説明

光学用フィルムおよびその製造方法

【課題】 透明性、強度および柔軟性などに優れ、さらに低複屈折性を有し、そして加工性に優れる、光学用フィルムを提供すること。
【解決手段】 α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
光学用フィルムは、現在、各種表示装置、音楽または映像用光ディスク、ミラー、写真フィルムなど、幅広い用途に用いられている。これらの光学用フィルムに求められる性質は、一般に、フィルムの透明性、強度、柔軟性、耐熱性、そしてフィルム製造時の製膜性および加工性など多岐にわたっている。そして、液晶表示装置をはじめとする表示装置においては、一般に、必要とされる性能を発現させるために、各種性質の異なる複数の光学用フィルムを組み合わせて用いられている。
【0003】
表示装置に用いられる光学用フィルムの一例として、偏光子保護フィルムが挙げられる。偏光子は一般に、ポリビニルアルコールのフィルムを延伸し、得られたフィルムをヨウ素で染色したものである。一般に、このような偏光子の両面には偏光子保護フィルムが設けられる。偏光子保護フィルムは、偏光子の強度を補強し、そして偏光子の表面を保護する役割を有する。
【0004】
このような偏光子保護フィルムには、高い透明性、高い強度などの特性が求められる。そしてこの偏光子保護フィルムはさらに、複屈折率が低いことが求められる。偏光子保護フィルムの複屈折率が高い場合は、光学的ひずみの原因となり、表示装置に表示される画像などの悪化をもたらすからである。現在、偏光子保護フィルムとしてセルローストリアセテートが広く用いられている。
【0005】
また、表示装置に用いられる光学用フィルムの他の一例として、位相差フィルムが挙げられる。位相差フィルムは、液晶表示装置などにおいて、色補償または視野角拡大などを目的として用いられている。現在、位相差フィルムとしては、各種合成ポリマーまたはセルローストリアセテートなどのフィルムを延伸したフィルムなどが用いられている。
【0006】
上記のような偏光子保護フィルムまたは位相差フィルムなどの光学用フィルムとして、これまでセルローストリアセテートが広く用いられてきた。これは、セルローストリアセテートのフィルムは、比較的透明性が高く複屈折が小さいという性質を有することに由来する。
【0007】
セルローストリアセテートは、一般に、酸性触媒の存在下において、セルロースに無水酢酸を反応させることにより製造される。この方法では、反応の度合いを示す置換度を一旦3.0付近まで上昇させ、その後目的の置換度になるように脱アセチル化をするという2段階の反応を経る必要がある。一方で、位相差フィルムとしてセルローストリアセテートを使用する場合、その置換度によって複屈折特性が変化することも知られている(特開2000−137116号公報、特許文献1)。上記の2段階の置換方法では置換度を厳密に制御することは困難である。そのため、こうして得られるセルローストリアセテートを用いる場合は、複屈折の問題を考慮する必要がある。
【0008】
またセルローストリアセテートは、光学用フィルムとしての強度は備えているものの、柔軟性に乏しいという問題もある。セルローストリアセテートの柔軟性の乏しさは、位相差フィルム製造の際における十分な延伸を困難とする。また、折り曲げに強い表示装置を実現することも困難とする。セルローストリアセテートの柔軟性を改善する方法として、可塑剤を添加して柔軟性を持たせる方法がある。しかし、可塑剤を加えることによって、フィルムの光学特性が変化する恐れがある。さらに、フィルムに含まれる可塑剤が時間の経過とともにフィルム表面に移行するという問題もある。
【0009】
セルローストリアセテートの他の問題として、天然物であるセルロースを原料としている点が挙げられる。このような天然物は、精製を行っても依然として分子量の分布が広く、そのため、光学的な面あるいは強度の面で十分な性能を発揮することが困難となる。
【0010】
一方、これらのセルローストリアセテートの代替素材としての、澱粉のトリアセテートを用いる研究もなされている。しかしながら、このような澱粉のトリアセテートは、セルローストリアセテートと比較して柔軟性は高いものの、強度が低いという問題がある。この強度の低さは、澱粉のトリアセテートをセルローストリアセテートの代替として用いることを困難としている。そのため、澱粉のトリアセテートを光学用フィルムとして用いる検討は、未だ十分にはなされていない。澱粉のトリアセテートの強度の低さは、澱粉が多数の枝分かれを持つアミロペクチンと枝分かれがほとんどないアミロースの混合物であること、そして分子量分布も広いことなどが原因であると考えられる。
【0011】
本発明者らによる発明であるWO02/06507号パンフレット(特許文献2)には、酵素合成アミロース(α−1,4−グルカン)およびその修飾物からなるフィルムが開示されている。しかしながら、この特許文献においては、光学用フィルムとしての利用については触れられていない。
【0012】
【特許文献1】特開2000−137116号公報
【特許文献2】WO02/06507号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は上記従来の問題を解決するものであり、その目的とするところは、透明性、強度および柔軟性などに優れ、さらに低複屈折性を有し、そして加工性に優れる、光学用フィルム、特に偏光子保護フィルムまたは位相差フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムを提供するものであり、これにより上記目的が達成される。
【0015】
上記α−1,4−グルカン修飾物の置換度が2.5〜3.0であるのが好ましい。
【0016】
また、上記α−1,4−グルカン修飾物の分子量が、100kDa〜6000kDaであるのが好ましい。
【0017】
さらに、上記α−1,4−グルカン修飾物が、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンを1種またはそれ以上含むのが好ましい。
【0018】
また、上記光学用フィルムの透過率が90〜100%であるのが好ましい。
【0019】
本発明はまた、光学層およびこの光学層の少なくとも1面上に設けられた親水性層を有する光学用フィルムであって、
この光学層は、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンを1種またはそれ以上含む、α−1,4−グルカン修飾物を含み、および
この親水性層は、この光学層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカンを含む、
光学用フィルムも提供する。
【0020】
上記光学用フィルムの1態様として、偏光子保護フィルムが挙げられる。
【0021】
また、上記光学用フィルムの他の1態様として、位相差フィルムが挙げられる。
【0022】
本発明は、光学用フィルムの製造方法も提供する。製造方法の一例として、
α−1,4−グルカン修飾物を有機溶媒に溶解させる、溶液調製工程、
この溶液を支持体上に流延する溶液流延工程、および
乾燥工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0023】
製造方法の他の一例として、
α−1,4−グルカン修飾物を加熱し溶融させる、溶融工程、および
この溶融液を冷却ロール上に流延する溶融液流延工程、
を包含する方法が挙げられる。
【0024】
本発明は、上記の光学用フィルムを配置した液晶表示装置も提供する。
【発明の効果】
【0025】
α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、透過率が非常に高いという利点を有する。さらに、幅広い種々の波長の光に対しても透過率が高いという利点も有する。従って、本発明のα−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、光学用フィルムに必要とされる基本的な性能である透明性に優れたフィルムである。このフィルムはさらに、光学的なひずみの原因となる複屈折性が低く、偏光成分に与える影響が少ないという利点も有する。このため、α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、偏光子保護フィルムをはじめとした液晶表示装置用の光学用フィルムとして好適である。またフィルムを延伸して表示装置用の位相差フィルムとする場合においても、フィルム本来の複屈折性が低いために、目的とする性能を有する位相差フィルムをより容易に得ることができるという利点を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
用語「分散度Mw/Mn」とは、重量平均分子量Mwに対する数平均分子量Mnの比(すなわち、Mw÷Mn)である。高分子化合物は、タンパク質のような特別の場合を除き、その由来が天然または非天然のいずれであるかに関わらず、その分子量は単一ではなく、ある程度の幅を持っている。そのため、高分子化合物の分子量の分散程度を示すために、高分子化学の分野では通常、分散度Mw/Mnが用いられている。この分散度は、高分子化合物の分子量分布の幅広さの指標である。分子量が完全に単一な高分子化合物であればMw/Mnは1であり、分子量分布が広がるにつれてMw/Mnは1よりも大きな値になる。本明細書中で「分子量」という用語は、特に断りのない限り重量平均分子量(Mw)を指す。
【0027】
用語「α−1,4−グルカン」とは、本明細書中で用いられる場合、D−グルコースを構成単位とする糖であって、α−1,4−グルコシド結合のみによって連結された糖単位を少なくとも2糖単位以上有する糖をいう。α−1,4−グルカンは、直鎖状の分子である。α−1,4−グルカンは、直鎖状グルカンとも呼ばれる。1分子のα−1,4−グルカンに含まれる糖単位の数を、重合度という。本明細書中で「重合度」という用語は、特に断りのない限り重量平均重合度を指す。α−1,4−グルカンの場合、重量平均重合度は、重量平均分子量を162で割ることによって算出される。
【0028】
用語「置換度」は、α−1,4−グルカン修飾物における、無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数を表わす。無水グルコース残基の水酸基は3つあり、それがすべて化学修飾によって置換された場合、置換度は3、平均して2個の水酸基が置換された場合は置換度が2となる。化学修飾がアセチル化の場合、置換度2のものをジアセテート、3のものをトリアセテートと呼ぶが、前述のように、置換度はあくまでも平均値であり、その中間の値も取り得る。
【0029】
光学用フィルム
本発明の光学用フィルムは、α−1,4−グルカン修飾物を含む。α−1,4−グルカン修飾物を構成するα−1,4−グルカンは、グルコースが直鎖状に結合した構造のポリマーである。これは、当該分野で公知の方法で、天然澱粉から、あるいは酵素的な手法等で製造することができる。
【0030】
天然澱粉からα−1,4−グルカンを得る方法としては、たとえば天然澱粉中に存在するアミロペクチンのα−1,6−グルコシド結合のみに、枝切り酵素として既知のイソアミラ−ゼやプルラナ−ゼを選択的に作用させ、アミロペクチンを分解することにより、アミロ−スを得る方法(いわゆる澱粉酵素分解法)がある。別の例として、澱粉糊液からアミロ−ス/ブタノ−ル複合体を沈殿させて分離する方法がある。
【0031】
また公知の酵素合成法を用いて、α−1,4−グルカンを調製することもできる。酵素合成法の例としては、スクロースを基質として、アミロスクラーゼ(amylosucrase、EC 2.4.1.4)を作用させる方法がある。
【0032】
酵素合成法の別の例は、グルカンホスホリラーゼ(α−glucan phosphorylase、EC 2.4.1.1;通常、ホスホリラーゼといわれる)を用いる方法が挙げられる。ホスホリラーゼは、加リン酸分解反応を触媒する酵素である。
【0033】
本発明では、酵素合成α−1,4−グルカンを用いるのが好ましく、グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成されたα−1,4−グルカンを用いるのが特に好ましい。グルカンホスホリラーゼを用いて酵素合成された酵素合成α−1,4−グルカンは次のような特徴を有する:
(1)生物資源である糖質を原料として製造される;
(2)天然澱粉と同様にグルコース残基のみで構成されており、α−1,4−グルカンも、その分解中間体も、そして最終分解物に至るまで環境および生体に対して毒性がない;
(3)分子量分布が狭く(Mw/Mnが1.1以下)、製造条件を適切に制御することによって任意の重合度(約60〜約37000)を有するものが得られる;
(4)完全に直鎖であり、天然澱粉から分画したアミロースに認められるわずかな分岐構造をも含まない;
(5)必要に応じて澱粉と同様の化学修飾が可能である。
【0034】
α−1,4−グルカン修飾物は、α−1,4−グルカンを化学修飾することにより得ることができる。化学修飾の方法としては、エステル化、エーテル化および架橋などが挙げられる。本発明の光学用フィルムに用いるα−1,4−グルカン修飾物としては、α−1,4−グルカンをエステル化することにより得られるα−1,4−グルカン修飾物が好ましい。
【0035】
エステル化は、例えば、α−1,4−グルカンを各種溶媒中でまたは無溶媒で、エステル化試薬(例えば、酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬など)と反応させることによって行うことができる。反応として、例えば、有機溶媒または水性溶媒中あるいは無溶媒中での不均一反応、またはジメチルスルホキシドなどの溶媒に溶解して反応させる均一反応が挙げられる。エステル化に用いる反応試薬としては、導入するエステルの種類に対応する酸無水物、有機酸、酸塩化物、ケテンまたは他のエステル化試薬を使用することができる。このようなエステル化によって、例えば、酢酸エステル、プロピオン酸エステルなどのアシル化エステル修飾物が得られる。エステル化によって、α−1,4−グルカンを構成するグルコース残基に含まれる水酸基の水素を置換することができるアシル基として、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ラウロイル基、ミリストイル基、ベンゾイル基、アクリロイル基、メタクリロイル基などが挙げられる。
【0036】
本発明で用いられるα−1,4−グルカン修飾物は、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンであるのが好ましい。これらのアセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基を有する化学修飾を、単独で、あるいは複数を組み合わせて行なうことができる。α−1,4−グルカン修飾物が、アセチル基、ブチリル基またはプロピオニル基を有することによって、光学用フィルムの吸湿性を有意に低下させることができる。また、光学用フィルムの寸法安定性および耐候性を有意に向上させることができる。さらに、光学用フィルムとして適した強度特性を有する光学用フィルムを得ることができる。なお、これらのエステル化グルカンは、2種またはそれ以上の修飾グルコース残基からなるポリマー、つまりコポリマーまたはターポリマーなど、であってもよい。
【0037】
本発明で用いられるα−1,4−グルカン修飾物は、α−1,4−グルカンを置換度2.5〜3.0の範囲で化学修飾したものであるのが好ましい。置換度が2.5〜3.0であるα−1,4−グルカン修飾物は、透湿性が非常に低いという利点がある。このようなα−1,4−グルカン修飾物を含むフィルムを、例えば偏光子保護フィルムとして用いることによって、湿気の侵入を有効に防ぐことができ、そして耐湿熱性の向上も図ることができる。α−1,4−グルカン修飾物の置換度のより好ましい範囲は、2.7〜3.0である。
【0038】
α−1,4−グルカン修飾物の置換度は、反応試薬の量、反応時間、反応温度等を変化させることにより0〜3.0の範囲で容易に制御することが可能である。そのため1段階の反応で目的の置換度の修飾物を得ることができる。また、必要に応じて、得られたα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾し、置換度を下げることも可能である。置換度を下げるのに用いることができる試薬として、例えば水酸化ナトリウム、ナトリウムメトキシド等のアルカリ性物質などが挙げられる。
【0039】
本発明で用いるα−1,4−グルカンの平均分子量は、100kDa〜6000kDaであるのが好ましく、300〜3000kDaであるのがより好ましく、300〜2000kDaであるのがさらに好ましい。平均分子量が100kDa以下では、単独で十分な強度を持つフィルムを形成させることが困難となるおそれがある。また、6000kDa以上では、酵素合成の際の収率が低く、また粘度が高いために成型が困難となるおそれがある。ただし2種以上の重合度のα−1,4−グルカンを併用する場合はこの限りではなく、例えば上記範囲以外の平均分子量を有する低分子量グルカンと高分子量グルカンとを用いる場合、またはこれらと上記範囲内の平均分子量を有するグルカンとを用いる場合であっても、良好な形成性を得ることができる。また、他の機能を有する光学用フィルム上に、本発明の光学用フィルムを、コーティング等の方法により直接形成させるような場合は、上記範囲に限られず、例えば100kDa以下のα−1,4−グルカン修飾物を用いることもできる。
【0040】
さらに、異なる分子量を有するα−1,4−グルカンを2種以上混合して用いることによって、光学用フィルムの偏光層の物性を制御することもできる。混合するα−1,4−グルカンの分子量、または用いるα−1,4−グルカンの比率を変化させることによって、得られるフィルムの柔軟性および伸びなどの物性をコントロールすることができる。
【0041】
本発明の光学用フィルムは、α−1,4−グルカン修飾物に加えて、可塑剤、柔軟化剤、架橋剤、紫外線吸収剤、安定化剤等の種々の添加剤を含めてもよい。
【0042】
可塑剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等が挙げられる。可塑剤を用いることによって、フィルムの成形性を高め、延伸を効果的に行うことができるという利点がある。
【0043】
柔軟化剤の例として、例えばグリセリン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン等のグリセリン誘導体、エチレングリコ−ル、ジエチレングリコ−ル、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール等のエチレングリコ−ル誘導体、デキストリン、グルコース、フラクトース、スクロース、マルトオリゴ糖等の糖類、ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル類が挙げられる。柔軟化剤を用いることによって、フィルムに柔軟性を与え、伸びを向上させることができる。
【0044】
また、α−1,4−グルカン修飾物と、他の高分子材料とを混合して、光学用フィルムを調製してもよい。用いることができる他の高分子材料の例としては、多糖類としてプルラン、アルギン酸、カラギーナン、グアーガム、寒天、キトサン、セルロースおよびその誘導体、デキストリン、デンプン類およびその誘導体など、またタンパク質、例えばゼラチン、グルテン、卵白、卵黄など、あるいはポリ乳酸やポリ−ε−カプロラクトン等のポリエステル類、ポリエチレングリコール等のポリエーテル類、ポリビニルアルコールやポリエチレン等のポリオレフィン類、ポリアミド類、等の樹脂が挙げられる。特に従来光学用フィルムとして用いられているセルロースアセテート等、セルロースの誘導体と混合することにより、セルロースアセテートフィルムの物性や光学特性を改善することができる。
【0045】
本発明の光学用フィルムは、フィルムの透過率が90〜100%であるのが好ましく、90〜99.9%であるのがさらに好ましく、94〜99.9%であるのがさらに好ましい。そして本発明の光学用フィルムは、このように高い透過率を有するため、光学用途において特に有用なフィルムである。なお透過率は、電子工業会規格(LD−201)に準じた方法で測定することができる。
【0046】
また、本発明の光学用フィルムは、フィルムの寸法変化率が0〜4%であるのが好ましく、0〜3%であるのがさらに好ましい。本発明の光学用フィルムは、このように寸法変化率が低く、光学用途において必要とされる高い寸法安定性を有するフィルムである。寸法変化率は、吸水性試験前および試験後のフィルムの厚さを測定することにより、算出することができる。
【0047】
α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、透過率が非常に高いという利点を有する。さらに、幅広い種々の波長の光に対しても透過率が高いという利点も有する。従って、本発明のα−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、光学用フィルムに必要とされる基本的な性能である透明性に優れたフィルムである。また光学的なひずみの原因となる複屈折性が低いために、偏光成分に与える影響が少ないという利点がある。α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、偏光子保護フィルムをはじめとした液晶表示装置用の光学用フィルムとして好適である。
【0048】
またフィルムを延伸して表示装置用の位相差フィルムとする場合においても、フィルム本来の複屈折性が低いために、目的とする性能を有する位相差フィルムをより容易に得ることができるという利点を有する。
【0049】
α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、高強度を有し、なおかつ柔軟性に富んでいる。そのためにフィルムの変形に対する耐久性が優れている。また位相差フィルムのように製造工程において延伸の過程を経る場合であっても、フィルムの伸び率が高いために可塑剤を必要としないか、またはセルローストリアセテートに比べて使用量を低減することができる。
【0050】
α−1,4−グルカン修飾物は、α−1,4−グルカンから1段階の反応で目的の置換度の修飾物を得ることができる。そのため、セルローストリアセテートのような2段階の反応を経るものに比べて、置換度の制御が容易であり、これにより光学的な性能を向上させることができる。また2段階の反応を経ないことによって、反応中に生じうる分子鎖の分解による強度の低下を抑えることもできる。
【0051】
本発明の光学用フィルムの原料である、直鎖の高分子であるα−1,4−グルカンは、酵素合成によって得ることができる。そしてこのα−1,4−グルカンは、所望の分子量を有するものを合成することが可能であり、かつその分子量分布は非常に狭いという特徴を有する。そのため、光学用フィルムの強度低下および光学性能の低下をもたらす、澱粉などにおける鎖分岐の問題、そしてセルロースなどにおける広範な分子量分布を有する問題などが生じない。また、分子量を所望の値に制御することができるため、フィルム製造時において重要である粘度調製が容易となる。さらに、原料であるα−1,4−グルカン修飾物の溶解性、そして得られる光学用フィルムの物性を容易にコントロールすることが可能である。
【0052】
α−1,4−グルカン修飾物の上記のような性質を利用して、優れた光学用フィルムを提供することができる。光学用フィルムとしては、液晶表示装置用の偏光子保護フィルムまたは位相差フィルム、写真・映画用フィルム、音楽・映像用の光ディスク、ミラー等に使用できる。また、フィルムとしての形態を取っていない光学素子としても使用することができる。例えばレンズまたはプリズム、光ファイバー等の光学材料として利用することが可能である。
【0053】
光学用フィルムの製造方法
本発明の光学用フィルムの製造方法としては、キャスト法、押出し法、カレンダー法などを選択することができる。この中でも、キャスト法を用いるのが好ましい。キャスト法によって調製された光学用フィルムは、成型時のひずみの発生が少なく、光学用途としてより好適であるからである。
【0054】
キャスト法として、主として溶液キャスト法、およびTダイ法などの溶融キャスト法が挙げられる。溶液キャスト法は、熱可塑性樹脂などの樹脂を、適した溶媒に溶解し、得られた溶液を支持体表面にキャストし、次いで加熱してフィルムを乾燥させて、フィルムを調製する方法である。こうして得られたフィルムを、支持体から剥離することにより、光学用フィルムを得ることができる。また、溶融キャスト法は、加熱溶融された熱可塑性樹脂を金型よりフィルム状に押出して支持体表面にキャスト(流延)して冷却し、製膜する方法である。
【0055】
溶液キャスト法は、詳しくは、
α−1,4−グルカン修飾物を有機溶媒に溶解させる、溶液調製工程、
該溶液を支持体上に流延する溶液流延工程、および
乾燥工程、
を包含する製造方法である。
【0056】
溶液キャスト法でα−1,4−グルカン修飾物を溶解するのに用いられる溶媒として、種々の有機溶媒を用いることができる。用いることができる有機溶媒として、例えば、トルエン、キシレンなどの芳香族系溶媒;メチルエチルケトン、アセトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、アニソール、フェネトールなどのエーテル系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソプロピル、酪酸エチル、乳酸エチル、エチレングリコールジアセテートなどのエステル系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジエチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒;メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブなどのセロソルブ系溶媒;メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール系溶媒;ジクロロメタン、ジクロロエタン、クロロホルムなどのハロゲン系溶媒;などが挙げられる。これらの溶媒は単独で用いてもよく、また混合して用いてもよい。
【0057】
α−1,4−グルカン修飾物を溶媒に溶解する方法は特に制限はなく、例えばα−1,4−グルカン修飾物を溶媒に一度に、または少しずつ添加し、撹拌することにより、溶液を得ることができる。
【0058】
溶液キャスト法で用いられるα−1,4−グルカン修飾物の溶液に含まれる、α−1,4−グルカン修飾物の濃度は、3〜50重量%であるのが好ましく、5〜30重量%であるのがより好ましい。α−1,4−グルカン修飾物の濃度が、3重量%より低い場合は、得られる光学用フィルムの表面性能が悪化する恐れがある。また、50重量%より高い場合は、溶液の粘度の経時変化が激しくなり、溶液の流延が困難になる恐れがある。
【0059】
次いで、得られた溶液を、支持体上に流延する。流延に使用されるコーターとしては、溶液を支持体上に流延することができるものであれば特に制限されない。コーターとして、例えばバーコーター、コンマコ−ター、グラビアコーター、マイヤバー、ロールコーター、リップコーター、Tダイ、バー付きTダイなどを用いることができる。
【0060】
使用する支持体は特に制限はなく、金属支持体やプラスチック支持体を用いることができる。金属支持体の具体例としては、ステンレス、鉄、アルミニウム等の金属製の支持体、およびこれらの金属表面をクロムメッキ処理したもの、鏡面仕上げしたものなどが挙げられる。プラスチック支持体の具体例としては、ポリエステル、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンテレナフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂など、そして化学的な表面処理を施したポリエステルなども使用することができる。
【0061】
光学用フィルムの膜厚は用途に応じて選択することができる。膜厚の範囲は、一般的には10〜500μm、好ましくは20〜300μm、より好ましくは30〜200μmである。
【0062】
次いで、支持体上に流延された溶液を乾燥することにより、溶媒が取り除かれ、光学用フィルムを得ることができる。フィルムの乾燥条件および方法は、残存溶媒量が5重量%以下、好ましくは3重量%以下とすることができれば、特に制限ない。乾燥条件としては、例えば室温条件下で放置する方法、30〜70℃に加熱して、3〜20分間保持する方法、得られたフィルムを減圧条件下におく方法などが挙げられる。加熱することなく乾燥させるのがより好ましく、これによりひずみの発生を抑えることができる。
【0063】
溶融キャスト法は、
α−1,4−グルカン修飾物を加熱し溶融させる、溶融工程、および
この溶融液を冷却ロール上に流延する溶融液流延工程、
を包含する製造方法である。
【0064】
α−1,4−グルカン修飾物は、その分子量よって異なるが、一般に150〜250℃に加熱することにより、溶融させることができる。
【0065】
こうして得られた溶融液を、冷却ロール上に流延する。流延に使用されるダイとしては、溶液を支持体上に流延することができるものであれば特に制限されない。ダイとして、例えばTダイ、バー付きTダイなどを用いることができる。溶融液の押出時温度は100〜250℃であるのが好ましい。
【0066】
使用する冷却ロールは特に制限はないが、主として金属製の冷却ロールが用いられる。冷却ロールとして、例えばステンレス、鉄、アルミニウム等の金属製の冷却ロール、およびこれらの金属表面をクロムメッキ処理したもの、鏡面仕上げしたものなどが挙げられる。冷却ロールの温度は、5〜50℃、好ましくは10〜30℃の範囲とすることが好ましい。
【0067】
本発明では、これらの方法により得られたフィルムに、必要に応じてアニーリング処理などを行うこともできる。アニーリング処理などを行うことによって、フィルムのひずみを取り除くことができる。また、これらの方法により得られたフィルム、一般的な延伸機を用いて、一軸、逐次二軸または同時二軸に延伸することもできる。
【0068】
なお、本発明の光学用フィルムは、通常はα−1,4−グルカン修飾物を用いて、上記方法により光学用フィルムを製造することができるが、他の方法として、あらかじめ未修飾のα−1,4−グルカンをキャスト法等によりフィルムに形成し、その後に気相中あるいは液相中で、フィルムに含まれるα−1,4−グルカンをエステル化など修飾し、α−1,4−グルカン修飾物とすることもできる。このような場合において、フィルム形成に溶媒が必要とされる場合は、水性溶媒を用いるのが好ましい。
【0069】
また、液晶表示装置等を構成する他のフィルム材料を支持体として、溶液キャスト法により直接フィルムを形成することもできる。このような方法を用いることにより、得られる光学用フィルムをあらかじめ複合化させることができる。このような方法でフィルムを複合化することによって、表示装置の製造工程を簡略化することができる。またこうして得られる複合フィルムは、必要な光学層のみを有するため、表示装置の薄型化または軽量化を図ることができる。
【0070】
本発明の光学用フィルムの1態様として、光学層と親水性層とを有する光学用フィルムが挙げられる。このような光学用フィルムは、疎水性層の少なくとも1面上に親水性層を有している。そしてこの光学層は、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンを1種またはそれ以上含む、α−1,4−グルカン修飾物を含む層である。一方、親水性層は、光学層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカンを含む層である。
【0071】
本発明のα−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、そのままでは疎水的な性質を有している。そのため、本発明の光学用フィルムを、親水的な接着剤または素材と複合化する場合は、複合化が容易ではないなどの問題が生じる場合もある。このような場合、光学用フィルムを構成する光学層の少なくとも一面を、親水的表面に改質することにより、複合化をより容易とすることができる。なお、本明細書における「光学層」とは、本発明の光学用フィルムに求められる性質を有する層という。例えば、本発明の光学用フィルムが偏光子保護フィルムである場合、光学層は、偏光子保護層を意味する。
【0072】
光学層と親水性層とを有する光学用フィルムを調製する方法としては、α−1,4−グルカン修飾物を含む層(光学層)から構成されるフィルムの少なくとも1面を、アルカリ溶液、アルカリ触媒溶液、またはこれらの混合物に接触させて、けん化することにより調製することができる。アルカリ溶液として、例えば水酸化ナトリウム水溶液(例えば1N水酸化ナトリウム水溶液など)、水酸化カリウム水溶液(例えば1N水酸化カリウム水溶液など)などが挙げられる。アルカリ触媒溶液として、例えばナトリウムメトキシドまたはナトリウムエトキシドなどのアルカリ触媒とアルコールなどの有機溶媒とを含む溶液が挙げられる。例えばアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムの一面をガラスやプラスチック基板に貼りつけて保護した後に、このフィルムをアルカリ溶液に接触させることによって、片面のみをけん化することができる。こうして、光学層の片面のみに親水性層を有する光学用フィルムを得ることができる。またこれらの溶液に、α−1,4−グルカン修飾物を含む層(光学層)から構成されるフィルムを、1〜30分間浸漬することによって、光学層の両面に親水性層を有する光学用フィルムを得ることができる。
【0073】
上記各種方法により得られる本発明の光学用フィルムと、偏光子などの他の機能を有するフィルムとを、複合化することもできる。複合化の方法として、上記したように溶液キャスト法を用いる方法、また異なる機能を有するフィルムとの貼りあわせなどが挙げられる。複数のフィルムを貼りあわせる際に用いられる接着剤は、当該分野で公知のものを任意に選択することができる。さらに、α−1,4−グルカンおよび/またはその修飾物を接着剤として用いることもできる。他の方法として、偏光子などの他の機能を有するフィルムの上に、α−1,4−グルカン修飾物の溶融液を塗布してフィルムを形成する方法などが挙げられる。
【0074】
液晶表示装置
本発明の液晶表示装置は、反射型、半透過型、透過型液晶表示装置等が含まれる。そして本発明の液晶表示装置は、本発明の光学用フィルムを有する。液晶表示装置は一般的に、偏光フィルム、液晶セル、および必要に応じて位相差フィルム、反射層、光拡散層、バックライト、フロントライト、光制御フィルム、導光板、プリズムシート、カラーフィルター等の部材から構成される。ここで偏光フィルムは、偏光子と偏光子保護フィルムとを有するフィルムである。本発明においては、本発明の光学用フィルムを使用することを必須とする点を除いて、上記部材は特に制限されるものではない。また本発明の光学用フィルムの使用位置は特に制限はなく、また、1カ所でも複数カ所でもよい。
【0075】
液晶セルとしては特に制限されず、電極を備える一対の透明基板で液晶層を狭持したもの等の一般的な液晶セルが使用できる。液晶セルを構成する透明基板としては、液晶層を構成する液晶性を示す材料を特定の配向方向に配向させるものであれば特に制限はない。また、液晶セルの電極は、公知のものが使用できる。液晶セルの電極は、通常、液晶層が接する透明基板の面上に設けることができ、配向膜を有する基板を使用する場合は、基板と配向膜との間に設けることができる。液晶層を形成する液晶性を示す材料としては、特に制限されず、各種の液晶セルを構成し得る通常の各種低分子液晶物質、高分子液晶物質およびこれらの混合物が挙げられる。また、これらに液晶性を損なわない範囲で色素やカイラル剤、非液晶性物質等を添加することもできる。
【0076】
液晶セルは、電極基板および液晶層の他に、後述する各種の方式の液晶セルとするのに必要な各種の構成要素を備えていてもよい。液晶セルの方式としては、TN(Twisted Nematic)方式、STN(SuperTwisted Nematic)方式、ECB(ElectricallyControlled Birefringence)方式、IPS(In−Plane Switching)方式、VA(Vertical Alignment)方式、MVA(Multidomain Vertical Alignment)方式、PVA(Patterned Vertical Alignment)方式、OCB(Optically Compensated Birefringence)方式、HAN(Hybrid Aligned Nematic)方式、ASM(Axially Symmetric Aligned Microcell)方式、ハーフトーングレイスケール方式、ドメイン分割方式、あるいは強誘電性液晶、反強誘電性液晶を利用した表示方式等の各種の方式が挙げられる。また、液晶セルの駆動方式も特に制限はなく、STN−LCD等に用いられるパッシブマトリクス方式、並びにTFT(Thin Film Transistor)電極、TFD(Thin Film Diode)電極等の能動電極を用いるアクティブマトリクス方式、プラズマアドレス方式等のいずれの駆動方式であってもよい。また、カラーフィルターを使用しないフィールドシーケンシャル方式であってもよい。
【0077】
本発明の光学用フィルムは、反射型および半透過型液晶表示装置に好ましく用いられる。反射型液晶表示装置は、反射板、液晶セルおよび偏光フィルムを、この順に積層した構成を有する。位相差フィルムは、反射板と偏光フィルムとの間(反射板と液晶セルとの間または液晶セルと偏光フィルムとの間)に配置される。反射板は、液晶セルと基板を共有していてもよい。半透過反射型液晶表示装置は、電液晶セルと、該液晶セルより観察者側に配置された偏光フィルムと、偏光フィルムと液晶セルの間に配置される少なくとも1枚の位相差フィルムと、観察者から見て液晶層よりも後方に設置された半透過反射層を少なくとも備え、さらに観察者から見て半透過反射層よりも後方に少なくとも1枚の位相差フィルムと偏光フィルムとを有す。このタイプの液晶表示装置では、バックライトを設置することで反射モードと透過モード両方の使用が可能となる。
【0078】
このような液晶表示装置において、本発明の光学用フィルムの1種である位相差フィルム、そして本発明の光学用フィルムの1種である偏光子保護フィルムを含む偏光フィルムなどを用いることができる。本発明における液晶表示装置は、本発明の光学用フィルムを、少なくとも一つ用いたものである。
【0079】
本発明の光学用フィルムは上記用途に限らず、その他の種々の用途に供することが出来る。例えば、ホスト−ゲスト型液晶表示装置、タッチパネル、エレクトロルミネッセンス(EL)素子などの反射防止膜、反射型偏光フィルムなどに用いることができる。
【実施例】
【0080】
以下の実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。実施例中、「部」および「%」は、ことわりのない限り、重量基準による。
【0081】
重合度
試験例において、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼの調製方法、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼの調製方法、α−1,4−グルカンの収率(%)の計算方法、重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、特開2002−345458号の記載により公知である方法に従った。具体的に、合成したグルカンの分子量は次のように測定した。まず、合成したグルカンを1N水酸化ナトリウムで完全に溶解し、適切な量の塩酸で中和した後、グルカン約300μg分を、示差屈折計と多角度光散乱検出器を併用したゲル濾過クロマトグラフィーに供することにより重量平均分子量を求めた。詳しくは、カラムとしてShodex SB806M−HQ(昭和電工製)を用い、検出器としては多角度光散乱検出器(DAWN−EOS、Wyatt Technology社製)および示差屈折計(Shodex RI−71、昭和電工製)をこの順序で連結して用いた。カラムを40℃に保ち、溶離液としては0.1M硝酸ナトリウム溶液を流速1mL/分で用いた。得られたシグナルを、データ解析ソフトウェア(商品名ASTRA、Wyatt Technology社製)を用いて収集し、同ソフトを用いて解析することにより、重量平均分子量、数平均分子量を求めた。
【0082】
置換度の測定
アセチル化α−1,4−グルカンの置換度は、「澱粉・関連糖質実験法」(中村ら、1986年、学会出版センター)の記載に従い、以下の方法で測定した。試料1gを300mlの三角フラスコに精秤し、75%のエタノール50mlを加え分散した。これに0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を40ml加え、密栓して48時間室温で振盪した。過剰のアルカリを0.5Nの塩酸で滴定し、ブランクとの差から置換度(DS)を求めた。置換度(DS)は無水グルコース残基あたりの平均置換水酸基数である。
【0083】
引張試験
フィルムの引張強度は以下の方法で測定した。幅12.7mm×長さ152.4mmの大きさの試験片を26℃、相対湿度55%の恒温恒湿室に1日静置したのち、同じ場所で引張試験を行った。引張試験機(島津製作所製 オ−トグラフAGS−H)にあらかじめ厚みを測定した試験片を、持ち手間距離が100mmになるように固定し、10mm/minの速度で破断するまで引張った。各試験片について5本の試験結果を平均し、持ち手内部で切断した場合は除外した。引張強度は破断時の荷重をフィルムの断面積で割って求めた。
【0084】
吸水率および寸法変化率
フィルムの吸水性は、以下の方法で測定した厚み約100μmのサンプルフィルムを5cm四方に切り取り、真空乾燥器で加熱乾燥して絶乾にし、重量を測定した。これを蒸留水に24時間浸漬し、表面の水をぬぐって再度重量を測定した。浸漬の前後の重量変化から吸水率(%)を計算した。また吸水率測定において、浸漬前後のフィルムの厚みを測定し、その変化から寸法変化率(%)を計算した。
【0085】
透過率
フィルムの透過率は、以下の方法で測定した。日本分光製の吸光度計V−550を用いて、波長200nmから900nmの範囲で、1nm刻みで測定し、吸光度スペクトルを得た。分光スペクトルの値から、電子工業会規格(LD−201)に準じた方法で、透過率を求めた。
【0086】
製造例1:α−1,4−グルカンの合成
15mMリン酸緩衝液(pH7.0)、106mMスクロース、及びマルトオリゴ糖混合物(テトラップH、林原製)5.4mg/リットルを含有する反応液(1リットル)に、馬鈴薯塊茎由来の精製グルカンホスホリラーゼ(1単位/ml)と、Streptococcus mutans由来スクロースホスホリラーゼ(1単位/ml)を加えて37℃で16時間保温し、反応終了後、生成したα−1,4−グルカンの収率(%)、重量平均分子量(Mw)および分子量分布(Mw/Mn)を決定した。その結果、重量平均分子量が1250kDa、分子量分布(Mw/Mn)が1.03のα−1,4−グルカンを得た。
【0087】
製造例2:アセチル化α−1,4−グルカンの作製(置換度2.1)
還流器付反応容器で、ピリジン1Lに、製造例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように加え、無水酢酸50mlを滴下して、100℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は2.1であった。
【0088】
製造例3:アセチル化α−1,4−グルカンの作製(置換度2.7)
還流器付反応容器で、ピリジン1Lに、製造例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように加え、無水酢酸100mlを滴下して、100℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は2.7であった。
【0089】
製造例4:アセチル化α−1,4−グルカンの作製(置換度2.9)
還流器付反応容器で、ピリジン1Lに、製造例1で得られたα−1,4−グルカンの濃度が5重量%となるように加え、無水酢酸160mlを滴下して、100℃において60分反応させた。反応後、エタノールを添加して生成物を析出させ、ろ過後、数回水で洗浄し、精製した。得られたアセチル化α−1,4−グルカンの置換度は2.9であった。
【0090】
製造例5:アセチル化ハイアミローススターチの作製
α−1,4−グルカンをハイアミローススターチに代えた以外は製造例4と同様な方法で、無水酢酸160mlを滴下する条件で、アセチル化を行なった。置換度が2.9のアセチル化ハイアミローススターチが得られた。
【0091】
実施例1:キャストフィルムの作製
製造例3で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを、クロロホルムに5重量%で溶解した。これをポリエステル基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmである、置換度2.7のアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムを得た。
【0092】
実施例2:キャストフィルムの作製
製造例4で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを、クロロホルムに5重量%で溶解した。これをポリエステル基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmである、置換度2.9のアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムを得た。
【0093】
実施例3:親水性層を有するキャストフィルムの作製
製造例4で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを5重量%でクロロホルムに溶解した。この溶液をポリエステルの基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmのフィルムを得た。このフィルムを基板からはがさずに、30℃の1N水酸化ナトリウム溶液に12分間浸漬してけん化をおこなった後、流水で洗浄した。50℃の乾燥機で乾燥後、基板からフィルムをはがして、片面がけん化された、親水性層を有するアセチル化α−1,4−グルカンフィルムを得た。
【0094】
比較例1:キャストフィルムの作製
製造例2で得られたアセチル化α−1,4−グルカンを、アセトンに5重量%で溶解した。これをポリエステル基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmである、置換度2.1のアセチル化α−1,4−グルカンのフィルムを得た。
【0095】
比較例2:キャストフィルムの作製
製造例5で得られたアセチル化ハイアミローススターチを、クロロホルムに5重量%で溶解した。これをポリエステル基板上に流延し、室温で乾燥させて、厚さ約100μmである、置換度2.9のアセチル化ハイアミローススターチのフィルムを得た。
【0096】
比較例3:キャストフィルムの作製
和光純薬(株)から購入した置換度2.9のセルロースアセテートを用いて、比較例2と同様にフィルムを作製し、セルロースアセテートのフィルムを得た。
【0097】
実施例および比較例で得られたフィルムの強度および伸びの結果を表1に示す。アセチル化ハイアミローススターチやセルロースアセテートと比較して、アセチル化α−1,4−グルカンは同等の強度であり、伸びでは大きく上回った。
【0098】
【表1】

【0099】
実施例および比較例で得られたフィルムの吸水性および寸法変化率の測定結果を、表2に示す。アセチル化α−1,4−グルカンの中では、置換度2.7および2.9のものが、吸水率および寸法変化率が低い結果となった。
【0100】
【表2】

【0101】
実施例および比較例で得られたフィルムの透過率の測定結果を、表3に示す。
【0102】
【表3】

【0103】
実施例および比較例の結果から明らかであるように、実施例により得られた本発明の光学用フィルムは、比較例のものと比べて強度、伸びおよび透過率が高く、そして吸水率および寸法安定性が低いという、光学用フィルムとして好適なフィルムであることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0104】
α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、透過率が非常に高いという利点を有する。さらに、幅広い種々の波長の光に対しても透過率が高いという利点も有する。従って、本発明のα−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、光学用フィルムに必要とされる基本的な性能である透明性に優れたフィルムである。さらに、光学的なひずみの原因となる複屈折性が低いために、偏光成分に与える影響が少ないという利点がある。このため、α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルムは、偏光子保護フィルムをはじめとした液晶表示装置用の光学用フィルムとして好適である。またフィルムを延伸して表示装置用の位相差フィルムとする場合においても、フィルム本来の複屈折性が低いために、目的とする性能を有する位相差フィルムをより容易に得ることができるという利点を有する。
【0105】
α−1,4−グルカン修飾物の上記のような性質を利用して、優れた光学用フィルムを提供することができる。光学用フィルムとしては、液晶表示装置用の偏光子保護フィルムまたは位相差フィルム、写真・映画用フィルム、音楽・映像用の光ディスク、ミラー等に使用できる。また、フィルムとしての形態を取っていない光学素子としても使用することができる。例えばレンズまたはプリズム、光ファイバー等の光学材料として利用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
α−1,4−グルカン修飾物を含む光学用フィルム。
【請求項2】
前記α−1,4−グルカン修飾物の置換度が2.5〜3.0である、請求項1記載の光学用フィルム。
【請求項3】
前記α−1,4−グルカン修飾物の分子量が、100kDa〜6000kDaである、請求項1記載の光学用フィルム。
【請求項4】
前記α−1,4−グルカン修飾物が、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンを1種またはそれ以上含む、請求項1記載の光学用フィルム。
【請求項5】
前記光学用フィルムの透過率が90〜100%である、請求項1〜4いずれかに載の光学用フィルム。
【請求項6】
光学層および該光学層の少なくとも1面上に設けられた親水性層を有する光学用フィルムであって、
該光学層は、アセチル基、ブチリル基およびプロピオニル基からなる群から選択される1種またはそれ以上を有するエステル化α−1,4−グルカンを1種またはそれ以上含む、α−1,4−グルカン修飾物を含み、および
該親水性層は、該光学層に含まれるα−1,4−グルカン修飾物を脱修飾させることによって得られたα−1,4−グルカンを含む、
光学用フィルム。
【請求項7】
偏光子保護フィルムである、請求項1〜6いずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項8】
位相差フィルムである、請求項1〜6いずれかに記載の光学用フィルム。
【請求項9】
α−1,4−グルカン修飾物を有機溶媒に溶解させる、溶液調製工程、
該溶液を支持体上に流延する溶液流延工程、および
乾燥工程、
を包含する、光学用フィルムの製造方法。
【請求項10】
α−1,4−グルカン修飾物を加熱し溶融させる、溶融工程、および
該溶融液を冷却ロール上に流延する溶融液流延工程、
を包含する、光学用フィルムの製造方法。
【請求項11】
請求項1〜8いずれかに記載の光学用フィルムを配置した液晶表示装置。

【公開番号】特開2006−215376(P2006−215376A)
【公開日】平成18年8月17日(2006.8.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−29303(P2005−29303)
【出願日】平成17年2月4日(2005.2.4)
【出願人】(591173213)三和澱粉工業株式会社 (33)
【出願人】(000000228)江崎グリコ株式会社 (187)
【Fターム(参考)】