説明

光導波路共振器の製造方法及び共振器回路の製造方法

【課題】光導波路共振器又は共振器回路を製造する過程で、光導波路共振器又は共振器回路の共振特性を予測することを目的とする。
【解決手段】本願発明の光導波路共振器又は共振器回路の製造方法では、半導体で構成される光導波路共振器に前記半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、前記光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムから、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振特性を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体で構成される光導波路共振器又は共振器回路の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リング型光導波路共振器は、光導波路共振器の共振特性を利用して変調器や波長フィルタとして使用されている。特に、複数の光導波路共振器を有する多重リング型光導波路共振器は、単一リング型光導波路共振器に対して、変調器としては波長領域の拡大や変調特性の向上が可能であり、波長フィルタとしてはQ値の向上や透過特性、遮断特性の平坦化が可能である(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
電気信号処理回路と光信号処理回路の融合のため、電気信号処理回路と光信号処理回路を同一半導体基板上に形成する技術が開発されている(例えば、特許文献2参照。)。半導体基板上の共振器回路では、リング型導波路共振器を半導体で構成することが高機能化あるいは高密度実装に有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−10197号公報
【特許文献2】特開2009−63673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
単一リング型共振器回路の構成を図1に示す。図1において、11は光導波路共振器、12は入力光導波路、13は帯域通過出力光導波路、14は帯域除去出力光導波路である。入力光導波路12に複数の波長の光が入力されると、光導波路共振器11で共振する波長の光だけが帯域通過出力光導波路13から出力され、それ以外の波長の光が帯域除去出力光導波路14から出力される。図1に示す単一リング型共振器回路の入力光導波路12に広帯域な白色光が入力されたときの特性を図2に示す。帯域通過出力光導波路13からは3つの波長でピークを有する光が出力されている。これは、光導波路共振器で共振する光の波長である。一方、帯域除去出力光導波路14からは、入力された光のうち3つの波長が除去された光が出力されている。
【0006】
図2から分かるように、単一リング型共振器回路の場合は、帯域通過出力光導波路13又は帯域除去出力光導波路14から出力される光のスペクトラムを測定することによって、光導波路共振器の特性が設計と異なるものとなっているかどうかを判定することができる。
【0007】
多重リング型共振器回路の構成を図3に示す。図3に示す多重リング型共振器回路は5個の光導波路共振器を備える。図3において、11は光導波路共振器、12は入力光導波路、13は帯域通過出力光導波路、14は帯域除去出力光導波路である。入力光導波路12に複数の波長の光が入力されると、それぞれの光導波路共振器で共振する波長の光だけが帯域通過出力光導波路13から出力され、それ以外の波長の光が帯域除去出力光導波路14から出力される。図3に示す多重リング型共振器回路の入力光導波路12に広帯域な白色光が入力されたときの特性を図4に示す。帯域通過出力光導波路13からは光は出力されない。一方、帯域除去出力光導波路14からは、入力された光のうち複数の波長が除去された光が出力されている。これは、いずれかの多重リング型光導波路共振器で共振する光の波長に相当する光である。しかし、その除去された強度は図2に比して少なく、また波長も分裂し、透過特性として設計されたものとは異なる。
【0008】
多重リング型共振器回路の場合は、複数のリング型光導波路共振器が結合されているため、製造されたリング型光導波路共振器のうち、いずれのリング型光導波路共振器の特性が設計と異なるものとなっているかどうかの判定が困難である。単一のリング型光導波路共振器の場合には、図1の入力ポートへ光を導入すれば、リング型光導波路共振器の特性が設計と異なるものとなっているかどうかの判定が可能であるが、測定するためにはチップに切断加工する必要があり、回路の製造途中にはリング型光導波路共振器の特性を測定することは困難である。
【0009】
そこで、光導波路共振器又は共振器回路を製造する過程で、光導波路共振器又は共振器回路の共振特性を予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するために、本発明に係る光導波路共振器又は共振器回路の製造方法は、光導波路共振器又は共振器回路を製造する過程で、光導波路共振器に光を照射し、光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光の共振スペクトラムから光導波路共振器の共振特性を予測することとした。
【0011】
具体的には、本願発明は、半導体で構成される光導波路共振器に前記半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、前記光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムから、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路の共振特性を予測する光導波路共振器の製造方法である。
【0012】
光導波路共振器を切断加工することなく、光導波路共振器単体の共振特性を予測することができる。
【0013】
本願発明には、前記フォトルミネセンス光のスペクトラム及び前記光導波路共振器の半径から、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振波長を予測する光導波路共振器の製造方法を含む。
【0014】
光導波路共振器を切断加工することなく、光導波路共振器単体の共振波長を予測することができる。
【0015】
本願発明には、前記予測された共振波長に基づき、前記光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって共振波長を所望の波長とする光導波路共振器の製造方法を含む。
【0016】
予測した共振波長に基づいて、光導波路共振器の共振波長を調整することができる。
【0017】
本願発明には、前記フォトルミネセンス光の共振波長近傍での自然発光強度と前記共振波長での共振による増加分との比率から、前記光導波路共振器の所望の波長における共振波長の半値全幅を予測する光導波路共振器の製造方法を含む。
【0018】
光導波路共振器を切断加工することなく、光導波路共振器単体の共振波長の半値全幅を予測することができる。
【0019】
本願発明には、前記予測された半値全幅に基づき、前記光導波路共振器の局所的な実効屈折率を調整することによって所望の半値全幅とする光導波路共振器の製造方法を含む。
【0020】
予測した半値全幅に基づいて、光導波路共振器の半値全幅を調整することができる。
【0021】
本願発明には、前記光導波路共振器がリング型光導波路共振器であることを特徴とする光導波路共振器の製造方法を含む。
【0022】
具体的には、本願発明は、半導体で構成される単一又は複数の光導波路共振器、前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する入力光導波路及び前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する出力光導波路を有する共振器回路の調整方法であって、いずれかの前記光導波路共振器に前記半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、前記光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムから前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振特性を予測する共振器回路の製造方法である。
【0023】
単一又は複数の光導波路共振器があっても、個別に光導波路共振器単体の共振特性を予測することができる。
【0024】
本願発明には、前記フォトルミネセンス光のスペクトラム及び前記光導波路共振器の半径から、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振波長を予測する共振器回路の製造方法を含む。
【0025】
単一又は複数の光導波路共振器があっても、個別に光導波路共振器単体の共振波長を予測することができる。
【0026】
本願発明には、前記予測された共振波長に基づき、前記光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって共振波長を所望の波長とする共振器回路の製造方法を含む。
【0027】
予測した共振波長に基づいて、個別に光導波路共振器の共振波長を調整することができる。
【0028】
本願発明には、複数の前記光導波路共振器の共振波長が一致するように、いずれかの前記光導波路共振器の実効屈折率を調整する共振器回路の製造方法を含む。
【0029】
予測した共振波長に基づいて、複数の光導波路共振器の共振波長を一致させることができる。
【0030】
本願発明には、前記フォトルミネセンス光の共振波長近傍での自然発光強度と前記共振波長での共振による増加分との比率から、前記光導波路共振器の所望の波長における共振波長の半値全幅を予測する共振器回路の製造方法を含む。
【0031】
単一又は複数の光導波路共振器があっても、個別に光導波路共振器単体の共振波長の半値全幅を予測することができる。
【0032】
本願発明には、前記予測された半値全幅に基づき、前記光導波路共振器の局所的な実効屈折率を調整することによって所望の半値全幅とする共振器回路の製造方法を含む。
【0033】
予測した半値全幅に基づいて、光導波路共振器の半値全幅を調整することができる。
【0034】
本願発明には、前記光導波路共振器がリング型光導波路共振器であることを特徴とする共振器回路の製造方法を含む。
【発明の効果】
【0035】
本発明は、光導波路共振器又は共振器回路を製造する過程で、光導波路共振器又は共振器回路の共振特性を予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】単一リング型共振器の構成を説明する図である。
【図2】単一リング型共振器の特性を説明する図である。
【図3】多重リング型共振器回路の構成を説明する図である。
【図4】多重リング型共振器回路の特性を説明する図である。
【図5】光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムを説明する図である。
【図6】光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光の拡大したスペクトラムを説明する図である。
【図7】波長と実効屈折率との関係を説明する図である。
【図8】光導波路共振器におけるフォトルミネセンス光の共振波長の例を説明する図である。
【図9】多重リング型共振器回路の構造を説明する図である。
【図10】光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施の例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0038】
本実施形態の光導波路共振器又は共振器回路の製造方法を説明する。本実施形態は、半導体で構成される単一又は複数の光導波路共振器、前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する入力光導波路及び前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する出力光導波路を有する共振器回路の製造方法である。共振器回路の製造方法には、光導波路共振器の製造方法も含むが、光導波路共振器は共振器回路に限らず、他の光回路に含まれるものであってもよい。光導波路共振器にはリング型光導波路共振器、ディスク型光導波路共振器、フォトニック結晶型光導波路共振器を含むが、以下では、リング型光導波路共振器を例として説明する。
【0039】
半導体としてはSiを例にとって説明する。Si半導体基板の表面を熱酸化等の技術によりSiOに変性させて下部クラッド層とする。下部クラッド層の上面にSi層を形成し、フォトリソグラフィー法により所望の構造の共振器回路のコアとする。例えば、図3に示すような多重リング型共振器回路は、コアには、5個の光導波路共振器11、入力光導波路12、帯域通過出力光導波路13、帯域除去出力光導波路14を有する。図3の多重リング型共振器回路は、5個の光導波路共振器11を有するが、5個に限定されない。次に、下部クラッド層及びコアの上部に、上部クラッド層を形成する。上部クラッド層はコアとなる半導体よりも屈折率の小さい材料であればよい。具体的には、SiOや樹脂が例示できる。
【0040】
ここで、コアとした半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を光導波路共振器に照射する。半導体がSiの場合は、バンドギャップに相当する波長は約1.1μmである。半導体がGeの場合は、バンドギャップに相当する波長は約1.9μmである。半導体がSi−Geの場合は、その中間になる。これらの半導体で構成される光導波路共振器に、例えば、0.5μmの波長のアルゴンイオンレーザ、0.6μmの波長のHe−Neレーザ、1μm以下の波長のIII−V族半導体レーザの光を光導波路共振器に照射する。共振器回路の場合は、個別に各光導波路共振器に照射する。
【0041】
照射された光導波路共振器はフォトルミネセンス効果により発光する。発光したフォトルミネセンス光の一部は光導波路共振器から放射される。他の一部は光導波路共振器を周回して光導波路共振器から漏洩する。光導波路共振器は、光導波路共振器を構成する半導体のバンドギャップに相当する波長よりも長い波長の光に対してシングルモードとなるよう設計されると、フォトルミネセンス光は光導波路共振器から漏洩しやすい。リング長によって決まる共振波長ではピークを生じる。共振波長λは次式で表される。
λ=2πrn/m (1)
rは光導波路共振器の半径、nは光導波路共振器の実効屈折率、mは共振波長の縦モード次数を表す。
【0042】
Si半導体で構成される光導波路共振器にアルゴンイオンレーザを照射したとき、光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムを図5に示す。Si半導体自体の発光波長である約1.1μm近傍を中心とした緩やかなピークと、光導波路共振器の共振波長によるシャープなピークの合成となっている。図5に示すスペクトラムから、共振波長λ及び共振波長の縦モード次数mが分かる。図5に示す特性の一部を拡大したフォトルミネセンス光のスペクトラムを図6に示す。図6に示すように、光導波路共振器を伝搬するTMモード又はTEモードの波長から共振波長λが分かる。TMモード又はTEモードの縦モード間隔から共振波長の縦モード次数mが分かる。さらに、光導波路共振器の形状(肉厚、導波路幅、半径r)並びにそれを取り囲むクラッドの肉厚及び屈折率より、(1)式からその共振波長λでの実効屈折率nが分かる。
【0043】
Si半導体の波長に対する実効屈折率の関係を図7に示す。図7では、1100〜1200nmには、フォトルミネセンス光の共振波長λをプロットしている。さらに、Si半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での光導波路共振器の共振波長を予測する。Si半導体で構成される光導波路共振器は、Si半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長の光に対して吸収損が少なくなる。そのため、Si半導体で構成される光導波路共振器では、Si半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長の光の光信号処理に利用される。例えば、1300nmの波長域で光信号処理に供する場合は、縦モードの次数を減じて1300nmの波長近傍での共振波長が予測される。1500nmの波長近傍でも同様に予測される。光導波路共振器をレーザ発信器として利用する場合は、半導体のバンドギャップに相当する波長と同等の波長域での共振波長が予測される。
【0044】
光導波路共振器又は共振器回路のいずれかの光導波路共振器の共振波長の予測は、後述する基板上に光導波路共振器が形成された後、光導波路共振器の屈折率を調整した後、上部クラッド層が形成された後のいずれでもよい。
【0045】
光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって、共振波長を所望の波長とすることができる。共振器回路を波長フィルタとして利用する場合は、光信号処理する光の波長を所望の波長とする。共振器回路を変調器として利用する場合は、光信号処理する光の波長又はその近傍の波長を所望の波長とする。どの程度の実効屈折率とすればよいかは、(1)式から算定できる。即ち、実効屈折率をどれだけ変化させれば、光信号処理する光の波長域での共振波長がどれだけ変化するかを予測できる。光信号処理する光の波長域での共振波長の変化を予測して実効屈折率を調整すればよい。
【0046】
例えば、共振器回路の場合は、光信号処理する光の波長域でのそれぞれの光導波路共振器の共振波長を予測し、それぞれの光導波路共振器の共振波長が一致するように、それぞれの光導波路共振器の実効屈折率を調整する。
【0047】
3重リング型共振器回路の各光導波路共振器におけるフォトルミネセンス光の共振波長の例を図8に示す。図8に示すように、各光導波路共振器の共振波長が一致していないことが分かる。各光導波路共振器について、共振波長が一致するように、光導波路共振器の実効屈折率を調整する。3個の光導波路共振器の実効屈折率を調整してもよいし、1個の光導波路共振器の実効屈折率に一致するよう、残り2個の光導波路共振器の実効屈折率を調整してもよい。
【0048】
光導波路共振器の実効屈折率を調整する方法を説明する。上部クラッド層を形成する前であれば、スパッタリング、プラズマ照射、ウェットエッチング、レーザ照射により設計値から外れた特定の光導波路共振器の厚さを薄くしたり、光導波路共振器のリング幅を狭くしたりすることにより光導波路共振器の実効屈折率を小さくすることができる。
【0049】
上部クラッド層を形成した後であれば、光導波路共振器が露出するまで上部クラッド層を除去してから、光導波路共振器の厚さを薄くしたり、光導波路共振器のリング幅を狭くしたりしてもよい。上部クラッド層の厚さが薄い場合は、上部クラッド層をエッチングや研削によって厚さを薄くして、光導波路共振器の実効屈折率を大きくすることができる。上部クラッド層の厚さが薄い場合は、上部クラッド層をさらに厚くすると、光導波路共振器の実効屈折率を小さくすることができる。また、すでに形成した上部クラッド層の上部に、形成した上部クラッド層よりも屈折率の小さい材料を堆積すると、光導波路共振器の実効屈折率を大きくすることができる。反対に、すでに形成した上部クラッド層の上部に、形成した上部クラッド層よりも屈折率の大きい材料を堆積すると、光導波路共振器の実効屈折率を小さくすることができる。
【0050】
光導波路共振器の実効屈折率を調整すると、共振波長の縦モード次数を選択して、光導波路共振器の共振波長を所望の波長とすることができる。共振器回路の各光導波路共振器についても同様である。また、共振器回路の構造も、図3に示す構造に限らず、図9に示す構造でもよい。図9に示す共振器回路は5個の光導波路共振器を備える。図9において、入力光導波路12から複数の波長の光が入力されると、いずれかの光導波路共振器11で共振する波長の光が帯域通過出力光導波路13から出力され、それ以外の波長の光が帯域除去出力光導波路14から出力される。各光導波路共振器の共振波長は同一としてもよいし、異なる共振波長としてもよい。
【0051】
以上説明したように、本実施形態の光導波路共振器又は共振器回路の製造方法では、Si半導体で構成される光導波路共振器にSi半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラム及び光導波路共振器の半径から、Si半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での光導波路共振器の共振波長を予測することができた。さらに、予測された共振波長に基づき、光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって共振波長を所望の波長とすることができた。半導体はSiに限らず、フォトルミネセンス効果の得られるものであればよい。
【0052】
次に、共振波長の半値全幅の予測について説明する。光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムを図10に示す。図10において、フォトルミネセンス光の共振波長近傍での光導波路共振器の共振による増加分P1と自然発光強度P2との比率Fは次式で表される。
F=P1/P2=KQ/V (2)
但し、Kは定数、Vはモード体積、Qは品質因子であり、Qは次式で表される。
Q=Δλ/λ (3)
但し、λは共振波長、Δλは共振波長での半値全幅である。
(2)式より、Qは次式で表される。
Q=FV/K (4)
(4)式より、予めモード体積V及び定数Kが分かれば、光導波路共振器の共振による増加分P1と自然発光強度P2との比率Fを測定すると、Q値が算出できる。Q値が算出できれば、(3)式より、任意の波長における共振波長λでの半値全幅Δλを予測することができる。
【0053】
共振器回路の有するそれぞれの光導波路共振器の半値全幅を予測できれば、共振器回路の帯域通過特性又は帯域除去特性を推定できる。前述した光導波路共振器の実効屈折率を調整すれば、所望の帯域通過特性又は帯域除去特性を得ることができる。光導波路共振器と光導波路との間隔をスパッタリング、プラズマ照射、ウェットエッチング、レーザ照射により調整し、局所的な実効屈折率を調整することにより、半値全幅を制御することができる。
【0054】
以上説明したように、本実施形態の光導波路共振器又は共振器回路の製造方法では、Si半導体で構成される光導波路共振器にSi半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光の共振波長近傍での自然発光強度と共振波長での共振による増加分との比率から、Si半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での光導波路共振器の所望の波長における共振波長の半値全幅を予測することができた。さらに、予測された半値全幅に基づき、光導波路共振器の局所的な実効屈折率を調整することによって所望の半値全幅とすることができた。半導体はSiに限らず、フォトルミネセンス効果の得られるものであればよい。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明の光導波路共振器の製造方法及び共振器回路の製造方法は、光回路の製造に利用することができる。
【符号の説明】
【0056】
11 光導波路共振器
12 入力光導波路
13 帯域通過出力光導波路
14 帯域除去出力光導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体で構成される光導波路共振器に前記半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、前記光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムから、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路の共振特性を予測する光導波路共振器の製造方法。
【請求項2】
前記フォトルミネセンス光のスペクトラム及び前記光導波路共振器の半径から、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振波長を予測する請求項1に記載の光導波路共振器の製造方法。
【請求項3】
前記予測された共振波長に基づき、前記光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって共振波長を所望の波長とする請求項2に記載の光導波路共振器の製造方法。
【請求項4】
前記フォトルミネセンス光の共振波長近傍での自然発光強度と前記共振波長での共振による増加分との比率から、前記光導波路共振器の所望の波長における共振波長の半値全幅を予測する請求項1に記載の光導波路共振器の製造方法。
【請求項5】
前記予測された半値全幅に基づき、前記光導波路共振器の局所的な実効屈折率を調整することによって所望の半値全幅とする請求項4に記載の光導波路共振器の製造方法。
【請求項6】
前記光導波路共振器がリング型光導波路共振器であることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の光導波路共振器の製造方法。
【請求項7】
半導体で構成される単一又は複数の光導波路共振器、前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する入力光導波路及び前記単一又は複数の光導波路共振器のいずれかの光導波路共振器に結合する出力光導波路を有する共振器回路の製造方法であって、
いずれかの前記光導波路共振器に前記半導体のバンドギャップに相当する波長よりも短い波長の光を照射し、前記光導波路共振器から発生するフォトルミネセンス光のスペクトラムから前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振特性を予測する共振器回路の製造方法。
【請求項8】
前記フォトルミネセンス光のスペクトラム及び前記光導波路共振器の半径から、前記半導体のバンドギャップに相当する波長以上の波長域での前記光導波路共振器の共振波長を予測する請求項7に記載の共振器回路の製造方法。
【請求項9】
前記予測された共振波長に基づき、前記光導波路共振器の実効屈折率を調整することによって共振波長を所望の波長とする請求項8に記載の共振器回路の製造方法。
【請求項10】
複数の前記光導波路共振器の共振波長が一致するように、いずれかの前記光導波路共振器の実効屈折率を調整する請求項9に記載の共振器回路の製造方法。
【請求項11】
前記フォトルミネセンス光の共振波長近傍での自然発光強度と前記共振波長での共振による増加分との比率から、前記光導波路共振器の所望の波長における共振波長の半値全幅を予測する請求項7に記載の共振器回路の製造方法。
【請求項12】
前記予測された半値全幅に基づき、前記光導波路共振器の局所的な実効屈折率を調整することによって所望の半値全幅とする請求項11に記載の共振器回路の製造方法。
【請求項13】
前記光導波路共振器がリング型光導波路共振器であることを特徴とする請求項7から12のいずれかに記載の共振器回路の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−164299(P2011−164299A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25891(P2010−25891)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【Fターム(参考)】