光共振器構造
【課題】光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えた光共振器構造を提供する。
【解決手段】有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロット302を配置し、前記高屈折率層と前記スロット302との間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強する。
【解決手段】有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロット302を配置し、前記高屈折率層と前記スロット302との間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号処理素子への応用が可能な光共振器構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Si(シリコン)など屈折率の高い有限の厚さを持つ薄膜(高屈折率層と呼ぶ)の上下をより屈折率の低い空気やSiO2などの低屈折材料からなるクラッド層で挟み込んだ構造に、低屈折材料の媒質からなる柱を三角格子または四角格子に配置した構造は、2次元フォトニック結晶(以下、単にフォトニック結晶と呼ぶ)と呼ばれている。フォトニック結晶では、特定の波長の光を高屈折率層内に有効に閉じ込め、かつその構造を適宜変えることにより、光の伝播特性を意図的に制御することが可能である。
【0003】
このフォトニック結晶は、フォトニックバンド構造という新たな光物性を導入することにより、単純な屈折率差による光の閉じ込めないし導波を実現する従来技術に対し、高性能でかつ圧倒的に小さな光素子および集積回路を実現可能な手法として近年大変注目され活発に研究されている。
【0004】
例えば光共振器においては、本願の発明者らが既に共振器性能の代表的指標であるQ値(Quality Factor)120万の光共振器を実現し、光閉じ込めの実時間寿命1nsを達成し、かつ特定の光パルス信号を真空中の光速度の5万分の1まで減速できることを実験により証明している(非特許文献1)。また、2次元フォトニック結晶を用いた共振器のモード体積は1(λ/n)3程度でありQ値10万以上を実現可能な他のあらゆる光共振器に比べて圧倒的に小さい。
【0005】
2次元フォトニック結晶を用いた従来の共振器の例として、本願の発明者らが発明し、特許文献1及び非特許文献2に記載されている線欠陥幅変化型共振器を図1A、図1Bに示す。図1A、図1Bはそれぞれ当該線欠陥幅変化型共振器の上面図であり、図1Bは図1Aの点線枠で囲んだ部分を拡大して示した図である。
【0006】
この線欠陥幅変化型共振器における高屈折率層であるSi層は波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46であり厚さが205nmである。また、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径108nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、図1Aの線欠陥に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図1Bにおいて、A、B、Cで示した穴は、フォトニック結晶の格子点の位置に対して線欠陥の中心から離れる方向(かつ線欠陥の方向に垂直な方向)にそれぞれ9nm、6nm、3nmずつシフトされている。
【0007】
この共振器は線欠陥の一部に構造的変調を加えモードギャップを導入することにより、モードギャップによる光閉じ込めを原理とする共振器である。図1Aに示すように、58.5周期(線欠陥に沿った方向の周期であり、117列)×27列の領域で3次元有限領域時間差分法(FDTD: Finite Difference Time Domain method)により計算を行うと、1.6億の計算Q値が得られる。なお、計算領域の端から192nmまではPML(Perfectly Matched Layer)である。また、この共振器を構成するフォトニック結晶が正三角格子であるため、線欠陥に沿った方向の周期とは格子定数(420nm)であり、幅方向の1列分の幅(穴の列の中心軸とその隣の穴の列の中心軸との間隔)は格子定数の√3/2倍である。
【0008】
この共振器の共振波長はおよそ1577nmになり、この共振器のモード体積は1.5(λ/n)3と十分に小さくなる。図1Cに、この共振器に対するFDTD計算により得られた紙面に垂直な方向の磁界のパワーの分布を示す。図1Cの下側には磁界パワー強度のスケールが示されている。図1Cの縮尺は図1Aの縮尺と同一であり、パワーの強度は共振器中央付近の最大値を1として規格化してある。図1Cに示すように、電磁界エネルギーのほとんどは効率良く共振器中心に集中しているが、電磁界の裾は弱いながらも極めて広い領域に広がっている。これは理論Q値が100万を超えるあらゆるフォトニック結晶共振器に共通する現象である。
【0009】
本願に関連する先行技術文献として以下のものがある。
【特許文献1】特開2007−47604号公報
【非特許文献1】Takasumi Tanabe, Masaya Notomi, Eiichi Kuramochi, Akihiko Shinya and Hideaki Taniyama, "Trapping and delaying photons for one nanosecond in an ultrasmall high-Q photonic-crystal nanocavity", Nature Photonics 1, pp.49 - 52, January 2007.
【非特許文献2】Eiichi Kuramochi, Masaya Notomi, Satoshi Mitsugi, Akihiko Shinya and Takasumi Tanabe, "Ultrahigh-Q photonic crystal nanocavities realized by the local width modulation of a line defect", Applied Physics Letters, Volume 88, Issue 4, id. 041112 (3 pages) (2006).
【非特許文献3】Bong-Shik Song, Susumu Noda, Takashi Asano and Yoshihiro Akahane, "Ultra-high-Q photonic double-heterostructure nanocavity", Nature Materials 4, pp. 207 - 210 (2005).
【非特許文献4】E. Kuramochi, M. Notomi, S. Hughes, A. Shinya, T. Watanabe and L. Ramunno, "Disorder-induced scattering loss of line-defect waveguides in photonic crystal slabs", PHYSICAL REVIEW B 72, 161318(R) (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようにフォトニック結晶を用いた共振器では、電磁界の裾が広い領域に広がるため、単純に共振器を取り囲む規則的低屈折率柱状構造を取り除いてフォトニック結晶の幅(線欠陥方向に対して垂直な方向の規則的低屈折率柱状構造が存在する長さ)を狭くしていくと、フォトニック結晶外への電磁界の漏れが大きくなり、共振器のQ値が減少していく。
【0011】
図2Aに図1A、1Bに示した構造に対し共振器周辺のフォトニック結晶の幅を変えた構造を示す。図2Bにその場合のQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す。図2Aに示すように、幅を変えている部分は共振器中心から線欠陥方向に上下12周期ずつである。また、線欠陥の両側におけるフォトニック結晶の幅は同じとしている。
【0012】
以下、フォトニック結晶の幅を線欠陥に接する穴の列から数えた穴の列数pで表すことにする。図2Aの例では、線欠陥に対する一方の側と他方の側のフォトニック結晶の幅はそれぞれ6(穴が6列)である。
【0013】
図2Bに示すように、pが10程度までであればQ値は1億程度であるが、pが8ではQ値は1千万程度に急減する。この計算Q値は、現状では実験Q値100万を達成するためのほぼ下限のQ値である。p=6では図2Bに示すQ値が100万を割り込んでしまうので実験Q値は100万を大きく下回ることになってしまう。p=4になると実験Q値として1万を達成するのも困難になる。このように従来技術ではp=8末満にフォトニック結晶幅を制限した場合、高い性能を維持することは困難であった。
【0014】
従って、フォトニック結晶を用いて共振器を実現する場合には一定の大きさの穴列数pを確保しなければならず、共振器を含むフォトニック結晶の規模を縮小することを制約する原因になっていた。
【0015】
また、幅方向にp=8程度まで電磁界が広がるということは、p=8以内に別の共振器を配置した場合、その共鳴波長がそれほど違わない場合は2つの共振器が結合して一つの結合共振器を形成してしまうことを意味する。また共振器の近くに導波路を配置すると共振器と導波路が結合し、光の導波路への漏れが発生する。これらは光素子を高密度に集積する場合にそれを制約する要因となっていた。
【0016】
また、フォトニック結晶の加工には電子線や波長の短い光を利用したリソグラフィー技術が主に用いられているが、電子線リソグラフィーにせよフォトリソグラフィにせよ、あるパタンをレジストに転写するために感光させる際、周辺のレジストがその影響を受ける近接効果と呼ばれる現象が、特に近接して高密度にパタンが配置されている場合に問題になる。
【0017】
さて、フォトニック結晶の結晶周期は光の周波数にスケールして変化する。例えば、Si、GaAs、InPなど屈折率が3.5程度の半導体薄膜と、屈折率が1の空気の穴からなるフォトニック結晶の場合、光通信用に使用されている波長1.55ミクロンの光に対する結晶周期はおよそ400nm程度、コンパクトディスク(CD)の読み出しや局所ネットワーク(LAN)に使用されている波長800nm程度の光に対する結晶周期は200nmを下回る程度になる。このように特に波長が短い光に対する極微細な周期を有するフォトニック結晶のリソグラフィーにおける近接効果は最先端の技術においてもパタン品質劣化という問題を引き起こしている。
【0018】
このような問題点に鑑みると、フォトニック結晶の幅を狭くしパタンを構成する穴の総数を削減できれば、特にフォトニック結晶の周期が短ければ短いほど近接効果を低減し特性劣化を抑制することが可能になる。しかしながら単純にpを小さくしていく従来の手法では前述のとおりフォトニック結晶を用いた共振器の原理的な理由による性能低下を回避できなかった。
【0019】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えた光共振器構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明は、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造であって、前記光共振器の周辺の一部に、低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することを特徴とする光共振器構造として構成される。
【0021】
前記高屈折率層が広がる面に平行な面による前記スロットの断面の形状としては、例えば、矩形、多角形、円形、楕円形、またはそれらに類似した形状を用いることができる。
【0022】
また、前記スロットに対して前記光共振器が配置された側と反対の側においては前記低屈折率の媒質からなる柱を配置しなくてもよい。
【0023】
前記光共振器構造において、前記有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した前記構造として2次元フォトニック結晶を用いることができ、前記光共振器は、前記2次元フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、当該線欠陥導波路周辺の2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加えて前記線欠陥導波路の一部にモードギャップバリアを導入することにより光の閉じ込めを行う光共振器とすることができる。その場合、前記スロットを、前記線欠陥の片側または両側に配置する。
【0024】
上記の構造において、前記線欠陥に沿った方向の前記スロットの長さを前記2次元フォトニック結晶の結晶周期の20倍以上とすることができる。また、上記の構造において、前記スロットの前記線欠陥に沿った方向の中心軸を、前記線欠陥に接する柱の列から数えて(n+1)番目の列上に配置する場合において、nは3以上の自然数であることとすることができる。
【0025】
また、前記2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加える方法としては、前記低屈折率の媒質からなる前記柱を前記線欠陥の中心から離れる方向にシフトさせて配置する方法、前記2次元フォトニック結晶の格子定数を部分的に変化させてダブルへテロ構造を作成する方法、または前記柱の大きさを局所的に変化させる方法がある。
【0026】
また、前記高屈折率層は、光の波長が200nmから5000nmの範囲である場合において屈折率が2.5以上となる媒質であり、当該媒質の種類として、Si、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、もしくはZnOの半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体を含み、前記低屈折率の媒質は、前記波長の範囲において屈折率が1.8以下となる媒質であり、当該媒質の種類として、ガラス、アモルファス、高分子物質、空気、または真空を含むこととしてもよい。
【0027】
また、前記スロットに対して前記光共振器が配置される側とは反対の側に当該光共振器とは別の光共振器を配置した構造を採用することもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することとしたので、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えた光共振器構造を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。以下、フォトニック結晶内においてモードギャップバリアを導入することにより共振器として機能する部分を光共振器または単に共振器と呼び、当該共振器とその周辺の構造を含む部分を光共振器構造と呼ぶことにする。
【0030】
<第1の実施の形態>
(基本構造)
図3Aに、第1の実施の形態における光共振器構造の上面図を示す。この光共振器構造のフォトニック結晶としての構造、及び線欠陥幅変化型である共振器としての構造は図1Aに示す光共振器構造と同じである。
【0031】
つまり、図3Aに示す光共振器構造における高屈折率層であるSi層は波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46であり厚さが205nmである。また、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径108nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aにおける中央の点線枠で囲まれた部分(この部分を共振器と呼ぶことができる)の構造は図1Bに示した構造と同じであり、図1BにおいてA、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から離れる方向に9nm、6nm、3nmずつシフトされている。
【0032】
図3Aに示すように、この光共振器構造は、共振器の両側、つまり線欠陥において共振器が形成された部分の両側に2つの長方形のスロット302を備えている。図3Aに示す例では、線欠陥に対して両側が対称なので、以下、片側に関して説明する。
【0033】
このスロット302の線欠陥に沿った方向の中心軸は、線欠陥に接する線欠陥方向の穴の列を1列目とし(以下、線欠陥方向の穴の列を単に列と呼ぶ)、線欠陥の中心から外側方向に数えて5列目の列上に配置され、当該スロットの横方向の幅は2列分(つまり格子定数の√3倍の長さ)である。なお、この場合の1列分とは、列を構成する穴の線欠陥に沿った方向の中心軸とその隣の列を構成する穴の線欠陥に沿った方向の中心軸との間隔である。
【0034】
また、線欠陥方向に関しては、当該スロット302は、共振器の中心を通り線欠陥方向に垂直な線上を中心とし、長さが格子定数の24倍である。
【0035】
当該スロット302は、図3Aにおける紙面と平行な面による断面、すなわち、高屈折率層を形成するSi薄膜が広がる面と平行な面による断面が長方形である直方体の柱状の形状を有し、Si薄膜を貫通し、低屈折率媒質である空気で満たされている。なお、本明細書において"断面"は上記の方向の断面を意味する。図4は、このスロットの構造を示す3次元鳥瞰図である。
【0036】
なお、図4に示す例では、高屈折率層401内におけるスロット403の両側にフォトニック結晶構造(規則的な穴402の配置構造)が設けられているが、図3Aに示す例では、スロット302の外側にフォトニック結晶構造は設けられていない。外側とは、スロット302に対して共振器が配置された側と反対の側のことである。スロット302の外側にフォトニック結晶構造を設けても設けなくても、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えるという効果に関しては同様の効果が得られる。
【0037】
以下、線欠陥方向に対して垂直方向でのスロット302の中心(つまり、線欠陥方向の沿ったスロットの中心軸)が置かれる穴列を、線欠陥に接する穴列から数えて(n+1)列目の列とし、スロットの線欠陥方向の長さを格子定数のm倍とする。
【0038】
図3Aに示す細長いスロット302は、フォトニック結晶の周期的ブラック反射とは独立した低屈折率媒体(図3Aの例では空気)と高屈折率媒体(ここではSi)との屈折率差による光の反射により、共振器中心から当該スロット302までの間に光を有効に閉じ込める作用を有する。言い換えると、共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑える作用を有する。
【0039】
このスロット302と、スロット302に対する共振器側に残っている(n−1)列分の穴列とを組み合わせることにより、図3Aに示すように共振器から見てスロット302の外側に位置する穴を全て取り除いた場合においても強い光閉じ込めを実現し、共振器のQ値を高く維持することを可能としている。
【0040】
図3Aに示す光共振器に対して透過測定を行ったり、当該光共振器を実際に光処理素子として利用する場合においては光信号の入出力のために、共振器に結合させた入出力導波路を設置する必要があるが、本実施形態においては、例えば図3Aの303で示した部分(フォトニック結晶が図3Aの外側まで更に連続して広がる場合にはその結晶端まで)の線欠陥の両側の穴を、共振器の中心に近い部分に比べて、線欠陥の中央から外側に離れる方向にシフトさせることで、当該線欠陥の幅を、共振器波長の光が伝搬可能になるまで拡幅すればよい。
【0041】
それにより、共振器に閉じ込められている光がモードギャップをトンネル効果で通り抜けて拡幅部分の線欠陥に結合し透過するようになる。また拡幅部分の線欠陥は共振器波長に対し導波路として動作する。
【0042】
共振器と導波路の結合は共振器の中心から303に示す部分までの間隔に依存し変化する。共振器と導波路の結合は穴の形状や共振器のQ値にも依存して変化するので構造と目標透過率に合わせ調整することが望ましい。
【0043】
(スロットの横方向の位置(nの値)について)
図3Aに示した光共振器構造に対し、nを変更させながら図2Aに示す構造に対して行ったFDTD計算と同様のFDTD計算を実行した結果を図5に示す。図5の横軸はnの値であり、縦軸は計算の結果得られたQ値である。また、図5には、比較のために図2Aに示すスロット無しの場合における計算結果も示されている。
【0044】
上記のとおりスロット302の中心は(n+1)列目の列上に配置するので、nの変更に連動してスロット302の位置は線欠陥方向と垂直の方向にシフトする。なお、本計算においては図3Aに示す303の点線枠で囲んだ部分における上述した変更は行っていない。
【0045】
図5は、スロット302を追加したことにより、nが小さい場合においてQ値が大幅に改善されることを明確に示している。n=10において既に1.6億のQ値が達成され、n=8でもほぼ同一のQ値が得られている。nを更に小さくしていくとQ値の減少が始まるが、n=4まではQ値が1千万を大きく超えている。n=3ではQ値は300万であるが、これでも十分に高いQ値である。n=2ではスロットの残された穴数はわずか1列(半周期)のみとなり穴の周期性が完全に失われるが、この場合はQ値が高いとは言えない値に低下する。
【0046】
図3Bに、n=3の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図を示す。また、図3Cに、n=2の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図を示す。それぞれの図におけるA、B、Cは、図1Bに示したものと同じである。
【0047】
図3B、3Cに示すように、n=3以下になると、線欠陥の幅を変えるためにシフトしてある穴がスロット302に切断され、あるいはスロット302に埋められる。図5に示す計算においては、それらの穴はそのままにしてあり、シフト量の変更やシフトする穴の追加などの共振器構造の微調整は行っていない。以下、本明細書に示す実施形態の全てに対し同様の扱いを行っている。
【0048】
この計算において、共振器の波長は検討した全域にわたりほぼ1577nmであり、図1に示した従来の共振器構造に対する計算結果とほとんど変わらなかった。また、電磁界の広がりを表すモード体積を求めたところ、n=3以上では全域で1.35−1.50(λ/n)3となり、図1の従来構造におけるモード体積である1.5(λ/n)3と同じか若干小さい値が得られた。
【0049】
図5の計算で用いた共振器では、図3Aに示すようにわずか2列分(格子定数の√3倍)の幅を持つ狭いスロットを採用しているが、基本的に2次元フォトニック結晶においては低屈折率の穴構造の媒質と高屈折率の薄膜の媒質との屈折率差が大きいことが前提であるため、狭いスロット幅でも大きな効果が得られる。
【0050】
スロット幅を広げることにより若干のQ値の改善が図られる。しかし、例えば特にスロット幅拡大の効果が大きいと見込まれるn=3の場合においてスロット幅を2倍にしても計算Q値は300万から400万に増える程度で、1桁増加に及ぶような大きな改善はスロット幅拡大によっては得られない。
【0051】
(スロットの形状等について)
さて、本発明に係る光共振器構造におけるスロットの断面形状は、図3A、図6(a)に示すように長方形に限られるわけではない。例えば図6(b)に示す楕円など長方形(矩形)に近似の形状でもよい。また、スロットは必ずしも単一媒質である必要はなく、例えば図6(c)に示すように一列上に並んだ複数の長方形断面の低屈折率媒質の集合をスロットとして用いてもよいし、図6(d)に示すように複数の長方形断面の低屈折率媒質を規則的に配置したものをスロットとして用いてもよい。
【0052】
また、スロットは必ずしも高屈折率薄膜層を完全に貫通している必要はなく、例えば薄膜の途中で底に達し、有限の厚さの高屈折率層がスロットの下に残っていてもよい。
【0053】
上記の例のいずれも、図3Aに示した構造の光共振器構造と同様の効果を奏する。本発明に係るスロットを設けたフォトニック結晶共振器の本質は、フォトニック結晶においてスロットが全体として低屈折率媒質として作用し、スロットと共振器中心側の高屈折率媒質との屈折率差による光の反射により、光を共振器中心側に有効に閉じ込める作用をする点にある。つまり、本実施形態で説明した光共振器構造は、共振器を形成する変調が加えられた規則的な柱状構造と、上記のスロット構造との併用により有効な光閉じ込め効果を得ている。このような作用を奏するスロットであれば、スロットの断面形状はどのようなものでもよい。
【0054】
また、本発明に係るスロット付きの光共振器構造において光共振器のQ値が改善される原理は上述したとおりであるから、スロットを配置する光共振器構造における共振器自体の構造としては図1A、1Bに示したものに限られるわけではない。あらゆるフォトニック結晶共振器に対して、スロットを配置する本発明の原理は有効である。また、スロットを配置する手法は、フォトニック準結晶共振器にも有効なものである。なお、フォトニック準結晶共振器とは、単一の結晶周期は持たないが一定の規則に基づき低屈折率の柱状構造を規則的に配置することにより光を閉じ込める作用を有する共振器である。
【0055】
(スロットの線欠陥方向の長さ(m)について)
ところで本願の発明者らは、本発明に係るスロット付き光共振器構造における光共振器が、フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、フォトニック結晶に局所的に変調を加えることにより、導波路の一部にモードギャップを導入し、それによる光閉込を原理とする共振器である場合において、共振器のQ値がスロットの線欠陥方向の長さ(m)に大きく依存して変化することを発見した。
【0056】
図3Aに示した線欠陥幅変化型共振器は上記の構造を持つ共振器の一例である。また、上記の構造を持つ共振器の他の例としては、格子定数を部分的に変化させてダブルヘテロ構造を形成した共振器(非特許文献3)、また、柱状の構造の大きさを局所的に変調した(例えば円柱構造の穴なら半径(柱の太さ)を変化させる)共振器(特許文献1に例が記載されている)がある。以下では、図3Aに示したような線欠陥幅変化型共振器を例にとり説明する。
【0057】
図7Aに図3Aに示した光共振器構造の例からnの大きさと、スロットの長さ(m)を変更した光共振器構造の一例を示す。図7Aに示す例では、n=8であり、m=14(格子定数の14倍)である。また、スロット701の外側にフォトニック結晶を構成する格子穴は設けられていない。図7Bに、図3Aに示した光共振器構造の例から、図7Aに示すようにnとmを変更した場合におけるFDTD計算により求めたQ値を示す。nについては図7Bではn=3、4、8の場合について示している。
【0058】
図7Bに示すように、nの数値がいずれの場合もmが20以下になるとQ値が急激に減少する。n=8の場合においてこそmが小さくても実験で違いが現れない程度の減少に留まっているものの、n=3及び4においてはnが18を割り込むと著しいQ値の低下を示す。ただし、スロットが無い場合(m=0)に比べるとmが小さい場合でもQ値は一定の向上を示しており、スロットの有効性は示されている。m=22になるとスロット採用によるQ値の向上が極めて有効になる。
【0059】
特にn=3の場合においてはmが24以上になるとQ値が逆に低下してしまい、n=22程度で1千万に迫る最高Q値が得られた。図7Aに示すような線欠陥幅変化型共振器構造の例においては少なくともmを22あるいは24に設定すればn=3以上で常に非常に高いQ値が得られることになる。
【0060】
なお、mが20以下でQ値が急激に減少する理由としては、スロットの線欠陥に直交する方向の端面における電磁界強度がスロットが短い場合には大きくなり、同端面による散乱による損失が大きくなることによるものと考えられる。
【0061】
発明者らは本実施形態の構造を既に作製し実験にて従来構造と同等以上の性能を達成していることを確認している。また、図3A、7Aに示す構造において、n=4、m=18、20、22、24に該当する構造を実際に作製して、実験にてm=20以下で急激に共振器Q値の低下が起こることを確認している。
【0062】
(材料、及び製造方法等について)
本実施の形態における光共振器構造の高屈折率層は、対象波長が200nmから5000nmの範囲において屈折率が2.5以上となるSi、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、ZnO等の半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体等の媒質からなる。また、穴やスロットは、上記対象波長において屈折率が1.8以下となるSiOx、SiNx(x=0.5−2)等のガラス・アモルファス・高分子物質・空気または真空などの媒質からなる。他の実施の形態に示す共振器構造についても同様の材料を用いることができる。上記の材料を用いることにより少なくとも共振波長が200nmから5000nmの範囲に存在する共振器を実現することが可能である。
【0063】
また、本実施の形態の光共振器構造は、例えば非特許文献4に記載された方法で製造することが可能である。つまり、市販のSilicon on Insulator (SOI)ウェハに電子線リソグラフィーにて所望の加工を行い、スロットを含むフォトニック結晶の下側のSi熱酸化膜を例えばフッ化水素酸の水溶液等により溶解除去することにより製造する。他の実施の形態に示す共振器構造も同様の方法で製造することが可能である。
【0064】
このようにフォトニック結晶構造をリソグラフィーにより作成する場合において、共振器中心から見てスロットより外側に低屈折率の規則的な柱状構造(図3Aの場合は正三角格子状に配置された穴)を配置しないことにより、当該リソグラフィーにおける近接効果を大幅に低減し、その結果それによる共振器性能の劣化を抑制することが可能になる。
【0065】
スロット構造自身が発生させる近接効果については、スロットの幅を非常に狭くしても高性能を維持できることに加え、特に単一の長方形のような単純な断面形状のスロットを設けた場合は、フォトニック結晶を構成する微小な柱状構造に対し、スロット自身が引き起こす近接効果はずっと小さいので、スロットの外側の規則的な柱状構造を全て取り除く効果と合わせ、近接効果の大幅な低減が可能になる。
【0066】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0067】
第1の実施の形態で示した非常に幅の狭いスロットにより、スロットの両側の電磁的な結合を遮断することが可能になる。よって、スロット付共振器構造におけるスロットの外側に別の共振器を近接して配置しても、2つの共振器が相互に影響を及ぼし合うことなく独立に動作することを可能にできる。第2の実施の形態は、このような観点から構成されたものであり、その構造を図8に示す。
【0068】
図8に示す構造は、図3Aに示したスロット付き光共振器構造においてn=3としたもの2つを、中間のスロットを完全に重ね1つのスロットとして共有するように、並べて配置したものである。
【0069】
より詳細には、Si層の厚さが205nmであり、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径90nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥801に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aと同じく、A、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から外側にシフトされている。各スロットは、n=3、m=24、幅は2列分である。
【0070】
図8における中央のスロット802を除去し、代わりに穴列を配置した構造においては2つの共振器が結合して1つの結合共振器を形成するため、両者を独立な光素子として扱うことは不可能である。
【0071】
例えば図1Aに示したフォトニック結晶共振器の場合、線欠陥からの穴の列数が8程度までは電磁界が広がっているため、2つのフォトニック結晶共振器を、2つの線欠陥の間に列が7列含まれるように並べて配置したすると、2つのフォトニック結晶共振器が結合して1つの結合共振器を構成してしまう。
【0072】
結合を防ぎ2つに共振器をそれぞれ独立な光素子とせしめるためには両者の間隔をもっと大きくし、両者の間に多数の穴列を追加配置する必要がある。
【0073】
これに対し、第2の実施の形態のように2つの共振器を中間のスロット802を共有するように並べて配置した場合、2つの線欠陥の間隔を、それらの間に穴列が7列含まれる場合と同一にしつつ、2つの共振器を結合することなく独立に動作させることが可能になる。つまり、第2の実施の形態においては2つの共振器を形成する2つの線欠陥の間にわずか7列(3.5周期)分の穴列しかないが、スロット802が効果的に光を遮断するため、2つの共振器を完全に独立に動作させることが可能になっている。
【0074】
第2の実施の形態を発展させ、例えば線欠陥幅や、幅変化のためにシフトさせる穴の配置やシフト量を変えること等により、スロットを挟んで近接して配置された2つの共振器に異なる動作周波数を与え、周波数の異なる2つの光信号の処理を同時に実行することを可能にすることができる。
【0075】
<第3の実施の形態>
本発明における第3の実施の形態の光共振器構造を図9に示す。この共振器構造を構成するフォトニック結晶のSi層の厚さは205nmであり、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径100nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥901に接する両側の列の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aと同じく、A、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から外側にシフトされている。スロット902は、n=4、m=22、幅は2列分である。
【0076】
図9に示すように、フォトニック結晶のΓ―M方向に線欠陥との間に穴列数6列(7列でもよい)を置いて、同一列上に対向する2本の入出力線欠陥導波路903が配置され(非特許文献1、及び非特許文献2参照)、導波路901の反対側の片側のみにスロット902を配置し、その外側の穴を全て取り去った構造としている。入出力線欠陥導波路903における両側の穴の間隔は格子定数の√3×1.05倍である。本実施形態のように、片側のみにスロット902を配置した場合にも、スロット902と共振器側の高屈折率媒質との屈折率差による光閉じ込め増強効果により、スロット902を共振器に近接して配置し、かつスロット902より外側に穴を配置しないことにより、片側のみ結晶幅を極めて狭くした場合においても高い共振器Q値を維持すること、また外側の穴を配置しないことによるリソグラフィーの際の近接効果の抑制が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本実施の形態における光共振器構造は、非常に高いQ値を利用した光の一定時間の保持(バッファリング)、遅延処理、波長選択フィルタ処理、媒質の非線形効果、増幅作用などの光物性の増強等への産業応用が期待できる。またフォトニック結晶をベースとし、従来のフォトニック結晶共振器構造を更に小型化することが可能なため、従来技術に比べ非常に小型の光素子及び光集積回路の実現への寄与が期待できる。
【0078】
なお、本発明者らは既に非特許文献1、2を含む多数の公開資料にて、波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46のSiと屈折率1の空気からなるフォトニック結晶で高性能のフォトニック結晶が実現できることを実証してきている。また、本実施の形態で説明した構成において所望の効果が得られることをFDTD法による電磁界解析により理論的に実証している。なお、本明細書及び特許請求の範囲において"屈折率"を"誘電率"に置き換えることにより、"光共振器構造"を電磁波領域にも適用できることは明らかである。
【0079】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】従来の線欠陥幅変化型共振器の上面図である。
【図1B】図1Aの点線枠で囲んだ部分を拡大して示した図である。
【図1C】図1Aに示す共振器に対するFDTD計算により得られた紙面に垂直な方向の磁界のパワーの分布を示す図である。
【図2A】図1Aに示した構造に対し共振器周辺のフォトニック結晶の幅(p)を変えたものの上面図である。
【図2B】pを変化させたときのQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す図である。
【図3A】第1の実施の形態における光共振器構造の上面図を示す図である。
【図3B】n=3の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図である。
【図3C】n=2の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図である。
【図4】スロットの構造を示す3次元鳥瞰図である。
【図5】図3Aに示す構造に対してnを変化させたときのQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す図である。
【図6】スロットの断面形状の例を示す図である。
【図7A】図3Aに示した光共振器の例からnの大きさと、スロットの長さ(m)を変更した光共振器の一例を示す図である。
【図7B】nとmを変更した場合におけるFDTD計算により求めたQ値を示す図である。
【図8】第2の実施の形態における光共振器構造を示す図である。
【図9】第3の実施の形態における光共振器構造を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
302、403、701、802、902 スロット
303 線欠陥の両側の穴を拡幅する部分
401 高屈折率層
402 規則的に配置された穴
801、901 線欠陥
903 入出力線欠陥導波路
【技術分野】
【0001】
本発明は、光信号処理素子への応用が可能な光共振器構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
Si(シリコン)など屈折率の高い有限の厚さを持つ薄膜(高屈折率層と呼ぶ)の上下をより屈折率の低い空気やSiO2などの低屈折材料からなるクラッド層で挟み込んだ構造に、低屈折材料の媒質からなる柱を三角格子または四角格子に配置した構造は、2次元フォトニック結晶(以下、単にフォトニック結晶と呼ぶ)と呼ばれている。フォトニック結晶では、特定の波長の光を高屈折率層内に有効に閉じ込め、かつその構造を適宜変えることにより、光の伝播特性を意図的に制御することが可能である。
【0003】
このフォトニック結晶は、フォトニックバンド構造という新たな光物性を導入することにより、単純な屈折率差による光の閉じ込めないし導波を実現する従来技術に対し、高性能でかつ圧倒的に小さな光素子および集積回路を実現可能な手法として近年大変注目され活発に研究されている。
【0004】
例えば光共振器においては、本願の発明者らが既に共振器性能の代表的指標であるQ値(Quality Factor)120万の光共振器を実現し、光閉じ込めの実時間寿命1nsを達成し、かつ特定の光パルス信号を真空中の光速度の5万分の1まで減速できることを実験により証明している(非特許文献1)。また、2次元フォトニック結晶を用いた共振器のモード体積は1(λ/n)3程度でありQ値10万以上を実現可能な他のあらゆる光共振器に比べて圧倒的に小さい。
【0005】
2次元フォトニック結晶を用いた従来の共振器の例として、本願の発明者らが発明し、特許文献1及び非特許文献2に記載されている線欠陥幅変化型共振器を図1A、図1Bに示す。図1A、図1Bはそれぞれ当該線欠陥幅変化型共振器の上面図であり、図1Bは図1Aの点線枠で囲んだ部分を拡大して示した図である。
【0006】
この線欠陥幅変化型共振器における高屈折率層であるSi層は波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46であり厚さが205nmである。また、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径108nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、図1Aの線欠陥に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図1Bにおいて、A、B、Cで示した穴は、フォトニック結晶の格子点の位置に対して線欠陥の中心から離れる方向(かつ線欠陥の方向に垂直な方向)にそれぞれ9nm、6nm、3nmずつシフトされている。
【0007】
この共振器は線欠陥の一部に構造的変調を加えモードギャップを導入することにより、モードギャップによる光閉じ込めを原理とする共振器である。図1Aに示すように、58.5周期(線欠陥に沿った方向の周期であり、117列)×27列の領域で3次元有限領域時間差分法(FDTD: Finite Difference Time Domain method)により計算を行うと、1.6億の計算Q値が得られる。なお、計算領域の端から192nmまではPML(Perfectly Matched Layer)である。また、この共振器を構成するフォトニック結晶が正三角格子であるため、線欠陥に沿った方向の周期とは格子定数(420nm)であり、幅方向の1列分の幅(穴の列の中心軸とその隣の穴の列の中心軸との間隔)は格子定数の√3/2倍である。
【0008】
この共振器の共振波長はおよそ1577nmになり、この共振器のモード体積は1.5(λ/n)3と十分に小さくなる。図1Cに、この共振器に対するFDTD計算により得られた紙面に垂直な方向の磁界のパワーの分布を示す。図1Cの下側には磁界パワー強度のスケールが示されている。図1Cの縮尺は図1Aの縮尺と同一であり、パワーの強度は共振器中央付近の最大値を1として規格化してある。図1Cに示すように、電磁界エネルギーのほとんどは効率良く共振器中心に集中しているが、電磁界の裾は弱いながらも極めて広い領域に広がっている。これは理論Q値が100万を超えるあらゆるフォトニック結晶共振器に共通する現象である。
【0009】
本願に関連する先行技術文献として以下のものがある。
【特許文献1】特開2007−47604号公報
【非特許文献1】Takasumi Tanabe, Masaya Notomi, Eiichi Kuramochi, Akihiko Shinya and Hideaki Taniyama, "Trapping and delaying photons for one nanosecond in an ultrasmall high-Q photonic-crystal nanocavity", Nature Photonics 1, pp.49 - 52, January 2007.
【非特許文献2】Eiichi Kuramochi, Masaya Notomi, Satoshi Mitsugi, Akihiko Shinya and Takasumi Tanabe, "Ultrahigh-Q photonic crystal nanocavities realized by the local width modulation of a line defect", Applied Physics Letters, Volume 88, Issue 4, id. 041112 (3 pages) (2006).
【非特許文献3】Bong-Shik Song, Susumu Noda, Takashi Asano and Yoshihiro Akahane, "Ultra-high-Q photonic double-heterostructure nanocavity", Nature Materials 4, pp. 207 - 210 (2005).
【非特許文献4】E. Kuramochi, M. Notomi, S. Hughes, A. Shinya, T. Watanabe and L. Ramunno, "Disorder-induced scattering loss of line-defect waveguides in photonic crystal slabs", PHYSICAL REVIEW B 72, 161318(R) (2005).
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したようにフォトニック結晶を用いた共振器では、電磁界の裾が広い領域に広がるため、単純に共振器を取り囲む規則的低屈折率柱状構造を取り除いてフォトニック結晶の幅(線欠陥方向に対して垂直な方向の規則的低屈折率柱状構造が存在する長さ)を狭くしていくと、フォトニック結晶外への電磁界の漏れが大きくなり、共振器のQ値が減少していく。
【0011】
図2Aに図1A、1Bに示した構造に対し共振器周辺のフォトニック結晶の幅を変えた構造を示す。図2Bにその場合のQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す。図2Aに示すように、幅を変えている部分は共振器中心から線欠陥方向に上下12周期ずつである。また、線欠陥の両側におけるフォトニック結晶の幅は同じとしている。
【0012】
以下、フォトニック結晶の幅を線欠陥に接する穴の列から数えた穴の列数pで表すことにする。図2Aの例では、線欠陥に対する一方の側と他方の側のフォトニック結晶の幅はそれぞれ6(穴が6列)である。
【0013】
図2Bに示すように、pが10程度までであればQ値は1億程度であるが、pが8ではQ値は1千万程度に急減する。この計算Q値は、現状では実験Q値100万を達成するためのほぼ下限のQ値である。p=6では図2Bに示すQ値が100万を割り込んでしまうので実験Q値は100万を大きく下回ることになってしまう。p=4になると実験Q値として1万を達成するのも困難になる。このように従来技術ではp=8末満にフォトニック結晶幅を制限した場合、高い性能を維持することは困難であった。
【0014】
従って、フォトニック結晶を用いて共振器を実現する場合には一定の大きさの穴列数pを確保しなければならず、共振器を含むフォトニック結晶の規模を縮小することを制約する原因になっていた。
【0015】
また、幅方向にp=8程度まで電磁界が広がるということは、p=8以内に別の共振器を配置した場合、その共鳴波長がそれほど違わない場合は2つの共振器が結合して一つの結合共振器を形成してしまうことを意味する。また共振器の近くに導波路を配置すると共振器と導波路が結合し、光の導波路への漏れが発生する。これらは光素子を高密度に集積する場合にそれを制約する要因となっていた。
【0016】
また、フォトニック結晶の加工には電子線や波長の短い光を利用したリソグラフィー技術が主に用いられているが、電子線リソグラフィーにせよフォトリソグラフィにせよ、あるパタンをレジストに転写するために感光させる際、周辺のレジストがその影響を受ける近接効果と呼ばれる現象が、特に近接して高密度にパタンが配置されている場合に問題になる。
【0017】
さて、フォトニック結晶の結晶周期は光の周波数にスケールして変化する。例えば、Si、GaAs、InPなど屈折率が3.5程度の半導体薄膜と、屈折率が1の空気の穴からなるフォトニック結晶の場合、光通信用に使用されている波長1.55ミクロンの光に対する結晶周期はおよそ400nm程度、コンパクトディスク(CD)の読み出しや局所ネットワーク(LAN)に使用されている波長800nm程度の光に対する結晶周期は200nmを下回る程度になる。このように特に波長が短い光に対する極微細な周期を有するフォトニック結晶のリソグラフィーにおける近接効果は最先端の技術においてもパタン品質劣化という問題を引き起こしている。
【0018】
このような問題点に鑑みると、フォトニック結晶の幅を狭くしパタンを構成する穴の総数を削減できれば、特にフォトニック結晶の周期が短ければ短いほど近接効果を低減し特性劣化を抑制することが可能になる。しかしながら単純にpを小さくしていく従来の手法では前述のとおりフォトニック結晶を用いた共振器の原理的な理由による性能低下を回避できなかった。
【0019】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えた光共振器構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
上記の課題を解決するために、本発明は、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造であって、前記光共振器の周辺の一部に、低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することを特徴とする光共振器構造として構成される。
【0021】
前記高屈折率層が広がる面に平行な面による前記スロットの断面の形状としては、例えば、矩形、多角形、円形、楕円形、またはそれらに類似した形状を用いることができる。
【0022】
また、前記スロットに対して前記光共振器が配置された側と反対の側においては前記低屈折率の媒質からなる柱を配置しなくてもよい。
【0023】
前記光共振器構造において、前記有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した前記構造として2次元フォトニック結晶を用いることができ、前記光共振器は、前記2次元フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、当該線欠陥導波路周辺の2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加えて前記線欠陥導波路の一部にモードギャップバリアを導入することにより光の閉じ込めを行う光共振器とすることができる。その場合、前記スロットを、前記線欠陥の片側または両側に配置する。
【0024】
上記の構造において、前記線欠陥に沿った方向の前記スロットの長さを前記2次元フォトニック結晶の結晶周期の20倍以上とすることができる。また、上記の構造において、前記スロットの前記線欠陥に沿った方向の中心軸を、前記線欠陥に接する柱の列から数えて(n+1)番目の列上に配置する場合において、nは3以上の自然数であることとすることができる。
【0025】
また、前記2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加える方法としては、前記低屈折率の媒質からなる前記柱を前記線欠陥の中心から離れる方向にシフトさせて配置する方法、前記2次元フォトニック結晶の格子定数を部分的に変化させてダブルへテロ構造を作成する方法、または前記柱の大きさを局所的に変化させる方法がある。
【0026】
また、前記高屈折率層は、光の波長が200nmから5000nmの範囲である場合において屈折率が2.5以上となる媒質であり、当該媒質の種類として、Si、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、もしくはZnOの半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体を含み、前記低屈折率の媒質は、前記波長の範囲において屈折率が1.8以下となる媒質であり、当該媒質の種類として、ガラス、アモルファス、高分子物質、空気、または真空を含むこととしてもよい。
【0027】
また、前記スロットに対して前記光共振器が配置される側とは反対の側に当該光共振器とは別の光共振器を配置した構造を採用することもできる。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造において、前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することとしたので、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えた光共振器構造を提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
次に、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。以下、フォトニック結晶内においてモードギャップバリアを導入することにより共振器として機能する部分を光共振器または単に共振器と呼び、当該共振器とその周辺の構造を含む部分を光共振器構造と呼ぶことにする。
【0030】
<第1の実施の形態>
(基本構造)
図3Aに、第1の実施の形態における光共振器構造の上面図を示す。この光共振器構造のフォトニック結晶としての構造、及び線欠陥幅変化型である共振器としての構造は図1Aに示す光共振器構造と同じである。
【0031】
つまり、図3Aに示す光共振器構造における高屈折率層であるSi層は波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46であり厚さが205nmである。また、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径108nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aにおける中央の点線枠で囲まれた部分(この部分を共振器と呼ぶことができる)の構造は図1Bに示した構造と同じであり、図1BにおいてA、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から離れる方向に9nm、6nm、3nmずつシフトされている。
【0032】
図3Aに示すように、この光共振器構造は、共振器の両側、つまり線欠陥において共振器が形成された部分の両側に2つの長方形のスロット302を備えている。図3Aに示す例では、線欠陥に対して両側が対称なので、以下、片側に関して説明する。
【0033】
このスロット302の線欠陥に沿った方向の中心軸は、線欠陥に接する線欠陥方向の穴の列を1列目とし(以下、線欠陥方向の穴の列を単に列と呼ぶ)、線欠陥の中心から外側方向に数えて5列目の列上に配置され、当該スロットの横方向の幅は2列分(つまり格子定数の√3倍の長さ)である。なお、この場合の1列分とは、列を構成する穴の線欠陥に沿った方向の中心軸とその隣の列を構成する穴の線欠陥に沿った方向の中心軸との間隔である。
【0034】
また、線欠陥方向に関しては、当該スロット302は、共振器の中心を通り線欠陥方向に垂直な線上を中心とし、長さが格子定数の24倍である。
【0035】
当該スロット302は、図3Aにおける紙面と平行な面による断面、すなわち、高屈折率層を形成するSi薄膜が広がる面と平行な面による断面が長方形である直方体の柱状の形状を有し、Si薄膜を貫通し、低屈折率媒質である空気で満たされている。なお、本明細書において"断面"は上記の方向の断面を意味する。図4は、このスロットの構造を示す3次元鳥瞰図である。
【0036】
なお、図4に示す例では、高屈折率層401内におけるスロット403の両側にフォトニック結晶構造(規則的な穴402の配置構造)が設けられているが、図3Aに示す例では、スロット302の外側にフォトニック結晶構造は設けられていない。外側とは、スロット302に対して共振器が配置された側と反対の側のことである。スロット302の外側にフォトニック結晶構造を設けても設けなくても、光共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑えるという効果に関しては同様の効果が得られる。
【0037】
以下、線欠陥方向に対して垂直方向でのスロット302の中心(つまり、線欠陥方向の沿ったスロットの中心軸)が置かれる穴列を、線欠陥に接する穴列から数えて(n+1)列目の列とし、スロットの線欠陥方向の長さを格子定数のm倍とする。
【0038】
図3Aに示す細長いスロット302は、フォトニック結晶の周期的ブラック反射とは独立した低屈折率媒体(図3Aの例では空気)と高屈折率媒体(ここではSi)との屈折率差による光の反射により、共振器中心から当該スロット302までの間に光を有効に閉じ込める作用を有する。言い換えると、共振器の周辺への電磁界エネルギーの漏れを抑える作用を有する。
【0039】
このスロット302と、スロット302に対する共振器側に残っている(n−1)列分の穴列とを組み合わせることにより、図3Aに示すように共振器から見てスロット302の外側に位置する穴を全て取り除いた場合においても強い光閉じ込めを実現し、共振器のQ値を高く維持することを可能としている。
【0040】
図3Aに示す光共振器に対して透過測定を行ったり、当該光共振器を実際に光処理素子として利用する場合においては光信号の入出力のために、共振器に結合させた入出力導波路を設置する必要があるが、本実施形態においては、例えば図3Aの303で示した部分(フォトニック結晶が図3Aの外側まで更に連続して広がる場合にはその結晶端まで)の線欠陥の両側の穴を、共振器の中心に近い部分に比べて、線欠陥の中央から外側に離れる方向にシフトさせることで、当該線欠陥の幅を、共振器波長の光が伝搬可能になるまで拡幅すればよい。
【0041】
それにより、共振器に閉じ込められている光がモードギャップをトンネル効果で通り抜けて拡幅部分の線欠陥に結合し透過するようになる。また拡幅部分の線欠陥は共振器波長に対し導波路として動作する。
【0042】
共振器と導波路の結合は共振器の中心から303に示す部分までの間隔に依存し変化する。共振器と導波路の結合は穴の形状や共振器のQ値にも依存して変化するので構造と目標透過率に合わせ調整することが望ましい。
【0043】
(スロットの横方向の位置(nの値)について)
図3Aに示した光共振器構造に対し、nを変更させながら図2Aに示す構造に対して行ったFDTD計算と同様のFDTD計算を実行した結果を図5に示す。図5の横軸はnの値であり、縦軸は計算の結果得られたQ値である。また、図5には、比較のために図2Aに示すスロット無しの場合における計算結果も示されている。
【0044】
上記のとおりスロット302の中心は(n+1)列目の列上に配置するので、nの変更に連動してスロット302の位置は線欠陥方向と垂直の方向にシフトする。なお、本計算においては図3Aに示す303の点線枠で囲んだ部分における上述した変更は行っていない。
【0045】
図5は、スロット302を追加したことにより、nが小さい場合においてQ値が大幅に改善されることを明確に示している。n=10において既に1.6億のQ値が達成され、n=8でもほぼ同一のQ値が得られている。nを更に小さくしていくとQ値の減少が始まるが、n=4まではQ値が1千万を大きく超えている。n=3ではQ値は300万であるが、これでも十分に高いQ値である。n=2ではスロットの残された穴数はわずか1列(半周期)のみとなり穴の周期性が完全に失われるが、この場合はQ値が高いとは言えない値に低下する。
【0046】
図3Bに、n=3の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図を示す。また、図3Cに、n=2の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図を示す。それぞれの図におけるA、B、Cは、図1Bに示したものと同じである。
【0047】
図3B、3Cに示すように、n=3以下になると、線欠陥の幅を変えるためにシフトしてある穴がスロット302に切断され、あるいはスロット302に埋められる。図5に示す計算においては、それらの穴はそのままにしてあり、シフト量の変更やシフトする穴の追加などの共振器構造の微調整は行っていない。以下、本明細書に示す実施形態の全てに対し同様の扱いを行っている。
【0048】
この計算において、共振器の波長は検討した全域にわたりほぼ1577nmであり、図1に示した従来の共振器構造に対する計算結果とほとんど変わらなかった。また、電磁界の広がりを表すモード体積を求めたところ、n=3以上では全域で1.35−1.50(λ/n)3となり、図1の従来構造におけるモード体積である1.5(λ/n)3と同じか若干小さい値が得られた。
【0049】
図5の計算で用いた共振器では、図3Aに示すようにわずか2列分(格子定数の√3倍)の幅を持つ狭いスロットを採用しているが、基本的に2次元フォトニック結晶においては低屈折率の穴構造の媒質と高屈折率の薄膜の媒質との屈折率差が大きいことが前提であるため、狭いスロット幅でも大きな効果が得られる。
【0050】
スロット幅を広げることにより若干のQ値の改善が図られる。しかし、例えば特にスロット幅拡大の効果が大きいと見込まれるn=3の場合においてスロット幅を2倍にしても計算Q値は300万から400万に増える程度で、1桁増加に及ぶような大きな改善はスロット幅拡大によっては得られない。
【0051】
(スロットの形状等について)
さて、本発明に係る光共振器構造におけるスロットの断面形状は、図3A、図6(a)に示すように長方形に限られるわけではない。例えば図6(b)に示す楕円など長方形(矩形)に近似の形状でもよい。また、スロットは必ずしも単一媒質である必要はなく、例えば図6(c)に示すように一列上に並んだ複数の長方形断面の低屈折率媒質の集合をスロットとして用いてもよいし、図6(d)に示すように複数の長方形断面の低屈折率媒質を規則的に配置したものをスロットとして用いてもよい。
【0052】
また、スロットは必ずしも高屈折率薄膜層を完全に貫通している必要はなく、例えば薄膜の途中で底に達し、有限の厚さの高屈折率層がスロットの下に残っていてもよい。
【0053】
上記の例のいずれも、図3Aに示した構造の光共振器構造と同様の効果を奏する。本発明に係るスロットを設けたフォトニック結晶共振器の本質は、フォトニック結晶においてスロットが全体として低屈折率媒質として作用し、スロットと共振器中心側の高屈折率媒質との屈折率差による光の反射により、光を共振器中心側に有効に閉じ込める作用をする点にある。つまり、本実施形態で説明した光共振器構造は、共振器を形成する変調が加えられた規則的な柱状構造と、上記のスロット構造との併用により有効な光閉じ込め効果を得ている。このような作用を奏するスロットであれば、スロットの断面形状はどのようなものでもよい。
【0054】
また、本発明に係るスロット付きの光共振器構造において光共振器のQ値が改善される原理は上述したとおりであるから、スロットを配置する光共振器構造における共振器自体の構造としては図1A、1Bに示したものに限られるわけではない。あらゆるフォトニック結晶共振器に対して、スロットを配置する本発明の原理は有効である。また、スロットを配置する手法は、フォトニック準結晶共振器にも有効なものである。なお、フォトニック準結晶共振器とは、単一の結晶周期は持たないが一定の規則に基づき低屈折率の柱状構造を規則的に配置することにより光を閉じ込める作用を有する共振器である。
【0055】
(スロットの線欠陥方向の長さ(m)について)
ところで本願の発明者らは、本発明に係るスロット付き光共振器構造における光共振器が、フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、フォトニック結晶に局所的に変調を加えることにより、導波路の一部にモードギャップを導入し、それによる光閉込を原理とする共振器である場合において、共振器のQ値がスロットの線欠陥方向の長さ(m)に大きく依存して変化することを発見した。
【0056】
図3Aに示した線欠陥幅変化型共振器は上記の構造を持つ共振器の一例である。また、上記の構造を持つ共振器の他の例としては、格子定数を部分的に変化させてダブルヘテロ構造を形成した共振器(非特許文献3)、また、柱状の構造の大きさを局所的に変調した(例えば円柱構造の穴なら半径(柱の太さ)を変化させる)共振器(特許文献1に例が記載されている)がある。以下では、図3Aに示したような線欠陥幅変化型共振器を例にとり説明する。
【0057】
図7Aに図3Aに示した光共振器構造の例からnの大きさと、スロットの長さ(m)を変更した光共振器構造の一例を示す。図7Aに示す例では、n=8であり、m=14(格子定数の14倍)である。また、スロット701の外側にフォトニック結晶を構成する格子穴は設けられていない。図7Bに、図3Aに示した光共振器構造の例から、図7Aに示すようにnとmを変更した場合におけるFDTD計算により求めたQ値を示す。nについては図7Bではn=3、4、8の場合について示している。
【0058】
図7Bに示すように、nの数値がいずれの場合もmが20以下になるとQ値が急激に減少する。n=8の場合においてこそmが小さくても実験で違いが現れない程度の減少に留まっているものの、n=3及び4においてはnが18を割り込むと著しいQ値の低下を示す。ただし、スロットが無い場合(m=0)に比べるとmが小さい場合でもQ値は一定の向上を示しており、スロットの有効性は示されている。m=22になるとスロット採用によるQ値の向上が極めて有効になる。
【0059】
特にn=3の場合においてはmが24以上になるとQ値が逆に低下してしまい、n=22程度で1千万に迫る最高Q値が得られた。図7Aに示すような線欠陥幅変化型共振器構造の例においては少なくともmを22あるいは24に設定すればn=3以上で常に非常に高いQ値が得られることになる。
【0060】
なお、mが20以下でQ値が急激に減少する理由としては、スロットの線欠陥に直交する方向の端面における電磁界強度がスロットが短い場合には大きくなり、同端面による散乱による損失が大きくなることによるものと考えられる。
【0061】
発明者らは本実施形態の構造を既に作製し実験にて従来構造と同等以上の性能を達成していることを確認している。また、図3A、7Aに示す構造において、n=4、m=18、20、22、24に該当する構造を実際に作製して、実験にてm=20以下で急激に共振器Q値の低下が起こることを確認している。
【0062】
(材料、及び製造方法等について)
本実施の形態における光共振器構造の高屈折率層は、対象波長が200nmから5000nmの範囲において屈折率が2.5以上となるSi、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、ZnO等の半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体等の媒質からなる。また、穴やスロットは、上記対象波長において屈折率が1.8以下となるSiOx、SiNx(x=0.5−2)等のガラス・アモルファス・高分子物質・空気または真空などの媒質からなる。他の実施の形態に示す共振器構造についても同様の材料を用いることができる。上記の材料を用いることにより少なくとも共振波長が200nmから5000nmの範囲に存在する共振器を実現することが可能である。
【0063】
また、本実施の形態の光共振器構造は、例えば非特許文献4に記載された方法で製造することが可能である。つまり、市販のSilicon on Insulator (SOI)ウェハに電子線リソグラフィーにて所望の加工を行い、スロットを含むフォトニック結晶の下側のSi熱酸化膜を例えばフッ化水素酸の水溶液等により溶解除去することにより製造する。他の実施の形態に示す共振器構造も同様の方法で製造することが可能である。
【0064】
このようにフォトニック結晶構造をリソグラフィーにより作成する場合において、共振器中心から見てスロットより外側に低屈折率の規則的な柱状構造(図3Aの場合は正三角格子状に配置された穴)を配置しないことにより、当該リソグラフィーにおける近接効果を大幅に低減し、その結果それによる共振器性能の劣化を抑制することが可能になる。
【0065】
スロット構造自身が発生させる近接効果については、スロットの幅を非常に狭くしても高性能を維持できることに加え、特に単一の長方形のような単純な断面形状のスロットを設けた場合は、フォトニック結晶を構成する微小な柱状構造に対し、スロット自身が引き起こす近接効果はずっと小さいので、スロットの外側の規則的な柱状構造を全て取り除く効果と合わせ、近接効果の大幅な低減が可能になる。
【0066】
<第2の実施の形態>
次に、本発明の第2の実施の形態について説明する。
【0067】
第1の実施の形態で示した非常に幅の狭いスロットにより、スロットの両側の電磁的な結合を遮断することが可能になる。よって、スロット付共振器構造におけるスロットの外側に別の共振器を近接して配置しても、2つの共振器が相互に影響を及ぼし合うことなく独立に動作することを可能にできる。第2の実施の形態は、このような観点から構成されたものであり、その構造を図8に示す。
【0068】
図8に示す構造は、図3Aに示したスロット付き光共振器構造においてn=3としたもの2つを、中間のスロットを完全に重ね1つのスロットとして共有するように、並べて配置したものである。
【0069】
より詳細には、Si層の厚さが205nmであり、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径90nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥801に接する両側の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aと同じく、A、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から外側にシフトされている。各スロットは、n=3、m=24、幅は2列分である。
【0070】
図8における中央のスロット802を除去し、代わりに穴列を配置した構造においては2つの共振器が結合して1つの結合共振器を形成するため、両者を独立な光素子として扱うことは不可能である。
【0071】
例えば図1Aに示したフォトニック結晶共振器の場合、線欠陥からの穴の列数が8程度までは電磁界が広がっているため、2つのフォトニック結晶共振器を、2つの線欠陥の間に列が7列含まれるように並べて配置したすると、2つのフォトニック結晶共振器が結合して1つの結合共振器を構成してしまう。
【0072】
結合を防ぎ2つに共振器をそれぞれ独立な光素子とせしめるためには両者の間隔をもっと大きくし、両者の間に多数の穴列を追加配置する必要がある。
【0073】
これに対し、第2の実施の形態のように2つの共振器を中間のスロット802を共有するように並べて配置した場合、2つの線欠陥の間隔を、それらの間に穴列が7列含まれる場合と同一にしつつ、2つの共振器を結合することなく独立に動作させることが可能になる。つまり、第2の実施の形態においては2つの共振器を形成する2つの線欠陥の間にわずか7列(3.5周期)分の穴列しかないが、スロット802が効果的に光を遮断するため、2つの共振器を完全に独立に動作させることが可能になっている。
【0074】
第2の実施の形態を発展させ、例えば線欠陥幅や、幅変化のためにシフトさせる穴の配置やシフト量を変えること等により、スロットを挟んで近接して配置された2つの共振器に異なる動作周波数を与え、周波数の異なる2つの光信号の処理を同時に実行することを可能にすることができる。
【0075】
<第3の実施の形態>
本発明における第3の実施の形態の光共振器構造を図9に示す。この共振器構造を構成するフォトニック結晶のSi層の厚さは205nmであり、正三角格子を構成する各穴はSi層を貫通する半径100nmの円柱であり、屈折率1の空気が低屈折率の媒質として満たされている。正三角格子の格子定数は420nmであり、線欠陥901に接する両側の列の穴の中心間隔は格子定数の√3×0.98倍である。また、図3Aと同じく、A、B、Cで示された線欠陥の両側の穴がそれぞれ線欠陥から外側にシフトされている。スロット902は、n=4、m=22、幅は2列分である。
【0076】
図9に示すように、フォトニック結晶のΓ―M方向に線欠陥との間に穴列数6列(7列でもよい)を置いて、同一列上に対向する2本の入出力線欠陥導波路903が配置され(非特許文献1、及び非特許文献2参照)、導波路901の反対側の片側のみにスロット902を配置し、その外側の穴を全て取り去った構造としている。入出力線欠陥導波路903における両側の穴の間隔は格子定数の√3×1.05倍である。本実施形態のように、片側のみにスロット902を配置した場合にも、スロット902と共振器側の高屈折率媒質との屈折率差による光閉じ込め増強効果により、スロット902を共振器に近接して配置し、かつスロット902より外側に穴を配置しないことにより、片側のみ結晶幅を極めて狭くした場合においても高い共振器Q値を維持すること、また外側の穴を配置しないことによるリソグラフィーの際の近接効果の抑制が可能になる。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本実施の形態における光共振器構造は、非常に高いQ値を利用した光の一定時間の保持(バッファリング)、遅延処理、波長選択フィルタ処理、媒質の非線形効果、増幅作用などの光物性の増強等への産業応用が期待できる。またフォトニック結晶をベースとし、従来のフォトニック結晶共振器構造を更に小型化することが可能なため、従来技術に比べ非常に小型の光素子及び光集積回路の実現への寄与が期待できる。
【0078】
なお、本発明者らは既に非特許文献1、2を含む多数の公開資料にて、波長1.55ミクロン付近で屈折率3.46のSiと屈折率1の空気からなるフォトニック結晶で高性能のフォトニック結晶が実現できることを実証してきている。また、本実施の形態で説明した構成において所望の効果が得られることをFDTD法による電磁界解析により理論的に実証している。なお、本明細書及び特許請求の範囲において"屈折率"を"誘電率"に置き換えることにより、"光共振器構造"を電磁波領域にも適用できることは明らかである。
【0079】
本発明は、上記の実施の形態に限定されることなく、特許請求の範囲内において、種々変更・応用が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1A】従来の線欠陥幅変化型共振器の上面図である。
【図1B】図1Aの点線枠で囲んだ部分を拡大して示した図である。
【図1C】図1Aに示す共振器に対するFDTD計算により得られた紙面に垂直な方向の磁界のパワーの分布を示す図である。
【図2A】図1Aに示した構造に対し共振器周辺のフォトニック結晶の幅(p)を変えたものの上面図である。
【図2B】pを変化させたときのQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す図である。
【図3A】第1の実施の形態における光共振器構造の上面図を示す図である。
【図3B】n=3の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図である。
【図3C】n=2の場合における図3Aの中央の点線枠部分の拡大図である。
【図4】スロットの構造を示す3次元鳥瞰図である。
【図5】図3Aに示す構造に対してnを変化させたときのQ値の変化をFDTD計算により求めた結果結果を示す図である。
【図6】スロットの断面形状の例を示す図である。
【図7A】図3Aに示した光共振器の例からnの大きさと、スロットの長さ(m)を変更した光共振器の一例を示す図である。
【図7B】nとmを変更した場合におけるFDTD計算により求めたQ値を示す図である。
【図8】第2の実施の形態における光共振器構造を示す図である。
【図9】第3の実施の形態における光共振器構造を示す図である。
【符号の説明】
【0081】
302、403、701、802、902 スロット
303 線欠陥の両側の穴を拡幅する部分
401 高屈折率層
402 規則的に配置された穴
801、901 線欠陥
903 入出力線欠陥導波路
【特許請求の範囲】
【請求項1】
有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造であって、
前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することを特徴とする光共振器構造。
【請求項2】
前記高屈折率層が広がる面に平行な面による前記スロットの断面の形状が、矩形、多角形、円形、楕円形、またはそれらに類似した形状であることを特徴とする請求項1に記載の光共振器構造。
【請求項3】
前記スロットに対して前記光共振器が配置された側と反対の側に前記低屈折率の媒質からなる柱を配置しないことを特徴とする請求項1または2に記載の光共振器構造。
【請求項4】
有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した前記構造は2次元フォトニック結晶であり、
前記光共振器は、前記2次元フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、当該線欠陥導波路周辺の2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加えて前記線欠陥導波路の一部にモードギャップバリアを導入することにより光の閉じ込めを行う光共振器であり、
前記スロットを、前記線欠陥の片側または両側に配置したことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項5】
前記線欠陥に沿った方向の前記スロットの長さを前記2次元フォトニック結晶の結晶周期の20倍以上としたことを特徴とする請求項4に記載の光共振器構造。
【請求項6】
前記スロットの前記線欠陥に沿った方向の中心軸を、前記線欠陥に接する柱の列から数えて(n+1)番目の列上に配置する場合において、nは3以上の自然数であることを特徴とする請求項4または5に記載の光共振器構造。
【請求項7】
前記2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加える方法は、前記低屈折率の媒質からなる前記柱を前記線欠陥の中心から離れる方向にシフトさせて配置する方法、前記2次元フォトニック結晶の格子定数を部分的に変化させてダブルへテロ構造を作成する方法、または前記柱の大きさを局所的に変化させる方法であることを特徴とする請求項4ないし6のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項8】
前記高屈折率層は、光の波長が200nmから5000nmの範囲である場合において屈折率が2.5以上となる媒質であり、当該媒質の種類として、Si、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、もしくはZnOの半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体を含み、
前記低屈折率の媒質は、前記波長の範囲において屈折率が1.8以下となる媒質であり、当該媒質の種類として、ガラス、アモルファス、高分子物質、空気、または真空を含むことを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項9】
前記スロットに対して前記光共振器が配置される側とは反対の側に当該光共振器とは別の光共振器を配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項1】
有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した構造の中に形成された光共振器と、その周辺の構造とを含む光共振器構造であって、
前記光共振器の周辺の一部に低屈折率の媒質からなるスロットを配置し、前記高屈折率層と前記スロットとの間の屈折率差による光の反射により、前記光共振器の光閉じ込め性能を増強することを特徴とする光共振器構造。
【請求項2】
前記高屈折率層が広がる面に平行な面による前記スロットの断面の形状が、矩形、多角形、円形、楕円形、またはそれらに類似した形状であることを特徴とする請求項1に記載の光共振器構造。
【請求項3】
前記スロットに対して前記光共振器が配置された側と反対の側に前記低屈折率の媒質からなる柱を配置しないことを特徴とする請求項1または2に記載の光共振器構造。
【請求項4】
有限の厚さを持つ高屈折率層に一定の規則をもって低屈折率の媒質からなる柱を配置した前記構造は2次元フォトニック結晶であり、
前記光共振器は、前記2次元フォトニック結晶中に線欠陥導波路を配置し、当該線欠陥導波路周辺の2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加えて前記線欠陥導波路の一部にモードギャップバリアを導入することにより光の閉じ込めを行う光共振器であり、
前記スロットを、前記線欠陥の片側または両側に配置したことを特徴とする請求項1ないし3のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項5】
前記線欠陥に沿った方向の前記スロットの長さを前記2次元フォトニック結晶の結晶周期の20倍以上としたことを特徴とする請求項4に記載の光共振器構造。
【請求項6】
前記スロットの前記線欠陥に沿った方向の中心軸を、前記線欠陥に接する柱の列から数えて(n+1)番目の列上に配置する場合において、nは3以上の自然数であることを特徴とする請求項4または5に記載の光共振器構造。
【請求項7】
前記2次元フォトニック結晶に局所的に変調を加える方法は、前記低屈折率の媒質からなる前記柱を前記線欠陥の中心から離れる方向にシフトさせて配置する方法、前記2次元フォトニック結晶の格子定数を部分的に変化させてダブルへテロ構造を作成する方法、または前記柱の大きさを局所的に変化させる方法であることを特徴とする請求項4ないし6のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項8】
前記高屈折率層は、光の波長が200nmから5000nmの範囲である場合において屈折率が2.5以上となる媒質であり、当該媒質の種類として、Si、Ge、GaAs、AlAs、SiC、InP、InAs、GaP、GaN、AlN、ZnSe、もしくはZnOの半導体、またはこれらの半導体のうちのいずれか複数の混晶半導体を含み、
前記低屈折率の媒質は、前記波長の範囲において屈折率が1.8以下となる媒質であり、当該媒質の種類として、ガラス、アモルファス、高分子物質、空気、または真空を含むことを特徴とする請求項1ないし7のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【請求項9】
前記スロットに対して前記光共振器が配置される側とは反対の側に当該光共振器とは別の光共振器を配置したことを特徴とする請求項1ないし8のうちいずれか1項に記載の光共振器構造。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図1C】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図3C】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図9】
【図1C】
【公開番号】特開2009−86042(P2009−86042A)
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−252523(P2007−252523)
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【出願人】(000004226)日本電信電話株式会社 (13,992)
【Fターム(参考)】
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