説明

作業車のブレーキ構造

【課題】ブレーキ装置の作業車への搭載の自由度を高めつつ、ブレーキペダルの下方空間を有効に利用して、機体のコンパクト化を図ることができる作業車のブレーキ構造を提供する。
【解決手段】一方側に足踏み部20eを備え他方側に枢支部20aを備えたブレーキペダル20の基端側部分20bを、その長手方向を水平方向に沿わせつつ床部側の部位37に設け、ブレーキペダル20の基端側部分20bの先端部と、当該ブレーキペダル20の下方に設けたブレーキ装置19との間に踏力伝達部材61を配設し、踏力伝達部材61の動作方向を変更する踏力方向変更機構62を、足踏み部20eの位置に対して枢支部20aとは反対側に設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一方側に足踏み部を備え、他方側に枢支部を備えた長尺状のブレーキペダルを、その長手方向を水平方向に沿わせて設けた作業車のブレーキ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の作業車のブレーキ構造では、ブレーキペダルの枢支部から一体回動可能に延出された出力アームと、ブレーキペダルの下方に設けたブレーキ装置の入力アームとに亘ってロッドが介装されるものがあった(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−115740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の作業車のブレーキ構造においては、ブレーキペダルとブレーキ装置とを接続するロッドがブレーキペダルの下方空間に位置することになる。このため、例えば、ブレーキペダルの下方空間にミッションケースを配設する場合において、ブレーキ装置を備えたミッションケースであるときには、ロッドがミッションケースに干渉することを防止するために、ミッションケースの配設位置が制約を受けたり、ミッションケースとブレーキ装置とを別体に構成してあるときには、ロッドがミッションケースに干渉することを防止するために、ブレーキ装置の配設位置が制約を受ける等、ブレーキ装置の作業車への搭載の自由度が狭まるものであった。また、ロッドをかわしつつミッションケースを配設する必要があるため、ブレーキペダルの下方空間にデッドスペースが生じる等、ブレーキペダルの下方空間を有効に利用できないものであった。
【0005】
本発明の目的は、ブレーキ装置の作業車への搭載の自由度を高めつつ、ブレーキペダルの下方空間を有効に利用して、機体のコンパクト化を図ることができる作業車のブレーキ構造を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の作業車のブレーキ構造の第1特徴構成は、一方側に足踏み部を備え他方側に枢支部を備えたブレーキペダルの基端側部分を、その長手方向を水平方向に沿わせつつ床部側の部位に設け、前記ブレーキペダルの基端側部分の先端部と、当該ブレーキペダルの下方に設けたブレーキ装置との間に踏力伝達部材を配設し、前記踏力伝達部材の動作方向を変更する踏力方向変更機構を、前記足踏み部の位置に対して前記枢支部とは反対側に設けた点にある。
【0007】
踏力伝達部材を、ブレーキペダルの基端側部分の先端部とブレーキ装置との間に配設し、踏力方向変更機構を、足踏み部の位置に対して枢支部とは反対側に設ける。これにより、ブレーキペダルの下方空間を開放した状態でブレーキ装置を配設することができる。このため、例えば、ブレーキペダルの下方空間にミッションケースを配設する場合において、ブレーキ装置を備えたミッションケースであるときには、ミッションケースの配設位置が制約を受けなかったり、ミッションケースとブレーキ装置とを別体に構成してあるときには、ブレーキ装置の配設位置が制約を受けない等、ブレーキ装置の作業車への搭載の自由度が高まる。
【0008】
通常、ブレーキペダルの基端側部分の長手方向は機体前方を向いているので、ブレーキペダルの下方空間を開放した状態で機体前方にブレーキ装置を配設することになる。よって、機体前方からのブレーキ装置の調整が容易になり、メンテナンス性が向上する。加えて、ブレーキペダルの下方空間にデッドスペースが生じない等、ブレーキペダルの下方空間を有効に利用して、機体のコンパクト化を図ることができる。
【0009】
本発明の第2特徴構成は、前記踏力伝達部材がケーブルであり、前記踏力方向変更機構が床部側に設けたプーリである点にある。
【0010】
踏力伝達部材として可撓性のあるケーブルを用いることにより、ロッド等に較べて配索経路を選択し易く、機体の一層のコンパクト化を図ることができる。また、踏力方向変更機構として床部側に設けたプーリを用いることにより、プーリにケーブルを巻き掛けるだけの簡単な構成で踏力伝達部材の動作方向を変更することができる。
【0011】
本発明の第3特徴構成は、踏込まれた前記ブレーキペダルに係合して前記ブレーキペダルを踏込状態に維持する保持部材を、前記プーリの支持軸に揺動可能に設けてある点にある。
【0012】
プーリの支持軸を保持部材の揺動軸に兼用することで、ブレーキ構造を簡略化することができる。
【0013】
本発明の第4特徴構成は、前記ブレーキペダルから前記プーリに至る前記ケーブルの配索方向を第1方向とし、前記プーリから前記ブレーキ装置に至る前記ケーブルの配索方向を第2方向とするとき、前記プーリを挟む前記第1方向と前記第2方向とのなす角度が、前記ブレーキペダルの踏込みに応じて減少するように、前記ブレーキペダルと前記プーリと前記ブレーキ装置とを配設してある点にある。
【0014】
ブレーキペダルの踏込みの初期段階では、第1方向と第2方向とのなす角度が大きい。このとき、ブレーキペダルの踏込みに伴って第1方向の角度は比較的大きく変化するものの、ケーブルの引込み量はそれほど大きく変化しない。このため、ブレーキペダルの踏込み量が実際のケーブルの引込み量に寄与する割合は小さい。しかし、ブレーキペダルの踏込みの初期段階を超えると、第1方向と第2方向とが逆方向に近づく。このため、ブレーキペダルの踏込み量がそのままケーブルの引込み量に近くなる。
【0015】
よって、本構成であれば、踏込み初期においてブレーキ操作の効果が緩やかに表れ、踏込みに応じて効きが増大する。このため、踏込み感覚に優れたブレーキ構造を得ることができる。
【0016】
本発明の第5特徴構成は、前記ケーブルの途中に引張ばねを備えると共に、前記ブレーキペダルの胴部に前記プーリからのケーブルの延出方向を変更する当接部を設け、前記胴部に設けた板状部材に、前記ケーブルの端部を係合可能であって前記当接部からの距離が異なる複数の係合孔を有するケーブル張力調節機構を備えた点にある。
【0017】
通常、ブレーキペダルの初期位置は常に一定である。よって、プーリから延出するケーブルをブレーキペダルの胴部に当接させる構成であれば、プーリからブレーキペダルに延出するケーブルの方向が常に一定となる。この状態で、ケーブルの端部を他の係合孔に付け替えて初期のケーブルの張力のみを変更する。つまり、ケーブルの張力を変更した場合に、ブレーキペダルを踏み込む初期加重は若干変化するが、踏込みに応じて重くなる割合は概ね維持される。よって、本構成であれば、ブレーキペダルの踏込感覚を大きく変更することなく、ケーブルの張力を変更することができる。
【0018】
また、ブレーキ取り付け初期にケーブルの長さ自体に誤差がある場合であっても、ケーブルの端部を他の係合孔に付け替えることによって、ケーブルの張力を良好に設定することができる。また、長期間の使用によりケーブルに延びが生じたとしても、ケーブルの端部を当接部からの距離が長い他の係合孔に付け替えることによって、ケーブルの張力を長期間に亘って良好に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】コンバインを示す横側面図である。
【図2】伝動構造を示す概略図である。
【図3】駐車ブレーキがoff状態のときにおけるブレーキ構造を示す縦断面図である。
【図4】駐車ブレーキがon状態のときにおけるブレーキ構造を示す縦断面図である。
【図5】ブレーキ構造を示す正面図である。
【図6】駐車ブレーキがoff状態のときにおけるブレーキ構造を示す縦断面図である。
【図7】第1折曲部の切欠部とブレーキペダルの中間部分との係合が解除された状態におけるブレーキ構造を示す縦断面図である。
【図8】図6のVIII−VIII矢視断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、作業車の一例としての普通型コンバインに本発明に係るブレーキ構造を適用した構成について説明する。
【0021】
(全体構成)
図1に示すように、コンバインは、クローラ走行装置1、そのクローラ走行装置1の上部に設けられた機体フレーム2、その機体フレーム2の前部に設けられた刈取部3等を備えている。機体フレーム2には、作業者が運転する運転部4、刈取穀稈を脱穀および選別する脱穀装置5、その脱穀装置5から排出された穀粒を揚送する揚送スクリューコンベヤ6、その揚送スクリューコンベヤ6から供給される穀粒を貯留するグレンタンク7、そのグレンタンク7から外部に穀粒を排出する排出オーガ8等が装備されている。
【0022】
(伝動構造)
図2は、エンジン11の動力がクローラ走行装置1、刈取部3、脱穀装置5に伝達する伝動構造を示している。
【0023】
具体的には、エンジン11の出力軸11aの動力が、ベルト式伝動機構12を介して脱穀装置5の脱穀駆動軸5aに伝達され、この脱穀駆動軸5aから脱穀装置5における脱穀フィードチェーン(図示しない)や扱胴(図示しない)等の各種装置に伝達される。
【0024】
前記エンジン11の出力軸11aの動力が、ベルト式伝動機構13を介してミッションケース15に備えられた静油圧式無段変速装置14の入力軸14aに伝達され、静油圧式無段変速装置14の出力軸(図示しない)の動力が、中間軸16およびベルト式伝動機構17を介して刈取部3の前処理駆動軸3aに伝達され、この前処理駆動軸3aから刈取部3における引起装置(図示しない)や刈取装置(図示しない)等の各種装置に伝達される。
【0025】
前記中間軸16の動力が、ギヤ式伝動機構(図示しない)を介してミッションケース15の下部に位置する左右の出力軸18に伝達し、左側の出力軸18Lの動力が、左側のクローラ走行装置1Lに、右側の出力軸18Rの動力が、右側のクローラ走行装置1Rにそれぞれ伝達される。
【0026】
前記ミッションケース15には、駐車ブレーキ19(ブレーキ装置の一例)が備えられている。ブレーキペダル20を踏込操作すると、ブレーキペダル20と駐車ブレーキ19とに亘って設けられた踏力伝達機構TKを介して駐車ブレーキ19の操作アーム19aを操作して、左右のクローラ走行装置1L,1Rにブレーキをかけるように構成してある。この踏力伝達機構TKについては後に詳述する。
【0027】
(運転部)
図1,図3〜図7に示すように、前記運転部4は、機体前方に装備されるものであって、床部31と、床部31の上方に装備された運転座席32と、運転座席32の前方に位置する状態で床部31の上面に装備された前部操縦塔33と、運転座席32の左横側方に位置する状態で床部31の上面に装備された側部操縦塔34とを備えている。運転座席32と前部操縦塔33との間には、ブレーキペダル20およびブレーキ操作レバー35が床部31から上方に突出する状態で設けられている。ブレーキペダル20およびブレーキ操作レバー35は、床部31における側部操縦塔34に近い側の部分に、側部操縦塔34の機体外側の壁部に隣接する状態で配備されて、踏力伝達機構TK等を介して正面視で上下向き直線状に駐車ブレーキ19に連係されている。
【0028】
機体フレーム2には、前側の上下向きフレーム36および後側の上下向きフレーム37が立設されている。前側および後側の上下向きフレーム36,37の上部間には、前後向きフレーム38が連結されている。前側の上下向きフレーム36、後側の上下向きフレーム37、前後向きフレーム38によって床部31を支持するとともに、その床部31の下方にミッションケース15等を収容する下部空間が形成されている。
【0029】
(ブレーキペダル)
図3〜図7に示すように、前記ブレーキペダル20は、後側の上下向きフレーム37(床部側の部位の一例)の上部に回動可能に取り付けられた横向きの軸部分20a(枢支部の一例)と、その軸部分20aから前向きに延びる基端側部分20bと、その基端側部分20bの先端部から横向きに延びる中間部分20c(胴部の一例)と、その中間部分20cの先端部から上向きに延びる先端側部分20dと、その先端側部分20dの先端部に固定された足踏み部20eとを備えて、軸部分20a周りに上下方向に揺動可能に構成してある。
【0030】
前記ブレーキペダル20の先端側部分20dおよび足踏み部20eが床部31から上方に突出している。ブレーキペダル20の先端側部分20dには、当接片20fが固定されている。当接片20fが前後向きフレーム38に当接することにより、ブレーキペダル20が所定位置より上方に揺動することを阻止可能に構成してある。
【0031】
(ブレーキ操作レバー)
図3〜図7に示すように、前側の上下向きフレーム36の上部には、横向きの支持軸39が片持ち状態で固定されている。前記ブレーキ操作レバー35は、支持軸39に回動可能に取り付けられた上向きのレバー部分35aと、そのレバー部分35aの先端部に設けられた握り部35bとを備えて、支持軸39周りに前後方向に揺動可能に構成してある。
【0032】
前記ブレーキ操作レバー35のレバー部分35aおよび握り部35cが床部31から上方に突出している。ブレーキ操作レバー35のレバー部分35aには、アーム40(保持部材の一例)が固定されている。アーム40は、平板部40aと、その平板部40aの一端部から後下方に延びる第1折曲部40bと、平板部40aの他端部から後方に延びる第2折曲部40cとを備えている。第1折曲部40bには、ブレーキ操作レバー35のレバー部分35aが固定されている。第1折曲部40bの下方側(先端側)には、ブレーキペダル20の中間部分20cが係合可能な切欠部40dが形成されている。第2折曲部40cには、取付部材41が固定されている。前側の上下向きフレーム36の上部には、取付部材41に形成された略L字状の切欠41aを通りつつ前方に突出するピン42が固定されている。ピン42の先端部には、板状のリング部材43が取り付けられている。リング部材43と取付部材41とに亘って圧縮ばね44が介装されている。
【0033】
(ブレーキペダルの踏込状態を維持する動作)
図3,図6に示すように、圧縮ばね44によって取付部材41およびアーム40が後方に付勢されており、ブレーキ操作レバー35は起立位置(係合位置)P1を維持する。この状態でブレーキペダル20を踏み込むと、図4に示すように、アーム40の切欠部40dがブレーキペダル20の中間部分20cに係合して、ブレーキペダル20は踏込状態を維持する。ブレーキペダル20の踏込みを解除する場合には、圧縮ばね44に抗してブレーキ操作レバー35を後側に操作する。これにより、図7に示すように、第1折曲部40bの切欠部40dとブレーキペダル20の中間部分20cとの係合が解除されて、ブレーキペダル20は元の状態に戻る。このようにして、ブレーキペダル20を所定量踏み込んだときに、ブレーキペダル20の踏込状態を維持するようにしてある。
【0034】
(ミッションケース)
図3〜図5に示すように、前記ミッションケース15は、上部に静油圧式無段変速装置14を備え、下部の横側に駐車ブレーキ19(ブレーキ装置の一例)を備えて構成してある。駐車ブレーキ19の入力軸19bには、操作アーム19aが固定されている。駐車ブレーキ19に立設されたピン19cと操作アーム19aとに亘って、戻しばね45が駐車ブレーキ19の入力軸19bの外側に位置する状態で介装されている。操作アーム19aの先端部には、長尺状の第1金具46が取り付けられている。操作アーム19aの先端部には、ピン47が取り付けられており、第1金具46の基端部には、ピン47が挿入される長穴状のガイド穴46aが形成されている。ミッションケース15には、第2金具48が取り付けられている。第2金具48の折曲部48aには、第1金具46が通る穴48bが形成されている。第2金具48の折曲部48aと第1金具の段部46bとに亘って、圧縮ばね49が第1金具46の外側に位置する状態で介装されている。
【0035】
(踏力伝達機構)
図3〜図8に示すように、ブレーキペダル20の先端部と駐車ブレーキ19とに亘って踏力伝達機構TKが設けられている。踏力伝達機構TKは、ケーブル61(踏力伝達部材の一例)と、ケーブル61を巻き掛けるプーリ62(ローラー)(踏力方向変更機構の一例)と、ケーブル61の一端部が接続される扇状の取付板63(板状部材の一例)と、ケーブル61の他端部と第1金具46とに亘って介装された引張ばね64とを備えている。
【0036】
具体的には、プーリ62は、足踏み部20eの位置に対して軸部分20aとは反対側の床部側に設けてある。プーリ62は、アーム40における第1折曲部40bおよび第2折曲部40cによって挟まれる状態で、支持軸39に遊転可能かつ支持軸39に沿ってスライド移動可能に支持されている。取付板63は、ブレーキペダル20の中間部分20cに取り付けられ、基端側部分20bに沿う方向に延出している。取付板63の径方向外方側の箇所には、周方向に間隔を隔てて複数の係合孔63aが形成されている。ケーブル61の両端部には、それぞれ係合孔61aを有する取付金具61bが固定されている。取付板63の係合孔63aとケーブル61の一端部に固定された一方の取付金具61bの係合孔61aとをピン接続することによって、ケーブル61が取付板63に接続される。引張ばね64のフック部分64aをケーブル61の他端部に固定された他方の取付金具61bの係合孔61aに引っ掛けることによって、ケーブル61が引張ばね64に接続される。ブレーキペダル20の中間部分20cには、ケーブル61がブレーキペダル20の中間部分20cから外れることを防止する外れ止め部材20gが固定されている。
【0037】
これにより、ブレーキペダル20の下方空間を開放した状態で、駐車ブレーキ19および静油圧式無段変速装置14を設けたミッションケース15を配設することができる。ブレーキペダル20の中間部分20cに取り付けられた取付板63から前方に延びるケーブル61は、ブレーキペダル20の中間部分20cの当接部20hによってその延出方向を上方に変更し、プーリ62によってその延出方向を下方に変更して引張ばね64に接続される。
【0038】
ケーブル61における一方の取付金具61bが接続される係合孔63aが上の段になるほど、一方の取付金具61bとブレーキペダル20の中間部分20cの当接部20hとの距離が長くなる。よって、一方の取付金具61bを、より上段の係合孔63aに付け替えれば、ケーブル61の張力を大きくできる。また、一方の取付金具61bを、より下段の係合孔63aに付け替えれば、ケーブル61の張力を小さくできる。よって、一方の取付金具61bを他の係合孔63aに付け替えることにより、ケーブル61の張力を調節するケーブル張力調節機構が構成されている。
【0039】
長期間の使用により、ケーブル61や引張バネ64の伸び、駐車ブレーキ19の制動状態への操作ストロークの変化等が生じると、前述のようにブレーキペダル20をブレーキ操作レバー35により踏込み状態に維持した状態において、適正な駐車ブレーキ19の制動力が得られないことが考えられる。この場合、前述のように取付板63への一方の取付金具61bの付け替えを行い、ブレーキペダル20と駐車ブレーキ19(操作アーム19a)との間隔を調整することにより、ブレーキペダル20をブレーキ操作レバー35により踏込状態で維持した状態において、適正な駐車ブレーキ19の制動力が得られるようにすることができる。
【0040】
(ブレーキペダルを踏み込んだときの駐車ブレーキの動作)
図3,図6に示すように、ブレーキペダル20の踏込みの初期段階では、第1金具46のガイド穴46aの下端部と操作アーム19aのピン19cとの間に、ピン19cの下方への移動を許容する遊び部分が存在する。第1金具46と第2金具48とに亘って設けられた圧縮ばね49が圧縮されていない。ケーブル61と第1金具46とに亘って設けられた引張ばね64が引っ張られていない。よって、この段階では、ブレーキ操作の効果が表れていない。さらに、ブレーキペダル20の中間部分20cの当接部20hからプーリ62に至る第1方向a1と、プーリ62からケーブル61の他端部に至る第2方向b1とのなす角度θ1が大きい。このとき、ブレーキペダル20の踏込みに伴って第1方向a1の角度は比較的大きく変化するものの、ケーブル61の引込み量はそれほど大きく変化しない。
【0041】
しかし、図4に示すように、ブレーキペダル20の踏込みの初期段階を超えると、操作アーム19aのピン19cが第1金具46のガイド穴46aの下端部に当接してピン19cのそれ以上の下方への移動が阻止される。第1金具46と第2金具48とに亘って設けられた圧縮ばね49が圧縮される。ケーブル61と第1金具46とに亘って設けられた引張ばね64が引っ張られる。よって、この段階において、ブレーキ操作の効果が表れてくる。さらに、第1方向a2と第2方向b2とがとのなす角度θ2が0度に近づく。このため、ブレーキペダル20の踏込み量がそのままケーブルの引込み量に近くなる。
【0042】
これにより、踏込み初期においては、ケーブル61の引込み量はそれほど大きく変化しないので、ブレーキ操作の効果が緩やかに表れる一方、ブレーキペダル20の踏込みの初期段階を超えると、ブレーキペダル20の踏込み量がそのままケーブルの引込み量に近くなるので、ブレーキペダル20の踏込みに応じてブレーキ操作の効果が増大する。よって、踏込感覚に優れたブレーキ構造となる。第1方向a2は第2方向b2に近づくのであるが、平行にはならない。これにより、ブレーキペダル20の踏込み量の増大に伴ってブレーキ操作の効果が漸増するブレーキ構造となる。
【0043】
〔別実施形態〕
(1)上記実施形態では、踏力伝達部材がケーブル61である構成を例示した。しかし、踏力伝達部材が例えばリンク等であってもよい。
【0044】
(2)上記実施形態では、踏力方向変更機構がプーリ62である構成を例示したが、プーリ62に代えて、踏力方向変更機構として例えばシーソー機構を採用してもよい。この場合、中央の横軸芯周りに揺動自在な天秤アームを備えて、天秤アームの一端をブレーキペダル20の先端部に接続し、天秤アームの他端を連携ロッド等により駐車ブレーキ19に接続することによって、シーソー機構を構成する。これにより、ブレーキペダル20の踏込み操作によって、天秤アームの一端が下方に変位すると、天秤アームの他方が上方に変位して、駐車ブレーキ19が制動側に操作される。
【0045】
(3)上記実施形態では、ミッションケース15に駐車ブレーキ19を備える構成を例示した。しかし、ミッションケース15と駐車ブレーキ19とを別体に構成してもよい。
【0046】
(4)上記実施形態のように、ブレーキ装置を駐車ブレーキとして機能させる構成に代えて、ブレーキ装置を走行時の制動用のブレーキとして機能させてもよい。例えば、ピン42の先端部と取付部材41との間に設けられた圧縮ばね44を引張ばねに代える。これにより、ブレーキ操作レバー35を操作していないときに、ブレーキ操作レバー35が起立位置P1から後側に傾斜した傾斜位置を維持することになる。このため、ブレーキペダル20を踏込み操作したときに、アーム40の切欠部40dがブレーキペダル20の中間部分20cに係合しないため、ブレーキペダル20がブレーキ操作レバー35により踏込み状態に自動的に保持されない。運転者がブレーキペダル20を踏込み操作した状態でブレーキ操作レバー35を手で前側に操作することにより、アーム40の切欠部40dがブレーキペダル20の中間部分20cに係合することになり、ブレーキペダル20がブレーキ操作レバー35により踏込状態に維持される。このようにして、ブレーキ装置を走行時の制動用のブレーキだけでなく駐車ブレーキとしても機能させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明は、普通型コンバインの他、自脱型コンバインや、にんじん収穫機、乗用型田植機等の他の作業車に適用可能である。
【符号の説明】
【0048】
19 ブレーキ装置(駐車ブレーキ)
20 ブレーキペダル
20a 枢支部
20b 基端側部分
20c 胴部
20e 足踏み部
20h 当接部
37 床部側の部位
39 支持軸
40 保持部材
61 踏力伝達部材、ケーブル
62 踏力方向変更機構、プーリ
63 板状部材
63a 複数の係合孔
64 引張ばね
a1,a2 第1方向
b1,b2 第2方向
θ1,θ2 角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方側に足踏み部を備え他方側に枢支部を備えたブレーキペダルの基端側部分を、その長手方向を水平方向に沿わせつつ床部側の部位に設け、
前記ブレーキペダルの基端側部分の先端部と、当該ブレーキペダルの下方に設けたブレーキ装置との間に踏力伝達部材を配設し、
前記踏力伝達部材の動作方向を変更する踏力方向変更機構を、前記足踏み部の位置に対して前記枢支部とは反対側に設けた作業車のブレーキ構造。
【請求項2】
前記踏力伝達部材がケーブルであり、前記踏力方向変更機構が床部側に設けたプーリである請求項1に記載の作業車のブレーキ構造。
【請求項3】
踏込まれた前記ブレーキペダルに係合して前記ブレーキペダルを踏込状態に維持する保持部材を、前記プーリの支持軸に揺動可能に設けてある請求項2に記載の作業車のブレーキ構造。
【請求項4】
前記ブレーキペダルから前記プーリに至る前記ケーブルの配索方向を第1方向とし、前記プーリから前記ブレーキ装置に至る前記ケーブルの配索方向を第2方向とするとき、前記プーリを挟む前記第1方向と前記第2方向とのなす角度が、前記ブレーキペダルの踏込みに応じて減少するように、前記ブレーキペダルと前記プーリと前記ブレーキ装置とを配設してある請求項2又は3に記載の作業車のブレーキ構造。
【請求項5】
前記ケーブルの途中に引張ばねを備えると共に、
前記ブレーキペダルの胴部に前記プーリからのケーブルの延出方向を変更する当接部を設け、前記胴部に設けた板状部材に、前記ケーブルの端部を係合可能であって前記当接部からの距離が異なる複数の係合孔を有するケーブル張力調節機構を備えた請求項2から4の何れか一項に記載の作業車のブレーキ構造。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2011−178241(P2011−178241A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−43304(P2010−43304)
【出願日】平成22年2月26日(2010.2.26)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【Fターム(参考)】