説明

光ドロップケーブル

【課題】クマゼミ対策として有効であり、引裂き性が良好であると共に耐候性に優れた光ドロップケーブルを提供すること。
【解決手段】光ファイバ心線1を保護被覆層3により被覆してなる光ドロップケーブルにおいて、保護被覆層3に、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、フェノキシベンジルエーテルの何れかのピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物からなる昆虫忌避剤を塗布もしくは含有させてなる、光ドロップケーブル。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に架空線として布設されている光ケーブルから光ファイバ(伝送線)を分岐して一般家庭等へ引き込む際に用いられる光ドロップケーブルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、このような光ドロップケーブルの構造としては、図1に示されるように、平行に間隔を置いて配置された光ファイバ心線1と補強線2を保護被覆層3により被覆一体化すると共に、同じ保護被覆層3により支持線4を被覆し連結一体化したものが知られている。この構造において、保護被覆層3にはこれを引き裂くことによって光ファイバ心線1を取り出しやすいようにノッチ部5が設けられており、また、光ファイバ心線1と補強線2を内蔵したケーブル本体部6と支持線部7とが分離しやすいように、両者の連結部8を構成する保護被覆層3の厚さを薄く形成している。
【0003】
このような光ドロップケーブルにおいては、従来よりクマゼミが枯れ木と間違えてその産卵管を光ドロップケーブルに突き刺すことにより内部の光ファイバ心線が損傷するという問題がある。クマゼミは生木ではなく枯れ木に産卵するという習性があり、これが問題の原因になっているといわれている。
【0004】
この対策として、先行技術文献である特許文献1には、クマゼミがその産卵管を光ドロップケーブルに突き刺すことができないように、保護被覆層を硬くするという手法が記載されている。具体的には、引張弾性率100%モジュラスが12〜30MPaであり、引張強度が15〜40MPaである熱可塑性樹脂により保護被覆層を形成するという手法である。
【0005】
また、先行技術文献である特許文献2には、やはり、クマゼミがその産卵管を光ドロップケーブルに突き刺すことができないように、もしくは、突き刺しても内部の光ファイバ心線が損傷しないように、保護被覆層の内部又は外部に硬い防護壁を設けるという手法が記載されている。
【0006】
また、先行技術文献である特許文献3には、カラス、ネズミ、リス、蟻等の鳥虫獣害から光ドロップケーブルを防護するために、保護被覆層に防虫・殺虫剤成分を塗布もしくは含有させるという手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−129062号公報
【特許文献2】特開2006−195109号公報
【特許文献3】特開2005−37526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載の手法によれば、保護被覆層を硬くすることにより、光ドロップケーブルを解体する際の引裂き力が大きくなり、解体作業が難しくなるという問題がある。
【0009】
また、特許文献2に記載の手法によれば、保護被覆層の内部又は外部に硬い防護壁を設けることにより、保護被覆層を引き裂いて光ファイバ心線を取り出すことが難しくなり、光ファイバ心線を取り出しての配線時の作業性が低下するという問題がある。
【0010】
また、特許文献3に記載の手法によれば、保護被覆層に防虫・殺虫剤成分を塗布もしくは含有させることにより、特許文献1、2のような問題は起こらないが、防虫・殺虫剤成分の種類によっては保護被覆層を構成する材料の耐候性が低下し、主として光分解性が低下することにより、光ドロップケーブルの寿命が短くなるという問題がある。
【0011】
したがって、本発明の目的は、クマゼミ対策として有効であり、引裂き性が良好であると共に耐候性に優れた光ドロップケーブルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、光ファイバ心線を保護被覆層により被覆してなる光ドロップケーブルにおいて、前記保護被覆層に、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、フェノキシベンジルエーテルの何れかのピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物からなる昆虫忌避剤を塗布もしくは含有させてなることを特徴とする光ドロップケーブルを提供する。
【0013】
上記において、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリンは、ピレスロイド系化合物の一種であり、また、フェノキシベンジルエーテルは、ピレスロイド様化合物の一種である。ピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物は、いずれも殺虫剤の成分として広く利用されており、昆虫のナトリウムイオンチャンネルを撹乱してその神経系を麻痺させる作用があるといわれている。クマゼミと同類のカメムシ、ツマグロヨコバイ類などの半翅目類の昆虫でもその効果は確認されているが、クマゼミ忌避性に関しては、これまで実験結果をもって具体的に報告された例はない。発明者らによる実験結果によると、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、フェノキシベンジルエーテルは、いずれもクマゼミ忌避性を有するとともに、ピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物の中でも特に耐候性(主として光分解性)に優れていることが分かった。これが本発明において上記昆虫忌避剤としてシフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、フェノキシベンジルエーテルを選定するとともに採用した理由となっている。
【0014】
また、ピレスロイド様化合物の一種であるフェノキシベンジルエーテル化合物は、ピレスロイド系化合物よりも耐候性に優れており、その中でも2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテルは特に優れた化合物である。
【0015】
この光ドロップケーブルによれば、上記構成の採用により、クマゼミ対策として有効であり、引裂き性が良好であると共に耐候性に優れた光ドロップケーブルを提供することができる。これにより光ドロップケーブルの寿命の低下を抑制することができることは言うまでもないことである。
【0016】
請求項2の発明は、前記昆虫忌避剤を塗布する場合、前記昆虫忌避剤の塗布量が、10〜100mg/m2であることを特徴とする請求項1に記載の光ドロップケーブルを提供する。
【0017】
この光ドロップケーブルによれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、後述する実施例により確認された適正な塗布量をもって、前記保護被覆層に前記昆虫忌避剤を塗布した光ドロップケーブルを提供することができる。
【0018】
請求項3の発明は、前記昆虫忌避剤を含有させる場合、前記昆虫忌避剤の含有量が、前記保護被覆層を構成する材料の主成分100重量部に対し、0.05〜1重量部であることを特徴とする請求項1に記載の光ドロップケーブルを提供する。
【0019】
この光ドロップケーブルによれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、後述する実施例により確認された適正な含有量をもって、前記保護被覆層に前記昆虫忌避剤を含有させた光ドロップケーブルを提供することができる。
【0020】
請求項4の発明は、前記保護被覆層を構成する材料が、前記主成分及び副成分を有しており、前記副成分が前記昆虫忌避剤との相溶性を有するポリマ成分からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光ドロップケーブルを提供する。
【0021】
この光ドロップケーブルによれば、上記効果に加えて、上記構成の採用により、すなわち、前記保護被覆層を構成する材料が、前記主成分及び副成分を有しており、前記副成分が前記昆虫忌避剤との相溶性を有するポリマ成分からなることにより、特に前記保護被覆層に前記昆虫忌避剤を含有させる場合、前記昆虫忌避剤の存在により前記保護被覆層が可塑化される恐れがあるが、この可塑化による悪影響を軽減することができる。つまり、前記保護被覆層の機械的性質を維持することができる。また、あらかじめ、昆虫忌避剤を相溶性を有するポリマ成分と混練し、該混練物と主成分ポリマとを混練することにより、保護被覆層の硬さを調整することも可能である。
【発明の効果】
【0022】
本発明の光ドロップケーブルによれば、クマゼミ対策として有効であり、引裂き性が良好であると共に耐候性に優れた光ドロップケーブルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の一実施の形態に係る光ドロップケーブルの横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1に基づいて本発明の好適な実施の形態を説明するが、本発明はこれらの実施の形態の限られるものでないことは言うまでもないことである。
【0025】
既に述べた通り、図1に示される構造の光ドロップケーブルは、平行に間隔を置いて配置された光ファイバ心線1と補強線2を保護被覆層3により被覆一体化すると共に、同じ保護被覆層3により支持線4を被覆し連結一体化して構成されている。また、この構造において、保護被覆層3にはこれを引き裂くことによって光ファイバ心線1を取り出しやすいようにノッチ部5が設けられており、さらに、光ファイバ心線1と補強線2を内蔵したケーブル本体部6と支持線部7とが分離しやすいように、両者の連結部8を構成する保護被覆層3の厚さを薄く形成している。
【実施例1】
【0026】
ここで、図1の保護被覆層3を構成する材料として、表1の特性を有する難燃性ポリエチレンからなる材料Aを用い、押出しにより保護被覆層3を形成して、図1に示される構造の光ドロップケーブルを製造した。
【0027】
【表1】

【0028】
そして、上記により製造された光ドロップケーブルについて、その保護被覆層3に、次のようにピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物からなる昆虫忌避剤を塗布し、光ドロップケーブルの各試料を作製した。
【0029】
(試料1)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを5mg/m2塗布した。
【0030】
(試料2)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを20mg/m2塗布した。
【0031】
(試料3)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを40mg/m2塗布した。
【0032】
(試料4)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを100mg/m2塗布した。
【0033】
(試料5)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを200mg/m2塗布した。
【0034】
(試料6)ピレスロイド系化合物としてビフェントリンを20mg/m2塗布した。
【0035】
(試料7)ピレスロイド系化合物としてビフェントリンを200mg/m2塗布した。
【0036】
(試料8)ピレスロイド系化合物としてフェンプロパトリンを10mg/m2塗布した。
【0037】
(試料9)ピレスロイド系化合物としてフェンプロパトリンを200mg/m2塗布した。
【0038】
(試料10)ピレスロイド様化合物としてフェノキシベンジルエーテルを20mg/m2塗布した。
【実施例2】
【0039】
また、図1の保護被覆層3を構成する材料として、難燃性ポリエチレンに難燃性ポリエチレン100重量部に対しスチレン系エラストマ10重量部を配合した表2の特性を有する材料Bを用い、材料Bにピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物からなる昆虫忌避剤をコンパウンディングし、押出しにより保護被覆層3を形成して、図1に示される構造の光ドロップケーブルを製造するとともに、次のように保護被覆層3にピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物を含有させた光ドロップケーブルの各試料を作製した。
【0040】
【表2】

【0041】
(試料11)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを0.05重量部含有させた。
【0042】
(試料12)ピレスロイド系化合物としてシフルトリンを1重量部含有させた。
【0043】
(試料13)ピレスロイド様化合物としてフェノキシベンジルエーテルを0.05重量部含有させた。
【0044】
(試料14)ピレスロイド様化合物としてフェノキシベンジルエーテルを1重量部含有させた。
【0045】
(試料15)ピレスロイド様化合物としてフェノキシベンジルエーテルを1重量部含有させた。
【0046】
(試料16)ピレスロイド様化合物としてフェノキシベンジルエーテルを0.01重量部含有させた。
【0047】
ここで、上記各試料についてクマゼミ忌避性の検証実験を行うとともに引裂き力の検証試験を行った。この結果を表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
クマゼミ忌避性の検証実験については、幅1200mm、奥行き400mm、高さ2100mmの骨組みを作り、この骨組みに、上記各試料を夫々1200mmの長さに布設した後、虫アミを被せて、その中にクマゼミ(メス)を50匹放し、3日後の各試料についてクマゼミの産卵管の突き刺し状況と光ファイバ心線の損傷程度を夫々観察した。
【0050】
また、引裂き力の検証試験については、図1に示される構造の光ドロップケーブルの各試料について、ケーブル本体部6から支持線部7を分離し、保護被覆層3のノッチ部5に切込みを入れた後、保護被覆層3内部の光ファイバ心線1を露出させるために、切り込みに沿って保護被覆層3を対称に引き裂く際の引裂き力の大きさを測定した。この時、ケーブルに10mm程切込みを入れ両端を引張試験機治具に固定し、引張速度200mm/minにて試験し最大値を引裂き力とした。引裂き力の判断基準は、手作業でも容易に引き裂ける2kgf/mm以下を良好とした。なお、この検証試験で使用された光ドロップケーブルの各試料は、いずれもクマゼミ忌避性の検証実験を行う前の無傷のものである。
【0051】
表3より、保護被覆層に昆虫忌避剤を塗布する場合では、試料1から、昆虫忌避剤(シフルトリン)の塗布量が5mg/m2だと、クマゼミ忌避性の効果が少なく、産卵管の刺し傷が多く発生するとともに光ファイバ心線の損傷が発生することが分かった。また、試料2、3、4、6、8、10から、昆虫忌避剤の塗布量が10〜100mg/m2であれば、産卵管の刺し傷が減り、光ファイバ心線の損傷が発生しないことが分かった。また、試料5、7、9から、昆虫忌避剤の塗布量が200mg/m2だと、昆虫忌避剤の影響により、ノッチ部に切込みを入れることはできるものの滑って引き裂くことができないことが分かった。これにより昆虫忌避剤の適正な塗布量は、10〜100mg/m2であることが分かった。
【0052】
一方、保護被覆層に昆虫忌避剤を含有させる場合では、試料11、12、13、14から、昆虫忌避剤の含有量が0.05〜1重量部であれば、産卵管の刺し傷が少なく、光ファイバ心線の損傷が発生しないことが分かった。また、試料15から、昆虫忌避剤の含有量が5重量部だと、昆虫忌避剤の存在により材料Bが可塑化されて、産卵管が保護被覆層に容易に侵入し、光ファイバ心線の損傷が発生することが分かった。また、試料16から、昆虫忌避剤の含有量が0.01重量部だと、クマゼミ忌避性の効果が認められないことが分かった。これにより昆虫忌避剤の適正な含有量は、0.05〜1重量部であることが分かった。
【0053】
また、表3より、昆虫忌避剤の効果としては、ピレスロイド系化合物では、フェンプロパトリン、シフルトリン、ビフェントリンの順に効果があり、産卵管の刺し傷と光ファイバ心線の損傷は比例傾向にあるため、ピレスロイド系化合物からなる昆虫忌避剤としてはフェンプロパトリンを適用することが好ましいといえる。また、耐候性(光分解性)を考慮すると、ピレスロイド様化合物の一種であるフェノキシベンジルエーテルを適用することが好ましく、その中でも特に2−(4−エトキシフェニル)−2−メチルプロピル−3−フェノキシベンジルエーテルが優れているといえる。
【符号の説明】
【0054】
1 光ファイバ心線
2 補強線
3 保護被覆層
4 支持線
5 ノッチ部
6 ケーブル本体部
7 支持線部
8 連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光ファイバ心線を保護被覆層により被覆してなる光ドロップケーブルにおいて、前記保護被覆層に、シフルトリン、ビフェントリン、フェンプロパトリン、フェノキシベンジルエーテルの何れかのピレスロイド系化合物もしくはピレスロイド様化合物からなる昆虫忌避剤を塗布もしくは含有させてなることを特徴とする光ドロップケーブル。
【請求項2】
前記昆虫忌避剤を塗布する場合、前記昆虫忌避剤の塗布量が、10〜100mg/m2であることを特徴とする請求項1に記載の光ドロップケーブル。
【請求項3】
前記昆虫忌避剤を含有させる場合、前記昆虫忌避剤の含有量が、前記保護被覆層を構成する材料の主成分100重量部に対し、0.05〜1重量部であることを特徴とする請求項1に記載の光ドロップケーブル。
【請求項4】
前記保護被覆層を構成する材料が、前記主成分及び副成分を有しており、前記副成分が前記昆虫忌避剤との相溶性を有するポリマ成分からなることを特徴とする請求項1〜3の何れかに記載の光ドロップケーブル。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−128217(P2011−128217A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−284264(P2009−284264)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】