説明

光導波路

【課題】 曲り導波路に曲率の変化点が生じることを回避でき、曲り損失を低減できる光導波路を提供する。
【解決手段】 光の伝播方向の少なくとも一部に湾曲部12,14を有する光導波路10であって、それぞれの湾曲部12,14が曲率最大部12a,14aを含んでいる。第1の湾曲部12は光の伝播方向に連なる複数の微小部分によって構成されている。これら微小部分の曲率半径は、直線部11から曲率最大部12aに向かって次第に小さくなるように変化し、かつ、曲率最大部12aから接続部13に向かって曲率半径が次第に大きくなるように変化している。第2の湾曲部14も光の伝播方向に連なる複数の微小部分によって構成されている。これら微小部分の曲率半径は、接続部13から曲率最大部14aに向かって次第に小さくなるように変化し、かつ、曲率最大部14aから直線部15に向かって曲率半径が次第に大きくなるように変化している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光通信あるいは光信号処理等の分野において使用される曲り導波路を有する光導波路に関する。
【背景技術】
【0002】
光導波路内を伝播する光を分岐あるいは合波させるための導波路デバイスとして、Y分岐導波路や光方向性結合器等が知られている。この種の光導波路においては、光の伝播方向の一部に、湾曲部を備えた曲り導波路が必要となる。また、Y分岐導波路や光方向性結合器以外の導波路デバイスにおいても、曲り導波路が必要になることがある。
【0003】
例えば図8に示す従来の光導波回路1では、互いに逆方向に曲がる2つの円弧状導波路2,3を連ねることにより、曲り導波路を構成している。従来の曲り導波路においては、それぞれの円弧状導波路2,3は、曲率が一定の単一の円弧からなる。図8中のA,Bは、各円弧状導波路2,3の円弧の曲率半径を示している。このような2つの円弧の接続部5が曲率の変化点となり、接続部5においてリーキー(leaky)なモードが発生する。
【0004】
従来、上記のような単一の円弧を用いた曲り導波路において、リーキーなモードの発生や損失を低減させるために、曲率変化点となる接続部に、軸ずらし部を形成することが提案されている。(例えば下記特許文献1参照)
【特許文献1】特開平4−213407号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のように、2つの円弧の接続部に軸ずらし部を設けた導波路は、狭帯域な波長領域においては、リーキーなモードの発生を押さえることができる。しかし広帯域な波長領域では、円弧と直線との接続部、または円弧と円弧との接続部などのように曲率が不連続となる箇所においてリーキーなモードが発生し、光が蛇行する原因となり、また、光学特性に波長依存性が発生するなどの問題があった。
【0006】
また従来の導波路では、屈折率の不連続な変化(例えば光分岐器における分岐部)などで発生したリーキーなモードが放射されず、場合によっては増幅され、曲り導波路を伝播していた。あるいは従来の曲り導波路においては、円弧と直線との接続部、または円弧と円弧の接続部などの曲率が不連続となる箇所でモード不整合による損失が発生していた。
【0007】
従って本発明の目的は、曲り導波路に曲率の変化点が生じることを抑制でき、曲り損失を低減できるような光導波路を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、コアとクラッド層によって構成され光の伝播方向の少なくとも一部に湾曲部を有する光導波路であって、前記湾曲部が光の伝播方向に連なる複数の微小部分からなり、該湾曲部が、曲率が最小の曲率最小部と、曲率が最大の曲率最大部とを含み、かつ、前記各微小部分の曲率半径が、前記曲率最小部から曲率最大部に向かって順次変化する形状であることを特徴とするものである。
【0009】
前記湾曲部の一例は、光の伝播方向に連なる長さ100μm以下の直線形状の多数の微小部分からなり、該湾曲部における曲率半径がこれら微小部分ごとに段階的に変化する。あるいは前記湾曲部が光の伝播方向に連なる多数の円弧状の微小部分からなり、該湾曲部における曲率半径が連続的に変化するものでもよい。
【0010】
望ましくは、前記曲率最大部の曲率半径の最小値は一様曲げ損失が0.1dB/cmとなるときの半径、最大値はリーキーモードの出力パワーが入力パワーの5%以下となるときの半径である。例えば、前記湾曲部の曲率最大部の曲率半径が13mm以上、23mm以下、さらに好ましくは15mm以上、20mm以下である。
【0011】
この発明の好ましい形態では、例えば、第1の湾曲部と、前記第1の湾曲部とは逆方向に曲がる第2の湾曲部と、これら第1および第2の湾曲部をつなぐ接続部とを有している。そして前記第1および第2の湾曲部がそれぞれ曲率最大部を含み、前記第1の湾曲部を構成する多数の微小部分の曲率半径が、直線状の曲率最小部から曲率最大部に向かって無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、この曲率最大部から前記接続部に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状である。また、前記第2の湾曲部を構成する多数の微小部分の曲率半径が、前記接続部から曲率最大部に向かって無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、この曲率最大部から直線状の曲率最小部に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、曲り導波路に曲率の変化点が生じることを回避でき、曲り損失を低減することができる。本発明では、リーキーなモードを湾曲部の一部の曲率最大部で放射させ、それ以外の部位ではリーキーなモードを発生させにくい曲り導波路を得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下に本発明の一実施形態について、図1〜図7を参照して説明する。
図1は、本実施形態の光導波路10を示している。この光導波路10は、光の伝播方向に第1の直線部11と、この直線部11に連なる第1の湾曲部12と、接続部13を介して第1の湾曲部12に連なる第2の湾曲部14と、第2の湾曲部14に連なる第2の直線部15を備えている。第1の湾曲部12と接続部13および第2の湾曲部14によって、S形の曲り導波路16が構成されている。第1および第2の直線部11,15は曲率半径が無限大、すなわち実質的に曲率が最小となる部位(曲率最小部)である。
【0014】
図2に示すように光導波路10は、下部クラッド層20と、コア21と、上部クラッド層22によって構成され、コア21の内部を光が伝播するようになっている。クラッド層20,22はコア21の全周を被っている。コア21の屈折率はクラッド層20,22よりも高く、比屈折率差は例えば0.45%である。コア21の断面形状は例えば一辺が6μmの正方形である。
【0015】
第1の湾曲部12は、第1の直線部11から接続部13に向かって曲率が連続的に変化する曲線(例えば6次関数によって求めた曲線)を基本形とし、光の伝播方向に連なる長さ100μm以下に分割された複数の微小部分によって構成されている。
【0016】
図1に模式的に示すように、第1の湾曲部12の微小部分の曲率半径は、R1,R2…Rnと順次変化している。図1に示す2点鎖線L1は半径r1の単一の円弧であり、従来はこの円弧に沿って曲り導波路が形成されていた。
【0017】
この明細書で言う微小部分は、物理的に微小に区画された部分という意味ではなく、湾曲部12,14の曲率変化を説明するために便宜上用いる設計思想上の微小部分である。すなわち湾曲部12,14を構成するコア21は、光学的かつ物理的に光軸方向に途切れることなく1本に連続しているものである。
【0018】
第2の湾曲部14は第1の湾曲部12とは逆方向に曲がっている。この第2の湾曲部14は、接続部13から第2の直線部15に向かって曲率が連続的に変化する曲線(第1の湾曲部12と同様の曲線)を基本形とし、光の伝播方向に連なる長さ100μm以下に分割された複数の微小部分によって構成されている。図1に示す2点鎖線L2は半径r2の単一の円弧であり、従来はこの円弧に沿って曲り導波路が形成されていた。
【0019】
図3は、第1の湾曲部12と第2の湾曲部14の曲率が光の伝播方向(Z軸方向)に変化する様子を示している。曲率は曲率半径Rの逆数(1/R)である。第1の湾曲部12と第2の湾曲部14のそれぞれの中間部に、曲率が最大(曲率半径Rが最小)となる部位すなわち曲率最大部12a,14aが存在している。
【0020】
このように第1の湾曲部12は、前記微小部分の曲率半径Rが第1の直線部11から曲率最大部12aに向かって、無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、曲率最大部12aから接続部13に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状となっている。
【0021】
第2の湾曲部14は、前記微小部分の曲率半径が、接続部13から曲率最大部14aに向かって無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、曲率最大部14aから第2の直線部15に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状である。
【0022】
このように構成された本実施形態の曲り導波路16は、接続部13が実質的に直線となる。この接続部13に対して、第1の湾曲部12と第2の湾曲部14がそれぞれ曲率が変化しながら滑らかに連続し、曲率変化点が存在しない。
【0023】
これに対し従来の曲り導波路は、図1に2点鎖線L1,L2で示す単一の円弧からなるため、図3に2点鎖線で示すように接続部において曲率が不連続となり曲率変化点が存在している。このような曲率変化点は接続部でのモード不整合の原因となる。
【0024】
図4は従来の単一の円弧からなる曲り導波路と、本実施形態の湾曲部12,14を有する曲り導波路16との、それぞれの曲り損失の波長依存性を示している。図4から、本実施形態の曲り導波路16は、従来の曲り導波路と比較して曲り損失が大幅に減少していることが判る。
【0025】
図5は本実施形態の曲り導波路16の曲率半径(曲り導波路半径)と、一様曲げ損失との関係を解析した結果である。図5によれば、曲率半径が13mmよりも小さくなると、基底モード損失が急増する。一様曲げ損失の目標値0.1dB/cmを実現するために、曲率半径は13mm以上であることが望まれる。
【0026】
図6は単一の円弧からなる曲り導波路に、基底モード50%、リーキーモード50%を入力した場合の、曲り導波路半径に対する基底モードおよびリーキーモードのそれぞれの出力パワーを示している。図6から、曲率半径10〜15mmの間にリーキーモードの極小点が存在することが判る。この曲率半径では、図5に示したように基底モード損失が約0.1dbB程度であり、リーキーなモードだけが放射されていることが判る。
【0027】
本実施形態の曲り導波路16は、リーキーモードが極小値付近となる曲率最大部12a,14aを有しているため、曲率最大部12a,14aにおいてリーキーモードが放射され、曲率最大部12a,14a以外の部位ではリーキーモードが発生しないようにすることができるため、より効果的に低損失化を図ることができる。
【0028】
リーキーモードを放射させる上では曲率最大部12a,14aの曲率半径が10〜15mmであることが望まれるが、図5に示したように曲率半径が13mmより小さいと基底モードの一様曲げ損失が急増する。一方、図6に示したように曲率半径が20mm、特に23mmを越えるとリーキーモードの出力パワーも大きくなって好ましくない。
【0029】
このような理由から、曲率最大部12a,14aの曲率半径の最小値は、一様曲げ損失が0.1dB/cmとなるときの半径、最大値は、リーキーモードの出力パワーが入力パワーの5%以下となるときの半径とする。例えば比屈折率差Δ0.45%、コアサイズ6×6μmの場合、曲率最大部12a,14aの曲率半径は13〜23mmが望ましく、より好ましくは15〜20mmがよい。
【0030】
図7は、本実施形態の曲り導波路16において、湾曲部12,14の微小部分の長さを4種類に変化させたときの曲り損失を比較したものである。図7から判るように、微小部分の分割長さが1μm〜100μmまでは互いに遜色がなく十分低損失であり、本発明の目的にかなうものとなっている。これに対し微小部分の分割長さが150μmの場合は、広い波長域にわたって曲り損失が0.01dBよりも大きくなっている。
【0031】
なお前記実施形態では、湾曲部12,14を構成する微小部分が100μm以下に分割された直線形状である場合について述べた。その場合、湾曲部12,14の曲率半径は各微小部分ごとに段階的に変化することになる。しかし本発明を実施するに当たって、湾曲部が微小な円弧からなる多数の微小部分の連続によって構成されていてもよい。その場合には、曲率最小部から曲率最大部に向かって曲率半径が連続的に変化する。
【0032】
また本発明の光導波路は必ずしも直線部を有していなくてもよく、要するに曲率半径が最大となる曲率最小部(その一例が直線部)と、曲率半径が最小となる曲率最大部とを有し、これら曲率最小部と曲率最大部との間の曲率が段階的あるいは連続的に変化するように導波路コアがパターニングされていればよい。
【0033】
また前記実施形態では2つの湾曲部12,14と1つの接続部13とからなるS形曲り導波路16について述べたが、本発明は1つの湾曲部と直線部とからなる曲り導波路に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の一実施形態の曲り導波路を有する光導波路の平面図。
【図2】図1中のF2−F2線に沿う光導波路の断面図。
【図3】本発明の曲り導波路と従来の曲り導波路のそれぞれのZ軸方向の曲率の変化を示す図。
【図4】本発明の曲り導波路と従来の曲り導波路のそれぞれ波長と曲り損失との関係を示す図。
【図5】曲り導波路半径と一様曲げ損失との関係を示す図。
【図6】曲り導波路半径と基底モードおよびリーキーモードの出力パワーとの関係を示す図。
【図7】4種類の微小部分の長さに関して、波長と曲り損失との関係を示す図。
【図8】従来の曲り導波路を示す平面図。
【符号の説明】
【0035】
10…光導波路
11…第1の直線部
12…第1の湾曲部
12a…曲率最大部
13…接続部
14…第2の湾曲部
14a…曲率最大部
15…第2の直線部
16…曲り導波路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コアとクラッド層によって構成され光の伝播方向の少なくとも一部に湾曲部を有する光導波路であって、
前記湾曲部が光の伝播方向に連なる複数の微小部分からなり、
該湾曲部が、
曲率が最小の曲率最小部と、
曲率が最大の曲率最大部とを含み、かつ、
前記各微小部分の曲率半径が、前記曲率最小部から曲率最大部に向かって順次変化する形状であることを特徴とする光導波路。
【請求項2】
前記湾曲部が光の伝播方向に連なる長さ100μm以下の直線形状の多数の微小部分からなり、該湾曲部における曲率半径がこれら微小部分ごとに段階的に変化することを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項3】
前記湾曲部が光の伝播方向に連なる多数の円弧状の微小部分からなり、該湾曲部における曲率半径が連続的に変化することを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項4】
前記曲率最大部の曲率半径の最小値は一様曲げ損失が0.1dB/cmとなるときの半径、最大値はリーキーモードの出力パワーが入力パワーの5%以下となるときの半径であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路。
【請求項5】
第1の湾曲部と、
前記第1の湾曲部とは逆方向に曲がる第2の湾曲部と、
これら第1および第2の湾曲部をつなぐ接続部とを有し、
前記第1および第2の湾曲部がそれぞれ曲率最大部を含み、
前記第1の湾曲部を構成する多数の微小部分の曲率半径が、直線状の曲率最小部から曲率最大部に向かって無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、この曲率最大部から前記接続部に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状であり、
前記第2の湾曲部を構成する多数の微小部分の曲率半径が、前記接続部から曲率最大部に向かって無限大から次第に小さくなるように変化し、かつ、この曲率最大部から直線状の曲率最小部に向かって曲率半径が次第に大きくなって無限大へと変化する形状であることを特徴とする請求項1に記載の光導波路。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2006−78570(P2006−78570A)
【公開日】平成18年3月23日(2006.3.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−259859(P2004−259859)
【出願日】平成16年9月7日(2004.9.7)
【出願人】(000004640)日本発条株式会社 (1,048)
【Fターム(参考)】