説明

位置決め治具

【課題】位置決め作業を確実に且つ容易に実施することができ、しかも位置決め作業に手間をとらない誘導加熱装置の位置決め治具を提供する。
【解決手段】防水シート3を固定ディスク板6の上面に誘導加熱することにより融着する防水シート3の施工に使用する誘導加熱装置1の位置決め治具7であって、少なくとも基材8と、誘導加熱装置の底面外周に対応したガイドA9と、下地面上に固定された上記固定ディスク板6に対応する接点を2点以上有するガイドBとから構成され、防水シート3上をスライドして上記固定ディスク板6に対応する位置に上記ガイドBが接することができるように、上記基材、上記ガイドA9に切り欠き部を形成する位置決め治具7とし、上記固定ディスク板に対応したガイドBが部分円周状である位置決め治具とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の陸屋根や勾配屋根、或いは住宅のベランダやルーフバルコニーにおける床面、または土木用の防水工事等において、防水施工面と合成樹脂製防水シートとの間に介在させて当該防水シートを防水施工面上に機械的に固定する防水シート施工方法に関し、更に詳しくは、上面が熱溶着層で被覆された固定ディスク板を防水施工面上にビスで固定しておき、防水施工面上に防水シートを敷設した後に、上記固定ディスク板と対応する位置の防水シートの上面に誘導加熱装置を置いて、誘導加熱により防水シートを前記熱溶着層に溶融一体化させる防水シートの施工時に使用する誘導加熱装置の位置決め治具に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、ビルや家屋等の構造物における屋外側の躯体表面には、雨水等の侵入を防ぐために、合成樹脂からなる防水シートを機械的固定方法により敷設することが一般的に行われている。この機械的固定は、絶縁工法とも称されているものであり、構造物の躯体表面に、例えば塩化ビニル樹脂等の熱可塑性樹脂被覆板からなる固定ディスク板をプラグ、ビス等の固定具により点在状態に多数固定設置し、この固定ディスク板を覆うようにして躯体表面に前記熱可塑性樹脂と相溶性を有する樹脂からなる防水シートを敷設して、前記固定ディスク板の上面に熱可塑性樹脂層に熱により接合するか、または溶剤や接着剤により接合するか、もしくは誘導加熱装置により接合することにより防水シートを敷設するものである。
【0003】
この場合、固定ディスク板と防水シートとの確実な接合を行うべく、誘導加熱装置と固定ディスク板とがずれないように位置決めをする必要があるが、防水シートの膨らみ、形状から固定部材の位置を推定して位置合わせをすると、固定ディスク板の厚み(通常、数ミリ厚)がそれほど厚くないため、位置ずれを起こす可能性があり、固定ディスク板とシートとの確実な接合ができなくなる。
【0004】
そのような位置ずれを防止するため、誘導加熱装置の位置決め治具(例えば、特許文献1参照)が提案されている。しかしながら、上記特許文献1の位置決め治具では、誘導加熱装置の位置ずれを防止できるものの、先ず、下地面に固定されている固定ディスク板を防水シートの上から手探りで探し、その位置に位置決め治具を当てて適切な位置を決めることになり、固定ディスクの数が多いと位置が決まるまでに手間と時間がかかってしまう。固定ディスクは通常、下地に1.4〜2.5個/m程度使用するため、例えば100mの現場では使用する固定ディスクは140〜250個となりその位置決めにはかなりの手間となる。
【特許文献1】特開2001−123593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はこの様な現状に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、位置決め作業を確実に且つ容易に実施することができ、しかも位置決め作業に手間をとらない誘導加熱装置の位置決め治具を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため本発明が講じた手段は、熱可塑性樹脂製防水シートを施工する下地面上に、導電性金属板の上面に熱可塑性樹脂を積層一体化してなる固定ディスク板を固定すると共に上記固定ディスク板の上から防水シートを載置せしめ、誘導加熱することにより上記防水シートを上記固定ディスク板の上面に融着するシート防水施工に使用する誘導加熱装置の位置決め治具であって、少なくとも基材と、誘導加熱装置の底面外周に対応したガイドAと、下地面上に固定された上記固定ディスク板に対応する接点を2点以上有するガイドBとから構成され、防水シート上をスライドして上記固定ディスク板に対応する位置に上記ガイドBが接することができるように、上記基材、上記ガイドAに切り欠き部を形成する位置決め治具としたことであり(請求項1)、上記固定ディスク板に対応したガイドBが部分円周状である位置決め治具としたことである(請求項2)。
【発明の効果】
【0007】
本発明の位置決め治具により、誘導加熱装置の位置決め作業が確実にしかも容易に行えるようになり、位置決め作業に手間もかからない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
誘導加熱方法で防水施工するには、先ず、ビス等の固定具により固定ディスク板を下地上に点在状態に多数固定設置し、この固定ディスク板を覆うようにして下地表面に熱可塑性樹脂製の防水シートを敷設する。次いで、本発明の位置決め治具をスライドさせながら、固定ディスク板に対応したガイドB(以下、単にガイドBという)を固定ディス板の位置に合致させる。次に、図1のように誘導加熱装置底面外周を位置決め治具の誘導加熱装置の底面外周に対応したガイドA(以下、単にガイドAという)に合致させるように配置し、誘導加熱装置により磁場を発生させればよい。固定ディスク板が誘導加熱され、固定ディスク板を被覆している熱可塑性樹脂が溶融し防水シートと融着し結合して防水シートが下地に固定される。
【0009】
防水シートの上から位置決め治具をスライドして、固定ディスク板の対応位置にガイドBを合致させるだけで、誘導加熱装置底面の中心と固定ディスク板の中心とを一致させて配置させることができ、誘導加熱装置底面と固定ディスクが傾斜することなく、平行に当接されることから、接合作業が簡単かつ正確となる。なお、上記固定ディスク板としては、熱可塑性樹脂被覆鋼板からなる円盤状(ディスク板)のものを対象としている。
【0010】
本発明の位置決め治具は、防水シートの敷設時に誘導加熱装置の位置を決めるために用いられ、基材、ガイドA、ガイドBが必須の構成要件で、スライド用ガイド、取っ手を付設することもできる。この位置決め治具の基材に使用する材料としては、合成樹脂、ゴム、セラミック、ガラス、紙、木質などが挙げられ、加工性、コストを考慮すると合成樹脂が好ましい。位置決め治具の基材の厚みは0.5〜5.0mm程度であるが、位置決めの作業性を考慮すると、1.0〜2.0mmが好ましい。
【0011】
上記合成樹脂としては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、フッ素系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、オレフィン系エラストマー、アクリル系エラストマー、スチレン系エラストマー、ABS樹脂、天然ゴム、合成ゴム、シリコーン系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、メラミン系樹脂などが挙げられる。これらの合成樹脂は、施工時の作業性を考えると透明性の高いことがよく、光線透過率は50%以上が好ましく、さらに、加工性、コストを考慮するとアクリル系樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル系樹脂がより好ましい。特にスライド性を求めるならフッ素系樹脂が好ましい。
【0012】
ガイドAは誘導加熱装置下部の形状に見合った形状がよいが、必ずしも同形状にする必要はない。例えば、誘導加熱装置下部が円形の場合、図2、図4(ロ)、図5(ニ)、(ホ)、(ヘ)、図6、図7のようにガイドAは3辺、4辺、5辺等の多辺形状でも位置決めは可能であり、辺の数を増やしていけば部分円周状となる。また、逆に誘導加熱装置下部が多角形でガイドAが部分円周状でも可能である。本発明で言う部分円周状とは、図4(イ)、図5(ハ)、(ト)、(チ)、(リ)のように完全な円周ではなく、スライドできるように基材とガイドAに切り欠き部を有しているため、部分円周状と表現している。誘導加熱装置下部が多角形、円形のどちらであっても、位置決めの作業性は角度を合わせる必要がないため部分円周状が好ましい。
【0013】
ガイドAは基材のうえに実線、点線、波線などで標示してもよいが、凸部として形成する方が位置決めの作業性はよい。ガイドAを凸部に形成する場合、高さは0.5〜10.0mm程度がよく、1.0〜5.0mmがより好ましい。幅については1.0〜20.0mm程度がよく、2.0〜10.0mmがより好ましい。
【0014】
ガイドAの材料としては、上述した基材と同様の材料が使用でき、接合性を考慮すると基材と同質の材料がよい。ガイドAの色については基材の色と判別できる色であれば特に制限はない。
【0015】
ガイドBは、基材を、直線の組み合わせ[図2、図5(ハ)、(ホ)、(チ)、(リ)、図6]、部分円周状[図4(イ)、(ロ)、図5(ニ)、(ヘ)、(ト)、図7]のように切り欠いて形成するものであり、固定ディスク板に対応する位置に2点以上で接する構造である。その切り欠きは直線の組み合わせと部分円周状との併用でもよい。固定ディスク板に対応する位置に接するガイドBは、接点を2点以上にするためには直線2本以上を必要とし、直線の数が多いほど位置決めの正確性はよくなり、直線の数を増やしていけば最終的に部分円周状となる。位置決めの作業性を考慮するとガイドBは部分円周状が好ましい。
ガイドBにより検出する固定ディスク板の中心と誘導加熱装置下部を収めるガイドAの中心を合致させるようにガイドAを形成するのはもちろんのことである。
【0016】
本発明の位置決め治具は、図6、7に示すように、蝶番などで回転自在に2部材以上を接続し折り畳み式にすることも可能である。折り畳んだ状態で防水シートの上をスライドさせて、位置決めを行い蝶番部分を折り返すことにより、ガイドA、ガイドBも拡がり、位置決めの確実性を増すことができる。
【0017】
図2のようにスライド用ガイドがない位置決め治具でも構わないが、位置決めの作業性向上のため、図5(ト)、(リ)のようなスライド用ガイドを基材に一体的に設けることができる。
【0018】
また、位置決め治具のガイドA又はガイドAより外側の基材に、図5(リ)のように接着剤やビス等で合成樹脂製、木製、金属製等の取っ手を付設することもできる。
【0019】
本発明の位置決め治具を、誘導加熱装置下部に一体的に設けてもよく、この一体化により位置決めと同時に誘導加熱をすることができるようになる。
【実施例】
【0020】
次に、実施例を挙げて、本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。塩化ビニル樹脂被覆の外径75mmの固定ディスク板をビスにより点在状態に下地に多数固定し、その上に2.0mmの塩化ビニル樹脂製防水シートを敷設し、下記実施例の位置決め治具を使用して、下部が円形で外径130mmの誘導加熱装置で防水シートを固定ディスク板に接合する。
【0021】
<実施例1>
図2、3に示すように、1辺が60mm(L1)の正8角形の半割り形状で、厚さ1.0mmの透明ポリメチルメタクリレート(PMMA)製の基材に、半割り部分を除いた基材外側5辺に基材と同形状に黒色PMMA製の段差で形成したガイドA(厚さ:1.0mm、幅:5.0mm)を設け、基材の半割り部を1辺(L2)が35mmの正8角形の半割り形状に切り欠いてガイドBとし、位置決め治具を作成した。この位置決め治具のガイドAの内寸法(L3)は約135mmとなり、ガイドBの内寸法(L3)は約85mmとなる。ガイドAの内寸法約135mmに対して、誘導加熱装置下部の外径130mmは位置決め治具の上に誘導加熱装置を載せるには適度な遊び分である。ガイドBの内寸法約85mmに対して、位置決め対象は、固定ディスク板の外径75mmと2.0mmの防水シート両側分4.0mmの計79mmの寸法で、6mm程の遊びは防水シートの硬軟度を考慮すると適度な遊び分である。得られた位置決め治具により、位置決め作業が確実に且つ容易に実施でき、手間も掛からずに実施できた。誘導加熱装置の位置決めも正確であり、固定ディスク板と防水シートとの接合に安定した融着強度が得られた。
【0022】
<実施例2>
図5(チ)に示すように形状が、長辺(M1)が176mm、短辺(M2)が120mmの長方形であり厚さが1.5mmの硬質塩化ビニル系樹脂(PVC)製基材の長辺部分を、1辺の長さ(M4)が90mmで直交する形状で2辺を切り欠いてガイドBを形成する。固定ディスク対応部13は図中星表示部で検出される。ガイドAを、外径(M3)142mm、内径136mmの部分円周状に黒色PVC製の段差(厚さ:2mm、幅:3mm)で形成し位置決め治具を作成した。このとき、固定ディスク対応部13の中心と部分円周状の黒色段差の中心を合致させるようにする。実施例1と同様に誘導加熱装置下部とガイドA、固定ディスク対応部とガイドBの遊び分は適度であり、この位置決め治具を用いることにより、位置決め作業が確実に且つ容易に実施でき、手間も掛からずに実施できた。誘導加熱装置の位置決めも正確であり、固定ディスク板と防水シートとの接合に安定した融着強度が得られた。
【0023】
<実施例3>
図7(c)に示すように、1辺が60mm(L1)の正8角形の半割り形状で、厚さ1.0mmの透明PMMA製の基材に、半割り部分を除いた基材外側5辺に基材と同形状に黒色PMMA製の段差で形成したガイドA(厚さ:1.0mm、幅:5.0mm)を設け、基材の半割り部を直径85mmの半円形に切り欠いてガイドBとする部材を2個作成し、図7(d)のような形状に拡がるように上記2個の部材を蝶番で回転自在に固定し位置決め治具を作成した。この位置決め治具は実施例1、2と同様に位置決めができ、更に蝶番部を折り返すことにより位置決めの確実性を増すことができた。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明による位置決め治具により、誘導加熱装置の位置決め作業が容易に行え、しかも手間が掛からないため、防水工事等に広範に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】防水シートと固定ディスク板との融着作業を示す概略図。
【図2】本発明に係わる位置決め治具の1実施態様の上面図。
【図3】本発明に係わる位置決め治具の1実施態様の正面図。
【図4】本発明に係わる位置決め治具の他の実施態様の上面図(イ)〜(ロ)。
【図5】本発明に係わる位置決め治具の他の実施態様の上面図(ハ)〜(リ)。
【図6】本発明に係わる位置決め治具のまた他の実施態様の折り畳み状態の上面図(a)及び折り返した状態の上面図(b)。
【図7】本発明に係わる位置決め治具のさらに他の実施態様の折り畳み状態の上面図(c)及び折り返した状態の上面図(d)。
【符号の説明】
【0026】
1 :誘導加熱装置
2 :誘導加熱装置底面
3 :防水シート
4 :下地
5 :固定用ビス
6 :固定ディスク板
7 :位置決め治具
8 :基材
9 :ガイドA
10 :ガイドB
11 :スライド用ガイド
12 :切り欠き部
13 :固定ディスク対応部
14 :蝶番
15 :取っ手

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂製防水シートを施工する下地面上に、導電性金属板の上面に熱可塑性樹脂を積層一体化してなる固定ディスク板を固定すると共に上記固定ディスク板の上から防水シートを載置せしめ、誘導加熱することにより上記防水シートを上記固定ディスク板の上面に融着するシート防水施工に使用する誘導加熱装置の位置決め治具であって、少なくとも基材と、誘導加熱装置の底面外周に対応したガイドAと、下地面上に固定された上記固定ディスク板に対応する接点を2点以上有するガイドBとから構成され、防水シート上をスライドして上記固定ディスク板に対応する位置に上記ガイドBが接することができるように、上記基材、上記ガイドAに切り欠き部を形成することを特徴とする位置決め治具。
【請求項2】
上記固定ディスク板に対応したガイドBが部分円周状であることを特徴とする請求項1に記載の位置決め治具。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−46860(P2009−46860A)
【公開日】平成21年3月5日(2009.3.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−213213(P2007−213213)
【出願日】平成19年8月19日(2007.8.19)
【出願人】(000010010)ロンシール工業株式会社 (84)