説明

光学素子

光学素子は、光学素子に固定され、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する少なくとも1つの付加要素を備える。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、光学素子、取付部材、光学素子のための取付具、プロジェクションオブジェクティブ、及び、マイクロストラクチャーの製造方法に関する。
画像装置の光学素子に作用する減衰振動のためのシステムが、米国特許6,700,715 B1に説明されている。この場合、振動の発生は、光学素子に組み込まれたセンサにより検出される。振動または変形により起こる固有振動を相殺する振動が、アクチュエータとしての活性化された圧電物質により、可変制御ループの形で導入される。システムの複雑度が比較的高いことが、このようなシステムにおける不利な点である。
【0002】
EP 1 275 995 A2は、光学素子の位置を検出するための装置と共に、多数の光学素子を備えた光学システムを説明している。光学素子は、ばね及びダンパを介してベースプレートに取り付けられる測定ストラクチャー上に固定される。
【0003】
DE 100 41 993 C1は、振動、具体的には、自動車の振動を吸収するために用いられる傾向のある、ダンパ質量を有するダンパ、エストラマーばね、ベース、及び、締結ボルトを開示している。
【0004】
DE 84 17 760 U1は、自動車のユニット上に設けられうるものであり、振動の温度依存性のある減衰を確実にするためにワイヤ、繊維、または、細長い布からなる束を1つ以上備えるばねシステムとして存在する振動ダンパを説明している。
【0005】
このような振動ダンパは、自動車で生じるような非常に大きい振動振幅に対して、確かに適当である。しかしながら、これらのダンパは、単にそれらの大きさにより、光学素子に用いることはできない。さらに、最もよく知られた振動ダンパは、発生する振動を特に良好に減衰する好ましい方向を有し、さらには、特定の振動数に調整される。
【0006】
しかしながら、光学素子、または、光学素子が取り付けられる取付具の場合には、非常に異なる振動数及び振動方向が起こりうるので、上述の振動ダンパを光学素子に用いることはできない。具体的には、例えば、米国特許6,191,898 B1に説明されたようなマニュピレータにて固定される光学素子のための取付具である場合には、光学素子は、その固有振動にて振動するだけでなく、マニュピレータ、または、1つ以上の取付部材と同調する光学素子の振動もまた生じる。光学素子に、制御が困難な非常に低い固有振動数が、比較的高い振幅と共に生じる可能性がある。
【0007】
それゆえに、本発明の目的は、異なる振動周波数、及び、異なる振動のアライメントの場合においても、非常に良好な振動を減衰する、光学素子、及び、光学素子のための取付具を提供することである。
【0008】
この目的は、光学素子に固定され、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する少なくとも1つの付加要素を備える光学素子を用いる本発明により達成される。
この目的は、さらに、取付部材に固定され、取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する少なくとも1つの付加要素を備える、光学素子のための取付部材により達成される。
【0009】
本発明により提供される、取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、振動エネルギーを低減することにより光学素子の振動を減衰する振動ダンパ、または、振動減衰装置としても示されうる。なお、振動は、振動ダンパ、または、振動減衰装置により、6自由度全てにおいて、減衰される。ここで、本発明による光学素子は、振動エネルギーを摩擦により熱に変換する。本特許出願の範囲内において、「摩擦」という語句は、エネルギーを低減することが可能な全ての作用、換言すると、具体的には、クーロン摩擦、内部摩擦による作用、及び/または、関係する材料の粘度または粘弾性によりエネルギーを低減することが可能な作用の全ての作用を含むものとする。
【0010】
光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、それ自体は、振動システムを形成しないので、非常に広帯域の振動スペクトルにとって有効である。取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素の質量を増加させることにより、振動減衰のこの有効性を向上させることが可能である。一方、目的が高周波振動を減衰することである場合、取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素の質量を削減することが可能である。
【0011】
本発明による要素の具体的な有利な点は、非常に微少な追加の設置空間のみを必要とするか、または、特定の実施形態においては、設置空間を全く必要とせず、それゆえに、最も変更に富んだ適用において問題が生じることなく用いられうるという事実にある。具体的には、光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素を、光学素子または取付具のそれぞれの幾何学的な条件に非常に容易に適用することも可能である。さらに、光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素は、受動的な振動減衰をもたらし、それゆえに、設計において、非常に微少な費用のみを必要とする。
【0012】
光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、光学素子または取付部材に直接固定され、支持構造等には固定されない。このため、振動は、要素により直接影響を受ける。具体的には、要素は、互いに関連して振動する2つの取付部材の間に配置されることはなく、それゆえに、2つの取付部材の間を直接結合することはない。
【0013】
光学素子または取付部材の振動を低減する本発明による要素は、操作可能、及び、操作不可能な光学素子の両方と共に、有利に用いられうる。ここで、本発明による要素は、光学素子自体、または、光学素子の取付部材の何れかに固定される。それゆえに、振動減衰の性質によって、光学素子または取付部材の位置に全く変化が生じない。
【0014】
本発明の有利な改良においては、光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が付加質量を備えることが提供されうる。このような付加質量は、振動減衰可能な減衰量を増加させる。
【0015】
付加質量が、光学素子または取付部材に接着剤により接続されるとき、振動は非常に良好に減衰される。具体的には、軟弾性接着剤、例えば、ポリウレタンエラストマー接着剤が、光学素子または取付具に付加質量を固定するために非常に好適となりうる。振動が発生した場合、エネルギーは、粘性効果及びエントロピー弾性効果によるだけでなく、接着剤の内部の内部摩擦により、接着剤の内部で低減される。
【0016】
さらには、付加質量が、繊維状媒体に配置されるか、または、繊維状媒体により取り囲まれるとき、振動減衰に関して、良好な結果か達成される。繊維状媒体には、例えば、フリース、フェルト、または、緩く絡まった繊維、または、例えば、他の異形繊維エラストマーが用いられうる。
【0017】
さらには、光学素子または取付具に接続されるリングとして設計された付加質量が、提供されうる。取付具にてリングが用いられる場合には、空間を理由として、取付部材の環状の切り欠きにリングを配置することは明らかである。
【0018】
取付具の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が、光学素子または取付具において振動振幅が最も大きい点のうちの1つ以上に固定される、本発明の有利な展開が提供されるときには、光学素子または取付具の振動の特に良好な減衰をもたらす。
【0019】
光学素子の損傷を抑制すると共に、光学素子または取付具の振動エネルギーを摩擦により低減する要素の固定を、可能な限り単純な方法にて達成するために、光学素子または取付具の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、光学素子または取付具の外側に配置される。
【0020】
光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が、光学素子以外の要素と機械的な接触部を有しないか、または、減衰される取付具に接続されて、他の要素とは接触部を有しないとき、振動減衰への影響が、効果的に抑制される。
【0021】
取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が、流動性媒体にて満たされたコンテナを備える実施形態の場合には、特に良好な振動減衰が認められる。
流動性媒体には、例えば、砂、粒状材料、または、粉末が用いられうる。
【0022】
光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が、個別の複数のワイヤを有するワイヤケーブルを備え、ワイヤケーブルの両端に質量がそれぞれ配置された実施形態の場合においても、振動減衰に関して良好な結果が達成される。
【0023】
さらには、本発明の1つの改良においては、流動性媒体にて満たされた管として設計された光学素子の振動エネルギーを低減する要素が、提供されうる。
管が、柔軟性のある材料からなることが好ましい。
【0024】
さらに、本発明の非常に有利な展開においては、光学素子または取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素であり、光学素子または、取付部材の固有振動数に調整される要素が提供されうる。振動減衰の実質的な改良は、このような要素の調整によりもたらされる。
【0025】
本発明のさらなる改良においては、取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が、取付部材の切り欠きに配置され、この場合、非常に微少な空間が必要とされることとなる。
【0026】
請求項35は、請求項19〜34の何れかに記載された少なくとも1つの取付部材を有する、光学素子を保持するための取付具をもたらす。
請求項36によれば、代替案は、少なくとも2つの取付部材を有する取付具であり、2つの取付部材のうちの1つは、接触点にて他方の取付部材に接続されると共に、他方の取付部材に接触圧力を及ぼす弾性要素を備える。取付具の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、接触点及び2つの取付部材により形成される。
【0027】
本発明による少なくとも1つの光学素子を備えるリソグラフィーオブジェクティブは、請求項37にて特定される。
本発明による少なくとも1つの取付具を備えるリソグラフィーオブジェクティブは、請求項38にて特定される。
【0028】
請求項39は、照射システムを備えると共に、請求項37または38に記載されたリソグラフィーオブジェクティブを備える投影露光装置に関する。
請求項40は、このような投影露光装置を用いることにより、半導体部品を製造するための方法を与える。
【0029】
本発明の複数の模範的な実施形態が、原則として図面を用いて以下に説明されている。
図1は、本実施形態においては、レンズとして設計され、取付具2に保持される光学素子1を示す。取付具2は、2つの取付部品、具体的には、光学素子1が固定される内部リング3と、作動要素4を介して内部リング3に接続される外部リング5と、を備えている。光学素子1の位置の変更を可能とするように、内部リング3は、作動要素4を介して、所定の境界内で移動されうる。つまり、内部リング3は、例えば、米国特許6,191,898 B1に詳細が説明された種類のものであり、また、マニュピレータとすることが可能である。内部リング3は、さらに、米国特許6,191,898 B1に詳細が説明されたような機能を備えるばね要素6を介して外部リング5に接続されている。このような理由から、本書では、リングについてより詳細に説明することを意図していない。米国特許6,191,898 B1の開示内容は、本出願の主題として、本書に完全に組み込まれる。レンズとして設計される代わりに、光学素子1は、ミラー、または、プリズムとしても設計されうる。
【0030】
光学素子1及び/または取付具2において生じる振動を減衰するために、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素が提供され、この要素は、振動減衰装置または振動ダンパとしても示され、本実施形態の場合には、内部リング3に割り当てられる。以下に詳細が説明され、光学素子1の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7は、内部質量、または、地震質量(seismic mass)としても示されうる付加質量8を備えている。
【0031】
光学素子1の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7は、光学素子1、または、取付部材3または5の固有振動数f0、または、固有振動スペクトル(spectrum of natural frequencies)の固有振動数に可能な限り正確に調整すべきである。なぜなら、最良の振動減衰は、このようにして達成されるからである。要素7の直径を設計するために、従来より周知の計算手法が用いられうる。本実施形態において、光学素子1の振動エネルギーを低減する要素7の設計における大きな役割は、付加質量8により、相当量設定される減衰要素の質量により実行される。ここでは、要素7の質量が小さい場合には、要素7の質量が、より正確に調整されなければならない。光学素子1の所望の固有振動数f0への正確な適合に対して鈍感に反応する大質量の要素7を与えることは、それゆえに、比較的粗い調整を実行することが可能となるか、または、比較的広い固有振動数の範囲、または、比較的広い固有振動スペクトルの範囲がカバーされる。
【0032】
それゆえに、適切な場合には、摩擦による光学素子1の振動エネルギーを低減する要素7の質量であり、追加の質量8により特定される要素7の質量が十分に大きいこと、例えば、要素7の質量が、減衰される光学素子1、または、取付部材3または5である取付具2の質量の1/10〜1/100であることが、常時、確実にされるべきである。
【0033】
しかしながら、必ずしも常時大きい質量を光学素子1に固定することが可能ではなく、この理由から、比較的小さい質量が固定された場合に、光学素子1の振動エネルギーを低減する要素7のより正確な調整を実行することが必要である。質量が小さい要素7は、衝撃等が生じた場合において、非常に微小な付加量(volume)を有すると共に、非常に微小な付加荷重を受けるという利点を有する。要素7の固有振動数f0は、以下のように算出される。
【0034】
【数1】

kは、剛性であり、mは、要素7の質量である。
【0035】
図1による実施形態において、付加質量8は、流動性媒体9にて満たされると共に、内部リング3の切り欠き部11に位置するコンテナ10に配置されている。例えば、砂、粒状材料または粉末が、流動性媒体9として用いられることが可能であり、質量8が流動性媒体9の内部に配置されるか、または、流動性媒体9が質量8の一部を構成する。例えば、質量8は、例えば鋼のような金属を含むおもりとしても良く、おもりは、流動性媒体9に緩く埋め込まれる。質量8と共に、流動性媒体9は、光学素子1及び/または取付具2の振動エネルギーを、摩擦熱に変換する。当然、異なる種類の流動性媒体9を混合することもまた考えられる。この場合、流動性媒体9の内部、及び、流動性媒体9と質量8との間のインタフェースの両方にて、摩擦が生じる。
【0036】
光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7の減衰効果は、密度及び/または粒径を変更すること、または、密度及び/または粒径に差異がある異なる種類の流動性媒体9を用いることにより、影響を受けると共に、最適化される可能性がある。質量8は、取付具2において、振動の振幅が最大、換言すれば、波腹であり、振動の振幅が最大であることにより、振動の減衰を最適にする点に固定されることが好ましい。流動性媒体9の代わりに、適切な場合には、非常に粘度のある液体、ペースト、油、ワックス、エラストマー、そして特に、繊維または繊維状媒体、または、これらの要素の混合物を用いることもまた可能である。繊維状媒体が用いられたとき、付加質量8は、繊維状媒体上に配置されるか、または、繊維状媒体に覆われる。流動性媒体9または上述した他の材料が、光学素子1の振動を低減する要素7を、光学素子1の多様な固有振動数に対して調整するために用いられうる。結果として要素7を、光学素子1の固有振動数に対して調節することに関する上述した問題は、回避されるか、または、少なくとも緩和される。これは、流動性媒体9の個別の要素の多数の異なる固有振動数によりもたらされる。
【0037】
図2は、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7の実施形態を示し、本実施形態において、質量8は、第1実施形態と同様に、流動性媒体9にて満たされたコンテナ10内に固定されている。しかしながら、質量8を備えるコンテナ10は、光学素子1の外側に配置されており、このようにして、光学素子の振動を減衰する。コンテナ10の光学素子1への接続は、例えば、ボンディングにより実行されうる。本実施形態においてもまた、質量8は、光学素子1の振動の振幅が最大、換言すれば、波腹となる点に固定されることが好ましい。結果として、図2に示すように、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する多数の要素7が、光学素子1の周囲に設けられることも可能である。
【0038】
光学素子1の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7の図3による実施形態においてもまた、図2に従う実施形態と同様に、素子は光学素子1の外側に固定され、質量8は、流動性媒体9にて形成されている。流動性媒体9は、例えば、鉛または比較的高密度な他の材料を含む個別の粒子の形をとることが可能であり、この流動性媒体9は、コンテナ10に収容されうる。本実施形態のコンテナ10は、例えば、レーザー溶接を用いて封止される金属の薄片により形成される。
【0039】
摩擦による光学素子1の振動エネルギーを低減する要素7の図4による実施形態においては、2つの付加質量8がワイヤケーブル12の両端に配置されており、それにより、要素7が形成されている。内在する乾き摩擦により、振動を熱に変換するために、ワイヤケーブル12は、振動が発生した場合に互いに擦り合わされる多数の個別のワイヤ13を備え、それゆえに、質量8と共に、光学素子1の振動エネルギーを吸収する。このようなデザインの要素7は、取付具2の2つの取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減するように、取付具2の2つの取付部材3または5のうちの1つに固定されることもまた可能である。要素7が取付部材3または5のうちの1つに固定されることが可能であることは、以下に説明される図5及び6の実施形態においても同様である。
【0040】
図5による要素7は、柔軟性のある材料、例えば、エラストマー、にて構成されると共に、流動性媒体9で満たされた管14を備えている。流動性媒体9で満たされた管14は、光学素子1の振動を低減する質量として既に十分であり、それゆえに、要素7を形成する。しかしながら、ここで、さらに、破線により示される付加質量8が、管14の両端に固定されることも可能である。
【0041】
図6において、要素7のさらなる実施形態が示されている。ここで、硬いロッド15には、その両端にそれぞれ質量8が設けられており、関節継ぎ手16、好ましくは、エラストマーからなる関節継ぎ手16、及び、接続要素17を介して光学素子1上に固定されている。本実施形態においては、エラストマーは、上述された流動性媒体9と同様の機能を請け負う。
【0042】
光学素子1、または、取付具2の取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7のさらなる実施形態が、図7に断面にて示されている。ここで、付加質量8を構成するリング28は、取付具2の内部リング3に載置され、平面部材29は、2つのリングの間に配置される。平面部材29は、例えば繊維状の材料であり、繊維状の材料は、例えば、環状の紙、または、フェルト、または、エラストマーである。ここで、付加質量8として設計されたリング28と、平面部材29とは、共に、取付具2または光学素子1(この図においては示されていない)の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7を形成する。本実施形態においては、平面部材29の内部だけでなく、平面部材29と、2つのリング3及び28のそれぞれとの間の2つのインタフェースにて摩擦が生じる。具体的には、このように、要素7は、多数の固有振動数を有するように設計されているので、平面部材29に繊維状の材料が用いられたとき、平面部材9は、光学素子1の振動を低減する要素7を光学素子1の固有振動数に調整するために用いられうる。さらに、リング28は、複数の個別のリング要素をも備えうる。複数の個別のリング要素の1つは、光学素子1の固有振動数、または、光学素子1の複数の固有振動数のうちの1つに、少なくともおおよそ合わせられる。その結果、適切な場合には、要素7の複雑な設計を回避することが可能となる。
【0043】
光学素子1または取付具2の取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7の図8による実施形態においては、取付具2の内部リング3が凹部30を備えており、凹部30には、フリース状媒体、例えば、フェルト、紙片、フリース、または、繊維マットの形態で設計された平面部材29が配置されている。この実施形態においてもまた、平面部材29は、環状に設計されることが好ましい。平面部材29上に配置されるのは、例えば金属からなるリング28である。ここで、リング28は、付加慣性質量8を形成すると共に、平面部材29は、振動を低減する摩擦を確実に生じさせる媒体を形成する。凹部30を設けたことにより、振動を低減する要素7は、特に空間を節約する形で、取付具2の内部に収容されうる。
【0044】
図9は、光学素子1、または、取付具2の取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7のさらなる実施形態を示す。ここで、リング28は、例えば金属からなり、リング28は、光学素子1に接続されている。リング28の光学素子1へのこの接続は、直接、または、追加部品を介して実現されうる。追加部品は、例えば、平面部材29であり、また、本実施形態においては、接着剤31である。本実施形態の要素7は、非常に小さな空間のみを必要とし、いかなる光学素子1にも実質的に組み込まれうる。
【0045】
振動減衰に関連して、付加質量8を形成するリング28を光学素子1上に固定するために、接着剤31を用いることが非常に適当であることが証明されている。接着剤31は、具体的には、軟弾性接着剤、例えば、ポリウレタンエラストマー接着剤が用いられる。接着剤31の弾性特性は、実質的に、接着剤31の減衰特性に寄与する。接着剤31は、繰り返し上述したように、取付具2上に付加質量8を固定するために、付加質量8を保持する。ここで、取付具2の端部は、それゆえに接着剤31を用いることが可能なようにされている。振動が発生したときに、エネルギーの低減は、接着剤31内に生じ、このことは、粘性効果及びエントロピー弾性効果によるだけでなく、接着剤31の内部摩擦により説明されうる。本実施形態において、接着剤31の厚さは、実質的にばね定数の範囲を特定する。
【0046】
ここで、接着剤31は、減衰効果を向上するために、充填剤が添加されていない状態、つまり、純粋な接着剤31、または、粉末、繊維及び/または充填剤として好適な他の材料が添加された接着剤のいずれかとして提供されうる。さらに、接着剤31は、全領域を覆う形態、及び、点状の形態にて導入することの両方が考えられうる。
【0047】
用いられる材料、及び、具体的には、接着剤31の厚さの両方は、要素7の固有振動数、それゆえに、要素7を光学素子1の固有振動数に適合させることに影響するので、接着剤31はまた、光学素子1の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7の上述した適用を参照して考慮される。具体的には、光学素子1の剛性を特定する接着剤の厚さ、及び、材料特性に関する公差が比較的大きいとき、要素7の質量は、可能な限り大きくするべきである。具体的には、要素7の固有振動数が、光学素子1の固有振動数から過度に鋭く外れることを抑制するために、要素7の質量は、接着剤31の質量と比較して可能な限り大きくするべきである。引張荷重の場合には、せん断荷重または圧縮荷重の場合とは異なる接着剤31が用いられなければならないので、充填する接着剤31の種類は、これに関連する役割を果たす。
【0048】
接着剤31の剛性kは、次の数式を用いて算出される。
【0049】
【数2】

上の式において、kは剛性(stiffness)、Gは剛性率、Aは全接着面積、tは接着剤31の厚さ、及び、αは、せん断補正係数(全断面積と、せん断が生じる断面積との比により特定される)である。長方形の断面では、以下の式を用いる。
【0050】
【数3】

ここで、υは、接着剤31の横収縮係数(transverse contraction coefficient)である。
【0051】
図9にて示される設計と比較してみると、取付具2の内部リング3に固定されるリング28は、一定の断面を有すること、また、断面が閉じられること、の何れも必要ない。図10に示すように、個別の付加質量8はまた、光学素子1上に接着されうる。付加質量8の数は、要素7の必要とされる減衰効果の機能を有する数である。これらの個別の付加質量8はまた、同様の方法にて、取付具2の内部リング3に固定されうる。
【0052】
図11、12及び13は、付加質量8の光学素子1上への様々な固定方法を示す。それぞれの場合において、付加質量8は、リング28にて表されている。
ここまでに少し説明したように、光学素子1にリング28を接続するために、図11においては、接着剤31は、光学素子1の上面及び側面と、対応するように設計されたリング28との間に配置されている。しかしながら、図12の実施形態の場合には、接着剤31は、光学素子1の円周状の側面のみに塗布されており、図13の実施形態の場合には、接着剤31は、光学素子1の上面のみに塗布されている。
【0053】
図14は、光学素子1、または、取付具2の取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減する要素7のさらなる実施形態を示す。ここで、弾性要素18a及び18bの間に、部分的な制限された摩擦点、または、接触点19を与えるように、取付具2は、2つの弾性要素18a及び18bにより光学素子1に結合される。弾性要素18a及び18bは、摩擦点、または、接触点19において、互いに接触圧力を及ぼす。このようにして、2つの取付部材3及び5が互いに関連して運動する場合、光学素子1と、弾性要素18a及び18bまたは取付具2と、の間で関連して運動する場合においては、光学素子1の振動エネルギーは、乾き摩擦により熱に変換され、それゆえに、光学素子1の振動は減衰される。ここで、取付具2、または、一般的には取付部材3または5のうちの1つは、質量8を形成し、要素7は、接触点19及び2つの取付部材3及び5により形成される。光学素子1の配置に対して、ほんのわずかに影響する非常に微小な力が生じることは、有利である。例えば、弾性要素18bは、例えば、米国特許6,392,825または米国特許4,733,945にて周知のように、光学素子1のためのサポートとなりうる。
【0054】
リソグラフィーオブジェクティブ20が、かなり図式的な形式で図15に示されている。リソグラフィーオブジェクティブ20は、複数の光学素子1が配置されると共に保持されるハウジング21を備えている。複数の光学素子1は、好ましくは、適切な取付具2にてハウジング21に配置されると共に、保持される。リソグラフィーオブジェクティブ20は、投影露光装置22の一部であり、投影露光装置22は、半導体部品を製造する目的を果たし、リソグラフィーオブジェクティブ20の上面に固定され、レチクル26を用いて、ビーム経路25を、リソグラフィーオブジェクティブ20を通して伝送する光源24を備える照射システム23を備えている。レチクル26は、リソグラフィーオブジェクティブ1の下方に配置されるウェハー27上に、従来より周知の方法で結像される。この投影露光装置22は、それゆえに、従来より周知の半導体部品の製造方法を実行するために用いられることが可能であり、このため、以下に、さらなる詳細については説明されていない。ここで、少なくとも1つの光学素子1、及び/または、少なくとも1つの取付具10に、光学素子1、または、取付具2の取付部材3または5の振動エネルギーを摩擦により低減する上述した要素7が設けられることが好ましい。
【0055】
図16は、グラフを示し、このグラフにおいて、振動数fに対する様々な振幅プロファイルが描かれている。ここで、「32」により示される線は、本発明の要素7を有しない場合の固有振動数f0近傍における光学素子1の振動振幅Aを示す。このグラフ上では、光学素子1、または、光学素子7が固定されうる取付具2の固有振動数f0において、非常に大きい振動振幅が見られる。しかしながら、この固有振動数f0のために設計されたものの非常に弱い減衰を生じさせる要素7は、光学素子1または取付具2にて測定された、「33」により示される、光学素子1または取付具2の振動振幅曲線をもたらす。本実施形態の場合には、設計により、固有振動数f0においては、もはや振動振幅が無いか、または、少なくとも非常に小さい振動振幅のみが生じる。しかし、非常に妨害となりうる2つの第2の極大値を有する。要素7の振動振幅の推移は、参照番号「34」により示される。要素7の振動振幅の絶対値は、光学素子1の振動振幅と一致する必要はない。
【0056】
図17に、原則として図16と同様の曲線が示されており、ここでは、光学素子1の振動を減衰するより強力な減衰要素7を用いている。図17においては、「32」により示される曲線が図16と同一であることが見られる。一方、要素7により非常に強力に減衰される場合においては、2つの第2の極大値は図16よりも大幅に低いけれども、固有振動数f0において、比較的大きい振幅を依然として有している。広帯域で振幅が高いことにて光学素子1が減衰することに関連して曲線は平坦となり、要素7に比較的強力な減衰により、向上された効果が達成される。図16のように、図17の曲線34もまた、要素7の振幅を示す。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】光学素子の取付部材上で、光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する、本発明の要素の第1実施形態を示す。
【図2】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素の第2実施形態を示し、第2実施形態においては、付加質量が、光学素子の外側に配置されている。
【図3】図2による実施形態の代替例を示す。
【図4】図2による実施形態のさらなる代替例を示す。
【図5】図2による実施形態のさらなる代替例を示す。
【図6】図2による実施形態のさらなる代替例を示す。
【図7】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図8】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図9】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図10】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図11】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図12】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図13】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示す。
【図14】光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する本発明の要素のさらなる実施形態を示し、この実施形態において、追加質量は、少なくとも1つの弾性要素を介して光学素子に結合される取付部材である。
【図15】リソグラフィーオブジェクティブを備える投影露光装置を示す。
【図16】減衰が弱い場合の本発明による振動減衰を表すグラフを示す。
【図17】減衰が強い場合の本発明による振動減衰を表すグラフを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学素子に固定され、前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する少なくとも1つの付加要素を備える光学素子。
【請求項2】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、付加質量を備える
請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記付加質量は、接着剤により前記光学素子に接続される
請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記付加質量は、繊維状媒体に配置される
請求項2に記載の光学素子。
【請求項5】
前記付加質量は、繊維状媒体により囲まれる
請求項2に記載の光学素子。
【請求項6】
前記付加質量は、前記光学素子に接続されるリングとして形成される
請求項2〜5の何れかに記載の光学素子。
【請求項7】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記光学素子の振動振幅が最も高い点のうちの1つ以上の点に固定される
請求項1〜6の何れかに記載の光学素子。
【請求項8】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記光学素子の外側に配置される
請求項1〜7の何れかに記載の光学素子。
【請求項9】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記光学素子以外の要素と接触するための機械的接触部を有しない
請求項1〜8の何れかに記載の光学素子。
【請求項10】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、流動性媒体にて満たされるコンテナを備える
請求項1〜9の何れかに記載の光学素子。
【請求項11】
前記質量は、前記流動性媒体にて満たされるコンテナに配置される
請求項2及び10に記載の光学素子。
【請求項12】
前記流動性媒体は、砂である
請求項10に記載の光学素子。
【請求項13】
前記流動性媒体は、粒状材料である
請求項10に記載の光学素子。
【請求項14】
前記流動性媒体は、粉末である
請求項10に記載の光学素子。
【請求項15】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、複数の個別のワイヤを有すると共に、両端にそれぞれ質量が配置されたワイヤケーブルを備える
請求項1〜14の何れかに記載の光学素子。
【請求項16】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、流動性媒体にて満たされた管として形成される
請求項1〜15の何れかに記載の光学素子。
【請求項17】
前記管は、柔軟性を有する材料にて構成される
請求項16に記載の光学素子。
【請求項18】
前記光学素子の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記光学素子の固有振動数に調整される
請求項1〜17の何れかに記載の光学素子。
【請求項19】
取付部材に固定され、前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する少なくとも1つの付加要素
を備える取付部材。
【請求項20】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、付加質量を備える
請求項19に記載の取付部材。
【請求項21】
前記付加質量は、接着剤により前記取付部材に接続される
請求項20に記載の取付部材。
【請求項22】
前記付加質量は、繊維状媒体に配置される
請求項20に記載の取付部材。
【請求項23】
前記付加質量は、繊維状媒体により囲まれる
請求項20に記載の取付部材。
【請求項24】
前記付加質量は、前記取付部材に接続されるリングとして形成される
請求項19〜23の何れかに記載の取付部材。
【請求項25】
前記リングは、前記取付部材の環状の切り欠きに配置される
請求項22に記載の取付部材。
【請求項26】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記取付部材の振動振幅が最も高い点のうちの1つ以上の点に固定される
請求項19〜25の何れかに記載の取付部材。
【請求項27】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、減衰される前記取付部材にのみに接続され、他の要素と接触しない
請求項19〜26の何れかに記載の取付部材。
【請求項28】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記取付部材における切り欠きに配置される
請求項19〜27の何れかに記載の取付部材。
【請求項29】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、流動性媒体にて満たされるコンテナを備える
請求項19〜28の何れかに記載の取付部材。
【請求項30】
前記質量は、前記流動性媒体にて満たされるコンテナに配置される
請求項19及び29に記載の取付部材。
【請求項31】
前記流動性媒体は、砂である
請求項29に記載の取付部材。
【請求項32】
前記流動性媒体は、粒状材料である
請求項29に記載の取付部材。
【請求項33】
前記流動性媒体は、粉末である
請求項29に記載の取付部材。
【請求項34】
前記取付部材の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記取付部材の固有振動数に調整される
請求項19〜33の何れかに記載の取付部材。
【請求項35】
請求項19〜34の何れかに記載の取付部材の少なくとも1つを備える光学素子を保持するための取付具。
【請求項36】
取付具であって、
少なくとも2つの取付部材を備え、前記2つの取付部材のうちの1つは、接触点にて他方の取付部材に接続されると共に前記他方の取付部材に接触圧力を及ぼす弾性要素を備え、当該取付具の振動エネルギーを摩擦により低減する要素は、前記接触点及び前記2つの取付部材により形成される取付具。
【請求項37】
請求項1〜19の何れかに記載の光学素子の少なくとも1つを備えるリソグラフィーオブジェクティブ。
【請求項38】
請求項35または36に記載の少なくとも1つの取付具を備えるリソグラフィーオブジェクティブ。
【請求項39】
半導体部品を製造するために、照射システムと、請求項37または38に記載のリソグラフィーオブジェクティブと、を備える投影露光装置。
【請求項40】
請求項39に記載の投影露光装置を用いることにより半導体部品を製造する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公表番号】特表2009−501350(P2009−501350A)
【公表日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−520802(P2008−520802)
【出願日】平成18年7月13日(2006.7.13)
【国際出願番号】PCT/EP2006/006874
【国際公開番号】WO2007/006577
【国際公開日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【出願人】(503263355)カール・ツァイス・エスエムティー・アーゲー (435)
【Fターム(参考)】