また、特許文献2に記載された位相板は、結晶材料仲の多数の位置に対して逐次にレーザ光を集光照射して当該集光位置の屈折率を局所的に変化させる必要があることから、所望の特性を有するよう製造するには長時間を要し容易ではない。
【0005】
本発明は、上記問題点を解消する為になされたものであり、所望の特性を有するよう製造することが容易な位相板、および、このような位相板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る位相板は、所定軸に沿った方向に屈折率が一定であり、所定軸に垂直な断面において屈折率が異なる複数の領域を有することを特徴とする。
【0007】
本発明に係る位相板では、複数の領域それぞれは各々屈折率が一定である副領域の集合であるのが好適である。複数の領域それぞれの少なくとも一部が石英ガラスからなるのが好適である。また、複数の領域それぞれの間の屈折率差は、石英ガラスの有無、石英ガラスにおける添加物の有無、または、石英ガラスにおける添加物の濃度差により設定されているのが好適である。
【0008】
本発明に係る位相板製造方法は、(1) ロッドまたはパイプの形状を有し長手方向に屈折率が一定である複数本の部材を束ねて集合する集合工程と、(2) この集合工程において集合された複数本の部材を加熱軟化させ長手方向に延伸して延伸体を形成する延伸工程と、(3) この延伸工程において形成された延伸体を長手方向に垂直な面で切断して上記の本発明に係る位相板を製造する切断工程と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、所望の特性を有するよう製造することが容易な位相板を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための最良の形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0011】
先ず、第1実施形態について説明する。図1は、第1実施形態に係る位相板10の構成を示す斜視図である。この図に示される位相板10は、略円柱形状を有していて、その円柱の中心軸に沿った方向に屈折率が一定であり、その中心軸に垂直な断面において中心から順に領域11〜18を有する。領域11〜18のうち隣接する2つの領域の境界は中心軸を中心とする同心円である。領域11,13,15,17それぞれの屈折率nと、領域12,14,16,18それぞれの屈折率nとは、互いに異なる。
【0012】
領域11〜18それぞれの少なくとも一部は石英ガラスからなるのが好適である。また、領域11〜18それぞれの間の屈折率差は、石英ガラスの有無、石英ガラスにおける添加物の有無、または、石英ガラスにおける添加物の濃度差により設定されているのが好適である。
【0013】
領域11〜18それぞれは、各々屈折率が一定である副領域の集合であってもよく、例えば、石英ガラスからなる副領域と、この副領域の隙間の空気等の気体からなる副領域との集合であってもよい。また、領域11〜18それぞれは、パイプを用いて製造する場合には、そのパイプの材料からなる副領域と、そのパイプの内部の空気等の気体からなる副領域との集合であってもよい。
【0014】
図2は、第1実施形態に係る位相板10の製造方法を説明するフローチャートである。本実施形態に係る位相板製造方法は、集合工程S1,延伸工程S2,切断工程S3および研磨工程S4を備え、これらの工程S1〜S4を順に経て位相板10を製造する。図3は、第1実施形態に係る位相板10の製造方法における集合工程S1を説明する図であり、集合工程S1により形成される集合体110の長手方向に垂直な断面の図を示す。
【0015】
集合工程S1では、長手方向に一様な屈折率nを有する複数本のロッド111と、長手方向に一様な屈折率nを有する複数本のロッド112とを束ね、その束ねた状態で長手方向に垂直な断面における屈折率分布が位相板10の断面における屈折率分布の略相似となるよう複数本のロッド111,112を集合して集合体110を形成する。すなわち、領域11に対応して複数本のロッド111を束ね、その周囲に領域12に対応して複数本のロッド112を束ね、更に周囲に領域13に対応して複数本のロッド111を束ね、・・・という操作を交互に繰り返す。なお、複数本のロッドを束ねていく順序は、任意であり、例えば中心から外周に向って順にロッドを束ねていってもよいし、下から上に向って順にロッドを束ねていってもよい。このとき、ロッド111が束ねられる領域と、ロッド112が束ねられる領域とは、図1に示されるように同心円状になるように配置されるのが好ましい。
【0016】
なお、この集合体110において、束ねられた複数本のロッド111,112が集合用パイプの内部に収納されているのが好ましい。複数本のロッド111,112それぞれの外径が同一であるのが好適であり、また、複数本のロッド111,112を最密配列するのが好適である。これら複数本のロッド111,112は、透明材料からなり、例えば石英ガラスからなる。
【0017】
また、複数本のロッド111,112それぞれの外径が小さいほど、すなわち、集合工程S1で束ねるロッド111,112の本数が多いほど、集合体110の断面における屈折率分布は、位相板10の断面における屈折率分布に対して、より相似に近くなる。
【0018】
延伸工程S2では、集合工程S1において複数本のロッド111,112が集合されて形成された集合体110を加熱軟化させ長手方向に延伸して延伸体を形成する。切断工程S3では、延伸工程S2において形成された延伸体を長手方向に垂直な面で切断して位相板10を製造する。このとき、後の研磨工程S4の際の厚さ減少分を考慮して、研磨後に所望の厚さとなるように切断して位相板10を製造する。研磨工程S4では、切断工程S3において切断されたときの当該切断面を光学研磨する。
【0019】
例えば、特許文献1に記載された位相板と同等の機能を有するものを第1実施形態に係る位相板10で実現する場合を考えると以下のとおりである。領域11,13,15,17およびロッド111それぞれをGeO添加石英ガラスとして、波長1.08μmにおいて屈折率nを1.4785とする。また、領域12,14,16,18およびロッド112それぞれを純石英ガラスとして、波長1.08μmにおいて屈折率nを1.4495とする。このとき、領域11,13,15,17それぞれを軸方向に透過する光の位相と、領域12,14,16,18それぞれを軸方向に透過する光の位相と、の差が半波長相当となるようにするには、位相板10の厚み(中心軸方向の長さ)を18.6μm(=1.08/2/(1.4785−1.4495))とすればよい。
【0020】
このようにして製造される位相板10は、特許文献1に記載された位相板と同等の機能を有する一方で、特許文献1に記載された位相板と異なり、所望の特性を有するよう製造することが容易である。本実施形態に係る位相板10は、石英ガラス板の主面に凹部を有する必要がなく、その主面を平坦面とすることができるので、製造が容易であり、また、取り扱いも容易である。また、本実施形態に係る位相板10は、特許文献1に記載された位相板と比較して10倍以上の厚みを有することになるが、実用上では充分な薄さであり、また、位相精度に対して直接関係する厚さの管理精度が10倍以上緩和可能となる。
【0021】
なお、屈折率nが1.4524であるGeO添加ガラスからなる石英ロッド111と、屈折率nが1.4495である純石英ガラスからなるロッド112とを使用すると、位相板10の厚み(中心軸方向の長さ)は、186.2(=1.08/2/(1.4524−1.4495))μmとなり、上記の例と比べると10倍厚くなるが、厚さの管理精度が更に10倍緩和可能となり、逆に厚さの管理精度が同等であれば位相精度が10倍向上する。
【0022】
また、本実施形態に係る位相板10において、特許文献1に記載された位相板と同等な厚さを実現したい場合は、純石英ガラスのロッドの代わりに中空石英ガラスパイプを用い、GeO添加石英ガラスのロッドの代わりに純石英ガラスのロッドを使用すればよい。
【0023】
次に、第2実施形態について説明する。図4は、第2実施形態に係る位相板20の構成を示す斜視図である。この図に示される位相板20は、略円柱形状を有していて、その円柱の中心軸に沿った方向に屈折率が一定であり、その中心軸に垂直な断面において複数の領域21が領域22に囲まれてランダムに存在する。領域21の屈折率nと領域22の屈折率nとは互いに異なる。
【0024】
領域21,22それぞれの少なくとも一部は石英ガラスからなるのが好適である。また、領域21,22それぞれの間の屈折率差は、石英ガラスの有無、石英ガラスにおける添加物の有無、または、石英ガラスにおける添加物の濃度差により設定されているのが好適である。
【0025】
領域21,22それぞれは、各々屈折率が一定である副領域の集合であってもよく、例えば、石英ガラスからなる副領域と、この副領域の隙間の空気等の気体からなる副領域との集合であってもよい。また、領域21,22それぞれは、パイプを用いて製造する場合には、そのパイプの材料からなる副領域と、そのパイプの内部の空気等の気体からなる副領域との集合であってもよい。
【0026】
この第2実施形態に係る位相板20は、図2に示されたフローチャートに従って製造され得る。図5は、第2実施形態に係る位相板20の製造方法における集合工程S1を説明する図であり、集合工程S1により形成される集合体120の長手方向に垂直な断面の図を示す。
【0027】
集合工程S1では、長手方向に一様な屈折率nを有する複数本のロッド121と、長手方向に一様な屈折率nを有する複数本のロッド122とを束ね、その束ねた状態で長手方向に垂直な断面における屈折率分布が位相板20の断面における屈折率分布の略相似となるよう複数本のロッド121,122を集合して集合体120を形成する。
【0028】
なお、この集合体120において、束ねられた複数本のロッド121,122が集合用パイプの内部に収納されているのが好ましい。複数本のロッド121,122それぞれの外径が同一であるのが好適であり、また、複数本のロッド121,122を最密配列するのが好適である。これら複数本のロッド121,122は、透明材料からなり、例えば石英ガラスからなる。
【0029】
延伸工程S2では、集合工程S1において複数本のロッド121,122が集合されて形成された集合体120を加熱軟化させ長手方向に延伸して延伸体を形成する。切断工程S3では、延伸工程S2において形成された延伸体を長手方向に垂直な面で切断して位相板10を製造する。このとき、後の研磨工程S4の際の厚さ減少分を考慮して、研磨後に所望の厚さとなるように切断して位相板20を製造する。研磨工程S4では、切断工程S3において切断されたときの当該切断面を光学研磨する。
【0030】
例えば、特許文献2に記載された位相板と同等の機能を有するものを第2実施形態に係る位相板20で実現する場合を考えると以下のとおりである。領域21およびロッド121それぞれをフッ素添加石英ガラスとして、波長200nmにおいて屈折率nを1.4350とする。また、領域22およびロッド122それぞれをフッ素添加石英ガラスとして、波長200nmにおいて屈折率nを1.4452とする。このとき、領域21,22それぞれを軸方向に透過する際の光の光路長の差が光源のコヒーレント長より長くなるような厚さとする。
【0031】
このようにして製造される位相板20は、特許文献2に記載された位相板と同等の機能を有する一方で、特許文献2に記載された位相板と異なり、所望の特性を有するよう製造することが容易である。本実施形態に係る位相板20は、レーザ光照射による屈折率変化誘起により製造されるのではなく、一つの延伸体から適切な厚さにスライスされることで複数のものが一度に製造され得るので、製造性に優れる。
【0032】
なお、位相板10,20それぞれを製造するに際して、集合工程S1および延伸工程S2を経て形成された延伸体(ロッドまたはパイプ)を用いて再び集合工程S1および延伸工程S2を行い、更に切断工程S3(および、必要に応じて研磨工程S4)を行うことも好ましい。このように集合工程S1および延伸工程S2を2回以上繰り返すことにより、複雑な断面内屈折率分布を有する位相板を高精度に実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】第1実施形態に係る位相板10の構成を示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る位相板10の製造方法を説明するフローチャートである。
【図3】第1実施形態に係る位相板10の製造方法における集合工程S1を説明する図である。
【図4】第2実施形態に係る位相板20の構成を示す斜視図である。
【図5】第2実施形態に係る位相板20の製造方法における集合工程S1を説明する図である。
【符号の説明】
【0034】
10,20…位相板。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定軸に沿った方向に屈折率が一定であり、前記所定軸に垂直な断面において屈折率が異なる複数の領域を有することを特徴とする位相板。
【請求項2】
前記複数の領域それぞれは各々屈折率が一定である副領域の集合であることを特徴とする請求項1に記載の位相板。
【請求項3】
前記複数の領域それぞれの少なくとも一部が石英ガラスからなることを特徴とする請求項1に記載の位相板。
【請求項4】
前記複数の領域それぞれの間の屈折率差は、石英ガラスの有無、石英ガラスにおける添加物の有無、または、石英ガラスにおける添加物の濃度差により設定されていることを特徴とする請求項3に記載の位相板。
【請求項5】
ロッドまたはパイプの形状を有し長手方向に屈折率が一定である複数本の部材を束ねて集合する集合工程と、
この集合工程において集合された前記複数本の部材を加熱軟化させ長手方向に延伸して延伸体を形成する延伸工程と、
この延伸工程において形成された前記延伸体を長手方向に垂直な面で切断して請求項1〜4の何れか1項に記載の位相板を製造する切断工程と、
を備えることを特徴とする位相板製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−122441(P2010−122441A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295664(P2008−295664)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【Fターム(参考)】