説明

低抗原性かつ高消化性の飼料原料およびその製造方法

【課題】脱脂大豆の抗原性などの抗栄養成分を低減させ、消化性や嗜好性に優れ、かつ安全性の高い脱脂粉乳代替品を提供する。
【解決手段】本発明の飼料原料は、脱脂大豆に糖質溶液を糖質含量7〜24重量%となるように添加して加熱加圧混練処理することにより得られ、抗原性が100U/10mg以下であり、かつ高消化性が中性デタージェント不溶性蛋白として30%以下であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、幼齢期動物にとって消化性や嗜好性に優れかつ安全性が高く、脱脂粉乳代替となり得る飼料原料、その製造方法、飼料原料を配合した飼料、及び飼料原料を製造するための糖質溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
幼齢期の動物には、脱脂粉乳を主成分とする飼料が与えられている。近年の脱脂粉乳の原料不足による飼料価格の高騰から、脱脂粉乳の代替品として、魚粉、小麦蛋白、大豆蛋白などを利用することがある。しかし、これらの代替品は、脱脂粉乳よりも嗜好性に劣り、栄養価が低いという問題がある。
【0003】
脱脂大豆を2軸エクストルーダー処理すると、抗原性が低減して利用性が高まることが知られている(特許文献1:幼齢動物飼料用原料)。それでも、豚での消化率(日本標準飼料成分表2001年版)は、粗蛋白質91%、粗脂肪0%、NFE99%、及び粗繊維82%であり、消化性や嗜好性の更なる向上が望まれる。
【0004】
加糖加熱処理大豆油かす、加湿加熱処理大豆油かすもまた、飼料原料として登録されている。いずれも、消化性がそれほど高くなく、前記エクストルーダー処理物より劣る。
【0005】
飼料の嗜好性を高める方法としては、フレーバー、糖質などの添加が行われる(特許文献2:嗜好性飼料原料)。糖の製造時に発生する糖蜜や糖質含有液は、動物に対する嗜好性が高い。しかし、これらは液体であるために、給与の際に餌に直接かけるなどの作業が必要となる。これは農場における使用を限定し、利用を困難にする。また、配合飼料を作製する際に水分が高いとカビや腐敗の原因となることから、配合量が数%以下に制限されている。スプレードライ、造粒乾燥などの操作により液体を粉状にすることは、風味の損失を招き、高コストでもあり、飼料に向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許2654889号公報
【特許文献2】特開平5−76292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の目的は、脱脂大豆の抗原性などの抗栄養成分を低減させ、消化性や嗜好性に優れ、かつ安全性の高い脱脂粉乳代替品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために脱脂大豆の処理条件の検討を行う中で、牛の飼料の分析方法である中性デタージェント不溶性蛋白質(NDICP)が消化性の指標となることを見出した。NDICPは、反芻胃の微生物によって利用されるタンパク質量を分析する指標として用いられ、NDICPが高いほど、反芻胃内微生物ではなく牛自体の栄養となる。従来、NDICPが高いものを作ることを目的として、飼料の検討が行われてきた。一方、本発明者らは、NDICPの数値が低いほど消化性が高くなると推察して、NDICPの低い飼料の開発を検討した。
【0009】
脱脂大豆に糖質を加えて加熱加圧混練処理すると、脱脂大豆のルーメンバイパス性(小腸への到達率)が上昇し、これとともにNDICPも上昇すると予測されるはずである。しかし、本発明者らは、脱脂大豆に一定量の糖質を添加して加熱加圧混練処理すると、意外にも抗原性が低く、かつNDICPが低く抑えられた飼料になることが判明した。この知見をもとに、嗜好性が脱脂粉乳と同等以上で、しかも消化性に優れる脱脂粉乳代替原料を製造することに成功した。すなわち、本発明は、脱脂大豆に糖質溶液を糖質含量7〜24重量%となるように添加し、加熱加圧混練処理することにより得られる、抗原性が100U/10mg以下であり、かつ高消化性が中性デタージェント不溶性蛋白として30%以下であることを特徴とする飼料原料を提供する。
【0010】
本明細書において、糖質含量は、脱脂大豆及び添加した糖質(乾物重量)の合計に対する添加した糖質(乾物重量)の割合(重量%)を意味する。同様に、添加率は、脱脂大豆及び添加した糖質溶液の合計に対する添加した糖質溶液の割合(重量%)を意味する。
【0011】
本発明は、また、脱脂大豆に糖質溶液を糖質含量7〜24重量%となるように添加し、加熱加圧混練処理することにより得られる低抗原性かつ高消化性の飼料原料の製造方法を提供する。
【0012】
本発明は、また、上記低抗原性かつ高消化性の飼料原料を、該飼料原料由来の糖質含量が飼料全体の0.07〜12重量%となるように配合した飼料を提供する。
【0013】
本発明は、また、脱脂大豆に糖質含量7〜24重量%となるように添加される糖質溶液であって、添加後の加熱加圧混練処理により抗原性が100U/10mg以下であり、かつ高消化性が中性デタージェント不溶性蛋白として30%以下である飼料原料を製造するための前記糖質溶液を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料は、消化性や栄養価に優れ、かつ嗜好性が高い。特に幼齢期の動物に対して、脱脂粉乳と一部又は完全代替しても、同等以上の栄養価と嗜好性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料を製造するための二軸エクストルーダーの構成例を示す。図中、LはL型のニーディングディスク、RはR型のニーディングディスク、Fはフォワードスクリュー、Pはパイナップルスクリューを、数値は各ブロックごとの長さ(mm)を示す。
【図2】図1の二軸エクストルーダーを使用して、低抗原性かつ高消化性の飼料原料をPF−Sを添加して製造したときの、PF−S添加率に対するNDICP(%)の変化を示す。
【図3】図1の二軸エクストルーダーを使用して低抗原性かつ高消化性の飼料原料をPF−Sを添加して製造したときの、PF−S添加率に対するペプシン消化率(%)の変化を示す。
【図4】実施例14(基礎飼料+本発明品)及び比較例1(基礎飼料+2軸EX処理脱脂大豆)において、マウスの飼料摂取量を5日間にわたって計測したグラフである。飼料摂取量は、Day1では両者に差が少なく、Day2以降に顕著な差が現れている。
【図5】実施例15(基礎飼料+2軸EX処理脱脂大豆+本発明品)及び比較例2(基礎飼料+2軸EX処理脱脂大豆)において、マウスの飼料摂取量を5日間にわたって計測したグラフである。飼料摂取量は、Day1では両者に差が少なく、Day2以降に顕著な差が現れている。
【図6】実施例16(基礎飼料+本発明品)及び比較例3(基礎飼料+2軸EX処理脱脂大豆+脱脂粉乳+砂糖)において、マウスの飼料摂取量を5日間にわたって計測したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の実施の形態を示して、本発明をより詳細に説明する。本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料は、脱脂大豆に糖質溶液を添加して加熱加圧混練処理することにより得られるものである。
【0017】
脱脂大豆は、大豆から油分を通常4重量%以下まで除去した大豆蛋白である。脱脂大豆は、アミノ酸バランスが比較的優れ、かつ、安価なため、飼料用途に好適である。大豆を脱脂する方法は、特に制限されず、例えば機械的抽出や溶媒抽出による。脱脂大豆は、脱脂方法、品種、収穫地域、年度などに依存して蛋白質を40〜55%程度含む。本明細書において、蛋白分45〜55%のものをHP脱脂大豆、そして蛋白分40〜48%のものをLP脱脂大豆と呼ぶことがある。本発明では、市販品の脱脂大豆(例えば、製品名、脱脂大豆ロープロ、脱脂大豆ハイプロ、いずれも(株)J−オイルミルズ製)を用いることもできる。
【0018】
前記糖質には、発酵乳(発酵乳に糖分を添加したものも含む)、発酵乳含有物、乳酸発酵脱脂乳、乳糖、砂糖、ショ糖、果糖、ブドウ糖、ブドウ糖水和物、エリスリトール、マンニトール、パラチノース、還元パラチノース、粉末還元麦芽糖、糖蜜、水アメ、コーンシロップ、コーンスチープリカー、カルメロース、ソルビトール、キシリトールなどが挙げられる。
【0019】
特に好ましい糖質は、発酵乳又は発酵乳含有物である。発酵乳は、例えば特公平6−55106号公報に記載の方法により製造することができる。特公平6−55106号公報に記載の内容を、参照のために本明細書に引用するとともに、概略を以下に説明する。発酵乳は、牛、羊、山羊などから採集した脱脂獣乳に乳酸菌、又は乳酸菌及び酵母を接種して乳酸発酵させることにより得られる。用いる乳酸菌は、獣乳存在下で増殖可能なものであれば特に限定されるものではなく、例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus)属、ペデオコッカス(Pediococcus)属、ロイコノストック(Leuconostoc)属、ラクトバチルス(Lactobacillus)属、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)属を挙げることができる。酵母としては、サッカロミセス・セレビジェ(Saccharomyces cerevisae)、キャンディダ・ユティリス(Candida utilis)、クリベロマイセス・ラクティス(Klyveromyces lactis)などを挙げることができる。
【0020】
前記発酵乳の製造を2段階発酵で行う場合は、獣乳100重量部に対して、スターターとして乳酸菌などを1〜5重量部接種して一次発酵させ、例えば25〜45℃で約16〜48時間発酵させる。適宜、ショ糖、ブドウ糖、転化糖などの糖類を、1次発酵乳に対して15〜50重量%添加する。次いで、例えば15〜30℃で15〜25時間、二次発酵を行う。本発明では、市販品の発酵乳(例えば製品名PF−S、カルピス社製)を用いることもできる。
【0021】
前記糖質溶液の糖質分は、通常、30〜70重量%であり、好ましくは40〜60重量%で、より好ましくは45〜55重量%である。前記糖質溶液は、好ましくは、発酵乳又は発酵乳含有物である。発酵乳などの糖質分は、必要に応じて糖分を加えて調整することができる。
【0022】
上記糖質溶液の脱脂大豆への添加量は、糖質含量が7〜24重量%、好ましくは10〜20重量%、より好ましくは12〜17重量%となるようにする。
【0023】
加熱加圧混練処理にかける飼料原料には、前記糖質及び脱脂大豆以外に、家畜の種類に応じて当業分野で公知のものを本発明の効果を阻害しない範囲で使用することも可能である。
【0024】
加熱加圧混練処理時の温度(品温)は、通常、120〜400℃でよく、好ましくは220〜270℃である。温度が120℃より低すぎると、抗栄養成分の低減が不十分となり、逆に400℃より高すぎると栄養成分としての蛋白質、あるいはアミノ酸が破壊される場合がある。また、圧力は、通常、2〜50kg/cmでよく、好ましくは5〜35kg/cmである。また、圧力が2kg/cmより低すぎると、抗栄養成分の低減が不十分となり、逆に50kg/cmより高すぎると装置からの排出が困難になり焦げや詰まりが発生する場合がある。加熱加圧混練処理に要する時間は、温度及び圧力にもよるが、通常、10秒〜30分間でよく、好ましくは15秒〜2分間である。
【0025】
上記飼料原料の加熱加圧混練処理には、エキスパンダー、1軸エクストルーダー、2軸エクストルーダーのような飼料製造装置を使用することができる。本明細書において、エクストルーダーのことをEXと呼ぶことがある。2軸エクストルーダーは、シリンダーの最高温度到達点を、通常、120℃〜400℃、好ましくは250℃〜370℃とする。これを達成するため、立上げ時の糖質溶液量を絞り、温度が上がった時点で添加量を増やしていくのが好都合である。また、軸の中間にパイナップルスクリューを入れ、先端にはニーディングディスクを入れることが、均等に加熱加圧混練処理できる点で好ましい。
【0026】
エクストルーダーに入れられた脱脂大豆及び糖質溶液は、スクリューで攪拌されながら、適宜の加湿とともに加熱、加圧及び混練され、ダイの穴から押し出される。ダイから押し出された飼料原料はカッターで粒状にされ、適宜、乾燥させられる。乾燥後、粉砕してもよい。
【0027】
本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料及びこれを配合した配合飼料は、抗原量を100U/10mg以下に抑えながらも、消化性の指標であるNDICPが低くなる。従来の加糖加熱脱脂大豆(ソイパス)では、抗原量が150U/10mgと高い。この抗原量を下げるために加糖や加熱条件を高めても、焦げて飼料には向かない状態にならないと抗原量は100U/10mg以下にはならず、NDICPも例えば36%と高くなるが、これは単胃動物や幼齢期の動物にとっては消化性が悪くなる傾向と捉えられる。一方、本発明の飼料原料のNDICPの数値は、採用する加熱加圧混練処理機(例えばエクストルーダー機)によって変わり得るが、30%以下であり、特に23%以下と、従来のものよりも低い。
【0028】
NDICPの測定方法の一例として、繊維分析装置(製品名ファイバーアナライザーA200、ANKOM社製)を使用する方法を以下に示す。手順は、以下のとおりである。
(1)フィルターバッグの重量を測定する。
(2)フィルターバッグにサンプルを0.5g程度精密に測って入れる。
(3)ヒートシールする。バッグの中に均一にサンプルが広がるようにする。
(4)フィルターバッグのホルダーにフィルターバッグをセットしてファイバーアナライザーの釜のなかに入れる。
(5)中性デタージェント溶液2L、耐熱性α−アミラーゼ4mlを釜の中に加えて、釜に蓋をしてAGITATE、HEATスィッチを押して75分間撹拌しながら加熱する。
(6)加熱後、液を排出してから蓋を開け、沸騰水2L及びα−アミラーゼ4mlを添加してAGITATEスイッチを押す。10分程度撹拌する。10分後液を排出して同様の操作を2回繰り返す(計3回)。
(7)さらに沸騰水2Lを添加してAGITATEスイッチを押して10分程度撹拌して、液を排出する。この操作をさらに2回繰り返す(計3回)。
(8)フィルターバッグホルダーを取り出して、フィルターバッグに残っている水分を、フィルターバッグを押して取り除く。
(9)フィルターバッグをビーカーの中に入れて、アセトンを注いで5分間静置する。5分後アセトンを捨てる。同様の操作を繰り返す(計2回)。
(10)フィルターバッグに残っているアセトンをフィルターバッグを押して除く。
(11)フィルターバッグを1時間風乾させる。
(12)フィルターバッグを105℃×4時間減圧乾燥させる。
(13)乾燥後、一晩静置して(乾物重量から現物重量に戻す)、重量測定する。
(14)スミグラフ(株式会社住化分析センター製)を用いてフィルターバッグ中の物質のタンパク含量を測定する。
(15)フィルターバッグ重量、サンプル重量、処理後重量、処理後タンパク含量からNDICPを算出する。
【0029】
次に、ペプシン消化率の測定方法を示す。
(1)サンプルを例えば0.5g精密に測定して、100mlの共栓付き三角フラスコに入れる。
(2)45℃に加温したペプシン溶液(ペプシン(1:10000)2g/0.075M HCl 1L)を75ml加える。
(3)蓋をしてから、振盪しながら45℃で16時間反応させる。
(4)反応後、ろ紙(5A、90mm)でろ過を行い、残渣を温水で洗浄する。
(5)洗浄後、60℃で48時間乾燥させる。
(6)乾燥後、スミグラフでろ紙ごと残渣のタンパク含量を測定する。
(7)予め量っておいたろ紙のタンパク含量、サンプルのタンパク含量、及びサンプル重量及び分解後のタンパク含量からタンパク当たりのペプシン消化率を算出する。
【0030】
大豆は、アレルギーを引き起こす抗原性蛋白質(グリシニン、β−コングリシニンなど)を含んでいる。脱脂大豆の抗原性は、通常、10,000U/10mgである。脱脂大豆に通常の加熱処理を行うと抗原性は下がるが、NDICPは上がる。この処理をする際に加水量や温度の調整で抗原性を100U/10mg以下にしようとしても、抗原性は十分に下がらず、NDICPが30%を超えてしまう。さらに、同処理において糖質を添加した場合には、抗原性はより下がる傾向にあるが、NDICPはさらに上がってしまい、過度な加熱は焦げを発生させる。例えばオートクレーブ処理では、圧力が低く、混練もされないため、抗原の低減は十分でなく、NDICPも高くなる。脱脂大豆をエクストルーダー処理すると、抗原性を下げることはできるが、NDICPを下げることはできない。一方、糖質を、脱脂大豆と糖質との合計に対して7〜24重量%添加して加熱加圧混練処理して得られる本発明の飼料原料では、抗原性を100U/10mg以下、特に50U/10mg以下に低減し、かつNDICPを30%以下にすることができる。なお、抗原性は、当業者に公知のELISA法により測定することができる。
【0031】
上記で得られる本発明の飼料原料は、飼料としてそのまま動物に与えてもよいし、また、当業分野で公知の飼料原料に配合した飼料として動物に与えてもよい。そのような飼料原料としては、米、玄米、ライ麦、小麦、大麦、トウモロコシ、マイロなどの穀類;ふすま、脱脂米ぬかなどのそうこう類;コーングルテンミール、コーンジャームミール、コーングルテンフィード、コーンスチープリカーなどの製造粕類;大豆油粕、菜種油粕、あまに油粕、ヤシ油粕などの植物性油粕類;大豆油脂、粉末精製牛脂、動物性油脂などの油脂類;硫酸マグネシウム、硫酸鉄、硫酸銅、硫酸亜鉛、ヨウ化カリウム、硫酸コバルト、炭酸カルシウム、リン酸三カルシウム、塩化ナトリウム、リン酸カルシウム、塩化コリンなどの無機塩類;リジン、メチオニンなどのアミノ酸類;ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンD3、ビタミンE、パントテン酸カルシウム、ニコチン酸アミド、葉酸などのビタミン類;魚粉、脱脂粉乳、乾燥ホエーなどの動物質飼料;生草;乾草などが挙げられる。
【0032】
本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料を他の飼料原料に配合する場合の量は、該飼料原料として1〜50重量%、該飼料原料由来の脱脂大豆に添加された糖質量として0.07〜12重量%でよく、好ましくは0.5〜10重量%である。本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料は、非常に少ない量で嗜好性改善効果が得られる。
【0033】
本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料及びそれを配合した飼料は、固形であれば、特に形状を問わず、例えば粉末、マッシュ、顆粒、フレーク、ペレット、ブリケットなどの形状に加工される。
【0034】
本発明の低抗原性かつ高消化性の飼料原料及びそれを配合した飼料を与える動物には、豚、牛、鶏、羊、山羊、犬、猫などの動物が挙げられる。特に、幼齢期(例えば豚であれば離乳期から代用乳期)の動物用に好適である。
【実施例】
【0035】
以下に、実施例により本発明を詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〜12〕低抗原性かつ高消化性の飼料原料の製造(1)
二軸エクストルーダー処理脱脂大豆の消化性及び嗜好性を改善するために、二軸エクストルーダー処理時に二種類の脱脂大豆へ加水ラインから約50%糖質溶液を添加する試験を行った。表1に、使用した原料の性状を示す。図1に二軸エクストルーダー(幸和工業製KEI−87、ダイ:φ2.5mm×226穴)の構成(先端よりNL×2,NR×4,FFFPFFFFFFF)を図示する。
【0036】
【表1】

【0037】
PF−S添加量を表2に示すように変えて加工度(水分、粗蛋白量および抗原量)がどのように変化するかを確認した。
【0038】
抗原量の測定には、以下のELISA法を用いた。標準抗原溶液を10mMリン酸緩衝液で100倍に希釈し、マイクロタイタープレートに常法により固定化した。このプレートに、各希釈液の標準溶液、又は被検物質からリン酸緩衝液で抽出したサンプル溶液と子牛抗血清を加え、抗原抗体反応を行わせた。その後、0.05%のTween80を含む10mM PBSで洗浄した。2次抗体としてパーオキシダーゼ標識抗子牛抗体(Code P−159、DAKO社製)を加えて、反応を行った。これを上記洗浄液で洗浄し、0.008% Hを含む8mM o−フェニレンジアミンを加えて発色させた。約30分後、4N HSO 100mlで反応を停止し、マイクロプレートリーダーにより492nmの吸収を測定した。この測定での標準抗原溶液の抗原値を10,000U/10mgとし、抗原物質の含有量を示す単位とした。標準抗原溶液のlog希釈倍率と吸光度logit変換値をX、Y軸にとり、標準直線を求めた。上記加熱加圧混練処理により得られた飼料原料から、標準抗原溶液を処理したのと同様の方法で試料調整を行い、抗原性を先の標準直線より計算した。なお、吸光度logit変換値は、下記式:
logit = ln[(ABS/cont.ABS)/(1−ABS/cont.ABS)]
〔ABSは、各希釈度の標準抗原溶液添加時の吸光度を示す、cont.ABSは10mMリン酸緩衝液添加時の吸光度を示す〕
【0039】
【表2】

1)シリンダー内品温:出口付近
2)シリンダー内品温:中間付近
【0040】
PF−S添加率が最も低い24%(糖質含量13%)付近では、圧力の低下に伴いダイ出口における吹き出し音が発生し、14%程度(糖質含量7%程度)が添加の下限となった。また、PF−Sを30%(糖質含量17%程度)以上添加すると、着色が薄くなって、抗原量が増加する傾向があり、40%程度(糖質含量24%程度)が添加の上限となった。これらは、LP脱脂大豆、HP脱脂大豆どちらの原料でも同様であった。以上の試験結果から、PF−S添加率は14〜40%程度、すなわち、糖質含量7〜24重量%程度が最適と判断され、実製造ではPF−S添加率26%強(糖質含量12〜17重量%)を目処に製造するのが妥当と判断された。
【0041】
図2に、加熱加圧混練処理によるPF−S添加率に対するNDICP(%)の変化を見る目的から、実施例1〜12と同様の処理をPF−S添加率を変えて行った際の結果を示す。図中、実線は、抗原量を100U/10mg以下に低減することを目的として脱脂大豆にブドウ糖の50%水溶液を糖質含量10%になるように添加して120℃で30分間オートクレーブ処理したもののNDICPを示す。脱脂大豆に糖質を添加せずに同条件でオートクレーブした際の抗原量は130U/10mgと高く、NDICPは16.7%となる。図中実線の際のNDICPは36%程度で、これ以上糖質の添加量を増やしてもNDICPの値はほとんど変化しない。ブドウ糖の代わりにキシロースを添加した場合も同じ数値となった。ショ糖を加えた場合は、抗原量を100U/10mg以下に低減するために同処理温度を130℃としたが、同様にNDICPは30%を超えてしまう。また、市販の加糖加熱大豆油粕(糖質添加量2%程度)では、抗原量は150U/10mgと高く、NDICPは24%程度となる。図2から、加熱加圧混練処理ではPF−S添加率が増すとともに、NDICPが下がることがわかる。この際の抗原量は全て50U/10mg以下であった。特にPF−Sの添加率24%(糖質含量13%)以上では、NDICPが23%以下に低くなる。これらのプロットから線形近似直線を得ると、NDICPが減少に転じるのは、PF−S添加率が15%、すなわち糖質添加率として7.9%程度であることが読み取れる。
【0042】
図3に、PF−S添加率に対するペプシン消化率(%)の変化を示す。図中、実線は、糖質無添加時のペプシン消化率を示す。図3より、PF−S添加率が22〜30%の範囲では、ペプシン消化率は94.2%〜95.4%であり、無添加のものより高いことがわかる。このプロットから線形近似直線を得ると、ペプシン消化率が上昇するのは、PF−S添加率が15%、すなわち糖質添加率として7.9%程度であることが読み取れる。
【0043】
〔実施例13〕低抗原性かつ高消化性の飼料原料の製造(2)
二軸エクストルーダー処理脱脂大豆の消化性及び嗜好性を改善するために、二軸エクストルーダー(幸和工業製KEI-45、ダイ:φ5mm×2穴)処理時にLP脱脂大豆へ加水ラインから市販の飼料用糖蜜を水で2倍希釈して添加する試験を行った。
【0044】
【表3】

【0045】
本試験で得られた処理品の抗原量は16.5U/10mg、NDICPは18.6%、そしてペプシンの消化率は94.8%となった。
【0046】
〔実施例14〜16〕マウス嗜好性試験
4週齢の雄性ICR系マウス12匹(6匹x2試験区)を日本チャールズリバー社(クローズド、Crlj:CD1(ICR))から購入し、ケージ毎にマウス1匹を割り付け、各ケージには2種類の飼料を配置し、飼料をカフェテリア方式で自由に選択摂取させ、それぞれの飼料摂取量を測定し、違いによる嗜好性を判断した。まず、予備飼育を4日間取って、マウスを環境に慣れさせた。予備飼育ではCE−2ペレット(日本クレア社製)を与えた。使用試験開始時に5週齢となったマウスに、表4に示す配合の飼料を与える試験飼育を5日間行った。測定項目として、試験開始1〜5日後、毎日午前10時に飼料摂取量を計測した。結果を図4〜6に示す。
【0047】
【表4】

※基礎飼料:CE−7粉末(日本クレア社製)
※※本発明品:HP脱脂大豆に糖質溶液(製品名PF−S、カルピス社製)を29重量%添加して、最高品温160℃×最高圧力10kg/cmの条件で加熱加圧混練して得られたもの

【0048】
図4の試験1(実施例14と比較例1)、ならびに図5の試験2(実施例15と比較例2)において、初日はPF−Sの添加効果による摂食量の差が少なく、2日目以降に差が顕著となった。本発明品は誘引効果もあるが、それ以上に味が改善していることで嗜好性改善効果が得られていると考えられた。
【0049】
図6の試験3(実施例16と比較例3)において、比較例3(基礎飼料+2軸エクストルーダー処理脱脂大豆+砂糖+脱脂粉乳区)よりも、実施例16(基礎飼料+本発明品)で嗜好性が有意に高いことが確認された。このことは、これらの原料を単純に混ぜたものではなく、乳酸発酵させることや、糖質溶液の存在下で加熱加圧混練処理することが嗜好性を高める要因となったことを示唆するものである。
【0050】
配合量については、最終的な飼料中におけるPF−S濃度が実施例14で約6%(糖質含量約3.3%)、実施例15で約3%(糖質含量約1.7%)となる。このように非常に少ない量で嗜好性改善効果が得られることが明らかとなった。
【0051】
〔実施例17〕豚嗜好性試験
ほ乳期子豚用飼料に本発明品(HP脱脂大豆に糖質溶液(製品名PF−S、カルピス社製)を30重量%添加して最高品温250℃×最高圧力16kg/cmの条件で加熱加圧混練して得られたもの)を添加した場合の嗜好性を検討した。
【0052】
34日齢のLW・D種子豚8頭(去勢、雌各4頭)の供試豚を、導入後4日間、後述する対照飼料と本発明品10%配合飼料とを等量混合した飼料を給与して予備飼育し、健康状態に異常がないことを確認した。
【0053】
嗜好性試験は、1期を6日間とした3期(計18日間)に分けて実施した。各期とも、供試品無添加の対照飼料(表5に基礎飼料の配合割合、及び表6に成分組成を示す)及び対照飼料中の脱脂粉乳と置換することにより本発明品を配合した試験飼料を調製した。本発明品の配合割合は、1期では10%、2期では20%、そして3期では35%とした。
【0054】
【表5】

【0055】
【表6】

1)1kg中;硝酸チアミン 1g、リボフラビン 7g、塩酸ピリドキシン 0.5g、ニコチン酸アミド 6g、D−パントテン酸カルシウム 10.9g、塩化コリン 57.6g
2)1g中;ビタミンA油 10,000IU、ビタミンD3 2,000IU、酢酸dl−α−トコフェロール 10mg
3)1kg中;Mn 50g、Fe 50g、Cu 10g、Zn 50g、I 1g
4)日本標準飼料成分表(2001年版)による計算値
5)日本飼養標準・豚(2005年版)収載の要求量に対する充足率
【0056】
供試豚を床面給温ウインドレス畜舎内の2基の給餌器を設置したステンレス製ケージ(床面1.2×1.2m、ソフトプラスチック被膜網床)に個体別に収容し、一方の給餌器には対照飼料、他方の給餌器には試験飼料を1日1回、600〜1,200gずつ投入して、各期6日間、自由選択摂取させた。給餌器の位置による影響を取り除くため、投入する飼料の種類を毎日変更し、給与飼料は毎日新しい飼料に更新した。各期間に馴致期間を設けず、照明は各期とも明期15時間とした。飲水は、不断給与した。試験期間中の畜舎内の温度は、最低15℃、最高29℃であった。
【0057】
試験期間中の調査項目は、以下のとおりである。
1)体重
各期の開始日及び終了日(1期の終了日と2期の開始日及び2期の終了日と3期の開始日は同一日)に個体別体重を測定した。
2)飼料摂取量
毎日、一定時刻に残飼を測定し、飼料摂取量を算出するとともに、対照飼料及び試験飼料の摂取比率を算出した。
3)健康状態
毎日の健康状態(一般状態及び下痢の発生状況)を朝、夕の2回、個体別に観察した。なお、下痢の発生状況は、正常、軟便、泥状便及び水寫状便に区分した。
【0058】
各期の対照飼料及び本発明品の摂取比率について、角変換したのち、期毎に、給与飼料及び給餌器の位置を要因とした二元配置法により分散分析し、平均値間の差の有意性を検討した(参考:畜産を中心とする実験計画法、養賢堂)。各期の飼料摂取比率を、表7に示す。
【0059】
【表7】

1)各8頭の6日間の飼料摂取比率の平均値±標準偏差
2)( )内は標準誤差
3)分散分析は片側検定で実施
4)*;有意差あり
5)試験飼料への供試品配合割合;1期 10%、2期 20%、3期 35%

【0060】
いずれの時期においても、本発明品の摂取比率が対照飼料より多くなる傾向を示した。1期及び2期では、有意差が認められた。いずれの時期においても、給与位置、及び給与飼料と給与位置との交互作用には有意差が認められなかった。
【0061】
時期の経過により、本発明品と対照飼料の摂取比率の差が小さくなる傾向が認められ、供試豚の飼料への慣れなどによる影響も懸念されたが、本試験では、期毎に供試品の配合割合を増加させていることから、原因を明確にすることはできなかった。
【0062】
試験期間中の体重の推移及び下痢の発生状況を、表8に示す。
【表8】

注)各期6日間の、1日を2時点(朝、夕)に分けてカウントした延べ時点
【0063】
表8に示すとおり、1期では、1頭を除き、軟便及び泥状便の排泄が観察されたが、試験開始後の日数の経過に伴って下痢の程度が軽減した。3期では、軟便のみが観察され、ほとんどの個体で発生回数も減少した。この他、いずれの個体においても、健康状態には異常が観察されず、健康状態による飼料摂取量への影響はほとんどないものと考えられる。また、3期での試験において、対照飼料の方を多く食べた3個体と本発明品の方を多く食べた5個体で体重の伸びを比較したところ、有意な差は認められず、本発明品は対照飼料と同等の栄養価値を示すものと考えられた。
【0064】
以上のとおり、どの時期の試験飼料も、摂取量が対照飼料より多くなる傾向を示した。特に、1期及び2期では、有意差が認められた。また、いずれの時期においても、飼料の給与位置及び飼料の種類と給与位置の交互作用には、有意差が認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱脂大豆に糖質溶液を糖質含量7〜24重量%となるように添加し、加熱加圧混練処理することにより得られる、抗原性が100U/10mg以下であり、かつ高消化性が中性デタージェント不溶性蛋白として30%以下であることを特徴とする、飼料原料。
【請求項2】
前記糖質溶液が、発酵乳又は発酵乳含有物であることを特徴とする、請求項1に記載の飼料原料。
【請求項3】
脱脂大豆に糖質溶液を糖質含量7〜24重量%となるように添加し、加熱加圧混練処理することを特徴とする飼料原料の製造方法。
【請求項4】
前記糖質溶液が、発酵乳又は発酵乳含有物であることを特徴とする、請求項3に記載の飼料原料の製造方法。
【請求項5】
前記糖質溶液の糖質分が、30〜70重量%であることを特徴とする、請求項3又は4に記載の飼料原料の製造方法。
【請求項6】
請求項1又は2に記載の飼料原料を、該飼料原料由来の糖質含量が0.07〜12重量%となるように配合した飼料。
【請求項7】
脱脂大豆に糖質含量7〜24重量%となるように添加される糖質溶液であって、添加後の加熱加圧混練処理により抗原性が100U/10mg以下となり、かつ高消化性が中性デタージェント不溶性蛋白として30%以下となる飼料原料を製造するための前記糖質溶液。
【請求項8】
前記糖質溶液が、発酵乳又は発酵乳含有物であることを特徴とする、請求項7に記載の糖質溶液。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−244741(P2011−244741A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−121138(P2010−121138)
【出願日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(302042678)株式会社J−オイルミルズ (75)
【出願人】(000104353)カルピス株式会社 (35)
【Fターム(参考)】