説明

光ファイバ電流センサ、電流測定方法、及び事故区間検出装置

【課題】センサからの出力光を伝送する伝送路の途中で生じ得る偏光状態の変動の影響を受けることなく、高精度に電流を測定する。
【解決手段】光ファイバ電流センサは、センサファイバ11からの出力光を偏波面が互いに直交する2つの偏光成分に分離する偏光分離素子13と、偏光分離素子13によって分離された2つの偏光成分をそれぞれ無偏光化する偏光解消素子17と、偏光解消素子17によって無偏光化された2つの光を光電気変換によりそれぞれ第1信号S1および第2信号S2に変換する受光素子151と、第1信号S1および第2信号S2に基づいてファラデー回転の大きさを求めて被測定電流の値を算出する信号処理部15と、を具備する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ中を伝搬する光の偏波面が磁界により回転するファラデー効果を利用して電流を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電力設備の監視等を行う電流測定装置として、光ファイバをセンサに用いた光ファイバ電流センサ(例えば、特許文献1参照)が注目されている。
この光ファイバ電流センサでは、磁性媒質中を伝搬する光の偏波面がその伝搬方向における磁界の大きさに比例して回転するファラデー効果を利用して、電流を測定する。光ファイバも磁性媒質の一種であり、センサとして用いる光ファイバに直線偏光を入射して被測定電流が流れる導体、即ち磁界発生源の近くに置くと、ファラデー効果によって光ファイバ中の直線偏光に偏波面の回転(ファラデー回転)が与えられる。この時、電流に比例した磁界が発生しているので、ファラデー効果による偏波面の回転角度(ファラデー回転角)は、被測定電流の大きさに比例することになる。そこで、このファラデー回転角を測定することで、電流の大きさを求めることができる。これが光ファイバ電流センサの原理である。
【特許文献1】特開2006−46978号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ここで、センサから出力されたファラデー回転付与後の光を受光素子へ伝送する伝送路として、例えば単一モードファイバを用いた場合には、伝送路が振動等によって変位することによって、伝送路中を伝搬する光に偏光状態の変動が生じる。一方、受光素子(フォトダイオード)の光電気変換効率は完全に偏光無依存ではなく、僅かながら偏光依存性を有する。したがって、伝送路伝搬中にセンサの出力光に偏光状態の変動が生じると、偏光状態に応じて受光素子の光電気変換効率が変化することにより、受光された光強度が変動してしまうこととなり、ファラデー回転角の測定に誤差が発生して、電流の測定精度が劣化するという問題がある。
【0004】
上記の問題を避けるために、単一モードファイバの代わりに偏波保持ファイバを伝送路に用いることが考えられるが、偏波保持ファイバは単一モードファイバに比べて高価であり、コスト面でデメリットとなる。
また、上記のような光ファイバ電流センサを用いて遠方の送電線の電流異常を検出する場合、遠方の異常検出地点に配置されるセンサとの間で光を伝送する長距離の伝送路が必要であるが、この目的で利用可能な既に敷設されている商用の光ファイバ伝送路は単一モードファイバで構成されており、新たにこれに代わる高価な偏波保持ファイバの長距離伝送路を敷設するのは非現実的である。
【0005】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサからの出力光を伝送する伝送路の途中で生じ得る偏光状態の変動の影響を受けることなく、高精度に電流を測定することが可能な光ファイバ電流センサ、電流測定方法、および事故区間検出装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、センサファイバを備え、該センサファイバに直線偏光を入力し、該センサファイバの周囲に設置された導体を流れる被測定電流により生じる磁界によって前記直線偏光に付与されるファラデー回転の大きさを検出することで、前記被測定電流を測定する光ファイバ電流センサにおいて、前記センサファイバからの出力光を偏波面が互いに直交する2つの偏光成分に分離する偏光分離手段と、前記偏光分離手段によって分離された2つの偏光成分をそれぞれ無偏光化する無偏光化手段と、前記無偏光化手段によって無偏光化された2つの光を光電気変換によりそれぞれ第1信号および第2信号に変換する光電気変換手段と、前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記ファラデー回転の大きさを求めて前記被測定電流の値を算出する信号処理手段と、を具備することを特徴とする。
【0007】
また、本発明は、上記光ファイバ電流センサにおいて、前記偏光分離手段からの出力光を前記光電気変換手段へ伝送する伝送路が単一モード光ファイバで構成されたことを特徴とする。
【0008】
また、本発明は、上記光ファイバ電流センサにおいて、前記無偏光化手段は、前記単一モード光ファイバの前記偏光分離手段側の端部に設けられたことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記光ファイバ電流センサにおいて、前記無偏光化手段は、前記単一モード光ファイバの前記光電気変換手段側の端部に設けられたことを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、センサファイバに直線偏光を入力し、該センサファイバの周囲に設置された導体を流れる被測定電流により生じる磁界によって前記直線偏光に付与されるファラデー回転の大きさを検出することで、前記被測定電流を測定する電流測定方法において、前記センサファイバからの出力光を偏波面が互いに直交する2つの偏光成分に分離し、前記分離された2つの偏光成分をそれぞれ無偏光化し、前記無偏光化された2つの光を光電気変換によりそれぞれ第1信号および第2信号に変換し、前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記ファラデー回転の大きさを求めて前記被測定電流の値を算出することを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記光ファイバ電流センサを備え、該光ファイバ電流センサを用いて架空線路と地中線路が混在する送電線路における事故区間を検出することを特徴とする事故区間検出装置である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、センサファイバから出力されて2つの偏光成分に分離された光を、無偏光化手段によって無偏光化してから光電気変換するので、途中の伝送路において偏光状態が変動したとしても、その影響を受けることなく上記2つの偏光成分それぞれの光強度を正しく計測でき、これにより高精度に電流の測定を行うことが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
図1は、本発明の第1の実施形態による光ファイバ電流センサの構成図を示している。
同図において、光ファイバ電流センサは、センサファイバ11と、光サーキュレータ12と、偏光分離素子13と、ファラデー回転子14と、信号処理部15と、伝送用光ファイバ16A,16Bと、偏光解消素子(無偏光化手段)17A,17Bと、受光素子151A,151Bと、を含んで構成される。
【0014】
センサファイバ11は、測定しようとしている被測定電流Iが流れる送電線等の導体100の周囲を周回するようにして配置される。このセンサファイバ11として、好適にはファラデー効果の大きさを決めるベルデ定数が大きい特性を持った光ファイバである、鉛ガラスファイバを用いることができる。センサファイバ11の一端にはファラデー回転子14が取り付けられ、他端には金属薄膜の蒸着等によって反射部(ミラー)111が形成されている。
【0015】
ファラデー回転子14と偏光分離素子13、及び、偏光分離素子13の2つの偏光の出射端と偏光解消素子17A,17Bは、それぞれ光ファイバで接続されている。偏光解消素子17Aの他方の端部は、伝送用光ファイバ16Aによって光サーキュレータ12を介して受光素子151Aに接続され、偏光解消素子17Bの他方の端部は、伝送用光ファイバ16Bによって受光素子151Bに接続されている。光サーキュレータ12は、光源21から送光ファイバ22を通じて供給される光がセンサファイバ11側へ透過し、センサファイバ11側から伝送用光ファイバ16Aを伝搬してくる光が受光素子151A側へ透過する向きに接続される。
【0016】
このように構成された光ファイバ電流センサにおいて、光源21から発せられた光が送光ファイバ22、光サーキュレータ12、伝送用光ファイバ16A、及び偏光解消素子17Aを順次介して偏光分離素子13へ入射される。この光は、偏光分離素子13によって電界の振動方向が一方向(偏光分離素子13の主軸方向)にそろった直線偏光に変換されて、ファラデー回転子14へ入力される。ファラデー回転子14は、永久磁石とこの永久磁石によって磁気飽和させられた強磁性体結晶である強磁性ガーネットとからなり、強磁性ガーネットを通過する光に片道22.5度のファラデー回転を付与する。ファラデー回転子14を出た直線偏光は、センサファイバ11へ入力され、センサファイバ11の周回部分において、導体100を流れる被測定電流Iの周囲に生じた磁界によってファラデー回転を受け、その偏波面が磁界の大きさに比例したファラデー回転角だけ回転する。
【0017】
センサファイバ11を伝搬する光は、さらに反射部111で反射されて再び周回部分を通りファラデー回転を受け、ファラデー回転子14へ入力される。ファラデー回転子14を再び通過することでさらに22.5度のファラデー回転が与えられるので、このファラデー回転子14により、往復で合計45度のファラデー回転が与えられることになる。即ち、この光ファイバ電流センサでは、光学バイアスが45度に設定されている。ファラデー回転子14を通過した光は、再び偏光分離素子13へと導かれ、偏光方向の互いに直交(偏光分離素子13の主軸方向とそれに垂直な方向)する2つの偏光成分に分離される。分離された一方の光は、偏光解消素子17A、伝送用光ファイバ16A、及び光サーキュレータ12を順次介して受光素子151Aによって受光され、その光強度に比例した電気信号S1に変換される。また、偏光分離素子13によって分離されたもう一方の光は、偏光解消素子17B及び伝送用光ファイバ16Bを順次介して受光素子151Bによって受光され、その光強度に比例した電気信号S2に変換される。
【0018】
センサファイバ11の周回部分で伝搬する直線偏光に与えられたファラデー回転角に応じて、受光素子151Aと151Bで受光される光量が変化するので、この変化を反映した電気信号S1およびS2を信号処理部15で処理することによって、付与されたファラデー回転角を求めることができる。そしてこの求められたファラデー回転角から、被測定電流Iが計算される。
【0019】
偏光解消素子17A,17Bは、入射した光の偏光状態を無偏光にして出射する素子であり、例えばファイバ形デポラライザ(「光ファイバセンサ」,大越孝敬,オーム社,41頁)を用いる。偏光分離素子13から出射された偏光した光は、偏光解消素子17A,17Bを通過することにより、全ての偏光状態を等しい割合で含んだ無偏光の光に変換されて、伝送用光ファイバ16A,16Bの側へ出射される。
【0020】
したがって、伝送用光ファイバ16A,16Bが、例えば単一モードファイバのように、振動等の影響によりその配置が変位することによって内部を伝搬する光の偏光状態が変わってしまう光ファイバであっても、偏光解消素子17A,17Bから出射された無偏光の光に関しては、伝送用光ファイバ16A,16Bに振動等が生じたかどうかにかかわらず同じ無偏光の状態で受光素子151A,151Bによって受光されることになる。そのため、もし仮に受光素子151A,151Bの光電気変換効率に偏光依存性が存在していても、伝送用光ファイバ16A,16Bに生じる振動等の影響(これらファイバ内を伝搬する光の偏光状態を変え得る外乱の影響)を受けることなく、受光素子151A,151Bは受光した光を常に等しい光電気変換効率で光電気変換することができる。これにより、受光素子151A,151Bから出力値の安定した電気信号S1,S2を得ることができ、被測定電流Iを高精度に求めることができる。
【0021】
図2は、本発明の第2の実施形態による光ファイバ電流センサの構成図を示している。
この第2の実施形態による光ファイバ電流センサは、偏光解消素子17A,17Bを受光素子151A,151Bの直前に配置した点のみが上述した第1の実施形態と異なっている。このような構成においても、第1の実施形態と同様、偏光解消素子17A,17Bから出射される無偏光の光が受光素子151A,151Bにより受光されるので、受光素子151A,151Bに偏光依存性が存在していても常に等しい光電気変換効率で光電気変換を行うことができ、これにより、高精度に被測定電流Iを求めることができる。
【0022】
図3は、図2の光ファイバ電流センサを用いて構成した、送電線の事故区間を検出する事故区間検出装置の構成図を示している。
同図において、事故区間の検出対象である送電線は、地中線路100(図1の導体100に相当)と、地中線路100の終端部300において地中線路100と接続された架空線路200と、からなる。
【0023】
事故区間検出装置は、2つのセンサヘッド30と、各センサヘッド30に対応して設けられた2つのセンサ本体40と、センサ本体40を収容する装置本体50と、伝送用光ファイバ16A,16Bと、から構成されている。伝送用光ファイバ16A,16Bは、敷設済みの商用光ファイバであり、単一モードファイバである。
【0024】
センサヘッド30は、センサファイバ11と、偏光分離素子13と、ファラデー回転子14と、から構成されている。2つのセンサヘッド30は、それぞれ、地中線路100の両端の2つの終端部300近傍に配置される。
センサ本体40は、光サーキュレータ12と、信号処理部15と、偏光解消素子17A,17Bと、受光素子151A,151Bと、から構成されている。
また、装置本体50には、光源21等が設けられている。
【0025】
このように、事故区間検出装置は、2つの光ファイバ電流センサを備えており、これら各光ファイバ電流センサによって測定される、地中線路100を流れる電流の値の差分を計算し、この差分の計算結果に基づいて、地中線路100で事故(ケーブルの絶縁破壊等に起因する地絡)が発生したか、架空線路200で事故が発生したかを判断する。例えば、地中線路100で事故が発生した場合、2つの光ファイバ電流センサによって測定される電流値に差が生じるので、地中線路100での事故であると判断することができる。
【0026】
本事故区間検出装置では、センサヘッド30とセンサ本体40間の伝送路が単一モードファイバで構成されているが、光ファイバ電流センサに偏光解消素子17A,17Bが備えられているため、受光素子151A,151Bに偏光依存性があっても高い精度で地中線路100の電流値を測定することができ、事故区間を正しく判断することができる。
【0027】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の第1の実施形態による光ファイバ電流センサの構成図である。
【図2】本発明の第2の実施形態による光ファイバ電流センサの構成図である。
【図3】図2の光ファイバ電流センサを用いた事故区間検出装置の構成図である。
【符号の説明】
【0029】
11…センサファイバ 12…光サーキュレータ 13…偏光分離素子 14…ファラデー回転子 15…信号処理部 16…伝送用光ファイバ 17…偏光解消素子 21…光源 22…送光ファイバ 151…受光素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
センサファイバを備え、該センサファイバに直線偏光を入力し、該センサファイバの周囲に設置された導体を流れる被測定電流により生じる磁界によって前記直線偏光に付与されるファラデー回転の大きさを検出することで、前記被測定電流を測定する光ファイバ電流センサにおいて、
前記センサファイバからの出力光を偏波面が互いに直交する2つの偏光成分に分離する偏光分離手段と、
前記偏光分離手段によって分離された2つの偏光成分をそれぞれ無偏光化する無偏光化手段と、
前記無偏光化手段によって無偏光化された2つの光を光電気変換によりそれぞれ第1信号および第2信号に変換する光電気変換手段と、
前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記ファラデー回転の大きさを求めて前記被測定電流の値を算出する信号処理手段と、
を具備することを特徴とする光ファイバ電流センサ。
【請求項2】
前記偏光分離手段からの出力光を前記光電気変換手段へ伝送する伝送路が単一モード光ファイバで構成されたことを特徴とする請求項1に記載の光ファイバ電流センサ。
【請求項3】
前記無偏光化手段は、前記単一モード光ファイバの前記偏光分離手段側の端部に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ電流センサ。
【請求項4】
前記無偏光化手段は、前記単一モード光ファイバの前記光電気変換手段側の端部に設けられたことを特徴とする請求項2に記載の光ファイバ電流センサ。
【請求項5】
センサファイバに直線偏光を入力し、該センサファイバの周囲に設置された導体を流れる被測定電流により生じる磁界によって前記直線偏光に付与されるファラデー回転の大きさを検出することで、前記被測定電流を測定する電流測定方法において、
前記センサファイバからの出力光を偏波面が互いに直交する2つの偏光成分に分離し、
前記分離された2つの偏光成分をそれぞれ無偏光化し、
前記無偏光化された2つの光を光電気変換によりそれぞれ第1信号および第2信号に変換し、
前記第1信号および前記第2信号に基づいて前記ファラデー回転の大きさを求めて前記被測定電流の値を算出する
ことを特徴とする電流測定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項4のいずれか1の項に記載の光ファイバ電流センサを備え、該光ファイバ電流センサを用いて架空線路と地中線路が混在する送電線路における事故区間を検出することを特徴とする事故区間検出装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−25766(P2010−25766A)
【公開日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−187867(P2008−187867)
【出願日】平成20年7月18日(2008.7.18)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(000002842)株式会社高岳製作所 (72)
【Fターム(参考)】