説明

光学素子の製造方法

【課題】薄い光学基板であっても容易に破断することができるとともに製造時に光学素子の欠損等を生じることがない光学素子の製造方法を提供する。
【解決手段】光学素子を製造するため、光学基板1の平面に面取りブレード3で切欠き状の面取り部1Aを形成し、この面取り部1Aにレーザー光を照射して罫書きするレーザースクライブ1Bを導入したから、導入されるレーザースクライブ1Bの深さを深めに設定すれば、面取り部1Aが破断のきっかけとなってスクライブ導入方向に沿って光学基板1が破断される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学基板を切断して複数の光学素子を製造する光学素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
IRカットフィルター、光学ローパスフィルター、UVカットフィルター、その他の光学物品が種々の分野で用いられている。この光学物品は、カバーガラス等の板状の光学素子を含んで構成されており、この板状の光学素子は、ガラス等からなる大きな光学基板を切断することで製造される。
【0003】
光学基板を切断する方法として、例えば、被膜形成済みのガラス基板にレーザー光を照射して罫書きするレーザースクライブを所定の深さまで導入し、その後、基板のスクライブを導入した箇所の裏面からライン状のヘッドを押し付けて基板を押し割る従来例(特許文献1)、ガラス等の非金属製基板にCOレーザーを照射し、このレーザーの熱応力により基板に亀裂を発生させ、この亀裂を進展させることで基板を一方端から他方端まで割断する従来例(特許文献2)、さらには、ガラスシートにレーザー光を照射してクラックを形成し、このクラックに沿ってガラスシートを折曲する従来例(特許文献3)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−187170号公報
【特許文献2】特開2000−263257号公報
【特許文献3】特開平9−12327号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1で示される従来例では、基板平面にレーザー照射によるスクライブを所定深さまで導入する構成であるため、スクライブを導入する深さの制御が困難となり、ガラス基板を確実に切断することができない。特に、ガラス基板が薄いと、スクライブ深さが所定の寸法を超えて深すぎてフルカット状態になり、破断面(端面)が基板平面に対して部分的に直角でなくなるといった弊害が生じる。
さらに、レーザースクライブを導入した箇所を境に基板を折り曲げ破断するので、ガラス基板の破断に伴って破断屑が発生し、さらには、破断のための力のかけ加減によってはスクライブの深さ方向に真っ直ぐ破断されるとは限らず稜線が安定しない。基板が基板平面に対して斜めに破断されると、光学素子の製造精度が不良となる。そして、基板が基板平面に対して直角に破断されても、その直角となった角部で光学素子を収納するトレイが破損したり、隣接する光学素子同士で直角角部同士が干渉して互いに破損したりする。
【0006】
特許文献2で示される従来例では、非金属製基板にレーザーの熱応力により非金属基板を割断する構成であるため、特許文献1の従来例と同様に、レーザー照射によるスクライブの深さ制御が煩雑となる。レーザー照射によるスクライブの深さが不足すると、非金属基板を割断することができない。
特許文献3で示される従来例では、ガラスシートにレーザー光を照射する構成であるため、特許文献1,2と同様に、レーザー光の照射よるスクライブの深さの制御が煩雑となる。さらに、特許文献3はクラック開始点としてガラスシートの一端に切り込みを入れ、このクラック開始点から連続したクラックを形成する製造方法であって、複数のクラックをガラスシート一面に分割前に形成しようとすると、クラックが交差する場所では以前に形成されたクラックを越えて新規のクラックを形成できない。1本のクラックを形成して分割後、この切断片の一端に再び切り込みを入れる一連に作業を繰り返す煩雑さがあった。
【0007】
本発明の目的は、薄い光学基板であっても容易に破断することができるとともに製造時に光学素子の欠損等を生じることがない光学素子の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上述の課題の少なくとも一部を解決するためになされたものであり、以下の形態または適用例として実現することが可能である。
[適用例1]
本適用例にかかる光学素子の製造方法は、光学基板を切断して複数の光学素子を製造する方法において、前記光学基板の少なくとも一面に面取りブレードで切欠き状の面取り部を形成する面取り工程と、この面取り部にレーザー光を照射して罫書きするレーザースクライブ工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、光学基板の一面に切欠き状の面取り部を形成した後、この面取り部に続けてレーザー照射によるスクライブを導入するので、導入されるレーザースクライブの深さを深めに設定すれば、面取り部が破断のきっかけとなり、スクライブ導入方向に沿って光学基板が破断される。つまり、レーザー照射によるスクライブの深さの制御は厳密に不要とされる。
レーザースクライブによる破断面はダイシング等の機械的な切断による破断面に比べて質量損失のない鏡面状態に形成されるため、切断に伴う切断屑が発生しない。さらに、光学基板を切断する際に、隣合う光学素子が面取り部を中心に互いに傾斜しても、面取り部によって形成された斜面部同士が干渉することが少ないので、光学素子自体の破損を防止できる。さらに、光学素子は、その角部が面取り部によって斜めに形成されるので、トレイに光学素子を収納しても、トレイを破損させることがない。
【0009】
なお、本適用例では、光学基板の材料として、ガラス、水晶等を例示できる。さらに、光学基板の一面あるいは両面に反射防止膜、IR膜等の薄膜を必要に応じて形成するものでもよい。そして、所定領域の赤外線を反射するIR膜が表面に形成された光学基板を切断する場合、IR膜で反射される領域のレーザー光を用いてレーザースクライブ工程を実施できないが、本適用例のように、レーザースクライブの導入前に面取り工程を実施すれば、この面取り工程でIR膜が切削されるので、このIR膜が削除された部分にレーザースクライブ工程を実施することができる。
【0010】
[適用例2]
本適用例にかかる光学素子の製造方法は、前記光学基板の少なくとも一面に複数の切欠き状の面取り部を並列かつ交差した格子状に配置する面取り工程と、この面取り部に沿ってレーザー光を前記光学基板の一方の端部から他方の端部に向かって照射するレーザースクライブ工程とを備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、前記光学基板の少なくとも一面に複数の切欠き状の面取り部を並列かつ交差した格子状に配置する面取り工程を備え、この面取り工程の後にレーザー光を前記光学基板の一方の端部から他方の端部に向かって照射する場合、以前にクラックを形成したラインを交差しても連続するクラックを形成できる。よって、光学基板の少なくとも一面に複数のクラックを一括して形成し、次にそのクラックによって一括して分割できるので、生産性が良好な分割方法を提供できる。
【0011】
[適用例3]
本適用例にかかる光学素子の製造方法は、前記レーザースクライブ工程の後に、前記光学基板の他面において前記光学基板の前記面取り部が形成された部位に対応する位置から前記面取り部に向かって力を付与する力付与工程を備えたことを特徴とする。
この構成の本適用例では、導入されるレーザースクライブの深さが浅くても、光学基板に衝撃力を付与することで、光学基板を容易に破断させることができる。そして、力付与工程は、例えば、レーザースクライブが導入された箇所に板状ハンマーを衝突させることで実現できるが、この際、面取り部を位置決めとして利用することで、板状ハンマーの衝突位置が正確となり、光学基板を確実に切断することができる。
【0012】
[適用例4]
本適用例にかかる光学素子の製造方法は、前記面取り工程は、前記光学基板の両面で実施することを特徴とする。
この構成の本適用例では、光学素子の両面の角部に面取り部が形成されることになるので、光学素子の両面のいずれをトレイに配置しても、その角部でトレイが破損することがない。
【0013】
[適用例5]
本適用例にかかる光学素子の製造方法は、前記面取り部は、V字溝であることを特徴とする。
この構成の本適用例では、板状ハンマーを用いる等して光学基板を折り曲げて切断する際に、隣合う光学素子が面取り部の深い位置を中心に互いに傾斜するが、面取り部がV字溝であるため、隣合う光学素子でV字溝を構成する直線状の傾斜面と直線状の傾斜面とが互いに当接することになり、角部同士の干渉を効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で光学基板から製造された複数の光学素子を示す平面図。
【図2】第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で光学基板から製造された複数の光学素子を示す側面図。
【図3】第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で使用する光学基板の平面図。
【図4】(A)は第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で使用する装置の概略斜視図、(B)は装置の要部斜視図。
【図5】(A)(B)はそれぞれ装置で加工された光学基板の断面図。
【図6】第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で使用する装置の概略図。
【図7】(A)〜(F)は第1実施形態にかかる光学素子の製造方法の手順を示す概略図。
【図8】(A)〜(F)は本発明の第2実施形態にかかる光学素子の製造方法の手順を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
まず、第1実施形態を図1から図7に基づいて説明する。
図1は第1実施形態にかかる光学素子の製造方法で製造された光学素子を示す平面図であり、図2はその側面図である。
図1及び図2において、大きな正方形の光学基板1から複数(図では縦横6個ずつ合計36個)の板状の光学素子11が製造されている。これらの板状の光学素子11はIRカットフィルターである。なお、本発明では、光学素子として、光学ローパスフィルター、UVカットフィルター、カバーガラスを例示できる。
【0016】
板状の光学素子11の一面にはIR膜が形成され、他面には反射防止膜が形成される。IR膜は所定の赤外線領域を遮断する機能を持つ多層膜コートである。これらの成膜の構造は従来と同じである。さらに、光学基板1はガラス、水晶、その他の透光性を有する光学材料から形成されている。
光学素子11は、その両面角部に直線状の傾斜面11Aがそれぞれ形成されており、これらの傾斜面11Aの端部同士を接続するように平面部11Bと側面部11Cとがそれぞれ形成されている。側面部11Cは平面部11Bに対して直交配置されており、その表面が傾斜面11Aに比べて滑らかに形成されている。2個の光学素子11を側面部11C同士を接合させた状態で並べると、それらの角部にそれぞれ形成される傾斜面11Aは一端部同士が接続されてV字溝とされ、このV字溝が面取り部1Aとされる。
【0017】
図3には光学基板1が治具2にセットされた状態が示されており、図4及び図6には、それぞれ第1実施形態の光学素子の製造方法で使用する装置が示されている。
図3及び図4において、光学基板1をセットする治具2は、光学基板1より大きな断面矩形状のリング状部21と、このリング状部21の一面に貼り付けられた弾性シート部(ダイシング用フィルム)22とを備えて構成され、この弾性シート部22の上面に光学基板1が載置される。リング状部21は金属製フレームが用いられる。弾性シート部22は、その上面に光学基板1を保持するための粘着層(図示せず)が設けられている。
【0018】
図4(A)において、第1実施形態で使用される装置は、光学基板1の一面又は両面に切欠き状の面取り部1A(図5(A)参照)を形成するための面取りブレード3と、面取り部1Aにレーザースクライブ1B(図5(B)参照)を導入するレーザー照射機構4と、面取り部1Aに導入されたレーザー照射部1Bをレーザー照射直後に冷却する冷却機構5とが示されている。
なお、図4(A)では面取りブレード3がレーザー照射機構4及び冷却機構5に並んで示されているが、第1実施形態では、面取りブレードによる加工は別の装置であってもかまわない。
【0019】
図4(B)に示される通り、面取りブレード3は刃先3Aがテーパーとされた円板部材であり、この中心部に設けられた軸部3Bが図示しないダイシング機構に連結されている。ダイシング機構は面取りブレード3を回転させながら光学基板1に対して直進する構成である。なお、ダイシング機構を前進させる代わりに光学基板1が設けられた治具2を前進させる構成を採用してもよい。
ダイシング機構が作動されることで、面取りブレード3は回転し、その先端部が光学基板1に押圧されることで、V字状溝の面取り部1Aがダイシング機構の移動方向に沿って光学基板1に形成される(図5(A)参照)。この面取り部1Aの開放角度は面取りブレード3の刃先3Aの角度αに対応するものであり、この角度αは60°〜120°であり、好ましくは、90°とされる。
【0020】
図4(A)に示される通り、レーザー照射機構4は、ダイシング機構で形成された面取り部1AにCOのレーザー光を照射するものである。レーザー光の照射により、面取り部1Aの最も深い部位からレーザースクライブ1Bが略直線状に形成される(図5(B)参照)。
レーザー照射機構4に隣接して図示しないCCDカメラが配置されており、このCCDカメラで面取り部1Aの位置を確認しながら、面取り部1Aの最も深い部位にレーザー光を照射する。レーザー照射によるスクライブ1Bの深さはレーザー出力、レーザー照射時間にほぼ比例する。
レーザー照射機構4と冷却機構5は一体化もしくは近接していて、面取り部1Aにレーザーを照射した直後に冷却する機構になっている。
レーザー照射機構4と冷却機構5は面取り部1Aが形成された方向に沿って移動可能である。本実施形態では、レーザー照射機構4と冷却機構5を移動させる代わりに、光学基板1がセットされた治具2が移動する構成としてもよい。
【0021】
冷却機構5は面取り部1Aに導入されたレーザー照射部1Bをレーザー照射直後に急冷するものであり、例えば、レーザー照射部1Bを中心とした面取り部1Aの周囲に冷却機構5のノズルから冷風ミストを吹き付けるものである。レーザー光を光学基板1の面取り部1Aに照射すると、その照射部分が加熱されて部分的に膨張しようとする圧縮応力が生じるが、冷却機構5でレーザー照射直後に急冷することで、圧縮応力から引っ張り応力に変換し瞬間的に亀裂が入ることになる。
【0022】
図6において、第1実施形態で使用される装置は、光学基板1の面取り部1Aが形成された部位に対応する位置から面取り部1Aに向かって力を付与するハンマー装置6を備えている。
このハンマー装置6は、面取り部1Aが形成されるとともに治具2にセットされた光学基板1を載置するテーブル60と、このテーブル60の光学基板1を挟んで反対側に配置されたハンマーブレード61とを備えている。テーブル60及びハンマーブレード61と光学基板1をセットした治具2とはハンマーブレード61とは、並んで形成された面取り部1Aに対応した部位を連続して破断するために、相対的に移動可能とされている。
テーブル60には光学基板1と対向する載置面60Aが形成され、光学基板1の載置面60Aに対向する面には弾性を有する透明保護フィルム23が貼付されている。そして、光学基板1の透明保護フィルム23側は面取り部1Aとレーザースクライブ1Bとの双方が形成された部分とされる。
【0023】
テーブル60にはスリット60Sが貫通して形成されており、このスリット60Sの貫通方向に対してハンマーブレード61が進退自在とされる。ハンマーブレード61は、その先端部に形成されたテーパー面が形成され、かつ、その奥行き方向が面取り部1Aの長さと対応する長さ寸法を有する板状部材である。
ハンマーブレード61は、図示しない進退機構と連結されており、この進退機構は、ハンマーブレード61の速度、深さ(進退量)を制御するパルスモータ(図示せず)を備える。
ハンマーブレード61のスリット60Sを挟んだ反対側の位置にはCCDカメラ62が配置されている。このCCDカメラ62は透明保護フィルム23から透過される面取り部1Aを認識するものである。
テーブル60に形成されたスリット60Sはハンマーブレード61の板厚寸法より大きな幅方向を有するものであるが、この幅寸法は任意に変更可能とされる。
【0024】
次に、第1実施形態にかかる光学素子の製造方法を図7に基づいて説明する。
[光学基板形成工程]
従来と同じ方法によって、ガラス等の光学材料から平板状の光学基板1を成形し、この光学基板1の一面にIR膜を、他面に反射防止膜をそれぞれ形成する。
そして、光学基板1を治具2にセットする。
【0025】
[面取り工程]
光学基板1の両面に面取りブレード3で面取り部1Aを形成する。本実施形態では、面取りブレード3の刃先3Aの角度αは90°である。
そのため、図7(A)に示される通り、面取りブレード3を回転させるとともに面取りブレード3の刃先3Aを光学基板1に向けて押しつける。その状態で、面取りブレード3と光学基板1がセットされた治具2とを相対的に直線移動させる。これにより、光学基板1にV字溝からなる面取り部1Aが直線状に形成されることになる。この面取り部1Aは光学素子11の傾斜面11Aを構成することになる。そして、面取り部1Aが形成されることに伴って、光学基板1の両面に形成されたIR膜や反射防止膜が切り欠かれる。
面取り部1Aの深さは光学基板1の板厚との関係で適宜設定される。例えば、光学基板1の板厚Tが0.1mmのような薄い場合では、面取り部1Aの深さtは0.03mm程度であり、板厚Tが1.0mm以上ある場合では深さtは0.3mm以上となる。
【0026】
この面取り部1Aを光学基板1の一面に製造される光学素子11の幅寸法と対応する寸法だけ離して複数形成し、さらに、これらの面取り部1Aと直交するように複数の面取り部1Aを複数形成する。つまり、光学基板1の一面に面取り部1Aを格子状に形成する。
その後、光学基板1をひっくり返し、光学基板1の他面にも面取り部1Aを格子状に形成する。光学基板1の他面に形成された面取り部1Aは、一面に形成された面取り部1Aと対応する位置にある。なお、図7では、光学基板1の一面(上面)に面取り部1Aが形成されており、この一面に形成された面取り部1Aに対向するように治具2の弾性シート部22が貼付されている。
【0027】
[レーザースクライブ工程]
面取り部1Aにレーザー光を照射して格子状に罫書きする。
そのため、図7(B)に示される通り、面取り部1Aの最も深い部位に向けてレーザー照射機構4からレーザー光を照射する。そして、レーザー照射機構4と光学基板1がセットされた治具2とを相対的に移動させて面取り部1Aの長手方向に沿ってレーザー光を照射する。
面取り部1Aにレーザー照射部1Bを導入した直後に、このレーザー照射部1Bを冷却機構5で急冷する。そのため、図7(C)に示される通り、レーザースクライブ1Bを中心とした面取り部1Aの周囲に冷却機構5のノズルから冷風ミストを吹き付ける。
レーザー照射と冷却によって形成されるレーザースクライブ1Bの深さは適宜設定されるが、互いに対向する面取り部1Aの谷部分同士を貫通するものでもよい。
【0028】
[力付与工程]
光学基板1の面取り部1Aが形成された部位に衝撃力をハンマー装置6で付与する。
そのため、図7(D)に示される通り、まず、テーブル60に治具2にセットされた光学基板1を配置する。この際、光学基板1の弾性シート部22が貼付されていない面に透明保護フィルム23を貼付し、この透明保護フィルム23がテーブル60に対向するようにする。光学基板1がセットされた治具2をテーブル60及びハンマーブレード61に対して相対的に移動させて面取り部1AがCCDカメラ62(図6参照)で認識できるようにする。
【0029】
その後、ハンマー装置6の進退機構を作動させてハンマーブレード61を面取り部1Aに向けて前進させる。すると、図7(E)に示される通り、ハンマーブレード61の先端が弾性シート部22の上から光学基板1の面取り部1Aに衝突し、光学基板1がレーザースクライブ1Bの深さ方向に沿って破断される。光学基板1の破断に伴って、光学基板1のレーザースクライブ1Bを中心とした両側が互いに傾くように折れ曲がって変位する。この変位に伴って、光学基板1のハンマーブレード61が衝突する部位では弾性シート部側の面取り部1Aの開口角度が小さくなり、面取り部1Aを構成する2つの傾斜面11A同士は当接しないか、あるいは、当接しても面同士が当接することになるので、角部の破損が防止される。そして、当該レーザースクライブ1Bと隣接するレーザースクライブ1Bが形成された部位では、光学基板1の透明保護フィルム側の面取り部1Aの開口角度が小さくなり、面取り部1Aを構成する2つの傾斜面11A同士は当接しないか、あるいは、当接しても面同士が当接することになるので、角部の破損が防止される。
【0030】
そして、破断に伴って光学基板1が変位することで、光学基板1の両側に貼付された弾性シート部22と透明保護フィルム23とにそれぞれ伸縮方向の力が生じるが、これらの弾性シート部22と透明保護フィルム23とはその弾性によって破断されることがない。
その後、図7(F)に示される通り、ハンマー装置6の進退機構を作動させてハンマーブレード61を面取り部1Aから後退させる。すると、変位した光学基板1は、弾性シート部22と透明保護フィルム23との弾性力により、元の姿勢、つまり、テーブル60の平面に沿った姿勢となる。その後、光学基板1がセットされた治具2をテーブル60及びハンマーブレード61に対して相対的に移動させ、次の破断作業を実施する。
【0031】
従って、第1実施形態では次の作用効果を奏することができる。
(1)光学素子11は、互いに対向する面にIR膜と反射防止膜とが形成される平面部11Bと、この平面部11Bに直交するとともに平滑に形成された側面部11Cと、この側面部11Cと平面部11Bとの端部を接続する傾斜面11Aとを有するIRカットフィルターであり、この光学素子11の角部が傾斜面11Aによって斜めに直線状に形成されるので、トレイに光学素子11を収納しても、角部でトレイを破損させることがない。そして、光学素子11が側面部同士で当接することがあっても、側面部11Cが平滑に形成されているので、屑等が発生することがない。
【0032】
(2)光学素子11を製造するため、光学基板1の平面に面取りブレード3で切欠き状の面取り部1Aを形成し、この面取り部1Aにレーザー光を照射して格子状に罫書きするレーザースクライブ1Bを導入したことで、導入されるレーザーパワーを調整することによりスクライブ1Bの深さを深めに設定すれば、面取り部1Aが破断のきっかけとなってスクライブ導入方向に沿って光学基板1が破断される。従って、クラックはスクライブのラインが交差しても貫通して形成でき、一括して格子状のクラックを形成できる。そして、光学基板1を切断する際に、隣合う光学素子11が面取り部1Aを中心に互いに傾斜して角部同士が近接しても、面取り部1Aによって角部同士が干渉することがないから、角部同士が衝突することによる光学素子11の破損を防止できる。そして、光学素子11の側面部11Cがレーザースクライブ1Bで形成されることで、その平面が平滑となり、光学基板1の破断時に屑等が発生することがないとともに、稜線も安定する。
【0033】
(3)レーザースクライブ1Bを導入した後に、光学基板1の他面側において面取り部1Aが形成された部位に対応する部位からハンマー装置6で力を付与したから、導入されるレーザースクライブ1Bの深さが浅くても、光学基板1に衝撃力を付与することで、光学基板1をレーザースクライブ1Bから容易に破断させることができる。
【0034】
(4)ハンマー装置6は、ハンマーとして機能するハンマーブレード61をレーザースクライブ1Bが導入された箇所に衝突させる構成であるため、光学基板1をハンマーブレード61の衝撃力によって確実に分割させることができる。
【0035】
(5)ハンマーブレード61を衝突させる際に、光学基板1に形成された面取り部1Aを光学基板1の位置決めのために利用するので、ハンマーブレード61の衝突位置が正確となり、光学基板を確実に切断することができる。
【0036】
(6)ハンマー装置6で光学基板1を破断する際に、光学基板1の一面に弾性シート部22を貼付し、光学基板1の他面に透明保護フィルム23を貼付するから、光学基板1の破断された部位が飛散することがない。そのため、製造工程において、光学素子11が破損することを防止できる。
【0037】
(7)面取り部1AはV字溝であるため、光学基板1をハンマー装置6で折り曲げて破断する際に、隣合う光学素子11が面取り部1Aを中心に互いに傾斜して傾斜面11A同士が互いに当接することで、角部同士の干渉を効率的に防止することができる。
【0038】
(8)光学基板1の両面に面取り部1Aを形成しているから、光学素子11の両面のいずれをトレイに配置しても、その角部でトレイが破損することがない。
【0039】
次に、本発明の第2実施形態を図8に基づいて説明する。
第2実施形態は面取り部1Bの形成箇所が光学基板1の両面でなく一面に限定されていることが第1実施形態と異なるもので、他の構成は第1実施形態と同じである。そして、第2実施形態では、光学素子11の傾斜面11Aが一面にのみ形成され、他面は直角の角部が形成される点で第1実施形態の光学素子11とは形状が異なる。
ここで、第2実施形態の説明において、第1実施形態と同一の構成要素は同一符号を付して説明を省略する。
【0040】
図8は第1実施形態の図7に対応する図である。
図8(A)において、光学基板1の片面に面取りブレード3で面取り部1Aを形成する。そのため、面取りブレード3を回転させるとともに面取りブレード3の刃先3Aを光学基板1に向けて押しつける。その状態で、面取りブレード3と光学基板1がセットされた治具2とを相対的に直線移動させる。
その後、図8(B)に示される通り、面取り部1Aの最も深い部位に向けてレーザー照射機構4からレーザー光を照射してレーザー照射部1Bを導入する。面取り部1Bにレーザー照射部1Bを導入した直後に、図8(C)に示される通り、レーザー照射部1Bを中心とした面取り部1Aの周囲に冷却機構5のノズルから冷風ミストを吹き付ける。
【0041】
光学基板1の面取り部1Aが形成された部位と対応する反対側の部位に衝撃力をハンマー装置6で付与する。そのため、図8(D)に示される通り、まず、治具2にセットされた光学基板1をテーブル60に配置する。その後、ハンマー装置6の進退機構を作動させてハンマーブレード61を面取り部1Aに向けて前進させる。すると、図8(E)に示される通り、ハンマーブレード61の先端が弾性シート部22から光学基板1の面取り部1Aに衝突し、光学基板1がレーザースクライブ1Bの深さ方向に沿って破断される。この破断に伴って、光学基板1のレーザースクライブ1Bを中心とした両側が互いに傾くように折れ曲がる。この折れ曲がりに伴って、光学基板1の透明保護フィルム側の面取り部1Aの開口角度が小さくなるように変位するが、面取り部1Aを構成する2つの傾斜面11A同士は当接しないか、あるいは、当接しても面同士が当接する。
その後、図8(F)に示される通り、ハンマー装置6の進退機構を作動させてハンマーブレード61を面取り部1Aから後退させる。
【0042】
従って、第2実施形態では、第1実施形態の(1)〜(7)と同様の作用効果を奏することができる。
【0043】
なお、本発明は前述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれるものである。
例えば、本発明では、光学基板1の両面に必ずしも、IR膜や反射防止膜等の薄膜を形成することを要しない。
さらに、ハンマー装置6のハンマーブレード61の先端はテーパー状であることを要せず、断面矩形状あるいは断面半円形状としてもよい。但し、先端がテーパー状であれば、衝撃力が先端部に集中し、光学基板1を確実に破断させることができる。
また、本発明では、力付与手段を必ずしも、設けることを要しない。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、IRカットフィルター、光学ローパスフィルター、UVカットフィルター、その他の光学物品に利用することができる。
【符号の説明】
【0045】
1…光学基板、1A…面取り部、11…光学素子、11A…傾斜面、11B…平面部、11C…側面部、2…治具、22…弾性シート部、23…透明保護フィルム、3…面取りブレード、4…レーザー照射機構、5…冷却機構、6…ハンマー装置、61…ハンマーブレード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学基板を切断して複数の光学素子を製造する方法において、
前記光学基板の少なくとも一面に面取りブレードで切欠き状の面取り部を形成する面取り工程と、この面取り部にレーザー光を照射して罫書きするレーザースクライブ工程とを備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載された光学素子の製造方法において、
前記光学基板の少なくとも一面に複数の切欠き状の面取り部を並列かつ交差した格子状に配置する面取り工程と、この面取り部に沿ってレーザー光を前記光学基板の一方の端部から他方の端部に向かって照射するレーザースクライブ工程とを備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載された光学素子の製造方法において、
前記レーザースクライブ工程の後に、前記光学基板の他面において前記光学基板の前記面取り部が形成された部位に対応する位置から前記面取り部に向かって力を付与する力付与工程を備えたことを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項4】
請求項3に記載された光学素子の製造方法において、
前記面取り工程は、前記光学基板の両面で実施することを特徴とする光学素子の製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載された光学素子の製造方法において、
前記面取り部は、V字溝であることを特徴とする光学素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−189201(P2010−189201A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−32338(P2009−32338)
【出願日】平成21年2月16日(2009.2.16)
【出願人】(000003104)エプソントヨコム株式会社 (1,528)
【Fターム(参考)】