説明

光学素子用液晶材料および光変調素子

低電圧駆動が可能で、位相差が大きく、実用に耐えうる温度範囲にわたってブルー相を発現する光学素子用液晶材料の提供し、さらに使用する光の透過率が高く、長期安定動作が可能である光学素子用液晶材料の提供する。
解決手段として、液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、前記液晶性化合物とカイラル剤との組み合せの誘電率異方性(Δε)が30以上で、屈折率異方性(Δn)が0.13以上であり、該複合体中の前記液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を有する光学素子用液晶材料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、誘電率異方性が大きく、屈折率異方性が大きく、使用する光の透過率が高い光学素子用液晶材料に関する。
【0002】
また、透過光または反射光のスペクトル、偏光状態、波面等を変調する、液晶を用いた光変調素子に関する。
【背景技術】
【0003】
光情報処理技術は、信号伝達の高速性、伝送および処理の空間的並列性、広い周波数帯域等、光の有する特徴を利用できる有望な情報処理技術である。該技術の実用化には光の強度、偏光状態等を高速・高精度で制御する光学素子が不可欠であり、液晶を用いた小型で安価な光学素子が注目されている。
【0004】
一方、コレステリック液晶を昇温していくと、コレステリック相から等方相へ転移する直前に、液晶相の一つであるブルー相が発現することが知られている。ブルー相は、液晶が互いにねじれて配列した二重ねじれ構造と、等方相に近い状態の線状欠陥とが共存した状態と考えられており、数百nmオーダーの格子定数の体心立方格子(ブルー相I)や単純立方格子(ブルー相II)のような三次元周期構造を形成することが知られている。
【0005】
そのため、ブルー相の状態にある液晶は、立方晶としての性質とコレステリック液晶としての性質とを兼ね備えており、可視光に対して旋光性を示すほか、ブラッグ回折が観測される。ブラッグ回折が観測される結晶面(以下、ブラッグ回折面という。)は、ブルー相Iの体心立方構造では、(110)面、(200)面、(211)面等、ブルー相IIの単純立方構造では、(100)面、(110)面、(210)面等であることが知られている。
【0006】
また、電界や磁界等の外場環境を変化させることにより、入射光の回折角、偏光状態等をマイクロ秒オーダーの応答時間で変化させることができる。よって、ブルー相の状態にある液晶を用いた光学素子には、従来の光学素子を遥かに凌ぐ応答速度と多様な機能が期待できる。
【0007】
しかし、ブルー相は等方相の発現温度直下の数℃(一般的には1〜3℃)の温度範囲(温度幅)でしか発現しないため、極めて精密な温度制御が必要であり、実用化が困難であった。この問題を解決しうる技術として、ブルー相を示す液晶と重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させることによって、ブルー相の発現温度範囲(温度幅)を改善することが報告されている(特許文献1参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2003−327966号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、特許文献1に記載された材料は、駆動電圧が高い問題があった。また、屈折率異方性の値が小さいため、素子に応用した場合に位相差が小さくなる問題があった。さらに、本発明者らの検討によると、該材料は駆動後の透過率の低下が大きい問題、使用する光の透過率が低い問題もあり、実用に供するには不充分であると認められた。
【0010】
また、光学素子において、コレステリック液晶やカイラルネマチック液晶を用いた従来の技術では、以上説明したように、簡易な構成かつ簡易な製作方法により、領域毎に異なる光学特性を有し、各領域の光学特性を外場なしに維持し、外場によって制御できる光変調素子を実現することが困難である問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、低電圧駆動が可能で、屈折率異方性の値が大きく、駆動による透過率損失が少なく、使用する光の透過率が高く、実用に適した温度範囲にわたってブルー相を発現する光学素子用液晶材料と該液晶材料を用いた光変調素子を提供する。すなわち、本発明は以下の光学素子用液晶材料および光変調素子を提供する。
1.液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せの誘電率異方性(Δε)が30以上で、屈折率異方性(Δn)が0.13以上であり、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
2.液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、前記液晶性化合物として下式(1)で表される化合物を1種以上含み、前記カイラル剤として下式(2)で表される化合物を1種以上含み、該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
【0012】
【化1】

【0013】
ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、または炭素数1〜8のアルキコキシ基。
:不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキル基、アリール基で置換された不斉炭素原子を有する炭素数2〜8のアルキル基、または不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキコキシ基。
、A:それぞれ独立に、1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
、Y:それぞれ独立に、−COO−、−OCO−、単結合、−CHCH−、または−C≡C−。
、Y:それぞれ独立に、−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
1、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。
、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。
n、m:それぞれ独立に、0または1。
3.液晶性化合物と、カイラル剤と、下式(3)で表される化合物と、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、該複合体中の液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
CH=CH−COOR・・・(3)
ただし、式中のRは炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよい炭素数10〜30の直鎖アルキル基を示す。
4.少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することを特徴とする上記1〜3のいずれかに記載の光学素子用液晶材料。
5.少なくとも一方が透光性を有する一対の基板と、この一対の基板に挟持され、入射された光を選択的に反射する液晶層とを備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、上記1〜4のいずれかに記載の光学素子用液晶材料を含み、
ブルー相が有するブラッグ回折面と基板法線とのなす角度が、基板面内の光の入射位置に応じて異なるようにしたことを特徴とする光変調素子。
この構成により、ブルー相でのブラッグ回折面と基板法線とのなす角度が、基板面内の光の入射位置に応じて異なるようにしたため、簡易な構成かつ簡易な製作方法により、基板面内の領域毎に異なる光学特性を有し、各領域の光学特性を外場なしに維持し、かつ外場によって制御できる光変調素子を実現できる。
6.前記一対の基板上にそれぞれ設けられた電極を備え、前記電極を介して前記液晶層に電圧を印加し得るようにした上記5記載の光変調素子。
この構成により、電極を設けて、液晶層の実効的な屈折率、または、液晶層に含まれる液晶材料の分子配向を制御できるようにしたため、上記5の効果に加え、より利用しやすい光変調素子を実現できる。
7.一対の基板と、前記一対の基板上にそれぞれ設けられた透明電極と、この一対の基板に挟持された液晶層と、を備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、上記1〜4のいずれかに記載の光学素子用液晶材料を含む、第1の液晶層および第2の液晶層からなり、
前記第1の液晶層は、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分を選択反射し、前記第2の液晶層は、前記2つの入射光の左回り円偏光成分を選択反射するものであり、
外部から前記透明電極に印加する電圧により前記2つの入射光の透過率を変化させることを特徴とする光変調素子。
この構成により、液晶層が、2つの入射光の右回り円偏光成分を選択反射する第1の液晶層と、2つの入射光の左回り円偏光成分を選択反射する第2の液晶層とを備えているため、液晶層に電界を与えて液晶による選択反射の反射率を変化させることにより2つの入射光の透過率を変化させることができる。
8.一対の基板と、前記一対の基板上にそれぞれ設けられた透明電極と、この一対の基板に挟持された液晶層と、その光出射面側に配置された所定の偏光方向の直線偏光のみを透過する偏光選択手段と、を備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、上記1〜4のいずれかに記載の光学素子用液晶材料を含むとともに、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分または左回り円偏光成分を選択反射するものであり、
外部から前記透明電極に印加する電圧により前記2つの入射光の透過率を変化させることを特徴とする光変調素子。
この構成により、液晶層は、2つの入射光の右回り円偏光成分または左回り円偏光成分を選択反射し、偏光選択手段は、所定の偏光方向の直線偏光のみを透過するため、選択反射の反射率を変化させることより、2つの入射光の透過率を変化させることができる。
【0014】
なお、上記5〜8の光変調素子としては、上記1〜4のいずれかに記載の光学素子用液晶材料を含むことが最も好ましい態様であるが、少なくとも液晶層がブルー相を呈するものであれば、必ずしも上記1〜4のいずれかに記載の光学素子用液晶材料を含まなくとも、光変調素子として機能させ得る。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光学素子用液晶材料によれば、ブルー相の状態にある液晶で構成された光学素子の駆動電圧を低減できる。また、大きな位相差を得ることができ、繰り返し使用も可能になる。さらに、光の利用効率も改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明における第1の光変調素子の概略断面図。
【図2】本発明における第1の光変調素子によって得られる反射スペクトルの一例を示す図。
【図3】本発明における第2の光変調素子の概略断面図。
【図4】本発明における第2の光変調素子に適用できる液晶材料を用いた、光変調素子の別の例の概略断面図。
【図5】本発明における第2の光変調素子に適用できる液晶材料を用いた、光変調素子の別の例の概略断面図。
【符号の説明】
【0017】
1、2 基板
3、22 シール
4 ブルー相液晶
5 配向膜
6、7 電極
8 電源
10、11、12 ドメイン領域
21 液晶層
21a 第1の液晶層
21b 第2の液晶層
23、24、31、32 透明電極
25、26、33 透明基板
27 外部信号印加手段
28 偏光選択手段
100 光変調素子
200 光変調素子
210 液晶セル
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本明細書においては、式(1)で表される化合物を化合物(1)とも記す。また、式(Q)で表される基を基(Q)とも記す。他の化合物および基についても同様に記す。また、誘電率異方性をΔε、屈折率異方性をΔnと略記する。光源からの発振波長は、一点の値で記載されている場合でも、記載値±10nmの範囲を含むこととする。
【0019】
本発明における液晶組成物とは、液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む組成物である。
【0020】
また、本発明における液晶性化合物とカイラル剤との組み合せとは、液晶性化合物およびカイラル剤のみからなる組み合せである。本発明においては、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せを広義のコレステリック液晶として扱い、該組み合せが示す液晶相をコレステリック液晶相と記す。なお、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せの物性(ΔεやΔn)は、液晶性化合物とカイラル剤のみの混合物を調製した場合のその混合物の物性をいう。なお、液晶性化合物とカイラル剤との組み合せを、以下単に「液晶」ともいう。
【0021】
本発明において用いることのできる液晶性化合物としては、ネマチック性液晶性化合物、スメクチック性液晶性化合物、ディスコチック性液晶性化合物等が挙げられ、ネマチック性液晶性化合物が好ましい。液晶性化合物は1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合は、混合した後にネマチック液晶相を示すことが好ましい。
【0022】
本発明におけるカイラル剤としては液晶性化合物であっても非液晶性化合物であってもよい。カイラル剤の構造中に存在する不斉炭素原子の立体配置はRまたはSのいずれであってもよい。カイラル剤は1種のみを用いてもよく、2種以上を用いてもよい。カイラル剤を2種以上用いる場合は、誘起されるらせん方向が同一であるカイラル剤を組み合せて使用することが好ましい。さらに、カイラル剤は液晶性化合物と類似構造を有することが好ましい。これにより、液晶性化合物とカイラル剤との相溶性を改善でき、液晶/高分子複合体とした後にカイラル剤が析出する現象を防止でき、ブルー相をより安定化できる。
【0023】
液晶性化合物とカイラル剤との組み合せとしては、コレステリック液晶相を示す組み合せであることが好ましい。
液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を安定に発現するためには、コレステリック液晶相におけるらせんピッチが500nm以下であることが好ましい。らせんピッチが500nm超であると、ブルー相が発現しないか、または発現しても不安定となる。なお、ブルー相が発現することは、偏光顕微鏡による観察および反射スペクトルの測定により確認できる。すなわち、ブルー相が発現していると、ブルー相に特徴的なplatelets(小板状組織)が偏光顕微鏡によって観察される。また、反射スペクトルを測定すると、plateletsに対応する波長近傍にピークが認められる。
本発明において、液晶のΔεは30以上であり、30〜80が好ましく、30〜70が特に好ましい。
【0024】
コレステリック液晶相において、液晶の配列をプラナー状態からホメオトロピック状態へ変化させるために必要な駆動電圧(V)と液晶のΔεとの関係は下式(A)で表される(ただし、pはらせんピッチ、Kはねじれ弾性定数、εoは真空の誘電率である。
)。
【0025】
【数1】

【0026】
ブルー相にある液晶をホメオトロピック状態へ転移させるために必要な駆動電圧とΔεとの関係も、おおよそ式(A)に示した関係が保たれると考えられる。
駆動電圧はΔεの平方根に反比例するため、ブルー相を示す液晶のΔεが大きい場合は、低電圧で駆動できる。また、液晶性化合物やカイラル剤の種類によっては、K値が様々な値をとりうるが、液晶のΔεが30以上であると、仮にK値が大きくなった場合でも10V/μm程度の電場を生じる低電圧でブルー相をホメオトロピック状態へ転移させることができる。
【0027】
一方、通常のPDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)において、プラナー状態とホメオトロピック状態との間で発現する屈折率差Δn’は下式(B)によって求まることが知られており、本発明の液晶/高分子複合体において、該複合体中の液晶がブルー相とホメオトロピック状態との間で発現する屈折率差も、おおよそ式(B)に示した関係が成り立つと考えられる。
Δn=(n‖+2n⊥)/3−n⊥=Δn/3・・・(B)
(ただし、n‖は分子軸(長軸)方向の屈折率を表し、n⊥は分子軸に垂直方向の屈折率を表す。)
【0028】
また、光学素子の位相差は、屈折率差Δn’とセルギャップdとの積で表されることから、Δnが大きいと光学素子の厚さを薄くできる。一般にセルギャップは10μm以下とすることが求められており、使用する光の波長を考慮すると、液晶のΔnは0.13以上であり、0.15〜0.4が好ましく、0.15〜0.25が特に好ましく、0.15〜0.2がとりわけ好ましい。
【0029】
このようなΔε、Δnの値を有する液晶としては、下式(a1)〜(a4)で表される構造を有する液晶性化合物およびカイラル剤を含むことが好ましい。なお、Qの左方の結合手には炭素数8以下の、アルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、またはアリール基で置換された炭素数8以下のアルキル基が結合していることが好ましい。
−Q−T・・・(a1)
−Q−COO−T・・・(a2)
−Q−C≡C−T・・・(a3)
−Q−CHCH−T・・・(a4)
ただし、式中のQは下記基(Q1)〜(Q8)から選ばれるいずれかの基(式中のL〜Lはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子である。)であり、Tは下記基(T1)〜(T4)から選ばれるいずれかの基である。
【0030】
【化2】

【0031】
液晶性化合物としては、前記式(a1)〜(a4)で表される構造を有することが好ましく、Δε値が大きく、他の化合物との相溶性が良好な点から、前記式(a2)で表される構造を有することが特に好ましい。液晶性化合物における基(T)としては、Δε値を大きくできる点から前記基(T3)または前記基(T4)が好ましい。このうち、液晶性が良好であり、他の化合物との相溶性が良好である点も考慮すると、前記基(T3)が特に好ましい。基(Q)としては、前記基(Q2)〜(Q7)が好ましく、前記基(Q2)〜(Q5)、(Q7)が特に好ましい。基(Q5)としてはL〜Lの全てが水素原子である場合の基が好ましく、基(Q7)としてはLおよびLが水素原子である場合の基が好ましい。また、液晶材料の液晶性を示す温度範囲を広くするためには、基(Q)部分が、単環構造(基(Q2)等)である液晶性化合物と多環構造(基(Q7)等)である液晶性化合物とを併用することが好ましい。
【0032】
カイラル剤としては、前記式(a1)〜(a3)で表される構造を有することが好ましく、Δε値が大きく、他の化合物との相溶性が良好な点から、前記式(a2)で表される構造を有することが特に好ましい。カイラル剤における基(T)としては、Δε値を大きくできる点から前記基(T3)または前記基(T4)が好ましく、前記基(T4)が特に好ましい。また、基(Q)としては、前記基(Q2)が好ましい。カイラル剤における基(Q)中の1,4−フェニレン基に置換するフッ素原子の数が多すぎると、液晶の配向を乱す原因となりうるため、フッ素原子の置換数は液晶組成物を構成する他の成分に合わせて適宜調整することが好ましい。
【0033】
液晶性化合物としては、下式(a1−1)、下式(a2−1)、または下式(a2−5)で表される構造を有することが好ましい。
【0034】
【化3】

【0035】
カイラル剤としては、下式(a1−2)または下式(a2−2)で表される構造を有することが好ましい。
【0036】
【化4】

【0037】
本発明はまた、液晶性化合物が下記化合物(1)であり、かつ、カイラル剤が下記式(2)で表される化合物であることを特徴とするブルー相を有する液晶/高分子複合体からなる光学素子用液晶材料を提供する。
【0038】
【化5】

【0039】
式(1)の化合物において、Rは炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、または炭素数1〜8のアルコキシ基である。
炭素数1〜8のアルキル基としては、炭素数3〜6の直鎖アルキル基が好ましい。
炭素数2〜8のアルケニル基としては、炭素数2〜6の直鎖アルケニル基が好ましい。
なかでも、弾性定数比(K33/K11)が大きいことから、炭素数が偶数である場合はアルケニル鎖末端の炭素原子から環基へ向けて二重結合を有する基が好ましく、炭素数が奇数である場合は、アルケニル鎖末端から2番目の炭素原子から環基へ向けて二重結合を有する基が好ましく、CH−CH=CH−CH−CH−、CH=CH−CH−CH−、またはCH−CH=CH−が特に好ましい。
炭素数1〜8のアルコキシ基としては、炭素数2〜6の直鎖アルコキシ基が好ましく、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、またはn−ペンチルオキシ基が特に好ましい。
【0040】
としては、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、またはCH−CH=CH−CH−CH−が好ましい。
は1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基である。これらの基は、非置換の基であってもよく、該基中の炭素原子に結合する水素原子がフッ素原子に置換されていてもよく、非置換の基であることが好ましい。Aとしては、非置換のトランス−1,4−シクロヘキシレン基が好ましい。
は、−COO−、−OCO−、単結合、−CHCH−、または−C≡C−であり、単結合が好ましい。Yは−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−であり、−COO−または単結合が好ましい。
1、X、X、およびXは、それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。X〜Xとしては、Xがフッ素原子であり、かつX、X、およびXの全てが水素原子であることが好ましい。
nは0または1である。
【0041】
また、化合物(2)において、Rは不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキル基、アリール基で置換された不斉炭素原子を有する炭素数2〜8のアルキル基、または不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルコキシ基である。
【0042】
不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキル基としては、分岐構造の炭素数4〜6のアルキル基が好ましく、下記基(W1)が特に好ましい。なお、以下において式中の「*」の記号が付与された炭素原子は、不斉炭素原子であることを意味する。
【0043】
【化6】

【0044】
がアリール基で置換された不斉炭素原子を有する炭素数2〜8のアルキル基である場合の「炭素数2〜8」とは、アルキル基部分の炭素数が2〜8であることを意味する。また、アルキル基部分は直鎖構造であることが好ましく、n−プロピル基が特に好ましい。アリール基としては、フェニル基、またはm−トリル基が好ましい。置換するアリール基の数としては1個が好ましい。アリール基で置換された不斉炭素原子を有する炭素数2〜8のアルキル基としては、下式(W2)で表される基が好ましい。
【0045】
【化7】

【0046】
不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルコキシ基としては、炭素数4〜6の分岐アルコキシ基が好ましく、下記基(W3)が特に好ましい。
【0047】
【化8】

【0048】
としては、前記式(W1)で表される基、または前記式(W2)で表される基が好ましい。
としてはAと同様の基であり、非置換の1,4−フェニレン基が好ましい。YとしてはYと同様の基であり、単結合が好ましい。YとしてはYと同様の基であり、−COO−、または単結合が好ましい。
、X、X、およびXはそれぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。X〜Xとしては、XおよびXが水素原子であり、かつ、XおよびXがフッ素原子であることが好ましい。
mは0または1である。
【0049】
化合物(1)としては、下記化合物が好ましく、下記化合物(1A)、下記化合物(1B−2)〜(1B−4)、下記化合物(1C−2)〜(1C−4)が特に好ましい。
【0050】
【化9】

【0051】
化合物(2)としては、下記化合物(1K)〜(1N)が好ましい。化合物(2)は2種以上を併用することが好ましく、たとえば、化合物(1K)と化合物(1L)とを、または化合物(1K)と化合物(1M)とを併用する例が挙げられる。
【0052】
【化10】

【0053】
一般に液晶の粘度が高いと、応答速度が遅くなることが知られている。本発明における化合物(1)および化合物(2)は、下記基(T3)または下記基(T4)を有することにより粘度が低く、応答速度を速くできる。また、下記基(T1)を有する化合物は、液晶組成物中の含有量が小さい場合には駆動電圧の低減に有効であるが、含有量が大きくなると該化合物が双極子モーメントを打ち消しあうような二量体を形成するため、駆動電圧の低減効果が小さくなる傾向がある。しかし、式(1)の化合物および式(2)の化合物は、フッ素原子を含有する基(T3)または基(T4)を有することから、該二量体を形成しにくく、含有量を大きくしてもΔεが飽和しにくいため、駆動電圧の低減に有効である。
【0054】
【化11】

【0055】
本発明の液晶組成物に含まれる化合物(1)等の液晶性化合物の割合は、液晶組成物に対して50〜75質量%であることが好ましい。式(2)の化合物等のカイラル剤の割合は、液晶組成物に対して17〜45質量%であることが好ましい。
【0056】
また、化合物(1)等の液晶性化合物と化合物(2)等のカイラル剤の組み合せにおける液晶性化合物の割合は、両者の合計に対して20〜80モル%であることが好ましい。カイラル剤の割合は、両者の合計に対して20〜80モル%であることが好ましい。また、両者の合計量は、液晶性化合物と、カイラル剤と、後述する単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとの合計量に対して85〜96モル%であることが好ましい。また、液晶性化合物とカイラル剤との総量は、液晶組成物に対して85〜95質量%であることが好ましく、92〜95質量%であることが特に好ましい。
【0057】
本発明の液晶組成物は、前記液晶性化合物、前記カイラル剤以外に、単官能性重合性モノマーおよび後述する多官能性重合性モノマーを含む。単官能性重合性モノマーを多官能性重合性モノマーとともに液晶組成物中に含ませて重合反応を行うことにより、液晶がブルー相を示す温度範囲を改善できる。
【0058】
本発明における単官能性重合性モノマーとは、1個の重合性官能基を有する非液晶性または液晶性の化合物である。重合性官能基としては、アクリロイル基またはメタクリロイル基が好ましい。単官能性重合性モノマーとしては、アクリル酸エステル類またはメタクリル酸エステル類が好ましく、アクリル酸アルキルエステル類が特に好ましい。さらに、使用する光の透過率を改善する効果を大きくしたい場合は、単官能性重合性モノマーとして下式(3)で表される化合物を使用することが好ましい。
CH=CH−COOR・・・(3)
式(3)中のRは炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよい炭素数10〜30の直鎖アルキル基であり、炭素数12〜24の該基であることが好ましい。該基の炭素数が10〜30の範囲にあることにより、ブルー相の安定化のための液晶とのより適切な相溶性を実現できる。該基の炭素数が30より多いと、液晶との相溶性が不充分であり、光学素子とした場合に光の透過率の低下を招くおそれがある。
【0059】
また、光学素子の作製の際、液晶組成物をセルに注入する工程は、液晶組成物に対する酸素や水分等の悪影響を避けるため減圧注入によって実施されることが好ましい。この場合は、減圧注入時に液晶組成物が揮発しないことが必要となる。化合物(3)は炭素数が10以上であるため、減圧注入時に揮発せず、ブルー相の安定化効果が損なわれない利点もある。
【0060】
Rはエーテル性酸素原子を有していてもよく、この場合、該酸素原子の数は1〜4個が好ましい。また、エーテル性酸素原子とエーテル性酸素原子との間に存在する炭素原子の数は1〜5個が好ましく、2個または4個が特に好ましい。Rとしてはエーテル性酸素原子を有さないことが特に好ましい。
【0061】
化合物(3)としては、下記化合物(3A)が好ましい。
CH=CH−COO−[(CHCHO)・(CHCHCHCHO)−(CH−H・・・(3A)
p、q、r、およびsは、それぞれ下記の意味を示し、かつ[((2p+4q)×r)+s]の値が10〜30の整数となる。
pは−(CHCHO)−単位の数を示し、0〜15の整数であり、0〜5の整数が好ましい。qは−(CHCHCHCHO)−単位の数を示し、0〜7の整数であり、0〜5の整数が好ましい。rは−[(CHCHO)・(CHCHCHCHO)]−単位の数を示し、0または1であり、0が好ましい。sは−(CH)−単位の数を示し、0〜30の整数である。rが0である場合のsは12〜24の整数が好ましく、12〜20の整数が特に好ましい。rが1である場合のp、q、およびsの値は、[((2p+4q)×r)+s]の値が10〜30の整数となる範囲において、適宜変更されうる。
なお、p、q、r、およびsがそれぞれ0である場合は、対応する単位が存在しないことを意味する。
【0062】
また、式(3A)における「−(CHCHO)・(CHCHCHCHO)−」部分の表記は、−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1単位以上存在する場合、2つの単位の並び方が限定されないことを意味する。すなわち、−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1つずつ存在する場合には、CH=CH−COO−に結合する単位は、−(CHCHO)−単位であっても−(CHCHCHCHO)−単位であってもよい。−(CHCHO)−単位および−(CHCHCHCHO)−単位がそれぞれ1単位以上存在し、かつ、少なくとも一方の単位が2単位以上存在する場合には、2つの単位の並び方はブロック状であってもランダム状であってもよく、ブロック状であることが好ましい。
【0063】
化合物(3A)としては、下記化合物(3Aa)〜(3Ap)等が挙げられ、液晶との相溶性の観点から、下記化合物(3Aa)〜(3Ae)、下記化合物(3Ah)〜(3Aj)、および下記化合物(3Am)が好ましい。
CH=CH−COO−(CH12H (3Aa)、
CH=CH−COO−(CH13H (3Ab)、
CH=CH−COO−(CH16H (3Ac)、
CH=CH−COO−(CH18H (3Ad)、
CH=CH−COO−(CH22H (3Ae)、
CH=CH−COO−(CHCHO)H (3Af)、
CH=CH−COO−(CHCHO)10H (3Ag)、
CH=CH−COO−(CHCHO)CH (3Ah)、
CH=CH−COO−(CHCHO)CH (3Ai)、
CH=CH−COO−(CHCHO)12CH (3Aj)、
CH=CH−COO−(CHCHCHCHO)H (3Ak)、
CH=CH−COO−(CHCHCHCHO)CH (3Am)、
CH=CH−COO−(CHCHO)−(CH12H (3An)、
CH=CH−COO−(CHCHO)・(CHCHCHCHO)H (3Ap)。
【0064】
液晶組成物中に含まれる化合物(3)等の単官能性重合性モノマーの割合は、ブルー相の安定化効果に優れることから、液晶組成物に対して1〜4質量%が好ましく、1.5〜3.5質量%が特に好ましく、2〜3質量%がとりわけ好ましい。化合物(3)の量が液晶組成物に対して1質量%よりも少ないと、後述する重合反応を行って液晶/高分子複合体とした場合にブルー相の安定化効果が乏しく、4質量%よりも多いとブルー相が発現しないか、または発現したとしても重合時に三次元周期構造の規則性が乱れ、散乱等の現象が起きるおそれがある。
【0065】
本発明における多官能性重合性モノマーとは、化合物(3)等の単官能性重合性モノマーの分子間を結合して網目状構造を形成し得る化合物であり、2個以上、好ましくは2個の重合性官能基を有する化合物である。重合性官能基としては、前記単官能性重合性モノマーにおける重合性官能基と同様の基が例示できる。
【0066】
多官能性重合性モノマーとしては、ジアクリレート、ジメタクリレート等が挙げられ、単官能性重合性モノマーの構造、液晶/高分子複合体に要求される強度、特性等に応じ選択することが好ましい。また、両者における重合性官能基は同一であることが好ましい。
【0067】
多官能性重合性モノマーは液晶性化合物または非液晶性化合物のいずれであってもよく、液晶との相溶性が良好である必要があることから、メソゲン構造を有することが好ましい。多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号:RM−257)等のジアクリレートが好ましい。
【0068】
液晶/高分子複合体においてブルー相の発現温度幅を広くするためには、化合物(3)等の単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとが重合した高分子部分の架橋密度が重要である。架橋密度が小さいと、ブルー相が発現しないか、または、ブルー相が発現しても発現温度幅が狭くなる。よって、適切な量の単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとを用い、連続性の高い網目構造が形成されるようにすることが必要である。そのため、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの合計量は、液晶性化合物、カイラル剤、単官能性および多官能性重合性モノマーとの合計量に対して4〜15モル%であることが好ましい。また、単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの合計量は液晶組成物に対して5〜8質量%であることが好ましい。
【0069】
単官能性重合性モノマーと多官能性重合性モノマーとの混合比は、各々の構造や、液晶性化合物、カイラル剤の構造等によって適宜調整されうるが、単官能性重合性モノマー/多官能性重合性モノマー(質量比)で、1/1〜1/4であることが好ましい。
【0070】
本発明における液晶組成物のブルー相の発現温度幅は、3〜7℃であることが好ましい。液晶組成物のブルー相の発現温度幅が3〜7℃であれば、後述する重合反応の際、重合反応の開始時から終了時までの間、ブルー相を安定に保持でき高分子/液晶複合体の構造変化を抑制できる。
【0071】
特に、単官能性重合性モノマーとして、化合物(3)を用いる場合は、液晶の透明点(T)と液晶組成物の透明点(T)との差(ΔT)が4℃以上であり10℃以下であり、かつ、液晶組成物がブルー相を示す温度範囲(ΔBP)が3℃以上であり6℃以下であることが好ましい。なお、液晶の透明点(Tc)とは、液晶のブルー相−等方相転移点を意味し、液晶組成物の透明点(T)とは液晶組成物のブルー相−等方相転移点を意味する。
【0072】
ΔTおよびΔBPの値が前記範囲にあることにより、液晶と化合物(3)との適切な相溶性が得られ、ブルー相の安定化に効果がある。ΔTが4℃より狭い場合は、ブルー相の安定化に必要な量の化合物(3)が欠陥部分に行き渡らない状態になっていると考えられ、ΔTが10℃より大きい場合は、化合物(3)と液晶との相溶性が低下していると考えられ、いずれの場合でもブルー相の安定化効果が低減する。ΔBPが3℃より狭い場合は、重合反応を行ってもブルー相を安定化できないおそれがあり、ΔBPが6℃より広い場合は、化合物(3)が欠陥部分に集中的に存在する状態であると考えられ、欠陥部分に存在する化合物(3)と液晶との界面散乱がおこり透過率の低下を招くおそれがある。
【0073】
また、液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体とした際の、該複合体中の液晶のブルー相が消失する上限温度は、液晶組成物のTとほぼ同じであるため、液晶組成物のTを、光学素子として使用する温度よりも5℃以上高くすることが好ましく、10℃以上高くすることが特に好ましい。また、ブルー相が消失する下限温度の目安は(T−60)℃であり、この温度が光学素子の使用下限温度よりも10℃以上低くなるように液晶組成物のTcを設定することが好ましい。さらに、液晶組成物を低温条件下で保存する場合、結晶の析出が起こると、光学素子とした場合に素子の特性が劣化するおそれがあるので、低温時の保存安定性に優れていることが好ましい。
【0074】
本発明においては、前記液晶組成物を重合させて液晶/高分子複合体を得る。重合反応は、前記液晶組成物をセルに注入し、前記液晶組成物中に含まれる液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を保持した状態において行うことが好ましい。このことによって、液晶/高分子複合体中の液晶がブルー相を有することができる。なお、本発明において「ブルー相を有する」とは、液晶/高分子複合体中の液晶性化合物とカイラル剤との組み合せが、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲で、好ましくは−10℃〜液晶組成物のTcをカバーする温度範囲でブルー相を安定に発現することを意味する。
【0075】
重合反応としては、光重合反応が好ましく、紫外線による光重合反応が特に好ましい。
熱重合反応を採用した場合、ブルー相が保持される温度と重合温度(加熱温度)とが必ずしも一致しないため、ブルー相を保持した状態で重合反応を行うことが困難になるおそれがある。また、加熱によって液晶/高分子複合体の構造が変化するおそれもある。
【0076】
光重合反応においては光重合開始剤を使用することが好ましい。光重合開始剤としては、アセトフェノン類、ベンゾフェノン類、ベンゾイン類、ベンジル類、ミヒラーケトン類、ベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール類、およびチオキサントン類等から適宜選択して用いることができる。光重合開始剤の量は液晶組成物に対して0.01〜1質量%が好ましく、0.05〜0.5質量%が特に好ましい。
【0077】
本発明の光学素子用液晶材料は、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現する。実用に適した温度領域において安定にブルー相を発現することから、光学素子用に有用である。この材料は選択反射波長の変化や結晶の析出がないことから、ブルー相を長期に渡り安定に保持できる。
【0078】
また、液晶材料を光学素子に応用する場合、使用する波長領域の光の透過率が良好であり、かつ繰り返し使用が可能である必要がある。具体的には、使用波長の光の透過率が80%以上、好ましくは90%以上であり、かつ、駆動後の透過率が初期透過率の80%以上、好ましくは90%以上であることが好ましい。本発明の光学素子用液晶材料は、実用に適した温度領域において安定にブルー相を発現し、波長400〜420nmのレーザ光の透過率が80%以上であり、かつ、駆動後の該レーザー光の透過率が初期透過率の80%以上と高いことから、該波長のレーザ光に使用する光学素子に有用である。光学素子としては、光変調素子、回折素子、位相板、液晶レンズ等が挙げられる。
【0079】
以下、本発明の光学素子用液晶材料を光変調素子に用いる場合の形態について、例を挙げて説明する。
図1は、本発明の光学素子用液晶材料を用いた光変調素子の第1形態(以下、第1の光変調素子という)の概念的な構成を示す断面図である。第1の光変調素子は、光の入射位置に応じて異なる波長の光を選択的反射する光波長フィルタである。
【0080】
図1において、光変調素子100は、シール3によりセル化された一対の基板1、2、および、セル中に充填された本発明の光学素子用液晶材料4からなる。基板1、2の表面には液晶材料4を配向させるための配向膜5、および、液晶材料4に電圧を印加するための電極6、7が形成されており、電極6、7は外部の電源8と接続され電圧が印加される。基板1、2は少なくとも一方が透明な材料であり、ポリカーボネート等の有機材料やガラスでよいが、ガラスの方が耐熱性、耐久性等の面で優れており好ましく、特に無アルカリガラスが好ましい。
【0081】
シール3はエポキシ樹脂等の熱硬化型樹脂や、紫外線硬化型樹脂等を用いることができ、所望のセル間隔(例えば10μm程度)を得るためにガラスファイバ等のスペーサを数質量%(例えば5質量%程度)混入させてもよい。電極6、7は、ITO(Indium−Tin−Oxide)、酸化錫、酸化亜鉛等からなる透明導電膜、または、金、銀、アルミニウム、クロム等を成分とする金属導電膜等でよく、スパッタ法や蒸着法で形成される。金属導電膜を用いる場合には、透過率を増したり各種耐久性や取り扱い性を向上させたりするために酸化亜鉛、酸化錫、酸化チタンなどの透明酸化膜で挟んで反射を防止することが好ましい。電極は、エッチング等により複数の領域に分割されたものでも、高抵抗膜と低抵抗膜の複合電極であってもよい。配向膜5は、ポリイミドからなる膜にラビング処理を施したものでも、酸化珪素膜等を蒸着等によって形成したものでもよく、配向膜5近傍の液晶分子を水平または垂直方向に配向するために設けられる。
【0082】
図1の例においては、外部の電源8からの電圧印加により光変調素子100の光学的特性を変化させるため、電極6、7を形成したが、光学的特性を変化させる必要がなければ電極6、7は形成しなくてもよい。また、配向膜5は、必要に応じて基板1、2のいずれか一方のみに形成してもよいし、いずれの基板にも形成しなくともよい。
【0083】
本発明の光学素子用液晶材料を用いた光学素子の選択反射は、ブルー相の規則的な格子によるブラッグ回折によって生じ、選択反射波長はブルー相の格子定数と面指数、および選択反射面と入射光とのなす角度によって決まる。したがって選択反射波長は、液晶組成物中のカイラル剤の含有量、選択反射面、選択反射面が光の入射面に対してなす角度、および入射面への光の入射角度を選択、調整することによって任意に設計、調整することができる。以下、ブルー相の格子面の方向というときは該面の法線方向を指すものとする。すなわちブルー相の(110)面が基板面に対して垂直に配向している、とは、ブルー相の(110)面の法線方向が、基板面の法線方向に揃っている状態をいうものとする。
【0084】
選択反射面としてはブルー相Iでは(110)面、(200)面の他に(211)面などが好ましく用いられ、ブルー相IIでは(100)面、(110)面、(210)面などが好ましく用いられる。
【0085】
液晶組成物の調製に使用されるカイラル剤の量は、光学素子における選択反射波長が、所望の波長になるよう調整される。このとき、ねじり力が正の温度依存性をもつカイラル剤と負の温度依存性をもつカイラル剤とを混合して液晶組成物中に添加すると、ねじり力の温度特性が小さくなり、選択反射波長の温度による変化を抑えることができるので好ましい。
【0086】
本発明の光学素子用液晶材料を用い、かつ所定の選択反射波長を有する液晶層は、例えば以下のようにして形成される。まず、前述した液晶組成物をセルに充填し、液晶組成物の透明点より高い温度、例えば透明点が約50℃の液晶組成物に対して70℃まで加熱して、液晶組成物をいったん等方相とする。その後、液晶層を挟む電極間に10〜20V程度の交流電圧を印加しつつ、液晶組成物がブルー相Iを呈する温度まで徐冷し、温調器を用いてその温度に保持して、液晶全体をブルー相Iの(110)面が基板に対して垂直に配向するモノドメインとする。ブルー相の状態を維持しつつ、例えば0.1〜1.5mW/cm以下の照射強度の紫外光(波長365nm)を照射して重合性モノマーを光重合させて、液晶/高分子複合体を形成する(以下、このようにして形成された液晶層を高分子安定化ブルー相液晶層ともいう)。光重合操作中は、ブルー相が維持されるように温度を微調整することが好ましい。また、光重合のための紫外光は、間歇的に照射してもよい。
【0087】
光重合前の液晶組成物に電圧を印加するのは、ブルー相の(110)面を基板に対して垂直に配向させるためである。印加する交流電圧は0.5〜10kHzの矩形波が好ましく用いられるが、これに限定されず正弦波を用いてもよい。適正な印加電圧値の幅はセルギャップの大きさと用いる液晶組成物の物性値とで決まるので一概には言えないが、例えば本発明においては、20Vより高い印加電圧は、ブルー相が崩れて選択反射を示さなくなったり、光散乱する相が出現したり等するため好ましくない場合がある。
【0088】
ここで基板上の配向膜は、水平配向膜をいずれの基板にも設け、さらにそれぞれの基板での配向処理方向を同一として液晶分子のプレチルト角が非平行状態となっているアンチパラレル配向とすると、モノドメインの高分子安定化ブルー相液晶層を形成し易くなるので好ましい。
【0089】
第1の光変調素子100は、ブラッグ回折面の面方位が基板1上の光の入射位置に応じて異なるように構成されている。図1には、面方位の異なる3つのドメイン領域10〜12が1つの光変調素子100に形成されている例が示されている。ドメイン領域10〜12に示す格子線は、ブルー相の結晶方位を模式的に示すものであり、太線は本実施の形態で注目するブラッグ回折面を示している。
【0090】
以下では、液晶材料4が示す相をブルー相Iとし、ドメイン領域10〜12内に太線で示したブラッグ回折面を(110)面とした場合を例にとって説明するが、液晶材料4が示す相をブルー相IIとし、ブラッグ回折面をブルー相IIの(200)面等としたのでもよい。体心立方構造の(110)面、若しくは、(200)面、または、単純立方構造の(100)面等の、指数の少ない面方位をブラッグ回折面とすれば、入射光を効率よく反射させやすくできる。図1のドメイン領域10では(110)面の面方位が基板の法線方向と平行であり、ドメイン領域11、12では、順に傾斜角度が大きくなる。
【0091】
(110)面方位を基板の法線方向から傾斜させるためには、電場や磁場等、液晶が応答する外場を基板法線方向に対して傾斜して印加する(以下、この外場を傾斜外場という)。ここで、配向膜の配向規制力を部分的に弱めたり、部分的に垂直配向力が働くようにしたりすることにより、さらに(110)面方位を傾斜し易くできる。このように、ドメイン領域11、12のみに、傾斜外場を印加して光重合することにより、図1に示すような(110)面方位が傾斜したドメイン領域11、12を形成できる。
【0092】
次に、第1の光変調素子100の光学的性質について説明する。第1の光変調素子は、波長λ、λ、λの光が多重化された光をドメイン領域毎に単一な波長に分離できる光波長フィルタである。
【0093】
ブラッグ回折波長λは、ブラッグ回折面への入射角θに応じて変化し、以下の式(4)で示す関係を有する。
d×sin(θ)=λ/2 (4)
ここで、dは、ブラッグ回折面の面間隔である。また、基板法線方向に対するブラッグ面の角度φと、光の入射角θとブラッグ入射角θとの間には、以下の式(5)で示す関係がある。
n×cos(θ−φ)=sin(θ) (5)
ここで、nは、液晶材料4の実効的な屈折率である。
【0094】
したがって、φが上記の式(4)および式(5)の関係を満たすように、ドメイン領域10〜12を形成することにより、所望のブラッグ波長λで回折させることができる。
【0095】
例えば、ドメイン領域10においてブラッグ回折する光の波長がλ=600nmになるように液晶材料4に含まれるカイラル剤の量を調整し、ドメイン領域11、12に印加される斜方電場の傾斜角度は、ドメイン領域11、12においてブラッグ回折する光の波長が、それぞれ、λ2=575nm、λ3=550nmになるように設定する。
【0096】
波長λ、λ2、λの光が波長多重された光を入射角10°で光変調素子100に入射させ、ドメイン領域10〜12からの反射光のスペクトルを測定すると図2に示すようになる。図2の符号A、B、Cで示す各スペクトルは、ドメイン領域10〜12からの各反射スペクトルに対応する。さらに、光変調素子の基板間隔が10μm程度であれば、電源8により液晶材料4に100V程度、1KHzの交流電圧を印加すると、液晶材料4はホメオトロピック配向となり、図2の符号A、B、Cで示す反射スペクトルは観測されなくなる。図1に示す構成の電極6、7を分割し、各ドメイン領域10〜12で異なる電圧を印加できるようにすることにより、印加電圧を切り替えて1つのドメイン領域のみでブラッグ回折波長の光を選択的に反射させたり、または透過させたりすることもできる。
【0097】
なお、図1に示した光変調素子100は3つのドメイン領域を有するように構成されているが、2つのドメイン領域を有するように構成されたものでも、4つ以上のドメイン領域を有するように構成されたものでもよい。
【0098】
図3は、本発明の光学素子用液晶材料を用いた光変調素子の第2形態(以下、第2の光変調素子という)の概念的な構成を示す断面図である。第2の光変調素子は、2つの相異なる波長の入射光の透過率を変化させる光減衰器である。
【0099】
図3において、光変調素子200は、シール22により外周部がシールされてセル化されている一対の透明基板25、26および、セル中に挟持されている液晶層21とからなる。透明基板25、26の表面には、液晶層21に外部信号を印加するための透明電極23、24が形成されている。基板の液晶が接する面上には配向膜(図示せず)を設けて、配向膜近傍の液晶分子を水平配向または垂直配向させることが好ましい。基板、電極、配向膜およびシールに関しては、第1の光変調素子と同様の構成をとることができる。
【0100】
第2の光変調素子における1つの例では、液晶層21は、本発明の光学素子用液晶材料を含む、第1の液晶層21aおよび第2の液晶層21bからなり、前記第1の液晶層21aは、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分を選択反射し、前記第2の液晶層21bは、前記2つの入射光の左回り円偏光成分を選択反射するものである。第1の液晶層と第2の液晶層は好ましくは積層される。このように構成することにより、2つの異なる波長の入射光で偏光方向に依存せず光減衰器として機能する光変調素子を実現することができる。
【0101】
また、別の例では図5に示すように、第1の液晶層21aと第2の液晶層21bとの間にガラスなどからなる第3の透明基板33を配設し、かかる第3の透明基板33の両面にITOなどの透明電極31,32を設け、第1の液晶層21a、第2の液晶層21bを挟む2組の電極間のそれぞれに外部信号電圧を印加すると、第3の透明基板33がない図3のような構成と比べて、低い電圧で素子を駆動できるようになる。図5において、図3と同一の部品は図3と同じ番号を付して示した。
【0102】
さらに別の例では、図4に示すように、光変調素子200の光出射面側に所定の偏光方向の直線偏光のみを透過する偏光選択手段28を配置し、液晶層21は、本発明の光学素子用液晶材料を含むとともに、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分または左回り円偏光成分を選択反射するものである。この様な構成により、2つの異なる波長の入射光の光減衰器として機能する光変調素子200を実現することができる。図4において、図3と同一の部品は図3と同一の番号を付して示した。
【0103】
偏光選択手段28としては色素を透明フィルム等に分散させた吸収を利用した偏光子、複屈折材料を用いて回折を利用した偏光子またはグラントムソンプリズム等の無機材料などからなる全反射を利用した偏光子等の、特定の方向の偏光のみを透過する偏光子を用いる。
【0104】
さらに、光変調素子の入射面および/または出射面には、界面反射による光のロスを抑えるために、前記2つの波長の反射を防止する反射防止膜を形成することが好ましい。
【実施例】
【0105】
以下に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されない。ただし、下記の表中の例1〜4、例6、例7は実施例であり、例5、例8〜12は比較例である。なお、表中ではブルー相をBPと、コレステリック相からブルー相への転移温度を「N−BP」と、ブルー相から等方相への転移温度を「BP−Iso」と、略記する。
【0106】
[A]液晶性化合物とカイラル剤との混合物の物性評価
以下に示す手順によって混合物のΔεおよびΔnの値を求めた。
<Δεの測定手順>
ネマチック液晶(Merck社製、商品番号:ZLI−1565)に混合物を1、2、4質量%添加した組成物を、ITO電極および配向膜付きのセル(セルギャップ4μm)に注入した。25℃において、周波数1kHzの交流電源を用いて電圧を印加し、LCRメーター(ヒューレットパッカード社製、商品番号:4262A)を用いて(ε‖)および(ε⊥)の値を測定し、それぞれの値から下式(C)によってΔεを算出し、外挿によりΔεを求めた(ただし、(ε‖)は分子軸(長軸)方向の誘電率を表し、(ε⊥)は分子軸に垂直方向の誘電率を表す。)。
【0107】
なお、(ε‖)値の測定時には、垂直配向処理を施したセルを用い、(ε⊥)値の測定には平行配向処理を施したセルを用いた。
(Δε)=(ε‖)−(ε⊥)・・・(C)
<Δnの測定手順>
ネマチック液晶(Merck社製、商品番号:「ZLI−1565」)に混合物を1、2、4質量%添加した組成物を楔型セルに注入した。2枚の直交偏光子(クロスニコル)を持つ偏光顕微鏡によって楔型セルを観察し、しまの間隔を観測してΔnを測定し、得られた値を外挿して混合物のΔnを求めた。
【0108】
[1]液晶組成物の調製
液晶性化合物、カイラル剤、単官能性重合性モノマー、および多官能性重合性モノマーを、表1〜表3に示す割合で混合し、例1〜12の液晶組成物を得た。液晶組成物を構成する各々の成分の割合は、液晶組成物全体に対する質量%で表す。なお、表1においては、モル%での値を併記する。
【0109】
液晶性化合物としては、下記化合物(1A)、下記化合物(1B−2)、下記化合物(1C−4)、フッ素系ネマチック混合液晶(チッソ社製、商品番号:JC−1041XX、特許文献1参照)、シアノビフェニル系ネマチック液晶(Aldrich社製、商品番号:5CB、特許文献1参照)を用いた。
【0110】
【化12】

【0111】
カイラル剤としては、下記化合物(1K)、下記化合物(1L)、下記化合物(1M)、下記化合物(1N)、ZLI−4572(Merck社製、特許文献1参照)を用いた。ただし、化合物(1K)、化合物(1L)、化合物(1N)中の不斉炭素原子の立体配置はRである。
【0112】
【化13】

【0113】
化合物(1)(単官能性重合性モノマー)としては、2−エチルヘキシルアクリレート(Aldrich社製、以下、2EHAと略記する。)、n−ラウリルアクリレート(Aldrich社製、以下、C12アクリレートと略記する。)、n−ステアリルアクリレート(Aldrich社製、以下、C18アクリレートと略記する。)、CH=CH−COO−(CHCHO)−(CH12H(日本油脂(株)社製、商品番号:ALE200)、を使用した。
【0114】
多官能性重合性モノマーとしては、液晶性ジアクリレート(Merck社製、商品番号:RM257)を使用した。
重合開始剤としては、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン(Aldrich社製、以下、DMPMPと略記する。)を使用した。
【0115】
表1〜3に例1〜12の液晶組成物の組成比、液晶性化合物とカイラル剤との混合物のΔεおよびΔnの値を併せて示す。表1には例1〜例5の液晶組成物のΔBP(液晶組成物がブルー相を示す温度範囲)の値も併せて示す。
【0116】
例1〜4、例6、例7の混合物は、Δεが30以上であり、Δnが0.13以上であった(ただし、例1〜4、例6、例7の混合物のΔε、Δnの値は、各々の構成成分が有するそれぞれの値から計算によって求めた値である。)。

【0117】
【表1】

【0118】
【表2】

【0119】
【表3】

【0120】
[2]高分子/液晶複合体の作製
[1]の液晶組成物1〜12を、電極および配向膜付き、セルギャップ10μmのサンドイッチ型セルに注入した。液晶組成物6、7、10、および11は、60℃、1hPaの条件において等方相の状態で減圧注入した。液晶組成物6、7、および10は減圧注入が可能であったが、液晶組成物11は減圧注入の際に単官能性重合性モノマーが揮発した。液晶組成物1〜5、8、9、および12については、大気圧で等方相の状態でセルに注入した。
【0121】
つぎに、液晶組成物を注入したセルをクロスニコル下の偏光顕微鏡で観察しながら、メタルハライドランプ(浜松ホトニクス社製、商品名:LIGHTNINGCURE LC6)を用いて照射強度1.5mW・cm−2の紫外線を1時間照射して光重合反応を行った。
【0122】
例1〜10、12の液晶組成物については、ブルー相が保持された状態であることを確認しながら光重合反応を行い、高分子/液晶複合体1〜10、12を得た。これらの高分子/液晶複合体を、該複合体中の液晶が等方相を示す温度から降温させながら偏光顕微鏡によって観察すると、ブルー相の発現に伴うplateletsが観察された。
【0123】
また、高分子/液晶複合体1〜10、12において、反射スペクトルを測定した。反射スペクトルの測定は、光源(キセノンランプおよびハロゲンランプ)と小型マルチチャンネル分光システム(オーシャンオプティクス社製、商品番号:HR−2000)とを備えた偏光顕微鏡を用いて行った。測定の結果、ブルー相の発現に起因する選択反射ピークが20℃(装置の測定温度下限)〜Tcの範囲で観測され、コレステリック相のピッチ長に対応するピークは観測されなかった。したがって、ブルー相の分子配列構造が安定化されたことが明らかとなった。
【0124】
例11の液晶組成物については、光重合反応を行ったものの、ブルー相を安定に保持することができなかった。
【0125】
表4に、例6〜例12の液晶組成物について、セル注入後におけるΔTc、ΔBP、および選択反射長を示し、表5および表6に、高分子/液晶複合体1〜10、12における液晶の相転移温度、ブルー相の発現温度範囲、および選択反射波長を示す。表5および表6に示すように、例1〜10、12の液晶組成物は、高分子/液晶複合体とすることにより、少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することが確認された。
【0126】
【表4】

【0127】
【表5】

【0128】
【表6】

【0129】
[3]高分子/液晶複合体の評価
[2]で得た高分子/液晶複合体1〜10、12について、25℃において、正弦波、周波数1kHzの交流電源を用いて電圧を印加し、ブルー相からホメオトロピック状態に転移するため必要な駆動電圧を測定した。また、半導体レーザーダイオード(日亜化学工業社製、商品番号:NDHV310APC)を用いてレーザ光(波長407nm)を照射し、電圧印加前後のレーザ光の透過率を測定した。検出にはSiフォトダイオード(浜松ホトニクス社製、商品番号:S2281)を用いた。
【0130】
測定結果を表7および8に示す。なお、透過率変化(%)は、印加前の透過率に対する割合である。
【0131】
【表7】

【0132】
【表8】

【0133】
表7および8に示した結果から、例1〜4、例6、例7の高分子/液晶複合体は、低電圧で駆動できることが明らかとなった。また、例1〜4の高分子/液晶複合体は、波長407nmのレーザ光に対する初期透過率が80%以上であり、電圧印加後の透過率が印加前の透過率に対して90%以上であることから、繰り返し使用に適していることが分かった。また、例4、例6〜10の高分子/液晶複合体は、波長407nmのレーザ光に対する初期透過率が90%以上であり、使用する光の透過率が高いことが分かった。また、これらの高分子/液晶複合体については、選択反射波長の変化および結晶析出は認められなかった。
以下、本発明の光学素子用液晶材料を好適に使用できる光変調素子の例を参考例として説明する。
【0134】
[参考例1]
図5に示す断面図を用いて、光変調素子200の製造方法を具体的に説明する。無アルカリガラスからなる透明基板25、26および33を用意し、透明基板25、26については一方の面にスパッタリング法によってITOからなる透明電極23、24を、他方の面にSiO層とTiO層の多層積層からなる515nmおよび430nmの入射光に対する反射防止コーティング(図示せず)を、それぞれ形成する。また、透明基板33についてはITOからなる透明電極31および32を両方の面にスパッタリング法により形成する。次いで透明電極23、24、31および32の表面にスピンコート法でポリイミド膜を形成した後、ポリイミド膜表面を布で1方向にラビングして水平配向膜(図示せず)を形成する。このとき、対向する面のラビング方向は、液晶分子の配向がアンチパラレル配向となるように処理をおこなう。
【0135】
透明基板25および26の電極形成面の周辺に直径10μmのガラスファイバスペーサを5質量%混入した熱硬化型接着材からなるシール22を印刷塗布し、透明基板33と重ね合せて圧着固化させ、ともにセル間隔が10μmの第1の液晶セルと第2の液晶セルとが2層積層されている構成の液晶セルを形成する。
【0136】
次いで、第1、第2の液晶セルに注入する液晶組成物を調製する。第1の液晶セルに注入する、右捩れを示す高分子安定化ブルー相液晶層を形成するための液晶組成物は、ネマチック液晶としてJC−1041XX(44.6質量%)と5CB(33.1質量%)、右捩れを示すカイラル剤としてZLI−4572(9.7質量%)、単官能性重合性モノマーとして2EHA(4.0質量%)、多官能性重合性モノマーとしてRM257(8.2質量%)、光重合開始剤(0.4質量%)をそれぞれ計量、混合して調製される。なお、各成分の配合割合は、ネマチック液晶、カイラル剤、単官能性重合性モノマー、多官能性重合性モノマー、および光重合開始剤の総量に対する各成分の割合である。
【0137】
第2の液晶セルに注入する、左捩れを示す高分子安定化ブルー相液晶層を形成するための液晶組成物は、第1の液晶セルに注入する液晶組成物における、カイラル剤ZLI−4572に代えて逆捩れの左捩れを示すカイラル剤を用いて同様に調製される。これら液晶組成物の等方相への転移温度(透明点)は約53℃であり、また、カイラル剤の添加量は、後述の操作により高分子安定化ブルー相が形成されると、(110)面および(101)面による垂直入射光に対する選択反射波長がそれぞれ570nm、290nmとなるように決められている。
【0138】
かかる液晶組成物は、シール22の一部に設けられた注入口(図示せず)から、液晶セルに充填し、注入口を接着材により封止する。次に、液晶セルを70℃まで昇温して液晶組成物をいったん等方相にしてから、透明電極23と31間および24と32間に10V、1kHzの矩形波の交流電圧を印加しつつブルー相Iが出現する温度まで徐冷し、温調器を用いてブルー相Iが出現する温度範囲に温度制御して、液晶全体が(110)面が基板に垂直配向する、モノドメイン化したブルー相になるように相変化させる。続いて電圧印加と温度制御により(110)面配向のブルー相を維持したまま、波長365nmで強度0.15mW/cmの紫外光を1時間、間欠照射して重合性モノマーを高分子化させ、(110)面配向の高分子安定化ブルー相液晶層を形成する。
【0139】
以上により、(110)面配向の高分子安定化ブルー相液晶層が2層積層された光変調素子が得られる。このとき、かかる高分子安定化ブルー相液晶層は、(110)面および(101)面に対する選択反射波長が、垂直入射光に対して570nmおよび290nm、入射角25°で斜入射した光に対して515nmおよび430nmであって、第1の液晶層21aは、かかる波長の右回り円偏光の光を、第2の液晶層21bはかかる波長の左回り円偏光の光をそれぞれ選択反射する。
【0140】
上述の工程で作製される参考例1の光変調素子に対して、0〜160V、1kHzの矩形波の交流電圧を電極に印加し、波長が515nmおよび430nmの直線偏光、右回り円偏光または左回り円偏光の光を、高分子安定化ブルー相液晶層へ入射角が25°で入射させて光変調素子の光学特性を測定する。表9に示すように、印加電圧が0Vのときは、いずれの波長および偏光状態に対しても、一部散乱または透過される以外の入射光はすべて反射される。印加電圧を増加させていくと、波長および偏光状態の違いによらず同様に反射率が減少して透過率が増加し、印加電圧160Vでは反射光は実質的に0%となり、一部散乱される以外すべての入射光は素子を透過する。
【0141】
したがって、参考例1の光変調素子は、高分子安定化ブルー相液晶層の(110)面に入射角25°で入射する515nmと430nmの入射光を、波長および偏光状態によらず、同様に透過率変調させるということができる。
参考例1の光変調素子の応答速度は1ms前後と、従来に比べておよそ1桁高速に応答する。
【0142】
【表9】

【0143】
[参考例2]
図4の断面図を用いて光変調素子200の製造方法を具体的に説明する。無アルカリガラスからなる透明基板25、26を用意し、一方の面にITOからなる透明電極23、24をスパッタリング法により形成し、透明基板26に対しては透明電極24形成面とは反対側の面にSiO層とTiO層の多層積層からなる515nmおよび430nmの入射光に対する反射防止コーティング(図示せず)を施す。次いで参考例1と同様の手順により、透明電極23、24の表面に、アンチパラレルの水平配向膜(図示せず)を形成し、シール22により透明基板25と26とを重ね合せて、セル間隔が10μmの液晶セル210を形成する。
【0144】
次に、参考例1の第1の液晶セルに注入する液晶組成物と同じ液晶組成物を調製し、参考例1と同様の操作により液晶セル内に注入、封止、モノドメイン化して、(110)面が基板面に垂直配向していて(110)面に入射角25°で入射する波長515nmと430nmの右回り円偏光を選択反射する高分子安定化ブルー相液晶層を形成する。
【0145】
さらに光の出射面側にSiO層とTiO層との多層積層からなる波長515nmおよび430nmの反射防止膜を有する、単一の偏光方向の直線偏光のみを透過する偏光子(偏光選択手段28)を、紫外線硬化型接着剤により接着、積層して、参考例2の光変調素子とする。
【0146】
かかる参考例2の光変調素子に対して、波長515nmおよび430nmの右回り偏光の入射光を、高分子安定化ブルー相液晶層へ入射角25°で斜入射させ、0〜160V、1kHzの矩形波の交流電圧を外部から電極に印加し、参考例2の光変調素子の特性を測定する。測定結果を、同じ波長の左回り偏光、偏光板の偏光軸と平行方向および直交方向の直線偏光の入射光に対する結果と合わせて表10と表11にまとめる。
【0147】
まず右回り偏光の入射光に対しては、印加電圧が0Vでは、515nmおよび430nmのいずれの波長の光も反射されて実質的に透過しない。印加電圧を増やしていくといずれの波長に対しても同様に反射率が減少して透過光量が増加し、印加電圧160Vでは反射光は実質的に0%となって高分子安定化ブルー相液晶層による散乱と偏光板による吸収以外の入射光は素子を透過する。したがって、参考例2の光変調素子は、515nmと430nmの右回り偏光の入射光を波長によらず透過率変調するということができる。また、左回り円偏光の前記波長の入射光に対しては、参考例2の光変調素子は、波長によらず透過率変調していない。また、表11に示すように、偏光板と平行方向、あるいは直交方向の直線偏光の前記波長の光に対しても、印加電圧により反射率を変化させて透過率変調させることができる。すなわち、電圧を印加しない場合は、入射した直線偏光のうち、透過率の高い円偏光成分が偏光板に入射するため、入射した直線偏光の偏光方向が偏光板の偏光軸方向と垂直であっても光変調素子を透過する。しかし、電圧を印加すると、入射した直線偏光がその偏光方向をそのまま維持して透過するため、入射した直線偏光の偏光方向が偏光板の偏光軸方向と垂直な場合は、光変調素子を透過しなくなる。なお、参考例2の光変調素子の応答速度は1ms前後であり、従来の光変調素子に対しておよそ1桁高速に応答する。
【0148】
【表10】

【0149】
【表11】

【0150】
なお理想的には、参考例1、および参考例2の素子に対して右回り偏光を入射させると、波長515nm、430nmのいずれの波長の光に対しても、印加電圧0Vでは反射率が100%で透過率が0%であって、印加電圧160Vでは反射率が0%で透過率が100%であるが、上述の表に示す特性値となるのは、高分子安定化ブルー相の結晶性や配向の不完全性のためと考えられる。また、参考例1、参考例2において、波長515nm、430nmのそれぞれの入射光に対する反射率および透過率の値が波長間で異なるのも同じ理由によるものと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0151】
本発明の光学素子用液晶材料は、素子に使用した際において、駆動電圧を小さくでき、位相差を大きくできる。また、光の透過率が良好であり、電圧印加前後の透過率の低下が小さいことから繰り返し使用に適している。また、ブルー相を安定に保持できる。よって、透過光、反射光の波面状態および/または偏光状態を制御する光学素子、反射波長を制御する光学素子等に有用に用いうる。
【0152】
本発明に係る光学素子用液晶材料を用いた光変調素子は、光波長フィルタとして用いると、波長フィルタとしての特性を外場なしに維持し、かつ外場によって制御できる。また、本発明に係る光学素子用液晶材料を用いた光変調素子は、光減衰器として用いると、入射光の2つの波長において入射波長依存性を示さず、さらに入射偏光依存性を示さないようにできるため、複数の波長の光を用いる光ピックアップや光通信システムにおいて光減衰器としての光変調素子として好ましく利用することができる。さらに、本発明に係る液晶光変調装置は、半導体レーザを用いた光学系において用いられ、光通信や光ヘッド装置に好適に用いることができる。

なお、本発明の明細書には、本出願の優先権主張の基礎となる日本特許出願2004−044741号(2004年2月20日出願)、日本特許出願2004−227050号(2004年8月3日出願)、日本特許出願2004−260080号(2004年9月7日出願)および日本特許出願2004−371369号(2004年12月22日出願)の各明細書の全内容をここに引用し、発明の開示として取り込むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、
前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せの誘電率異方性(Δε)が30以上で、屈折率異方性(Δn)が0.13以上であり、
該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
【請求項2】
液晶性化合物と、カイラル剤と、単官能性重合性モノマーと、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、
前記液晶性化合物として下式(1)で表される化合物を1種以上含み、
前記カイラル剤として下式(2)で表される化合物を1種以上含み、
該複合体中の前記液晶性化合物と前記カイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
【化1】

ただし、式中の記号は以下の意味を示す。
:炭素数1〜8のアルキル基、炭素数2〜8のアルケニル基、または炭素数1〜8のアルキコキシ基。
:不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキル基、アリール基で置換された不斉炭素原子を有する炭素数2〜8のアルキル基、または不斉炭素原子を有する炭素数4〜8のアルキコキシ基。
、A:それぞれ独立に、1,4−フェニレン基またはトランス−1,4−シクロヘキシレン基。これらの基中の炭素原子に結合する水素原子はフッ素原子に置換されていてもよい。
、Y:それぞれ独立に、−COO−、−OCO−、単結合、−CHCH−、または−C≡C−。
、Y:それぞれ独立に、−COO−、−OCO−、単結合、または−C≡C−。
1、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。
、X、X、X:それぞれ独立に水素原子またはフッ素原子であり、XおよびXの少なくとも1つはフッ素原子である。
n、m:それぞれ独立に、0または1。
【請求項3】
液晶性化合物と、カイラル剤と、下式(3)で表される化合物と、多官能性重合性モノマーとを含む液晶組成物を重合させて得られる液晶/高分子複合体であって、該複合体中の液晶性化合物とカイラル剤との組み合せがブルー相を有することを特徴とする光学素子用液晶材料。
CH=CH−COOR・・・(3)
ただし、式中のRは炭素−炭素結合間にエーテル性酸素原子が挿入されていてもよい炭素数10〜30の直鎖アルキル基を示す。
【請求項4】
少なくとも−10〜+30℃をカバーする温度範囲でブルー相を発現することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光学素子用液晶材料。
【請求項5】
少なくとも一方が透光性を有する一対の基板と、この一対の基板に挟持され、入射された光を選択的に反射する液晶層とを備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学素子用液晶材料を含み、
ブルー相が有するブラッグ回折面と基板法線とのなす角度が、基板面内の光の入射位置に応じて異なるようにしたことを特徴とする光変調素子。
【請求項6】
前記一対の基板上にそれぞれ設けられた電極を備え、前記電極を介して前記液晶層に電圧を印加し得るようにした請求項5記載の光変調素子。
【請求項7】
一対の基板と、前記一対の基板上にそれぞれ設けられた透明電極と、この一対の基板に挟持された液晶層と、を備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学素子用液晶材料を含む、第1の液晶層および第2の液晶層からなり、
前記第1の液晶層は、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分を選択反射し、前記第2の液晶層は、前記2つの入射光の左回り円偏光成分を選択反射するものであり、
外部から前記透明電極に印加する電圧により前記2つの入射光の透過率を変化させることを特徴とする光変調素子。
【請求項8】
一対の基板と、前記一対の基板上にそれぞれ設けられた透明電極と、この一対の基板に挟持された液晶層と、その光出射面側に配置された所定の偏光方向の直線偏光のみを透過する偏光選択手段と、を備えた光変調素子であって、
前記液晶層は、請求項1〜4のいずれか1項に記載の光学素子用液晶材料を含むとともに、相異なる波長を有する2つの入射光の右回り円偏光成分または左回り円偏光成分を選択反射するものであり、
外部から前記透明電極に印加する電圧により前記2つの入射光の透過率を変化させることを特徴とする光変調素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【国際公開番号】WO2005/080529
【国際公開日】平成17年9月1日(2005.9.1)
【発行日】平成19年10月25日(2007.10.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−510269(P2006−510269)
【国際出願番号】PCT/JP2005/002742
【国際出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】