説明

光吸収性反射防止体

低コストで、かつ、高い可視光透過率と共に低い可視光反射率と広い波長範囲の光において低反射となる光吸収性反射防止体を提供する。 基材2上に前記基材2側から、幾何学的膜厚が1〜200nmであって、屈折率が1.3以上、2.6以下である物質からなる第1の薄膜3と、幾何学的膜厚が1〜8nmであって、窒化チタン、酸窒化チタン、金及び銅からなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜4と、幾何学的膜厚が45〜165nmであって、屈折率が1.3以上、1.6以下である物質からなる第2の薄膜6と、を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材上に複数の膜を積層させた光吸収性反射防止体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ディスプレイの表示部等の反射防止性と電磁遮蔽性を向上させる目的で、光吸収性反射防止体として、基材側から低屈折率の透明誘電体からなる第1の薄膜層と、高屈折率の透明誘電体からなる第2の薄膜層と、相当の導電率及び高屈折率を有する透明物質からなる第3の層を積層したものが知られている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
しかし、このような多層構成の反射防止体においては、低反射率を示す波長範囲を広くするために反射防止体を構成する層の数を増やす必要があり、これに伴って製造コストが増加する問題があった。
【0004】
それに対し、反射防止体を構成する層の数を極めて単純にしたものとして、基材側から光吸収性膜とシリカ膜を積層させた2層からなる反射防止体が提案されている(例えば特許文献2参照)。
【特許文献1】特開昭60−168102号公報
【特許文献2】特開平9−156964号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献2に係る反射防止体の可視光透過率は75%以下であり、この反射防止体において、80%以上の可視光透過率を得るために光吸収性膜を薄くすると、1%以下の低い可視光反射率を満たしながら、広い波長範囲において低反射となる反射防止体を得ることができなかった。
【0006】
本発明の目的は、上記従来技術の問題点に鑑み、低コストで、かつ、高い可視光透過率と共に低い可視光反射率と広い波長範囲の光において低反射となる光吸収性反射防止体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記の目的を達成するものであり、以下の要旨を有する。
1.基材上に前記基材側から、幾何学的膜厚が1〜200nmであって、屈折率が1.3以上、2.6以下である物質からなる第1の薄膜と、幾何学的膜厚が1〜8nmであって、窒化チタン、酸窒化チタン、金及び銅からなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、幾何学的膜厚が45〜165nmであって、屈折率が1.3以上、1.6以下である物質からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
2.前記第1の薄膜が、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化モリブデン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である上記1に記載の光吸収性反射防止体。
3.前記第2の薄膜が、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、フッ化ランタン及びフッ化アルミン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である上記1又は2に記載の光吸収性反射防止体。
4.前記第2の薄膜が、実質的に酸化ケイ素からなる膜である上記1、2又は3に記載の光吸収性反射防止体。
5.前記光吸収性膜が、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である上記1〜4のいずれか1項に記載の光吸収性反射防止体。
6.前記基材と第1の薄膜との間に、ハードコート層を含む上記1〜5のいずれか1項に記載の光吸収性反射防止体。
7.基材上に前記基材側から、幾何学的膜厚が1〜50nmであって、屈折率が1.3以上、1.5未満である物質からなる第1の薄膜と、幾何学的膜厚が5〜8nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、幾何学的膜厚が65〜120nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
8.基材上に前記基材側から、幾何学的膜厚が1〜200nmであって、屈折率1.5以上、1.7以下である物質からなる第1の薄膜と、幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、幾何学的膜厚が65〜120nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
9.基材上に前記基材側から、幾何学的膜厚が1〜55nmであって、屈折率1.9以上、2.1以下である物質からなる第1の薄膜と、幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、幾何学的膜厚が60〜165nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
10.基材上に前記基材側から、幾何学的膜厚が1〜25nmであって、屈折率2.3以上、2.7以下である物質からなる第1の薄膜と、幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、幾何学的膜厚が45〜160nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
【発明の効果】
【0008】
本発明の光吸収性反射防止体は、低コストで、かつ、高い可視光透過率と共に低い可視光反射率と広い波長範囲の光において低反射となる光吸収性反射防止体である。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の光吸収性反射防止体の一実施形態に係る概略断面図である。
【符号の説明】
【0010】
1 光吸収性反射防止体
2 基材
3 第1の薄膜
4 光吸収性膜
5 酸化バリア膜
6 第2の薄膜
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態に係る光吸収性反射防止体の例を図面に示し、詳細に説明する。
【0012】
[実施形態]
図1に、本発明の第1の実施形態に係る光吸収性反射防止体1を示す。この光吸収性反射防止体1は、基本的に、基材2上に第1の薄膜3が設けられ、第1の薄膜3上に光吸収性膜4が設けられ、光吸収性膜4上に第2の薄膜6が設けられている。
本実施形態では、光吸収性膜4と第2の薄膜6との間に、酸化バリア膜5を設け、第1の薄膜3と、光吸収性膜4と、酸化バリア膜5と、第2の薄膜6とからなる4層構造で光吸収性反射防止体1が構成されている。
【0013】
(基材)
基材2の材質としては、平滑透明で、可視光線を透過し得るものであればよい。例えば、プラスチック、ガラス等が挙げられる。
プラスチックとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート、トリアセチルセルロース、ポリエーテルスルホン、ポリメチルメタクリレート等を挙げることができる。
【0014】
この基材2の厚さは用途に応じて適宜選定される。例えば、フィルムでもよいし、板状でもよい。また、基材2は、単一の層で構成してもよいし、複数層の積層体としてもよい。
基材2は、別のガラス板、プラスチック板等に粘着剤等で貼り付けて使用してもよい。
例えば、薄いフィルム状のプラスチックの基材2を別のプラスチック板、ガラス板等に貼り付けてもよいし、ガラス板の基材2を別のガラス板、プラスチック板等に貼り付けてもよい。
【0015】
(第1の薄膜)
第1の薄膜3は、屈折率が1.3以上、2.6以下である物質によって構成されている。例えば、フッ化マグネシウム(n:1.38)、酸化アルミニウム(n:1.6)、酸化亜鉛(n:1.9)、酸化スズ(n:2.0)、酸化インジウム(n:2.0)、酸化モリブデン、酸化タンタル(n:2.4)、酸化ジルコニウム(n:2.0)、酸化ニオブ(n:2.35)、酸化チタン(n:2.4)、窒化ケイ素(n:2.0)、酸窒化ケイ素(n:1.6〜1.9)及び窒化アルミニウム(n:1.7)などからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質が挙げられる。そのなかでも酸化亜鉛、酸化スズ、窒化ケイ素、酸化チタン、酸化アルミニウムが好ましい。
このような物質を用いることで、第1の薄膜3は化学的安定性に優れ、機械的強度を高くすることができる。第1の薄膜3は、屈折率が1.6以上、2.6以下である物質によって構成されていることが好ましい。
なお、本明細書における屈折率(n)とは、波長550nmの光の屈折率をいう。
【0016】
また、第1の薄膜3の幾何学的膜厚は1〜200nmである。基材2と光吸収性膜4との間に第1の薄膜3を設けることにより、80%以上の高い可視光透過率を得る目的で光吸収性膜4の膜厚を薄くしても、1%以下の低い可視光反射率を満たしながら、広い波長範囲において低反射率を示す光吸収性反射防止体1を得ることができる。
【0017】
また、第1の薄膜3の幾何学的膜厚が200nmより大きいと、最小反射率が小さくなり、低い可視光反射率を得られるが、設計波長以外の波長においては光の反射率が急激に増加し、広い波長範囲において低反射率を示さず、好ましい反射色調を得ることができない。
なお、本明細書では、可視光波長域において最も小さくなる反射率を最小反射率とし、その反射率を与える波長を設計波長という。
一方、第1の薄膜3の幾何学的膜厚が1nm未満であると、最小反射率が大きくなり、低い可視光反射率を得ることができない。
このため、最小反射率及び可視光反射率を低くすると共に、広い波長範囲において低反射率とし、好ましい反射色調を得るためには、第1の薄膜3の幾何学的膜厚を1〜200nmにすることが必要である。第1の薄膜3の最適な幾何学的膜厚は、膜を構成する物質の屈折率に依存するが、好ましくは1〜170nmであり、より好ましくは3〜160nmである。
一般に、光吸収性反射防止体において、高い可視光透過率を得る目的で光吸収性膜を薄くすると、可視光反射率が増加する。本発明の光吸収性反射防止体は、光吸収性膜より基材側に第1の薄膜を有するため、光吸収性膜を薄くしても可視光反射率の増加を抑制することができ、さらに広い波長範囲の光に対して低反射とすることができる。
【0018】
(光吸収性膜)
光吸収性膜4は、幾何学的膜厚が1〜8nmであって、窒化チタン、酸窒化チタン(titanium oxynitride)、金及び銅からなる群から選択される少なくとも1種以上の物質によって構成されている。光吸収性膜4は、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質によって構成されていることが好ましい。
酸窒化チタンを光吸収性膜4として用いる場合、チタンに対する酸素の原子数比は、0.11〜0.33であるのが好ましい。原子数比が前記範囲内であると、より広い波長範囲の光において低反射である光吸収性反射防止体を得ることができる。
また、金を含有する光吸収性膜としては、金膜や、金を50質量%以上含む合金膜等が好ましい。
さらに、銅を含有する光吸収性膜としては、銅膜、銅窒化物膜、銅酸窒化物膜、銅炭化物膜、銅炭窒化物膜、銅を50質量%以上含む合金膜、該合金の窒化物膜、該合金の酸窒化物膜、該合金の炭化物膜、又は該合金の炭窒化物膜等が好ましい。
【0019】
光吸収性膜4の幾何学的膜厚は1〜8nmである。光吸収性膜4の幾何学的膜厚が1nm未満であると、可視光透過率は高くなるが、低い可視光反射率と広い波長範囲における低反射率を得ることができない。一方、光吸収性膜4の幾何学的膜厚が8nmより大きいと、低い可視光反射率と広い波長範囲における低反射率を得ることができるが、可視光透過率が低くなる。
光吸収性膜4の最適な幾何学的膜厚は、膜を構成する物質の屈折率に依存するが、好ましくは3〜7nmであり、より好ましくは4〜6nmである。
【0020】
(第2の薄膜)
第2の薄膜6は、幾何学的膜厚が45〜165nmであって、屈折率が1.3以上、1.6以下である物質によって構成されている。
例えば、酸化ケイ素(n:1.46)、フッ化マグネシウム(n:1.38)、フッ化カルシウム(n:1.4)、フッ化アルミニウム(n:1.3)、酸化アルミニウム(n:1.6)、フッ化ランタン(n:1.58)及びフッ化アルミン酸ナトリウム(Sodium fluoroaluminate:NaAlF)(n:1.35)からなる群から選択される少なくとも1種以上の物質や有機化合物が挙げられる。そのなかでも、化学的安定性に優れ、機械的強度が高いことから、酸化ケイ素が好ましい。
【0021】
第2の薄膜6の幾何学的膜厚は45〜165nmである。第2の薄膜6の幾何学的膜厚が小さいと、低反射率を示す波長範囲は低波長側になる。一方、幾何学的膜厚が大きいと、低反射率を示す波長範囲は長波長側になる。
第2の薄膜6の最適な幾何学的膜厚は、膜を構成する物質の屈折率に依存するが、好ましくは60〜155nmであり、より好ましくは65〜150nmである。
【0022】
第1の薄膜3と、光吸収性膜4と、第2の薄膜6の3層を、膜を構成する各々の物質の屈折率に依存した最適な幾何学的膜厚に調節することにより、可視光透過率が80%以上、かつ可視光反射率が1%以下、より好ましくは0.6%以下である光吸収性反射防止体1を得ることができる。
【0023】
例えば、第1の薄膜3を構成する物質が、屈折率1.3以上、1.5未満の物質である場合、第1の薄膜3の好ましい幾何学的膜厚は1〜50nmであり、より好ましくは5〜30nmである。第1の薄膜3が、前記の屈折率と膜厚である場合、光吸収成膜4は、幾何学的膜厚が5〜8nmの窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。第2の薄膜6は、幾何学的膜厚が65〜120nmの酸化ケイ素であることが好ましく、その幾何学的膜厚は70〜110nmであることがより好ましい。
【0024】
第1の薄膜3を構成する物質が、屈折率1.5以上、1.7以下の物質である場合、第1の薄膜3の好ましい幾何学的膜厚は1〜200nmであり、より好ましくは30〜170nmである。第1の薄膜3が、前記の屈折率と膜厚である場合、光吸収成膜4は、幾何学的膜厚が3〜7nmの窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。第2の薄膜6は、幾何学的膜厚が65〜120nmの酸化ケイ素であることが好ましく、その幾何学的膜厚は75〜110nmであることがより好ましい。
【0025】
第1の薄膜3を構成する物質が、屈折率1.9以上、2.1以下の物質である場合、第1の薄膜3の好ましい幾何学的膜厚は1〜55nmであり、より好ましくは5〜50nmである。第1の薄膜3が、前記の屈折率と膜厚である場合、光吸収成膜4は、幾何学的膜厚が3〜7nmの窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。第2の薄膜6は、幾何学的膜厚が60〜165nmの酸化ケイ素であることが好ましく、その幾何学的膜厚は80〜155nmであることがより好ましい。
【0026】
第1の薄膜3を構成する物質が、屈折率2.3以上、2.7以下の物質である場合、第1の薄膜3の好ましい幾何学的膜厚は1〜25nmであり、より好ましくは3〜20nmである。第1の薄膜3が、前記の屈折率と膜厚である場合、光吸収成膜4は、幾何学的膜厚が3〜7nmの窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質であることが好ましい。第2の薄膜6は、幾何学的膜厚が45〜160nmの酸化ケイ素であることが好ましく、その幾何学的膜厚は65〜150nmであることがより好ましい。
【0027】
本発明における各膜の成膜方法としては、真空蒸着法やスパッタリング法が挙げられる。スパッタリング法によれば、大面積の基体上に均一に成膜できる。特に、工業的には直流反応性スパッタ法が好ましい。
【0028】
また、光吸収性膜4と第2の薄膜6との間に、第2の薄膜6を成膜する際に光吸収性膜4が酸化されることを防ぎ、例えば光吸収性膜4として酸窒化チタンを用いる場合にチタンに対する酸素の原子数比を好ましい値に維持するために、酸化バリア膜5を設けることもできる。
酸化バリア膜5は、その下に形成されている光吸収性膜4の酸化を防ぐために形成される薄膜であり、光学的には実質上意味を持たないものである。
酸化バリア膜5の幾何学的膜厚は、反射防止性能を損なわないために5nm以下が好ましい。
【0029】
酸化バリア膜5としては、各種の金属又は窒化ケイ素等の金属窒化物を使用できる。その中でも、クロム、モリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ、タンタル、亜鉛、ニッケル、パラジウム、白金、アルミニウム、インジウム、スズ及びケイ素からなる群の少なくとも1種の金属を主成分とする膜又はこれらの窒化物を主成分とする膜、もしくはチタン、ジルコニウム及びハフニウムからなる群の少なくとも1種の金属を主成分とする膜を用いると、充分な酸化防止性能の向上と、優れた反射防止特性の維持を両立させうるので好ましい。
【0030】
特に、ケイ素を主成分とする膜又はケイ素の窒化物を主成分とする膜は、酸化バリア性能に優れるうえ、酸化ケイ素膜をSiターゲットを用いて成膜する場合は、ターゲット材料を増やす必要がない点で、製造上有利である。
酸化バリア膜5の形成手法としては、蒸着法、スパッタリング法、CVD法などがある。
【0031】
また、基材2と第1の薄膜3との間に、光吸収性反射防止体1に所望の硬さを付与するため、ハードコート層を設けることができる。ハードコート層としては、透明性があり、基材2の屈折率(n)と等しいか、又は、基材2の屈折率(n)に対し、±0.1以内の屈折率である材料であればよい。例えば、紫外線硬化型のアクリル樹脂、シリコン樹脂等を主体とする樹脂が挙げられる。これらの樹脂には、添加剤を含有させることもできる。
【0032】
ハードコート層の形成方法としては、バーコート法、ドクターブレード法、リバースロールコート法、グラビアロールコート法等の公知の塗布方法を用いることができる。
また、ハードコート層の幾何学的膜厚は、10μm以下が好ましい。
【実施例】
【0033】
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、以下の実施例及び比較例における各薄膜の機械的膜厚は、次のようにして求めた。
予め、表面に油性ペンで線を描いた基板を成膜室に導入する。各例で形成する薄膜のそれぞれの成膜条件において基板上に単層膜を形成し、成膜時間が異なる2種類の単層膜付き基板を作製する。それぞれ2種類の単層膜付き基板を成膜室より取り出した後、エタノールを浸した布でこすって基板上に油性ペンで描いた線を該線上に形成された薄膜とともに拭き取る。触針式段差計:タリステップ(a stylus−type surface tracer,RanK Taylor Hobson,Talystep)を用いて、油性マジックが拭き取られた部分から薄膜が形成された部分にかけて走査させ、段差すなわち幾何学的膜厚をそれぞれ測定する。測定された幾何学的膜厚と成膜時間とから、それぞれの成膜条件における検量線を作成する。この検量線を使用し、各成膜時間に相当する薄膜の幾何学的膜厚を求める。
【0034】
[実施例1]
成膜室を0.27mPaまで排気した後、窒素ガス濃度30体積%、残部アルゴンガスから成るスパッタガスを成膜室に導入し、20cm×7cm×0.5cmの大きさのn型シリコンターゲットに0.39kwの電力を投入して、直流反応性スパッタ法により膜厚15nmの窒化ケイ素(第1の薄膜)をハードコート層付きPET(厚さ100μm)基材上に形成した。
【0035】
次に、窒素ガス濃度10体積%、残部アルゴンガスから成るスパッタガスを成膜室に導入し、20cm×7cm×0.5cmの大きさのチタンターゲットに0.26kwの電力を投入して、直流反応性スパッタ法により膜厚5nmの窒化チタン(光吸収性膜)をその上に形成した。
【0036】
さらに、窒素ガス濃度30体積%、残部アルゴンガスから成るスパッタガスを成膜室に導入し、20cm×7cm×0.5cmの大きさのn型シリコンターゲットに0.39kwの電力を投入して、直流反応性スパッタ法により膜厚3nmの窒化ケイ素をその上に形成した。
この窒化ケイ素膜は、その上の第2の薄膜を反応性スパッタ法により形成する際に、窒化チタン膜が酸化するのを防ぐための酸化バリア膜であり、第2の薄膜を形成する際に酸化されるので光学的な効果は果たさない。
【0037】
次いで、酸素ガス濃度60体積%、残部アルゴンガスから成るスパッタガスを成膜室に導入し、20cm×7cm×0.5cmの大きさのn型シリコンターゲットに0.77kwの電力を投入して、直流反応性スパッタ法により膜厚125nmの酸化ケイ素(第2の薄膜)をその上に形成した。
作成した膜の組成と膜厚をまとめて表1に示す。なお、成膜した各々の膜は非化学量論的であるため、表1の膜の組成においては組成比を考慮していない。
【0038】
<評価>
得られた光吸収性反射防止体の膜を形成していない側の基材面に黒色塗料を塗布し、膜を形成している側の反射率と透過率を、分光光度計(日本分光社製、ART−25GTを用いて測定した。反射率の測定結果から可視光透過率(JIS Z 8701において規定されている反射の刺激値Y)を求めたところ、81.2%であった。また、可視光反射率(JIS Z 8701)は0.5%であった。これらの測定結果を表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られた。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が455〜635nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られた。
【0039】
[実施例2]
窒化ケイ素(第1の薄膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られた。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が460〜620nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られた。
【0040】
[実施例3]
窒化チタン(光吸収性膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られた。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が450〜640nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られた。
【0041】
[実施例4]
光吸収性膜を酸窒化チタンとした以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られた。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が440〜650nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られた。
【0042】
[実施例5]
窒化ケイ素(第1の薄膜)と窒化チタン(光吸収性膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られた。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が455〜600nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られた。
【0043】
[実施例6]
第1の薄膜を酸化チタンとし、酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えた以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製する。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られる。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が460〜600nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られる。
【0044】
[実施例7]
第1の薄膜を酸化アルミニウムとし、酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えた以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製する。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
80%以上の高い可視光透過率を満たしながら、1%以下の低い可視光反射率を示す光吸収性反射防止体が得られる。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長が460〜600nmであり、広い波長範囲において反射率1%以下である光吸収性反射防止体が得られる。
【0045】
[比較例1]
窒化ケイ素(第1の薄膜)を形成せず、基板上に直接光吸収性膜を作成し、酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
得られた光吸収性反射防止体の可視光反射率は1%以上であった。
【0046】
[比較例2]
窒化ケイ素(第1の薄膜)を形成せず、基板上に直接光吸収性膜を作成し、窒化チタン(光吸収性膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
得られた光吸収性反射防止体の可視光透過率は80%に達しなかった。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長は450〜700nmであった。
【0047】
[比較例3]
窒化ケイ素(第1の薄膜)と窒化チタン(光吸収性膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
得られた光吸収性反射防止体の可視光透過率は80%に達しなかった。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長は430〜730nmであった。
【0048】
[比較例4]
窒化チタン(光吸収性膜)と酸化ケイ素(第2の薄膜)の膜厚を変えて、それ以外は実施例1と同様にして光吸収性反射防止体を作製した。作成した膜の組成と膜厚及び可視光透過率と可視光反射率の測定結果をまとめて表1に示す。
得られた光吸収性反射防止体の可視光透過率は80%に達しなかった。また、該光吸収性反射防止体において、反射率が1%以下である光の波長は460〜690nmであった。
【0049】
これらの結果から、実施例では、可視光透過率が80%以上、かつ可視光反射率が1%以下の良好な光吸収性反射防止体が得られた。
【0050】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に前記基材側から、
幾何学的膜厚が1〜200nmであって、屈折率が1.3以上、2.6以下である物質からなる第1の薄膜と、
幾何学的膜厚が1〜8nmであって、窒化チタン、酸窒化チタン、金及び銅からなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、
幾何学的膜厚が45〜165nmであって、屈折率が1.3以上、1.6以下である物質からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
【請求項2】
前記第1の薄膜が、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化インジウム、酸化モリブデン、酸化タンタル、酸化ジルコニウム、酸化ニオブ、酸化チタン、窒化ケイ素、酸窒化ケイ素及び窒化アルミニウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である請求項1に記載の光吸収性反射防止体。
【請求項3】
前記第2の薄膜が、酸化ケイ素、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウム、フッ化アルミニウム、酸化アルミニウム、フッ化ランタン及びフッ化アルミン酸ナトリウムからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である請求項1又は2に記載の光吸収性反射防止体。
【請求項4】
前記第2の薄膜が、実質的に酸化ケイ素からなる膜である請求項1、2又は3に記載の光吸収性反射防止体。
【請求項5】
前記光吸収性膜が、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する膜である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光吸収性反射防止体。
【請求項6】
前記基材と第1の薄膜との間に、ハードコート層を含む請求項1〜5のいずれか1項に記載の光吸収性反射防止体。
【請求項7】
基材上に前記基材側から、
幾何学的膜厚が1〜50nmであって、屈折率が1.3以上、1.5未満である物質からなる第1の薄膜と、
幾何学的膜厚が5〜8nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、
幾何学的膜厚が65〜120nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
【請求項8】
基材上に前記基材側から、
幾何学的膜厚が1〜200nmであって、屈折率1.5以上、1.7以下である物質からなる第1の薄膜と、
幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、
幾何学的膜厚が65〜120nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
【請求項9】
基材上に前記基材側から、
幾何学的膜厚が1〜55nmであって、屈折率1.9以上、2.1以下である物質からなる第1の薄膜と、
幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、
幾何学的膜厚が60〜165nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。
【請求項10】
基材上に前記基材側から、
幾何学的膜厚が1〜25nmであって、屈折率2.3以上、2.7以下である物質からなる第1の薄膜と、
幾何学的膜厚が3〜7nmであって、窒化チタン及び酸窒化チタンからなる群から選択される少なくとも1種以上の物質を含有する光吸収性膜と、
幾何学的膜厚が45〜160nmであって、酸化ケイ素からなる第2の薄膜と、を有することを特徴とする光吸収性反射防止体。

【図1】
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【国際公開番号】WO2005/059602
【国際公開日】平成17年6月30日(2005.6.30)
【発行日】平成19年12月13日(2007.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−516359(P2005−516359)
【国際出願番号】PCT/JP2004/018905
【国際出願日】平成16年12月17日(2004.12.17)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】