光アドレス型空間光変調素子の駆動方法、および光アドレス型空間光変調素子駆動装置
【課題】光アドレス型光変調層を複数重ねてなる光アドレス型空間光変調素子について、クロストークによる色再現性の低下を防止し得る駆動方法を提供する。
【解決手段】積層された光アドレス型光変調層(4BG,4R)が、吸収スペクトルに波長分散を示し、かつインピーダンス対称性を示すように調整されてなる電荷発生層の対を含む光導電層(15BG,15R)と液晶層(12BG,12R)とからなり、少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層(4BG)における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層(4BG)以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層(4R)の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする光アドレス型空間光変調素子の駆動方法である。
【解決手段】積層された光アドレス型光変調層(4BG,4R)が、吸収スペクトルに波長分散を示し、かつインピーダンス対称性を示すように調整されてなる電荷発生層の対を含む光導電層(15BG,15R)と液晶層(12BG,12R)とからなり、少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層(4BG)における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層(4BG)以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層(4R)の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする光アドレス型空間光変調素子の駆動方法である。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶および光導電体を用いて画像を表示し、記録する光アドレス型の空間光変調素子に像を書き込むための駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
森林資源保護などの地球環境保全や、スペースセーブといった事務環境改善などの理由から、紙に替わるハードコピー技術として、リライタブルマーキング技術への期待が大きい。
一方、反射型液晶表示素子は、バックライトのような専用の光源を必要とせず、消費電力が少ないとともに、偏平小型に構成できることから、小型情報機器や携帯情報端末などの表示装置として注目されている。
【0003】
特にコレステリック液晶(カイラルネマチック液晶)を利用した液晶表示素子は、その相変化を利用することで、書き込みおよび消去を適宜行うことができ、また、液晶層を積層させることでフルカラー画像を形成することが可能である等、各種優れた特性を有することから注目されている。
【0004】
コレステリック液晶が示すプレーナ相は、螺旋軸に平行に入射した光を右旋光と左旋光に分け、螺旋の捩じれ方向に一致する円偏光成分をブラッグ反射し、残りの光を透過させる選択反射現象を起こす。反射光の中心波長λおよび反射波長幅Δλは、螺旋ピッチをp、螺旋軸に直交する平面内の平均屈折率をn、複屈折率をΔnとすると、それぞれ、λ=n・p、Δλ=Δn・pで表され、プレーナ相のコレステリック液晶層による反射光は、螺旋ピッチに依存した鮮やかな色を呈する。
【0005】
正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶は、図14(A)に示すように、螺旋軸がセル表面に垂直になり、入射光に対して上記の選択反射現象を起こすプレーナ相、図14(B)に示すように、螺旋軸がほぼセル表面に平行になり、入射光を少し前方散乱させながら透過させるフォーカルコニック相、および図14(C)に示すように、螺旋構造がほどけて液晶ダイレクタが電界方向を向き、入射光をほぼ完全に透過させるホメオトロピック相、の3つの状態を示す。
【0006】
上記の3つの状態のうち、プレーナ相とフォーカルコニック相は、無電界で双安定に存在することができる。したがって、コレステリック液晶の相状態は、液晶層に印加される電界強度に対して一義的に決まらず、プレーナ相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、プレーナ相、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化し、フォーカルコニック相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化する。
【0007】
一方、液晶層に印加した電界強度を急激にゼロにした場合には、プレーナ相とフォーカルコニック相はそのままの状態を維持し、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化する。
したがって、パルス信号を印加した直後のコレステリック液晶層は、図15に示すようなスイッチング挙動を示し、印加されたパルス信号の電圧が、Vfh以上のときには、ホメオトロピック相からプレーナ相に変化した選択反射状態となり、VpfとVfhの間のときには、フォーカルコニック相による透過状態となり、Vpf以下のときには、パルス信号印加前の状態を継続した状態、すなわちプレーナ相による選択反射状態またはフォーカルコニック相による透過状態となる。
【0008】
図15中、縦軸は正規化光反射率であり、最大光反射率を100、最小光反射率を0として、光反射率を正規化している。また、プレーナ相、フォーカルコニック相およびホメオトロピック相の各状態間には、遷移領域が存在するため、正規化光反射率が50以上の場合を選択反射状態、正規化光反射率が50未満の場合を透過状態と定義し、プレーナ相とフォーカルコニック相の相変化のしきい値電圧をVpfとし、フォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい値電圧をVfhとする。
【0009】
特に、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造(マイクロカプセル化されたものを含む)の液晶層においては、コレステリック液晶と高分子の界面における干渉により(アンカリング効果)、プレーナ相とフォーカルコニック相の無電界における双安定性が向上し、長期間に渡ってパルス信号印加直後の状態を保持することができる。
【0010】
当該技術による光アドレス型空間光変調素子では、このコレステリック液晶の双安定現象を利用して、(A)プレーナ相による選択反射状態と、(B)フォーカルコニック相による透過状態と、をスイッチングすることによって、無電界でのメモリ性を有するブラック・ホワイトのモノクロ表示、または無電界でのメモリ性を有するカラー表示を行う。
【0011】
当該技術を応用した光アドレス型空間光変調素子として、コレステリック液晶による表示層と有機感光層(OPC層)等の光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねることで、複数層の反射状態を同時にかつ個別に制御することができ、1度の書き込み操作で複数色の混色画像を形成し得る技術が、本発明者らによって開示されている(特許文献1参照)。当該技術によれば、例えばRed(R)、Green(G)およびBlue(B)の3色をそれぞれ選択反射し得る表示層を積層することで、1度の書き込みでフルカラー画像を簡便に形成することもできる。
【0012】
図16に、当該技術を応用した光アドレス型空間光変調素子の駆動を説明するための模式説明図を示す。この光アドレス型空間光変調素子は、表示層(液晶層)とOPC層(光導電層)とが遮光層を介して積層され、さらにこれらの層の外側に電極層(図16においては不図示)が配されてなる光変調層(光アドレス型光変調層)を3層積層してなるものである。
【0013】
図16における最下層の光変調層Rは、Rの光を反射する表示層と、Rの光を吸収するCyan(C)の遮光層(C)と、Rの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(C)とからなり、全体としてRの色成分の像を形成可能に構成されている。
また、中間の層の光変調層Gは、Gの光を反射する表示層と、Gの光を吸収するMagenta(M)の遮光層(M)と、Gの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(M)とからなり、全体としてGの色成分の像を形成可能に構成されている。
【0014】
さらに、最上層の光変調層Bは、Bの光を反射する表示層と、Bの光を吸収するYellow(Y)の遮光層(Y)と、Bの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(Y)とからなり、全体としてBの色成分の像を形成可能に構成されている。
すなわち、各光変調層において、表示層の反射色と遮光層およびOPC層の透過色とが補色関係になっている。
【0015】
それぞれの光変調層に対してバイアス電圧を印加しつつカラーのアドレス光を照射すると、まずBの色のアドレス光は、光変調層Rおよび光変調層Gはそのまま透過して光変調層Rおよび光変調層Gの動作に影響を与えず、光変調層BのOPC層(Y)に吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Bの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Bの遮光層(Y)で遮光され、表示画像には影響を与えない。
【0016】
また、Gの色のアドレス光は、光変調層Rはそのまま透過して光変調層Rの動作に影響を与えず、光変調層GのOPC層(M)に吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Gの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Gの遮光層(M)で遮光され、上層である光変調層Bの動作、および表示画像には影響を与えない。
【0017】
さらに、Rの色のアドレス光は、光変調層RのOPC層(C)にそのまま吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Rの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Rの遮光層(C)で遮光され、上層である光変調層Gおよび光変調層Bの動作、および表示画像には影響を与えない。
以上のように、3色のアドレス光を像様に同時に照射することで、各色の光変調層の表示層を駆動して、図面上の上面にはフルカラーの反射画像が形成される。
【0018】
この技術において、図16の例で言えば、Bの色のアドレス光が、光変調層Rおよび光変調層Gをそのまま透過して光変調層BのOPC層(Y)に達すること、および、Gの色のアドレス光が、光変調層Rをそのまま透過して光変調層GのOPC層(M)に達すること、が実用化の条件となるが、実際には、どうしても手前の光変調層のOPC層(BC、BMおよびGCの各矢示部分)において、多少は吸収が生じてしまう。
【0019】
図17に、光変調層RのOPC層(C)における光の透過スペクトルのグラフを示す。図17において、横軸は照射する光の波長であり、縦軸は照射した光の透過率である。Bのアドレス光の波長およびGのアドレス光の波長がそれぞれ矢示されているが、グラフを見てもわかるようにいずれも100%の透過率ではなく、Bのアドレス光では線分b、Gのアドレス光では線分gの分だけ、それぞれOPC層(C)が光を吸収している。つまり、図17のグラフからわかるように、OPC層のスペクトルがブロードなため、本来反応してはいけない色のアドレス光をわずかに吸収してしまう。
その結果、他の色のアドレス光によって、誤った光アドレス動作が発生し、各色画像間での予期せぬ混色(以下、この混色現象を「クロストーク」と称する。)が生じるといった不具合の懸念があった。
【0020】
【特許文献1】特開2000−140184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明は、コレステリック液晶による表示層と光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねて複数色の色重ね画像を形成することが可能な光アドレス型空間光変調素子に、画像を書き込む際のクロストークによる色再現性の低下を防止し得る光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法は、光アドレス型光変調層が2層以上積層されてなる光アドレス型空間光変調素子に、画像を記録するための光アドレス型空間光変調素子の駆動方法において、
前記光アドレス型光変調層が、特定波長域の光を反射する少なくともコレステリック液晶からなる液晶層と、前記特定波長域の光を吸収してその吸収した光量に応じて電気特性を変化させる光スイッチ機能を担う光導電層と、
が積層され、さらにその両層の外側に電極が配されて構成され、
前記光アドレス型光変調層のそれぞれの液晶層が、相互に異なる波長域の光を反射するものであって、その反射する波長域以外の波長域の光を透過するものであり、
前記光導電層が、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成されてなり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなるものであり、
1つの前記光アドレス型光変調層に対して、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値を露光時に超え、非露光時には超えない程度の電圧を前記両電極間に印加しつつ、光アドレス型空間光変調素子を画像様に露光する書き込み工程を含み、かつ、該書き込み工程の操作を、全ての前記光アドレス型光変調層に行うことで、各層に色毎の画像を書き込む方法であって、
少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、前記特定領域が、当該光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が極小値ないしその周辺の領域であることが好ましい。
【0024】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、光アドレス型光変調層が3層以上積層されてなる前記光アドレス型空間光変調素子において、好適に適用することができ、すなわち混色の無い色再現性の高いフルカラー画像を形成することも可能である。
【0025】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、前記特定領域が、露光する光の強度に対して相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成されていることが好ましく、この場合、前記書き込み工程で露光する光の強度を、当該重なった前記特定領域の強度とすることで、これら前記特定領域が重なった全ての光アドレス型光変調層に対してクロストークの問題を解消ないし緩和することができる。
【0026】
本発明で用いる光アドレス型空間光変調素子には、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける前記液晶層と前記光導電層との間に、該光導電層が吸収する波長域の光を吸収するとともに、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過する遮光層を備えることが望ましい。
【0027】
このとき、最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記特定領域となる強度とすることで、遮光層により遮光されてクロストークの懸念の無い光アドレス型光変調層と光との組合せを除き、クロストークの懸念のあるこれら組み合わせについて本発明の構成により効果的にその懸念を解消ないし緩和させて、光アドレス型空間光変調素子全体として混色の無い色再現性の高い画像の書き込みが実現される。
【0028】
本発明で用いる光アドレス型空間光変調素子においては、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける光導電層が、相互に異なる波長域の光を吸収するものであって、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過するものであることが望ましい。
【0029】
本発明では、積層された各光アドレス型光変調層における光導電層(一般的に「OPC層(有機感光層)」と称されるもの。)において、特徴的な性質を利用することにより、クロストークによる色再現性の低下を防止することに成功している。すなわち、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成された3層構成であり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し(換言すれば、電荷発生層が色を有しており)、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなる光導電層は、前記特定波長以外の光に対しては、原則として必然的にインピーダンス非対称性を示す性質があり、本発明においてはこの性質を利用している。
【0030】
図1に、このような3層構成の光導電層における各色光に対するインピーダンス対称性およびインピーダンス非対称性を説明するための模式説明図を示す。図1は、R色を吸収し光スイッチ機能を発現するように構成された例である。図1に示される光導電層は、露光面側から順に、電荷発生層(CGL層)A、電荷輸送層および電荷発生層Bの順に積層されている。光照射により、電荷発生層Aおよび電荷発生層Bで光キャリアが発生し、電場方向に応じていずれかの光キャリアが電荷輸送層内に突入し、電荷輸送層内をホッピング移動することで光導電層の抵抗値が低下して、交流の光スイッチ機能が発現する。
【0031】
露光面側からR光が照射されると、まず電荷発生層Aがその光を吸収し、光キャリアを生じさせる。その後R光は、電荷発生層Bにより吸収され、同様に光キャリアを生じさせる。しかし、電荷発生層Bに到達するときには、既に電荷発生層Aがその光を吸収した後なので、光の強度(光量)が低下している。仮に、電荷発生層Aと電荷発生層BとのR光に対する吸光度が同一であるとすれば、電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの吸収量が少なくなり、バランスが崩れることになる。結果、電荷発生層Aと電荷発生層Bとを同一特性の層で構成してしまうと、光キャリアの発生量が電荷発生層Aに比して電荷発生層Bでは少なくなって、バランスが取れていない状態になってしまう。
【0032】
このバランスを保つために、一般的なR光用のOPC層では、R光に対する吸光度を電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの方を高めたり、同一の強度の光を吸収した場合に電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの方がより光キャリアの発生量が多くなるように設計する等、上下両電荷発生層ABにおける光キャリアの発生量が略同一になるようにコントロールされている。このようにコントロールされた電荷発生層対の状態を、本発明においては「インピーダンス対称性」と称する。
【0033】
図1に示す光導電層は、R光に対してインピーダンス対称性を示すように制御して設計されている。そのため、露光面からR光が照射されると、電荷発生層Aおよび電荷発生層Bの双方から同程度の光キャリアが生じ、バランスが取れた状態で双方向に電荷輸送層内を移動して抵抗値を低下させるため、対称な交流光スイッチ機能が発現する。
【0034】
ところが、R光に対してインピーダンス対称性を示すように制御された図1に示される光導電層は、電荷発生層が吸収スペクトルに波長分散を示す(つまり、吸収係数が波長に対して一定ではない=何らかの色を有する)場合には、全ての波長域で上下電荷発生層の吸光度比を対称に設計することができないため、原則として必然的にB光やG光に対してはインピーダンス対称性を示すことは無い。このようにインピーダンス対称性を有しない状態を、本発明においては「インピーダンス非対称性」と称する。図1に示されるB光やG光における矢印の対のように、インピーダンス非対称性を示す状態であれば、電荷輸送層内の光キャリア量が電場方向によって異なってしまう。
【0035】
図2に、ある1つの光導電層において、その光導電層とは異なる光導電層に露光するアドレス光(図1で言えば、B光やG光。以下、このように他層へのアドレス光のことを「非アドレス光」という場合がある。)の光強度に対する光導電層の導電率の変化を、それぞれ一方の電荷発生層のみが作用する方向に電場を印加した状態についてグラフにて示す。図2のグラフからわかるように、非アドレス光に対しては、電場印加方向によって光導電層の電気特性にシフトが生じているのがわかる。
【0036】
すなわち、光強度が弱い(1)の領域や、十分に強い(3)の領域では、電場方向による導電率に大きな開きは無いが、その途中段階の光強度において過渡的に電荷発生層AおよびBの作用する導電率に大きな開きが生ずる。これは、図2のグラフからもわかるように、電荷発生層Aよりも電荷発生層Bが作用する電場方向の方が、非アドレス光の光強度の増加に対して遅れて導電率上昇が生じている(シフトが生じている)ために起こる現象である。
【0037】
図3に、この(1)〜(3)の各領域の光強度で、所定の電圧を印加しつつ、非アドレス光を照射し続けた場合の、液晶層に印加される電圧(分圧)を時系列で表すチャートを示す。図3に示されるように、いずれの領域においても液晶層に印加される電圧がバイアスされていくが、インピーダンス非対称性が大きく作用する(2)の領域では、他の領域(1)や(3)に比して、大きくバイアスされていることがわかる。
【0038】
すなわち、光強度の増加(領域(1)→領域(2))と共に、液晶層に印加される電圧が大きくバイアスされ、光強度が飽和域になる(領域(3))とバイアス電圧は再度小さくなる。図3を見てもわかるとおり、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した時点で、領域(1)ではVb1、領域(2)ではVb2、および領域(3)ではVb3の各バイアス電圧が生じ、かつ残留した状態となっており、領域(2)のバイアス電圧Vb2が、他の領域(1)および(3)のバイアス電圧Vb1およびVb3に比して大きくなる。
【0039】
図4に、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後における、インピーダンス非対称性に基づくバイアス電圧の値と、最終的に安定した際の液晶層の光反射率との関係を表すグラフを示す。このグラフは、非アドレス光の照射により書き込まれた状態(ホメオトロピック相)が、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後に残留するバイアス電圧により最終的にどのようになるかを表したものであると言える。
【0040】
図4に示されるグラフからは、図中の境界電圧Vbbを超えると、非アドレス光の照射により書き込まれた状態(ホメオトロピック相)が、フォーカルコニック相に相変化することが読み取れる。図中の境界電圧Vbbを超えなければ、一般的にホメオトロピック相状態の液晶が、印加電圧を除した際に最終的にプレーナ相状態となるが、このように境界電圧Vbbを超えると、プレーナ相ではなくフォーカルコニックに相変化する。
【0041】
領域(2)の場合に生じたバイアス電圧Vb2は、この境界電圧Vbbを超え、フォーカルコニック相に相変化している。すなわち、非アドレス光のクロストークにより、所望としないホメオトロピック相への相変化が生じても(つまり、通常はその後プレーナ相に変化して誤った画像書込みが為されてしまうケースにおいても)、領域(2)の場合には、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後に残留するバイアス電圧Vb2によりフォーカルコニック相に戻され、あたかも非アドレス光の影響を受けていないかのような状態となっている。
【0042】
以上のことから、図5に示す結果が導かれる。ここで、図5は、アドレス光および非アドレス光の光強度と、所定の印加電圧を解除し、アドレス光または非アドレス光の照射を終了した後における、液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。当該グラフにおいては、アドレス光は実線で、非アドレス光は点線で描かれている。
【0043】
すなわち、光導電層が3層構成である光アドレス型光変調層を含む光アドレス型空間光変調素子においては、図5に示されるように、アドレス光が照射された場合には、光強度の増加に応じて飽和領域まで光反射率が漸増し続けるが、非アドレス光が照射された場合には、光強度の増加に対して漸増傾向から一旦鈍化して、再度増加に転じて飽和領域に達する傾向が見られる。この漸増傾向から一旦鈍化する光強度の領域が、上記領域(2)に相当し、それ以下の光強度の領域が領域(1)、および、それ以上の光強度の領域が領域(3)に相当する。
【0044】
そして、アドレス光の強度として、この領域(2)に相当する光強度を採用することで、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層に対しては、相変化による十分な光反射が得られ、対象とならない光アドレス型光変調層に対しては、それは非アドレス光となり、相変化を生じさせず光反射を抑えることができる。
【0045】
本発明は、この原理を応用したものであり、上記領域(2)が、本発明に言う「特定領域」となる。すなわち、本発明では、アドレス光の光強度を、この「特定領域」となるようにしており、他の光アドレス型光変調層に対しては、当該層にとって非アドレス光となるこの光の影響から逃れることができ、クロストークの懸念が解消ないし抑制される。
【0046】
例えば、図16の例で言えば、クロストークの問題が生じるBC、BMおよびGCの各矢示部分において、アドレス光Bおよび/またはアドレス光Gの光強度を、光変調層(光導電層)Gおよび/または光変調層(光導電層)Rにとっての「特定強度」とすることで、これら部分におけるクロストークの懸念が解消ないし抑制される。
【0047】
この「特定領域」は、既述の通り、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する領域を指すが、この「漸増傾向から最初に鈍化」の「鈍化」は、図5のグラフにおける領域(2)のように、明確に光反射率の底(ボトム)が現れるような領域は勿論、そのような明確な底は無いものの、漸増傾向が一旦弱まるグラフを描く場合の当該領域をも含む概念であることを表す表現である。
【0048】
勿論、当該「特定領域」としては、明確に光反射率の底(ボトム)が現れる場合のその周辺領域、換言すれば「光反射率が極小値ないしその周辺の領域」であることが好ましい。このようにグラフ上極小値が表れるようにするには、光導電層における各層の材料の選択やその配合割合、各層の厚み、あるいは照射する光のスペクトル等を適切に調整することで実現することができる。
なお、当該「特定領域」を定義付ける「漸増傾向から最初に鈍化」の「最初」とは、光強度の大きな領域(3)において、光反射率が飽和する際の「鈍化」を含めない意図である。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、コレステリック液晶による表示層と光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねて複数色の色重ね画像を形成することが可能な光アドレス型空間光変調素子に対して、クロストークによる色再現性の低下を防止し得る駆動方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明を図面に則して詳細に説明する。
図6は、本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様の概略構成図である。当該本実施形態のシステムは、表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)1と書き込み装置(光アドレス型空間光変調素子の駆動装置)2とからなる。この両構成要素について、詳細に説明してから、その動作について説明する。
【0051】
<表示媒体>
本実施形態において表示媒体とは、アドレス光の照射、バイアス信号の印加によって光アドレス動作ができる部材であり、具体的には光アドレス型空間光変調素子である。
本実施形態において、表示媒体1は、表示面側から順に、外部基板6、光変調層4BG、内部基板8、光変調層4Rおよび外部基板7が積層されてなる物である。
【0052】
また、2つの光変調層4BG,4Rは、それぞれ表示面側から順に、透明電極(電極)10BG,10R、表示層(液晶層)12BG,12R、ラミネート層13BG,13R、遮光層14BG,14R、OPC層(光導電層)15BG,15R、および透明電極(電極)11BG,11Rが積層されてなる物である。
以下、各構成部材ごとに説明する。
【0053】
[外部基板および内部基板]
外部基板6,7および内部基板8は、各機能層を内面に保持し、表示媒体の構造を維持する目的の部材である。これら基板は、外力に耐える強度を有するシート形状の物体であり、表示面側の外部基板6は少なくとも入射光を、書き込み面側の外部基板7は少なくともアドレス光を、内部基板8は少なくとも入射光およびアドレス光を、それぞれ透過する。フレキシブル性を有することが好ましい。
【0054】
これら基板の具体的な材料としては、無機シート(たとえばガラス・シリコン)、高分子フィルム(たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート)等を挙げることができる。外部基板6,7については、外表面に、防汚膜、耐磨耗膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0055】
[光変調層]
2つの光変調層4BG,4Rは、表示色(液晶が反射する色)ないし駆動色(OPC層が吸収する色)がそれぞれの設定値になるように、各材料が適切に選択される等調整されている他、具体的な構成は同一であるため、これらをまとめて述べる。以下の説明の中で、符号にアルファベットの記号(BGおよびR)が付されていない場合には、2つの光変調層4BG,4Rに共通する内容である。
【0056】
(透明電極)
透明電極10,11は、書き込み装置2から印加されたバイアス電圧を、表示媒体1内の各機能層へ面均一に印加する目的の部材である。透明電極10,11は、面均一な導電性を有し、少なくとも入射光およびアドレス光を透過する。具体的には、金属(たとえば金、アルミニウム)、金属酸化物(たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO))、導電性有機高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などで形成された導電性薄膜を挙げることができる。表面に、密着力改善膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0057】
(表示層)
本発明において表示層(液晶層)とは、電場によって入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、選択した状態が無電場で保持できる性質のものである。表示層としては、曲げや圧力などの外力に対して変形しない構造であることが好ましい。
【0058】
本実施形態において表示層としては、コレステリック液晶および透明樹脂からなる自己保持型液晶複合体の液晶層が形成されてなるものが例示されている。すなわち、複合体として自己保持性を有するためスペーサ等を必要としない液晶層である。本実施形態では、図6に示されるように、高分子マトリックス(透明樹脂)16中にコレステリック液晶17が分散した状態となっている。
【0059】
コレステリック液晶17は、入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、液晶分子がらせん状に捩れて配向しており、らせん軸方向から入射した光のうち、らせんピッチに依存した特定の光を干渉反射する。電場によって配向が変化し、反射状態を変化させることができる。ドロップサイズが均一で、単層稠密に配置されていることが好ましい。
【0060】
コレステリック液晶17として使用可能な具体的な液晶としては、ステロイド系コレステロール誘導体、あるいはネマチック液晶やスメクチック液晶(たとえばシッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、シクロヘキシルカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキサン系、トラン系、アルケニル系、スチルベン系、縮合多環系)、またはこれらの混合物に、カイラル剤(たとえばステロイド系コレステロール誘導体、シッフ塩基系、アゾ系、エステル系、ビフェニル系)を添加したもの等を挙げることができる。
【0061】
コレステリック液晶の螺旋ピッチは、液晶分子の化学構造や、ネマチック液晶に対するカイラル剤の添加量で調整する。本実施形態のように、表示色を青緑(BG)、赤(R)とする場合には、それぞれ選択反射の中心波長が、400nm〜600nm、600nm〜700nmの範囲になるようにする。また、コレステリック液晶の螺旋ピッチの温度依存性を補償するために、捩じれ方向が異なる、または逆の温度依存性を示す複数のカイラル剤を添加する公知の手法を用いてもよい。
【0062】
表示層12がコレステリック液晶17と高分子マトリックス(透明樹脂)16からなる自己保持型液晶複合体を形成する形態としては、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造(マイクロカプセル化されたものを含む)などを採用することができる。なお、特にPNLC構造やPDLC構造とすることによって、コレステリック液晶と高分子の界面にアンカリング効果を生じ、無電界でのプレーナ相またはフォーカルコニック相の保持状態を、より安定にすることができる。
【0063】
PNLC構造やPDLC構造は、高分子と液晶とを相分離させる公知の方法、例えば、アクリル系、チオール系、エポキシ系などの、熱や光、電子線などによって重合する高分子前駆体と液晶を混合し、均一相の状態から重合させて相分離させるPIPS(Polymerization Induced PhaseSeparation)法、ポリビニルアルコールなどの、液晶の溶解度が低い高分子と液晶とを混合し、懸濁させて、液晶を高分子中にドロップレット分散させるエマルジョン法、熱可塑性高分子と液晶とを混合し、均一相に加熱した状態から冷却して相分離させるTIPS(Thermally Induced Phase Separation)法、高分子と液晶とをクロロホルムなどの溶媒に溶かし、溶媒を蒸発させて高分子と液晶とを相分離させるSIPS(Solvent Induced Phase Separation)法などによって形成することができるが、特に限定されるものではない。
【0064】
高分子マトリックス16は、コレステリック液晶17を保持し、表示媒体1の変形による液晶の流動(画像の変化)を抑制する機能を有するものであり、液晶材料に溶解せず、液晶と相溶しない液体を溶剤とする高分子材料が好適に用いられる。また、高分子マトリックス16としては、外力に耐える強度を持ち、少なくとも反射光およびアドレス光に対して高い透過性を示す材料であることが望まれる。
【0065】
高分子マトリックス16として採用可能な材料としては、水溶性高分子材料(たとえばゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸系ポリマー、エチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアミジン、イソプレン系スルホン酸ポリマー)、あるいは水性エマルジョン化できる材料(たとえばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0066】
(OPC層)
OPC層(光導電層)15は、書き込み装置2から照射されたアドレス光パターンに基づき、表示層12に印加される電圧を変調する層であり、内部光電効果を持ち、アドレス光の照射強度に応じてインピーダンス特性が変化する性質を有する。AC動作が可能であり、既述の如く、アドレス光に対してインピーダンス対称性、非アドレス光に対してインピーダンス非対称性を示すように制御する。
【0067】
本発明においては、本実施形態のように電荷発生層(CGL)が電荷輸送層(CTL)の上下に積層された3層構造であることが必須である。本実施形態では、OPC層15として、図6における上層から順に上側の電荷発生層18、電荷輸送層19および下側の電荷発生層20が積層されてなる。
【0068】
電荷発生層18,20は、アドレス光を吸収して光キャリアを発生させる機能を有する層である。主に、電荷発生層18が表示面側の透明電極10から書き込み面側の透明電極11の方向に流れる光キャリア量を、電荷発生層20が書き込み面側の透明電極11から表示面側の透明電極10の方向に流れる光キャリア量を、それぞれ左右している。電荷発生層18,20としては、アドレス光を吸収して励起子を発生させ、電荷発生層内部、または電荷発生層/電荷輸送層界面で自由キャリアに効率良く分離させられるものが好ましい。
【0069】
電荷発生層18,20は、電荷発生材料(たとえば金属又は無金属フタロシアニン、スクアリウム化合物、アズレニウム化合物、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスやトリス等アゾ顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール色素、多環キノン顔料、ジブロモアントアントロンなど縮環芳香族系顔料、シアニン色素、キサンテン顔料、ポリビニルカルバゾールとニトロフルオレン等電荷移動錯体、ピリリウム塩染料とポリカーボネート樹脂からなる共昌錯体)を直接成膜する乾式法か、またはこれら電荷発生材料を、高分子バインダー(たとえばポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルカルバゾール樹脂、ビニルホルマール樹脂、部分変性ビニルアセタール樹脂、カーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0070】
電荷発生層18,20は、その吸光係数を、アドレス光に対して高く、非アドレス光に対して低くなるように波長分散させる。この波長分散の程度(吸収スペクトル)や、顔料の濃度、膜厚を最適化することで、アドレス光に対するインピーダンスの対称性、並びに、非アドレス光に対する所望のインピーダンス非対称性を示すように制御すればよい。
【0071】
電荷輸送層19は、電荷発生層18,20で発生した光キャリアが注入されて、バイアス信号で印加された電場方向にドリフトする機能を有する層である。一般に電荷輸送層は、電荷発生層の数10倍の厚みを有するため、電荷輸送層19の容量、電荷輸送層19の暗電流、および電荷輸送層19内部の光キャリア電流が、OPC層15全体の明暗インピーダンスを決定付けている。
【0072】
電荷輸送層19は、電荷発生層18,20からの自由キャリアの注入が効率良く発生し(電荷発生層18,20とイオン化ポテンシャルが近いことが好ましい)、注入された自由キャリアができるだけ高速にホッピング移動するものが好適である。暗時のインピーダンスを高くするため、熱キャリアによる暗電流は低い方が好ましい。
【0073】
電荷輸送層19は、低分子の正孔輸送材料(たとえばトリニトロフルオレン系化合物、ポリビニルカルバゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、ベンジルアミノ系ヒドラゾンあるいはキノリン系ヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、ベンジジン系化合物)、または低分子の電子輸送材料(たとえばキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、フルフレオン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物)を、高分子バインダー(たとえばポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、含珪素架橋型樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させたもの、あるいは上記正孔輸送材料や電子輸送材料を高分子化した材料を適当な溶剤に分散ないし溶解させたものを調製し、これを塗布し乾燥させて形成すればよい。
【0074】
(遮光層)
遮光層14とは、書き込み時にアドレス光と入射光を光学分離し、相互干渉による誤動作を防ぐ目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ただし、表示媒体1の性能向上のためには、設けることが望まれる層である。その目的から、遮光層14には、少なくとも電荷発生層の吸収波長域の光を吸収する機能が要求される。
【0075】
遮光層14は、具体的には、無機顔料(たとえばカドミウム系、クロム系、コバルト系、マンガン系、カーボン系)、または有機染料や有機顔料(アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、トリフェニルメタン系、ニトロ系、フタロシアニン系、ペリレン系、ピロロピロール系、キナクリドン系、多環キノン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系、アントロン系)をOPC層15の電荷発生層18側の面に直接成膜する乾式法か、あるいはこれらを高分子バインダー(たとえばポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0076】
(ラミネート層)
ラミネート層13は、それぞれ上下基板(外部基板6、内部基板8および外部基板7の3つの基板の2つの相互間の上下の基板)内面に形成された各機能層を貼り合わせる際に、凹凸吸収および接着の役割を果たす目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ラミネート層13は、ガラス転移点の低い高分子材料からなるものであり、熱や圧力によって表示層12と遮光層14とを密着・接着させることができる材料が選択される。また、少なくとも入射光およびアドレス光に対して透過性を有することが条件となる。
ラミネート層13に好適な材料としては、粘着性の高分子材料(たとえばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂)を挙げることができる。
【0077】
<書き込み装置>
本実施形態において書き込み装置(光アドレス型空間光変調素子の駆動装置)2とは、表示媒体1に画像を書き込む装置であり、表示媒体1に対してアドレス光の照射を行う光照射部(露光装置)23および表示媒体1にバイアス電圧を印加する電圧印加部(電源装置)22を主要構成要素とし、さらにこれらの動作を制御する制御回路21が配されてなる。
【0078】
(光照射部)
光照射部(露光装置)23は、像様となる各色の所定のアドレス光パターンを表示媒体1に照射する機能を有し、制御回路21からの入力信号に基づき、表示媒体1上(詳しくは、OPC層上)に所望の光画像パターン(スペクトル・強度・空間周波数)を照射できるものであれば特に制限されるものではない。
【0079】
光照射部23の構造としては、具体的には下記構造のものが挙げられる。
(1−1)光源(たとえば、冷陰極管、キセノンランプ、ハロゲンランプ、LED、EL等)をアレイ状に配置したものや、光源と導光板とを組み合せたもの、などの均一な光源。
(1−2)光パターンを作る調光素子(たとえば、LCD、フォトマスクなど)の組み合わせ。
(2)面発光型ディスプレイ(たとえばCRT、PDP、EL、LED、FED、SED)。
(3)上記(1−1)、(1−2)あるいは(2)と光学素子(たとえばマイクロレンズアレイ、セルホックレンズアレイ、プリズムアレイ、視野角調整シート)との組み合わせ。
【0080】
照射するアドレス光は、対象となる特定の光変調層4(4BGまたは4R)を選択的に動作させる光信号源であり、明時(照射時)には、光導電層15における電荷発生層18,20が照射されたフォトンを吸収して励起子を生成する。
照射するアドレス光は、対象となる特定の光導電層15における吸収波長域のエネルギーができるだけ多く、かつその他の光導電層15における吸収波長域のエネルギーができるだけ少ないことが好ましい。また、照射するアドレス光としては、対象となる特定の光導電層15(15BGまたは15R)の吸収波長域内にピーク強度を有し、できるだけバンド幅の狭い光であることが好ましい。
【0081】
照射するアドレス光の照射強度については、対象となる特定の光変調層15のコントラストができるだけ大きく、かつその他の光導電層15の誤動作ができるだけ小さくなる最適値をパラメータ実験で選択するのが一般的であるが、この照射強度については本発明のポイントであり、後に詳述する。
【0082】
(電圧印加部)
電圧印加部(電源装置)22は、所定のバイアス電圧を表示媒体1に印加する機能を有し、制御回路21からの入力信号に基づき、表示媒体(各電極間)に所望の電圧波形を印加できるものであればよい。ただし、AC出力ができ、高いスルーレートが要求される。電圧印加部22には、例えばバイポーラ高電圧アンプなどを用いることができる。
【0083】
電圧印加部22による表示媒体1への電圧の印加は、接触端子24BG,24R,25BG,25R(以下、単に「接触端子24,25」と表す。)を介して、透明電極10−透明電極11間に為される。
ここで接触端子24,25とは、電圧印加部22および表示媒体1(透明電極10,11)に接触して、両者の導通を行う部材であり、高い導電性を有し、透明電極10,11および電圧印加部22との接触抵抗が小さいものが選択される。表示媒体1と書き込み装置2とを切り離すことができるように、透明電極10,11と電圧印加部22とのどちらか、あるいは両者から分離できる構造であることが好ましい。
【0084】
接触端子24,25としては、金属(たとえば金・銀・銅・アルミ・鉄)、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などでできた端子で、電極を挟持するクリップ・コネクタ形状のものが挙げられる。
【0085】
透明電極10−透明電極11間に印加する電圧としては、対象となる光変調層4を動作させる電圧である。透明電極10−透明電極11間に所望の電界を発生させることで、光導電層15における光キャリアの生成や移動、コレステリック液晶17の配向変化のエネルギーを与える。
この印加電圧としては、表示層12への分圧が、アドレス光の露光時(明時)にプレーナ相またはフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値電圧を超え、アドレス光が露光されなかった時(暗時)に該しきい値未満になるような電圧が印加される。
【0086】
また、該印加電圧の周波数としては、光導電層15の明暗インピーダンス比が、上記所望の電圧変化を生じさせられる周波数とすることが好ましい。あまりに高周波になると、電荷輸送層の移動度に律速される明電流の低下、容量成分の電流寄与による暗電流の増加等が生じて、十分な明暗インピーダンス比が取れなくなる場合がある。
さらに、該印加電圧の波形としては、少なくとも波形終端が急峻にゼロに変化する形状であることが望ましい。この変化が鈍いと、後述する表示期間におけるホメオトロピック相状態からプレーナ相状態への配向変化が阻害されてしまう場合がある。
【0087】
(制御回路)
制御回路21は、外部(画像取り込み装置、画像受信装置、画像処理装置、画像再生装置、あるいはこれらの複数の機能を併せ持つ装置等)からの画像データに応じて、電圧印加部22および光照射部23の動作を適宜制御する機能を有する部材である。
【0088】
<動作>
図6にて例示したシステムを用いて、本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法の動作について、以下に詳細に説明する。
【0089】
図7に、コレステリック液晶の相変化の一覧を模式的に示す。プレーナ相(P)を初期状態とした場合には、印加電圧に応じてフォーカルコニック相(F)、あるいはホメオトロピック相(H)へと変化し、フォーカルコニック相(F)を初期状態とした場合には、印加電圧に応じてホメオトロピック相(H)へと変化する。
【0090】
一方、適切な電圧を印加してホメオトロピック相の状態(H)を維持している場合に、通常、その印加電圧の大きさや降下速度に応じて、フォーカルコニック相(F)に戻るか、あるいは過渡プレーナ相(TP)を経てプレーナ相(P)に変化する。ただし、過渡プレーナ相(TP)の状態において、再度適切な電圧を印加した場合には、フォーカルコニック相(F)に変化して安定する。
【0091】
図8は、表示媒体1における光変調層4BGに対するアドレス光(BG光)照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層12BGにおける液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
前表示期間では、表示媒体1は前表示(前書き込み)状態を維持したままで、制御信号・画像データの取り込みや制御回路21でのデータ変換などが行われている。表示媒体1を書き込み装置2から切り離していた場合は、所定の位置へのセットおよび接触端子24BG,25BG,24R,25Rとの接続を行う。
【0092】
前表示期間において表示層(液晶層)12BGは、プレーナ相(P)またはフォーカルコニック相(F)の状態で安定している。
この前表示期間は、制御信号・画像データの取り込みや制御回路21でのデータ変換、表示媒体1のセットなど、書き込みに必要な前処理を行うのに十分な時間以上が確保される。
【0093】
次に書き込み期間(書き込み工程)で、表示媒体1への画像の書き込みが行われる。具体的には、表示層12BGに印加される分圧が、露光時(明時)にはコレステリック液晶17におけるプレーナ相(P)ないしフォーカルコニック相(F)からホメオトロピック相(H)への相変化のしきい値を超え、非露光時(暗時)にはコレステリック液晶17におけるプレーナ相からフォーカルコニック相(F)ヘの相変化のしきい値を超え、かつプレーナ相ないしフォーカルコニック相(F)からホメオトロピック相(H)への相変化のしきい値を超えない程度の電圧を透明電極10BG,11BG間に印加しつつ(図8のチャートにおいては、透明電極10BG,11BG間に印加される電圧ではなく、表示層12の分圧(実効電圧)として示されている。)、表示媒体1を露光面側(外部基板7側)から画像様に露光する。
【0094】
図8を用いて説明すると、透明電極10BG,11BG間に所定の電圧が印加された際の表示層12BGへの実効電圧VLdのみ(暗時)では、フォーカルコニック相状態にあるものはそのままの状態で推移し、プレーナ相状態にあるものはフォーカルコニック相に相変化する。これに対して、アドレス光が照射されると、光導電層15BGの抵抗が下がり、表示層12BGへの分圧が上昇して実効電圧がVLpになる。すると、表示層12BGにおけるコレステリック液晶17BGがプレーナ相またはフォーカルコニック相からホメオトロピック相に相変化するしきい値を超え、ホメオトロピック相状態になる。
以上のように、当該書き込み期間では、アドレス光の露光および非露光が像様に選択され、これにより表示媒体への書き込みが行われる。ただし、この段階では、表示媒体1に反射画像はまだ形成されていない。
【0095】
この書き込み期間の所要時間は、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化に必要かつ十分な時間であればよい。一般的なコレステリック液晶では、プレーナ相からフォーカルコニック相への配向変化に最も時間がかかるため、本工程に要する時間は比較的長い。一概には言えないが、具体的には、200ms程度の時間が必要である。
なお、当該書き込み期間においては、透明電極10BG,11BG間への所定の電圧は常に印加する。一方、アドレス光についても、書き込み期間中常に照射していることが好ましいが、動作に影響がない範囲であれば、点滅させても構わない。
【0096】
最後に、表示期間では、書き込み期間で印加していた電圧を解除するとともに、アドレス光の照射も終了する。印加電圧が無くなり、コレステリック液晶の配向が無電場のメモリ状態に変化することで表示媒体1に画像が表示される。アドレス光が照射された画像の明部では、ホメオトロピック相からプレーナ相への相変化が生じ、暗部ではフォーカルコニック相がそのままの状態を維持する。
この工程の所要時間は、各配向変化に必要な時間以上であればよい。バイアス信号およびアドレス光が必要ないので、書き込み装置2から表示媒体1が切り離されていても構わない。
【0097】
以上のアドレス光照射時の動作は、光変調層4Rに対しても全く同様(勿論、書き込まれる画像の形状は通常異なる。)に、かつ、同時に為される。ただし、光変調層4BGにとってアドレス光であるBG光は、光変調層4Rにとっては非アドレス光となる。そのため、光照射部(露光装置)23からBG光が照射された際にそれが直接露光される光変調層4Rにおいて、通常クロストークの懸念が生ずるが、本実施形態では、光照射部23から照射されるBG光の強度が既述の「特定領域」であるため、クロストークの懸念が払拭される。
【0098】
図9は、表示媒体1における光変調層4Rに対する、非アドレス光(BG光)照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層12Rにおける液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。なお、アドレス光(R光)が同時に照射される画素(つまり表示層12Rが元々反射状態になる部位)ではクロストークの影響を考慮する必要がないため、この例では、アドレス光(R光)が照射されていない画素について示す。
前表示期間は、勿論アドレス光照射時と同様である。
【0099】
そして、書き込み期間(書き込み工程)で、所定の電圧が印加された状態で非アドレス光であるBG光が照射されると、表示層12Rにかかる分圧(実効電圧)は、図9中の実線のパルスから点線のパルスへと変わり、この電圧の上昇が大きい場合には、プレーナ相ないしフォーカルコニック相がホメオトロピック相に変化する。このとき、BG光の強度は既述の「特定領域」となっており、OPC層15Rの電荷発生層18R,20RにおけるBG光に対するインピーダンス非対称性から、点線で示されるパルスのように、パルス全体が徐々にバイアスされて行く。そして、電圧の印加が解除されBG光の照射が終了する時点で、図9に示されるVLbの分だけバイアス電圧が生じた状態となっている。
【0100】
最後に、表示期間では、書き込み期間で印加していた電圧を解除するとともに、BG光の照射も終了すると、透明電極10R,11R間に印加していた電圧は無くなるもののバイアス電圧VLbが残留した状態となっており、結果、バイアス電圧VLbが表示層12に作用して、ホメオトロピック相がフォーカルコニック相に変化して、安定する。
【0101】
以上は、非アドレス光であるBG光が照射された、いわゆる明時の場合の相変化のみについて説明しているが、非アドレス光であるBG光の照射の無い、いわゆる暗時の場合には、図8を用いて説明したアドレス光に対する暗時の場合と同様であり、書き込み期間でプレーナ相状態の部位を含めて全てフォーカルコニック相状態に揃えられた後、そのままの状態を保持したまま表示期間まで推移する。
以上のような経路を辿って、非アドレス光であるBG光に対しては、明時暗時共に最終的にフォーカルコニック相に揃えられるため、全体として、クロストークの問題が解消されている。
【0102】
以上の各動作が為される状態で、光照射部(露光装置)23から表示媒体1の露光面(外部基板7側の面)側に、所望の像様にBG光およびR光を照射すると、BG光は光変調層4Rを透過して光変調層BGのOPC層15BGで吸収され、表示層12BGが駆動される。光変調層4Rを透過する際、BG光が「特定領域」の強度であるため、クロストークの問題が解消ないし抑制され、光変調層4Rの発色に影響を与えない。吸収されなかったBG光は、遮光層14BGで吸収される。
【0103】
一方、R光は光変調層RのOPC層15Rで吸収され、表示層12Rが駆動される。吸収されなかったR光は、遮光層14Rで吸収され、それよりも上層には進行しない。したがって、光変調層BGには到達せず、クロストークの問題が最初から生ずることが無い。
【0104】
以上のように、本発明の構成を具備する本実施形態によれば、表示面側に位置する光変調層BGにおける書き込み工程で露光するBG光の強度を、当該光変調層4BGよりも露光面側に位置する光変調層4Rの前記「特定領域」となる強度とすることにより、光変調層4RのOPC層15Rでのクロストークの問題を解消している。したがって、混色の無い色再現性の高い良好なカラー画像を形成することができる。
【0105】
本実施形態では、光変調層4Rに遮光層14Rが配されているため、R光の強度については不問であるが、これが配されていない場合には、勿論、光変調層4BGのOPC層15BGでのクロストークの問題を解消すべく、光変調層Rにおける書き込み工程で露光するR光の強度を、光変調層4BGの前記「特定領域」となる強度とすることが好ましい。
【0106】
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、以上の実施形態では、光アドレス型光変調層(光変調層)が2層構成のもののみを具体例として挙げて説明しているが、本発明において選択反射層は2層に限られるものではなく、3層以上の構成とすることもできる。3層構成として、各層の発色をブルー、グリーンおよびレッドとして加法混色して得られるフルカラー画像についても、本発明を適用することにより、混色の無い色再現性の高い良好な画質の画像を得ることができる。
【0107】
光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、どの光アドレス型光変調層に対するアドレス光の強度を、どの光アドレス型光変調層の光導電層に対しての「特定領域」とするかは、特に制限は無いが、少なくとも1つ以上の組み合わせにおいて「特定領域」とすれば、その組み合わせにおけるアドレス光と光アドレス型光変調層との関係においては、クロストークの問題が解消ないし抑制されるという、本発明による卓越した効果が発現される。
【0108】
どの光アドレス型光変調層においても、また、どのアドレス光に対してもクロストークの問題を解消するには、該光アドレス型光変調層に前記遮光層を含まない場合、全ての組み合わせにおいて「特定領域」となるように調整する必要がある。ただし、該光アドレス型光変調層が前記遮光層を備える場合には、最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光(アドレス光)の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記「特定領域」となる強度とすればよい。
【0109】
光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、必要に応じて、前記「特定領域」が、相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成することが望まれる。前記「特定領域」が相互に重なっていないと、前記書き込み工程で露光する光の強度を、これら複数層に対して「特定領域」とすることができなくなってしまうためである。光アドレス型光変調層中の光導電層やアドレス光の周波数の制御による特定領域の調整については、後述する。
【0110】
<特定領域の調整>
「特定領域」は、既述の通り、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する領域と定義付けられる。これは、図5のグラフにおける領域(2)のように、明確に光反射率の底(ボトム)が現れるような領域は勿論、そのような明確な底は無いものの、漸増傾向が一旦弱まるグラフを描く場合の当該領域をも含む概念であり、好ましくは、前者の領域(換言すれば「光反射率が極小値ないしその周辺の領域」)となるように光アドレス型光変調層中の光導電層を制御することで、予め特定領域を調整した光アドレス型空間光変調素子を用いることが好ましい。
また、この特定領域における前記光反射率としては、できる限り0に近いことが望まれ、図5のグラフにおける領域(2)では、底が0を示しているため、ほぼ理想の特定領域の光反射率となっている。
【0111】
非アドレス光の照射による光アドレス型光変調層の「特定領域」を調整するためには、上下の電荷発生層における光キャリア発生量の差によって生じる空間蓄積電荷量を制御して、書き込み工程終了時点でのバイアス電圧を制御すればよい。図10に、光導電層の吸収スペクトルがバイアス電圧に及ぼす影響の一例を示す。
【0112】
ここで図10は、例示としての光導電層について、非アドレス光とアドレス光との吸収係数をそれぞれ変化させた場合における、書き込み工程終了時のバイアス電圧の値の推移を示すグラフである。図10において、横軸は、非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を非アドレス光/アドレス光の比として表し、縦軸は、書き込み工程終了時点でのバイアス電圧を示す。また、グラフAは電荷発生層全体の吸光量が小さい場合、グラフBは電荷発生層全体の吸光量が大きい場合、についてそれぞれ示す。
【0113】
このように、光導電層の非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を制御することによって、上下電荷発生層での光キャリア発生量の差を制御でき、「特定領域」の挙動に影響を与えるバイアス電圧の大きさを調整できる。
特に、吸収係数比(非アドレス光/アドレス光)が0.2〜0.6の領域でバイアス電圧は極大値を示す傾向があり、特定領域での反射率の底(ボトム)を大きくして、できる限り0に近い状態に近づけることができる。
【0114】
実際には、電荷発生材料の化学構造や結晶構造を選択して吸収スペクトルを設計することによって、光導電層の非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を制御でき、グラフ化した際の特定領域の形状を調整することができる。
また、アドレス光の発光スペクトルを設計することによっても、光導電層の非アドレス光とアドレス光に対する吸収係数の差を制御でき、グラフ化した際の特定領域の形状を調整することができる。
【0115】
一方、既述の通り、光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、必要に応じて、前記「特定領域」が、相互に重なるようにその位置(光強度)についても調整することが望まれている。
【0116】
図10に示されるように、電荷発生層全体の吸光量を制御することで、バイアス電圧の大きさは変化する。したがって、図10のグラフ中、横軸で示される非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差、並びに、電荷発生層全体の吸光量を設計することによって、アドレス光に対して反射率変化が生じる光強度、および非アドレス光に対して特定領域が発生する光強度の関係を任意に設定でき、光アドレス型光変調層が3層以上の場合において、「特定領域」が、相互に重なるようにその位置(光強度)を調整することができる。
電荷発生層全体の吸光量を調整するには、電荷発生物質の吸収係数や膜内濃度、電荷発生層の膜厚を適宜設計すればよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を、実施例を挙げることで、より具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
まず、本発明および比較例に供する光アドレス型空間光変調素子(表示媒体)および書き込み装置からなるシステムとして、図6に記載の各装置を試作して、実施例1、比較例1および2の書き込み操作を行った。試作した表示媒体1は、光変調層が4BGおよび4Rの2層構成のものである。図6を参照しつつ説明する。
【0118】
(OPC層15Rの作製)
片面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された125μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,ハイビーム)を50.8mm(2インチ)角に切り出して、外部基板7および透明電極11Rとした。
【0119】
さらにこのITO(透明電極11R)側の面に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(チタンフタロシアニン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.2μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層20Rを形成した。
【0120】
次にその上に、ポリカーボネート樹脂と電荷輸送材料(ベンジジンN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)をモノクロロベンゼンに溶解した塗料を、ギャップコート法によって乾燥膜厚が6μmになるように塗布・乾燥し、電荷輸送層19Rを形成した。さらにその上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に、電荷発生材料(チタニルフタロシアニン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.35μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層18Rを形成して、電荷発生層20R、電荷輸送層19R、電荷発生層18Rの3層からなるOPC層15Rを形成した。
【0121】
両面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された50μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを50.8mm(2インチ)角に切り出して、透明電極10R、内部基板8、および、光変調層4BGの構成要素となる透明電極11BGとした。
【0122】
次に透明電極11BGとなるITO層の上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(ジブロモアンスアンスロン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.2μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層20BGを形成した。次にその上に、ポリカーボネート樹脂と電荷輸送材料(ベンジジンN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)をモノクロロベンゼンに溶解した塗料を、ギャップコート法によって乾燥膜厚が6μmになるように塗布・乾燥し、電荷輸送層19BGを形成した。さらにその上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(ジブロモアンスアンスロン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.32μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層18BGを形成して、電荷発生層20BG、電荷輸送層19BG、電荷発生層18BGの3層からなるOPC層15BGを形成した。
【0123】
コレステリック液晶として、ネマチック液晶(メルク社製,E7)80.5質量%、右旋性カイラル剤(メルク社製,CB15)15.6質量%および右旋性カイラル剤(メルク社製,R1011)3.9質量%を混合して、赤色を反射する材料を調製した。
【0124】
4.2μm径のセラミック多孔質膜をセットした膜乳化装置(SPGテクノ社製,マイクロキット)を用いて、窒素圧力11.8kPa(0.12kgf/cm2)の条件下で前記コレステリック液晶を0.25質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液中に乳化した。得られたエマルジョンは、コレステリック液晶ドロップの粒径平均が14.9μmで、ほぼ単分散状態だった。
【0125】
次に、エマルジョンを静置してコレステリック液晶ドロップを沈降させ、上澄みを除去して濃縮されたエマルジョンを得た。この濃縮エマルジョン1質量部に対して、酸性法骨ゼラチン(ニッピ社製,ゼリー強度314)の7.7質量%水溶液を4質量部添加することにより、表示層用塗布液内の不揮発分体積率が約0.15、不揮発分内のコレステリック液晶体積率が約0.70の表示層用塗布液を得た。
【0126】
前記のOPC層15BGを形成した両面ITO透明電極付きPETフィルム(東レ社製ハイビーム)の片面(当該面が透明電極10R側となる)に、50℃に加熱してゼラチンをゾル状態にした前記表示層用塗布液を、塗布後のウェット膜厚が90μmになるようにギャップを調整したマイクロメータ付きアプリケータで塗布した。
【0127】
50℃/RH90%の高温高湿チャンバー内に15分間保持した後、室温下で12時間乾燥させ、表示層12Rとして、15μm径の単分散コレステリック液晶ドロップが少し偏平した形状で高分子バインダー中に単層稠密に分散された約12μm厚のPDLC層を形成した。
【0128】
OPC層15R上に、銅フタロシアニン顔料を分散させたポリビニルアルコール水溶液を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μmとなるように塗布・乾燥して、遮光層14Rを形成した。さらに当該遮光層14Rの上層として、酢酸ブチルで希釈した二液性ウレタンラミネート剤(三井武田ケミカル社製,A−315/A50)を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μm厚となるように塗布・乾燥して、ラミネート層13Rを形成した。
【0129】
以上のようにして作製した2枚の基板(OPC層15R、遮光層14R、ラミネート層13Rが層形成された外部基板7、および、OPC層15BG、表示層12Rが両側に形成された内部基板8)を、表示層12Rとラミネート層13Rとが向かい合い、かつ端面の一部が少しずれるように重ね合わせて、100℃のラミネータを通して接着し、光変調層4Rを得た。
【0130】
なお、ずらした端面上の各機能膜を除去してITO電極を露出させておき、最終的に得られる表示媒体1の外部から両透明電極10R,11Rが導通できるようにした。
【0131】
(表示層4BGの作製)
片面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された125μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,ハイビーム)を50.8mm(2インチ)角に切り出して、外部基板6および透明電極10BGとした。
【0132】
コレステリック液晶として、ネマチック液晶(メルク社製,E7)77.5質量%、右旋性カイラル剤(メルク社製,CB15)18.0質量%および右旋性カイラル剤(メルク社製,R1011)4.5質量%を混合して、緑色を反射する材料を調製した。
【0133】
4.2μm径のセラミック多孔質膜をセットした膜乳化装置(SPGテクノ社製,マイクロキット)を用いて、窒素圧力11.8kPa(0.12kgf/cm2)の条件下で前記コレステリック液晶を0.25質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液中に乳化した。得られたエマルジョンは、コレステリック液晶ドロップの粒径平均が15.0μmで、ほぼ単分散状態だった。
【0134】
得られたエマルジョンを静置してコレステリック液晶ドロップを沈降させ、上澄みを除去して濃縮されたエマルジョンを得た。この濃縮エマルジョン1質量部に対して、酸性法骨ゼラチン(ニッピ社製,ゼリー強度314)の7.7質量%水溶液を4質量部添加することにより、表示層用塗布液内の不揮発分体積率が約0.15、不揮発分内のコレステリック液晶体積率が約0.70の表示層用塗布液を得た。
【0135】
外部基板6となる片面ITO付PETフィルムのITO(透明電極10BG)側の面に、50℃に加熱してゼラチンをゾル状態にした前記表示層用塗布液を、塗布後のウェット膜厚が90μmになるようにギャップを調整したマイクロメータ付きアプリケータで塗布した。
【0136】
50℃/RH90%の高温高湿チャンバー内に15分間保持した後、室温下で12時間乾燥させ、表示層12BGとして、15μm径の単分散コレステリック液晶ドロップが少し偏平した形状で高分子バインダー中に単層稠密に分散された約12μm厚のPDLC層を形成した。
【0137】
(光変調層4BGの作製)
OPC層15BG上に、ピロロピロール顔料を分散させたポリビニルアルコール水溶液を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μmとなるように塗布・乾燥して、遮光層14BG形成した。さらに当該遮光層14BGの上層として、酢酸ブチルで希釈した二液性ウレタンラミネート剤(三井武田ケミカル社製,A−315/A50)を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μm厚となるように塗布・乾燥して、ラミネート層13BGを形成した。
【0138】
以上のようにして作製した2枚の基板(光変調層4R、OPC層15BG、遮光層14BG、ラミネート層13BGが内部基板8を介して層形成された外部基板7、および表示層12BGが形成された外部基板6)を、表示層12BGとラミネート層13BGとが向かい合い、かつ端面の一部が少しずれるように重ね合わせて、100℃のラミネータを通して接着し、表示媒体1を得た。なお、ずらした端面は、(光変調層4Rの作製)の場合と同様に処理した。
【0139】
得られた表示媒体1の透明電極10R,11Rおよび透明電極10BG,11BGに、リード線を付けた市販のミノ虫クリップ(接触端子24R,25Rおよび接触端子24BG,25BG)を接続し、リード線の他端を、電圧印加部22としての高速・高電圧アンプ(松定プレシジョン社製,HEOPT1B−60型)に接続した。該高速・高電圧アンプにより、後述するとおり、周波数50Hzの矩形波のバイアス電圧を印加した。
【0140】
一方、光源としてカラー発光ダイオード光源(CCS社製,HLV−3M−RGB型)を用い、表示媒体1の外部基板7側の面を照射できるように構成して、光照射部23を作製した。当該光照射部23により、ピーク波長625nm、バンド半値幅20nmのRed光と、ピーク波長470nm、バンド半値幅25nmのBlue光を照射することができる。
【0141】
また、制御回路21としてマルチチャンネルアナログ電力出力ボード(ナショナルインスツルメンツ社製6713型)、および制御ソフト(ナショナルインスツルメンツ社製LabVIEW)を用い、パーソナルコンピュータからの画像データに基づいて電圧印加部22および光照射部23の動作を適宜制御できるように配線した。
【0142】
なお、不図示ではあるが、表示側(外部基板6側)の表面に、表示層12の表示画像の光反射率を測定するための積分球形分光計(コニカミノルタ社製、CM2002型)を取り付けた。
以上のようにして、実施例1、比較例1および2に供する表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)1、およびそれがセットされた書き込み装置2を得た。
【0143】
[実施例1、比較例1および2]
電圧印加部22および光照射部23により、図11のチャートに示す動作の時系列に従って、実施例1においては本発明の駆動方法に基づく、比較例1および2においては比較としての電圧印加およびアドレス光の照射を行った。アドレス光は、BG光のみを照射した。
【0144】
ここで図11は、実施例1、比較例1および2の電圧印加および光アドレスの照射を時系列で示すチャートである。横軸が時間であり、縦軸が電圧値あるいは光強度を表す。4つのチャートは、上から順に、透明電極24BG−25BG間に印加する電圧BG、透明電極24R−25R間に印加する電圧R、露光面側(外部基板7側)から照射するブルー色のアドレス光の光強度BGおよびレッド色のアドレス光の光強度Rをそれぞれ表すものである。
これら印加電圧の周波数、電圧、印加時間、および、アドレス光の波長、強度、照射時間を下記表1にまとめる。
【0145】
【表1】
【0146】
(評価)
得られたBG色の表示画像について、積分球形分光計を用いて反射スペクトルを測定した。表示画像の光反射率の測定は、書き込み期間終了後、印加していたバイアス電圧を止めて(表示期間)、数秒後、表示媒体1の表示側(外部基板6側)の表面について測定した。結果を図12にグラフにて示す。
【0147】
いずれの表示画像においても550nm近傍をピーク中心とするグラフが描けているが、比較例1や2では、長波長側がブロードとなっており、BG光が光変調層4Rを透過する際のクロストークにより、長波長であるR色が誤って発色していることがわかる。
【0148】
また、BG色の再現性を確認するために、上記した反射スペクトルの測定結果から、BG色の光純度C*を求めた。結果を図13に棒グラフにて示す。図13のグラフからもわかるように、実施例1では極めて純度の高いBG色が再現できていることがわかる。
【0149】
それに比べて、クロストークの影響で混色が認められる比較例1および2は、BG色純度C*が大幅に劣り、色再現性が不十分であることがわかる。
なお、BG色純度C*とは、L*a*b*(CIE1976)空間における原点と色座標a*、b*の距離として求められる値である。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】3層構成の光導電層における各色光に対するインピーダンス対称性およびインピーダンス非対称性を説明するための模式説明図である。
【図2】光導電層の導電率の変化を、それぞれ一方の電荷発生層のみが作用する方向に電場を印加した状態について示すグラフである。
【図3】図2のグラフにおける(1)〜(3)の各領域の光強度で、所定の電圧を印加しつつ、非アドレス光を照射し続けた場合の、液晶層に印加される電圧(分圧)を時系列で表すチャートである。
【図4】印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後における、インピーダンス非対称性に基づくバイアス電圧の値と、最終的に安定した際の液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。
【図5】アドレス光および非アドレス光の光強度と、所定の印加電圧を解除し、アドレス光または非アドレス光の照射を終了した後における、液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。
【図6】本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様の概略構成図である。
【図7】コレステリック液晶の相変化の一覧を示す模式図である。
【図8】光変調層に対するアドレス光照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層における液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
【図9】光変調層に対する非アドレス光照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層における液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
【図10】例示としての光導電層における一対の電荷発生層AおよびBについて、非アドレス光とアドレス光との吸収係数をそれぞれ変化させた場合における、書き込み工程終了時のバイアス電圧の値の推移を示すグラフである。
【図11】実施例1、比較例1および2の電圧印加および光アドレスの照射を時系列で示すチャートである。
【図12】実施例1および比較例1〜3の結果を表すグラフであり、横軸に反射光の波長、縦軸に光反射率の測定結果をとり、実施例または比較例ごとにプロットしたものである。
【図13】実施例1および比較例1〜3におけるBG色純度*の結果を表すグラフである。
【図14】コレステリック液晶の分子配向と光学特性の関係を示す模式説明図であり、(A)はプレーナ相、(B)はフォーカルコニック相、(C)ホメオトロピック相の各相におけるものである。
【図15】コレステリック液晶のスイッチング挙動を説明するためのグラフである。
【図16】3層の光変調層が積層されてなる光アドレス型空間光変調素子を従来の方法での駆動する様子を説明するための模式説明図である。
【図17】レッド(R)の光変調層のOPC層(光導電層)における光の透過スペクトルのグラフである。
【符号の説明】
【0151】
1:表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)、 2:書き込み装置、 4:光変調層(光アドレス型光変調層)、 6,7:外部基板、 8:内部基板、 10,11:透明電極(電極)、 12:表示層(液晶層)、 13:ラミネート層、 14:遮光層、 15:OPC層(光導電層)、 16:高分子マトリックス、 17:コレステリック液晶、 18,20:電荷発生層、 19:電荷輸送層、 21:制御回路、 22:電圧印加部、 23:光照射部、 24,25:接触端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶および光導電体を用いて画像を表示し、記録する光アドレス型の空間光変調素子に像を書き込むための駆動方法に関する。
【背景技術】
【0002】
森林資源保護などの地球環境保全や、スペースセーブといった事務環境改善などの理由から、紙に替わるハードコピー技術として、リライタブルマーキング技術への期待が大きい。
一方、反射型液晶表示素子は、バックライトのような専用の光源を必要とせず、消費電力が少ないとともに、偏平小型に構成できることから、小型情報機器や携帯情報端末などの表示装置として注目されている。
【0003】
特にコレステリック液晶(カイラルネマチック液晶)を利用した液晶表示素子は、その相変化を利用することで、書き込みおよび消去を適宜行うことができ、また、液晶層を積層させることでフルカラー画像を形成することが可能である等、各種優れた特性を有することから注目されている。
【0004】
コレステリック液晶が示すプレーナ相は、螺旋軸に平行に入射した光を右旋光と左旋光に分け、螺旋の捩じれ方向に一致する円偏光成分をブラッグ反射し、残りの光を透過させる選択反射現象を起こす。反射光の中心波長λおよび反射波長幅Δλは、螺旋ピッチをp、螺旋軸に直交する平面内の平均屈折率をn、複屈折率をΔnとすると、それぞれ、λ=n・p、Δλ=Δn・pで表され、プレーナ相のコレステリック液晶層による反射光は、螺旋ピッチに依存した鮮やかな色を呈する。
【0005】
正の誘電率異方性を有するコレステリック液晶は、図14(A)に示すように、螺旋軸がセル表面に垂直になり、入射光に対して上記の選択反射現象を起こすプレーナ相、図14(B)に示すように、螺旋軸がほぼセル表面に平行になり、入射光を少し前方散乱させながら透過させるフォーカルコニック相、および図14(C)に示すように、螺旋構造がほどけて液晶ダイレクタが電界方向を向き、入射光をほぼ完全に透過させるホメオトロピック相、の3つの状態を示す。
【0006】
上記の3つの状態のうち、プレーナ相とフォーカルコニック相は、無電界で双安定に存在することができる。したがって、コレステリック液晶の相状態は、液晶層に印加される電界強度に対して一義的に決まらず、プレーナ相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、プレーナ相、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化し、フォーカルコニック相が初期状態の場合には、電界強度の増加に伴って、フォーカルコニック相、ホメオトロピック相の順に変化する。
【0007】
一方、液晶層に印加した電界強度を急激にゼロにした場合には、プレーナ相とフォーカルコニック相はそのままの状態を維持し、ホメオトロピック相はプレーナ相に変化する。
したがって、パルス信号を印加した直後のコレステリック液晶層は、図15に示すようなスイッチング挙動を示し、印加されたパルス信号の電圧が、Vfh以上のときには、ホメオトロピック相からプレーナ相に変化した選択反射状態となり、VpfとVfhの間のときには、フォーカルコニック相による透過状態となり、Vpf以下のときには、パルス信号印加前の状態を継続した状態、すなわちプレーナ相による選択反射状態またはフォーカルコニック相による透過状態となる。
【0008】
図15中、縦軸は正規化光反射率であり、最大光反射率を100、最小光反射率を0として、光反射率を正規化している。また、プレーナ相、フォーカルコニック相およびホメオトロピック相の各状態間には、遷移領域が存在するため、正規化光反射率が50以上の場合を選択反射状態、正規化光反射率が50未満の場合を透過状態と定義し、プレーナ相とフォーカルコニック相の相変化のしきい値電圧をVpfとし、フォーカルコニック相とホメオトロピック相の相変化のしきい値電圧をVfhとする。
【0009】
特に、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造(マイクロカプセル化されたものを含む)の液晶層においては、コレステリック液晶と高分子の界面における干渉により(アンカリング効果)、プレーナ相とフォーカルコニック相の無電界における双安定性が向上し、長期間に渡ってパルス信号印加直後の状態を保持することができる。
【0010】
当該技術による光アドレス型空間光変調素子では、このコレステリック液晶の双安定現象を利用して、(A)プレーナ相による選択反射状態と、(B)フォーカルコニック相による透過状態と、をスイッチングすることによって、無電界でのメモリ性を有するブラック・ホワイトのモノクロ表示、または無電界でのメモリ性を有するカラー表示を行う。
【0011】
当該技術を応用した光アドレス型空間光変調素子として、コレステリック液晶による表示層と有機感光層(OPC層)等の光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねることで、複数層の反射状態を同時にかつ個別に制御することができ、1度の書き込み操作で複数色の混色画像を形成し得る技術が、本発明者らによって開示されている(特許文献1参照)。当該技術によれば、例えばRed(R)、Green(G)およびBlue(B)の3色をそれぞれ選択反射し得る表示層を積層することで、1度の書き込みでフルカラー画像を簡便に形成することもできる。
【0012】
図16に、当該技術を応用した光アドレス型空間光変調素子の駆動を説明するための模式説明図を示す。この光アドレス型空間光変調素子は、表示層(液晶層)とOPC層(光導電層)とが遮光層を介して積層され、さらにこれらの層の外側に電極層(図16においては不図示)が配されてなる光変調層(光アドレス型光変調層)を3層積層してなるものである。
【0013】
図16における最下層の光変調層Rは、Rの光を反射する表示層と、Rの光を吸収するCyan(C)の遮光層(C)と、Rの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(C)とからなり、全体としてRの色成分の像を形成可能に構成されている。
また、中間の層の光変調層Gは、Gの光を反射する表示層と、Gの光を吸収するMagenta(M)の遮光層(M)と、Gの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(M)とからなり、全体としてGの色成分の像を形成可能に構成されている。
【0014】
さらに、最上層の光変調層Bは、Bの光を反射する表示層と、Bの光を吸収するYellow(Y)の遮光層(Y)と、Bの光を吸収してその吸収した光量に応じて抵抗値を変化させるOPC層(Y)とからなり、全体としてBの色成分の像を形成可能に構成されている。
すなわち、各光変調層において、表示層の反射色と遮光層およびOPC層の透過色とが補色関係になっている。
【0015】
それぞれの光変調層に対してバイアス電圧を印加しつつカラーのアドレス光を照射すると、まずBの色のアドレス光は、光変調層Rおよび光変調層Gはそのまま透過して光変調層Rおよび光変調層Gの動作に影響を与えず、光変調層BのOPC層(Y)に吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Bの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Bの遮光層(Y)で遮光され、表示画像には影響を与えない。
【0016】
また、Gの色のアドレス光は、光変調層Rはそのまま透過して光変調層Rの動作に影響を与えず、光変調層GのOPC層(M)に吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Gの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Gの遮光層(M)で遮光され、上層である光変調層Bの動作、および表示画像には影響を与えない。
【0017】
さらに、Rの色のアドレス光は、光変調層RのOPC層(C)にそのまま吸収され、表示層を駆動して液晶を反射状態に変化させ、Rの色の反射像が形成される。吸収され切らなかったアドレス光は、光変調層Rの遮光層(C)で遮光され、上層である光変調層Gおよび光変調層Bの動作、および表示画像には影響を与えない。
以上のように、3色のアドレス光を像様に同時に照射することで、各色の光変調層の表示層を駆動して、図面上の上面にはフルカラーの反射画像が形成される。
【0018】
この技術において、図16の例で言えば、Bの色のアドレス光が、光変調層Rおよび光変調層Gをそのまま透過して光変調層BのOPC層(Y)に達すること、および、Gの色のアドレス光が、光変調層Rをそのまま透過して光変調層GのOPC層(M)に達すること、が実用化の条件となるが、実際には、どうしても手前の光変調層のOPC層(BC、BMおよびGCの各矢示部分)において、多少は吸収が生じてしまう。
【0019】
図17に、光変調層RのOPC層(C)における光の透過スペクトルのグラフを示す。図17において、横軸は照射する光の波長であり、縦軸は照射した光の透過率である。Bのアドレス光の波長およびGのアドレス光の波長がそれぞれ矢示されているが、グラフを見てもわかるようにいずれも100%の透過率ではなく、Bのアドレス光では線分b、Gのアドレス光では線分gの分だけ、それぞれOPC層(C)が光を吸収している。つまり、図17のグラフからわかるように、OPC層のスペクトルがブロードなため、本来反応してはいけない色のアドレス光をわずかに吸収してしまう。
その結果、他の色のアドレス光によって、誤った光アドレス動作が発生し、各色画像間での予期せぬ混色(以下、この混色現象を「クロストーク」と称する。)が生じるといった不具合の懸念があった。
【0020】
【特許文献1】特開2000−140184号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0021】
したがって、本発明は、コレステリック液晶による表示層と光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねて複数色の色重ね画像を形成することが可能な光アドレス型空間光変調素子に、画像を書き込む際のクロストークによる色再現性の低下を防止し得る光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記目的は、以下の本発明により達成される。すなわち本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法は、光アドレス型光変調層が2層以上積層されてなる光アドレス型空間光変調素子に、画像を記録するための光アドレス型空間光変調素子の駆動方法において、
前記光アドレス型光変調層が、特定波長域の光を反射する少なくともコレステリック液晶からなる液晶層と、前記特定波長域の光を吸収してその吸収した光量に応じて電気特性を変化させる光スイッチ機能を担う光導電層と、
が積層され、さらにその両層の外側に電極が配されて構成され、
前記光アドレス型光変調層のそれぞれの液晶層が、相互に異なる波長域の光を反射するものであって、その反射する波長域以外の波長域の光を透過するものであり、
前記光導電層が、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成されてなり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなるものであり、
1つの前記光アドレス型光変調層に対して、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値を露光時に超え、非露光時には超えない程度の電圧を前記両電極間に印加しつつ、光アドレス型空間光変調素子を画像様に露光する書き込み工程を含み、かつ、該書き込み工程の操作を、全ての前記光アドレス型光変調層に行うことで、各層に色毎の画像を書き込む方法であって、
少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする。
【0023】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、前記特定領域が、当該光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が極小値ないしその周辺の領域であることが好ましい。
【0024】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、光アドレス型光変調層が3層以上積層されてなる前記光アドレス型空間光変調素子において、好適に適用することができ、すなわち混色の無い色再現性の高いフルカラー画像を形成することも可能である。
【0025】
本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法においては、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、前記特定領域が、露光する光の強度に対して相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成されていることが好ましく、この場合、前記書き込み工程で露光する光の強度を、当該重なった前記特定領域の強度とすることで、これら前記特定領域が重なった全ての光アドレス型光変調層に対してクロストークの問題を解消ないし緩和することができる。
【0026】
本発明で用いる光アドレス型空間光変調素子には、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける前記液晶層と前記光導電層との間に、該光導電層が吸収する波長域の光を吸収するとともに、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過する遮光層を備えることが望ましい。
【0027】
このとき、最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記特定領域となる強度とすることで、遮光層により遮光されてクロストークの懸念の無い光アドレス型光変調層と光との組合せを除き、クロストークの懸念のあるこれら組み合わせについて本発明の構成により効果的にその懸念を解消ないし緩和させて、光アドレス型空間光変調素子全体として混色の無い色再現性の高い画像の書き込みが実現される。
【0028】
本発明で用いる光アドレス型空間光変調素子においては、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける光導電層が、相互に異なる波長域の光を吸収するものであって、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過するものであることが望ましい。
【0029】
本発明では、積層された各光アドレス型光変調層における光導電層(一般的に「OPC層(有機感光層)」と称されるもの。)において、特徴的な性質を利用することにより、クロストークによる色再現性の低下を防止することに成功している。すなわち、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成された3層構成であり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し(換言すれば、電荷発生層が色を有しており)、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなる光導電層は、前記特定波長以外の光に対しては、原則として必然的にインピーダンス非対称性を示す性質があり、本発明においてはこの性質を利用している。
【0030】
図1に、このような3層構成の光導電層における各色光に対するインピーダンス対称性およびインピーダンス非対称性を説明するための模式説明図を示す。図1は、R色を吸収し光スイッチ機能を発現するように構成された例である。図1に示される光導電層は、露光面側から順に、電荷発生層(CGL層)A、電荷輸送層および電荷発生層Bの順に積層されている。光照射により、電荷発生層Aおよび電荷発生層Bで光キャリアが発生し、電場方向に応じていずれかの光キャリアが電荷輸送層内に突入し、電荷輸送層内をホッピング移動することで光導電層の抵抗値が低下して、交流の光スイッチ機能が発現する。
【0031】
露光面側からR光が照射されると、まず電荷発生層Aがその光を吸収し、光キャリアを生じさせる。その後R光は、電荷発生層Bにより吸収され、同様に光キャリアを生じさせる。しかし、電荷発生層Bに到達するときには、既に電荷発生層Aがその光を吸収した後なので、光の強度(光量)が低下している。仮に、電荷発生層Aと電荷発生層BとのR光に対する吸光度が同一であるとすれば、電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの吸収量が少なくなり、バランスが崩れることになる。結果、電荷発生層Aと電荷発生層Bとを同一特性の層で構成してしまうと、光キャリアの発生量が電荷発生層Aに比して電荷発生層Bでは少なくなって、バランスが取れていない状態になってしまう。
【0032】
このバランスを保つために、一般的なR光用のOPC層では、R光に対する吸光度を電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの方を高めたり、同一の強度の光を吸収した場合に電荷発生層Aに比して電荷発生層Bの方がより光キャリアの発生量が多くなるように設計する等、上下両電荷発生層ABにおける光キャリアの発生量が略同一になるようにコントロールされている。このようにコントロールされた電荷発生層対の状態を、本発明においては「インピーダンス対称性」と称する。
【0033】
図1に示す光導電層は、R光に対してインピーダンス対称性を示すように制御して設計されている。そのため、露光面からR光が照射されると、電荷発生層Aおよび電荷発生層Bの双方から同程度の光キャリアが生じ、バランスが取れた状態で双方向に電荷輸送層内を移動して抵抗値を低下させるため、対称な交流光スイッチ機能が発現する。
【0034】
ところが、R光に対してインピーダンス対称性を示すように制御された図1に示される光導電層は、電荷発生層が吸収スペクトルに波長分散を示す(つまり、吸収係数が波長に対して一定ではない=何らかの色を有する)場合には、全ての波長域で上下電荷発生層の吸光度比を対称に設計することができないため、原則として必然的にB光やG光に対してはインピーダンス対称性を示すことは無い。このようにインピーダンス対称性を有しない状態を、本発明においては「インピーダンス非対称性」と称する。図1に示されるB光やG光における矢印の対のように、インピーダンス非対称性を示す状態であれば、電荷輸送層内の光キャリア量が電場方向によって異なってしまう。
【0035】
図2に、ある1つの光導電層において、その光導電層とは異なる光導電層に露光するアドレス光(図1で言えば、B光やG光。以下、このように他層へのアドレス光のことを「非アドレス光」という場合がある。)の光強度に対する光導電層の導電率の変化を、それぞれ一方の電荷発生層のみが作用する方向に電場を印加した状態についてグラフにて示す。図2のグラフからわかるように、非アドレス光に対しては、電場印加方向によって光導電層の電気特性にシフトが生じているのがわかる。
【0036】
すなわち、光強度が弱い(1)の領域や、十分に強い(3)の領域では、電場方向による導電率に大きな開きは無いが、その途中段階の光強度において過渡的に電荷発生層AおよびBの作用する導電率に大きな開きが生ずる。これは、図2のグラフからもわかるように、電荷発生層Aよりも電荷発生層Bが作用する電場方向の方が、非アドレス光の光強度の増加に対して遅れて導電率上昇が生じている(シフトが生じている)ために起こる現象である。
【0037】
図3に、この(1)〜(3)の各領域の光強度で、所定の電圧を印加しつつ、非アドレス光を照射し続けた場合の、液晶層に印加される電圧(分圧)を時系列で表すチャートを示す。図3に示されるように、いずれの領域においても液晶層に印加される電圧がバイアスされていくが、インピーダンス非対称性が大きく作用する(2)の領域では、他の領域(1)や(3)に比して、大きくバイアスされていることがわかる。
【0038】
すなわち、光強度の増加(領域(1)→領域(2))と共に、液晶層に印加される電圧が大きくバイアスされ、光強度が飽和域になる(領域(3))とバイアス電圧は再度小さくなる。図3を見てもわかるとおり、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した時点で、領域(1)ではVb1、領域(2)ではVb2、および領域(3)ではVb3の各バイアス電圧が生じ、かつ残留した状態となっており、領域(2)のバイアス電圧Vb2が、他の領域(1)および(3)のバイアス電圧Vb1およびVb3に比して大きくなる。
【0039】
図4に、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後における、インピーダンス非対称性に基づくバイアス電圧の値と、最終的に安定した際の液晶層の光反射率との関係を表すグラフを示す。このグラフは、非アドレス光の照射により書き込まれた状態(ホメオトロピック相)が、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後に残留するバイアス電圧により最終的にどのようになるかを表したものであると言える。
【0040】
図4に示されるグラフからは、図中の境界電圧Vbbを超えると、非アドレス光の照射により書き込まれた状態(ホメオトロピック相)が、フォーカルコニック相に相変化することが読み取れる。図中の境界電圧Vbbを超えなければ、一般的にホメオトロピック相状態の液晶が、印加電圧を除した際に最終的にプレーナ相状態となるが、このように境界電圧Vbbを超えると、プレーナ相ではなくフォーカルコニックに相変化する。
【0041】
領域(2)の場合に生じたバイアス電圧Vb2は、この境界電圧Vbbを超え、フォーカルコニック相に相変化している。すなわち、非アドレス光のクロストークにより、所望としないホメオトロピック相への相変化が生じても(つまり、通常はその後プレーナ相に変化して誤った画像書込みが為されてしまうケースにおいても)、領域(2)の場合には、印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後に残留するバイアス電圧Vb2によりフォーカルコニック相に戻され、あたかも非アドレス光の影響を受けていないかのような状態となっている。
【0042】
以上のことから、図5に示す結果が導かれる。ここで、図5は、アドレス光および非アドレス光の光強度と、所定の印加電圧を解除し、アドレス光または非アドレス光の照射を終了した後における、液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。当該グラフにおいては、アドレス光は実線で、非アドレス光は点線で描かれている。
【0043】
すなわち、光導電層が3層構成である光アドレス型光変調層を含む光アドレス型空間光変調素子においては、図5に示されるように、アドレス光が照射された場合には、光強度の増加に応じて飽和領域まで光反射率が漸増し続けるが、非アドレス光が照射された場合には、光強度の増加に対して漸増傾向から一旦鈍化して、再度増加に転じて飽和領域に達する傾向が見られる。この漸増傾向から一旦鈍化する光強度の領域が、上記領域(2)に相当し、それ以下の光強度の領域が領域(1)、および、それ以上の光強度の領域が領域(3)に相当する。
【0044】
そして、アドレス光の強度として、この領域(2)に相当する光強度を採用することで、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層に対しては、相変化による十分な光反射が得られ、対象とならない光アドレス型光変調層に対しては、それは非アドレス光となり、相変化を生じさせず光反射を抑えることができる。
【0045】
本発明は、この原理を応用したものであり、上記領域(2)が、本発明に言う「特定領域」となる。すなわち、本発明では、アドレス光の光強度を、この「特定領域」となるようにしており、他の光アドレス型光変調層に対しては、当該層にとって非アドレス光となるこの光の影響から逃れることができ、クロストークの懸念が解消ないし抑制される。
【0046】
例えば、図16の例で言えば、クロストークの問題が生じるBC、BMおよびGCの各矢示部分において、アドレス光Bおよび/またはアドレス光Gの光強度を、光変調層(光導電層)Gおよび/または光変調層(光導電層)Rにとっての「特定強度」とすることで、これら部分におけるクロストークの懸念が解消ないし抑制される。
【0047】
この「特定領域」は、既述の通り、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する領域を指すが、この「漸増傾向から最初に鈍化」の「鈍化」は、図5のグラフにおける領域(2)のように、明確に光反射率の底(ボトム)が現れるような領域は勿論、そのような明確な底は無いものの、漸増傾向が一旦弱まるグラフを描く場合の当該領域をも含む概念であることを表す表現である。
【0048】
勿論、当該「特定領域」としては、明確に光反射率の底(ボトム)が現れる場合のその周辺領域、換言すれば「光反射率が極小値ないしその周辺の領域」であることが好ましい。このようにグラフ上極小値が表れるようにするには、光導電層における各層の材料の選択やその配合割合、各層の厚み、あるいは照射する光のスペクトル等を適切に調整することで実現することができる。
なお、当該「特定領域」を定義付ける「漸増傾向から最初に鈍化」の「最初」とは、光強度の大きな領域(3)において、光反射率が飽和する際の「鈍化」を含めない意図である。
【発明の効果】
【0049】
本発明によれば、コレステリック液晶による表示層と光導電層とを積層してなる光アドレス型光変調層を複数重ねて複数色の色重ね画像を形成することが可能な光アドレス型空間光変調素子に対して、クロストークによる色再現性の低下を防止し得る駆動方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0050】
以下、本発明を図面に則して詳細に説明する。
図6は、本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様の概略構成図である。当該本実施形態のシステムは、表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)1と書き込み装置(光アドレス型空間光変調素子の駆動装置)2とからなる。この両構成要素について、詳細に説明してから、その動作について説明する。
【0051】
<表示媒体>
本実施形態において表示媒体とは、アドレス光の照射、バイアス信号の印加によって光アドレス動作ができる部材であり、具体的には光アドレス型空間光変調素子である。
本実施形態において、表示媒体1は、表示面側から順に、外部基板6、光変調層4BG、内部基板8、光変調層4Rおよび外部基板7が積層されてなる物である。
【0052】
また、2つの光変調層4BG,4Rは、それぞれ表示面側から順に、透明電極(電極)10BG,10R、表示層(液晶層)12BG,12R、ラミネート層13BG,13R、遮光層14BG,14R、OPC層(光導電層)15BG,15R、および透明電極(電極)11BG,11Rが積層されてなる物である。
以下、各構成部材ごとに説明する。
【0053】
[外部基板および内部基板]
外部基板6,7および内部基板8は、各機能層を内面に保持し、表示媒体の構造を維持する目的の部材である。これら基板は、外力に耐える強度を有するシート形状の物体であり、表示面側の外部基板6は少なくとも入射光を、書き込み面側の外部基板7は少なくともアドレス光を、内部基板8は少なくとも入射光およびアドレス光を、それぞれ透過する。フレキシブル性を有することが好ましい。
【0054】
これら基板の具体的な材料としては、無機シート(たとえばガラス・シリコン)、高分子フィルム(たとえばポリエチレンテレフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、ポリエチレンナフタレート)等を挙げることができる。外部基板6,7については、外表面に、防汚膜、耐磨耗膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0055】
[光変調層]
2つの光変調層4BG,4Rは、表示色(液晶が反射する色)ないし駆動色(OPC層が吸収する色)がそれぞれの設定値になるように、各材料が適切に選択される等調整されている他、具体的な構成は同一であるため、これらをまとめて述べる。以下の説明の中で、符号にアルファベットの記号(BGおよびR)が付されていない場合には、2つの光変調層4BG,4Rに共通する内容である。
【0056】
(透明電極)
透明電極10,11は、書き込み装置2から印加されたバイアス電圧を、表示媒体1内の各機能層へ面均一に印加する目的の部材である。透明電極10,11は、面均一な導電性を有し、少なくとも入射光およびアドレス光を透過する。具体的には、金属(たとえば金、アルミニウム)、金属酸化物(たとえば酸化インジウム、酸化スズ、酸化インジウムスズ(ITO))、導電性有機高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などで形成された導電性薄膜を挙げることができる。表面に、密着力改善膜、光反射防止膜、ガスバリア膜など公知の機能性膜を形成してもよい。
【0057】
(表示層)
本発明において表示層(液晶層)とは、電場によって入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、選択した状態が無電場で保持できる性質のものである。表示層としては、曲げや圧力などの外力に対して変形しない構造であることが好ましい。
【0058】
本実施形態において表示層としては、コレステリック液晶および透明樹脂からなる自己保持型液晶複合体の液晶層が形成されてなるものが例示されている。すなわち、複合体として自己保持性を有するためスペーサ等を必要としない液晶層である。本実施形態では、図6に示されるように、高分子マトリックス(透明樹脂)16中にコレステリック液晶17が分散した状態となっている。
【0059】
コレステリック液晶17は、入射光のうち特定の色光の反射・透過状態を変調する機能を有し、液晶分子がらせん状に捩れて配向しており、らせん軸方向から入射した光のうち、らせんピッチに依存した特定の光を干渉反射する。電場によって配向が変化し、反射状態を変化させることができる。ドロップサイズが均一で、単層稠密に配置されていることが好ましい。
【0060】
コレステリック液晶17として使用可能な具体的な液晶としては、ステロイド系コレステロール誘導体、あるいはネマチック液晶やスメクチック液晶(たとえばシッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、安息香酸エステル系、ビフェニル系、ターフェニル系、シクロヘキシルカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ビフェニルシクロヘキサン系、ピリミジン系、ジオキサン系、シクロヘキシルシクロヘキサンエステル系、シクロヘキシルエタン系、シクロヘキサン系、トラン系、アルケニル系、スチルベン系、縮合多環系)、またはこれらの混合物に、カイラル剤(たとえばステロイド系コレステロール誘導体、シッフ塩基系、アゾ系、エステル系、ビフェニル系)を添加したもの等を挙げることができる。
【0061】
コレステリック液晶の螺旋ピッチは、液晶分子の化学構造や、ネマチック液晶に対するカイラル剤の添加量で調整する。本実施形態のように、表示色を青緑(BG)、赤(R)とする場合には、それぞれ選択反射の中心波長が、400nm〜600nm、600nm〜700nmの範囲になるようにする。また、コレステリック液晶の螺旋ピッチの温度依存性を補償するために、捩じれ方向が異なる、または逆の温度依存性を示す複数のカイラル剤を添加する公知の手法を用いてもよい。
【0062】
表示層12がコレステリック液晶17と高分子マトリックス(透明樹脂)16からなる自己保持型液晶複合体を形成する形態としては、コレステリック液晶の連続相中に網目状の樹脂を含むPNLC(Polymer Network Liquid Crystal)構造や、高分子の骨格中にコレステリック液晶がドロップレット状に分散されたPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)構造(マイクロカプセル化されたものを含む)などを採用することができる。なお、特にPNLC構造やPDLC構造とすることによって、コレステリック液晶と高分子の界面にアンカリング効果を生じ、無電界でのプレーナ相またはフォーカルコニック相の保持状態を、より安定にすることができる。
【0063】
PNLC構造やPDLC構造は、高分子と液晶とを相分離させる公知の方法、例えば、アクリル系、チオール系、エポキシ系などの、熱や光、電子線などによって重合する高分子前駆体と液晶を混合し、均一相の状態から重合させて相分離させるPIPS(Polymerization Induced PhaseSeparation)法、ポリビニルアルコールなどの、液晶の溶解度が低い高分子と液晶とを混合し、懸濁させて、液晶を高分子中にドロップレット分散させるエマルジョン法、熱可塑性高分子と液晶とを混合し、均一相に加熱した状態から冷却して相分離させるTIPS(Thermally Induced Phase Separation)法、高分子と液晶とをクロロホルムなどの溶媒に溶かし、溶媒を蒸発させて高分子と液晶とを相分離させるSIPS(Solvent Induced Phase Separation)法などによって形成することができるが、特に限定されるものではない。
【0064】
高分子マトリックス16は、コレステリック液晶17を保持し、表示媒体1の変形による液晶の流動(画像の変化)を抑制する機能を有するものであり、液晶材料に溶解せず、液晶と相溶しない液体を溶剤とする高分子材料が好適に用いられる。また、高分子マトリックス16としては、外力に耐える強度を持ち、少なくとも反射光およびアドレス光に対して高い透過性を示す材料であることが望まれる。
【0065】
高分子マトリックス16として採用可能な材料としては、水溶性高分子材料(たとえばゼラチン、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体、ポリアクリル酸系ポリマー、エチレンイミン、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリアミジン、イソプレン系スルホン酸ポリマー)、あるいは水性エマルジョン化できる材料(たとえばフッ素樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂)等を挙げることができる。
【0066】
(OPC層)
OPC層(光導電層)15は、書き込み装置2から照射されたアドレス光パターンに基づき、表示層12に印加される電圧を変調する層であり、内部光電効果を持ち、アドレス光の照射強度に応じてインピーダンス特性が変化する性質を有する。AC動作が可能であり、既述の如く、アドレス光に対してインピーダンス対称性、非アドレス光に対してインピーダンス非対称性を示すように制御する。
【0067】
本発明においては、本実施形態のように電荷発生層(CGL)が電荷輸送層(CTL)の上下に積層された3層構造であることが必須である。本実施形態では、OPC層15として、図6における上層から順に上側の電荷発生層18、電荷輸送層19および下側の電荷発生層20が積層されてなる。
【0068】
電荷発生層18,20は、アドレス光を吸収して光キャリアを発生させる機能を有する層である。主に、電荷発生層18が表示面側の透明電極10から書き込み面側の透明電極11の方向に流れる光キャリア量を、電荷発生層20が書き込み面側の透明電極11から表示面側の透明電極10の方向に流れる光キャリア量を、それぞれ左右している。電荷発生層18,20としては、アドレス光を吸収して励起子を発生させ、電荷発生層内部、または電荷発生層/電荷輸送層界面で自由キャリアに効率良く分離させられるものが好ましい。
【0069】
電荷発生層18,20は、電荷発生材料(たとえば金属又は無金属フタロシアニン、スクアリウム化合物、アズレニウム化合物、ペリレン顔料、インジゴ顔料、ビスやトリス等アゾ顔料、キナクリドン顔料、ピロロピロール色素、多環キノン顔料、ジブロモアントアントロンなど縮環芳香族系顔料、シアニン色素、キサンテン顔料、ポリビニルカルバゾールとニトロフルオレン等電荷移動錯体、ピリリウム塩染料とポリカーボネート樹脂からなる共昌錯体)を直接成膜する乾式法か、またはこれら電荷発生材料を、高分子バインダー(たとえばポリビニルブチラール樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ビニルカルバゾール樹脂、ビニルホルマール樹脂、部分変性ビニルアセタール樹脂、カーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル樹脂、スチレン樹脂、ビニルアセテート樹脂、酢酸ビニル樹脂、シリコーン樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0070】
電荷発生層18,20は、その吸光係数を、アドレス光に対して高く、非アドレス光に対して低くなるように波長分散させる。この波長分散の程度(吸収スペクトル)や、顔料の濃度、膜厚を最適化することで、アドレス光に対するインピーダンスの対称性、並びに、非アドレス光に対する所望のインピーダンス非対称性を示すように制御すればよい。
【0071】
電荷輸送層19は、電荷発生層18,20で発生した光キャリアが注入されて、バイアス信号で印加された電場方向にドリフトする機能を有する層である。一般に電荷輸送層は、電荷発生層の数10倍の厚みを有するため、電荷輸送層19の容量、電荷輸送層19の暗電流、および電荷輸送層19内部の光キャリア電流が、OPC層15全体の明暗インピーダンスを決定付けている。
【0072】
電荷輸送層19は、電荷発生層18,20からの自由キャリアの注入が効率良く発生し(電荷発生層18,20とイオン化ポテンシャルが近いことが好ましい)、注入された自由キャリアができるだけ高速にホッピング移動するものが好適である。暗時のインピーダンスを高くするため、熱キャリアによる暗電流は低い方が好ましい。
【0073】
電荷輸送層19は、低分子の正孔輸送材料(たとえばトリニトロフルオレン系化合物、ポリビニルカルバゾール系化合物、オキサジアゾール系化合物、ベンジルアミノ系ヒドラゾンあるいはキノリン系ヒドラゾン等のヒドラゾン系化合物、スチルベン系化合物、トリフェニルアミン系化合物、トリフェニルメタン系化合物、ベンジジン系化合物)、または低分子の電子輸送材料(たとえばキノン系化合物、テトラシアノキノジメタン系化合物、フルフレオン化合物、キサントン系化合物、ベンゾフェノン系化合物)を、高分子バインダー(たとえばポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリスチレン樹脂、含珪素架橋型樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させたもの、あるいは上記正孔輸送材料や電子輸送材料を高分子化した材料を適当な溶剤に分散ないし溶解させたものを調製し、これを塗布し乾燥させて形成すればよい。
【0074】
(遮光層)
遮光層14とは、書き込み時にアドレス光と入射光を光学分離し、相互干渉による誤動作を防ぐ目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ただし、表示媒体1の性能向上のためには、設けることが望まれる層である。その目的から、遮光層14には、少なくとも電荷発生層の吸収波長域の光を吸収する機能が要求される。
【0075】
遮光層14は、具体的には、無機顔料(たとえばカドミウム系、クロム系、コバルト系、マンガン系、カーボン系)、または有機染料や有機顔料(アゾ系、アントラキノン系、インジゴ系、トリフェニルメタン系、ニトロ系、フタロシアニン系、ペリレン系、ピロロピロール系、キナクリドン系、多環キノン系、スクエアリウム系、アズレニウム系、シアニン系、ピリリウム系、アントロン系)をOPC層15の電荷発生層18側の面に直接成膜する乾式法か、あるいはこれらを高分子バインダー(たとえばポリビニルアルコール樹脂、ポリアクリル樹脂等)とともに適当な溶剤に分散ないし溶解させて塗布液を調製し、これを塗布し乾燥させて成膜する湿式塗布法等により形成することができる。
【0076】
(ラミネート層)
ラミネート層13は、それぞれ上下基板(外部基板6、内部基板8および外部基板7の3つの基板の2つの相互間の上下の基板)内面に形成された各機能層を貼り合わせる際に、凹凸吸収および接着の役割を果たす目的で設けられる層であり、本発明において必須の構成要素ではない。ラミネート層13は、ガラス転移点の低い高分子材料からなるものであり、熱や圧力によって表示層12と遮光層14とを密着・接着させることができる材料が選択される。また、少なくとも入射光およびアドレス光に対して透過性を有することが条件となる。
ラミネート層13に好適な材料としては、粘着性の高分子材料(たとえばウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、シリコーン樹脂)を挙げることができる。
【0077】
<書き込み装置>
本実施形態において書き込み装置(光アドレス型空間光変調素子の駆動装置)2とは、表示媒体1に画像を書き込む装置であり、表示媒体1に対してアドレス光の照射を行う光照射部(露光装置)23および表示媒体1にバイアス電圧を印加する電圧印加部(電源装置)22を主要構成要素とし、さらにこれらの動作を制御する制御回路21が配されてなる。
【0078】
(光照射部)
光照射部(露光装置)23は、像様となる各色の所定のアドレス光パターンを表示媒体1に照射する機能を有し、制御回路21からの入力信号に基づき、表示媒体1上(詳しくは、OPC層上)に所望の光画像パターン(スペクトル・強度・空間周波数)を照射できるものであれば特に制限されるものではない。
【0079】
光照射部23の構造としては、具体的には下記構造のものが挙げられる。
(1−1)光源(たとえば、冷陰極管、キセノンランプ、ハロゲンランプ、LED、EL等)をアレイ状に配置したものや、光源と導光板とを組み合せたもの、などの均一な光源。
(1−2)光パターンを作る調光素子(たとえば、LCD、フォトマスクなど)の組み合わせ。
(2)面発光型ディスプレイ(たとえばCRT、PDP、EL、LED、FED、SED)。
(3)上記(1−1)、(1−2)あるいは(2)と光学素子(たとえばマイクロレンズアレイ、セルホックレンズアレイ、プリズムアレイ、視野角調整シート)との組み合わせ。
【0080】
照射するアドレス光は、対象となる特定の光変調層4(4BGまたは4R)を選択的に動作させる光信号源であり、明時(照射時)には、光導電層15における電荷発生層18,20が照射されたフォトンを吸収して励起子を生成する。
照射するアドレス光は、対象となる特定の光導電層15における吸収波長域のエネルギーができるだけ多く、かつその他の光導電層15における吸収波長域のエネルギーができるだけ少ないことが好ましい。また、照射するアドレス光としては、対象となる特定の光導電層15(15BGまたは15R)の吸収波長域内にピーク強度を有し、できるだけバンド幅の狭い光であることが好ましい。
【0081】
照射するアドレス光の照射強度については、対象となる特定の光変調層15のコントラストができるだけ大きく、かつその他の光導電層15の誤動作ができるだけ小さくなる最適値をパラメータ実験で選択するのが一般的であるが、この照射強度については本発明のポイントであり、後に詳述する。
【0082】
(電圧印加部)
電圧印加部(電源装置)22は、所定のバイアス電圧を表示媒体1に印加する機能を有し、制御回路21からの入力信号に基づき、表示媒体(各電極間)に所望の電圧波形を印加できるものであればよい。ただし、AC出力ができ、高いスルーレートが要求される。電圧印加部22には、例えばバイポーラ高電圧アンプなどを用いることができる。
【0083】
電圧印加部22による表示媒体1への電圧の印加は、接触端子24BG,24R,25BG,25R(以下、単に「接触端子24,25」と表す。)を介して、透明電極10−透明電極11間に為される。
ここで接触端子24,25とは、電圧印加部22および表示媒体1(透明電極10,11)に接触して、両者の導通を行う部材であり、高い導電性を有し、透明電極10,11および電圧印加部22との接触抵抗が小さいものが選択される。表示媒体1と書き込み装置2とを切り離すことができるように、透明電極10,11と電圧印加部22とのどちらか、あるいは両者から分離できる構造であることが好ましい。
【0084】
接触端子24,25としては、金属(たとえば金・銀・銅・アルミ・鉄)、炭素、これらを高分子中に分散させた複合体、導電性高分子(たとえばポリチオフェン系・ポリアニリン系)などでできた端子で、電極を挟持するクリップ・コネクタ形状のものが挙げられる。
【0085】
透明電極10−透明電極11間に印加する電圧としては、対象となる光変調層4を動作させる電圧である。透明電極10−透明電極11間に所望の電界を発生させることで、光導電層15における光キャリアの生成や移動、コレステリック液晶17の配向変化のエネルギーを与える。
この印加電圧としては、表示層12への分圧が、アドレス光の露光時(明時)にプレーナ相またはフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値電圧を超え、アドレス光が露光されなかった時(暗時)に該しきい値未満になるような電圧が印加される。
【0086】
また、該印加電圧の周波数としては、光導電層15の明暗インピーダンス比が、上記所望の電圧変化を生じさせられる周波数とすることが好ましい。あまりに高周波になると、電荷輸送層の移動度に律速される明電流の低下、容量成分の電流寄与による暗電流の増加等が生じて、十分な明暗インピーダンス比が取れなくなる場合がある。
さらに、該印加電圧の波形としては、少なくとも波形終端が急峻にゼロに変化する形状であることが望ましい。この変化が鈍いと、後述する表示期間におけるホメオトロピック相状態からプレーナ相状態への配向変化が阻害されてしまう場合がある。
【0087】
(制御回路)
制御回路21は、外部(画像取り込み装置、画像受信装置、画像処理装置、画像再生装置、あるいはこれらの複数の機能を併せ持つ装置等)からの画像データに応じて、電圧印加部22および光照射部23の動作を適宜制御する機能を有する部材である。
【0088】
<動作>
図6にて例示したシステムを用いて、本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法の動作について、以下に詳細に説明する。
【0089】
図7に、コレステリック液晶の相変化の一覧を模式的に示す。プレーナ相(P)を初期状態とした場合には、印加電圧に応じてフォーカルコニック相(F)、あるいはホメオトロピック相(H)へと変化し、フォーカルコニック相(F)を初期状態とした場合には、印加電圧に応じてホメオトロピック相(H)へと変化する。
【0090】
一方、適切な電圧を印加してホメオトロピック相の状態(H)を維持している場合に、通常、その印加電圧の大きさや降下速度に応じて、フォーカルコニック相(F)に戻るか、あるいは過渡プレーナ相(TP)を経てプレーナ相(P)に変化する。ただし、過渡プレーナ相(TP)の状態において、再度適切な電圧を印加した場合には、フォーカルコニック相(F)に変化して安定する。
【0091】
図8は、表示媒体1における光変調層4BGに対するアドレス光(BG光)照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層12BGにおける液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
前表示期間では、表示媒体1は前表示(前書き込み)状態を維持したままで、制御信号・画像データの取り込みや制御回路21でのデータ変換などが行われている。表示媒体1を書き込み装置2から切り離していた場合は、所定の位置へのセットおよび接触端子24BG,25BG,24R,25Rとの接続を行う。
【0092】
前表示期間において表示層(液晶層)12BGは、プレーナ相(P)またはフォーカルコニック相(F)の状態で安定している。
この前表示期間は、制御信号・画像データの取り込みや制御回路21でのデータ変換、表示媒体1のセットなど、書き込みに必要な前処理を行うのに十分な時間以上が確保される。
【0093】
次に書き込み期間(書き込み工程)で、表示媒体1への画像の書き込みが行われる。具体的には、表示層12BGに印加される分圧が、露光時(明時)にはコレステリック液晶17におけるプレーナ相(P)ないしフォーカルコニック相(F)からホメオトロピック相(H)への相変化のしきい値を超え、非露光時(暗時)にはコレステリック液晶17におけるプレーナ相からフォーカルコニック相(F)ヘの相変化のしきい値を超え、かつプレーナ相ないしフォーカルコニック相(F)からホメオトロピック相(H)への相変化のしきい値を超えない程度の電圧を透明電極10BG,11BG間に印加しつつ(図8のチャートにおいては、透明電極10BG,11BG間に印加される電圧ではなく、表示層12の分圧(実効電圧)として示されている。)、表示媒体1を露光面側(外部基板7側)から画像様に露光する。
【0094】
図8を用いて説明すると、透明電極10BG,11BG間に所定の電圧が印加された際の表示層12BGへの実効電圧VLdのみ(暗時)では、フォーカルコニック相状態にあるものはそのままの状態で推移し、プレーナ相状態にあるものはフォーカルコニック相に相変化する。これに対して、アドレス光が照射されると、光導電層15BGの抵抗が下がり、表示層12BGへの分圧が上昇して実効電圧がVLpになる。すると、表示層12BGにおけるコレステリック液晶17BGがプレーナ相またはフォーカルコニック相からホメオトロピック相に相変化するしきい値を超え、ホメオトロピック相状態になる。
以上のように、当該書き込み期間では、アドレス光の露光および非露光が像様に選択され、これにより表示媒体への書き込みが行われる。ただし、この段階では、表示媒体1に反射画像はまだ形成されていない。
【0095】
この書き込み期間の所要時間は、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化に必要かつ十分な時間であればよい。一般的なコレステリック液晶では、プレーナ相からフォーカルコニック相への配向変化に最も時間がかかるため、本工程に要する時間は比較的長い。一概には言えないが、具体的には、200ms程度の時間が必要である。
なお、当該書き込み期間においては、透明電極10BG,11BG間への所定の電圧は常に印加する。一方、アドレス光についても、書き込み期間中常に照射していることが好ましいが、動作に影響がない範囲であれば、点滅させても構わない。
【0096】
最後に、表示期間では、書き込み期間で印加していた電圧を解除するとともに、アドレス光の照射も終了する。印加電圧が無くなり、コレステリック液晶の配向が無電場のメモリ状態に変化することで表示媒体1に画像が表示される。アドレス光が照射された画像の明部では、ホメオトロピック相からプレーナ相への相変化が生じ、暗部ではフォーカルコニック相がそのままの状態を維持する。
この工程の所要時間は、各配向変化に必要な時間以上であればよい。バイアス信号およびアドレス光が必要ないので、書き込み装置2から表示媒体1が切り離されていても構わない。
【0097】
以上のアドレス光照射時の動作は、光変調層4Rに対しても全く同様(勿論、書き込まれる画像の形状は通常異なる。)に、かつ、同時に為される。ただし、光変調層4BGにとってアドレス光であるBG光は、光変調層4Rにとっては非アドレス光となる。そのため、光照射部(露光装置)23からBG光が照射された際にそれが直接露光される光変調層4Rにおいて、通常クロストークの懸念が生ずるが、本実施形態では、光照射部23から照射されるBG光の強度が既述の「特定領域」であるため、クロストークの懸念が払拭される。
【0098】
図9は、表示媒体1における光変調層4Rに対する、非アドレス光(BG光)照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層12Rにおける液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。なお、アドレス光(R光)が同時に照射される画素(つまり表示層12Rが元々反射状態になる部位)ではクロストークの影響を考慮する必要がないため、この例では、アドレス光(R光)が照射されていない画素について示す。
前表示期間は、勿論アドレス光照射時と同様である。
【0099】
そして、書き込み期間(書き込み工程)で、所定の電圧が印加された状態で非アドレス光であるBG光が照射されると、表示層12Rにかかる分圧(実効電圧)は、図9中の実線のパルスから点線のパルスへと変わり、この電圧の上昇が大きい場合には、プレーナ相ないしフォーカルコニック相がホメオトロピック相に変化する。このとき、BG光の強度は既述の「特定領域」となっており、OPC層15Rの電荷発生層18R,20RにおけるBG光に対するインピーダンス非対称性から、点線で示されるパルスのように、パルス全体が徐々にバイアスされて行く。そして、電圧の印加が解除されBG光の照射が終了する時点で、図9に示されるVLbの分だけバイアス電圧が生じた状態となっている。
【0100】
最後に、表示期間では、書き込み期間で印加していた電圧を解除するとともに、BG光の照射も終了すると、透明電極10R,11R間に印加していた電圧は無くなるもののバイアス電圧VLbが残留した状態となっており、結果、バイアス電圧VLbが表示層12に作用して、ホメオトロピック相がフォーカルコニック相に変化して、安定する。
【0101】
以上は、非アドレス光であるBG光が照射された、いわゆる明時の場合の相変化のみについて説明しているが、非アドレス光であるBG光の照射の無い、いわゆる暗時の場合には、図8を用いて説明したアドレス光に対する暗時の場合と同様であり、書き込み期間でプレーナ相状態の部位を含めて全てフォーカルコニック相状態に揃えられた後、そのままの状態を保持したまま表示期間まで推移する。
以上のような経路を辿って、非アドレス光であるBG光に対しては、明時暗時共に最終的にフォーカルコニック相に揃えられるため、全体として、クロストークの問題が解消されている。
【0102】
以上の各動作が為される状態で、光照射部(露光装置)23から表示媒体1の露光面(外部基板7側の面)側に、所望の像様にBG光およびR光を照射すると、BG光は光変調層4Rを透過して光変調層BGのOPC層15BGで吸収され、表示層12BGが駆動される。光変調層4Rを透過する際、BG光が「特定領域」の強度であるため、クロストークの問題が解消ないし抑制され、光変調層4Rの発色に影響を与えない。吸収されなかったBG光は、遮光層14BGで吸収される。
【0103】
一方、R光は光変調層RのOPC層15Rで吸収され、表示層12Rが駆動される。吸収されなかったR光は、遮光層14Rで吸収され、それよりも上層には進行しない。したがって、光変調層BGには到達せず、クロストークの問題が最初から生ずることが無い。
【0104】
以上のように、本発明の構成を具備する本実施形態によれば、表示面側に位置する光変調層BGにおける書き込み工程で露光するBG光の強度を、当該光変調層4BGよりも露光面側に位置する光変調層4Rの前記「特定領域」となる強度とすることにより、光変調層4RのOPC層15Rでのクロストークの問題を解消している。したがって、混色の無い色再現性の高い良好なカラー画像を形成することができる。
【0105】
本実施形態では、光変調層4Rに遮光層14Rが配されているため、R光の強度については不問であるが、これが配されていない場合には、勿論、光変調層4BGのOPC層15BGでのクロストークの問題を解消すべく、光変調層Rにおける書き込み工程で露光するR光の強度を、光変調層4BGの前記「特定領域」となる強度とすることが好ましい。
【0106】
以上、好ましい実施形態を挙げて本発明を詳細に説明したが、本発明は以上の実施形態に限定されるものではない。例えば、以上の実施形態では、光アドレス型光変調層(光変調層)が2層構成のもののみを具体例として挙げて説明しているが、本発明において選択反射層は2層に限られるものではなく、3層以上の構成とすることもできる。3層構成として、各層の発色をブルー、グリーンおよびレッドとして加法混色して得られるフルカラー画像についても、本発明を適用することにより、混色の無い色再現性の高い良好な画質の画像を得ることができる。
【0107】
光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、どの光アドレス型光変調層に対するアドレス光の強度を、どの光アドレス型光変調層の光導電層に対しての「特定領域」とするかは、特に制限は無いが、少なくとも1つ以上の組み合わせにおいて「特定領域」とすれば、その組み合わせにおけるアドレス光と光アドレス型光変調層との関係においては、クロストークの問題が解消ないし抑制されるという、本発明による卓越した効果が発現される。
【0108】
どの光アドレス型光変調層においても、また、どのアドレス光に対してもクロストークの問題を解消するには、該光アドレス型光変調層に前記遮光層を含まない場合、全ての組み合わせにおいて「特定領域」となるように調整する必要がある。ただし、該光アドレス型光変調層が前記遮光層を備える場合には、最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光(アドレス光)の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記「特定領域」となる強度とすればよい。
【0109】
光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、必要に応じて、前記「特定領域」が、相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成することが望まれる。前記「特定領域」が相互に重なっていないと、前記書き込み工程で露光する光の強度を、これら複数層に対して「特定領域」とすることができなくなってしまうためである。光アドレス型光変調層中の光導電層やアドレス光の周波数の制御による特定領域の調整については、後述する。
【0110】
<特定領域の調整>
「特定領域」は、既述の通り、アドレス光照射の対象となる光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する領域と定義付けられる。これは、図5のグラフにおける領域(2)のように、明確に光反射率の底(ボトム)が現れるような領域は勿論、そのような明確な底は無いものの、漸増傾向が一旦弱まるグラフを描く場合の当該領域をも含む概念であり、好ましくは、前者の領域(換言すれば「光反射率が極小値ないしその周辺の領域」)となるように光アドレス型光変調層中の光導電層を制御することで、予め特定領域を調整した光アドレス型空間光変調素子を用いることが好ましい。
また、この特定領域における前記光反射率としては、できる限り0に近いことが望まれ、図5のグラフにおける領域(2)では、底が0を示しているため、ほぼ理想の特定領域の光反射率となっている。
【0111】
非アドレス光の照射による光アドレス型光変調層の「特定領域」を調整するためには、上下の電荷発生層における光キャリア発生量の差によって生じる空間蓄積電荷量を制御して、書き込み工程終了時点でのバイアス電圧を制御すればよい。図10に、光導電層の吸収スペクトルがバイアス電圧に及ぼす影響の一例を示す。
【0112】
ここで図10は、例示としての光導電層について、非アドレス光とアドレス光との吸収係数をそれぞれ変化させた場合における、書き込み工程終了時のバイアス電圧の値の推移を示すグラフである。図10において、横軸は、非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を非アドレス光/アドレス光の比として表し、縦軸は、書き込み工程終了時点でのバイアス電圧を示す。また、グラフAは電荷発生層全体の吸光量が小さい場合、グラフBは電荷発生層全体の吸光量が大きい場合、についてそれぞれ示す。
【0113】
このように、光導電層の非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を制御することによって、上下電荷発生層での光キャリア発生量の差を制御でき、「特定領域」の挙動に影響を与えるバイアス電圧の大きさを調整できる。
特に、吸収係数比(非アドレス光/アドレス光)が0.2〜0.6の領域でバイアス電圧は極大値を示す傾向があり、特定領域での反射率の底(ボトム)を大きくして、できる限り0に近い状態に近づけることができる。
【0114】
実際には、電荷発生材料の化学構造や結晶構造を選択して吸収スペクトルを設計することによって、光導電層の非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差を制御でき、グラフ化した際の特定領域の形状を調整することができる。
また、アドレス光の発光スペクトルを設計することによっても、光導電層の非アドレス光とアドレス光に対する吸収係数の差を制御でき、グラフ化した際の特定領域の形状を調整することができる。
【0115】
一方、既述の通り、光アドレス型光変調層が3層以上の構成である場合、書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、必要に応じて、前記「特定領域」が、相互に重なるようにその位置(光強度)についても調整することが望まれている。
【0116】
図10に示されるように、電荷発生層全体の吸光量を制御することで、バイアス電圧の大きさは変化する。したがって、図10のグラフ中、横軸で示される非アドレス光およびアドレス光に対する吸収係数の差、並びに、電荷発生層全体の吸光量を設計することによって、アドレス光に対して反射率変化が生じる光強度、および非アドレス光に対して特定領域が発生する光強度の関係を任意に設定でき、光アドレス型光変調層が3層以上の場合において、「特定領域」が、相互に重なるようにその位置(光強度)を調整することができる。
電荷発生層全体の吸光量を調整するには、電荷発生物質の吸収係数や膜内濃度、電荷発生層の膜厚を適宜設計すればよい。
【実施例】
【0117】
以下、本発明を、実施例を挙げることで、より具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
まず、本発明および比較例に供する光アドレス型空間光変調素子(表示媒体)および書き込み装置からなるシステムとして、図6に記載の各装置を試作して、実施例1、比較例1および2の書き込み操作を行った。試作した表示媒体1は、光変調層が4BGおよび4Rの2層構成のものである。図6を参照しつつ説明する。
【0118】
(OPC層15Rの作製)
片面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された125μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,ハイビーム)を50.8mm(2インチ)角に切り出して、外部基板7および透明電極11Rとした。
【0119】
さらにこのITO(透明電極11R)側の面に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(チタンフタロシアニン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.2μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層20Rを形成した。
【0120】
次にその上に、ポリカーボネート樹脂と電荷輸送材料(ベンジジンN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)をモノクロロベンゼンに溶解した塗料を、ギャップコート法によって乾燥膜厚が6μmになるように塗布・乾燥し、電荷輸送層19Rを形成した。さらにその上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に、電荷発生材料(チタニルフタロシアニン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.35μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層18Rを形成して、電荷発生層20R、電荷輸送層19R、電荷発生層18Rの3層からなるOPC層15Rを形成した。
【0121】
両面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された50μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを50.8mm(2インチ)角に切り出して、透明電極10R、内部基板8、および、光変調層4BGの構成要素となる透明電極11BGとした。
【0122】
次に透明電極11BGとなるITO層の上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(ジブロモアンスアンスロン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.2μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層20BGを形成した。次にその上に、ポリカーボネート樹脂と電荷輸送材料(ベンジジンN,N’−ビス(3−メチルフェニル)−1,1’−ビフェニル−4,4’−ジアミン)をモノクロロベンゼンに溶解した塗料を、ギャップコート法によって乾燥膜厚が6μmになるように塗布・乾燥し、電荷輸送層19BGを形成した。さらにその上に、ポリビニルブチラール樹脂をブタノールに溶解した溶液に電荷発生材料(ジブロモアンスアンスロン顔料)をペイントシェイカーで分散させた塗料を、スピンコート法によって乾燥膜厚が0.32μmとなるように塗布・乾燥し、電荷発生層18BGを形成して、電荷発生層20BG、電荷輸送層19BG、電荷発生層18BGの3層からなるOPC層15BGを形成した。
【0123】
コレステリック液晶として、ネマチック液晶(メルク社製,E7)80.5質量%、右旋性カイラル剤(メルク社製,CB15)15.6質量%および右旋性カイラル剤(メルク社製,R1011)3.9質量%を混合して、赤色を反射する材料を調製した。
【0124】
4.2μm径のセラミック多孔質膜をセットした膜乳化装置(SPGテクノ社製,マイクロキット)を用いて、窒素圧力11.8kPa(0.12kgf/cm2)の条件下で前記コレステリック液晶を0.25質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液中に乳化した。得られたエマルジョンは、コレステリック液晶ドロップの粒径平均が14.9μmで、ほぼ単分散状態だった。
【0125】
次に、エマルジョンを静置してコレステリック液晶ドロップを沈降させ、上澄みを除去して濃縮されたエマルジョンを得た。この濃縮エマルジョン1質量部に対して、酸性法骨ゼラチン(ニッピ社製,ゼリー強度314)の7.7質量%水溶液を4質量部添加することにより、表示層用塗布液内の不揮発分体積率が約0.15、不揮発分内のコレステリック液晶体積率が約0.70の表示層用塗布液を得た。
【0126】
前記のOPC層15BGを形成した両面ITO透明電極付きPETフィルム(東レ社製ハイビーム)の片面(当該面が透明電極10R側となる)に、50℃に加熱してゼラチンをゾル状態にした前記表示層用塗布液を、塗布後のウェット膜厚が90μmになるようにギャップを調整したマイクロメータ付きアプリケータで塗布した。
【0127】
50℃/RH90%の高温高湿チャンバー内に15分間保持した後、室温下で12時間乾燥させ、表示層12Rとして、15μm径の単分散コレステリック液晶ドロップが少し偏平した形状で高分子バインダー中に単層稠密に分散された約12μm厚のPDLC層を形成した。
【0128】
OPC層15R上に、銅フタロシアニン顔料を分散させたポリビニルアルコール水溶液を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μmとなるように塗布・乾燥して、遮光層14Rを形成した。さらに当該遮光層14Rの上層として、酢酸ブチルで希釈した二液性ウレタンラミネート剤(三井武田ケミカル社製,A−315/A50)を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μm厚となるように塗布・乾燥して、ラミネート層13Rを形成した。
【0129】
以上のようにして作製した2枚の基板(OPC層15R、遮光層14R、ラミネート層13Rが層形成された外部基板7、および、OPC層15BG、表示層12Rが両側に形成された内部基板8)を、表示層12Rとラミネート層13Rとが向かい合い、かつ端面の一部が少しずれるように重ね合わせて、100℃のラミネータを通して接着し、光変調層4Rを得た。
【0130】
なお、ずらした端面上の各機能膜を除去してITO電極を露出させておき、最終的に得られる表示媒体1の外部から両透明電極10R,11Rが導通できるようにした。
【0131】
(表示層4BGの作製)
片面にITO(表面抵抗300Ω/□)が形成された125μm厚のポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ社製,ハイビーム)を50.8mm(2インチ)角に切り出して、外部基板6および透明電極10BGとした。
【0132】
コレステリック液晶として、ネマチック液晶(メルク社製,E7)77.5質量%、右旋性カイラル剤(メルク社製,CB15)18.0質量%および右旋性カイラル剤(メルク社製,R1011)4.5質量%を混合して、緑色を反射する材料を調製した。
【0133】
4.2μm径のセラミック多孔質膜をセットした膜乳化装置(SPGテクノ社製,マイクロキット)を用いて、窒素圧力11.8kPa(0.12kgf/cm2)の条件下で前記コレステリック液晶を0.25質量%のドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム水溶液中に乳化した。得られたエマルジョンは、コレステリック液晶ドロップの粒径平均が15.0μmで、ほぼ単分散状態だった。
【0134】
得られたエマルジョンを静置してコレステリック液晶ドロップを沈降させ、上澄みを除去して濃縮されたエマルジョンを得た。この濃縮エマルジョン1質量部に対して、酸性法骨ゼラチン(ニッピ社製,ゼリー強度314)の7.7質量%水溶液を4質量部添加することにより、表示層用塗布液内の不揮発分体積率が約0.15、不揮発分内のコレステリック液晶体積率が約0.70の表示層用塗布液を得た。
【0135】
外部基板6となる片面ITO付PETフィルムのITO(透明電極10BG)側の面に、50℃に加熱してゼラチンをゾル状態にした前記表示層用塗布液を、塗布後のウェット膜厚が90μmになるようにギャップを調整したマイクロメータ付きアプリケータで塗布した。
【0136】
50℃/RH90%の高温高湿チャンバー内に15分間保持した後、室温下で12時間乾燥させ、表示層12BGとして、15μm径の単分散コレステリック液晶ドロップが少し偏平した形状で高分子バインダー中に単層稠密に分散された約12μm厚のPDLC層を形成した。
【0137】
(光変調層4BGの作製)
OPC層15BG上に、ピロロピロール顔料を分散させたポリビニルアルコール水溶液を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μmとなるように塗布・乾燥して、遮光層14BG形成した。さらに当該遮光層14BGの上層として、酢酸ブチルで希釈した二液性ウレタンラミネート剤(三井武田ケミカル社製,A−315/A50)を、スピンコート法によって乾燥膜厚が1.2μm厚となるように塗布・乾燥して、ラミネート層13BGを形成した。
【0138】
以上のようにして作製した2枚の基板(光変調層4R、OPC層15BG、遮光層14BG、ラミネート層13BGが内部基板8を介して層形成された外部基板7、および表示層12BGが形成された外部基板6)を、表示層12BGとラミネート層13BGとが向かい合い、かつ端面の一部が少しずれるように重ね合わせて、100℃のラミネータを通して接着し、表示媒体1を得た。なお、ずらした端面は、(光変調層4Rの作製)の場合と同様に処理した。
【0139】
得られた表示媒体1の透明電極10R,11Rおよび透明電極10BG,11BGに、リード線を付けた市販のミノ虫クリップ(接触端子24R,25Rおよび接触端子24BG,25BG)を接続し、リード線の他端を、電圧印加部22としての高速・高電圧アンプ(松定プレシジョン社製,HEOPT1B−60型)に接続した。該高速・高電圧アンプにより、後述するとおり、周波数50Hzの矩形波のバイアス電圧を印加した。
【0140】
一方、光源としてカラー発光ダイオード光源(CCS社製,HLV−3M−RGB型)を用い、表示媒体1の外部基板7側の面を照射できるように構成して、光照射部23を作製した。当該光照射部23により、ピーク波長625nm、バンド半値幅20nmのRed光と、ピーク波長470nm、バンド半値幅25nmのBlue光を照射することができる。
【0141】
また、制御回路21としてマルチチャンネルアナログ電力出力ボード(ナショナルインスツルメンツ社製6713型)、および制御ソフト(ナショナルインスツルメンツ社製LabVIEW)を用い、パーソナルコンピュータからの画像データに基づいて電圧印加部22および光照射部23の動作を適宜制御できるように配線した。
【0142】
なお、不図示ではあるが、表示側(外部基板6側)の表面に、表示層12の表示画像の光反射率を測定するための積分球形分光計(コニカミノルタ社製、CM2002型)を取り付けた。
以上のようにして、実施例1、比較例1および2に供する表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)1、およびそれがセットされた書き込み装置2を得た。
【0143】
[実施例1、比較例1および2]
電圧印加部22および光照射部23により、図11のチャートに示す動作の時系列に従って、実施例1においては本発明の駆動方法に基づく、比較例1および2においては比較としての電圧印加およびアドレス光の照射を行った。アドレス光は、BG光のみを照射した。
【0144】
ここで図11は、実施例1、比較例1および2の電圧印加および光アドレスの照射を時系列で示すチャートである。横軸が時間であり、縦軸が電圧値あるいは光強度を表す。4つのチャートは、上から順に、透明電極24BG−25BG間に印加する電圧BG、透明電極24R−25R間に印加する電圧R、露光面側(外部基板7側)から照射するブルー色のアドレス光の光強度BGおよびレッド色のアドレス光の光強度Rをそれぞれ表すものである。
これら印加電圧の周波数、電圧、印加時間、および、アドレス光の波長、強度、照射時間を下記表1にまとめる。
【0145】
【表1】
【0146】
(評価)
得られたBG色の表示画像について、積分球形分光計を用いて反射スペクトルを測定した。表示画像の光反射率の測定は、書き込み期間終了後、印加していたバイアス電圧を止めて(表示期間)、数秒後、表示媒体1の表示側(外部基板6側)の表面について測定した。結果を図12にグラフにて示す。
【0147】
いずれの表示画像においても550nm近傍をピーク中心とするグラフが描けているが、比較例1や2では、長波長側がブロードとなっており、BG光が光変調層4Rを透過する際のクロストークにより、長波長であるR色が誤って発色していることがわかる。
【0148】
また、BG色の再現性を確認するために、上記した反射スペクトルの測定結果から、BG色の光純度C*を求めた。結果を図13に棒グラフにて示す。図13のグラフからもわかるように、実施例1では極めて純度の高いBG色が再現できていることがわかる。
【0149】
それに比べて、クロストークの影響で混色が認められる比較例1および2は、BG色純度C*が大幅に劣り、色再現性が不十分であることがわかる。
なお、BG色純度C*とは、L*a*b*(CIE1976)空間における原点と色座標a*、b*の距離として求められる値である。
【図面の簡単な説明】
【0150】
【図1】3層構成の光導電層における各色光に対するインピーダンス対称性およびインピーダンス非対称性を説明するための模式説明図である。
【図2】光導電層の導電率の変化を、それぞれ一方の電荷発生層のみが作用する方向に電場を印加した状態について示すグラフである。
【図3】図2のグラフにおける(1)〜(3)の各領域の光強度で、所定の電圧を印加しつつ、非アドレス光を照射し続けた場合の、液晶層に印加される電圧(分圧)を時系列で表すチャートである。
【図4】印加電圧を解除し、非アドレス光の照射を終了した後における、インピーダンス非対称性に基づくバイアス電圧の値と、最終的に安定した際の液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。
【図5】アドレス光および非アドレス光の光強度と、所定の印加電圧を解除し、アドレス光または非アドレス光の照射を終了した後における、液晶層の光反射率との関係を表すグラフである。
【図6】本発明の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法を適用したシステムの例示的一態様の概略構成図である。
【図7】コレステリック液晶の相変化の一覧を示す模式図である。
【図8】光変調層に対するアドレス光照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層における液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
【図9】光変調層に対する非アドレス光照射時の動作について、印加電圧の波形と表示層における液晶の配向状態との相互関係を時系列で示すチャートである。
【図10】例示としての光導電層における一対の電荷発生層AおよびBについて、非アドレス光とアドレス光との吸収係数をそれぞれ変化させた場合における、書き込み工程終了時のバイアス電圧の値の推移を示すグラフである。
【図11】実施例1、比較例1および2の電圧印加および光アドレスの照射を時系列で示すチャートである。
【図12】実施例1および比較例1〜3の結果を表すグラフであり、横軸に反射光の波長、縦軸に光反射率の測定結果をとり、実施例または比較例ごとにプロットしたものである。
【図13】実施例1および比較例1〜3におけるBG色純度*の結果を表すグラフである。
【図14】コレステリック液晶の分子配向と光学特性の関係を示す模式説明図であり、(A)はプレーナ相、(B)はフォーカルコニック相、(C)ホメオトロピック相の各相におけるものである。
【図15】コレステリック液晶のスイッチング挙動を説明するためのグラフである。
【図16】3層の光変調層が積層されてなる光アドレス型空間光変調素子を従来の方法での駆動する様子を説明するための模式説明図である。
【図17】レッド(R)の光変調層のOPC層(光導電層)における光の透過スペクトルのグラフである。
【符号の説明】
【0151】
1:表示媒体(光アドレス型空間光変調素子)、 2:書き込み装置、 4:光変調層(光アドレス型光変調層)、 6,7:外部基板、 8:内部基板、 10,11:透明電極(電極)、 12:表示層(液晶層)、 13:ラミネート層、 14:遮光層、 15:OPC層(光導電層)、 16:高分子マトリックス、 17:コレステリック液晶、 18,20:電荷発生層、 19:電荷輸送層、 21:制御回路、 22:電圧印加部、 23:光照射部、 24,25:接触端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光アドレス型光変調層が2層以上積層されてなる光アドレス型空間光変調素子に、画像を記録するための光アドレス型空間光変調素子の駆動方法において、
前記光アドレス型光変調層が、特定波長域の光を反射する少なくともコレステリック液晶からなる液晶層と、前記特定波長域の光を吸収してその吸収した光量に応じて電気特性を変化させる光スイッチ機能を担う光導電層と、
が積層され、さらにその両層の外側に電極が配されて構成され、
前記光アドレス型光変調層のそれぞれの液晶層が、相互に異なる波長域の光を反射するものであって、その反射する波長域以外の波長域の光を透過するものであり、
前記光導電層が、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成されてなり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなるものであり、
1つの前記光アドレス型光変調層に対して、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値を露光時に超え、非露光時には超えない程度の電圧を前記両電極間に印加しつつ、光アドレス型空間光変調素子を画像様に露光する書き込み工程を含み、かつ、該書き込み工程の操作を、全ての前記光アドレス型光変調層に行うことで、各層に色毎の画像を書き込む方法であって、
少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項2】
前記特定領域が、当該光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が極小値ないしその周辺の領域であることを特徴とする請求項1に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項3】
前記光アドレス型空間光変調素子において、光アドレス型光変調層が3層以上積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項4】
書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、前記特定領域が、露光する光の強度に対して相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成され、かつ、前記書き込み工程で露光する光の強度を、当該重なった前記特定領域の強度とすることを特徴とする請求項3に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項5】
前記光アドレス型空間光変調素子において、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける前記液晶層と前記光導電層との間に、該光導電層が吸収する波長域の光を吸収するとともに、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過する遮光層を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項6】
最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記特定領域となる強度とすることを特徴とする請求項5に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項7】
前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける光導電層が、相互に異なる波長域の光を吸収するものであって、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項1】
光アドレス型光変調層が2層以上積層されてなる光アドレス型空間光変調素子に、画像を記録するための光アドレス型空間光変調素子の駆動方法において、
前記光アドレス型光変調層が、特定波長域の光を反射する少なくともコレステリック液晶からなる液晶層と、前記特定波長域の光を吸収してその吸収した光量に応じて電気特性を変化させる光スイッチ機能を担う光導電層と、
が積層され、さらにその両層の外側に電極が配されて構成され、
前記光アドレス型光変調層のそれぞれの液晶層が、相互に異なる波長域の光を反射するものであって、その反射する波長域以外の波長域の光を透過するものであり、
前記光導電層が、1つの電荷輸送層を一対の電荷発生層で挟み込んで形成されてなり、かつ、前記一対の電荷発生層が、吸収スペクトルに波長分散を示し、当該光導電層が吸収する前記特定波長の光が所定の一方の面から照射された際に、インピーダンス対称性を示すように調整されてなるものであり、
1つの前記光アドレス型光変調層に対して、プレーナ相ないしフォーカルコニック相からホメオトロピック相への相変化のしきい値を露光時に超え、非露光時には超えない程度の電圧を前記両電極間に印加しつつ、光アドレス型空間光変調素子を画像様に露光する書き込み工程を含み、かつ、該書き込み工程の操作を、全ての前記光アドレス型光変調層に行うことで、各層に色毎の画像を書き込む方法であって、
少なくとも1つの前記光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、当該光アドレス型光変調層以外の少なくとも1つの光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が光の強度の増加に対して漸増傾向から最初に鈍化する特定領域の強度とすることを特徴とする光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項2】
前記特定領域が、当該光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の最終的な光反射率が極小値ないしその周辺の領域であることを特徴とする請求項1に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項3】
前記光アドレス型空間光変調素子において、光アドレス型光変調層が3層以上積層されてなることを特徴とする請求項1または2に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項4】
書き込み工程で露光する対象の光アドレス型光変調層以外の光アドレス型光変調層の内の2層以上について、前記特定領域が、露光する光の強度に対して相互に重なるようにそれぞれの光導電層を制御して形成され、かつ、前記書き込み工程で露光する光の強度を、当該重なった前記特定領域の強度とすることを特徴とする請求項3に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項5】
前記光アドレス型空間光変調素子において、前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける前記液晶層と前記光導電層との間に、該光導電層が吸収する波長域の光を吸収するとともに、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過する遮光層を備えることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項6】
最も露光面側に位置する光アドレス型光変調層以外の全ての光アドレス型光変調層における書き込み工程で露光する光の強度を、それぞれ、当該光アドレス型光変調層よりも露光面側に位置する全ての光アドレス型光変調層の前記特定領域となる強度とすることを特徴とする請求項5に記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【請求項7】
前記複数の光アドレス型光変調層それぞれにおける光導電層が、相互に異なる波長域の光を吸収するものであって、その吸収する波長域を除く波長域の光を透過するものであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光アドレス型空間光変調素子の駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【公開番号】特開2007−114278(P2007−114278A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−303015(P2005−303015)
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年10月18日(2005.10.18)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人科学技術振興機構革新技術開発研究事業、産業活力再生特別措置法第30条の規定を受けるもの
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】
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