説明

傷修正剤、傷修正剤含有液及び傷修正方法

【課題】 自動車の車体などの基体表面に存在する傷を修正して光沢を向上させることができ、臭気が少なく、しかも、水を用いた拭き取りなどで被膜を容易に除去できる傷修正剤、傷修正剤含有液及び傷修正方法を提供する。
【解決手段】 本発明の傷修正剤は、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなる。本発明の傷修正剤含有液は、上述した傷修正剤が水中に含まれる。本発明の傷修正方法は、上述した傷修正剤含有液を基体表面に塗布し、乾燥して被膜を形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基体表面に被膜を形成させることにより、基体表面に存在する傷を修正して光沢を向上させる傷修正剤、傷修正剤含有液及び傷修正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基体表面の塗膜、例えば、自動車の車体などの塗膜は、自然界に存在する埃、塵、カーボン汚染、動物汚染、植物汚染、ブレーキダスト、鉄粉などの汚れ成分が摩擦することなどにより、無数の小さな傷が形成される。更に、これらの汚れ成分が付着すると、酸性雨、紫外線、酸素の作用(化学分解)などによりクレータ状の傷が生じて、自動車の塗膜本来の光沢が低下して、美観を損ねることがある。
【0003】
従来、自動車ディーラーがショールームのような屋内に自動車を展示する場合には、自動車の塗膜の一時的な外観美化及び外観保護を目的にして、カーワックス(傷修正剤)を塗膜に塗布するワックス処理を施すことがあった。ここで、カーワックスは、天然又は合成の蝋類、油脂類、シリコン類、及び石油系有機溶剤などの水不溶性化合物を主成分とし、塗膜上の傷にこれらの成分を充填することにより、一時的に外観を美化するものである(例えば、非特許文献1参照)。また、自動車の塗膜表面の光沢復元や保護に対しては、合成又は天然系ワックスやオルガノポリシロキサン油及び樹脂あるいはフッ素系樹脂などを石油系溶剤に溶解又は混合したつや出し保護剤を塗布することも有効である(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開平9−187725号公報
【非特許文献1】日本オートケミカル工業会編、「オートケミカル」、1991年、p.165〜180
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記カーワックスやつや出し保護剤は、撥水性を持たせるために油溶性であり、油溶性の汚れを引き付けやすく、塗膜外観を悪化させることがあった。また、カーワックスの多くは石油系溶剤固有の臭気を有しているため、ワックス塗布処理を施す際に作業者に不快感を感じさせることがあった。
ところで、近年、自動車ユーザーの好みに応じた自動車の塗膜外観保護を目的とする耐久型の撥水性又は親水性の処理剤が数多く市販されている。これら耐久型の撥水性又は親水性の処理剤の撥水性能又は親水性能を確実に発揮させるためには、自動車の塗膜上の化学成分の除去が必要である。しかしながら、カーワックスは水不溶性の化合物が主成分であるため、水を用いた拭き取りや通常の洗車では充分に除去することができなかった。その結果、カーワックスが表面に残り、耐久型の撥水性又は親水性の処理剤の性能が充分に発揮されないことがあった。
本発明は、自動車の車体などの基体表面に存在する傷を修正して光沢を向上させることができ、臭気が少なく、しかも、水を用いた拭き取りなどで被膜を容易に除去できる傷修正剤、傷修正剤含有液及び傷修正方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の傷修正剤は、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなることを特徴とする。
本発明の傷修正剤においては、水溶性化合物の数平均分子量が500〜50,000であることが好ましい。
本発明の傷修正剤含有液は、上述した傷修正剤が水中に含まれることを特徴とする。
本発明の傷修正剤においては、水溶性化合物の含有量が0.1〜10.0質量%であることが好ましい。
本発明の傷修正方法は、上述した傷修正剤含有液を基体表面に塗布し、乾燥して被膜を形成させることを特徴とする。
本発明の傷修正方法においては、乾燥温度10〜40℃、乾燥時間1時間以内で乾燥することが好ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明の傷修正剤、傷修正剤含有液及び傷修正方法によれば、傷が生じ光沢を失った基体表面であっても光沢を向上させることができる。また、臭気が少ないため、傷修正剤塗布処理を施す際に作業者が不快感を感じにくい。更に、傷修正剤の被膜は、水を用いた拭き取りなどや通常の洗車によって容易に除去できる。しかも、市販のカーワックスのように塗布斑の再修正ができる。
したがって、自動車等の展示物の一時的な傷修正や、光沢の向上に特に有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
(傷修正剤)
本発明の傷修正剤は、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなるものである。
その水溶性化合物としては、例えば、エチレンオキサイド(EO)重合物、エチレンオキサイド・アルキレンオキサイド共重合物、第一級アミン又は第二級アミンのエチレンオキサイド付加物、第一級アミン又は第二級アミンのエチレンオキサイドとアルキレンオキサイドとの付加物、一価アルコール乃至六価アルコールのエチレンオキサイド付加物、一価アルコール乃至六価アルコールのエチレンオキサイドとアルキレンオキサイドとの付加物、脂肪酸のエチレンオキサイド付加物、脂肪酸のエチレンオキサイドとアルキレンオキサイドとの付加物などが挙げられる。ここで、アルキレンオキサイドとしては、例えば、プロピレンオキサイド(PO)、ブチレンオキサイド、テトラヒドロフランなどが挙げられる。これら水溶性化合物のうち、エチレンオキサイド重合物、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合物が、作業性(のび性)の良さから好適に用いられる。
これら水溶性化合物は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
【0008】
なお、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物に対し、分子内にスルホン酸基、硫酸エステル基、カルボキシル基、リン酸エステル基を有するアニオン性水溶性化合物や、第一級アミン塩、第二級アミン塩、第三級アミン塩、第四級アンモニウム塩などのカチオン性水溶性化合物は、基体表面に被膜を形成するものの充分な作業性(のび性)が得られず、塗布斑、白化、被膜の剥がれなどの被膜外観不良が生じるなど、傷の修正力が弱く、実用的でない。
【0009】
水溶性化合物の数平均分子量は特に制限はないが、数平均分子量が500〜50,000であることが好ましく、1,000〜10,000であることがより好ましい。数平均分子量が50,000を超えると、乾燥時に水溶性化合物の流動性が低くなって、乾燥後の塗布斑の修正が難しくなる傾向にあり、また、水による除去の際により多くの労力が必要になる傾向にある。また、数平均分子量が500未満であると、乾燥時に水溶性化合物の粘性が低く、傷修正の時の保持性が低くなる傾向にある。
【0010】
以上説明した傷修正剤にあっては、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物を含有するので、傷の修正が可能である上に、石油系有機溶剤を用いないから、臭気が少ない。また、水溶性であるから、水拭きや通常の洗車により容易に除去できる。
【0011】
(傷修正剤含有液)
本発明の傷修正剤含有液は、上述した傷修正剤が水中に含まれるものである。このように液状にすることで基体表面への塗布が容易になる。
この傷修正剤含有液において、水溶性化合物含有量は0.1〜10.0質量%が好ましく、1.0〜5.0質量%であることがより好ましい。水溶性化合物の含有量が10.0質量%を超えると、傷修正の際に塗布斑や白化などの被膜外観不良が発生したり、塗布時の塗布量が多くなり過ぎて乾燥後の塗布斑の修正が難しくなったり、水による除去の際により多くの労力が必要になったりする傾向にある。また、水溶性化合物の含有量が0.1質量%未満であると、傷修正剤含有液の傷修正力が不足するおそれがある。
【0012】
傷修正剤含有液には、塗布時の触感の向上、乾燥時間の制御、拭き上げる工程での作業感(のび感などの触感。)の向上を目的として、水溶性の有機溶剤など、各種の目的に応じた添加剤を配合することができる。
水溶性の有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール、2−メチル−2,4−ペンタンジオールなどのグリコール類、エチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルなどのグリコールエーテル類などが挙げられる。これらの中で、塗布時の触感向上の観点から、ヘキシレングリコールやイソプロピルアルコールが好適に用いられる。これらの水溶性の有機溶媒は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。
また、添加剤としては、一般的に使用されている濡れ性向上剤、酸化防止、紫外線吸収剤、防腐剤、防かび剤、分散剤、可塑剤、香料などを必要に応じて配合できる。
【0013】
(傷修正方法)
本発明の傷修正方法は、上述した傷修正剤含有液を基体表面に塗布して被膜を形成させる方法である。この方法の中でも、基体表面の汚れを落とす工程と、傷修正剤含有液を基体表面に塗布し、乾燥して被膜を形成する工程と、傷修正剤の被膜を拭き上げる工程とを有することが好ましい。
【0014】
基体表面の汚れを落とす工程では、例えば、市販の洗浄剤(シャンプー)と洗車用のスポンジ等を用い、基体表面を洗浄して汚れ成分を落とす。その際、洗浄剤としては、例えば、高級アルコールのエチレンオキサイド付加物、高級アルコール硫酸エステル塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルジメチルベタインなどの界面活性剤の慣用成分を水に溶解したものを使用できる。また、基体表面に、鉄粉などの金属片や前記洗浄剤では落ちない汚れが付着している場合には、鉄粉除去効果のあるペースト状のクリーナーなどを使用することが好ましい。
このような基体表面の汚れを落とす工程を有していれば、被膜外観不良を防ぐことができる。これに対し、汚れが落ちていない状態で傷修正剤含有液を塗布した場合には、水溶性化合物と汚れ成分とが混じり合い、不均一な状態となり、塗布斑などの被膜外観不良を引き起こしやすくなる。
【0015】
傷修正剤含有液を塗布し、乾燥する工程では、前記工程により汚れ成分が除かれた基体表面に、例えば、布、刷毛、ローラー、スプレー等の塗布器具を用いて、傷修正剤含有液を塗布し、乾燥する。このような工程により、傷修正の効果を容易に且つ確実に得ることができる。前記塗布器具の中では、簡単な手作業でできることから布が好ましい。
また、乾燥の際の乾燥温度は、特別な装置を設置しなくてもよいことから、10〜40℃の自然乾燥が好ましく、乾燥時間は1時間以内が好ましく、30分以内がより好ましい。
乾燥の際の湿度に関しては特に制限されないが、乾燥時間を短縮し、作業効率を向上させるためには、より低湿度であることが好ましい。
【0016】
傷修正剤の被膜を拭き上げる工程では、市販のスポンジや布を用いて傷修正剤の被膜を拭き上げる。拭き上げることにより、傷修正剤の被膜を均一に形成でき、白化や塗布斑などの外観不良を防止して、光沢をより高めることができる。
また、この傷修正剤を拭き上げる工程は、水を充分に揮発させた後に行うと、作業感(のび感等の触感。)がより向上するので好ましい。
【0017】
本発明の傷修正方法では、基体表面の傷に、分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなる傷修正剤を充填することで傷を修復して、光沢を向上させることができる。
また、上記傷修正方法で形成された被膜は、傷修正剤が水溶性化合物からなるため、水を用いた拭き取りで容易に除去できる。水を用いた拭き取りの際に用いる除去器具としては、市販のスポンジや布などが挙げられる。また、水を使った洗車やスプレー噴射器を用いても除去できる。その際、水の温度としては、5〜45℃であることが好ましく、15〜35℃であることがより好ましい。水の温度が5℃未満又は45℃を超えると、作業時に防寒具や保護具が必要となり、作業性が低下する傾向にある。
【0018】
この傷修正方法が施される基体表面としては、例えば、塗装品の塗装表面や樹脂成形品の表面が挙げられる。更に、塗装品としては、具体的には、自動車の車体、自動車用バンパー、自動車用ドアミラー、オートバイなどのような金属又は合成樹脂に塗装が施されたものが挙げられ、樹脂成形品としては、顔料等で着色された樹脂成形品などが挙げられる。
本発明は、塗装品や樹脂成形品の中でも、屋内で保管、展示、使用されるものに対してとりわけ効果を発揮する。また、本発明は、屋外使用において一時的に美観向上を必要とする塗装品の塗装表面や樹脂成形品に対してもとりわけ効果を発揮する。
更に、表面に傷が生じて光沢を失った基体に本発明の傷修正方法を適用してもよいし、傷の少ない新製品の状態の基体に適用してもよい。本発明の傷修正方法を、傷が生じて光沢を失った基体表面に適用した場合には、傷の修正によって修正前以上の光沢が得られ、また、傷の少ない新製品の状態の基体表面に適用した場合には、傷がほとんど修正され、平滑性が向上するため、光沢がより向上する。
【実施例】
【0019】
以下、本発明を実施例により更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
(実施例1)
水溶性のエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドのランダム共重合物(アデカポリエーテルPR−3007、商品名、旭電化工業(株)製)20.0gに、イオン交換水980.0gを添加し、撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は2.0質量%であった。得られた傷修正剤含有液を、不織布(ミラクルクロス、商品名、大和紡績(株)製)に浸して、対象物である後述の自動車の塗膜面及び塗装板の塗膜面に均一に塗布し、25℃で5分間放置し、乾燥して被膜を形成させた後、乾いた不織布(ミラクルクロス、商品名、大和紡績(株)製)で被膜を拭き上げた。
【0020】
(実施例2)
水溶性のエチレンオキサイド重合物A(PEG10000、商品名、三洋化成工業(株))10.0gに、イオン交換水900.0gを添加し撹拌溶解した。その後、2−メチル−2,4−ペンタンジオール90.0gを添加し、撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は1.0質量%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0021】
(実施例3)
水溶性のエチレンオキサイド重合物B(PEG2000、商品名、三洋化成工業(株))40.0gに、イオン交換水940.0gを添加し撹拌溶解した。その後、イソプロピルアルコール20.0gを添加し撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は4.0質量%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0022】
(実施例4)
水溶性のエチレンオキサイド・プロピレンオキサイドのブロック共重合物(アデカプルロニックTR−704、商品名、旭電化工業(株)製)25.0gに、イオン交換水975.0gを添加し、撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は2.5質量%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0023】
(比較例1)
カルナバワックス(カルナバ1号、商品名、日星産業(株)製)20g、シリコーンオイル(シリコーンSH200、500cs、商品名、東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製)50g、石油系溶剤(ミネラルスピリッツ、昭和シェル石油(株)製)250g、乳化剤(アデカポリエーテルPR−3007、商品名、旭電化工業(株)製)20g、ステアリン酸20g及びジエチルアミノエタノール10gを混合均一にした。これにより得られた混合物に、水630gを徐々に添加して乳化分散させたワックス系の傷修正剤を得た。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0024】
(比較例2)
水溶性のポリアクリル酸重合物(セロポールPC−300、商品名、不揮発分約50質量%、三洋化成工業(株)製)30.0gに、イオン交換水960.0gを添加し撹拌溶解した。その後、2−メチル−2,4−ペンタンジオール10.0gを添加し撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は1.5質量%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0025】
(比較例3)
水溶性のカチオン性ポリウレタン樹脂(エバファノールK−11、商品名、不揮発分約15質量%、日華化学(株)製)50.0gに、イオン交換水920.0gを添加し撹拌溶解した。その後、イソプロピルアルコール30.0gを添加し撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は0.75%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0026】
(比較例4)
水溶性のアニオン性ポリウレタン樹脂(エバファノールHA−15、商品名、不揮発分約30質量%、日華化学(株)製)80.0gに、イオン交換水920.0gを添加後、撹拌均一化して傷修正剤含有液を得た。この傷修正剤含有液の不揮発分濃度は2.4%であった。そして、この傷修正剤含有液を用い、実施例1と同様にして、対象物表面に傷修正剤の被膜を形成させた。
【0027】
実施例1〜4、比較例1〜4について以下のように評価した。
(1)乗用車車体による評価
走行距離6,000kmの乗用車(アコード、商品名、本田技研工業(株)製)車体の塗膜を傷修正の対象物とした。なお、塗膜は、あらかじめ市販の洗浄剤(サンレックスK、商品名、日華化学(株)製)で洗浄し、乾燥した。
傷修正力の評価については、傷修正剤処理前後の塗膜外観変化及び光沢変化で評価した。また、水による被膜の除去性については、水処理前後の塗膜外観変化及び光沢変化で評価した。評価方法を以下に示し、得られた結果を表1又は表2に示す。
[a]傷修正剤処理後の塗膜外観
表面外観を下記の基準で目視判定した。
○:未処理面と比較して、汚れの摩擦による傷や酸性雨によるクレータ状の傷がほとんど目立たない。
△:未処理面と比較して、汚れの摩擦による傷や酸性雨によるクレータ状の傷が部分的に残っている。
×:未処理面とほぼ同じ。
[b]傷修正剤処理前後の光沢
グロスチェッカー(IG−320、商品名、(株)堀場製作所製)を用い、傷修正剤処理前後の塗布面の光沢度(測定角度60°)を測定した。
【0028】
[c]水処理後の塗膜外観
傷修正剤で処理した塗布面を水に濡らした布で拭き、その外観を下記の基準で目視判定した。
○:傷修正剤が完全に除去され、未処理面と同等の外観になっている。
△:傷修正剤が部分的にしか除去されず、外観不良が発生している。
×:傷修正剤が全く除去されていない。
[d]水処理後の光沢
グロスチェッカー(IG−320、商品名、(株)堀場製作所製)を用い、水処理後の塗布面の光沢度(測定角度60°)を測定した。
[e]塗布斑の修正性
対象物表面に、傷修正剤を市販の短毛ローラーで乾燥膜厚が約2μmになるように厚く塗布し、拭き上げを行わずに30分間乾燥して、塗布斑及び白化を有する外観不良の被膜を形成させた。この被膜を、乾いた不織布(ミネラルクロス、商品名、大和紡績(株)製)で拭き上げ、被膜の外観の変化を下記の基準で目視判定した。
○:外観不良(塗布斑及び白化)が解消した。
△:外観不良(塗布斑及び白化)が若干緩和された。
×:外観不良(塗布斑及び白化)が解消されなかった。
【0029】
(2)塗装板による評価
試験用のカチオン電着塗装板(JIS G 3141準拠SPCC SD、(株)テストピース製)に、中塗り塗料(HS60、商品名、関西ペイント(株)製)を乾燥膜厚30μmになるようにエアースプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けた。次いで、ブルーパール上塗りベースコート塗料(マジクロンHM32−1、商品名、塗色記号B−96P、関西ペイント(株)製)を乾燥膜厚20μmになるようにエアースプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けた。更に、ブルーパール上塗りトップコート塗料(ルーガーベークHK−4クリアー、商品名、関西ペイント(株)製)を乾燥膜厚30μmになるようにエアースプレー塗装し、140℃で20分間焼き付けし、均一で艶のある塗膜を形成させた。次いで、コンパウンド(細目コンパウンド5967、商品名、スリーエム社製)で小傷を付けた後、コンパウンド成分をn−ヘキサン、アセトンの順で拭き取って、光沢度(測定角60°)が60以下の塗装板を作製した。この塗装板を市販の洗浄剤(サンレックスK、商品名、日華化学(株)製)で洗浄し、乾燥して、傷修正の対象物とした。
そして、上記(1)の[a]〜[e]と同様に評価した。得られた結果を、表1又は表2に示す。
【0030】
【表1】

【0031】
【表2】

【0032】
分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなる傷修正剤を用いた実施例1〜4では、乗用車車体及び塗装板のいずれの対象物においても、傷修正処理前後で、塗膜外観の傷がほとんど目立たなくなり、光沢が向上した。また、傷修正剤の被膜は、水処理により容易に除去できた。更に、塗布斑の修正性にも優れていた。
一方、従来のワックスを用いた比較例1においては、乗用車車体及び塗装板のいずれの対象物においても、傷修正前後で、塗膜外観の傷がほとんど目立たなくなり、光沢も向上したが、その被膜は水により除去できなかった。
また、分子内にオキシエチレン鎖を有さない水溶性化合物からなる傷修正剤を用いた比較例2〜4においては、乗用車車体及び塗装板のいずれの対象物においても、傷の修正が不充分であり、光沢も向上しなかった。更に、塗布斑の修正性が低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分子内にオキシエチレン鎖を有する水溶性化合物からなることを特徴とする傷修正剤。
【請求項2】
水溶性化合物の数平均分子量が500〜50,000であることを特徴とする請求項1に記載の傷修正剤。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の傷修正剤が水中に含まれることを特徴とする傷修正剤含有液。
【請求項4】
水溶性化合物の含有量が0.1〜10.0質量%であることを特徴とする請求項3に記載の傷修正剤含有液。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の傷修正剤含有液を基体表面に塗布し、乾燥して被膜を形成させることを特徴とする傷修正方法。
【請求項6】
乾燥温度10〜40℃、乾燥時間1時間以内で乾燥することを特徴とする請求項5に記載の傷修正方法。



【公開番号】特開2006−37018(P2006−37018A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−222103(P2004−222103)
【出願日】平成16年7月29日(2004.7.29)
【出願人】(000226161)日華化学株式会社 (208)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】