説明

充填装置及び充填工法、並びに板材挿入工法、エレメント挿入工法

【課題】充填距離が長い場合であっても、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、正確に圧力管理して硬化型の充填材で充填する充填装置及び充填工法、並びに当該充填工法を用いた板材挿入工法、及びエレメント挿入工法を提供する。
【解決手段】地山400において略水平方向に長いフランジ板152と半割ガイドパイプ41で囲まれた空間を、硬化型の充填材91で充填する充填工法であって、充填材91の注入を許容する注入袋90を、半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って配置するとともに、注入袋90と、管内面41aとの間において半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って、注入袋90及び管内面41aの間の圧力を長手方向Xに伝達する圧力管理ホース81を配置し、圧力管理ホース81による圧力によって圧力管理しながら、注入袋90の到達立坑側から発進立坑側に向かって順次、充填材91を注入した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
例えば、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、硬化型の充填材で充填する充填装置及び充填工法、並びに当該充填工法を用いた板材挿入工法、及びエレメント挿入工法に関する。
【背景技術】
【0002】
地中に空洞が存在する場合、空洞をそのまま放置しておくと、周辺の地山が緩み、地表面が沈下するおそれがある。そのため、従来から、硬化型の充填材を空洞に充填する方法が多く提案されている。例えば、特許文献1で提案された充填方法は、地山を削孔した削孔内にロックボルトと袋体とを挿入し、袋体内に定着材を注入してロックボルトを定着させるとともに、空洞を充填する方法である。
【0003】
このような充填方法において、上記特許文献1でも開示されているように、注入圧力による地表面の隆起等の影響を考慮し、充填装置における充填材の吐出圧力と充填量によって充填管理することが多い。
【0004】
しかしながら、空洞の延長距離が長かったり、充填装置から充填箇所までの距離が遠いなどの充填距離が長い場合では、充填材を送り出す送出管の管内抵抗による圧力損失が大きくなるため、充填箇所における注入圧力を正確に圧力管理して充填することは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−161457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
そこで、この発明は、充填距離が長い場合であっても、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、正確に圧力管理して硬化型の充填材で充填する充填装置及び充填工法、並びに当該充填工法を用いた板材挿入工法、及びエレメント挿入工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明は、地中において略水平方向に長い空洞を、硬化型の充填材で充填する充填工法であって、前記充填材の注入を許容する注入袋を、前記空洞の長手方向に沿って配置するとともに、前記注入袋と、前記空洞を形成する空洞壁との間において、前記空洞の長手方向に沿って、前記注入袋及び前記空洞壁の間の圧力を少なくとも前記長手方向に伝達する圧力伝達手段を配置し、該圧力伝達手段による圧力によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を注入することを特徴とする。
【0008】
上記略水平方向は、充填材のスランプ値やフロー値等の流動性に応じ、注入された硬化前の充填材が流れ落ちない程度の傾斜角度を含む概念とする。
上記硬化型の充填材は、いわゆる裏込材と呼ばれるグラウト材等とし、硬化前には注入可能な流動性を有するとともに、硬化後に所定の強度を有する、例えば、セメント系あるいは樹脂系のグラウト材とすることができる。
【0009】
上記空洞は、地中に挿入されたガイドパイプ内部、地中を削孔した削孔内部、あるいは、地下水等によって洗い流されて地中に形成された空洞等とすることができる。
上述の圧力を少なくとも前記長手方向に伝達する圧力伝達手段は、圧力による体積変化が少なく、自身の内部応力伝達によって圧力伝達する液体やジェル状体等の流動体を封入した圧力伝達手段、又は、長手方向に複数配置した圧力センサからの検出結果を伝達する圧力伝達手段とすることができる。
【0010】
この発明により、充填距離が長い場合であっても、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、正確に圧力管理して硬化型の充填材で充填することができる。
詳しくは、空洞の長手方向に沿って配置された注入袋と、前記空洞を形成する空洞壁との間において、前記空洞の長手方向に沿って、前記注入袋及び前記空洞壁の間の圧力を少なくとも前記長手方向に伝達する圧力伝達手段を配置したため、注入された充填材が注入袋を介して空洞壁を押圧する実際の圧力が圧力伝達手段によって伝達される。
【0011】
よって、圧力伝達手段による圧力によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を注入することにより、充填材を送り出す送出管の管内抵抗による圧力損失が影響する充填距離を問わず、正確な圧力管理に基づいて充填材を空洞に充填することができる。したがって、圧力不足による充填材の未充填や、圧力過多による地表面の隆起等のおそれがなく、安全に空洞を充填することができる。
【0012】
この発明の態様として、前記圧力伝達手段を、流動体と、該流動体の封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状の封入ホースとで構成し、該封入ホースの基端側に、前記流動体の圧力を検出する圧力検出手段を備えることができる。
【0013】
上記流動体は、水等の液体や、空気等の気体、あるいはゲル状体とすることができるが、圧力による体積変化の少ない流動体が好ましく、さらには、温度による体積変化の少ない流動体がより好ましい。なお、水は、圧力や常温域における温度による体積変化が少なく、安価且つ安全であり、圧力伝達手段における流動体として適している。
【0014】
上記可撓性を有する長尺状の封入ホースは、管理圧力以下の力で変形するとともに、内部の流動体が漏出しないように封入可能な素材で構成された、例えば、サニーホース等のホースとすることができる。
【0015】
この発明により、より簡単な構造で、正確に圧力管理しながら、充填材を空洞に充填することができる。詳しくは、圧力伝達手段を、流動体と、該流動体の封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状の封入ホースとで構成することにより、例えば、圧力センサを用いた圧力伝達手段に比べて構造が簡単であるため、故障のおそれや配置する手間が少ない。したがって、正確に圧力管理しながら、充填材を空洞に充填することができる。
【0016】
なお、流動体と、該流動体の封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状の封入ホースとで構成した圧力伝達手段を、地中において略水平方向に長い空洞を配置するため、例えば、鉛直方向や傾斜方向の空洞に配置した場合に作用する水圧の影響が小さく、正確な圧力管理を行うことができる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記注入袋に注入した前記充填材の硬化後、前記流動体と前記充填材を置換することができる。
上述の流動体と充填材を置換するということは、流動体及び封入ホースを撤去した後の空隙への充填材の注入、又は封入ホース内部への充填材の注入とすることができる。なお、流体体と置換する充填材と、注入袋に注入する充填材とは同じ充填材であってもよく、また、所望の性状を有する異なる充填材であってもよい。
【0018】
この発明により、より確実に空洞を充填材で充填することができる。詳しくは、注入袋に充填材を注入しても、封入ホース及び流動体で構成する圧力伝達手段分の空隙が空洞に残ることとなる。この空隙部分を充填材で充填することにより、空洞内部における充填材による充填率を向上させ、より確実に充填することができる。
【0019】
なお、封入ホース及び流動体で構成する圧力伝達手段と空洞壁との接触面積が、充填材が注入された注入袋と空洞壁との接触面積より小さい場合、注入された充填材が注入袋を介して空洞壁に及ぼす圧力に比べて、圧力伝達手段分の空隙に注入された充填材が空洞壁に及ぼす圧力の方が小さいため、圧力過多による地表面の隆起等のおそれがなく、安全に空洞を充填することができる。
【0020】
またこの発明は、2本の埋設管の間の地山を、前記埋設管のそれぞれを通るワイヤーソーで、前記埋設管の対向部分とともに切断するとともに、前記埋設管の長手方向に進行し、該ワイヤーソーで切断した切断箇所に板材を挿入する板材挿入工法において、該ワイヤーソーで切断した切断箇所に板材を挿入したのち、挿入した前記板材と前記埋設管とで囲まれた空間を、前記略水平方向に長い空洞として、上述の充填工法により前記充填材で充填することを特徴とする。
上記埋設管は、円形、楕円形、略矩形等様々な断面形状の管を含むとともに、ワイヤーソーで切断可能な素材で構成された管とすることができる。
【0021】
この発明により、2本の前記円形埋設管の間の地山を、ワイヤーソーで切断し、ワイヤーソーで切断した切断箇所に板材を効率よく挿入するとともに、挿入した前記板材と埋設管とで囲まれた空間を、上述の充填工法により、充填距離の影響を受けずに、安全に充填材で充填することができる。
【0022】
さらにまた、この発明は、上部に天板を有する閉断面形状のエレメントを地山に挿入し、エレメント内部を掘削するエレメント挿入工法であって、前記エレメントを前記長手方向に交差する方向に連結する、前記長手方向の継手手段を備えるとともに、該継手手段を連結可能に前記埋設管内部に配置し、前記天板を、前記エレメント挿入方向前端より前方に突出する構成とするとともに、前記天板を、上述の板材挿入工法における前記板材とし、前記注入袋に注入した充填材の硬化後、連結状態の前記継手手段の内部にグラウト材を注入することを特徴とする。
【0023】
上記閉断面形状のエレメントは、矩形断面、台形断面などの様々な断面形状を含むものとする。
上記エレメント挿入方向前端より前方に突出する構成の天板は、エレメントの挿入方向前端のみならず、エレメントの挿入方向前側に装着した刃口の挿入方向前端を含むものとする。
【0024】
この発明により、例えば、線路直下において、エレメントを挿入する際に、エレメント挿入方向前端より前方に突出する天板を、ワイヤーソーで切断された地山の切断箇所にあらかじめ挿入できるため、エレメント挿入のための掘削等による地山の応力解放による影響が直上の線路等の上部構造に及ぶことなく、エレメントを挿入することができる。また、挿入した前記天板と地山側に残る埋設管とで囲まれた空間を、上述の充填工法により、充填距離の影響を受けずに、安全に充填材で充填することができる。
【0025】
また、前記注入袋に注入した充填材の硬化後、連結状態の前記継手手段の内部にグラウト材を注入するため、挿入した前記天板と地山側に残る埋設管とで囲まれた空間に、連結状態の前記継手手段の内部に注入するグラウト材が漏出することなく、確実にグラウト注入することができる。したがって、前記エレメントに作用する力を、前記長手方向に交差する方向に連結されたエレメントに対して、確実に継手手段で伝達することができる。
【0026】
さらにまたこの発明は、地中における略水平方向に長い空洞に、硬化型の充填材を充填する充填装置であって、前記空洞の長手方向に沿って配置され、前記充填材の注入を許容する注入袋と、前記空洞を形成する空洞壁及び前記注入袋の間において前記空洞の長手方向に沿って配置されるとともに、流動体の封入を許容し、可撓性を有する長尺状の封入ホースと、該封入ホースの基端側に備え、前記流動体の圧力を検出する圧力検出手段と、該圧力検出手段によって検出された圧力によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を注入する充填材注入手段とを備えたことを特徴とする。
【0027】
この発明により、充填距離が長い場合であっても、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、正確に圧力管理して硬化型の充填材で充填することができる。
詳しくは、前記空洞の長手方向に沿って配置され、前記充填材の注入を許容する注入袋と、前記空洞を形成する空洞壁及び前記注入袋の間において前記空洞の長手方向に沿って配置されるとともに、流動体の封入を許容し、可撓性を有する長尺状の封入ホースとを備えたことにより、注入袋を介して注入された充填材が空洞壁を押圧する実際の圧力が圧力伝達手段によって伝達される。
【0028】
よって、封入ホースの基端側に備え、前記流動体の圧力を検出する圧力検出手段によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を充填材注入手段で注入することにより、充填材を送り出す送出管の管内抵抗による圧力損失が影響する充填距離を問わず、正確な圧力管理に基づいて充填材を空洞に充填することができる。したがって、圧力不足による充填材の未充填や、圧力過多による地表面の隆起等のおそれがなく、安全に空洞を充填することができる。
【発明の効果】
【0029】
この発明によれば、充填距離が長い場合であっても、地中において略水平方向に形成された長い空洞を、正確に圧力管理して硬化型の充填材で充填する充填装置及び充填工法、並びに当該充填工法を用いた板材挿入工法、及びエレメント挿入工法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】軌道下に構築する地下横断構造物の概略斜視図。
【図2】同状態の概略正面図。
【図3】同状態の概略縦断面図。
【図4】断面円形ガイドパイプについての説明図。
【図5】ガイドパイプ充填工法のフローチャート。
【図6】ガイドパイプ充填装置の概略構成図。
【図7】断面円形ガイドパイプについての説明図。
【図8】断面円形ガイドパイプについての説明図。
【図9】刃口についての概略説明図。
【図10】軌道下に地下横断構造物を構築する前の概略正面図。
【図11】別の実施形態の刃口についての概略説明図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
この発明の一実施形態を以下図面とともに説明する。
この発明は、図4(b)に示すように、地山400において略水平方向に長い半割空洞Hを、硬化型の充填材91で充填する充填工法であって、充填材91の注入を許容する注入袋90を、半割空洞Hの長手方向Xに沿って配置するとともに、注入袋90と、半割空洞Hを形成する管内面41aとの間において、半割空洞Hの長手方向Xに沿って、注入袋90及び管内面41aの間の圧力を長手方向Xに伝達する圧力管理ホース81を配置し、圧力管理ホース81による圧力によって圧力管理しながら、注入袋90の到達立坑420b側から発進立坑420a側に向かって順次、充填材91を注入する工法である。さらに、圧力管理ホース81を、水81aと、水81aの封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状のホース体81bとで構成し、ホース体81bの発進立坑420a側に、水81aの圧力を検出する水圧計82を備え、注入袋90に注入した充填材91の硬化後、圧力管理ホース81分の未充填空間Rを充填材91で充填する工法であり、ガイドパイプ充填装置80を用いて行われる。
【0032】
以下において、このような充填工法を用いるとともに、軌道200の下方に角型鋼製エレメント150を挿入して地下横断構造物300を構築するエレメント挿入工法について、図1乃至図10とともに説明することで、上述の充填工法について併せて詳細に説明する。
【0033】
図1は軌道200の下方に構築する地下横断構造物300についての概略斜視図を示し、図2は同状態の概略正面図を示し、図3は同状態の概略縦断面図を示している。なお、図3は、複線の軌道200の中間部分、つまり挿入方向Xの中間部分を省略して図示している。なお、本明細書において、上述の角型鋼製エレメント150や断面円形ガイドパイプ40の長手方向X、並びに角型鋼製エレメント150の挿入方向Xは同じ方向であるため、同じ符号Xで示している。
【0034】
図4は、充填材91を充填する断面円形ガイドパイプ40についての説明図を示し、詳しくは、図4(a)は充填材91を充填する前の断面円形ガイドパイプ40の拡大正面図を示し、図4(b)は充填材91の充填完了後の断面円形ガイドパイプ40の拡大正面図を示している。
【0035】
図5はガイドパイプ充填工法のフローチャートを示し、図6はガイドパイプ充填装置80の概略構成図を示している。詳しくは、図6(a)は、注入袋90の概略平面図を示し、図6(b)は注入袋90を用いたガイドパイプ充填装置80の構成図を示している。
【0036】
さらに、図7及び図8は断面円形ガイドパイプ40についての説明図を示している。詳しくは、図7(a)は注入袋90、圧力管理ホース81及び充填材注入管83を配置した状態の拡大正面図を示し、図7(b)は注入袋90の内部に充填材91を注入した状態の拡大正面図を示している。また、図8(a)は、連結継手151の内部に充填材91を注入した状態の拡大正面図を示し、図8(b)は充填材91を撤去したあとの未充填空間Rに充填材注入管83を配置した状態の拡大正面図を示している。
【0037】
また、図9は刃口160についての説明図を示している。なお、図9(a)は刃口160の側方からの縦断面図を示し、図9(b)は刃口160の平面方向の縦断面図を示している。
さらに、図10はエレメント挿入工法において地山400に断面円形ガイドパイプ40を挿入した状態の概略正面図を示している。
【0038】
角型鋼製エレメント150を挿入して、下方に地下横断構造物300を構築する軌道200は、図1乃至図3に示すように、地山400の上部に、路床401aと路盤401bとを盛土して盛土部401を構成し、盛土部401の上にバラスト402を締め固め、枕木202を長手方向に等間隔で載置し、枕木202の上に軌条201を固定して構成している。
【0039】
軌道200を横断する方向(図3において左右方向)に構築する地下横断構造物300は、上床部300aが所定の土被りとなる位置で、地山400に構築される矩形断面のボックスである。なお、図1乃至図3において、連結した角型鋼製エレメント150がむき出したままの地下横断構造物300を図示しているが、地下横断構造物300の用途に応じて、地下横断構造物300の内部空間300bや端部に舗装やコンクリートを構築して地下横断構造物300を完成させる。
【0040】
このように、地下横断構造物300は、軌道200の横断方向両側に予め建て込んだ土留め壁(図示省略)を用いて掘り下げて構築した立坑420(発進立坑420a,到達立坑420b)間の軌道200下の地山400を貫通する構造物である。
【0041】
そして、地下横断構造物300は、図1及び図3に示すように、正面視横長四角形状に配置した角型鋼製エレメント150を連結し、その内部を掘削して構築している。
【0042】
角型鋼製エレメント150は、図2に示すように、略四角形型に形成され、後述する連結継手151で連結方向Z1に連結可能に構成するとともに、所定の長さに形成している。そして、所定の長さに形成した角型鋼製エレメント150を複数、長手方向(挿入方向)Xにおいて、接続部材(図示省略)で接続して、地下横断構造物300の長さを確保する構成である。
【0043】
なお、連結方向Z1は、地下横断構造物300の上床部300a及び下床部を構成する角型鋼製エレメント150の場合、地下横断構造物300の幅方向と一致し、地下横断構造物300の側壁を構成する角型鋼製エレメント150の場合、地下横断構造物300の高さ方向と一致する。したがって、連結方向Z1に対して直交する交差方向Z2は、地下横断構造物300の上床部300a及び下床部を構成する角型鋼製エレメント150の場合、地下横断構造物300の高さ方向と一致し、地下横断構造物300の側壁を構成する角型鋼製エレメント150の場合、地下横断構造物300の幅方向と一致する。
【0044】
詳しくは、図2に示すように、連結方向Z1に対して直交する交差方向Z2に所定の間隔を隔てて配置する2枚のフランジ板152と、フランジ板152における連結方向Z1の両側で交差方向Z2に向いたウェブ板153とで断面四角形に構成している。
【0045】
フランジ板152の両端には、図4に示すように、略C型断面の連結継手151を備えている。詳しくは、フランジ板152の連結方向Z1の基端側に配置した基端側連結継手151aは、フランジ板152より交差方向Z2の外側に突出態様で略逆C型に形成されている。これに対し、フランジ板152の連結方向Z1の先端側に配置した先端側連結継手151bは、フランジ板152より交差方向Z2の内側に突出態様で略C型に形成されている。したがって、隣接する角型鋼製エレメント150同士は、既に挿入された挿入済みの角型鋼製エレメント150の先端側連結継手151bと、後で挿入する角型鋼製エレメント150の基端側連結継手151aとを嵌合させて連結している。
【0046】
また、ウェブ板153は、フランジ板152の先端側及び基端側において、連結継手151より連結方向Z1の適宜の間隔を隔てて配置されている。したがって、隣接する角型鋼製エレメント150同士の間には、挿入済みの角型鋼製エレメント150のウェブ板153と、後で挿入する角型鋼製エレメント150のウェブ板153と、フランジ板152の連結継手151によって囲まれた連結空間156を構成している。
【0047】
このように構成した角型鋼製エレメント150は、仮設構造物ではなく、地下横断構造物300の本体の構造部材として本設利用される。したがって、フランジ板152の交差方向Z2の間隔、つまりウェブ板153の交差方向Z2の長さは、内部空間155及び連結空間156に充填するコンクリートとともに、地下横断構造物300の上床部、下床部あるいは側壁として、作用する荷重に耐える間隔で構成されている。また、角型鋼製エレメント150の幅、つまりフランジ板152の連結方向Z1の長さは、構築する地下横断構造物300の高さや幅寸法に応じて割り付けて決定する。
【0048】
なお、上述の角型鋼製エレメント150の説明では、地下横断構造物300を構成する一般部の角型鋼製エレメント150について説明したが、図3に示すように、最初に地山400に挿入する基準エレメント150a、地下横断構造物300の隅角部を構成する隅角部エレメント150b、最後に挿入し、環状に閉合する調整エレメント150cは、以下に説明するように、上述の一般部の角型鋼製エレメント150とわずかに構成が異なる。
【0049】
最初に、地山400に挿入する基準エレメント150aは、基準エレメント150aを基準として左右両側に角型鋼製エレメント150を連結するため、フランジ板152の両端に先端側連結継手151bを備えるとともに、ウェブ板153が連結方向Z1の両側に配置される(図示省略)。逆に、最後に挿入し、環状に閉合する調整エレメント150cは、左右両側に挿入されている挿入済みの角型鋼製エレメント150の間でそれぞれと連結するため、フランジ板152の両側に基端側連結継手151aを備えるとともに、ウェブ板153が連結方向Z1の両側に配置される(図示省略)。
【0050】
隅角部エレメント150bは、連結方向が基端側連結継手151aのある基端側に対して直交するため、先端側連結継手151bが、交差方向Z2であるウェブ板153の延長上に配置される。
【0051】
なお、上述の説明では、一般部の角型鋼製エレメント150、基準エレメント150a、隅角部エレメント150b及び調整エレメント150cで断面横長四角形状の地下横断構造物300を構築することについて説明しているが、基準エレメント150aと隅角部エレメント150bとで横一文字状配置、または縦一列配置、あるいは角型鋼製エレメント150、基準エレメント150a、及び隅角部エレメント150bでT字状配置、門型配置またはL型配置にして地下横断構造物300を構築してもよい。さらには、台形断面や帯状円弧型の角型鋼製エレメント150、基準エレメント150a及び調整エレメント150cを用いて、円形断面や円弧状断面の地下横断構造物300を構築してもよい。
【0052】
このような構成の角型鋼製エレメント150(以下において、角型鋼製エレメント150には、矛盾がない限り基準エレメント150a、隅角部エレメント150b及び調整エレメント150cを含むものとする)は、図9に示すような刃口160を、角型鋼製エレメント150の長手方向Xの先端に装着し、刃口160の内部で掘削作業員が掘削する人力掘削によって、刃口160の前方の地山400を掘削しながら、到達立坑420bから1次けん引ワイヤー(図示省略)でけん引して地山400に挿入する。
【0053】
刃口160は、角型鋼製エレメント150と略同じ正面形状を有する刃口本体部161と、刃口本体部161の上面が前方(図9において左方向)に突出する板状の刃先板162と、刃先板162の前方において刃先板162に対して平行に循環するワイヤーソー163を駆動するワイヤーソー装置164とで構成する。
【0054】
そして、ワイヤーソー装置164は刃口本体部161の内部に配置され、刃先板162の幅方向外側の少し前方には、ワイヤーソー装置164で回転駆動するワイヤーソー163の方向を変換する回転プーリー163aを備えている。
【0055】
なお、刃口160の構成や角型鋼製エレメント150との接続方法、並びにワイヤーソー163及びワイヤーソー装置164についての詳しい構成は、出願人らによって出願された発明(特開2010―174542号公報)に開示されているため、詳細な説明を省略する。
【0056】
このように刃口160を、到達立坑420bから1次けん引ワイヤー(図示省略)でけん引すると、ワイヤーソー163で刃先板162の前方の地山400を切断し、ワイヤーソー163によって切断された地山の切断跡に刃先板162を挿入することができる。
【0057】
なお、刃口160における回転プーリー163aは、図9に示すように、あらかじめ地山400に挿入方向Xに挿通されたガイドパイプとして機能する断面円形ガイドパイプ40の内部に配置されている。詳しくは、図9に示すように、刃口160の刃先板162の挿入を許容する切断跡を形成するためのワイヤーソー163の方向を変換する回転プーリー163aは、上述したように、刃口160の刃先板162の幅方向外側かつ少し前方に配置され、回転プーリー163aと地山400との接触を防止するための左右の断面円形ガイドパイプ40内に配置される。
【0058】
このように構成した刃口160によるエレメント挿入工法の施工順序について以下で説明する。
まず、図10に示すように、地下横断構造物300を構築する構築予定断面300’における上床部300a’の回転プーリー163aの通過部分に断面円形ガイドパイプ40をあらかじめ挿通する。
【0059】
なお、図10には、上床部300a’における全数の断面円形ガイドパイプ40を挿通しているが、最初に基準エレメント150aの両側2本の断面円形ガイドパイプ40を挿通し、基準エレメント150aを挿入完了してから順次断面円形ガイドパイプ40を挿通する順序でもよく、また、角型鋼製エレメント150の挿入施工とともに、次やその次に挿入する角型鋼製エレメント150用の断面円形ガイドパイプ40を挿通してもよい。
【0060】
次に、2本の断面円形ガイドパイプ40に対して角型鋼製エレメント150に装着した刃口160をセットし、到達立坑420b側から1次けん引ワイヤで刃口160をけん引し、断面円形ガイドパイプ40同士の間の地山400とともに、ワイヤーソー163で切断しながら移動し、ワイヤーソー163で切断した地山400及び断面円形ガイドパイプ40の切断箇所に刃先板162を挿入するとともに、刃口160の内部から地山400を掘削しながら角型鋼製エレメント150を挿入する。角型鋼製エレメント150の先端が到達立坑420bに到達するまでこれを繰り返し、角型鋼製エレメント150の挿入を完了させる。
【0061】
また、断面円形ガイドパイプ40内部において、既に挿入した角型鋼製エレメント150の基端側連結継手151aに連結継手151を嵌合させながら、次の角型鋼製エレメント150を上述の施工手順で施工し、地下横断構造物300を構築する角型鋼製エレメント150の挿入を完了させる。
【0062】
角型鋼製エレメント150の挿入が完了すると、図4(a)に示すように、断面円形ガイドパイプ40同士の間の地山400とともに、ワイヤーソー163で切断した切断箇所に刃先板162及びフランジ板152を挿入することで、連結継手151の上方に地山400側に切断された半割の断面円形ガイドパイプ40(以下において、半割ガイドパイプ41という)が、長手方向Xにおいて角型鋼製エレメント150の延長に亘って残ることとなる。
【0063】
連結継手151の上方における半割ガイドパイプ41の内部は空洞(以下において、半割空洞Hとする)であり、半割ガイドパイプ41の下端は、フランジ板152の上面に載置されているだけである。そのため、地山400からの上載荷重が半割ガイドパイプ41に作用することによって、半割空洞Hがつぶれるように半割ガイドパイプ41が変形するとともに、半割ガイドパイプ41の変形に伴って、半割ガイドパイプ41の周辺の地山400が緩み、強いては地山400の地表面及び軌道200が沈下するおそれがある。
【0064】
そこで、本実施例におけるエレメント挿入工法では、後述するガイドパイプ充填装置80を用いて半割ガイドパイプ41の内部の半割空洞Hを充填材91で充填する充填工法を実施する。
【0065】
ガイドパイプ充填装置80は、図6(b)に示すように、内部に充填材91の注入を許容する注入袋90、圧力管理ホース81、圧力管理ホース81の水圧を検出する水圧計82、注入袋90の内部に充填材91を注入するための充填材注入管83、充填材91の吐出圧力を検出する圧力計84、充填材91の注入量を検出する流量計85、及び充填材91を圧送するグラウトポンプ86で構成している。
【0066】
注入袋90は、図6(a)に示すように、断面円形ガイドパイプ40の延長に応じた長さを有する帯状の袋体であり、注入された充填材91が漏出しない高密度基布で構成している。また、長手方向の両端部には、それぞれ適宜の長さで突出するとともに、内部と連通する端部開口部90aを備えている。なお、注入袋90は、半割ガイドパイプ41の内部の半割空洞Hの断面よりひとまわり大きな断面の袋状に形成している。
【0067】
充填材91は、いわゆる裏込材と呼ばれるグラウト材であり、硬化前には注入可能な流動性を有するとともに、硬化後に所定の強度を有するセメント系のグラウト材である。
【0068】
圧力管理ホース81は、注入袋90と同程度の長さを有するとともに、内部に水81aを封入するホース体81bと水81aとで構成している。ホース体81bは、後述する注入袋90への充填材91の注入管理圧力より低い圧力で変形可能な素材で構成している。なお、半割ガイドパイプ41から地山400の地表面までの土被りに応じて注入管理圧力を0.0075MPaに設定する本実施例においては、ホース体81bとして、サニーホース2Bを用いている。
【0069】
そして、圧力管理ホース81の基端側(図6(b)において左側)に接続した水圧計82により、注入管理圧力0.0075MPaより低い0.006〜0.007MPaとなるように水81aを封入している。なお、圧力管理ホース81には、図示省略する圧力逃がし用バルブを接続しているため、注入管理圧力以上の圧力が圧力管理ホース81に作用すると、水81aが排出されるように構成している。
【0070】
圧力管理ホース81は、半割ガイドパイプ41の長手方向全長に亘って、注入袋90と半割ガイドパイプ41の管内面41aとの間に配置され、充填材91から注入袋90を介して管内面41aに作用する圧力を基端側に伝達し、圧力管理ホース81に接続された水圧計82で検出できる構成である。
【0071】
注入袋90の内部に充填材91を注入するための充填材注入管83、充填材注入管83の吐出圧力を検出する圧力計84、充填材91の注入量を検出する流量計85、及び充填材91を圧送するグラウトポンプ86はこの順で接続され、グラウトポンプ86で圧送された充填材91は、流量計85でその注入量を検出されながら、充填材注入管83の先端から注入される。なお、充填材注入管83は、所定の長さの注入管を複数本連結して、注入袋90に応じた長さに形成している。
【0072】
このように構成したガイドパイプ充填装置80を用いた充填材91の充填工法の施工順序について、図5に示すフローチャートに基づいて説明する。
まず、半割ガイドパイプ41の半割空洞Hに充填材91を充填するために、半割ガイドパイプ41の内部に堆積した土砂等や連結継手151をハイウォッシャー等で清掃する(ステップs1)。なお、このとき、角型鋼製エレメント150の内部より、連結継手151の連結部分における内部側の境界部分を止水コーティングする。
【0073】
半割ガイドパイプ41の内部の清掃が完了後、半割ガイドパイプ41の内側の半割空洞Hに注入袋90や圧力管理ホース81を挿入する(ステップs2)。詳しくは、発進立坑420a(図3)に、圧力管理ホース81と注入袋90とを準備し、発進立坑420aから到達立坑420b(図3)に向かって半割空洞Hに引き込む。このとき、サニーホース6Bで構成し、注入袋90を防護するための敷物(図示省略)上に、注入袋90と圧力管理ホース81とをこの順で載置し、敷物ごと注入袋90と圧力管理ホース81を半割ガイドパイプ41の内部に引き込んで設置してから、防護用の敷物を撤去する。さらに、先端が到達立坑420bに到達するまで注入袋90の内部に充填材注入管83を差し込むとともに、圧力管理ホース81が注入袋90の幅方向中央となるように位置調整する。
【0074】
続いて、充填材注入管83で注入袋90の内部に充填材91を注入するための一次注入準備を行う(ステップs3)。この一次注入準備では、まず、圧力管理ホース81の内部に、所定圧力となるように水圧計82で調整しながら水81aを封入することにより、図7(a)に示すように、半割空洞Hにおいて、内部に充填材注入管83が挿入された注入袋90の上部に圧力管理ホース81が配置された状態となる。
【0075】
さらに、計量・混練した充填材91をグラウトポンプ86に投入するとともに、充填材注入管83の先端を、到達立坑420b側の注入袋90の端部開口部90aより露出させ、充填材注入管83から充填材91を吐出させて、充填材91の状態を確認する。さらには、流量計85で充填材91の吐出量を所定の注入速度となるように調整する。調整完了後、充填材注入管83を発進立坑420a側にわずかに引き抜くとともに、到達立坑420b側の端部開口部90aを縛って塞ぎ注入可能な状態とする。さらには、充填材91が注入された注入袋90が、到達立坑420b側の半割ガイドパイプ41から出ないように、半割ガイドパイプ41の到達立坑420b側の端部を図示省略する妻部抑え板で抑える。
【0076】
このような一次注入準備完了後、調整した所定の注入速度及び注入管理圧力以下で充填材91を注入袋90に注入する(ステップs4)。
詳しくは、グラウトポンプ86を稼働させて、充填材注入管83から充填材91を注入し、注入された充填材91によって注入袋90が膨らみ、注入袋90と半割ガイドパイプ41の管内面41aとの間に挟まれた圧力管理ホース81の圧力が注入管理圧力を超えるとグラウトポンプ86を停止し(図7(b)参照)、充填材注入管83を所定長さ引き抜き、充填材91の注入を再開する。
【0077】
所定の注入管理圧力までの充填材91の注入と、注入停止後の充填材注入管83の引き抜きとを繰り返し、充填材注入管83を連結して構成している注入管の長さ分引き抜くと、1本の注入管を取り外す。
【0078】
このようにして、充填材91の注入と、注入停止後の充填材注入管83の引き抜きとを、注入袋90の全延長分繰り返し、充填材注入管83を注入袋90の発進立坑420a側の端部開口部90aから引き抜き、端部開口部90aを縛って一次注入を完了する。これにより、図7(b)に示すように、半割空洞Hの大部分を注入袋90に注入した充填材91で充填することができる。
【0079】
そして、注入袋90の内部に注入された充填材91が硬化するまで養生し(ステップs5)、嵌合している連結継手151の内部にグラウト材を注入する(ステップs6)。なお、ステップs1において、角型鋼製エレメント150の内部より、連結継手151の連結部分における内部側の境界部分を止水コーティングするとともに、連結継手151の連結部分における半割ガイドパイプ41側の境界部分は、充填材91が注入された注入袋90で塞がれているため、嵌合している連結継手151の内部に注入するグラウト材が漏出することを防止し、確実にグラウト注入することができる(図8(a)参照)。
【0080】
ステップs6において連結継手151の内部に注入したグラウト材が硬化後、圧力管理ホース81によって、注入袋90と半割ガイドパイプ41の管内面41aとの間に形成された未充填空間Rを充填するための二次注入の準備を行う(ステップs7)。この二次注入準備では、圧力管理ホース81の内部の水81aを抜くとともに、ホース体81bを到達立坑420b側に引出し、注入袋90と管内面41aとの間に形成された未充填空間Rに二次注入用の充填材注入管83を、先端側が到達立坑420b側となるように差し込む(図8(b)参照)。さらに、未充填空間Rの到達立坑420b側の妻部を塞ぐとともに、充填確認用のバルブを妻部にセットする。
【0081】
そして、未充填空間Rを充填材91で充填する二次注入(ステップs8)では、充填確認用のバルブで充填確認しながら、充填材91を定量管理で注入しながら充填材注入管83を引き抜き、未充填空間Rを充填材91で充填する。
【0082】
なお、注入袋90と管内面41aとの接触面積に比べて、未充填空間Rにおいて露出する管内面41aの面積は小さいため、未充填空間Rに注入する充填材91が半割ガイドパイプ41に及ぼす圧力は小さくなる。したがって、未充填空間Rに注入する充填材91は定量管理に基づいて注入しても、半割ガイドパイプ41が未充填空間Rを充填する充填材91によって押し上げられ、地山400に地表面が隆起するようなおそれはない。
【0083】
このようにして、未充填空間Rに定量の充填材91を注入し、ステップs8における二次注入が完了すると、未充填空間Rの発進立坑420a側の妻部を塞ぎ、未充填空間Rに充填された充填材91が硬化するまで養生し(ステップs9)、所定強度まで硬化すると、図4(b)に示すように、半割ガイドパイプ41とフランジ板152とで囲まれた空間である半割空洞Hの充填材91による充填は完了する。
【0084】
このような充填工法が完了した後、角型鋼製エレメント150の内部空間155及び連結空間156にコンクリートを充填し、角型鋼製エレメント150で囲った内部空間300bを掘削し、地下横断構造物300を完成させる。
【0085】
このように、上述の充填工法では、地山400において略水平方向に長い半割ガイドパイプ41とフランジ板152とで囲まれた半割空洞Hを、硬化型の充填材91で充填するために、充填材91の注入を許容する注入袋90と、圧力管理ホース81と、水81aの圧力を検出する水圧計82と、グラウトポンプ86とを備えたガイドパイプ充填装置80を用い、充填材91の注入を許容する注入袋90を、半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って配置するとともに、注入袋90と、管内面41aとの間において半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って、注入袋90及び管内面41aの間の圧力を少なくとも長手方向Xに伝達する圧力管理ホース81を配置し、圧力管理ホース81による圧力によって圧力管理しながら、注入袋90の到達立坑420b側から発進立坑420a側に向かって順次、充填材91を注入するため、充填距離が長い、つまり半割空洞Hの長手方向Xにおける距離が長い場合であっても、地山400において略水平方向に形成された長い半割空洞Hを、正確に圧力管理して硬化型の充填材91で充填することができる。
【0086】
詳しくは、半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って配置された注入袋90と、半割空洞Hを形成する管内面41aとの間において半割ガイドパイプ41の長手方向Xに沿って、注入袋90及び管内面41aの間の圧力を長手方向Xに伝達する圧力管理ホース81を配置したため、注入された充填材91が注入袋90を介して管内面41aを押圧する実際の圧力が圧力管理ホース81によって伝達される。
【0087】
よって、圧力管理ホース81による圧力によって圧力管理しながら、注入袋90の到達立坑420b側から発進立坑420a側に向かって順次、充填材91を注入することにより、充填材91を送り出す充填材注入管83の管内抵抗による圧力損失が影響する充填距離を問わず、正確な圧力管理に基づいて充填材91を半割空洞Hに充填することができる。したがって、圧力不足による充填材91の未充填や、圧力過多による地表面の隆起等のおそれがなく、安全に半割空洞Hを充填することができる。
【0088】
また、圧力管理ホース81を、水81aと、水81aの封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状のホース体81bとで構成するとともに、ホース体81bの発進立坑420a側に、水81aの圧力を検出する水圧計82を備えたことにより、より簡単な構造で、正確に圧力管理しながら、充填材91を半割空洞Hに充填することができる。詳しくは、圧力管理ホース81を、水81aと、水81aの封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状のホース体81bで構成することにより、構造が簡単であるため、故障のおそれや配置する手間が少ない。したがって、正確に圧力管理しながら、充填材91を半割空洞Hに充填することができる。
【0089】
なお、水81aと、水81aの封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状のホース体81bとで構成した圧力管理ホース81を、略水平方向に長い半割空洞Hを配置するため、例えば、鉛直方向や傾斜方向の半割空洞Hに配置した場合に作用する水圧の影響が小さく、正確な圧力管理を行うことができる。
【0090】
また、注入袋90に注入した充填材91の硬化後、圧力管理ホース81の水81aと、充填材91とを置換する、つまり、圧力管理ホース81を撤去した後の未充填空間Rを充填材91で充填することにより、より確実に半割空洞Hを充填材91で充填することができる。詳しくは、注入袋90に充填材91を注入しても、ホース体81b及び水81aで構成する圧力管理ホース81分の未充填空間Rが半割空洞Hに残ることとなる。この未充填空間Rを充填材91で充填することにより、半割空洞H内部における充填材91による充填率を向上させ、より確実に充填することができる。
【0091】
なお、ホース体81b及び水81aで構成する圧力管理ホース81と管内面41aとの接触面積が、充填材91が注入された注入袋90と管内面41aとの接触面積より小さいため、充填材91が注入されることによって注入袋90を介して管内面41aに及ぼす圧力に比べて、ホース体81b及び水81aで構成する圧力管理ホース81分の空隙に注入された充填材91が管内面41aに及ぼす圧力の方が小さいため、圧力過多による地表面の隆起等のおそれがなく、安全に半割空洞Hを充填することができる。
【0092】
また、2本の断面円形ガイドパイプ40の間の地山400を、断面円形ガイドパイプ40のそれぞれを通るワイヤーソー163で、断面円形ガイドパイプ40の対向部分とともに切断するとともに、断面円形ガイドパイプ40の進行方向Xに進行し、ワイヤーソー163で切断した切断箇所にフランジ板152を挿入したのち、挿入したフランジ板152と断面円形ガイドパイプ40とで囲まれた半割空洞Hを、上述の充填工法により充填材91で充填することにより、2本の円形断面円形ガイドパイプ40の間の地山400を、ワイヤーソー163で切断し、ワイヤーソー163で切断した切断箇所にフランジ板152を効率よく挿入するとともに、挿入したフランジ板152と地山400側に残る断面円形ガイドパイプ40とで囲まれた半割空洞Hを、充填距離の影響を受けずに、安全に充填材91で充填することができる。
【0093】
さらにまた、上部にフランジ板152を有する閉断面形状の角型鋼製エレメント150を地山400に挿入し、角型鋼製エレメント150の内部を掘削し、地下横断構造物300を構築するために、角型鋼製エレメント150を進行方向Xに交差する方向に連結する、進行方向Xの連結継手151を備えるとともに、連結継手151を断面円形ガイドパイプ40の内部に配置し、フランジ板152を、角型鋼製エレメント150挿入方向前端より前方に突出する構成とするとともに、半割空洞Hに配置した注入袋90に注入した充填材91の硬化後、連結状態の連結継手151の内部にグラウト材を注入することにより、例えば、軌道200直下において、角型鋼製エレメント150を挿入する際に、角型鋼製エレメント150挿入方向前端より前方に突出するフランジ板152を、ワイヤーソー163で切断された地盤にあらかじめ挿入できるため、角型鋼製エレメント150を挿入するための掘削等による地盤の応力解放による影響が直上の軌道200に及ぶことなく、角型鋼製エレメント150を挿入することができる。また、挿入したフランジ板152と地山400側に残る断面円形ガイドパイプ40とで囲まれた半割空洞Hを、充填距離の影響を受けずに、安全に充填材91で充填することができる。
【0094】
また、注入袋90に注入した充填材91の硬化後、連結状態の連結継手151の内部にグラウト材を注入するため、挿入したフランジ板152と地山400側に残る断面円形ガイドパイプ40とで囲まれた空間に、連結状態の連結継手151の内部に注入するグラウト材が漏出することなく、確実にグラウト注入することができる。したがって、角型鋼製エレメント150に作用する力を、進行方向Xに交差する方向に連結された角型鋼製エレメント150に対して、確実に連結継手151で伝達することができる。
【0095】
なお、上述の実施形態においては、地山400に挿入した断面円形ガイドパイプ40をワイヤーソー163で地山400とともに切断し、軌道200の下方に角型鋼製エレメント150を挿入して地下横断構造物300を構築したが、地山400に挿入した断面円形ガイドパイプ40におけるワイヤーソー163で切断する切断予定箇所を、管切削治具101で切削してからワイヤーソー163で断面円形ガイドパイプ40を切断し、軌道200の下方に角型鋼製エレメント150を挿入して地下横断構造物300を構築してもよい。
【0096】
詳しくは、別の実施形態である刃口160の説明図である図11に示すように、それぞれの回転プーリー163aの前方には、管切削治具101の移動ローラ部130とほぼ同様の構成で構成した刃口用移動ローラ部130aを固定し、そのさらに前方には、管切削治具101を配備する。
【0097】
管切削治具101は、進行方向Xの後方に回転切削刃114を備えた切削カッタ112と、切削カッタ112の進行方向Xの前後に備えた移動ローラ部130と、進行方向Xの前方の移動ローラ部130に接続したけん引ワイヤ135とで構成している。
【0098】
けん引ワイヤ135は、断面円形ガイドパイプ40の進行方向Xの前方(以下において到達側という)に配置されたけん引用ウィンチ(図示省略)に接続され、けん引用ウィンチの巻取りによって、切削カッタ112を到達側にけん引する。
【0099】
切削カッタ112は、空気圧によって、回転切削刃114を回転するエアーラチェットで構成しているが、電気で回転駆動するベビーサンダーや、油圧モータで回転駆動する油圧サンダー等を用いてもよい。
【0100】
管切削治具101における切削カッタ112の回転切削刃114は、ワイヤーソー163の切断予定箇所を切削し、切削スリットを形成するよう位置調整し、断面円形ガイドパイプ40の肉厚部分の厚さのうち3割程度を残して切削する。
【0101】
また、断面円形ガイドパイプ40において管切削治具101は、断面円形ガイドパイプ40内に挿通され、前方に接続されたけん引ワイヤ135によって到達立坑420bにけん引されるが、回転プーリー163aは、上述したように、1次けん引ワイヤによって到達立坑420bにけん引される刃口160に伴って到達立坑420bに向かって移動し、ワイヤーソー163による切断予定箇所を正確に回転切削刃114で切削し、切削スリットを形成することができる。
【0102】
このように構成した管切削治具101を用いた場合における刃口160によるエレメント挿入工法の施工順序は、上述の管切削治具101を用いない場合の施工方法に加え、2本の断面円形ガイドパイプ40に対して管切削治具101及び、角型鋼製エレメント150に装着した刃口160をセットし、まず断面円形ガイドパイプ40に挿通したけん引ワイヤ135を到達立坑420b側からけん引し、管切削治具101を進行方向Xに移動させる。このとき、管切削治具101の回転切削刃114で、後方で断面円形ガイドパイプ40を切削するワイヤーソー163の切削箇所の内周面を切削し、切削スリットを形成する。
【0103】
続いて、到達立坑420b側から1次けん引ワイヤで刃口160をけん引し、回転切削刃114で切削した切削スリットを、断面円形ガイドパイプ40同士の間の地山400とともに、ワイヤーソー163で切断しながら移動する。この後、上述の説明と同様に、角型鋼製エレメント150の挿入を完了させる。
【0104】
このように、2本の断面円形ガイドパイプ40の間の地山400を、断面円形ガイドパイプ40のそれぞれを通るワイヤーソー163で、断面円形ガイドパイプ40の対向部分とともに切断するとともに、断面円形ガイドパイプ40の進行方向Xに進行し、ワイヤーソー163で切断した切断箇所にフランジ板152を挿入するために、ワイヤーソー163に、断面円形ガイドパイプ40の内部において進行方向Xに走行する刃口用移動ローラ部130aを備え、ワイヤーソー163の進行方向Xの前方に、断面円形ガイドパイプ40の管内部を進行方向Xに移動する移動ローラ部130と、移動ローラ部130によって移動し、駆動部によって駆動する回転切削刃114を管内面に押し当てて、進行方向Xに管内面を切削する切削カッタ112とを備えた管切削治具101を配置し、管切削治具101で、ワイヤーソー163によって切断する断面円形ガイドパイプ40の切断予定箇所を切削してからワイヤーソーで切断することにより、上述の管切削治具101を用いない場合の効果に加え、断面円形ガイドパイプ40を切断する際にワイヤーソー163に作用する切断負荷を低減できる。したがって、精度良くワイヤーソー163で断面円形ガイドパイプ40を切断できるとともに、ワイヤーソー163の耐久性を向上することができる。
【0105】
また、断面円形ガイドパイプ40を、地山400とともにワイヤーソー163で切断してから、ワイヤーソー163の切断箇所に敷鉄板等の板材を挿入し、挿入した板材を支持しながら、板材の下方を掘削するとともに、地下横断構造物300を構築してもよい。この場合においても、板材によって分断された断面円形ガイドパイプ40の地山400側の半割ガイドパイプ41と、板材とで囲まれた空洞を、上述の充填工法及びガイドパイプ充填装置80を用いることにより、正確に圧力管理して硬化型の充填材91で充填することができる。なお、この場合においても、管切削治具101を併用してもよく、管切削治具101を併用した場合、精度良くワイヤーソー163で断面円形ガイドパイプ40を切断できるとともに、ワイヤーソー163の耐久性を向上することができる。
【0106】
さらには、地下横断構造物300を構築せずとも、例えば、地山400に形成された空洞を、上述の充填工法及びガイドパイプ充填装置80を用いることにより、正確に圧力管理して硬化型の充填材91で充填することができる。なお、このとき、充填材91のスランプ値やフロー値等の流動性に応じ、注入された硬化前の充填材91が流れ落ちない程度の傾斜角度であれば、水平でなくとも、正確に圧力管理しながら確実に充填することができる。
【0107】
また、充填材91は、セメント系のグラウト材を用いたが、樹脂系のグラウト材を用いてもよい。また、ホース体81bに水81aを封入して圧力管理ホース81を構成したが、水81aに限定されず、圧力による体積変化が少なく、自身の内部応力伝達によって圧力伝達する水以外の液体やジェル状体であってもよく、さらには、温度による体積変化の少ない液体やジェル状体がより好ましい。また、圧力管理ホース81の代わりに、半割ガイドパイプ41の進行方向Xにおいて所定間隔を隔てて複数配置した圧力センサからの検出結果に基づいて充填材91の注入圧力を管理してもよい。
【0108】
また、ステップs8における二次注入では、注入袋90に注入した充填材91が硬化後、圧力管理ホース81を引き出し、二次注入用の充填材注入管83で未充填空間Rを充填材91で充填したが、圧力管理ホース81を引き出さずとも、水81aのみをホース体81bから抜き出し、ホース体81b内部に充填材91を充填してもよい。さらには、注入袋90に注入する充填材91と、二次注入用の充填材91とは同じグラウト材であっても、性状の異なるグラウト材であってもよい。
【0109】
この発明の構成と、上述の実施例との対応において、この発明の空洞は、半割空洞Hに対応し、
以下同様に、
長手方向は、長手方向X、挿入方向X、あるいは進行方向Xに対応し、
空洞壁は、管内面41aに対応し、
圧力伝達手段は、圧力管理ホース81に対応し、
先端側は、到達立坑420b側に対応し、
基端側は、発進立坑420a側に対応し、
流動体は、水81aに対応し、
封入ホースは、ホース体81bに対応し、
圧力検出手段は、水圧計82に対応し、
埋設管は、断面円形ガイドパイプ40に対応し、
板材は、フランジ板152に対応し、
天板は、フランジ板152に対応し、
エレメントは、角型鋼製エレメント150に対応し、
継手手段は、連結継手151に対応し、
充填装置は、ガイドパイプ充填装置80に対応し、
充填材注入手段は、グラウトポンプ86に対応するも、
この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施の形態を得ることができる。
【符号の説明】
【0110】
40…断面円形ガイドパイプ
41…半割ガイドパイプ
41a…管内面
80…ガイドパイプ充填装置
81…圧力管理ホース
81a…水
81b…ホース体
82…水圧計
86…グラウトポンプ
90…注入袋
91…充填材
150…角型鋼製エレメント
151…連結継手
152…フランジ板
163…ワイヤーソー
400…地山
420a…発進立坑
420b…到達立坑
H…半割空洞
X…長手方向・進行方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中において略水平方向に長い空洞を、硬化型の充填材で充填する充填工法であって、
前記充填材の注入を許容する注入袋を、前記空洞の長手方向に沿って配置するとともに、
前記注入袋と、前記空洞を形成する空洞壁との間において、前記空洞の長手方向に沿って、前記注入袋及び前記空洞壁の間の圧力を少なくとも前記長手方向に伝達する圧力伝達手段を配置し、
該圧力伝達手段による圧力によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を注入する
充填工法。
【請求項2】
前記圧力伝達手段を、
流動体と、該流動体の封入を許容するとともに、可撓性を有する長尺状の封入ホースとで構成し、
該封入ホースの基端側に、前記流動体の圧力を検出する圧力検出手段を備えた
請求項1に記載の充填工法。
【請求項3】
前記注入袋に注入した前記充填材の硬化後、前記流動体と前記充填材を置換する
請求項2に記載の充填工法。
【請求項4】
2本の埋設管の間の地山を、前記埋設管のそれぞれを通るワイヤーソーで、前記埋設管の対向部分とともに切断するとともに、前記埋設管の長手方向に進行し、該ワイヤーソーで切断した切断箇所に板材を挿入する板材挿入工法において、
該ワイヤーソーで切断した切断箇所に板材を挿入したのち、挿入した前記板材と前記埋設管とで囲まれた空間を、前記略水平方向に長い空洞として、請求項1乃至3のうちいずれかに記載の充填工法により前記充填材で充填する
板材挿入工法。
【請求項5】
上部に天板を有する閉断面形状のエレメントを地山に挿入し、エレメント内部を掘削するエレメント挿入工法であって、
前記エレメントを前記長手方向に交差する方向に連結する、前記長手方向の継手手段を備えるとともに、該継手手段を連結可能に前記埋設管内部に配置し、
前記天板を、前記エレメント挿入方向前端より前方に突出する構成とするとともに、
前記天板を、請求項4に記載の板材挿入工法における前記板材とし、
前記注入袋に注入した充填材の硬化後、連結状態の前記継手手段の内部にグラウト材を注入する
エレメント挿入工法。
【請求項6】
地中における略水平方向に長い空洞に、硬化型の充填材を充填する充填装置であって、
前記空洞の長手方向に沿って配置され、前記充填材の注入を許容する注入袋と、
前記空洞を形成する空洞壁及び前記注入袋の間において前記空洞の長手方向に沿って配置されるとともに、流動体の封入を許容し、可撓性を有する長尺状の封入ホースと、
該封入ホースの基端側に備え、前記流動体の圧力を検出する圧力検出手段と、
該圧力検出手段によって検出された圧力によって圧力管理しながら、前記注入袋の先端側から基端側に向かって順次、前記充填材を注入する充填材注入手段とを備えた
充填装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−28942(P2013−28942A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−165149(P2011−165149)
【出願日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【出願人】(000221616)東日本旅客鉄道株式会社 (833)
【出願人】(000216025)鉄建建設株式会社 (109)
【出願人】(399101337)株式会社ジェイテック (20)
【Fターム(参考)】