説明

使用後耐火物利用の不定形耐火物の製造方法

【課題】耐火物のリサイクル化において、多孔質の使用後耐火物原料を効果的に利用し、耐スポーリング性と耐食性を兼ね備えた不定形耐火物を得ること。
【解決手段】使用された耐火物を回収し、破砕し、さらに粒度調整して得た使用後耐火物原料を配合組成の一部に用いる不定形耐火物の製造方法において、選別によって得た、化学成分値でMgO15質量%以下、見掛気孔率が粒度2〜3.35mmの測定において10〜30%で且つ粒度調整後のpH値が7〜9.5の使用後耐火物原料を少なくとも粒度1mm以上の粗粒域に配合する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、使用された耐火物を回収し、粉砕し、粒度調整して耐火物原料の一部に配合する、使用後耐火物利用の不定形耐火物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
製鉄所等における各種の炉、溶融金属容器、溶融金属搬送樋あるいはこの付随設備に用いられる耐火物は、その使用によって残存厚みが小さくなると新しい耐火物との張り替え、あるいは交換を行っている。
【0003】
この張り替えあるいは交換によって発生する使用後耐火物は、従来はその殆どを廃棄処理していた。しかし、廃棄に伴う回収運搬費・廃棄場所不足の問題、さらには資源有効利用の面から、廃棄処理は好ましくない。
【0004】
そこで、使用後の耐火物を回収した後に材質毎の選別を行い、乾燥・粉砕して耐火物原料の一部として使用する、耐火物のリサイクル化が提案されている(特許文献1、2、3)。
【特許文献1】特開平8−188475号公報
【特許文献2】特開2002−206867号公報
【特許文献3】特開2004−161594号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
耐火物のリサイクル化において、使用後の耐火物は、窯炉毎あるいは部位別に解体、そして回収する方法や、それらから地金を除去した後に外観・重さ・形状によって材質毎に分類する方法、更には乾燥・粉砕する工程で色彩選別機や磁力選別機によって分類する方法によって選別されている。しかし、過度な選別は使用後耐火物の利用率が減り、その分、耐火物のリサイクル化の目的が損なわれる。
【0006】
一方、耐火物施工体に求められる特性として、耐食性と耐スポーリング性がある。耐食性には組織の緻密化が必要である。耐スポーリング性は逆に、多孔質のものが優れる傾向にある。そこで、耐火物施工体組織は、緻密化と共に一定の多孔質化が必要である。
【0007】
耐火物施工体への耐スポーリング性の付与には、多孔質耐火性原料を適量使用することが好ましい。しかし、耐火性にも優れる良質の多孔質耐火性原料は人工的なものが多く、コスト面から実用的でない。
【0008】
使用後耐火物には、その種類によっては多孔質のものがある。施工水あるいは結合剤の焼失等が使用後耐火物の多孔質化の原因である。しかも、使用後耐火物は、焼成工程または耐火物使用中の高温雰囲気で焼結が進み、多孔質でありながら一定の耐火度および熱間強度を備えている。そこで、耐火物の製造において、耐スポーリング性付与のために耐火物原料の一部に多孔質の使用後耐火物を用いることが考えられる。
【0009】
しかし、使用後耐火物を用いた耐火物は、地金・スラグからくる酸化鉄やCaOの含有量が多いことで、施工性が不安定となり、均一な施工体組織が保たれず、耐食性に劣ることは否めない。また、耐スポーリング性も期待するだけの効果が得られない。
【0010】
本発明は、耐火物のリサイクル化において、多孔質の使用後耐火物原料を効果的に利用し、耐スポーリング性と耐食性を兼ね備えた不定形耐火物を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の特徴とするところは、使用された耐火物を回収し、破砕し、さらに粒度調整して得た使用後耐火物原料を配合組成の一部に用いる不定形耐火物の製造方法であって、選別によって得た、化学成分値でMgO15質量%以下、見掛気孔率が粒度2〜3.35mmの測定において10〜30%で且つ粒度調整後のpH値が7〜9.5の使用後耐火物原料を少なくとも粒度1mm以上の粗粒域に配合する、使用後耐火物利用の不定形耐火物の製造方法である。
【0012】
使用後耐火物利用の本発明の方法によれば、耐スポーリング性および耐食性において優れた不定形耐火物を得ることができる。その理由は以下のとおりと考えられる。
【0013】
MgOはマグネシア原料の主成分である。マグネシア原料を含む例えばマグネシア−アルミナ質耐火物は、使用中の高温下でマグネシア原料が他の原料成分と反応してスピネル(MgO・Al)等を生成し、MgO成分が安定化する。しかし、MgOの割合が多いと他の原料成分と反応しない遊離のMgOの割合が多くなる。遊離のMgOは施工水との水和によって消化することから、不定形耐火物にこのMgOの割合が多い使用後耐火物を配合すると組織強度の劣化によって耐食性が低下する。
【0014】
使用後耐火物原料は、種々のものがある。本発明はまず、化学成分値でMgOが15質量%以下、さらに好ましくはMgOが10質量%以下の使用後耐火物原料を選択し、使用する。化学成分値でMgOが15質量%以下あるいは10質量%以下の使用後耐火物原料は遊離のMgOの割合が少なく、消化が原因した前記耐食性の低下が改善される。
【0015】
化学成分値でMgOが15質量%以下あるいは10質量%以下の使用後耐火物原料を得るには、化学成分値でMgOがこの範囲内の耐火物を使用した炉、溶融金属容器等から回収した耐火物を使用する。回収後の使用後耐火物は、他種の使用後耐火物が混在している場合が多いので、MgOの割合は不定形耐火物に配合する粒度調整後の段階で確認することが好ましい。
【0016】
使用後耐火物原料には、スラグ、精錬剤等に由来する遊離のCaO成分が付着している。不定形耐火物は施工の際に施工水が添加され、使用後耐火物原料に付着した遊離CaO成分はこの施工水に容易に溶解し、施工水のアルカリイオン濃度が高なることで不定形耐火物組成の微粉部を凝集させる。
【0017】
遊離のCaO成分が原因するこの凝集作用は、見掛け上は顕著なものでは無いが、施工時の不定形耐火物の流動性を低下させ、これが原因して施工体の緻密化が損なわれ、耐食性を低下させる。
【0018】
また、遊離のCaO成分やMgO成分は施工水との反応でCa(OH)とMg(OH)となる。この反応に伴う体積膨張で使用後耐火物原料表面の気孔を閉塞し、原料の気孔内の施工水が封じ込められる。不定形耐火物は施工後、使用前に加熱乾燥されるが、前記気孔内に封じ込められた施工水が加熱乾燥時に水蒸気となる。そして、水蒸気が気孔の閉塞を打ち破り、その際の衝撃で不定形耐火物組織は亀裂損傷を受け、耐スポーリング性および耐食性の低下の原因となる。
【0019】
本発明は、少なくとも粒度1mm以上の粗粒域に粒度2〜3.35mmの測定において見掛気孔率10〜30%の多孔質の使用後耐火物原料を使用し、このような多孔質原料を使用することで耐スポーリング性を付与する。同時に、その使用後耐火物原料が、粒度調整後のpH値7〜9.5のものを用いる。
【0020】
粒度調整後のpH値は、主に使用後耐火物原料の表面に付着した遊離のCaO成分のpH値に関係すると考えられ、粒度調整後の測定におけるpH7〜9.5の中性あるいは低アルカリの使用後耐火物原料を選択して用いることにより、不定形耐火物施工時における施工水のアルカリイオンを低減させ、微粉部の凝集が抑制され、施工時において十分な流動性を示し、緻密な施工体組織を得ることができる。
【0021】
また、この微粉部の凝集の抑制により、気孔内の施工水が封じ込められてもその閉塞は強固なものではなく、水蒸気は容易に逸散する。その結果、不定形耐火物組織を損傷させることもなく、多孔質使用後耐火物原料がもつ耐スポーリング性の効果がいかんなく発揮される。
【0022】
耐火物原料中に含まれるアルカリ成分が耐食性に悪影響を及ぼすことは従来から知れているが、使用後耐火物原料を使用しての不定形耐火物の製造方法において、使用後耐火物原料表面のアルカリ成分が施工体の緻密性、耐スポーリング性の効果に影響することの認識はなされていなかった。
【0023】
このため、従来から使用後耐火物原料を使用した不定形耐火物の製造において、その不定形耐火物の性能向上のために使用後耐火物の付着地金・スラグを取り除くことを行っていたが、使用後耐火物原料の表面にアルカリ成分の付着が多い場合はpH値が本発明の限定範囲より高くなり緻密な施工体組織が得られず、耐食性が低下し、しかも多孔質使用後耐火物原料がもつ耐スポーリング性の効果も発揮されていなかった。
【0024】
本発明で使用する使用後耐火物原料も従来と同様に地金・スラグが付着したものは事前に取り除いておくが、使用後耐火物原料の粒度調整後のpHを測定し、そのpHが7〜9.5のものを使用することで、使用後耐火物の地金・スラグの除去を必要以上に行うことなく、耐スポーリング性、耐食性に優れた不定形耐火物を得ることができる。これにより、無駄のない選択作業が可能となり、耐火物のリサイクル率の向上を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、使用後耐火物を耐火物原料の一部に使用する不定形耐火物の製造方法において、耐スポーリング性と耐食性を兼ね備えた不定形耐火物を得ることができる。また、使用後耐火物のリサイクル率が向上し、資源の有効利用に大きく貢献することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明は、製鉄所等における各種の炉、溶融金属容器、その付随設備等に使用された使用耐火物を不定形耐火物の耐火物原料として使用するものである。その炉、溶融金属容器、その付随設備の具体例は、高炉樋・溶銑鍋・混銑車・転炉・電気炉・真空脱ガス炉・溶鋼取鍋・タンディシュである。これに使用される耐火物の材質は、アルミナ質、アルミナ−シリカ質、アルミナ−マグネシア質、アルミナ−スピネル質、アルミナ−炭化ケイ素質、アルミナ−炭化ケイ素−炭素質、アルミナ−炭素質、アルミナ−マグネシア−炭素質、マグネシア−炭素質等の定形耐火物または不定形耐火物である。
【0027】
使用後耐火物の回収は、後工程で使用後耐火物原料の選別を容易にするため、可能な限り窯炉あるいは部位別に区別して行うことが好ましい。
【0028】
本発明では、不定形耐火物に対する耐スポーリング性付与を目的として、使用後耐火物原料として、見掛気孔率が粒度2〜3.35mmの測定において10〜30%の多孔質品を使用する。前記見掛気孔率が10%未満では不定形耐火物の耐スポーリング性の効果に劣り、30%を超えると耐食性が低下する。
【0029】
耐火物の気孔率は耐火物原料の粒度、耐火物成形時の成形圧、施工水量、結合剤の添加量等が影響する。例えば溶鋼鋳造装置に使用されるスライディング装置に使用される耐火物は一般に緻密質組織であり、気孔率が低いことから本発明で用いる多孔質の耐火物原料に適合しないものが多い。
【0030】
耐火物原料のうち、粒度2mm以下の微粒は見掛気孔率の測定が容易でない。これは、気孔は一定の容積を占めるために、微粒になると気孔が露出することになり、気孔自体が無くなるためである。そこで本発明においては、使用後耐火物原料の見掛気孔率の規定は、2mm以上の粗粒について粒度2〜3.35mmを対象に測定したものとする。この粒度2〜3.35mmは、学振法2のマグネシアクリンカーの見掛気孔率の測定方法に準じたものであり、篩サイズは、例えばJIS標準篩いを使用する。
【0031】
学振法2のマグネシアクリンカーの見掛気孔率の測定方法のとおり、約30gの試料をもって測定する。見掛気孔率が粒度2〜3.35mmの測定において10〜30%の範囲であっても、試料約30gの中には、部分的には気孔率が本発明で限定した範囲より小さいもの、あるいは大きいものが存在することがある。見掛気孔率をより正確に測定するために、試料の採取は、四分法によって行うことが好ましい。
【0032】
不定形耐火物に配合する耐火物原料の粒度は、粗粒、微粒に調整されるが、本発明で規定する使用後耐火物原料のpHは、不定形耐火物に配合する粒度での測定値とする。これは、使用後耐火物原料の比表面積の関係から、アルカリ成分の付着量は微粉の方が多い傾向にあり、一部の粒度のみを測定すると、アルカリ成分が及ぼす作用を正確に把握できないためである。使用後耐火物原料を例えば30gに25℃の蒸留水300mlを加え、5分間攪拌し、24時間経過後、上澄み液をガラス電極pHメーターを用いて測定する。
【0033】
使用後耐火物原料が前記条件の測定においてpHが9.5を超えると、不定形耐火物は組織強度および緻密性が不十分となって耐食性に劣る。pHが7未満では凝集作用が過度に不足するためか、施工後の不定形耐火物の硬化が遅延し、施工作業性に劣る。
【0034】
本発明で規定したpHの使用後耐火物原料を得るには、使用後耐火物を回収する時点、あるいは回収後に選別を行うことでできる。例えば、粉状になった使用後耐火物は精錬剤等との区別が容易でないため回収する時点で除外することが好ましい。使用後耐火物を回収した後、水洗いによってもpHが幾分下がるので、必要により選別に合わせて水洗いを行ってもよい。
【0035】
アルカリ成分の除去には使用後耐火物原料を酢酸等の溶液に浸すことも考えられるが、それに必要な溶液と工数とによって相当なコスト高となり、好ましくない。また、酢酸等の溶液で使用後耐火物原料の表面層に酸成分が浸透し、耐食性低下や作業不良を生じるなどの問題もある。
【0036】
本発明の不定形耐火物は、流し込みあるいは吹付けによって施工される。対象となる材質は、例えばアルミナ−マグネシア質、アルミナ−スピネル質、アルミナ−シリカ質、アルミナ−炭化ケイ素質、アルミナ−炭化ケイ素−炭素質、アルミナ−スピネル−炭化ケイ素−炭素質等である。耐火物原料および結合剤を主材とし、必要によってはこれに分散剤、有機質ファイバー、金属質ファイバー、無機質ファイバー、粗大耐火性粒子、増粘剤、硬化遅延剤、硬化促進剤等の添加剤が添加される。
【0037】
本発明では耐火物原料の一部に見掛気孔率とpHを限定した前記使用後耐火物原料を配合する。ここでの使用後耐火物原料の材質は、不定形耐火物の材質に合わせて適宜決定する。材質を合わせるのは、例えば使用後耐火物原料を配合した不定形耐火物と同一材質の耐火物から得られた使用後耐火物原料を用いるようにしてもよい。例えばアルミナ−マグネシア質を例に挙げれば、アルミナ−マグネシア質耐火物から得た使用後耐火物原料は、アルミナ−マグネシア質不定形耐火物に使用する。
【0038】
不定形耐火物における耐火物原料の粒度は、例えば最大粒度を3〜10mmとし、これ以下の範囲で粗粒、微粒に調整される。本発明は少なくとも粒度1mm以上の粗粒域において本発明で規定した使用後耐火物原料を配合する。粒度1mm未満の粒度だけでの配合では、多孔質耐火原料としての効果が活かされず、本発明の耐スポーリング性の効果が発揮されない。この本発明で規定した使用後耐火物原料の配合量は、耐火物原料全体に占める割合で、粒度1mm以上の粗粒域に10質量%以上とすることで、耐スポーリング性の効果がより顕著なものとなる。
【0039】
1mm未満の微粒域において本発明で規定した使用後耐火物原料を使用する場合、耐火物原料全体に占める割合で、1mm未満の微粒域で例えば30質量%以下とし、1mm以上の粗粒域を合わせた本発明で規定した使用後耐火物原料の合計量が80質量%以下とすることが好ましい。1mm未満の微粒域に多孔質耐火物原料を多く配合すると、マトリックス部の緻密性が低下して耐食性に劣る。
【0040】
1mm未満の微粒域において、例えば粒度30μm以下の仮焼アルミナ、揮発シリカ、カーボンブラック等の超微粒を添加し、施工時の流動性、マトリックス部の緻密性の向上を図ることは従来の不定形耐火物の製造方法と変わりない。
【0041】
なお、本発明でいう例えば粒度1mm以上とは、1mmの篩による篩上である。粒度1mm未満とは、1mmの篩の篩下である。また、例えば5〜1mmのように範囲を定めたものは、上限が5mmの篩の篩下、下限は1mmの篩の篩上である。
【0042】
結合剤については従来の不定形耐火物と特に変わりない。例えば、アルミナセメント、マグネシアセメント、ポルトランドセメント、リン酸塩、珪酸塩等が挙げられる。中でも、施工体の強度付与および耐火性を兼備えたアルミナセメントが好ましい。その添加量は、耐火物原料組成100質量%に対して外掛け1〜20質量%が好ましい。
【0043】
分散剤は不定形耐火物に対する流動性付与の効果を持つ。その具体例は、トリポリリン酸ソーダ、ヘキサメタリン酸ソーダ、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアクリル酸、ポリカルボン酸、ポリカルボン酸ソーダ、リグニンスルホン酸ソーダ、カルボキシル基含有ポリエーテルなどである。好ましい添加量は、耐火物原料組成100質量%に対して外掛け0.01〜1質量%である。
【0044】
有機質ファイバーの具体例としては、ナイロン、ビニロン、PVA、ポリエステル、ポリプロピレン等である。無機質ファイバー材質例としてはアルミナ、シリカ、アルミナ−シリカ、ロックウール等である。また、金属質ファイバーの材質例は、鉄ファイバー、ステンレス鋼ファイバーである。各ファイバーは比重の違いから好ましい添加量も異なる。有機質ファイバー、無機質ファイバーは耐火物原料組成100質量%に対して外掛け1質量%以下とする。金属質ファイバーは、耐火物原料組成100質量%に対して外掛け10質量%以下とする。
【0045】
耐火性粗大粒子としては、アルミナ質、アルミナ−シリカ質あるいはこれらを主材とした使用後耐火物の粉砕品でもよい。その好ましい粒度は10〜40mmである。添加量は不定形耐火物の耐火物原料100質量%に対する外掛けで40質量%以下とする。この耐火性粗大粒子は、流し込み施工される不定形耐火物において添加される。
【0046】
以上の他にも、不定形耐火物の添加物として知られている、例えばピッチ、フェノール樹脂、ホウ酸塩、シリカゾル、アルミナゾル、乳酸アルミニウム、CMC、アルギン酸ナトリウム、粘土、ベントナイト、炭酸カルシウム、硝酸カリウム、消石灰、金属粉等を必要に応じて添加してもよい。
【0047】
施工は、流し込み法あるいは吹付け法とする。流し込み法では以上の配合組成全体に対して施工水を外掛け5〜15質量%添加し、中子等の型枠を使用して流し込む。流し込み時には振動の付与で充填率を向上させる。
【0048】
吹付け法は乾式法と湿式法がある。乾式法では不定形耐火物を材料タンクよりエアー圧送し、圧送管、ノズルまたはノズル手前で加水して吹付ける。
【0049】
湿式法では、予め施工水を添加混練した不定形耐火物を圧送ポンプでノズルに送り、ノズル部で急結剤を添加して吹付ける。急結剤の具体例としては、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化物、アルミン酸ソーダ、アルミン酸カリウム、アルミン酸カルシウム等のアルミン酸アルカリ、珪酸ソーダ、珪酸カリウム、珪酸リチウム等の珪酸アルカリ、燐酸、燐酸塩、硝酸、硝酸塩、塩酸、塩化物等の無機酸塩等である。これら急結剤は、溶液状、懸濁液状または粉末状で使用することができる。
【実施例】
【0050】
以下に本発明の実施例およびその比較例を示す。表1は各例で使用した使用後耐火物原料の化学成分、見掛気孔率およびpHである。
【0051】
使用後耐火物原料は、目視によって地金・スラグの付着あるいは浸透が認められるものを取り除いた後、クラッシャーにて破砕後、磁力選別と、実施に不定形耐火物に配合する粒度に調整を行った。ここで化学成分値は前記粒度調整後の使用後耐火物原料について測定した。
【0052】
見掛気孔率の測定は、実際に不定形耐火物に使用する粒度に調整した後のものから、篩いによってさらに粒度2〜3.35mm調製品を得て、後は学振法2のマグネシアクリンカーの見掛気孔率の測定方法に準じて測定した。
【0053】
pHは、実際に不定形耐火物に使用する粒度に調整した後の使用後耐火物原料を、そのままの粒度で30gに対し25℃の蒸留水300mlを加え、5分間攪拌し、24時間経過後、上澄み液をガラス電極pHメーターを用いて測定した。
【0054】
表2、3は、前記表1に示した品質値の使用後耐火物原料を配合した不定形耐火物組成とその試験結果である。このうち表2はアルミナ−マグネシア質不定形耐火物、表3はアルミナ−シリカ質不定形耐火物を対象としたものである。使用後耐火物原料も不定形耐火物の材質に合わせて表1のアルミナ−マグネシア質あるいはアルミナ−シリカ質を配合した。
【0055】
不定形耐火物の試験はいずれも流し込み施工品とした。表2、表3に示した配合組成に施工水を外掛けで5.5〜9.6質量%添加し、混錬後、振動を付与して流し込み、さらに養生・乾燥して試片を得た。試験方法は以下のとおりである。
【0056】
耐食性の試験では、質量比で鋼片:転炉スラグ(FeO含有量;20%)=50:50を侵食剤とし、各試験片について1600℃×3時間の回転侵食試験を行い、その溶損寸法を測定した。
【0057】
耐スポーリング性の試験は、試片を1400℃に昇温後の電気炉に入れ、30分加熱後に取り出して自然冷却し、この加熱−冷却をくり返し、剥落が発生するまでの回数を求めた。
【0058】
表2記載の実機試験は、230t溶鋼取鍋の湯当り部に施工した結果である。また、表3記載の実機試験は、混銑車の受銑口に流し込み施工した結果である。耐用回数を求めた。
【表1】

【表2】

【表3】

【0059】
本発明の実施例より得られた不定形耐火物は何れも耐スポーリング性に優れ、しかも使用後耐火物原料を使用しているのもかかわらず、耐食性においても優れている。溶鋼取鍋の内張りは、溶鋼の受湯と排出の繰り返しによる熱衝撃で熱スポーリングを生じやすい。本発明により得られる不定形耐火物は、耐食性に加えてその優れた耐スポーリング性により、実機試験結果が示すとおり、溶鋼取鍋の内張りとして、優れた耐用性を発揮する。
【0060】
これに対し比較例1は使用後耐火物原料のpHは本発明で規定した範囲内であるが、気孔率が本発明で規定した範囲より小さいことから耐スポーリング性が不十分であり、結果として実機試験での耐用性に劣る。比較例2はpHが本発明で規定した範囲より高い使用後耐火物原料を用いたものであり、耐スポーリング性、耐食性共に劣る。
【0061】
比較例3は本発明で規定した範囲内のpHの使用後耐火物原料を使用しているが、使用後耐火物原料の気孔率が本発明で規定した範囲より大きいことで、耐食性に大きく劣る。比較例4は化学成分値において、MgOの割合が本発明の範囲内より多い使用後耐火物原料を用いたものであり、耐食性に劣る。比較例5は使用後耐火物原料のpHは本発明で規定した範囲内であるが、粒度1mm以上の粗粒域に使用していないため耐スポーリング性に劣る。
【0062】
また、比較例6はpHが本発明で規定した範囲より低い使用後耐火物原料を用いた例であり、施工後の硬化が遅く、施工作業性に劣る。なお、この比較例6で配合したアルミナ−マグネシア質Hは、アルミナ−マグネシア質Fを、pHを下げるために酸性溶液に浸漬洗浄し、さらに乾燥して得たものである。
【0063】
以上は使用後耐火物原料を使用したアルミナ−マグネシア質不定形耐火物を例に挙げたものであるが、表3の試験結果が示すとおり、使用後耐火物原料の気孔率とpHの限定より得られる本発明の効果は、アルミナ−シリカ質不定形耐火物においても同じである。
【0064】
図1および図2は、使用後耐火物原料を用いたアルミナ−マグネシア質不定形耐火物の製造において、使用後耐火物原料のpHと気孔率が不定形耐火物の耐スポーリング性および耐食性に及ぼす影響を示したグラフである。表2の実施例1に示した不定形耐火物組成をベースとし、使用後耐火物原料のpHを一定にし、気孔率の変化と耐スポーリング性および耐食性の関係を試験した結果である。なお、ここでのpHと気孔率の測定条件は前記実施例・比較例と同じとした。
【0065】
図1において、pHが本発明の範囲である8.4の使用後耐火物原料を用いた不定形耐火物は、使用した使用後耐火物原料の気孔率の増加に伴い耐スポーリング性が向上する。これに対し、pHが本発明の範囲より高い11.0の使用後耐火物原料を用いた不定形耐火物は、気孔率が本発明の範囲内であっても、本発明の範囲であるpHが8.4の使用後耐火物原料を用いた不定形耐火物のような顕著な耐スポーリング性の向上は認められない。このことから、pHが本発明の範囲である使用後耐火物原料を用いた場合に使用後耐火物原料の気孔率が不定形耐火物の耐スポーリング性に大きく影響し、しかもその使用後耐火物原料の気孔率が本発明の範囲内の場合において不定形耐火物は耐スポーリング性に優れた効果を発揮することが確認される。
【0066】
図2においても前記同様に使用後耐火物原料のpHおよび気孔率が本発明の範囲内の場合において不定形耐火物は耐食性に優れた効果を発揮することが確認される。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明より得られる不定形耐火物は、流し込みまたは吹付けによって施工される。以上の実施例は、流し込み施工の例をあげたが、吹付け施工した場合も同様に本発明の効果を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【0068】
【図1】使用後耐火物原料のpHと気孔率が不定形耐火物の耐スポーリング性に及ぼす影響を示したグラフである。
【図2】使用後耐火物原料のpHと気孔率が不定形耐火物の耐食性に及ぼす影響を示したグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用された耐火物を回収し、破砕し、さらに粒度調整して得た使用後耐火物原料を配合組成の一部に用いる不定形耐火物の製造方法であって、選別によって得た、化学成分値でMgO15質量%以下、見掛気孔率が粒度2〜3.35mmの測定において10〜30%で且つ粒度調整後のpH値が7〜9.5の使用後耐火物原料を少なくとも粒度1mm以上の粗粒域に配合する、使用後耐火物利用の不定形耐火物の製造方法。
【請求項2】
耐火物原料配合量全体に占める割合で、粒度1mm以上の粗粒域における前記使用後耐火物原料の割合を10質量%以上とした請求項1記載の使用後耐火物利用の不定形耐火物の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−204316(P2007−204316A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−25033(P2006−25033)
【出願日】平成18年2月1日(2006.2.1)
【出願人】(000170716)黒崎播磨株式会社 (314)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】