説明

低摩擦摺動機構

【課題】潤滑材の介在下で相互摺動する摺動部材の摩擦係数を、従来の摺動部材に較べて、さらに一層低減することができる低摩擦摺動機構を提供する。
【解決手段】含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物の一方又は双方を含む潤滑材の介在下で互いに摺動する摺動部材を備えた摺動機構において、摺動部材における摺動面の少なくとも一部に、フッ素含有量が望ましくは5〜20%のフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車を始めとする各種機械装置における摺動部分に適用される摺動機構に係わり、潤滑材の存在下で、摺動部材間の摩擦係数を大幅に低減することができる低摩擦摺動機構に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車用の内燃機関においては、高回転、高圧縮比、軽量化及び燃費向上が、従来にも増して強く要求されており、摺動部位の低フリクション化や耐摩耗性・耐焼付き性向上などの実現が望まれている。
【0003】
このための一つの方策として、本発明者の一人は、互いに摺動する摺動部材と、これらの間に介在する潤滑材とで構成され、摺動部材の摺動面の少なくとも一部が親水性微粒子を含む樹脂材から成り、潤滑材が有機含酸素化合物や脂肪族アミン化合物から成る摩擦調整剤を含む低摩擦摺動機構を提案した。具体的には、ダイヤモンド粒子、シリカ粒子といった親水性微粒子を含有させたポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂などの樹脂材を摺動面に具備させたものである(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−101189号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、燃費向上につながる低フリクション化技術に対する市場ニーズは、年々高まる一方であり、摺動部位におけるさらなるフリクション低減技術の開発が求められている。
【0006】
本発明は、低フリクション化技術に関する上記課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、上記特許文献1記載の技術をベースに、摺動部材の摩擦係数をさらに一層低減することができる低摩擦摺動機構を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、摺動面を構成する材料や潤滑材組成などについてさらに検討を重ねた結果、フッ素原子を備えたダイヤモンド(フッ素化ダイヤモンド)粒子を含む層を摺動面に形成することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに到った。
【0008】
すなわち、本発明は上記知見に基づくものであって、本発明の低摩擦摺動機構は、潤滑材の介在下で互いに摺動する摺動部材を備えた摺動機構において、上記摺動部材の少なくとも一方の摺動面の一部又は全面にフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を備える一方、上記潤滑材には、含酸素有機化合物及び/又は脂肪族アミン系化合物が含まれていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、含酸素有機化合物や脂肪族アミン系化合物を含有する潤滑材の介在下で、摺動面にフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を備えた摺動部材が互いに摺動するようにしたため、摺動部材の摩擦係数を大幅に低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施例において摩擦特性の評価に用いたシリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験の要領を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の低摩擦摺動機構について、さらに詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、添加量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を意味するものとする。
【0012】
本発明の低摩擦摺動機構は、上記したように、摺動面にフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を形成した摺動部材が、含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物の一方又は双方を含有する潤滑材の介在下で互いに摺動するものである。
ここで、上記したフッ素化ダイヤモンド粒子含有層は、互いに摺動する摺動面の少なくとも一方に備えておれば良く、当該摺動面の全面に形成することも、部分的に形成することも可能である。
【0013】
一方、潤滑材に含まれる含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物は、摩擦調整剤として機能するものであり、これら摩擦調整剤とフッ素化ダイヤモンド粒子を組み合せることによって、フッ素化ダイヤモンド粒子が摩擦調整剤を吸着し、特に境界潤滑領域で優れた潤滑特性を得ることができる。
また、フッ素化ダイヤモンド表面のフッ素同士が反発するため、フリクションを悪化させるような粒子の凝集塊が形成され難いことに加えて、粒子の見掛け表面積が大きくなるため、良好なフリクション低減効果を得ることができる。
【0014】
本発明に用いられるフッ素化ダイヤモンド粒子は、天然ダイヤモンド、人工ダイヤモンドのどちらを出発原料としても構わないが、粒径の安定した微細粒子が得られ、コストが安い人工ダイヤモンドを用いることが望ましい。
【0015】
人工ダイヤモンドの合成については、密閉された高圧容器内での13〜16GPaの高い静圧下、かつ3000〜4000℃の高温でグラファイトをダイヤモンド構造に相転移させる高温高圧法、大気圧近傍でメタンガス等を原料にしてダイヤモンド結晶を基板上で成長させる化学気相成長法(CVD法)、不活性媒体中で酸素欠如型爆薬を爆発させて動的な衝撃を加え、グラファイトをダイヤモンド構造に相転移させる爆発法などが知られている。
これらのうち、爆発法によるダイヤモンドは、ナノオーダーの粒子が凝集した構造体であることからクラスターダイヤモンドとも呼ばれ、安定した微細粒子が得られ、製造コストも安いことから、本発明に用いるフッ素化ダイヤモンドの出発原料として特に好適である。
【0016】
本発明に用いるフッ素化ダイヤモンドを得るに際して、出発原料としてのダイヤモンドの粒径に特別な制限はないが、一次粒子の粒径が3〜20nmのダイヤモンド(一般に「ナノダイヤモンド」と呼ばれている)を原料にすることが特に好ましい。
上記した爆発法ダイヤモンドは、一次粒子の粒径が上記ナノダイヤモンドの値に適合することから、原料として特に好ましい。なお、このような爆発法ダイヤモンドの一次粒子が凝集したクラスターダイヤモンド(凝集体)の粒子径は、50〜7500nm程度である。
【0017】
フッ素化ダイヤモンドは、上記ダイヤモンド粒子(天然ダイヤモンド又は人工ダイヤモンド)とフッ素ガスとの直接反応、あるいはフッ素プラズマによるフッ素化などにより生成する。
一般に、ダイヤモンドのフッ素化反応はダイヤモンド一次粒子の最表面のみで起こり、表面がフッ素原子で覆われたフッ素化ダイヤモンドが生成される。なお、フッ素化反応後のダイヤモンド、すなわちフッ素化ダイヤモンドの粒径は、出発原料のダイヤモンドの一次粒子径にほぼ依存する。
【0018】
このとき、表面すべてにフッ素が付加している場合のフッ素含有量(最大フッ素含有量)は、一次粒子の粒径によって変化する。例えば、一次粒子の粒径がすべて4nmで、ダイヤモンドの結晶構造が、八面体型の単結晶であると仮定した場合、最大フッ素含有量はダイヤモンド粒子の全質量に対して約30%となり、粒径が5nmの場合には、25%と算出される。
【0019】
しかし、フッ素含有量の高いフッ素化ダイヤモンドを得ようとすると、ダイヤモンド粒子の表面や粒子間に未反応のフッ素ガスが多く吸着する傾向があるため、フッ素化ダイヤモンドのフッ素含有量が20%以下となる条件でフッ素化することが好ましい。
一方、フッ素化による分散効果を確実なものとするためには、ダイヤモンド粒子の表面元素のうち、表面元素数の少なくとも20%がフッ素化されていることが望ましく、フッ素化ダイヤモンド粒子のフッ素含有量としては、5%以上であることが好ましい。
【0020】
フッ素化ダイヤモンドのフッ素含有量は、主にフッ素化反応時の反応温度によって制御することが可能である。例えばフッ素ガスとの直接反応の場合、ダイヤモンドは室温からフッ素と反応し、反応温度の上昇と共にフッ素含有量が増大する。
【0021】
したがって、フッ素含有量が上記した5%〜20%であるフッ素化ダイヤモンドを得るためには、100〜500℃の反応温度範囲でフッ素化することが好ましい。また、均一なフッ素化ダイヤモンドを得るためには反応時間を十分に長く設定する必要がある。
なお、必要な反応時間は、原料の純度や反応器の種類、フッ素ガス流量などによっても変化するため、例えば生成したフッ素化ダイヤモンドのフッ素含有量を実際に測定するなどして、最適な反応時間を決定するのが望ましい。
【0022】
本発明において、摺動部材の摺動面にはフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層が形成されることになるが、この層のマトリックス材料としては、特に限定されない。例えば、金属、セラミック、樹脂、ゴムなどを用い、これにフッ素化ナノダイヤモンドを分散させることができるが、これらの中では、樹脂コーティング材料を用いるのが利便性において特に好適である。
【0023】
樹脂コーティング材料としては、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂を問わず使用することができ、具体的には、ポリアミド樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、エポキシ樹脂などを好適に用いることができる。これら樹脂は、耐熱性に優れ、自動車用エンジン部品など厳しい摺動環境下に適用することができる。
【0024】
また、ガラス転移温度が250℃以上と耐熱性が高く、分子鎖中に架橋構造を有するため被膜が強固であり、しかも基材との密着性に優れているという観点からは、ポリアミドイミド樹脂を母材樹脂として含有させることが望ましい。
母材樹脂としてポリアミドイミド樹脂を適用する場合には、乾燥ないし焼成して被膜化する前においてポリアミドイミド樹脂材料は、その数平均分子量が1000〜10000であることが好ましく、2000〜8000であることがより好ましく、4000〜8000であることがさらに好ましい。
【0025】
ここで、数平均分子量が1000未満の場合は、分子鎖の絡み合いが少ないため、樹脂組成物の耐摩耗性が低下する場合がある。一方、数平均分子量が10000を越える場合は、ポリアミドイミド樹脂の母材樹脂としての摩擦係数が高くなり、その結果、樹脂組成物の摩擦係数が高くなることがある。また、樹脂組成物の基材との密着性が低下し、剥離が発生し易くなることがある。
【0026】
上記樹脂材料は、2軸押し出しにより溶融した樹脂材料へ混練したものを用いても、コーティング材に分散させ、膜として金属、あるいは樹脂材料に被覆しても良い。
このとき、フッ素化ダイヤモンド粒子に加えて、PTFE、MoS、黒鉛を適宜配合するとフリクション、耐摩耗性に対してさらに効果的であり、使用される面圧、速度、潤滑状態により配合比率を選択すると良い。
【0027】
なお、上記層中におけるフッ素化ダイヤモンド粒子の含有量としては、質量比で0.1〜10%の範囲とすることが望ましい。すなわち0.1%に満たない場合には、粒子を含有させる効果が十分に得られず、10%を超えると、コーティング膜が脆化しやすくなって剥離しやすくなる傾向があることによる。
また、上記フッ素化ダイヤモンド粒子含有層は、先述したように、必ずしも摺動面の全面に形成しなくてもよいが、摩擦係数の低減効果を確保するためには少なくとも摺動面積の50%以上に形成することが望ましい。
【0028】
本発明における摺動部材の基材、すなわち上記フッ素化ダイヤモンド粒子含有層を形成するための基板材料としては、例えば、浸炭鋼、焼入鋼などの鉄系材料や、銅系材料、亜鉛系材料、アルミニウム系材料などの非鉄金属材料などが使用できる。
【0029】
上記摺動部材の摺動面に介在する潤滑材としては、含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物の少なくとも一方を含有するものが用いられる。
含酸素有機化合物としては、例えば、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基等を有する化合物、エステル結合、エーテル結合を有する化合物等(これらは2種以上の基又は結合を有していてもよい)が挙げられる。このとき、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルボニル基、エステル結合から選ばれる基又は結合を1つ又は2つ以上有することが好ましく、ヒドロキシル基、カルボキシル基、エステル結合から選ばれる基又は結合を1つ又は2つ以上有する含酸素有機化合物であることがより好ましい。
【0030】
これらの中でもより摩擦低減効果に優れることから、水酸基を有するものであることが好ましい。また、水酸基の中でも、カルボキシル基等のカルボニル基に直接結合した水酸基より、アルコール性水酸基の方がより摩擦低減効果に優れていることから好ましい。
さらに、化合物中のこのような水酸基の数については、特に制限はないが、より摩擦低減効果に優れることから、より多くの水酸基を有することが好ましい。しかしながら、後述する潤滑油基油等の媒体などと共に使用する場合には、溶解性の点から水酸基の数は制限を受ける場合がある。
【0031】
なお、上記含酸素有機化合物としての具体例としては、エタノール、プロパノール、オレインアルコール、グリセリン、ジエチルエーテル、オレイン酸、ステアリン酸、ステアリン酸メチル、グリセリンモノオレートなどを挙げることができる。
【0032】
脂肪族アミン系化合物としては、炭素数6〜30 、好ましくは炭素数8〜24、特に好ましくは炭素数10〜20の直鎖状又は分枝状の脂肪族炭化水素基を有するものを挙げることができる。
ここで、炭素数が6〜30の範囲外のときは、摩擦低減効果が十分に得られない可能性がある。なお、当該範囲の直鎖状又は分枝状脂肪族炭化水素基を有していれば、その他の炭化水素基を有していても良いことは当然のことである。
【0033】
なお、上記脂肪族アミン系化合物として、具体的にはラウリルアミン、オレイルアミン、ステアリルアミン、ジオクチルアミン、ジメチルラウリルアミン、ポリオキシエチレンラウリルアミンなどを好適に用いることができる。
【0034】
上記含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物は、フッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を備えた摺動面に、低摩擦剤組成物として単独(すなわち、含酸素有機化合物又は脂肪族アミン系化合物として100%)、または両者の混合状態で使用されることにより極めて優れた低摩擦特性を発揮する。
しかしながら、本発明に用いる潤滑材としては、含酸素有機化合物及び/又は脂肪族アミン系化合物にその他の成分を配合したものを使用し、これを当該摺動面に供給し潤滑させることも可能である。その他の成分としては、潤滑油基油などの媒体、各種添加剤等を挙げることができる。
【0035】
この場合の含酸素有機化合物及び脂肪族アミン系化合物の含有量は、特に制限は無いが、これらの合計量として0.01〜5.0%であることが好ましい。また、0.05〜2.5%の範囲がより好ましくは、0.5〜2.5%の範囲が特に好ましい。
これら摩擦調整剤の増量は、省燃費性向上に効果がある一方、5.0%を超える配合量ではコスト上昇に対して添加効果が低減することから、5.0%以下が現実的である。また、0.01%未満では効果が期待できないため、0.01%以上とすることが好ましい。
【0036】
上述の媒体としては、具体的には、例えば、鉱油、合成油、天然油脂、希釈油、グリース、ワックス、炭素数3〜40の炭化水素、炭化水素系溶剤、炭化水素系以外の有機溶剤、水等、及びこれらの混合物、特にその摺動条件や常温において液状、グリース状、又はワックス状であるものなどが挙げられる。
また、上記媒体としては、特に潤滑油基油を使用することが好ましい。また、かかる潤滑油基油は、特に限定されるものではなく、通常、潤滑油組成物の基油として用いられるものであれば、鉱油系基油、合成系基油を問わず使用することができる。
【0037】
また、添加剤としては、例えば、上記含酸素有機化合物や脂肪族アミン系化合物以外の無灰摩擦調整剤と共に、金属系清浄剤、酸化防止剤、粘度指数向上剤、無灰分散剤、磨耗防止剤、極圧剤、防錆剤、非イオン系界面活性剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等を挙げることができ、これらを単独で又は複数種を組合せて配合し、必要な性能を高めることができる。
【実施例】
【0038】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて、さらに詳細に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されないことは言うまでもない。
【0039】
(シリンダー状試験片の作製)
後述するシリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験において、フッ素化ダイヤモンド粒子含有層を備えたディスク状試験片の相手摺動部材となるシリンダー状試験片を高炭素クロム軸受鋼を用いて作製した。
すなわち、JISG4805に規定されるSUJ2鋼を素材として、径24mm、長さ7.9mmの円筒状に機械加工した後、表面粗さRaを0.04μmに仕上げて、シリンダー状試験片1とした。
【0040】
(潤滑材の調整)
ガソリンエンジンオイル日産SMストロングセーブX(5w−30)をベースとし、これに含酸素有機化合物としてのグリセリンモノオレート及び脂肪族アミン系化合物としてのオレイルアミドの一方と、両方をそれぞれ1%添加し、表1に示すように都合3種類の潤滑油を調整した。
【0041】
【表1】

【0042】
(評価試験方法)
上記によって作製したシリンダー状試験片1と、後述する要領で作製したディスク状試験片2とを図1に示すように組み合わせ、表1に示した潤滑材を滴下した状態でシリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。なお、摩擦試験条件は下記のとおりである。また、摩擦係数については、試験時間20〜30分の間の平均値とした。
試験装置: シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験機
摺動側試験片: φ15×22mmシリンダー状試験片
相手側試験片: φ24×7.9mmディスク状試験片
荷重 : 50N(摺動側試験片の押し付け荷重)
振幅 : 3.0mm
周波数 : 5Hz
試験温度 : 80℃
測定時間 : 30分
【0043】
(実施例1)
〔1〕フッ素化ダイヤモンド粒子の調整
一次粒子径が4〜5nmの爆発法ダイヤモンド粒子(甘粛凌云納米材料有限公司製、ナノダイヤモンド精製粉)20gを、400℃で24時間加熱乾燥した後、ニッケル製の円筒形容器(容積3L)に投入し、フッ素ガスとの直接反応によりフッ素化ナノダイヤモンドを下記の条件の下に作製した。
ガス流量:(フッ素)40ml/min、(アルゴン)360ml/min
反応温度:450℃
反応時間:96時間
得られたフッ素化ダイヤモンドのフッ素含有量は、燃焼法による元素分析によって測定したところ、ダイヤモンド粒子の全質量に対して13%であった。
【0044】
〔2〕樹脂組成物前駆体の準備
N−メチル−2−ピロリドン(NMP)に、上記フッ素化ダイヤモンド粒子(1次粒径平均4〜5nm)を加え、ビーズミルで30分間撹拌した後、イソシアネート法で合成したポリアミドイミド樹脂材料を加え、ポリアミドイミド樹脂に対しフッ素化ダイヤモンド粒子が1%になるように調整し、これを樹脂組成物前駆体とした。
【0045】
〔3〕ディスク状試験片(摺動部材)の作製
T6処理したアルミニウム合金A6061材のディスク(φ24×7.9mm、表面粗さRa0.1μm)を基材とし、アルコール脱脂した後、その表面に上記樹脂組成物前駆体を乾燥状態の膜厚が20±5μmになるようにスプレー塗布した。そして、180℃で60分加熱し、フッ素化ダイヤモンド粒子を含む樹脂組成物の層を形成して、本例に用いるディスク状試験片を得た。
【0046】
そして、表1に示した潤滑材1(グリセリンモノオレート1%含有)と組み合わせて、図1に示した要領でシリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に示す。
【0047】
(実施例2)
上記実施例1と同じディスク状試験片に、表1に示した潤滑材2(オレイルアミド1%含有)と組み合わせて、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に併せて示す。
【0048】
(実施例3)
上記実施例1と同じディスク状試験片に、表1に示した潤滑材3(グリセリンモノオレート1%、オレイルアミド1%含有)と組み合わせて、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に併せて示す。
【0049】
(実施例4)
樹脂組成物前駆体の調整に際して、ポリアミドイミド樹脂に替えてポリイミド樹脂を用いたこと以外、上記実施例と同様の操作を繰り返すことにより作製したディスク状試験片を用い、表1に示した潤滑材1と組み合わせて、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に併せて示す。
【0050】
(実施例5)
フッ素化ダイヤモンド粒子の調整に際して、フッ素化の反応温度を50℃、反応時間50時間と減じたことを除いて、上記実施例と同様の操作を繰り返すことによって、フッ素含有率を4%に調整したフッ素化ダイヤモンドを合成した。
そして、このようにして得られフッ素化ダイヤモンド粒子を用いたこと以外、実施例1と同じ操作によって作製したディスク状試験片を用い、表1に示した潤滑材1と組み合わせて、同様のシリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に併せて示す。
【0051】
(比較例1)
樹脂組成物前駆体の調整に際して、フッ素化ダイヤモンド粒子の代わりに、爆発法で得られたダイヤモンド粒子(平均1次粒径4〜5nm)をそのまま用いたこと以外、上記実施例と同様の操作を繰り返すことによって、当該比較例に用いるディスク状試験片を作製した。そして、表1に示した潤滑材1と組み合わせて、シリンダーオンディスク単体往復動摩擦試験を実施した。その結果を表2に併せて示す。
【0052】
【表2】

【0053】
以上の結果から、所定量のフッ素を含有するフッ素化ダイヤモンド粒子を分散させた樹脂層を摺動面に備えた摺動部材を所定の摩擦調整剤を含有する潤滑材の存在下で摺動させることにより、従来の摺動部材と潤滑材との組み合せよりも優れた低摩擦特性が得られることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
潤滑材の介在下で互いに摺動する摺動部材を備えた摺動機構であって、
上記摺動部材の少なくとも一方の摺動面の一部又は全面にフッ素化ダイヤモンド粒子を含む層を備え、
上記潤滑材は、含酸素有機化合物及び/又は脂肪族アミン系化合物を含有していることを特徴とする低摩擦摺動機構。
【請求項2】
フッ素化ダイヤモンド粒子のフッ素含有量が5〜20%であることを特徴とする請求項1に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項3】
フッ素化ダイヤモンド粒子を含む層が、当該フッ素化ダイヤモンド粒子を含有する樹脂層であることを特徴とする請求項1又は2に記載の低摩擦摺動機構。
【請求項4】
上記有機含酸素化合物がヒドロキシル基及び/又はカルボキシル基を有する化合物、エステル結合又はエーテル結合を有する化合物、オレイル基を有する化合物から成る群より選ばれた少なくとも1種の化合物であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1つの項に記載の低摩擦摺動機構。

【図1】
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【公開番号】特開2012−172125(P2012−172125A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38006(P2011−38006)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000002200)セントラル硝子株式会社 (1,198)
【Fターム(参考)】