説明

作業用走行車

【課題】 左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを備える作業用走行車において、構造の簡略化を図ると共に、配線の分散を回避する。
【解決手段】 フロントアクスルケース20の左右両側にキングピンケース26を備えると共に、該キングピンケース26に、前輪2の切れ角に基づいて機体の旋回を検出する旋回検出スイッチ18、19を設けた作業用走行車において、機体の左旋回を検出する左旋回検出スイッチ18と、機体の右旋回を検出する右旋回検出スイッチ19とを設けるにあたり、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を、左右いずれか一方のキングピンケース26に並設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トラクタなどの作業用走行車に関し、特に、左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを備える作業用走行車に関する。
【背景技術】
【0002】
フロントアクスルケースの左右両側にキングピンケースを備えると共に、該キングピンケースに、前輪の切れ角に基づいて機体の旋回を検出する旋回検出スイッチを設けた作業用走行車が知られている(特許文献1、2参照)。例えば、特許文献1、2に記載の作業用走行車は、前輪の駆動速度を増速する前輪増速装置を備えると共に、旋回検出スイッチの旋回検出に応じて前輪増速動作を行うことにより、機体の小回り旋回を可能にしている。
【0003】
また、特許文献1に記載の作業用走行車は、機体の左旋回を検出する左旋回検出スイッチと、機体の右旋回を検出する右旋回検出スイッチとを別個に備えている。このように構成すると、左旋回と右旋回を区別できるので、左旋回時と右旋回時とにおける前輪増速開始タイミングを相違させたり、左旋回時と右旋回時とにおける前輪増速開始タイミングを個別に調整したり、更には、旋回内側の後輪を自動的に制動する自動ブレーキ旋回を行うことが可能になる。
【特許文献1】特公平6−51450号公報
【特許文献2】特開2002−22436号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の作業用走行車では、左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを設けるにあたり、これらの旋回検出スイッチを左右のキングピンケースに振り分け状に配置しているため、左右両側のキングピンケースにおいて構造が複雑になるだけでなく、旋回検出スイッチの配線が左右に分散する不都合がある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記の如き実情に鑑みこれらの課題を解決することを目的として創作されたものであって、フロントアクスルケースの左右両側にキングピンケースを備えると共に、該キングピンケースに、前輪の切れ角に基づいて機体の旋回を検出する旋回検出スイッチを設けた作業用走行車であって、該作業用走行車に、機体の左旋回を検出する左旋回検出スイッチと、機体の右旋回を検出する右旋回検出スイッチとを設けるにあたり、左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを、左右いずれか一方のキングピンケースに並設したことを特徴とする。このように構成すれば、左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを集中的に配置できるので、これらを左右のキングピンケースに振り分け状に配置する場合に比べ、構造の簡略化が図れるだけでなく、配線の分散を回避することができる。
また、前記キングピンケースを、キングピンを収容するメインケースと、前記左旋回検出スイッチ及び前記右旋回検出スイッチを取り付けるサブケースとに分割したことを特徴とする。このように構成すれば、旋回検出スイッチが設けられない側のキングピンケースにおいては、サブケースを省いて部品点数の削減や構造の簡略化が図れる。また、旋回検出スイッチを設けない機種との間でも、キングピンケース(メインケース)を共通化することが可能になる。
また、前記左旋回検出スイッチ及び前記右旋回検出スイッチを、一つのカバーで覆蓋したことを特徴とする。このように構成すれば、各旋回検出スイッチを別々のカバーで覆蓋する場合に比べ、部品点数を削減することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0006】
次に、本発明の実施形態について、図面に基づいて説明する。図1において、1はトラクタ(作業用走行車)の走行機体であって、該走行機体1の前部には、エンジン(図示せず)、前輪2、パワーステアリングシリンダ3などが設けられている。前輪2は、回転自在で、かつ操舵自在に設けられており、パワーステアリングシリンダ3の油圧動作に応じて操舵される。
【0007】
一方、走行機体1の後部には、ミッションケース4、前輪増速装置5、後輪6などが設けられている。ミッションケース4は、エンジン動力を変速して後輪6に伝動すると共に、前輪増速装置5を介して前輪2にも伝動する。各後輪6への伝動経路には、ブレーキ装置7がそれぞれ介設されている。各ブレーキ装置7は、ブレーキロッド8を介して左右のブレーキペダル9にそれぞれ連結され、各ブレーキペダル9の操作に応じて独立的に後輪6を制動する。さらに、各ブレーキロッド8には、ブレーキシリンダ10がそれぞれ連繋されており、これらのブレーキシリンダ10を油圧操作した場合も、各ブレーキ装置7が動作して後輪6が独立的に制動される。
【0008】
さらに、走行機体1は、ステアリングホイール11の操作に応じてパワーステアリングシリンダ3を動作させるパワーステアリングユニット12と、制御部13からの制御信号に応じて前輪増速装置5を動作させる前輪増速用電磁切換バルブ14と、制御部13からの制御信号に応じてブレーキシリンダ10を動作させる自動ブレーキ旋回用電磁切換バルブ15とを備えている。パワーステアリングユニット12及び前輪増速用電磁切換バルブ14には、フローデバイダバルブ16を介して油圧ポンプ17からの作動油が供給され、自動ブレーキ旋回用電磁切換バルブ15には、フローデバイダバルブ16及び前輪増速用電磁切換バルブ14を介して油圧ポンプ17からの作動油が供給される。
【0009】
制御部13には、走行機体1の左旋回を検出する左旋回検出スイッチ18と、走行機体1の右旋回を検出する右旋回検出スイッチ19とが接続されている。左右いずれかの旋回検出スイッチ18、19が旋回を検出すると、制御部13は、前輪増速用電磁切換バルブ14を切換えて、前輪増速装置5を動作させると共に、自動ブレーキ旋回用電磁切換バルブ15を旋回方向と対応する方向に切換えて、旋回内側のブレーキ装置7を動作させる。これにより、旋回時には、前輪2が増速されると共に、旋回内側の後輪6が制動されて、迅速な小回り旋回が可能になる。
【0010】
次に、旋回検出スイッチ18、19の配置構成について、図2〜図7を参照して説明する。これらの図において、20はフロントアクスルケースであって、該フロントアクスルケース20は、左右両端部の前輪車軸21を介して前輪2を支持している。フロントアクスルケース20の略中央部には、ミッションケース4から前輪動力を入力する差動機構22が内装されている。差動機構22は、左右に突出する差動軸23から前輪動力を出力しており、この動力がキングピン24を介して前輪車軸21に伝動される。
【0011】
フロントアクスルケース20は、差動機構22や差動軸23を内装するセンターケース25と、該センターケース25の左右両端部に固定されるキングピンケース26と、該キングピンケース26にキングピン24を中心として回動自在に支持される車軸ケース27と、車軸ケース27に一体的に連結されるナックルアーム28とを備えており、ナックルアーム28に連結される前述のパワーステアリングシリンダ3の油圧動作に応じて、車軸ケース27がキングピン24を中心に回動することで、前輪2が操舵されるようになっている。
【0012】
旋回検出スイッチ18、19は、キングピンケース26に設けられており、キングピンケース26と車軸ケース27の相対的な回動角変化に基づいて走行機体1の旋回検出を行う。本発明は、走行機体1の左旋回を検出する左旋回検出スイッチ18と、走行機体1の右旋回を検出する右旋回検出スイッチ19とを設けるにあたり、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を、左右いずれか一方のキングピンケース26に並設することを特徴としている。このようにすると、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を集中的に配置できるので、これらを左右のキングピンケース26に振り分け状に配置する場合に比べ、構造の簡略化が図れるだけでなく、配線の分散を回避することができる。
【0013】
キングピンケース26は、キングピン24を収容するメインケース29と、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を取り付けるサブケース30とに分割されている。サブケース30は、予め旋回検出スイッチ18、19などが組み付けられて旋回検出アッシー31を構成し、左右いずれか一方のキングピンケース26において、メインケース29の上部に設けられる。また、他方のキングピンケース26においては、旋回検出アッシー31(サブケース30)を設けることなく、メインケース29の上部をシールキャップ32で覆蓋する。このようにすると、旋回検出スイッチ18、19を設けない側のキングピンケース26において、部品点数の削減や構造の簡略化が図れるだけでなく、メインケース29の共通化が図れ、更には、旋回検出スイッチを設けない機種との間でも、キングピンケース26(メインケース29)を共通化することが可能になる。
【0014】
図5〜図7に示すように、旋回検出アッシー31は、円筒形のサブケース30と、サブケース30の外周に貫通状に取付けられる旋回検出スイッチ18、19と、サブケース30に回転自在に内装される旋回検出シャフト33と、旋回検出シャフト33の上部を覆うシャフトカバー34と、旋回検出シャフト33をナックルアーム28に連結する連結ピン35とを備えて構成されており、ナックルアーム28と共に回動する旋回検出シャフト33とサブケース30との間の相対的な回動角変化を旋回検出スイッチ18、19で検出する。尚、メインケース29に対する旋回検出アッシー31の取付方法に制限はない。例えば、サブケース30の下端部をOリング36を介してメインケース29の上端部に嵌合し、この嵌合部同士をネジ37で固定することができる。
【0015】
具体的に説明すると、旋回検出シャフト33の外周には、段付き溝33aが形成されており、この段付き溝33aと対向するように旋回検出スイッチ18、19の先端検出部が配置される。そして、前輪2が所定の切れ角を超えて操舵されると、旋回方向に対応する旋回検出スイッチ18、19の先端検出部が段付き溝33aの段部33bに乗り上げることにより、走行機体1の旋回及びその方向が検出される。本実施形態では、一本の段付き溝33aを左旋回検出及び右旋回検出に兼用している。これにより、旋回検出シャフト33の形状が簡素になるだけでなく、旋回検出スイッチ18、19を同一平面上にコンパクトに配置することが可能になる。尚、段付き溝33aの形成範囲や旋回検出スイッチ18、19の配置に制限はない。例えば、段付き溝33aの形成範囲を120°、検出切れ角を40°とする場合は、旋回検出スイッチ18、19の間に40°相当の間隔を確保すればよい。
【0016】
シャフトカバー34は、旋回検出シャフト33の上部を覆うようにナックルアーム28との間に設けられ、旋回検出シャフト33とサブケース30との間に介装されるオイルシール38を泥などから保護している。旋回検出シャフト33とナックルアーム28の間にシャフトカバー34を介設する場合、旋回検出シャフト33とナックルアーム28の隙間にばらつきがあると、シャフトカバー34にがたつきが生じる不都合がある。そこで、本実施形態では、シャフトカバー34の中央部に切り起しなどによる凸部34aを形成し、この凸部34aを旋回検出シャフト33とナックルアーム28の間で弾圧的に潰すことにより、シャフトカバー34のがたつきを抑制する。これにより、別部材でシャフトカバー34のがたつきを抑える場合に比べ、部品点数を減らすことができる。
【0017】
図3に示すように、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19は、キングピンケース26とシャーシ39との間に配置されるだけでなく、スイッチカバー(カバー)40で覆蓋されることにより、泥や障害物から保護される。本実施形態では、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を一つのスイッチカバー40で覆蓋するので、各旋回検出スイッチ18、19を別々のカバーで覆蓋する場合に比べ、部品点数を削減することができる。尚、スイッチカバー40の形状や素材に制限はない。例えば、旋回検出スイッチ18、19の前後、右側方及び上方を覆う樹脂製のスイッチカバー40とすることができる。
【0018】
叙述の如く構成された本実施形態の走行機体1は、フロントアクスルケース20の左右両側にキングピンケース26を備えると共に、該キングピンケース26に、前輪2の切れ角に基づいて機体の旋回を検出する旋回検出スイッチ18、19を設けた作業用走行車であって、機体の左旋回を検出する左旋回検出スイッチ18と、機体の右旋回を検出する右旋回検出スイッチ19とを設けるにあたり、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を、左右いずれか一方のキングピンケース26に並設したので、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を集中的に配置でき、その結果、これらを左右のキングピンケース26に振り分け状に配置する場合に比べ、構造の簡略化が図れるだけでなく、配線の分散を回避することができる。
【0019】
また、本実施形態では、キングピンケース26を、キングピン24を収容するメインケース29と、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を取り付けるサブケース30とに分割したので、旋回検出スイッチ18、19が設けられない側のキングピンケース26においては、サブケース30を省いて部品点数の削減や構造の簡略化が図れる。また、旋回検出スイッチ18、19を設けない機種との間でも、キングピンケース26(メインケース29)を共通化することが可能になる。
【0020】
また、本実施形態では、左旋回検出スイッチ18及び右旋回検出スイッチ19を、一つのスイッチカバー40で覆蓋したので、各旋回検出スイッチ18、19を別々のカバーで覆蓋する場合に比べ、部品点数を削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】トラクタの全体構成を示すブロック図である。
【図2】前方から見たフロントアクスルケースの全体斜視図である。
【図3】後方から見たフロントアクスルケースの全体斜視図である。
【図4】フロントアクスルケースの縦断面図である。
【図5】旋回検出アッシーの斜視図である。
【図6】旋回検出アッシーの縦断面図である。
【図7】旋回検出アッシーのA−A断面図である。
【符号の説明】
【0022】
1 走行機体
2 前輪
18 左旋回検出スイッチ
19 右旋回検出スイッチ
20 フロントアクスルケース
21 前輪車軸
24 キングピン
25 センターケース
26 キングピンケース
27 車軸ケース
28 ナックルアーム
29 メインケース
30 サブケース
31 旋回検出アッシー
33 旋回検出シャフト
35 連結ピン
40 スイッチカバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントアクスルケースの左右両側にキングピンケースを備えると共に、該キングピンケースに、前輪の切れ角に基づいて機体の旋回を検出する旋回検出スイッチを設けた作業用走行車であって、
該作業用走行車に、機体の左旋回を検出する左旋回検出スイッチと、機体の右旋回を検出する右旋回検出スイッチとを設けるにあたり、左旋回検出スイッチ及び右旋回検出スイッチを、左右いずれか一方のキングピンケースに並設したことを特徴とする作業用走行車。
【請求項2】
前記キングピンケースを、キングピンを収容するメインケースと、前記左旋回検出スイッチ及び前記右旋回検出スイッチを取り付けるサブケースとに分割したことを特徴とする請求項1記載の作業用走行車。
【請求項3】
前記左旋回検出スイッチ及び前記右旋回検出スイッチを、一つのカバーで覆蓋したことを特徴とする請求項1又は2記載の作業用走行車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−213196(P2006−213196A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−28495(P2005−28495)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(000001878)三菱農機株式会社 (1,502)
【Fターム(参考)】