説明

光ファイバ心線

【課題】 被覆除去性に優れた光ファイバ心線を提供する。
【解決手段】 光ファイバ心線1は、ガラスファイバの周りに一次被覆層3と二次被覆層4とが順に積層されている。一次被覆層3はフッ素原子を含有し、二次被覆層4が紫外線硬化型樹脂から形成されている。一次被覆層3におけるフッ素原子の含有量は、一次被覆層の全重量に対して40質量%以上である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスファイバの周りに一次被覆層及び二次被覆層を積層した光ファイバ心線に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の光ファイバ心線として、ガラスファイバの周りを樹脂で被覆したものが一般に用いられている。ガラスファイバの周りを樹脂で被覆することにより、ガラスファイバの折損を防止し、取り扱いが容易となる。
光ファイバ心線に用いる被覆樹脂としては、紫外線硬化型樹脂が知られている。(例えば、特許文献1及び特許文献2参照。)。紫外線硬化型樹脂を用いると、熱可塑性樹脂(例えば、ナイロンやETFE等)を用いた場合に比べ、光ファイバ心線を製造する際に押出機及びその他の付帯設備を省略できるため、製造コストに優れたものとなる。
【0003】
特許文献1は、ガラスファイバ上に一次被覆層と二次被覆層とを形成した光ファイバ心線を開示している。この光ファイバ心線の二次被覆層には、引張速度50mm/minにおける伸びが20〜50%である被覆材料を使用している。特許文献1によれば、二次被覆層にこのような被覆材料を用いることにより、被覆層の除去作業を行う際に被覆層片を一塊で除去できるので、作業の手間を軽減できる。
【0004】
特許文献2は、外径が125μmのガラスファイバ上に2層の紫外線硬化型被覆層を施した光ファイバ心線を開示している。この光ファイバ心線において、内側の紫外線硬化型被覆層のヤング率は750〜850MPa程度であり、外側の紫外線硬化型樹脂層のヤング率は30〜100MPaとされている。特許文献2の光ファイバ心線によれば、非加熱式リムーバでも容易に除去できる。
【特許文献1】特開平11−211944号公報
【特許文献2】特開2003−241033号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記特許文献のように複数の樹脂層が設けられた光ファイバ心線を配線する際、最外層のみを剥離除去して、他の光ファイバ心線と接続するという作業を行う場合がある。この作業の際には、最外層のすぐ下の樹脂層を剥離させないで、最外層のみを容易に除去できる性能(以下、この性能を「被覆除去性」という。)が重要となる。
【0006】
また、光ファイバ心線によっては、最外層の下層に種別等を判別するための着色層を設けることもある。このような着色層を有する光ファイバ心線では、最外層を除去するときに着色層も同時に剥がれると光ファイバ心線の種別が判別できなくなるため、前記被覆除去性がより一層重要となる。
【0007】
しかしながら、製造コスト低減のために樹脂層を全て紫外線硬化型樹脂で形成すると、最外層とその下層とが密着してしまい、被覆除去性が低下するという問題があった。上記特許文献1,2では最外層と下層との密着性を低下させて被覆除去性を向上させているが、さらなる被覆除去性の向上が望まれている。
本発明の目的は、被覆除去性に優れた光ファイバ心線を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、ガラスファイバ上に一次被覆層及び二次被覆層を設けた光ファイバ心線において、一次被覆層を構成する樹脂に着目し、本発明を完成するに至った。
すなわち、前述した目的を達成するために、本発明に係る光ファイバ心線は、ガラスファイバの周りにフッ素原子を含有する一次被覆層と二次被覆層とを順に積層した光ファイバ心線であって、前記二次被覆層が紫外線硬化型樹脂から形成され、前記一次被覆層におけるフッ素原子の含有量は、一次被覆層の全重量に対して40質量%以上であることを特徴としている。
【0009】
本発明に係る光ファイバ心線は、一次被覆層がフッ化アクリレート樹脂から形成されていることが好ましい。
【0010】
本発明に係る光ファイバ心線は、前記一次被覆層のヤング率が10MPa以上であることが好ましい。
【0011】
さらに、本発明に係る光ファイバ心線は、前記二次被覆層が最外層であることが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明の光ファイバ心線によれば、一次被覆層がフッ素原子を含有することにより、一次被覆層表面の滑性が向上するので、一次被覆層の外側の二次被覆層を容易に被覆除去できる。よって、被覆除去性に優れた光ファイバ心線を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る光ファイバ心線を示す断面模式図である。図1に示すように、光ファイバ心線1は中心にガラスファイバ2を有し、このガラスファイバ2の周りに一次被覆層3が形成されている。この一次被覆層3の周りには、二次被覆層4が設けられている。
【0014】
一次被覆層3はフッ素原子を含有する。一次被覆層3がフッ素原子を含有することにより、一次被覆層表面の滑性を向上させることができ、一次被覆層3及び二次被覆層4に互いに密着しやすい樹脂を用いた場合であっても、一次被覆層3を残して、二次被覆層4のみを容易に除去することができる。
【0015】
一次被覆層3のフッ素原子の含有量は、一次被覆層3の全重量の40質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。フッ素原子の含有量が40質量%以上であることにより、被覆除去作業の際に二次被覆層4を容易に除去することができるが、40質量%未満であると、一次被覆層3と二次被覆層4との密着力が増加するため、二次被覆層4が除去し難くなる場合がある。
なお、一次被覆層3中のフッ素含有量は、イオンクロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0016】
一次被覆層3にフッ素原子を含有させるには、(i)一次被覆層3をフッ素原子が組成分の一部をなす有機高分子からなる樹脂で形成する、(ii)フッ素化合物(例えば、フッ化ナトリウム等)を一次被覆層3を形成する樹脂に添加する、等の手段が挙げられるが、保存中の安定性に優れる(i)の手段で一次被覆層3を形成することが好ましい。
【0017】
(i)の手段を用いる場合、フッ素原子を含む樹脂としては、高速で被覆加工を行うことのできる紫外線硬化樹脂の主成分として、反応性の高い樹脂組成物を構成できることから、フッ素化アルキル基を含むアクリレート(2-(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2,2,3,3−テトラアフルオロプロピルアクリレート、など)ないしメタクリレート成分(ペンタフルオロベンジルメタクリレート、パーフルオロノルボニルメチルメタクリレート、など)を反応性のモノマー、または反応性オリゴマーとして含むフッ化アクリレート樹脂を用いることが好ましい。このようなフッ素化アルキル基を含むアクリレートとしては、市販品を使用することができ、例えば2−パーフルオロデシルエチルアクリレート、R−2020(ダイキン化成品販売株式会社)を用いることができる。フッ化アクリレート樹脂には、その他の成分として、弾性率と樹脂の粘度を調整するための二重結合を複数備える多官能の架橋剤成分(トリメチロールプロパントリアクリレート、ジアクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、など)、1〜5重量%程度の紫外線によりラジカルを発生し樹脂の硬化を開始する開始剤(ベンゾフェノン、アセトフェノン、ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、)を配合する。
一次被覆層3を(ii)の手段で形成する場合には、一次被覆層3を構成する樹脂としては、アクリル系樹脂が好ましく、例えば、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂等が挙げられる。一次被覆層3に用いることができるアクリル系樹脂として市販品を用いることができ、例えば、デソライト950−101(DSM社)等を用いることができる。
【0018】
一次被覆層3のヤング率は、10MPa以上であることが好ましい。一次被覆層3のヤング率が10MPaより小さい場合には、光ファイバ心線表面のべとつきや剛性の低下、さらには、些細な外圧によって一次被覆層3が破壊されるといった問題が生じる場合がある。例えば、クロージャ内で光ファイバ心線の取扱う際に、プラスチックの縁等に、300gf程度の力で接触してしごかれた場合でも、一次被覆層3が剥がれることがある。
【0019】
一次被覆層3のヤング率の上限は500MPaであることが好ましい。一次被覆層3のヤング率の上限が500MPaであることにより、光ファイバを曲げた場合に一次被覆層からの側圧で生じる伝送特性の劣化を抑え、最外層のみ除去する際に壊れない程度の強度を一次被覆層に付与できる。
【0020】
二次被覆層4は紫外線硬化型樹脂から形成することが望ましい。特に二次被覆層4を形成する紫外線硬化型樹脂として、ウレタンアクリレート系樹脂、エポキシアクリレート系樹脂などアクリレート(メタクリレートを含む)系成分を含む樹脂を用いることで、二次被覆層に配合されるアクリレート系成分が一次被覆層のアクリレート系成分と親和性が高いため、一次被覆層のフッ素成分により樹脂成分が弾かれることがなく二次被覆層の外径変動や、表面の凹凸などが生じ難くなる。二次被覆層4に用いる紫外線硬化型樹脂として市販品を用いることができ、例えば、デソライト950−101(DSM社)等を用いることができる。
【0021】
二次被覆層4を構成する紫外線硬化型樹脂のヤング率は、700から1300MPaの範囲内であることが好ましい。二次被覆層4の紫外線硬化型樹脂のヤング率が700MPa未満であると、剛性が不足してガラスファイバ2の保護機能が不十分となる場合がある。一方、ヤング率が1300MPaを超えると、ファイバの保護機能は向上するものの、クッション材としての役割を果たしにくくなり、ガラスファイバが外力による側圧の影響を受けやすくなるため、光伝送特性が低下する場合がある。
【0022】
光ファイバ心線1において、ガラスファイバ2の外径は80〜400μm程度である。一次被覆層3の厚さは10〜160μmの範囲、二次被覆層4の厚さは、50〜900μmの範囲内で設定することができる。
【0023】
この光ファイバ心線1の製造方法を図2を用いて説明する。図2は、光ファイバ心線1を製造する製造装置の一例を示している。
図2に示すように、光ファイバ心線1の製造装置11は、光ファイバ母材12を加熱溶融する加熱炉13を備え、加熱炉13の下方には、ガラスファイバ1が通過する経路に沿って、一次被覆用ダイス15、硬化炉16、二次被覆用ダイス17、硬化炉18、キャプスタン19及び巻き取りリール20が設けられている。
【0024】
この製造装置11を用いて光ファイバ心線1を製造するには、まず、一次被覆層用ダイス15及び二次被覆層用ダイス17に、それぞれ、一次被覆層3及び二次被覆層4を構成する樹脂及び必要に応じて添加剤等を含有する樹脂組成物を充填しておく。この一次被覆層用ダイス15及び二次被覆層用ダイス17に、加熱炉13によって溶融紡糸されたガラスファイバ2を通過させることにより、ガラスファイバ2の周りに樹脂組成物をコーティングする。そして、樹脂組成物を硬化炉16,18にて紫外線を照射して硬化させることにより、ガラスファイバ2の周りに一次被覆層3と二次被覆層4とを順に積層した光ファイバ心線1を形成する。
【0025】
以上説明したように、本実施形態に係る光ファイバ心線1によれば、一次被覆層3におけるフッ素原子の含有量を一次被覆層の全重量に対して40質量%以上とすることにより、一次被覆層表面の滑性を向上させることができ、二次被覆層4の被覆除去を容易に行うことができるので、光ファイバ心線の配線時において被覆除去の作業性を優れている。
【0026】
なお、本発明に係る光ファイバ心線は、一次被覆層に着色剤を添加して、種別等を判別するための着色層とした形態でもよい。図3に、一次被覆層が着色層としても機能する光ファイバ心線の実施形態を示す。
図3に示すように、光ファイバ心線31は、ガラスファイバ2の周りに2層の樹脂層(プライマリ層35及びセカンダリ層36)が形成されている。セカンダリ層36の周りには着色された一次被覆層3が形成され、一次被覆層3の周りには二次被覆層4が設けられている。
【0027】
一次被覆層3の厚みは5μm程度、二次被覆層4の厚みは320μm程度であり、光ファイバ心線31の直径は900μm程度である。このような光ファイバ心線31は主に屋内配線用として用いられる。
光ファイバ心線31においても、一次被覆層3がフッ素原子を含有することにより、一次被覆層3を剥離させることなく二次被覆層4の被覆除去を容易に行うことができるので、被覆除去の作業性に優れたものとなる。
【0028】
その他、前述した実施形態において例示したガラスファイバ2、一次被覆層3、二次被覆層4等の材質,形状,寸法,形態,等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【実施例】
【0029】
本発明を実施例を用いてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
外径125μmのガラスファイバ2上に、外径200μmとなるように一次被覆層3を形成し、ついで、外径250μmとなるように二次被覆層4を形成し、図1に示す光ファイバ心線1を形成した。一次被覆層3としては、主成分としてR−2020(ダイキン化成品販売株式会社)を80重量%に、架橋剤と開始剤を含んでいるデソライト950−200(DSM社)を20重量%添加して製作したフッ化アクリレート樹脂を用いた。このフッ化アクリレート樹脂のフッ素含有量は、R−2020のフッ素の含有量が約65重量%であることから、約51重量%とした。また、二次被覆層4の樹脂はウレタンアクリレート系樹脂(デソライト950−101(DSM社)を用いた。
【0030】
一次被覆層及び二次被覆層に用いた樹脂のヤング率をJIS K7113の方法に従って測定したところ、一次被覆層3の樹脂のヤング率は、32MPaであり、二次被覆層3の樹脂のヤング率は、710MPaであった。
【0031】
(比較例1)
一次被覆層3の樹脂を、実施例1の樹脂組成分の配合比をR−2020を50重量%、デソライト950−200を50重量%と変えて、フッ素含有量が32質量%のフッ化アクリレート樹脂に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で光ファイバ心線を作製した。比較例1の光ファイバ心線の一次被覆層及び二次被覆層を構成する樹脂のヤング率については表1に示す。
【0032】
(実施例2)
一次被覆層3の樹脂を、75重量%のNaBFと25重量%のデソライト950−200を混合してフッ素含有量が50質量%の樹脂に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で光ファイバ心線を作製した。実施例2の光ファイバ心線の一次被覆層及び二次被覆層を構成する樹脂のヤング率については表1に示す。
【0033】
(比較例2)
一次被覆層3の樹脂を、フッ素を含有しないデソライト950−200(DSM社)に変更したこと以外は、実施例1と同様の条件で光ファイバ心線を作製した。比較例1の光ファイバ心線の一次被覆層及び二次被覆層を構成する樹脂のヤング率については表1に示す。
【0034】
以上の実施例1〜2及び比較例1〜2の光ファイバ心線について下記被覆除去性試験を行って、光ファイバ心線の被覆の除去のしやすさについて評価した。
〔被覆除去性試験〕
銅線の被覆除去に用いるニッパに類似した、中心軸線で双方の刃に分割される内径220μmの孔部を備えた被覆除去工具を用い、他端側を固定した光ファイバの端末から20mmの位置でこの工具により二次被覆層の外周側を切断し、工具を光ファイバの長手方向に移動させることで、孔部外周の二次被覆層に力を加えて二次被覆層全体を切断するとともに光ファイバ本体側に接着した一次被覆層を残して、二次被覆層を除去する実験を行った。この際、工具に歪ゲージを取り付けて、二次被覆層を除去する際に生じる最大応力(引抜力)を測定した。
評価基準は以下のとおりとした。
◎:引抜力が50g以下で、一次被覆層の破壊の無いもの
○:引抜力が50gを超え100g以下で、一次被覆層の破壊の無いもの
△:引抜力が100g以上のもの
×:一次被覆層の破壊の生じたもの
【0035】
【表1】

【0036】
以上の結果から、本発明の光ファイバ心線(実施例1〜2)は、比較例と比べて被覆除去性に優れていることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の実施形態に係る光ファイバ心線を示す断面模式図である。
【図2】本発明の実施形態に係る光ファイバ心線の製造方法の一例を示す模式図である。
【図3】本発明の実施形態に係る光ファイバ心線の製造方法の一例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0038】
1 光ファイバ心線
2 ガラスファイバ
3 一次被覆層
4 二次被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラスファイバの周りにフッ素原子を含有する一次被覆層と二次被覆層とを順に積層した光ファイバ心線であって、
前記二次被覆層が紫外線硬化型樹脂から形成され、
前記一次被覆層におけるフッ素原子の含有量は、一次被覆層の全重量に対して40質量%以上であることを特徴とする光ファイバ心線。
【請求項2】
前記一次被覆層は、フッ化アクリレート樹脂から形成されていることを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ心線。
【請求項3】
前記一次被覆層のヤング率は、10MPa以上であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光ファイバ心線。
【請求項4】
前記二次被覆層が最外層であることを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の光ファイバ心線。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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