説明

光学画像測定装置

【課題】光散乱を抑圧して散乱吸収体内部を撮影可能な光学画像測定装置を提供する。
【解決手段】スペクトラム拡散変調した発光デバイス21と、前記発光デバイスの光が照射された観測物体からの信号を受光する撮像デバイス(イメージセンサ)31を有し、撮像デバイスに逆拡散信号処理を行う構成を設けることにより、観測物体の光散乱を抑圧した高感度の2次元画像(イメージング)データ51を得ることが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体のような散乱吸収体である観察物体に光を照射し、観察物体内の様々な構成成分に応じて、観察物体内での光の伝播が変化することにより、観察物体内部の反射及び透過画像(イメージング)情報を得る光学画像測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
医用応用を目的とした光学画像測定装置は、情報産業の次の基幹産業として期待が大きい医療健康機器市場の中でも、急成長が期待されている分野である。特に最近、近赤外光を使った生体用画像診断装置に注目が集まっている。例えば、生体の断層撮影手法であるOCT(Optical Coherence Tomography)や、生体内の血流変化や構造変化等をイメージングする光機能イメージング装置、あるいは、糖尿病予防のための非侵襲血糖値計測装置に代表される血液成分分析装置などの研究開発が活発である。
【0003】
図1は、生体中への光の浸透に関する説明図である。生体中への光の浸透は、生体中の主な光吸収物質であるヘモグロビンと水の吸収、及び光散乱で論じられることが多い。図1からわかるように、波長650nm程度以下ではヘモグロビンの吸収が強く、一方、1250nm程度以上では水の吸収が強くなる。そのため、両者の吸収が弱い650nm程度〜1250nm程度は、生体の「光学的窓」と呼ばれている。
【0004】
実際の生体では、ヘモグロビンや水分の構成比率を図1の吸収強さに乗じ、さらに、その他成分の吸収も考慮しなければならない。さらに、組織のミクロ構造によって、光の散乱強さも異なる。図2は、“文科省 学術審議会・資源調査分科会報告書、持続可能な「光の世紀」に向けて”に記載されている生体中への光の浸透深さのデータをグラフ化した説明図である。確かに、生体の「光学的窓」の領域で深い浸透深さが得られている。特に、1μm帯近傍で浸透深さが最も深くなっている。
【0005】
医用応用を目的とした光学画像測定装置では、この光到達深度を深くすることが大きな課題になっている。この解決には、1)光源の光出力を高めること、2)受光装置の受信感度を高める(高S/N化)こと、3)生体における光到達深度の深い波長の光源を使うことが有効である。
【0006】
生体の光学的窓内では、生体は散乱吸収体として振る舞う。すなわち、図1に示すように、生体による光吸収と光散乱が同程度、又は、光吸収よりも光散乱が大きくなる。その結果、生体深部の情報取得時に光散乱はノイズになるため、この光散乱ノイズを抑圧する技術が重要となる。このような光散乱ノイズ抑圧技術については、光学系の工夫に依るもの、散乱吸収体を透過する光の時間を計測して散乱を除去しようとするもの等が知られている。
【0007】
例えば、特許文献1や非特許文献1には、平行光を散乱吸収体に照射した場合、散乱されず平行光のまま散乱体を透過した光と、散乱されて光の進行方向が曲げられた光は、焦点面において異なる位置に回折点を形成することを利用し、散乱された光を遮蔽することによって、透過光のみを得る、すなわち光散乱ノイズを抑圧する技術が開示されている。さらに、照射光を偏光器を通して散乱吸収体に照射し、散乱されない光は偏光を維持し、散乱された光は偏光が維持できないことから、光散乱ノイズを抑圧する技術も開示されている。
【0008】
また、非特許文献2には、散乱吸収体を透過した光が検出器まで到達するまで、散乱吸収体内での散乱回数が大きければ、それだけ到達時間が遅くなることを利用した技術が開示されている。つまり、パルス光を散乱吸収体に照射した場合、散乱をしていない光は検出器まで速やかに到達し、散乱された光はそれよりも遅くなる。したがって、散乱吸収体を透過した光の時間依存性を取得し、検出器に早く到達した光の情報を基に透過イメージングを行えば、光散乱ノイズを抑圧できる。
【0009】
さらに、特許文献2には、光源からの光を複数の角周波数成分で変調し、散乱吸収体に照射し、散乱吸収体を通過した光の角周波数成分を抽出した後、位相差等のパラメータを算出し、当該位相差等のパラメータを利用した演算処理により、光散乱ノイズを抑圧する技術が開示されている。
【0010】
特許文献3、及び特許文献4では、生体情報を取得する装置において、スペクトラム拡散変調した光信号を送信し、逆拡散して受信する方法及び装置の発明が示されている。また複数の波長の発光デバイスを異なる固有符号で変調し、戻ってきたそれぞれの波長の微弱な光を一個の受光素子で分離して捉える技術も開示されている。
【0011】
また特許文献5には、ホール素子の1/f雑音を抑圧して信号対雑音比(S/N)を上げるため、センサ自体にスペクトラム拡散変調した信号を作用させセンサ感度を上げる技術が開示されている。
【先行技術文献】
【0012】
【特許文献1】特表平11−506202号公報
【特許文献2】特開平06−221913号公報
【特許文献3】特開2006−218013号公報
【特許文献4】特開2002−248104号公報
【特許文献5】国際公開WO2009/057626
【0013】
【非特許文献1】信学技報 IEICE Technical Report、MBE2006−42(2006−09)、pp.13−16
【非特許文献2】Proc.SPIE、Vol.1203、pp.62−75(1990)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
特許文献1又は非特許文献1に記載された発明では、光散乱が大きい場合、散乱されなかった光の強度は極端に弱く、微弱信号から透過イメージング像を得ることは非常に難しい。
【0015】
非特許文献2に記載された発明では、散乱されていない光と散乱された光が検出器まで到達する時間差が小さいため、光散乱ノイズを十分抑圧するためには、極短時間の測定系を構築しなければならず、実応用上、非常に難しい。
【0016】
特許文献2に記載された発明では、角周波数成分の位相差の精密な測定が必要であり、実応用上、非常に難しい。
【0017】
特許文献3又は特許文献4に記載された発明は、スペクトラム拡散技術により同一の擬似雑音系列を有しない光を排除できるため、光クロストークや外光の影響を除去して、かつ少ない数の受光素子で、生体内からの光を選択受信することはできるが、光散乱を抑圧した生体内のイメージングデータを得るものではない。
【0018】
特許文献5に記載された発明は、光散乱を抑圧した生体内のイメージングデータを得るものではない。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、光散乱を抑圧して散乱吸収体内部を撮影可能な光学画像測定装置を提供することを目的とする。
【0020】
そこで、発明者らが鋭意検討をおこなった結果、スペクトラム拡散変調した発光デバイスと、その光が照射された散乱吸収体である観察物体から受光する二次元画像信号に、逆拡散信号処理を行う構成を有する撮像デバイス(イメージセンサ)を組み合わせることにより、観察物体内の光散乱を抑圧した高感度の2次元画像(イメージング)データが得られることが明らかとなった。
【0021】
即ち、本発明は以下に示される。
1.発光デバイスと、前記発光デバイスの送信光をスペクトラム拡散変調する第1の固有拡散符号と、画像出力信号を得る逆拡散処理機能付イメージセンサと、前記逆拡散処理機能付イメージセンサを逆拡散するための第2の固有拡散符号とを備え、前記第1の固有拡散符号と前記第2の固有拡散符号は同期されていることを特徴とする光学画像測定装置である。
【0022】
2.観測物体が生体であることを特徴とする光学画像測定装置である。
【0023】
3.光学画像測定装置は、反射画像測定装置である。
【0024】
4.光学画像測定装置は、透過画像測定装置である。
【0025】
5.発光デバイスは異なる波長の複数の発光デバイスを有し、それぞれの発光デバイスに対して、それぞれに対して互いに直交する固有拡散符号を用いてスペクトラム拡散変調する光学画像測定装置である。
【0026】
6.発光デバイスは同一波長の複数の発光デバイスを有し、それぞれの発光デバイスに対して、それぞれに対して互いに直交する固有拡散符号を用いてスペクトラム拡散変調及び逆拡散する光学画像測定装置である。
【0027】
7.1/f雑音が発生する周波数より高いベースバンド変調周波数fmを発生するベースバンド変調信号生成器と、ベースバンド変調周波数fmで復調するベースバンド復調器を設けた光学画像測定装置である。
【0028】
8.発光デバイスは、発光ダイオードである。
【0029】
9.発光デバイスは、レーザダイオードである。
【0030】
10.発光デバイスの発光波長は650nmから1250nmの範囲内である。
【0031】
11.発光デバイスの発光波長は1μmである。
【0032】
12.逆拡散処理機能付イメージセンサは、ローリング・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、各列信号線の出力回路の手前に、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有する光学画像測定装置である。
【0033】
13.逆拡散処理機能付イメージセンサは、ローリング・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、信号出力の後に、水平同期信号に同期させて、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有する光学画像測定装置である。
【0034】
14.逆拡散処理機能付イメージセンサは、グローバル・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、画素と前記画素の電荷を蓄積するアナログメモリを備えており、前記画素と前記アナログメモリの間に、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有する光学画像測定装置である。
【発明の効果】
【0035】
本発明により、複雑な光学系や精度良い測定系を用いることなく、観察物体の光散乱を画期的に抑圧して、高感度の透過あるいは反射光学画像情報を獲得できる、高感度光学画像測定装置が可能になる。
【0036】
特に、生体の「光学的窓」である650nm程度〜1250nm程度の発光波長の発光デバイスを用いた医用光学画像診断装置の実現により、深い測定深度で、高感度かつ高解像度の画像情報を獲得できる医用光学診断装置が可能になり、光学診断装置の応用範囲を大きく拡大できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】 生体中への光の浸透に関する説明図である。
【図2】 生体中への光の浸透深さに関する説明図である。
【図3】 本発明に係る光学画像測定装置に関するブロック図である。
【図4】 スペクトラム拡散技術に関する説明図である。
【図5】 信号の拡散動作に関する説明図である。
【図6】 原信号を復帰させる逆拡散動作に関する説明図である。
【図7】 マルチパスやフェージングに関する説明図である。
【図8】 本発明で用いるCMOSイメージセンサに関する説明図である。
【図9】 本発明で用いる他のCMOSイメージセンサに関する説明図である。
【図10】 本発明で用いるグローバル・シャッター方式のCMOSイメージセンサに関する説明図である。
【図11】 本発明に係る光学画像測定装置に関するブロック図である。
【図12】 複数の波長の発光デバイスを用いた場合の本発明に係る光学画像測定装置に関するブロック図である。
【図13】 複数の波長の発光デバイスを用いた場合に得られるイメージの概要図である。
【図14】 1/f雑音を抑制する場合の本発明に係る光学画像測定装置に関するブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
以下、本発明の実施例について、図面を参照して詳述する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。
【0039】
[1] 実施例1
本発明の実施例1では、図3に示すように、スペクトラム拡散変調した光信号を観測物体に照射し、その観測物体からの反射光を、逆拡散信号処理を行う構成を有する撮像デバイス(イメージセンサ)で受信し、その二次元画像信号に逆拡散信号処理を行い、画像出力信号として取り出せるようにする。
【0040】
固有拡散符号11により、発光デバイス21の送信光をスペクトラム拡散変調する。試料の反射光は、逆拡散処理機能付イメージセンサ31で受光される。逆拡散処理機能付イメージセンサ31は、固有拡散符号41を用いて逆拡散され、光散乱が抑圧された画像出力信号51が得られる。ここで、固有拡散符号11と固有拡散符号41は同期されている。
【0041】
このように、本発明は、発光デバイス21を固有拡散符号11で変調(拡散)すると共に、イメージセンサ31に、発光デバイス21の拡散符号と同期して、受光する2次元画像信号を逆拡散する機能を保有させ、逆拡散された2次元画像信号が得られるように構成したことが特長である。
【0042】
ここでスペクトラム拡散とは、図4、図5、図6に示すように、元の信号を、擬似ランダムな固有の拡散符号(PN(Pseudorandom Noise)コードなど)により変調(拡散)し、元の信号より広い周波数帯域に拡散させた上で送信し、受信側で、同じ拡散符号により元の信号に復調(逆拡散)する通信方式である。ここで、擬似ランダムとは、特定の周波数を持ち再現可能であるが、周期内においてはランダム性を持つことを意味する。
【0043】
このスペクトラム拡散技術では、固有の拡散符号で変調された信号のみが復調可能のため、通信中の環境や物理的条件(散乱、干渉)により発生する雑音に対し、強い抑圧効果がある。シャノンの理論によれば、スペクトラム拡散技術により、信号対雑音電力比(S/N)は、拡散された帯域幅と測定対象である物理量の要求信号帯域幅の比(処理利得)だけ、改善されることが知られている。このため耐干渉性等に優れるという特長があり、携帯電話や無線LAN等、様々な通信で広く使われている。ここで測定対象である物理量の要求信号帯域幅とは、本発明の場合、観測物体である生体からの透過光や反射光の強度を識別するに必要な帯域幅である。
【0044】
また同様の原理により、図7に示すようなマルチパス(複数経路)や反射経路(R)が直接経路(D)と干渉するフェージングという現象に対しても、同様の雑音抑圧効果が得られることが知られている。光を使った生体等の光学画像における散乱雑音は、このマルチパスやフェージングと同じ現象であると考えられる。つまりスペクトラム拡散技術により、光学画像測定装置における光散乱を大幅に抑圧することが可能になる。
【0045】
発光デバイス21としては、650nm程度〜1250nm程度の、生体の「光学的窓」内の波長のLEDを用いることが望ましい。これにより、生体深部の情報取得が可能となる。特に浸透深さが最も深くなる1μm帯のLEDを用いることが好ましい。また、発光デバイス21としては、発光ダイオードやレーザダイオードのような半導体発光デバイスを用いることができる。このような半導体発光デバイスは、ドライバにより容易に高速でON/OFF変調が可能であり好ましい。
【0046】
逆拡散処理機能付イメージセンサ31には、2次元の画像(イメージング)データを得るため、受光素子を2次元状に多数配置したイメージセンサを用いることが好ましい。図8(a)に示すような通常のCMOSイメージセンサでは、各画素に配置された受光素子に蓄積された電荷量に応じた増幅器出力が、垂直走査回路111で選択された行毎に、水平走査回路で選択された列順に、信号出力として出力される。ここで、CDS(Correlated Double Sampling)121は、イメージセンサの出力波形に現れるリセットノイズを除去するための回路である。そこで、図8(b)に示すCMOSイメージセンサでの例のように、各列信号線131の出力回路の手前で、発光デバイスの拡散符号と同期して逆拡散を行うように、固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路141を構成する。
【0047】
このような回路では、各列信号線131と信号出力回路の間で逆拡散処理を行うため、拡散変調された光信号に同期させて、受光素子出力を逆拡散処理することが容易である。この結果イメージセンサの信号出力として、光散乱が拡散処理により抑圧された信号を得ることが出来る。
【0048】
図9に示す逆拡散処理機能付イメージセンサ31を用いることもできる。この例では、信号出力の後で、水平同期信号に同期させて、逆拡散処理を行う構成にしたものである。この回路では、列信号線131毎に逆拡散処理回路141を設ける必要が無く、回路構成が簡単になる。
【0049】
さて、拡散された帯域幅と物理量の要求信号帯域幅の比(処理利得)は、散乱雑音抑圧比を10dB以上とする場合、少なくとも10倍以上に設定することが望ましい。具体的に、発光デバイスとして発光波長1μmのLEDを用い、画素数がVGA(30万ピクセル)のイメージセンサで構成し、物理量の要求信号帯域幅をイメージセンサの垂直水平同期信号のクロック周波数1.8MHz、擬似ランダム信号(拡散符号)の帯域幅をその100倍の以上のクロック周波数400MHzとすると、20dB以上の改善効果が得られた。なお、擬似ランダム信号(拡散符号)としては、基本的なM系列を用いた。
【0050】
また、画素数XGA(80万ピクセル)のイメージセンサで構成し、物理量の要求信号帯域幅をイメージセンサの垂直水平同期信号のクロック周波数の4.8MHzとし、擬似ランダム信号(拡散符号)の帯域幅をその10倍以上のクロック周波数を100MHzとすると、10dB以上の改善効果が得られた。なお、擬似ランダム信号(拡散符号)としては、同様に基本的なM系列を用いた。
【0051】
以上は、一般的な走査ライン毎にシャッターを切るローリング・シャッター方式のイメージセンサの例であったが、高速の被写体に対して画面歪のない画像を得るために、一画面同時にシャッターを切るグローバル・シャッター方式のイメージセンサを用いることもできる
【0052】
図10は、逆拡散処理機能付イメージセンサ31をグローバル・シャッター方式のイメージセンサで実現した例である。通常のグローバル・シャッター方式のCMOSイメージセンサでは、図10(a)に示すように、画素151毎に一フレーム間、電荷を蓄積するアナログメモリ161を備えており、一画面同時にシャッターを切ったあと、いったんこのメモリに各画素の情報を蓄えておき、垂直水平走査回路171で順次読み出すようにしてある。そこで逆拡散処理回路181を、図10(b)に示すように、各画素の出力を垂直同期信号に同期して逆拡散処理してから、その出力をアナログメモリ161に蓄えるようにした。
【0053】
このような回路構成の場合、回路構成はやや複雑になるが、スペクトラム拡散における物理量の要求信号帯域幅を、イメージセンサのフレーム周波数、あるいは垂直同期信号のクロック周波数と同程度に小さく出来る。そのため擬似ランダム信号(拡散符号)の帯域幅との比が大きくとれるため、同じ擬似ランダム信号のクロック周波数を用いても散乱雑音抑圧比を大きくとれるという特長がある。
【0054】
例えば、フレーム周波数に同期してシャッターを切り、アナログメモリ161に信号を蓄積する構成にした場合、フレーム周波数が60Hzであるため、スペクトラム拡散における物理量の要求信号帯域幅も60Hzであり、擬似ランダム信号(拡散符号)のクロック周波数を60kHzにするだけで、30dBの雑音抑圧比が見込める。
【0055】
[2] 実施例2
本発明の実施例2では、図11に示すように、スペクトラム拡散変調した光信号を観測物体に照射し、その観測物体からの透過光を、逆拡散信号処理を行う構成を有する撮像デバイス(イメージセンサ)で受信し、その二次元画像信号に逆拡散信号処理を行い、画像出力信号として取り出せるようにする。
【0056】
固有拡散符号11により、発光デバイス21の送信光をスペクトラム拡散変調する。試料の反射光は、逆拡散処理機能付イメージセンサ31で受光される。逆拡散処理機能付イメージセンサ31は、固有拡散符号41を用いて逆拡散され、光散乱が抑圧された画像出力信号51が得られる。ここで、固有拡散符号11と固有拡散符号41は同期されている。
【0057】
発光デバイス21や逆拡散処理機能付きイメージセンサ31は、実施例1と同様のデバイスや回路、及び周知のデバイスや回路を適宜選択して用いることができる。
【0058】
[3] 実施例3
本発明の実施例3では、図12に示すように、複数の送信光を、互いに直交する拡散符号で変調する。これにより、同一周波数帯での多重通信、つまり極めて秘匿性に優れ、かつ高い耐干渉能力を有する符号分割多重化(CDMA)が可能となる。この特長を活かし、異なる波長の複数の送信光を、それぞれに対して互いに直交する擬似ランダム信号で拡散して観察物に照射すれば、図13に示すように、それぞれの波長に対応する観察物イメージを、独立に入手することが可能である。
【0059】
発光デバイスとして、例えば生体浸透度の高い光学的窓内の1μmと、生体浸透度の低い可視光である青色波長を用いると、生体内面のイメージと生体外観のイメージを、同時に得ることが可能になる。これを重畳してディスプレイ上に表示すれば、生体の外観に合わせて内面の様子がわかるため、手術用ディスプレイとして極めて便利である。また、上記に加えて、更に730nm等の波長の光源も使用すれば、生体浸透度の異なる画像を、同時に得ることも可能になる。
【0060】
また、複数の同じ波長の光源を配置し、それぞれに互いに直交する擬似ランダム信号(拡散符号)を割り当て、イメージセンサにおいてそれぞれの符号に基づき受光信号を復元すれば、それぞれの光源位置とイメージセンサとの対応関係を明確に区別できるイメージングが簡単に得られる。
【0061】
発光デバイス21や逆拡散処理付きイメージセンサ31は、実施例1と同様のデバイスや回路、及び周知のデバイスや回路を適宜選択して用いることができる。また、反射像を観察するか、透過像を観察するかは適宜選択すれば良い。
【0062】
[4] 実施例4
実施例1〜3では、擬似ランダム信号で直接光源、及びイメージセンサを拡散変調し逆拡散処理を行った。しかし、半導体デバイスでは、一般に1/f雑音と呼ばれる低周波数雑音が発生する。そこで、本発明の実施例4では、この1/f雑音を抑制する構成とした。
【0063】
1/f雑音を抑制する構成を図14に示す。1/f雑音を抑制するため、1/f雑音が発生する周波数より高いベースバンド変調周波数fmを発生するベースバンド変調信号生成器61と、ベースバンド変調周波数fmで復調するベースバンド復調器71を設けた。
【0064】
このように、1/f雑音が発生する周波数より高いベースバンド変調周波数fmで変調及び復調することにより、1/f雑音を効果的に除去することができた。
【0065】
発光デバイス21や逆拡散処理付きイメージセンサ31は、実施例1と同様のデバイスや回路、及び周知のデバイスや回路を適宜選択して用いることができる。また、反射像を観察するか、透過像を観察するかは適宜選択すれば良い。
【符号の説明】
11 固有拡散符号
21 発光デバイス
31 逆拡散処理機能付イメージセンサ
41 固有拡散符号
51 画像出力信号
61 ベースバンド変調信号生成器
71 ベースバンド復調器
111 垂直走査回路
121 CDS(Correlated Double Sampling)
131 各列信号線
141 逆拡散処理回路
151 画素
161 アナログメモリ
171 垂直水平走査回路
181 逆拡散処理回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光デバイスと、前記発光デバイスの送信光をスペクトラム拡散変調する第1の固有拡散符号と、画像出力信号を得る逆拡散処理機能付イメージセンサと、前記逆拡散処理機能付イメージセンサを逆拡散するための第2の固有拡散符号とを備え、前記第1の固有拡散符号と前記第2の固有拡散符号は同期されていることを特徴とする光学画像測定装置。
【請求項2】
観測物体が生体であることを特徴とする請求項1記載の光学画像測定装置。
【請求項3】
前記光学画像測定装置は、反射画像測定装置であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学画像測定装置。
【請求項4】
前記光学画像測定装置は、透過画像測定装置であることを特徴とする請求項1又は2記載の光学画像測定装置。
【請求項5】
前記発光デバイスは異なる波長の複数の発光デバイスを有し、それぞれの発光デバイスに対して、互いに直交する固有拡散符号を用いてスペクトラム拡散変調することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項6】
前記発光デバイスは同一波長の複数の発光デバイスを有し、それぞれの発光デバイスに対して、互いに直交する固有拡散符号を用いてスペクトラム拡散変調及び逆拡散することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項7】
1/f雑音が発生する周波数より高いベースバンド変調周波数fmを発生するベースバンド変調信号生成器と、ベースバンド変調周波数fmで復調するベースバンド復調器を設けたことを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項8】
前記発光デバイスは、発光ダイオードであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項9】
前記発光デバイスは、レーザダイオードであることを特徴とする請求項1から7のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項10】
前記発光デバイスの発光波長は650nmから1250nmの範囲内であることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項11】
前記発光デバイスの発光波長は1μmであることを特徴とする請求項1から9のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項12】
前記逆拡散処理機能付イメージセンサは、ローリング・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、各列信号線の出力回路の手前に、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項13】
前記逆拡散処理機能付イメージセンサは、ローリング・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、信号出力の後に、水平同期信号に同期させて、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の光学画像測定装置。
【請求項14】
前記逆拡散処理機能付イメージセンサは、グローバル・シャッター方式のCMOSイメージセンサであり、画素と前記画素の電荷を蓄積するアナログメモリを備えており、前記画素と前記アナログメモリの間に、第2の固有拡散符号を入力する逆拡散処理回路を有することを特徴とする請求項1から11のいずれかに記載の光学画像測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2013−113840(P2013−113840A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−272725(P2011−272725)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(308031197)株式会社アセット・ウィッツ (4)
【Fターム(参考)】