説明

作業用手袋とその製造方法

【課題】装着した際の指先に縫い目が触れることによる違和感の発生を無くして作業性を向上し、しかも簡単に縫製できて安価に実施できるようにする。
【解決手段】 メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とをその周縁部で互いに縫い合わせ、指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて指覆い部(6・6a)を形成する。このとき、指腹側部(7)と爪側部(8)とのいずれか一方を第1部材(11)とし、他方を第2部材(12)とする。第1部材(11)の先端に折返し片(15)を延設する。第2部材(12)の先端を、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成する。第2部材(12)の先端と折返し片(15)との縫い目(16)を、指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置に形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、作業用手袋とその製造方法に関し、装着した際の指先に縫い目が触れることによる違和感の発生を無くして作業性を向上し、しかも簡単に縫製できて安価に実施できる作業用手袋とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の作業用手袋には、メリヤス生地からなる原料手袋の表面にゴムや塩ビ等の被膜を形成したものがある(例えば特許文献1参照、以下、従来技術1という。)。上記の原料手袋は、メリヤス生地からなる掌部シートと甲部シートとが、その周縁部で互いに縫い合わせて形成され、その際に、指覆い部は指腹側部と爪側部とを互いに縫い合わせて形成される。上記の縫製により形成された原料手袋は内外を反転して縫い目を内側に入れ、外面にゴムや合成樹脂などの被膜が、ディッピィング等の処理により形成される。
【0003】
上記の従来技術1では、指覆い部の指腹側部と爪側部とがほぼ同じ形状に裁断されており、両者を縫い合わせた縫い目が指覆い部の先端に形成される。このため、この作業用手袋を装着すると敏感な指先や爪先部分に上記の縫い目が当接し、作業時にこの縫い目がゴロゴロと指先や爪先に接触して使い勝手が悪い。特に指先で細かな作業を行う場合には、この縫い目の存在により作業性が低下する虞があった。
【0004】
上記の問題点を解消するため、シームレス手袋を原料手袋とすることが考えられるが、この場合は上記のディッピングの際にゴムや合成樹脂が浸透する問題があるうえ、強度を高めることが容易でなく、使用時の耐久性が不足する等の問題がある。
【0005】
また、上記の縫い目を指先面に形成しないようにするため、指覆い部の指平材と掌部シートと分離した状態で裁断し、指平材は、指平面被覆部と指側面被覆部と指先面被覆部とを一体裁断した縫製手袋がある(特許文献2参照、以下、従来技術2という。)。
この従来技術2では、指平面被覆部と指先面被覆部とが一体に裁断されているため、この間に縫い目が形成されない利点がある。しかしながら、この従来技術2の縫製手袋は、掌部シートと甲部シート以外に、各指の指平材と、各指間のマチ材とが必要であり、部品点数が多いうえ、裁断形状が複雑であり、縫合箇所が多く、立体縫製が要求されることから、安価に実施できない問題がある。しかも、指先面被覆部の先端と指甲材の先端とが縫合されるため、その縫い目が指覆い部の爪側寄りの先端に形成されることから、この従来技術2の縫製手袋においても、装着した際に縫い目が爪先に当接する虞がある。
【0006】
【特許文献1】特開2003−138411号公報
【特許文献2】特開平11−286811号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の技術的課題は、上記の問題点を解消し、装着した際の指先に縫い目が触れることによる違和感の発生を無くして作業性を向上し、しかも簡単に縫製できて安価に実施できる作業用手袋とその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は上記の課題を解決するために、例えば、本発明の実施の形態を示す図1から図5に基づいて説明すると、次のように構成したものである。
即ち本発明1は作業用手袋に関し、メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とをその周縁部で互いに縫い合わせ、指覆い部(6・6a)は指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて形成した作業用手袋であって、上記の指腹側部(7)と爪側部(8)とのいずれか一方である第1部材(11)の先端に折返し片(15)を延設するとともに、他方である第2部材(12)の先端を、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成し、この第2部材(12)の先端と上記の折返し片(15)との縫い目(16)を、指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置に形成したことを特徴とする。
【0009】
また本発明2は作業用手袋の製造方法に関し、メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とを、その周縁部で互いに縫い合わせ、指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて指覆い部(6・6a)を形成する作業用手袋の製造方法であって、上記の指腹側部(7)と爪側部(8)とのいずれか一方である第1部材(11)の先端に折返し片(15)を延設するとともに、他方である第2部材(12)の先端を、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成しておき、上記の折返し片(15)を第1部材(11)の先端で折り返して、この折返し片(15)と上記の第2部材(12)の先端とを指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置で互いに縫い合わせることを特徴とする。
【0010】
上記の折返し片と上記の第2部材の先端とを縫い合わせると、その縫い目は、指覆い部の先端から偏位した位置に形成され、指覆い部の先端には第1部材に折返し片を延設した部位が位置しており、指腹側部と爪側部との縫い目が形成されない。
【0011】
ここで、上記の折返し片に相当する長さ分とは、折返し片や第2部材の先端の縫い代を考慮した寸法をいい、この縫い代を除くと、上記の第2部材は、折返し片の長さだけ短く形成される。
【0012】
上記の折返し片は、指覆い部の長さ以内であればよく、特定の長さに限定されないが、短いほどメリヤス生地原反からの裁断面積が少なく済むので好ましい。ただし、この折返し片を短くし過ぎると、装着した際に指先や爪先が縫い目に当接する虞を生じ易くなるので、通常は各指の第1〜2関節程度の長さに設定される。
【0013】
上記の折返し片は、例えば第1関節以上など適度の長さに形成すると爪側部に形成してもよい。この場合は指腹側部と爪側部との縫い目が指覆い部の指腹側に形成されるが、この縫い目は敏感な指先から離れた位置に形成されるので、指先による細かな作業の際にも違和感などを生じる虞がない。一方、上記の折返し片を指腹側部に延設すると、縫い目が指覆い部の爪側に形成されるので、この縫い目による違和感の発生が確実に防止され、より好ましい。
【0014】
上記の掌部シートと甲部シートとはそれぞれ別体に裁断してもよいが、これらを例えば人差指側の側縁で一体に連設して裁断しておくと、この部分での縫合が省略できるのでより好ましい。
【0015】
上記の縫製により製造した手袋は、例えば内外を反転させた状態でそのまま作業用手袋として用いてもよいが、これを原料手袋として内外を反転させたのち、この原料手袋の外面にゴムや合成樹脂などの被膜を形成してもよく、これによりゴム等の被膜を備えた作業用手袋にすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明は上記のように構成され作用することから、次の効果を奏する。
【0017】
(1) 折返し片と第2部材の先端との縫い目は、指覆い部の先端から偏位した位置に形成されることから、指覆い部の先端には指腹側部と爪側部との縫い目が形成されず、装着した際の指先や爪先に縫い目が当接することがない。この結果、細かな指先の作業にあっても、この縫い目が触れることによる違和感の発生等が防止されるので、作業性を向上することができる。
【0018】
(2) 上記の折返し片を上記の第1部材に延設し、第2部材はこの折返し片に相当する長さ分短くするだけであるので、前記の従来技術2と異なって多くの部品を必要とせず、裁断形状も前記の従来技術1と大差がない簡素な形状であり、簡単に縫製できて安価に実施することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づき説明する。
図1から図5は本発明の実施形態を示し、図1は作業用手袋の一部破断斜視図、図2は原料手袋の展開図、図3は親指用指覆い部の展開図、図4は縫製した状態の親指用指覆い部の一部破断図、図5は甲部シート側から見た原料手袋の一部破断図である。
【0020】
図1に示すように、この作業用手袋(1)は原料手袋(2)の表面にゴム被膜(3)を形成してある。上記の原料手袋(2)は、メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とをその周縁部で互いに縫い合わせてあり、各指覆い部(6・6a)は指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて形成してある。なお、この実施形態では原料手袋(2)の表面にゴム被膜(3)を形成したが、本発明ではこのゴム被膜に代えて合成樹脂被膜を形成してもよく、あるいはこれらの被膜を省略することも可能である。
【0021】
次に、上記の作業用手袋の製造手順について説明する。
最初に、上記の原料手袋はつぎのようにして製造される。
メリヤス生地の原反から、図2に示すように、掌部シート(4)と甲部シート(5)とが各人差指側の側縁(9)を互いに連設した形状に裁断され、掌部シート(4)の取付穴(10)に予め準備された親指用指覆い部(6a)が縫い付けられる。
【0022】
図3に示すように、上記の親指用指覆い部(6a)は、指腹側部(7)である第1部材(11)と爪側部(8)である第2部材(12)とを連設部(13)で互いに連設した親指用シート(14)からなる。上記の第1部材(11)の先端には折返し片(15)が延設してあり、第2部材(12)は、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成してある。
【0023】
上記の親指用指覆い部(6a)は、次のようにして縫製される。
最初に、上記の親指用シート(14)が連設部(13)に沿って2つ折りにされるとともに、上記の折返し片(15)が折り返され、この折返し片(15)の先端と上記の第2部材(12)である爪側部(8)の先端とが互いに縫い合わされる。さらに、この折返し片(15)の両側縁が第1部材(11)である指腹側部(7)の両側縁に縫い合わされ、爪側部(8)の自由端となっている側縁が指腹側部(7)の側縁に縫い合わされて、これにより、図4に示す親指用指覆い部(6a)が形成される。この縫製した状態では、指腹側部(7)に折返し片(15)を延設した部位が指覆い部(6a)の先端に位置しており、折返し片(15)と第2部材(12)である爪側部(8)の先端との縫い目(16)は、親指用指覆い部(6a)の先端から偏位した位置に形成されている。そしてこの親指用覆い部(6a)の裾部(18)が、図2に示すように、上記の掌部シート(4)の取付穴(10)に縫い付けられる。
【0024】
一方、上記の親指用以外の各指覆い部(6)は、図2に示すように、掌部シート(4)に指腹側部(7)が第1部材(11)として連設してあり、甲部シート(5)に爪側部(8)が第2部材(12)として連設してある。上記の各第1部材(11)の先端にはそれぞれ第1関節の長さ程度の折返し片(15)が延設してあり、上記の各第2部材(12)は、対応する折返し片(15)に相当する長さ分だけそれぞれ短く形成してある。
【0025】
上記の掌部シート(4)と甲部シート(5)は、前記の人差指側の側縁(9)に沿って2つ折りにされ、上記の各折返し片(15)が折り返されて、この折返し片(15)の先端がそれぞれ対応する爪側部(8)である第2部材(12)の先端に縫い合わされる。その後、図5に示すように、人差指から小指までの各指の両側部で指腹側部(7)と爪側部(8)が縫い合わされ、さらに、掌部シート(4)と甲部シート(5)とが小指側の側縁(17)に沿って縫い合わされ、これにより原料手袋(2)の縫製が完了する。
この縫製された原料手袋(2)の各指覆い部(6)の先端には、上記の親指用指覆い部(6a)と同様、指腹側部(7)に折返し片(15)を延設した部位が位置しており、折返し片(15)と第2部材(12)である爪側部(8)の先端との縫い目(16)は、指覆い部(6)の先端から偏位した位置に形成されている。
【0026】
次に、上記の原料手袋(2)は、内外を反転されて縫い目が内側に入れられる。その後、所定の手型に装着されてラテックス槽にディッピングされ、乾燥と加熱加硫が施されたのち、上記の手型から外されて、図1に示すように、表面にゴム被膜(3)が形成された作業用手袋(1)にされる。
なお、表面に樹脂被膜を形成する場合は、上記のラテックス槽に代えて樹脂液槽が用いられる。また、被膜の形成方法はディッピングに代えて塗布により行ってもよい。
【0027】
図1に示すように、上記の作業用手袋(1)は、上記の指腹側部(7)に延設した折返し片(15)と上記の爪側部(8)先端との縫い目(16)が、指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置に形成されており、指覆い部(6・6a)の先端には縫い目が形成されていない。従って、この作業用手袋(1)を装着すると、上記の縫い目(16)が指先に当接することがない。
【0028】
なお、上記の実施形態で説明した作業用手袋は、本発明の技術的思想を具体化するために例示したものであり、掌部シートや甲部シートの形状、折返し片の長さ、被膜の形成範囲や材質等は、上記の実施形態のものに限定されず、本発明の特許請求の範囲内において種々の変更を加え得るものである。例えば、爪側部を第1部材とし指腹側部を第2部材としてもよく、掌部シートと甲部シートは分離しておいてもよい。また、上記の実施形態では、全ての指覆い部について第1部材の先端に折返し片を形成したが、本発明では特定の指覆い部のみ、第1部材の先端に折返し片を形成することも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明は、装着した際の指先に縫い目が触れることによる違和感の発生が無く、作業性を向上でき、しかも簡単に縫製できて安価に実施できるので、ゴムや合成樹脂の被膜を備えた作業用手袋に特に好適であり、また、これらの被膜を有しない作業用手袋にも好適に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態を示す、作業用手袋の一部破断斜視図である。
【図2】原料手袋の展開図である。
【図3】親指用指覆い部の展開図である。
【図4】縫製した状態の親指用指覆い部の一部破断図である。
【図5】甲部シート側から見た原料手袋の一部破断図である。
【符号の説明】
【0031】
1…作業用手袋
2…原料手袋
3…被膜(ゴム被膜)
4…掌部シート
5…甲部シート
6…指覆い部
6a…親指用指覆い部
7…指腹側部
8…爪側部
11…第1部材
12…第2部材
15…折返し片
16…第2部材(12)の先端と折返し片(15)との縫い目

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とをその周縁部で互いに縫い合わせ、指覆い部(6・6a)は指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて形成した作業用手袋であって、
上記の指腹側部(7)と爪側部(8)とのいずれか一方である第1部材(11)の先端に折返し片(15)を延設するとともに、他方である第2部材(12)の先端を、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成し、
この第2部材(12)の先端と上記の折返し片(15)との縫い目(16)を、指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置に形成したことを特徴とする、作業用手袋。
【請求項2】
上記の指腹側部(7)を上記の第1部材(11)とした、請求項1に記載の作業用手袋。
【請求項3】
上記の掌部シート(4)と甲部シート(5)とを一体に連設した、請求項1または請求項2に記載の作業用手袋。
【請求項4】
メリヤス生地からなる掌部シート(4)と甲部シート(5)とを、その周縁部で互いに縫い合わせ、指腹側部(7)と爪側部(8)とを互いに縫い合わせて指覆い部(6・6a)を形成する作業用手袋の製造方法であって、
上記の指腹側部(7)と爪側部(8)とのいずれか一方である第1部材(11)の先端に折返し片(15)を延設するとともに、他方である第2部材(12)の先端を、この折返し片(15)に相当する長さ分だけ短く形成しておき、
上記の折返し片(15)を第1部材(11)の先端で折り返して、この折返し片(15)と上記の第2部材(12)の先端とを指覆い部(6・6a)の先端から偏位した位置で互いに縫い合わせることを特徴とする、作業用手袋の製造方法。
【請求項5】
上記の縫製により製造した原料手袋(2)の内外を反転させたのち、この原料手袋(2)の外面にゴムまたは合成樹脂の被膜(3)を形成する、請求項4に記載の作業用手袋の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2006−2318(P2006−2318A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−182713(P2004−182713)
【出願日】平成16年6月21日(2004.6.21)
【出願人】(000101499)アトム株式会社 (8)
【Fターム(参考)】