低圧鋳造用溶湯保持炉
【課題】溶湯の清浄度低下の抑制に好適な1槽型の低圧鋳造用溶湯保持炉を提供する。
【解決手段】溶湯を保持する炉本体10と、炉本体10の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストーク20と、溶解炉からの溶湯を炉本体10内に受ける給湯口30及び給湯シュート31と、を備え、加圧気体による圧力により、保持する溶湯を、ストーク20を介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉を対象としている。そして、炉本体10の炉壁15に沿った周辺領域の炉床14に、前記ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を部分的に囲んで炉床14から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁16を設けた。そして、前記仕切壁16と炉壁15とにより、給湯シュート31の出口から炉壁15に沿って周回する開放通路17を形成した。
【解決手段】溶湯を保持する炉本体10と、炉本体10の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストーク20と、溶解炉からの溶湯を炉本体10内に受ける給湯口30及び給湯シュート31と、を備え、加圧気体による圧力により、保持する溶湯を、ストーク20を介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉を対象としている。そして、炉本体10の炉壁15に沿った周辺領域の炉床14に、前記ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を部分的に囲んで炉床14から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁16を設けた。そして、前記仕切壁16と炉壁15とにより、給湯シュート31の出口から炉壁15に沿って周回する開放通路17を形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム合金等の鋳物製品を低圧鋳造方法により製造するのに好適な低圧鋳造用溶湯保持炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶解されてガス・介在物の低減処理された清浄度の高い溶湯が給湯され、給湯された状態を保ちつつ、必要に応じて金型へストークを介して注湯するアルミニウム合金等の低圧鋳造用溶湯保持炉が知られている。この低圧鋳造用溶湯保持炉は、一般的に、溶湯を保持する1槽型の炉本体と、炉本体内に溶解炉からの溶湯を受ける給湯口(給湯シュートともいう)と、炉本体の上に設置された金型へ溶湯を供給するストークから構成されている。そして、炉本体の溶湯面の上部空間に加圧気体を供給することにより、炉本体内に貯留した溶湯をストークを介して金型内に押し上げて注湯するよう機能する。
【0003】
しかし、炉本体内に貯留している溶湯は、時間の経過によるガス吸収・金属問化合物の生成、さらに給湯作業や注湯に伴う溶湯の乱流による酸化皮膜の生成・混入、更には、炉の耐火材との反応により、溶湯の清浄度が低下していくことになる。この清浄度の低下を抑制するために、溶湯保持室と加圧室とを備えた2室型低圧鋳造用溶湯保持炉が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
これは、低圧鋳造用溶湯保持炉が溶湯保持室と加圧室との2室で構成され、溶湯保持室の底部と加圧室とを開閉可能な遮断弁を介して連通させて溶湯保持室から加圧室へ溶湯を逐次供給する。そして、加圧室では、溶湯の湯面に加圧気体により圧力を作用させて、保持している溶湯をストークを介して金型のキャビティ内へ注湯・充填するよう構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4519806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉では、溶湯保持室と加圧室との2槽を必要とし、設備コストが高くなると共に、保持炉が大型となるため、設備の改造を必要とすると共に、生産ラインのレイアウトの見直しを含めて、使用コストの負担が大きくなる課題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、溶湯の清浄度低下の抑制に好適な1槽型の低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶湯を保持する炉本体と、炉本体の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストークと、溶解炉からの溶湯を炉本体内に受ける給湯口及び給湯シュートと、を備え、加圧気体による圧力により、保持する溶湯を、ストークを介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉を対象としている。
【0009】
そして、本発明においては、炉本体の炉壁に沿った周辺領域の炉床に、前記ストークの下端に臨む領域の炉床を部分的に囲んで炉床から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁を設ける。そして、前記仕切壁と炉壁とにより、給湯シュートの出口から炉壁に沿って周回する開放通路を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
したがって、本発明では、給湯された溶湯の流れを仕切壁により形成された開放通路に沿って流れるようにして、注湯時にストークへ出入りする溶湯の流れとは仕切壁により分離できる。結果として、ストークにより金型キャビティ内へ押上げられる溶湯中への沈殿介在物と浮遊介在物の巻き込みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の第1実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図2】図1のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図3】仕切壁の高さを説明する説明図。
【図4】第2実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図5】図4のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図6】介在物除去台の構成を説明する拡大図。
【図7】介在物除去台の変形例を示す拡大図。
【図8】介在物除去台の別の変形例を示す拡大図。
【図9】第3実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図10】図9のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図11】第3実施例と比較例の介在物の巻込み状態を説明する説明図。
【図12】第3実施例と比較例の介在物の分布状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の低圧鋳造用溶湯保持炉を一実施形態に基づいて説明する。図1、2は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第1実施例を示し、図1は平面図、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。
【0013】
図1において、本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1は、溶湯を保持する1槽型の炉本体10と、炉本体10の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストーク20と、溶解炉からの溶湯を炉本体10内に受ける給湯口30及び給湯シュート31と、を備える。
【0014】
炉本体10は、ケース内に耐火・断熱層、溶湯収容層からなる多層の内張構造を備える上部が開口した容器11と、容器11の上部開口部を閉じる、耐火・断熱層の内張を施した蓋体12と、から形成されている。溶湯収容層内に貯留された溶湯は、耐火・断熱層により断熱状態で保持され、溶湯内に浸るよう配置された図示しないヒータや溶湯液面の上部空間に配置されたヒータ13等により、一定温度範囲内に保持される。
【0015】
金型へ溶湯を注湯するストーク20は、筒状をなし、上部が蓋体12を貫通して図示しない金型のダイベースに連通され、下端が炉本体10の炉床14に対面するよう、上下方向に配置されている。ストーク20の下端は炉本体10に貯留している溶湯に常時浸された状態となっている。
【0016】
容器11の炉壁15には、保持する溶湯に浸されない炉壁15の上部位置において、炉本体10内に加圧気体を供給する加圧気体給排口18が設けられている。加圧気体給排口18には図示しない切換え弁が接続され、切換弁により金型への注湯作動時には炉本体10内の溶湯面の上部空間に圧力源からの加圧気体が供給され、注湯完了の所定時間後には炉本体10内の加圧気体が外気へ解放される。
【0017】
即ち、貯留する溶湯を、ストーク20を介して金型内に注湯する際には切換え弁を開いて圧力源からの加圧気体が炉本体10内に供給される。通常、炉本体10内は、給湯口30が閉じられて、外気とは遮断状態となっているため、炉本体10内に加圧気体が供給されると、溶湯の湯面が押下げられ、貯留した溶湯を、ストーク20を介して金型内に押上げて注湯する。また、金型キャビティ内に溶湯が充填されて所定時間後には、切換弁を切換えて、圧力源からの加圧気体を遮断し、炉本体10内の加圧気体を大気中に逃がして炉本体10内を大気圧とし、ストーク20内に残留する溶湯を炉本体10内に戻すようにしている。
【0018】
炉本体10に貯留された溶湯は、上記したストーク20を介した金型への注湯毎にストーク20及び金型キャビティに供給され、注湯完了時点でストーク20内に残留する溶湯が戻され、金型キャビティへ充填される溶湯分が消費されて、その都度、湯面が低下される。
【0019】
容器11の側面上部には、溶解炉で熔解されてガス・介在物の低減処理がされた清浄度の高い溶湯の供給を受ける給湯口30が形成されている。給湯口30には、それに連ねて容器11の炉床14側に向かって延びる給湯シュート31を備える。給湯シュート31は、容器11の炉壁15に沿って配置され、炉床14の外周領域に臨んで出口が開口されている。
【0020】
炉本体10内に貯留された溶湯の液面レベルが、上記金型への注湯が繰返されることにより、徐々に低下され、溶湯補給を必要とする液面レベルに低下されると、給湯口30から溶解炉で熔解されてガス・介在物の低減処理がされた清浄度の高い溶湯が供給される。溶湯補給を必要とする液面レベルを、最低溶湯レベルという。給湯口30から供給された溶湯は、給湯シュート31を通って炉床14の外周領域に流れ込み、貯留している溶湯の下層領域に供給される。
【0021】
容器11の炉床14の外周領域には、炉床14から立上がり、溶湯収容層の炉壁15と所定の間隔をあけて平行に配置されて炉壁15との間に上部が開いた開放通路17を形成する仕切壁16を備える。この仕切壁16は、給湯シュート31の出口に臨む炉床14の外周領域から約3/4周した炉床14外周領域まで延びて配置され、それに続く1/4周する炉床14外周領域には配置されていない。仕切壁16で囲まれる領域の炉床14には、ストーク20の下端が炉床14に向けて開口している。
【0022】
仕切壁16は、炉床14が図示の四辺形をなす容器11にあっては、給湯シュート31の出口に隣接する最初の炉壁15に平行する領域から、給湯シュート31の出口と対面する炉壁15と平行するよう連なり、更に最初の炉壁15と対向する炉壁15と平行するよう延びている。図示しないが、炉床14が円形(楕円形も含む)をなす容器11にあっては、仕切壁16は、平面図示状態で、炉床14外周領域を3/4周する領域に配置される。なお、仕切壁16で形成する開放通路17の始端(給湯シュート31の出口より後方側)は、仕切壁16の後端が炉壁15に連結されることにより閉じている。
【0023】
即ち、仕切壁16で形成する開放通路17は、炉床14の外周側を3/4周する領域において配置されている。このため、給湯口30から給湯シュート31内を通って供給される溶湯は、給湯シュート31の出口から、溶湯の下層領域において、仕切壁16と炉壁15とで形成した開放通路17に沿って流れ、炉床14の外周領域を周回するように流れる。次いで、炉壁15に沿って旋回しながら上方へ流れ、溶湯の液面レベルを上昇させる。
【0024】
炉本体10に貯留された溶湯の湯面レベルは、給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯が給湯されると初期レベルまで上昇し、その後のストーク20を介した注湯毎に徐々に低下される。そして、所定回数の注湯により溶湯補給を必要とする液面レベル(最低溶湯レベル)に低下されると、給湯口30から再び清浄度の高い溶湯が供給され、再び液面レベルは初期レベルへと上昇する。
【0025】
仕切壁16の高さは、溶湯補給を必要とする液面レベル(最低溶湯レベル)になっても、溶湯の湯面に露出しない高さに設定されている。即ち、仕切壁16は常に溶湯に浸された状態となっている。
【0026】
以上の構成の低圧鋳造用溶湯保持炉1の動作について以下に説明する。先ず、給湯口30を開いて、炉本体10内に給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯を給湯する。そして、供給された溶湯は、給湯シュート31を通して炉本体10内の炉床14に流れ込み、仕切壁16と炉壁15とで形成された開放通路17に沿って、炉床14の外周領域を旋回しながら液面レベルを上昇させていく。供給される溶湯量が所定量に達した段階で、給湯が停止され、給湯口30が閉じられる。炉本体10内には、溶湯が初期レベルに満たされた状態となる。これにより、鋳造工程の準備が完了する。
【0027】
次に、鋳造工程では、圧力源からの加圧気体(例えば乾燥空気、N2ガス、Arガス等)を切換弁を介して炉本体10内に供給して、溶湯面に例えば0.2〜0.5気圧程度の圧力を作用させ、ストーク20を介して溶湯を押し上げ、これにより溶湯が金型のキャビティ内に注湯・充填される。このとき、炉本体10の溶湯面がストーク20を介しての注湯量に応じてその湯面レベルが低下する。
【0028】
金型への溶湯充填完了から所定時間経過した後に、切換弁を切換えて炉本体10内を大気圧開放する。これにより、ストーク20内に残留する溶湯の戻りが生じるが、炉本体10の溶湯は1回の鋳造作業に要した分だけ減少しているため、炉本体10の溶湯面は注湯前の湯面レベルよりも低い湯面レベルとなる。
【0029】
次いで、次の鋳造工程が開始され、上述したような鋳造工程を繰り返し行うことで、炉本体10内の溶湯が順次段階的に減少してゆき、溶湯補給を必要とする液面レベルに低下する。このため、給湯口30を開いて、炉本体10内に給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯を給湯して、供給される溶湯量が所定量に達した段階で、給湯が停止され、給湯口30が閉じられて、鋳造工程の準備が完了し、順次注湯作業が開始される。
【0030】
ところで、溶解炉から出湯した溶湯は、フラックス処理・脱ガス処理によって、酸化物・金属間化合物・水素ガスに代表される介在物を除去して、清浄度が良くなっている。しかし、炉本体10内に給湯された時点からは、時間経過によるガス吸収・金属問化合物の生成、さらに給湯作業・注湯による炉本体10内の溶湯の乱流による酸化皮膜の生成・混入、更には、炉本体10の耐火材との反応により、溶湯の清浄度が徐々に低下されていくことになる。
【0031】
溶湯の清浄度の低下は、鋳造製品にピンホールや引け巣の増加、更には、湯流れ性の低下による湯廻り不良、硬度の高い介在物の混入により、製品側の欠肉、加工時工具破損につながる所謂ハードスポット不良などの原因となる。
【0032】
アルミニウム合金の溶湯の清浄度を低下させる原因としては、酸化皮膜に代表される溶湯の液面近傍に浮遊している浮遊介在物と、炉床14に沈殿するスラッジ(Fe系金属問化合物)に代表される沈殿介在物が存在する。また途中の反応により、浮遊していたものが、化学変化により沈殿していく反応もある。前者は、溶湯が、空気に触れることが原因により、後者は溶湯成分、時間、温度、炉材との反応により、夫々増加する。何れも、溶湯を静かに扱うことにより、発生量の増加を最小限に抑えることができ、また炉床14からの舞い上がりによるストーク20からの注湯時の金型キャビティへの巻き込みを減らすことが、重要である。従って、これらの溶湯内での挙動を適切に把握して、対応することが必要である。
【0033】
低圧鋳造用溶湯保持炉1には、大きく二つの溶湯の流れがある。一つは、鋳造(注湯)時の加圧・排気によるストーク20内を上下する溶湯の流れであり、他の一つは、給湯作業による給湯シュート31から炉本体10内への溶湯の流れである。
【0034】
鋳造(注湯)時によるストーク20内を上下する溶湯の流れは、注湯時には貯留された溶湯の下層領域において、周辺の炉床14からストーク20の下端開口に向かって流れ、注湯完了時にはストーク20の下端開口から炉床14へ向かい、次いで炉床14に沿って周辺に拡がる流れとなる。このため、溶湯の液面近傍に浮遊する浮遊介在物のストーク20内への流れ込みは防止することができる。他方、ストーク20の下端開口に臨む周辺の炉床14に沈殿介在物が存在する場合には、その介在物が上記した溶湯の流れに乗ってストーク20を経由して金型キャビティに流入することとなる。しかし、ストーク20の下端開口に臨む周辺の炉床14は、仕切壁16により囲われた状態となっている。このため、沈殿介在物を仕切壁16により囲われた領域の炉床14上に存在させないようにする必要がある。
【0035】
一方、給湯作業による給湯シュート31から炉本体10内への溶湯の流れは、給湯シュート31から炉床14の周辺領域に流れ込み、仕切壁16と炉壁15とで形成される開放通路17に導入され、開放通路17に沿って流れ、炉床14の外周領域を周回するように流れる。供給される溶湯は、複数回、例えば、10〜15回分の注湯量に相当する湯量が供給される。このため、供給された溶湯は炉床14の外周領域を周回するように流れ、これにより、炉本体10内の溶湯を旋回させる流れを発生させつつ、溶湯の液面レベルを上昇させる。また、給湯シュート31から供給される溶湯の流れの勢いが大きい場合においても、仕切壁16と炉壁15で形成される開放通路17は上部が開放されているため、流れの勢いを上部に解放でき、給湯された溶湯の乱流を防止することができる。
【0036】
従って、浮遊介在物である酸化皮膜の増加を最低限に抑えることができると共に、炉床14の沈殿介在物であるスラッジの流れる方向も炉床14の外周領域に限定させることができる。即ち、炉床14の外周領域に周回させて炉床14から立ち上がるよう設けた仕切壁16は、給湯される溶湯の流れと注湯される溶湯の流れを切り分けるよう機能する。結果として、炉床14の外周領域に周回させて炉床14から立ち上がるよう設けた仕切壁16により、ストーク20の下方領域の炉床14上の沈殿介在物を少なくすることができ、金型キャビティへの巻き込みを減少させることができる。また、ストーク20の下端開口は、炉床14に近接させて溶湯の下層領域にあり、溶湯の液面領域よりも常に下方にあるため、液面領域に存在する浮遊介在物の金型キャビティへの巻き込みも減少させることができる。
【0037】
また、仕切壁16の上端は、給湯シュート31の出湯口の上端及びストーク20の下端開口よりも高く、且つ、溶湯の補給を必要とする最低湯面よりも低い高さに設定している。このため、仕切壁16が溶湯の湯面領域に露出することがなく、仕切壁16が湯面より露出し酸化することにより発生する浮遊介在物の生成を防止しつつ、耐火材で形成される仕切壁16の劣化を防止することができる。
【0038】
図4〜図8は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第2実施例を示し、図4は平面図、図5は図4のA−A線に沿う断面図、図6は要部拡大図、図7〜図8は変形例を夫々示す要部拡大図である。本実施例においては、炉床14に沈殿する沈殿介在物の巻込みを低減する構成を第1実施例に追加したものである。なお、第1実施例と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0039】
図4,5において、本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1では、ストーク20の下端開口に臨む炉床14に介在物除去台21を設置して備える。介在物除去台21は、注湯管(ストーク20)の下端開口に臨む面を、その板厚分だけ炉床14よりも一段高くするよう機能する。介在物除去台21は、図示するように、ストーク20の下端開口の臨む仕切壁16で囲まれる炉床14の中央領域の高さを全体的に上昇させている。また、図示するように、仕切壁16と一体に形成してもよく、また、別体に形成してもよい。その他の構成は、第1実施例に示す低圧鋳造用溶湯保持炉1と同様に形成されている。
【0040】
本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1においては、ストーク20の下端開口の臨む仕切壁16で囲まれる炉床14の中央領域の高さを全体的に上昇させる介在物除去台21を備える。ストーク20の下端開口に臨むの炉床14を一段高くすることにより、沈殿介在物がストーク20の下端開口の下に存在し難くすることができると同時に、加圧による注湯時に炉床14に存在する溶湯を吸い込み難くする効果がある。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0041】
即ち、沈殿介在物は、溶湯より若干重いため、溶湯の動きによっては舞い上がるものの、より低い領域に沈殿する傾向がある。このため、沈殿介在物は、炉床14より一段高い介在物除去台21よりも高さが低い炉床14上に沈殿する。そして、加圧による注湯時においては、介在物除去台21との間の炉床14より上の領域の溶湯がストーク20に供給され、炉床14に存在する溶湯は介在物除去台21の上に上昇された後にストーク20に供給されることとなる。このため、炉床14に沈殿している沈殿介在物は、介在物除去台21の高さ分だけ上昇された後でないと介在物除去台21の上に到達しないため、ストーク20に吸込まれることを抑制することができる。
【0042】
また、注湯後の炉本体10内の大気開放によりストーク20に残留する溶湯の戻り時に、戻る溶湯は介在物除去台21の上面に突き当たった後に周囲に拡がる流れとなる。このため、介在物除去台21の上に沈殿介在物が存在したとしても、それらの沈殿介在物は戻り溶湯と共に介在物除去台21上から一段低い炉床14上に吹き払われることとなる。上記戻り溶湯による吹き払いが強い場合には、若干の沈殿介在物は、一段高い仕切壁16を越えて仕切壁16と炉壁15とで形成される開放通路17の炉床14上へ移動させることもできる。結果として、介在物除去台21の上、即ち、ストーク20の下に、沈殿介在物が存在し難くすることができる。以上の作用として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0043】
図7に示す変形例の介在物除去台21においては、その上面全体を、傾斜面22により構成したものである。このように傾斜面22により構成することにより、介在物除去台21の上に存在する沈殿介在物は、その重さにより、溶湯の流動に伴ってより低い領域に移動しやすくなり、一段と高さが低い炉床14上に速やかに移動させることができる。出願人の実験による確認の結果では、傾斜面22の傾斜角は、5°以上あれば、沈殿介在物の下方への移動が促進されることを確認している。なお、介在物除去台21の上面を傾斜面22で形成する場合に、傾斜面22により介在物除去台21の厚さが薄くなることから、溶湯内での介在物除去台21の耐久性の低下が懸念される。このため、図8に示すように、介在物除去台21の上面の端部となる一部のみを傾斜面22とするものであってもよい。このようにすることにより、介在物除去台21の厚さを確保して溶湯内での耐久性を確保しつつ、上面から炉床14上への沈殿介在物の移動を促進させることができる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。
【0044】
なお、上記実施例において、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を高くする手段として、介在物除去台21を設置するものについて説明したが、図示はしないが、その領域の炉床14自体を上昇させて形成するものであってもよい。
【0045】
図9及び図10は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第3実施例を示し、図9は平面図、図10は図9のA−A線に沿う断面図である。本実施例においては、炉床14における給湯の流れの終端となり、注湯の戻り流れの終端となる領域に、炉床14よりも一段低いトラップを備える構成を第2実施例に追加したものである。なお、第2実施例と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0046】
図9,10において、仕切壁16と炉壁15とで形成する開放通路17の出口の前方であり、且つ、介在物除去台21の側方である領域の炉床14は、他の領域の炉床14よりも一段と低く形成して、トラップ領域19を構成している。その他の構成は、第2実施例と同様に構成している。
【0047】
このトラップ領域19は、他の領域の炉床14よりも一段と低く形成しているため、給湯により開放通路17の炉床14に沿って運ばれてきた沈殿介在物は、開放通路17の出口からトラップ領域19に運ばれて、沈殿する。また、注湯の戻り流れにより介在物除去台21から転がり落ちる沈殿介在物も、トラップ領域19に運ばれて、沈殿する。トラップ領域19に沈殿された沈殿介在物は、トラップ領域19の炉床14の高さが他の領域の炉床14より一段と低く形成しているため、給湯時の湯流れ及び注湯時の湯流れから分離した領域となり、給湯・注湯の湯流れで、舞い上がり難くなる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。
【0048】
また、沈殿介在物がトラップ領域19に集まることにより、炉本体10の清掃などのメンテナンス時にトラップ領域19を集中的に清掃することで、沈殿介在物を除去できるため、炉のメンテナンス性(保全性)を向上させることができる。
【0049】
図11は、本実施例と比較例に対して、炉本体10内の介在物の挙動は、直接観察することができないため、広く行われている水モデルを使って注湯溶湯内への介在物の巻込み状態を実験した結果を示すものである。比較例としては第1実施例における仕切壁16を設けない構造の鋳造用溶湯保持炉を用いた。また、介在物に見立てた樹脂片(ビーズ)を用い、沈殿介在物としては比重が、1.01〜1.3と水より高い樹脂片とし、浮遊介在物としては比重が、0.7〜0.9と、水より低い樹脂片とした。実験では、炉本体10の炉床14に均一に樹脂片を分散配置した後に炉本体10へ給湯(給水)により初期レベルまで満たした状態とした。そして、炉本体10に加圧気体を加えて注湯状態として所定量の水を、ストーク20を介して排出し、その後に加圧気体を排出してストーク20中に残留する水を炉本体10に戻す、注湯作業を複数回(15回)繰返すようにした。
【0050】
図11の横軸は、注湯作業の回数であり、縦軸は注湯作業におけるストーク20を介して排出される水によって巻上げられた樹脂片の数をカウントしたものである。図11では、実線が比較例における巻上げられた樹脂片の数を示し、破線が本実施例における巻上げられた樹脂片の数を示している。
【0051】
比較例の水モデルでは、炉床14に均一に樹脂片が分散している1回目の注湯作業時の樹脂片の巻込みと、注湯作業が繰返されて湯面が低下して、浮遊していた樹脂片を巻き込む14・15回目の注湯作業時の巻き込みが多い結果となった。一方、本実施例では、いずれの注湯作業時においても、樹脂片の巻込みが低減していることが確認できる。
【0052】
図12は本実施例(破線)と比較例(実線)との実験後の樹脂片の炉本体10内での分布状態を比較したものである。比較例に対して本実施例では、ストーク20を介して排出された水に巻込まれた樹脂片を60%低減することができた。また、巻き込みリスクのあるストーク20下付近での分布量は、比較例に対して本実施例では50%低減することができた。また、トラップ領域19による沈殿介在物の補足量は、比較例に対して本実施例では30%増加させることができた。
【0053】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0054】
(ア)炉本体10の炉壁15に沿った周辺領域の炉床14に、前記ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を部分的に囲んで炉床14から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁16を設けた。そして、前記仕切壁16と炉壁15とにより、給湯シュート31の出口から炉壁15に沿って周回する開放通路17を形成した。このため、給湯された溶湯の流れを仕切壁16により形成された開放通路17に沿って流れるようにして、注湯時にストーク20へ出入りする溶湯の流れとは仕切壁16により分離できる。結果として、ストーク20により金型キャビティ内へ押上げられる溶湯中への沈殿介在物と浮遊介在物の巻き込みを低減することができる。
【0055】
(イ)第2実施例では、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を、介在物除去台21を設置することにより若しくはその領域の炉床14自体を上昇させることにより、その他の領域の炉床14より高く形成した。このため、沈殿介在物がストーク20の下端開口の下に存在し難くすることができると同時に、加圧による注湯時に炉床14に存在する溶湯を吸い込み難くする効果がある。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0056】
(ウ)第3実施例では、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14の外周側に隣接し、前記仕切壁16が終端で途切れることにより形成された開放通路17の出口に臨む領域の炉床14の高さを、その他の領域の炉床14より低く形成して沈殿介在物のトラップ領域19とした。このため、給湯により運ばれてきた沈殿介在物、注湯の戻り流れにより運ばれてきた沈殿介在物は、一段と低いトラップ領域19に沈殿しやすく、沈殿した沈殿介在物は給湯の湯流れと注湯の湯流れとから分離されてその舞い上がりが抑制できる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。また、沈殿介在物がトラップ領域19に集まることにより、清掃などの炉本体10のメンテナンス性(保全性)を向上させることができる。
【0057】
(エ)仕切壁16は、給湯シュート31の出口開口の上端部の高さ及びストーク20の下端の高さより高く、補給を必要とする最低湯面レベルより低い高さ寸法に形成されている。このため、仕切壁16が溶湯の湯面領域に露出することがなく、仕切壁16が湯面より露出して酸化することにより発生する浮遊介在物の生成を防止しつつ、耐火材で形成される仕切壁16の劣化を防止することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 低圧鋳造用溶湯保持炉
10 炉本体
14 炉床
15 炉壁
16 仕切壁
17 開放通路
19 トラップ領域
20 ストーク
21 介在物除去台
30 給湯口
31 給湯シュート
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム合金等の鋳物製品を低圧鋳造方法により製造するのに好適な低圧鋳造用溶湯保持炉に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、溶解されてガス・介在物の低減処理された清浄度の高い溶湯が給湯され、給湯された状態を保ちつつ、必要に応じて金型へストークを介して注湯するアルミニウム合金等の低圧鋳造用溶湯保持炉が知られている。この低圧鋳造用溶湯保持炉は、一般的に、溶湯を保持する1槽型の炉本体と、炉本体内に溶解炉からの溶湯を受ける給湯口(給湯シュートともいう)と、炉本体の上に設置された金型へ溶湯を供給するストークから構成されている。そして、炉本体の溶湯面の上部空間に加圧気体を供給することにより、炉本体内に貯留した溶湯をストークを介して金型内に押し上げて注湯するよう機能する。
【0003】
しかし、炉本体内に貯留している溶湯は、時間の経過によるガス吸収・金属問化合物の生成、さらに給湯作業や注湯に伴う溶湯の乱流による酸化皮膜の生成・混入、更には、炉の耐火材との反応により、溶湯の清浄度が低下していくことになる。この清浄度の低下を抑制するために、溶湯保持室と加圧室とを備えた2室型低圧鋳造用溶湯保持炉が提案されている(特許文献1参照)。
【0004】
これは、低圧鋳造用溶湯保持炉が溶湯保持室と加圧室との2室で構成され、溶湯保持室の底部と加圧室とを開閉可能な遮断弁を介して連通させて溶湯保持室から加圧室へ溶湯を逐次供給する。そして、加圧室では、溶湯の湯面に加圧気体により圧力を作用させて、保持している溶湯をストークを介して金型のキャビティ内へ注湯・充填するよう構成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許4519806号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の2室型低圧鋳造用溶湯保持炉では、溶湯保持室と加圧室との2槽を必要とし、設備コストが高くなると共に、保持炉が大型となるため、設備の改造を必要とすると共に、生産ラインのレイアウトの見直しを含めて、使用コストの負担が大きくなる課題がある。
【0007】
そこで本発明は、上記問題点に鑑みてなされたもので、溶湯の清浄度低下の抑制に好適な1槽型の低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、溶湯を保持する炉本体と、炉本体の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストークと、溶解炉からの溶湯を炉本体内に受ける給湯口及び給湯シュートと、を備え、加圧気体による圧力により、保持する溶湯を、ストークを介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉を対象としている。
【0009】
そして、本発明においては、炉本体の炉壁に沿った周辺領域の炉床に、前記ストークの下端に臨む領域の炉床を部分的に囲んで炉床から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁を設ける。そして、前記仕切壁と炉壁とにより、給湯シュートの出口から炉壁に沿って周回する開放通路を形成したことを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
したがって、本発明では、給湯された溶湯の流れを仕切壁により形成された開放通路に沿って流れるようにして、注湯時にストークへ出入りする溶湯の流れとは仕切壁により分離できる。結果として、ストークにより金型キャビティ内へ押上げられる溶湯中への沈殿介在物と浮遊介在物の巻き込みを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態の第1実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図2】図1のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図3】仕切壁の高さを説明する説明図。
【図4】第2実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図5】図4のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図6】介在物除去台の構成を説明する拡大図。
【図7】介在物除去台の変形例を示す拡大図。
【図8】介在物除去台の別の変形例を示す拡大図。
【図9】第3実施例を示す低圧鋳造用溶湯保持炉の平面図。
【図10】図9のA−A線に沿う低圧鋳造用溶湯保持炉の断面図。
【図11】第3実施例と比較例の介在物の巻込み状態を説明する説明図。
【図12】第3実施例と比較例の介在物の分布状態を説明する説明図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の低圧鋳造用溶湯保持炉を一実施形態に基づいて説明する。図1、2は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第1実施例を示し、図1は平面図、図2は図1のA−A線に沿う断面図である。
【0013】
図1において、本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1は、溶湯を保持する1槽型の炉本体10と、炉本体10の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストーク20と、溶解炉からの溶湯を炉本体10内に受ける給湯口30及び給湯シュート31と、を備える。
【0014】
炉本体10は、ケース内に耐火・断熱層、溶湯収容層からなる多層の内張構造を備える上部が開口した容器11と、容器11の上部開口部を閉じる、耐火・断熱層の内張を施した蓋体12と、から形成されている。溶湯収容層内に貯留された溶湯は、耐火・断熱層により断熱状態で保持され、溶湯内に浸るよう配置された図示しないヒータや溶湯液面の上部空間に配置されたヒータ13等により、一定温度範囲内に保持される。
【0015】
金型へ溶湯を注湯するストーク20は、筒状をなし、上部が蓋体12を貫通して図示しない金型のダイベースに連通され、下端が炉本体10の炉床14に対面するよう、上下方向に配置されている。ストーク20の下端は炉本体10に貯留している溶湯に常時浸された状態となっている。
【0016】
容器11の炉壁15には、保持する溶湯に浸されない炉壁15の上部位置において、炉本体10内に加圧気体を供給する加圧気体給排口18が設けられている。加圧気体給排口18には図示しない切換え弁が接続され、切換弁により金型への注湯作動時には炉本体10内の溶湯面の上部空間に圧力源からの加圧気体が供給され、注湯完了の所定時間後には炉本体10内の加圧気体が外気へ解放される。
【0017】
即ち、貯留する溶湯を、ストーク20を介して金型内に注湯する際には切換え弁を開いて圧力源からの加圧気体が炉本体10内に供給される。通常、炉本体10内は、給湯口30が閉じられて、外気とは遮断状態となっているため、炉本体10内に加圧気体が供給されると、溶湯の湯面が押下げられ、貯留した溶湯を、ストーク20を介して金型内に押上げて注湯する。また、金型キャビティ内に溶湯が充填されて所定時間後には、切換弁を切換えて、圧力源からの加圧気体を遮断し、炉本体10内の加圧気体を大気中に逃がして炉本体10内を大気圧とし、ストーク20内に残留する溶湯を炉本体10内に戻すようにしている。
【0018】
炉本体10に貯留された溶湯は、上記したストーク20を介した金型への注湯毎にストーク20及び金型キャビティに供給され、注湯完了時点でストーク20内に残留する溶湯が戻され、金型キャビティへ充填される溶湯分が消費されて、その都度、湯面が低下される。
【0019】
容器11の側面上部には、溶解炉で熔解されてガス・介在物の低減処理がされた清浄度の高い溶湯の供給を受ける給湯口30が形成されている。給湯口30には、それに連ねて容器11の炉床14側に向かって延びる給湯シュート31を備える。給湯シュート31は、容器11の炉壁15に沿って配置され、炉床14の外周領域に臨んで出口が開口されている。
【0020】
炉本体10内に貯留された溶湯の液面レベルが、上記金型への注湯が繰返されることにより、徐々に低下され、溶湯補給を必要とする液面レベルに低下されると、給湯口30から溶解炉で熔解されてガス・介在物の低減処理がされた清浄度の高い溶湯が供給される。溶湯補給を必要とする液面レベルを、最低溶湯レベルという。給湯口30から供給された溶湯は、給湯シュート31を通って炉床14の外周領域に流れ込み、貯留している溶湯の下層領域に供給される。
【0021】
容器11の炉床14の外周領域には、炉床14から立上がり、溶湯収容層の炉壁15と所定の間隔をあけて平行に配置されて炉壁15との間に上部が開いた開放通路17を形成する仕切壁16を備える。この仕切壁16は、給湯シュート31の出口に臨む炉床14の外周領域から約3/4周した炉床14外周領域まで延びて配置され、それに続く1/4周する炉床14外周領域には配置されていない。仕切壁16で囲まれる領域の炉床14には、ストーク20の下端が炉床14に向けて開口している。
【0022】
仕切壁16は、炉床14が図示の四辺形をなす容器11にあっては、給湯シュート31の出口に隣接する最初の炉壁15に平行する領域から、給湯シュート31の出口と対面する炉壁15と平行するよう連なり、更に最初の炉壁15と対向する炉壁15と平行するよう延びている。図示しないが、炉床14が円形(楕円形も含む)をなす容器11にあっては、仕切壁16は、平面図示状態で、炉床14外周領域を3/4周する領域に配置される。なお、仕切壁16で形成する開放通路17の始端(給湯シュート31の出口より後方側)は、仕切壁16の後端が炉壁15に連結されることにより閉じている。
【0023】
即ち、仕切壁16で形成する開放通路17は、炉床14の外周側を3/4周する領域において配置されている。このため、給湯口30から給湯シュート31内を通って供給される溶湯は、給湯シュート31の出口から、溶湯の下層領域において、仕切壁16と炉壁15とで形成した開放通路17に沿って流れ、炉床14の外周領域を周回するように流れる。次いで、炉壁15に沿って旋回しながら上方へ流れ、溶湯の液面レベルを上昇させる。
【0024】
炉本体10に貯留された溶湯の湯面レベルは、給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯が給湯されると初期レベルまで上昇し、その後のストーク20を介した注湯毎に徐々に低下される。そして、所定回数の注湯により溶湯補給を必要とする液面レベル(最低溶湯レベル)に低下されると、給湯口30から再び清浄度の高い溶湯が供給され、再び液面レベルは初期レベルへと上昇する。
【0025】
仕切壁16の高さは、溶湯補給を必要とする液面レベル(最低溶湯レベル)になっても、溶湯の湯面に露出しない高さに設定されている。即ち、仕切壁16は常に溶湯に浸された状態となっている。
【0026】
以上の構成の低圧鋳造用溶湯保持炉1の動作について以下に説明する。先ず、給湯口30を開いて、炉本体10内に給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯を給湯する。そして、供給された溶湯は、給湯シュート31を通して炉本体10内の炉床14に流れ込み、仕切壁16と炉壁15とで形成された開放通路17に沿って、炉床14の外周領域を旋回しながら液面レベルを上昇させていく。供給される溶湯量が所定量に達した段階で、給湯が停止され、給湯口30が閉じられる。炉本体10内には、溶湯が初期レベルに満たされた状態となる。これにより、鋳造工程の準備が完了する。
【0027】
次に、鋳造工程では、圧力源からの加圧気体(例えば乾燥空気、N2ガス、Arガス等)を切換弁を介して炉本体10内に供給して、溶湯面に例えば0.2〜0.5気圧程度の圧力を作用させ、ストーク20を介して溶湯を押し上げ、これにより溶湯が金型のキャビティ内に注湯・充填される。このとき、炉本体10の溶湯面がストーク20を介しての注湯量に応じてその湯面レベルが低下する。
【0028】
金型への溶湯充填完了から所定時間経過した後に、切換弁を切換えて炉本体10内を大気圧開放する。これにより、ストーク20内に残留する溶湯の戻りが生じるが、炉本体10の溶湯は1回の鋳造作業に要した分だけ減少しているため、炉本体10の溶湯面は注湯前の湯面レベルよりも低い湯面レベルとなる。
【0029】
次いで、次の鋳造工程が開始され、上述したような鋳造工程を繰り返し行うことで、炉本体10内の溶湯が順次段階的に減少してゆき、溶湯補給を必要とする液面レベルに低下する。このため、給湯口30を開いて、炉本体10内に給湯口30から清浄度の高い新しい溶湯を給湯して、供給される溶湯量が所定量に達した段階で、給湯が停止され、給湯口30が閉じられて、鋳造工程の準備が完了し、順次注湯作業が開始される。
【0030】
ところで、溶解炉から出湯した溶湯は、フラックス処理・脱ガス処理によって、酸化物・金属間化合物・水素ガスに代表される介在物を除去して、清浄度が良くなっている。しかし、炉本体10内に給湯された時点からは、時間経過によるガス吸収・金属問化合物の生成、さらに給湯作業・注湯による炉本体10内の溶湯の乱流による酸化皮膜の生成・混入、更には、炉本体10の耐火材との反応により、溶湯の清浄度が徐々に低下されていくことになる。
【0031】
溶湯の清浄度の低下は、鋳造製品にピンホールや引け巣の増加、更には、湯流れ性の低下による湯廻り不良、硬度の高い介在物の混入により、製品側の欠肉、加工時工具破損につながる所謂ハードスポット不良などの原因となる。
【0032】
アルミニウム合金の溶湯の清浄度を低下させる原因としては、酸化皮膜に代表される溶湯の液面近傍に浮遊している浮遊介在物と、炉床14に沈殿するスラッジ(Fe系金属問化合物)に代表される沈殿介在物が存在する。また途中の反応により、浮遊していたものが、化学変化により沈殿していく反応もある。前者は、溶湯が、空気に触れることが原因により、後者は溶湯成分、時間、温度、炉材との反応により、夫々増加する。何れも、溶湯を静かに扱うことにより、発生量の増加を最小限に抑えることができ、また炉床14からの舞い上がりによるストーク20からの注湯時の金型キャビティへの巻き込みを減らすことが、重要である。従って、これらの溶湯内での挙動を適切に把握して、対応することが必要である。
【0033】
低圧鋳造用溶湯保持炉1には、大きく二つの溶湯の流れがある。一つは、鋳造(注湯)時の加圧・排気によるストーク20内を上下する溶湯の流れであり、他の一つは、給湯作業による給湯シュート31から炉本体10内への溶湯の流れである。
【0034】
鋳造(注湯)時によるストーク20内を上下する溶湯の流れは、注湯時には貯留された溶湯の下層領域において、周辺の炉床14からストーク20の下端開口に向かって流れ、注湯完了時にはストーク20の下端開口から炉床14へ向かい、次いで炉床14に沿って周辺に拡がる流れとなる。このため、溶湯の液面近傍に浮遊する浮遊介在物のストーク20内への流れ込みは防止することができる。他方、ストーク20の下端開口に臨む周辺の炉床14に沈殿介在物が存在する場合には、その介在物が上記した溶湯の流れに乗ってストーク20を経由して金型キャビティに流入することとなる。しかし、ストーク20の下端開口に臨む周辺の炉床14は、仕切壁16により囲われた状態となっている。このため、沈殿介在物を仕切壁16により囲われた領域の炉床14上に存在させないようにする必要がある。
【0035】
一方、給湯作業による給湯シュート31から炉本体10内への溶湯の流れは、給湯シュート31から炉床14の周辺領域に流れ込み、仕切壁16と炉壁15とで形成される開放通路17に導入され、開放通路17に沿って流れ、炉床14の外周領域を周回するように流れる。供給される溶湯は、複数回、例えば、10〜15回分の注湯量に相当する湯量が供給される。このため、供給された溶湯は炉床14の外周領域を周回するように流れ、これにより、炉本体10内の溶湯を旋回させる流れを発生させつつ、溶湯の液面レベルを上昇させる。また、給湯シュート31から供給される溶湯の流れの勢いが大きい場合においても、仕切壁16と炉壁15で形成される開放通路17は上部が開放されているため、流れの勢いを上部に解放でき、給湯された溶湯の乱流を防止することができる。
【0036】
従って、浮遊介在物である酸化皮膜の増加を最低限に抑えることができると共に、炉床14の沈殿介在物であるスラッジの流れる方向も炉床14の外周領域に限定させることができる。即ち、炉床14の外周領域に周回させて炉床14から立ち上がるよう設けた仕切壁16は、給湯される溶湯の流れと注湯される溶湯の流れを切り分けるよう機能する。結果として、炉床14の外周領域に周回させて炉床14から立ち上がるよう設けた仕切壁16により、ストーク20の下方領域の炉床14上の沈殿介在物を少なくすることができ、金型キャビティへの巻き込みを減少させることができる。また、ストーク20の下端開口は、炉床14に近接させて溶湯の下層領域にあり、溶湯の液面領域よりも常に下方にあるため、液面領域に存在する浮遊介在物の金型キャビティへの巻き込みも減少させることができる。
【0037】
また、仕切壁16の上端は、給湯シュート31の出湯口の上端及びストーク20の下端開口よりも高く、且つ、溶湯の補給を必要とする最低湯面よりも低い高さに設定している。このため、仕切壁16が溶湯の湯面領域に露出することがなく、仕切壁16が湯面より露出し酸化することにより発生する浮遊介在物の生成を防止しつつ、耐火材で形成される仕切壁16の劣化を防止することができる。
【0038】
図4〜図8は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第2実施例を示し、図4は平面図、図5は図4のA−A線に沿う断面図、図6は要部拡大図、図7〜図8は変形例を夫々示す要部拡大図である。本実施例においては、炉床14に沈殿する沈殿介在物の巻込みを低減する構成を第1実施例に追加したものである。なお、第1実施例と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0039】
図4,5において、本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1では、ストーク20の下端開口に臨む炉床14に介在物除去台21を設置して備える。介在物除去台21は、注湯管(ストーク20)の下端開口に臨む面を、その板厚分だけ炉床14よりも一段高くするよう機能する。介在物除去台21は、図示するように、ストーク20の下端開口の臨む仕切壁16で囲まれる炉床14の中央領域の高さを全体的に上昇させている。また、図示するように、仕切壁16と一体に形成してもよく、また、別体に形成してもよい。その他の構成は、第1実施例に示す低圧鋳造用溶湯保持炉1と同様に形成されている。
【0040】
本実施例の低圧鋳造用溶湯保持炉1においては、ストーク20の下端開口の臨む仕切壁16で囲まれる炉床14の中央領域の高さを全体的に上昇させる介在物除去台21を備える。ストーク20の下端開口に臨むの炉床14を一段高くすることにより、沈殿介在物がストーク20の下端開口の下に存在し難くすることができると同時に、加圧による注湯時に炉床14に存在する溶湯を吸い込み難くする効果がある。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0041】
即ち、沈殿介在物は、溶湯より若干重いため、溶湯の動きによっては舞い上がるものの、より低い領域に沈殿する傾向がある。このため、沈殿介在物は、炉床14より一段高い介在物除去台21よりも高さが低い炉床14上に沈殿する。そして、加圧による注湯時においては、介在物除去台21との間の炉床14より上の領域の溶湯がストーク20に供給され、炉床14に存在する溶湯は介在物除去台21の上に上昇された後にストーク20に供給されることとなる。このため、炉床14に沈殿している沈殿介在物は、介在物除去台21の高さ分だけ上昇された後でないと介在物除去台21の上に到達しないため、ストーク20に吸込まれることを抑制することができる。
【0042】
また、注湯後の炉本体10内の大気開放によりストーク20に残留する溶湯の戻り時に、戻る溶湯は介在物除去台21の上面に突き当たった後に周囲に拡がる流れとなる。このため、介在物除去台21の上に沈殿介在物が存在したとしても、それらの沈殿介在物は戻り溶湯と共に介在物除去台21上から一段低い炉床14上に吹き払われることとなる。上記戻り溶湯による吹き払いが強い場合には、若干の沈殿介在物は、一段高い仕切壁16を越えて仕切壁16と炉壁15とで形成される開放通路17の炉床14上へ移動させることもできる。結果として、介在物除去台21の上、即ち、ストーク20の下に、沈殿介在物が存在し難くすることができる。以上の作用として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0043】
図7に示す変形例の介在物除去台21においては、その上面全体を、傾斜面22により構成したものである。このように傾斜面22により構成することにより、介在物除去台21の上に存在する沈殿介在物は、その重さにより、溶湯の流動に伴ってより低い領域に移動しやすくなり、一段と高さが低い炉床14上に速やかに移動させることができる。出願人の実験による確認の結果では、傾斜面22の傾斜角は、5°以上あれば、沈殿介在物の下方への移動が促進されることを確認している。なお、介在物除去台21の上面を傾斜面22で形成する場合に、傾斜面22により介在物除去台21の厚さが薄くなることから、溶湯内での介在物除去台21の耐久性の低下が懸念される。このため、図8に示すように、介在物除去台21の上面の端部となる一部のみを傾斜面22とするものであってもよい。このようにすることにより、介在物除去台21の厚さを確保して溶湯内での耐久性を確保しつつ、上面から炉床14上への沈殿介在物の移動を促進させることができる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。
【0044】
なお、上記実施例において、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を高くする手段として、介在物除去台21を設置するものについて説明したが、図示はしないが、その領域の炉床14自体を上昇させて形成するものであってもよい。
【0045】
図9及び図10は、本発明を適用した低圧鋳造用溶湯保持炉の第3実施例を示し、図9は平面図、図10は図9のA−A線に沿う断面図である。本実施例においては、炉床14における給湯の流れの終端となり、注湯の戻り流れの終端となる領域に、炉床14よりも一段低いトラップを備える構成を第2実施例に追加したものである。なお、第2実施例と同一装置には同一符号を付してその説明を省略ないし簡略化する。
【0046】
図9,10において、仕切壁16と炉壁15とで形成する開放通路17の出口の前方であり、且つ、介在物除去台21の側方である領域の炉床14は、他の領域の炉床14よりも一段と低く形成して、トラップ領域19を構成している。その他の構成は、第2実施例と同様に構成している。
【0047】
このトラップ領域19は、他の領域の炉床14よりも一段と低く形成しているため、給湯により開放通路17の炉床14に沿って運ばれてきた沈殿介在物は、開放通路17の出口からトラップ領域19に運ばれて、沈殿する。また、注湯の戻り流れにより介在物除去台21から転がり落ちる沈殿介在物も、トラップ領域19に運ばれて、沈殿する。トラップ領域19に沈殿された沈殿介在物は、トラップ領域19の炉床14の高さが他の領域の炉床14より一段と低く形成しているため、給湯時の湯流れ及び注湯時の湯流れから分離した領域となり、給湯・注湯の湯流れで、舞い上がり難くなる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。
【0048】
また、沈殿介在物がトラップ領域19に集まることにより、炉本体10の清掃などのメンテナンス時にトラップ領域19を集中的に清掃することで、沈殿介在物を除去できるため、炉のメンテナンス性(保全性)を向上させることができる。
【0049】
図11は、本実施例と比較例に対して、炉本体10内の介在物の挙動は、直接観察することができないため、広く行われている水モデルを使って注湯溶湯内への介在物の巻込み状態を実験した結果を示すものである。比較例としては第1実施例における仕切壁16を設けない構造の鋳造用溶湯保持炉を用いた。また、介在物に見立てた樹脂片(ビーズ)を用い、沈殿介在物としては比重が、1.01〜1.3と水より高い樹脂片とし、浮遊介在物としては比重が、0.7〜0.9と、水より低い樹脂片とした。実験では、炉本体10の炉床14に均一に樹脂片を分散配置した後に炉本体10へ給湯(給水)により初期レベルまで満たした状態とした。そして、炉本体10に加圧気体を加えて注湯状態として所定量の水を、ストーク20を介して排出し、その後に加圧気体を排出してストーク20中に残留する水を炉本体10に戻す、注湯作業を複数回(15回)繰返すようにした。
【0050】
図11の横軸は、注湯作業の回数であり、縦軸は注湯作業におけるストーク20を介して排出される水によって巻上げられた樹脂片の数をカウントしたものである。図11では、実線が比較例における巻上げられた樹脂片の数を示し、破線が本実施例における巻上げられた樹脂片の数を示している。
【0051】
比較例の水モデルでは、炉床14に均一に樹脂片が分散している1回目の注湯作業時の樹脂片の巻込みと、注湯作業が繰返されて湯面が低下して、浮遊していた樹脂片を巻き込む14・15回目の注湯作業時の巻き込みが多い結果となった。一方、本実施例では、いずれの注湯作業時においても、樹脂片の巻込みが低減していることが確認できる。
【0052】
図12は本実施例(破線)と比較例(実線)との実験後の樹脂片の炉本体10内での分布状態を比較したものである。比較例に対して本実施例では、ストーク20を介して排出された水に巻込まれた樹脂片を60%低減することができた。また、巻き込みリスクのあるストーク20下付近での分布量は、比較例に対して本実施例では50%低減することができた。また、トラップ領域19による沈殿介在物の補足量は、比較例に対して本実施例では30%増加させることができた。
【0053】
本実施形態においては、以下に記載する効果を奏することができる。
【0054】
(ア)炉本体10の炉壁15に沿った周辺領域の炉床14に、前記ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を部分的に囲んで炉床14から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁16を設けた。そして、前記仕切壁16と炉壁15とにより、給湯シュート31の出口から炉壁15に沿って周回する開放通路17を形成した。このため、給湯された溶湯の流れを仕切壁16により形成された開放通路17に沿って流れるようにして、注湯時にストーク20へ出入りする溶湯の流れとは仕切壁16により分離できる。結果として、ストーク20により金型キャビティ内へ押上げられる溶湯中への沈殿介在物と浮遊介在物の巻き込みを低減することができる。
【0055】
(イ)第2実施例では、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14を、介在物除去台21を設置することにより若しくはその領域の炉床14自体を上昇させることにより、その他の領域の炉床14より高く形成した。このため、沈殿介在物がストーク20の下端開口の下に存在し難くすることができると同時に、加圧による注湯時に炉床14に存在する溶湯を吸い込み難くする効果がある。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みをより一層低減することができる。
【0056】
(ウ)第3実施例では、ストーク20の下端に臨む領域の炉床14の外周側に隣接し、前記仕切壁16が終端で途切れることにより形成された開放通路17の出口に臨む領域の炉床14の高さを、その他の領域の炉床14より低く形成して沈殿介在物のトラップ領域19とした。このため、給湯により運ばれてきた沈殿介在物、注湯の戻り流れにより運ばれてきた沈殿介在物は、一段と低いトラップ領域19に沈殿しやすく、沈殿した沈殿介在物は給湯の湯流れと注湯の湯流れとから分離されてその舞い上がりが抑制できる。結果として、ストーク20を介して金型キャビティへ供給する溶湯への沈殿介在物の巻き込みを更に一層低減することができる。また、沈殿介在物がトラップ領域19に集まることにより、清掃などの炉本体10のメンテナンス性(保全性)を向上させることができる。
【0057】
(エ)仕切壁16は、給湯シュート31の出口開口の上端部の高さ及びストーク20の下端の高さより高く、補給を必要とする最低湯面レベルより低い高さ寸法に形成されている。このため、仕切壁16が溶湯の湯面領域に露出することがなく、仕切壁16が湯面より露出して酸化することにより発生する浮遊介在物の生成を防止しつつ、耐火材で形成される仕切壁16の劣化を防止することができる。
【符号の説明】
【0058】
1 低圧鋳造用溶湯保持炉
10 炉本体
14 炉床
15 炉壁
16 仕切壁
17 開放通路
19 トラップ領域
20 ストーク
21 介在物除去台
30 給湯口
31 給湯シュート
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶湯を保持する炉本体と、炉本体の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストークと、溶解炉からの溶湯を炉本体内に受ける給湯口及び給湯シュートと、を備え、加圧気体による圧力を溶湯面に作用させることにより、保持する溶湯をストークを介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉において、
前記炉本体の炉壁に沿った周辺領域の炉床に、前記ストークの下端に臨む領域の炉床を部分的に囲んで炉床から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁を設け、
前記仕切壁と炉壁とにより、給湯シュートの出口から炉壁に沿って周回する開放通路を形成したことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記ストークの下端に臨む領域の炉床を、介在物除去台を設置することにより若しくはその領域の炉床自体を上昇させることにより、その他の領域の炉床より高く形成したことを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記ストークの下端に臨む領域の炉床の外周側に隣接し、前記仕切壁が終端で途切れることにより形成された開放通路の出口に臨む領域の炉床の高さを、その他の領域の炉床より低く形成して沈殿介在物のトラップ領域としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記仕切壁は、給湯シュートの出口開口の上端部の高さ及びストークの下端の高さより高く、補給を必要とする最低湯面レベルより低い高さ寸法に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項1】
溶湯を保持する炉本体と、炉本体の上方に設置される金型へ溶湯を注湯するストークと、溶解炉からの溶湯を炉本体内に受ける給湯口及び給湯シュートと、を備え、加圧気体による圧力を溶湯面に作用させることにより、保持する溶湯をストークを介して押上げ、金型キャビティ内に充填する低圧鋳造用溶湯保持炉において、
前記炉本体の炉壁に沿った周辺領域の炉床に、前記ストークの下端に臨む領域の炉床を部分的に囲んで炉床から立上がり、保持する溶湯の下層領域を仕切る仕切壁を設け、
前記仕切壁と炉壁とにより、給湯シュートの出口から炉壁に沿って周回する開放通路を形成したことを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記ストークの下端に臨む領域の炉床を、介在物除去台を設置することにより若しくはその領域の炉床自体を上昇させることにより、その他の領域の炉床より高く形成したことを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記ストークの下端に臨む領域の炉床の外周側に隣接し、前記仕切壁が終端で途切れることにより形成された開放通路の出口に臨む領域の炉床の高さを、その他の領域の炉床より低く形成して沈殿介在物のトラップ領域としたことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記仕切壁は、給湯シュートの出口開口の上端部の高さ及びストークの下端の高さより高く、補給を必要とする最低湯面レベルより低い高さ寸法に形成されていることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一つに記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2013−46922(P2013−46922A)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−186102(P2011−186102)
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(391003727)株式会社トウネツ (12)
【公開日】平成25年3月7日(2013.3.7)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年8月29日(2011.8.29)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(391003727)株式会社トウネツ (12)
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