説明

光書込装置およびこれを備える画像形成装置

【課題】加工精度をそれほど要求しなくコストを低減できるとともに、像担持体に伝達される光の拡散を抑制できる。
【解決手段】光書込み装置は感光体2に対向配置されているラインヘッド4aを備えている。ラインヘッド4aは、ファイバアレイ基板にそれぞれ設けられた、複数個の有機EL素子と、これらの有機EL素子と同数のマイクロレンズとを有している。ラインヘッド4aと感光体2との間の空間には、所定膜厚Lの液状媒体8が介在している。すなわち、マイクロレンズ4jによって集められて射出された光が通る光路がこの液状媒体8内に設定されるようになっている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、像担持体にレザー光等の照射により静電潜像を書き込む光書込装置と、この光書込装置を備えた、静電複写機、プリンタ、ファクシミリ等の電子写真装置からなる画像形成装置の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、画像形成装置として、光書込装置であるラインヘッドにより像担持体に像の書込みを行う画像形成装置が知られている(例えば特許文献1参照)。この特許文献1に記載のラインヘッドは、発光素子である複数のEL素子を一列に配列している。そして、これらのEL素子からのレーザ光をそれぞれファイバアレイのマイクロレンズで集めて感光体に照射して静電潜像を書き込んでいる。このようなラインヘッドを用いることで、光をより一層効率よく集めることができるので、静電潜像の高精細化が可能となる。
【0003】
一方、縮小投影露光方式の光学系において、最終レンズと被露光部材との間に液状媒体を介在させて液浸露光技術を用いることで、そのレンズの開口数を高めた光学系を得ることができることが提示されている(例えば、非特許文献1参照)。この縮小投影露光方式の光学系では、このように開口数を高めることでレーザ光の波長をレイリーの式から解像度を高めることができる。また、レイリーの式から波長の短いレーザ光を用いることでも、解像度を高めることができる。
【特許文献1】特開2006−281733号公報。
【非特許文献1】応用物理、第75巻、第11号、2006年、P.1328〜1333。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載のラインヘッドでは、マイクロレンズを独立して配置する必要があるため、加工精度が要求されるとともに、コストが高くなる。また、一旦マイクロレンズで集めた光が空気層を介して感光体に伝達するため、このマイクロレンズから出た光が拡散するという問題がある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、その目的は、加工精度をそれほど要求しなくコストを低減できるとともに、像担持体に伝達される光の拡散を抑制できる光書込装置およびこれを備えた画像形成装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述の課題を解決するために、本発明に係る光書込装置では、この光書込装置を構成するラインヘッドのファイバアレイ基板あるいはマイクロレンズにより、発光素子から射出された光が集められて被照射体に射出される。このとき、ファイバアレイ基板あるいはマイクロレンズから射出された光の光路が、屈折率Nが1より高い(N>1)液状媒体内に形成される。これにより、ラインヘッドのファイバアレイ基板あるいは各マイクロレンズの開口数が大きい光学系を形成することができる。そして、ファイバアレイ基板あるいは各マイクロレンズの開口数が大きくなると、縮小投影露光方式では、いわゆるレイリーの式から、解像度が高くなる。したがって、ファイバアレイ基板あるいは各マイクロレンズからの光の拡散が抑制されるとともに解像力が高められるので、高精細度の画像の書込みを行うことができる。その場合、液状媒体としては、例えばシリコンオイルやフッ素オイル等のオイル、グリセリン、水の屈折率の高い液状媒体を用いることができる。
【0007】
また、同様にレイリーの式から光の波長λが短いと解像度が高い。したがって、光書込に青色レーザを用いた方が、現在普通に使用されている赤色レーザよりも波長が短いことから高解像度の書込みを行うことが可能となる。そして、光書込装置のレーザ光に青色レーザを用いることと、屈折率の高い液状媒体を用いることを組み合わせることで互いの相乗効果を発揮させることができる。これにより、より一層の高解像度の書込みを行うことが可能となる。更に、平均粒径が4μm以下の小粒径のトナーを用いることを組み合わせることで、更なる高解像度の書込みを行うことが可能となる。
【0008】
また、ファイバアレイ基板あるいはマイクロレンズを高い加工精度を必要としなくなるので、光書込装置を容易にかつ低コストで製造することが可能となる。
【0009】
一方、本発明の光書込装置を備えた画像形成装置によれば、光書込装置が高精細度の画像の書込みを行うことから、高画質化を実現することが可能となる。特に、液体現像剤を用いた画像形成装置では、トナーの平均粒径を4μm以下の小粒径にすることができるので、より一層の高画質化を実現することができる。しかも、液体現像剤のキャリア液を液状媒体として利用することで、現像装置を液状媒体塗布装置として用いることができる。したがって、従来の液体現像剤を用いた画像形成装置をほとんど設計変更することなく、用いることができる。これにより、ラインヘッドと像担持体との間の空間に液状媒体を介在させても、液体現像剤を用いた画像形成装置を大型にすることはなく、安価に形成することができる。
【0010】
更に、ラインヘッドと像担持体との間に液状媒体が常時介在するので、像担持体表面が振れても液状媒体がショックアブゾーバの機能を発揮するようになるのでバンディングを生じることはない。これにより、光書込装置は、安定して像の書込みを行うことができる。
【0011】
更に、ラインヘッドから発生する熱による光の歪みが生じても、この光の歪みが液状媒体を通して常時平均化されるため、歪みのない高精細度の像の書込みを行うことができる。
【0012】
更に、光書込装置による像の書込みが安定していることから、画質安定性を向上することができる。
更に、像担持体の外周面の全面を液状媒体で覆った状態にすることで、例えば、転写時におけるトナーの散り等の問題を生じない。また、像担持体の外周面の全面を液状媒体で覆うことで、像担持体とその周りに配設される、例えばクリーニングブレード等の当接部材との間の摩擦係数を低減することができる。これにより、像担持体の摩耗を抑制することができる。
【0013】
特に、帯電装置に、直流(DC)電圧と交流(AC)電圧との重畳電圧を帯電電圧とするAC重畳型帯電装置を用いた画像形成装置では、非接触帯電および接触帯電に関係なく、像担持体がその帯電による電気的ストレスで摩耗が促進されることが従来知られている。しかし、本発明の画像形成装置では、像担持体表面に液状媒体が塗布されているので、電気的ストレスによる像担持体の摩耗も効果的に抑制することができる。
【0014】
したがって、画像形成装置の長期間使用後において、像担持体の膜減り量を最小限に抑えることができるため、長期的に安定した細線画像(ファインパターン)を形成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、図面を用いて本発明を実施するための最良の形態について説明する。
図1は、本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の一例を模式的にかつ部分的に示す図、図2は図1に示す例の感光体および帯電装置を模式的に示す図、図3(a)はこの例の金属ローラの軸方向断面を模式的に示す図、図3(b)は図3(a)におけるIIIB−IIIB線に沿う横断面図である。
【0016】
図1に示すように、この例の画像形成装置1は静電潜像およびトナー像(現像剤像)が形成される像担持体でありかつ感光体ドラムからなる感光体2を備えている。この感光体2は本発明の被照射体を構成している。感光体2の周囲には、感光体2の回転方向(図1では、時計回り)上流側から、順次、感光体2を帯電する帯電装置3、感光体2に静電潜像を書き込む光書込み装置4、感光体2の静電潜像をトナーで現像する現像装置5、感光体2のトナー像を転写する転写装置6、および感光体2をクリーニングするクリーニング装置7を備えている。
【0017】
この例の感光体2は感光体ドラムからなり、従来公知の感光体ドラムと同様に円筒状の金属素管の外周面に所定膜厚の感光層が形成されている。この感光体2における金属素管には、例えばアルミニウム等の導電性の管が用いられるとともに、感光層には、従来公知の有機感光体が使用される。
帯電装置3は感光体2に対して帯電を行う帯電ローラ3aを備えており、この帯電ローラ3aは感光体2の回転方向と逆方向(図1において、反時計回り)に回転される。
【0018】
光書込み装置4は、例えばレーザ光等により感光体2に照射することでこの感光体2に静電潜像を書き込む露光装置である。この光書込み装置4は感光体2より重力方向で下側に配設されている。
【0019】
光書込み装置4は感光体2に対向配置されているラインヘッド4aを備えており、図2(a)に示すようにこのラインヘッド4aはファイバアレイ基板4bを有している。このファイバアレイ基板4bは、例えば光ファイバ等の束で構成される。ファイバアレイ基板4bは、後述する有機EL素子4cによって射出された光を集光し、かつ、集光した光を、更にコヒーレント状にして画素数に対応する光を感光体2に射出する機能を有している。なお、ファイバアレイ基板4bはこの機能を発揮することができるものであれば、光ファイバ以外の光学部材を用いることもできる。例えば、セルフォック・レンズ・アレイ(セルフォック:日本板硝子(株)の登録商標)をファイバアレイ基板4bとして用いることができる。
【0020】
ファイバアレイ基板4bの図2(a)において上面には、発光素子でありかつ画素数に対応する複数個の有機EL素子4cが一列にライン状に配列されて設けられている。これらの有機EL素子4cにより、発光素子群4dが構成されている。また、ファイバアレイ基板4bの上面には、各有機EL素子4cをそれぞれ駆動させる、有機EL素子4cの数と同数の駆動素子4eからなる駆動素子群4fが、発光素子群4dに隣接して設けられている。更に、ファイバアレイ基板4bの上面には、これら駆動素子4eの駆動を制御する制御回路群4gが設けられている。
【0021】
更に、ファイバアレイ基板4bの上面には、2本の電源線4h,4iが、発光素子群4dおよび駆動素子群4fを挟んで設けられている。これらの電源線4h,4iには各接駆動素子4eが電気的に接続されており、図示しない電源から電源線4h,4iを介して各駆動素子4eにそれぞれ電圧が印加されるようになっている。そして、各駆動素子4eが制御回路群4gの対応する制御回路によって制御されることで、それぞれ各有機EL素子4cの発光動作が制御される。
【0022】
一方、ファイバアレイ基板4bの図2(a)において下面には、有機EL素子4cの数と同数個のマイクロレンズ4jが一列に配列されて構成されるレンズ群4kが、それぞれ各有機EL素子4cに対向するようにして配設されている。そして、このラインヘッド4aは、各有機EL素子4cで射出された光がそれぞれ対応するマイクロレンズ4jで集光されて感光体2の周面上に照射されるようになっている。すなわち、ラインヘッド4aはボトムエミッション型ラインヘッドとして構成されている。
【0023】
このラインヘッド4aでは、各マイクロレンズ4jが対応する有機EL素子4cから射出された光を無駄なく集めるので、射出された光の利用効率が高くなる。しかも、各マイクロレンズ4jがそれぞれ対応する有機EL素子4cからの光のみを選択的に集め、隣接した有機EL素子4cからの拡散光を集めることがないので、光量むらのない均一な光が得られるようになる。なお、マイクロレンズ4jの数は、必ずしも有機EL素子4cの数と同数である必要はなく、有機EL素子4cの数と同数以下でありさえすればよい。
【0024】
図3に示すように、ラインヘッド4aと感光体2との間の空間には、所定膜厚Lの液状媒体8が介在している。すなわち、マイクロレンズ4jによって集められて射出された光が通る光路がこの液状媒体8内に設定されるようになっている。これにより、この例の光書込み装置4では、前述の非特許文献1に記載されているような液浸露光技術が応用されている。
【0025】
この液状媒体8は、屈折率Nが空気層の屈折率(N=1)より高い媒体(N>1)であり、例えば、シリコン(Si)オイルおよびフッ素オイル等のオイル(N=1.515)、グリセリン(N1.473)、あるいは水(N=1.333)等の液状物質で構成される。
【0026】
また、少なくともラインヘッド4aと感光体2との間の空間における液状媒体8の膜厚Lは、各マイクロレンズ4jから射出される光の波長λより大きくなるように設定されている(L>λ)。
したがって、液状媒体8は各マイクロレンズ4jから射出された光をほとんど屈折させることなく感光体2に伝達するようになる。
【0027】
図1に示すように、この例の画像形成装置1は、液状媒体8を感光体2の表面に塗布する液状媒体塗布装置9が、帯電装置3と光書込装置4との間つまり感光体2の回転方向上流側に配設されている。この液状媒体塗布装置9で感光体2の表面に液状媒体8を塗布することにより、液状媒体8が介在ラインヘッド4aと感光体2との間の空間に介在される。液状媒体塗布装置9には、液状媒体8を感光体2の表面に塗布することができる装置であれば、公知のどのような液状媒体塗布装置も用いることができる。
【0028】
また、各有機EL素子4cからそれぞれ射出される光は、例えばレーザー光等の光であり、特に、後述するように波長λの短い青レーザー(λ=405nm)が望ましい。更に、この青レーザー(λ=410nm)を用いるとともに、例えば平均粒径4μm以下の小粒径のトナーを用いることが好ましい。
【0029】
また、現像装置5は、現像ローラ5a、トナー供給ローラ5bおよびトナー層厚規制部材5cを有している。そして、トナー供給ローラ5bによって現像ローラ5a上に現像剤であるトナーTが供給されるとともに、この現像ローラ5a上のトナーTがトナー層厚規制部材5cによりその厚みを規制されて感光体2の方へ搬送され、搬送されたトナーTで感光体2上の静電潜像が現像されて感光体2上にトナー像が形成される。
【0030】
転写装置6は転写ローラ6aを有し、この転写ローラ6aにより感光体2上にトナー像が転写紙や中間転写媒体等の転写媒体10に転写される。そして、トナー像が転写媒体10である転写紙に転写された場合には、転写紙上のトナー像が図示しない定着装置によって定着され、転写紙に画像が形成され、また、トナー像が転写媒体10である中間転写媒体に転写された場合には、中間転写媒体上のトナー像が更に転写紙に転写された後、転写紙上のトナー像が図示しない定着装置によって定着され、転写紙に画像が形成される。
【0031】
クリーニング装置7は例えばクリーニングブレード等のクリーニング部材7aを有し、このクリーニング部材7aにより感光体2がクリーニングされて、感光体2上の転写残りトナーが除去されかつ回収される。
【0032】
この例の光書込装置4によれば、ラインヘッド4aと感光体2との間の空間に、屈折率Nが1より高い(N>1)液状媒体8を介在させているので、前述の非特許文献1に記載されているように、ラインヘッド4aの各マイクロレンズ4jの開口数が大きい光学系を形成することができる。そして、各マイクロレンズ4jの開口数が大きくなると、縮小投影露光方式では、いわゆるレイリーの式から、解像度が高くなる。したがって、マイクロレンズ4jからの光の拡散が抑制されるとともに解像力が高められるので、高精細度の画像の書込みを行うことができる。
【0033】
その場合、同様にレイリーの式から波長λが短いと解像度が高い。したがって、青色レーザ(例えば、λ=410nm等)を用いた方が、現在普通に使用されている赤色レーザよりも波長が短いことから高解像度の書込みを行うことが可能となる。そして、光書込装置4のレーザ光に青色レーザを用いることと、屈折率Nの高い液状媒体8を用いることを組み合わせることで互いの相乗効果を発揮させることができる。これにより、より一層の高解像度の書込みを行うことが可能となる。更に、平均粒径が4μm以下の小粒径のトナーを用いることを組み合わせることで、更なる高解像度の書込みを行うことが可能となる。
また、マイクロレンズ4jを高い加工精度を必要としなくなるので、光書込装置4を容易にかつ低コストで製造することが可能となる。
【0034】
一方、この例の光書込装置4を備えた画像形成装置によれば、光書込装置4が高精細度の画像の書込みを行うことから、高画質化を実現することが可能となる。特に、液体現像剤を用いた画像形成装置では、トナーの平均粒径を4μm以下の小粒径にすることができるので、より一層の高画質化を実現することができる。しかも、液体現像剤のキャリア液を液状媒体8として利用することで、現像装置5を液状媒体塗布装置9として用いることができる。したがって、従来の液体現像剤を用いた画像形成装置をほとんど設計変更することなく、用いることができる。これにより、ラインヘッド4aと感光体2との間の空間に液状媒体8を介在させても、液体現像剤を用いた画像形成装置を大型にすることはなく、安価に形成することができる。
【0035】
更に、ラインヘッド4aと感光体2との間に液状媒体8が常時介在するので、感光体2表面が振れても液状媒体8がショックアブゾーバの機能を発揮するようになるのでバンディングを生じることはない。これにより、光書込装置4は、安定して像の書込みを行うことができる。
【0036】
更に、ラインヘッド4aから発生する熱による光の歪みが生じても、この光の歪みが液状媒体を通して常時平均化されるため、歪みのない高精細度の像の書込みを行うことができる。
【0037】
更に、光書込装置4による像の書込みが安定していることから、画質安定性を向上することができる。
更に、感光体2の外周面の全面を液状媒体8で覆った状態にすることで、例えば、転写時におけるトナーの散り等の問題を生じない。また、感光体2の外周面の全面を液状媒体8で覆うことで、感光体2とその周りに配設される、例えばクリーニングブレード7a等の当接部材との間の摩擦係数を低減することができる。これにより、感光体2の摩耗を抑制することができる。
【0038】
特に、帯電装置3に、直流(DC)電圧と交流(AC)電圧との重畳電圧を帯電電圧とするAC重畳型帯電装置を用いた画像形成装置では、非接触帯電および接触帯電に関係なく、感光体2がその帯電による電気的ストレスで摩耗が促進されることが従来知られている。しかし、この例の画像形成装置1では、感光体2表面に液状媒体8が塗布されているので、電気的ストレスによる感光体2の摩耗も効果的に抑制することができる。
【0039】
したがって、画像形成装置1の長期間使用後において、感光体2の膜減り量を最小限に抑えることができるため、長期的に安定した細線画像(ファインパターン)を形成することができる。
【0040】
このような電気的ストレスに基づく感光体2の摩耗の液状媒体8による抑制は、次のように考えられる。
すなわち、例えば非接触でかつDCとACとの重畳電圧による帯電の場合とスコロトロン帯電の場合とについて考える。
(非接触AC重畳帯電の場合)
帯電ギャップGを20μmとし、DC電圧VDCをー600Vとし、AC電圧の振幅VPPを1800Vとし、かつ周波数fを1.3Hzとする。すると、帯電電圧VCRは、
CR=VDC+VAC=−600+(VPP/2)sin2πft
したがって、
|VCR|≦1500
つまり、非接触AC重畳帯電における電界強度E1は、
E1≦|VCR|(V)/20(μm)=1500/20=75(V/μm)
である。
【0041】
(スコロトロン帯電の場合)
ワイヤと感光体2表面との距離を20mmで、ワイヤ印加電圧VW=5000Vであるとする。
スコロトロン帯電における電界強度E2は、
E2=5000(V)/20(mm)=0.25(V/μm)
である。したがって、両帯電における電界強度比(E1/E2)は、
E1/E2 =300
となる。すなわち、非接触AC重畳帯電の場合は、電界強度がスコロトロン帯電の場合に比べて300倍となる。
【0042】
そして、非接触AC重畳帯電ではこのような大きな電界強度となるため、帯電部材で発生したイオンが直接感光体2に衝突するイオンダイレクトアタッキング効果(Ion Direct Attacking Effect)が生じる。一方、スコロトロン帯電では、ワイヤが感光体2から比較的大きな距離だけ離れているので、ワイヤ近傍で発生したイオンが直接感光体2に到達することはほとんどない。つまり、放電現象のなだれ現象により、α作用、β作用、γ作用と逐次放電現象が起こって、最終的にはγ作用により生じたイオンが前述の電界強度E2に相当する程度の、非接触AC重畳帯電に比べて弱い電界によって、イオンが感光体2に到着することになる。
【0043】
したがって、非接触AC重畳帯電を行う場合、感光体2の表面に液状媒体8が存在することで、この液状媒体8が前述のイオンダイレクトアタッキング効果を抑制する働きがあると考えられる。つまり、非接触AC重畳帯電の場合は、高電界による感光体2に対して、イオンが衝突するが、感光体2表面上に存在する液状媒体8が弾性体として働くことで、イオンの衝突による衝撃がやわらげる。すなわち、液状媒体8がショックアブゾーバ(緩衝体)の働きをすると考えられる。
【0044】
なお、前述の例では、光書込装置4は感光体2より重力方向で下側に配設されているが、本発明はこれに限定されるものではなく、この光書込装置4を任意の位置に設けることもできる。しかし、光書込装置4を感光体2より重力方向で下側に配設することは、液状媒体8が重力の作用で各マイクロレンズ4jの方へ作用するようになるので好ましい。
【0045】
また、前述の例では、液状媒体塗布装置9は帯電装置3と光書込装置4との間、すなわち光書込装置4の直前に設けるものとしているが、転写装置6とクリーニング装置7との間に設けることもできる。更に、液状媒体塗布装置9はクリーニング装置7と帯電装置3ととの間に設けることもできる。
【0046】
更に、トナーとキャリア液とからなる液体現像剤を用いる従来公知の画像形成装置にあっては、液体現像剤のキャリア液(例えば、シリコンオイル等)を液状媒体8として用いることもできる。この場合には、液体現像剤のキャリア液の量を従来の液体現像剤のキャリア液の量より多くすることが好ましい。このように、液状媒体塗布装置9は現像装置5で構成することもできる。
【0047】
更に、前述の例では、ラインヘッド4aの各マイクロレンズ4jの表面(感光体2との対向面)と感光体2の表面とが液状媒体8で完全に覆われるようにされている。しかし、これに限定されることはなく、例えば、感光体2上に塗布された液体媒体8の表面と各マイクロレンズ4jの表面との間に、若干の隙間が存在するようにすることもできる。しかし、ラインヘッド4aの表面と感光体2の表面とが液状媒体8で完全に覆われるようにすることが好ましい。
【0048】
次に、本発明により得られる効果を確認する実験を行った。
(実験装置)
実験装置はセイコーエプソン社(株)製のカラープリンタLP9000Cを使用した。その場合、帯電装置3、光書込装置4である露光装置、および現像装置5をカラープリンタLP9000Cに装着可能に改造して使用した。実験は、室温25℃、相対湿度60%の環境下で行った。
【0049】
帯電装置3は、両端にギャップ部材を有する帯電ローラ3aを備えた非接触帯電装置である。ギャップ部材は感光体2に当接して、所定の帯電ギャップGを設定するためのものである。帯電ローラ3aは導電性塗料塗装型ローラである。この帯電ローラ3aの芯金としてSUM22の表面にNiめっきを施した直径φ11mmの金属シャフトを用い、カラープリンタLP−9000Cに搭載できる形状に加工した。この金属シャフトはセンタレス研磨を行って、振れ精度が0.01以下に加工されている。
【0050】
そして、この金属シャフトの外周面に、導電性酸化スズ(SnO2)とポリウレタン(PU)樹脂とを1:9の重量比(wt比)で混合して、イオン導電材および水内に分散させて得られた塗装液をスプレー塗装して、膜厚20μmの抵抗層を形成した。導電性SnO2には、株式会社ジェムコ製の商品名「T−1」の導電性SnO2を用いた。この「T−1」はスズ−アンチモン系酸化物である。また、イオン導電材は導電性塗装材に導電性を持たせるためのものであり、本実験で用いたイオン導電材は「YYP−12」(丸菱油化工業株式会社製)である。なお、実験に使用した前述の塗装液をアルミニウム板に20μmの膜厚で塗装して、体積抵抗率を測定したところ、(1.0〜5.0)×1010Ωcmであった。
【0051】
ギャップ部材には、膜厚20μmおよび幅5mmのポリエステル樹脂製テープ(寺岡製作所製、テープNo.610K)を用いた。そして、このポリエステル樹脂製テープを帯電ローラ3aの両端部の外周面にほぼ1周巻き付け固定した。したがって、帯電ギャップは20μmに設定される。
【0052】
帯電ローラ3aに印加する電圧VCR(V)は、直流電圧VDC(V)に交流電圧VAC(V)重畳した電圧である(VCR = VDC+VAC)。具体的には、VDC = −600(V)、VAC = (VPP/2)×sin2πft(周波数f=1.3Hz、時間t(sec)、振幅VPP(V))に設定した。振幅VPP(V)は1800(V)に設定した。
【0053】
露光装置4はラインヘッド4aを用いた。このラインヘッド4aは前述の特許文献1に記載された実験例1のラインヘッドである。すなわち、ラインヘッド4aはマイクロレンズ4jの直径を50μ、曲率半径を32.5μm(レンズ直径の65%)とした。また、ファイバアレイ基板4bと感光体2の結像面との距離を50μmに設定した。
【0054】
また、液状媒体8には、KF−640(信越シリコーン株式会社製)のシリコンオイルを用いた。液状媒体塗布装置9は、不織布にシリコンオイルが毛細管現象により常時染み込むように、オイル溜めに不織布の一部が浸漬した構造に形成した。そして、シリコンオイルが染み込んだ不織布を感光体2全体に対して10gf/cm程度の押圧力で当接させた。この液状媒体塗布装置9を帯電装置3と光書込装置4との間に取り外し可能に配設し、帯電装置3による帯電後で光書込装置4による露光の直前で感光体2にシリコンオイルを塗布した。その場合、感光体2上のシリコンオイルの膜厚はラインヘッド4aの表面に完全に接触する膜厚にした。
【0055】
現像装置5は、基本的にカラープリンタLP9000Cの現像装置と同じである。その場合、現像ギャップを平均50μmになるようにギャップころを改造した。トナーはカラープリンタLP9000Cの現像装置に用いられているトナーであるが、平均粒径4μm程度のトナ−を用いた。
【0056】
実験は、感光体2の表面にシリコンオイルを塗布した場合と、感光体2の表面にシリコンオイルを塗布しない場合とで、A4モノクロ5%印字で20000(20k)枚行った。そして、得られたそれぞれの印字データを比較した。
【0057】
図4は、シリコンオイルが塗布されない感光体2上の白抜き印字データおよび通常印字データの写真と、シリコンオイルが塗布された感光体2上の白抜き印字データおよび通常印字データの写真とを示す図である。
【0058】
図4に示すように、シリコンオイルを塗布した場合の像書込の方が、シリコンオイルを塗布しない場合の像書込よりはるかに鮮明な印字データが得られた。これにより、感光体2とラインヘッド4aとの間に液状媒体8を介在させることで、高精細度の像書込みが行われることが確認された。
【0059】
図5は、本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の他の例の光書込装置に用いられるライヘッドを示す正面図である。
図5に示すように、この例の画像形成装置1における光書込装置4に用いられるラインヘッド4aは、前述の例と同様にファイバアレイ基板4bを備えている。このファイバアレイ基板4bの図5において上面には、画素数に対応した複数個の有機EL素子4cが一列にライン状に配列されて設けられている。これらの複数個の有機EL素子4cにより、発光素子群4dが構成されている。
【0060】
この例の画像形成装置1の光書込装置4においては、各有機EL素子4cによって射出された光がファイバアレイ基板4bによって確実に集光された後、各ファイバアレイ基板4bから画素数に対応した光が液状媒体8を通して感光体2に到達するようになる。これにより、感光体2に静電潜像が書き込まれる。
この例の画像形成装置1の他の構成および他の作用効果は前述の例と同じである。
【0061】
図6は、本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の更に他の例の光書込装置に用いられるライヘッドを示す正面図である。
図6に示すように、この例の画像形成装置1における光書込装置4に用いられるラインヘッド4aは、前述の例と同様に、画素数に対応した複数個の有機EL素子4cが一列にライン状に配列されて設けられている。これらの複数個の有機EL素子4cにより、発光素子群4dが構成されている。そして、各有機EL素子4cの上に、それぞれマイクロレンズ4jが設けられている。これらの複数個のマイクロレンズ4jにより、レンズ群4kが構成されている。
【0062】
この例の画像形成装置1の光書込装置4においては、各有機EL素子4cによって射出された光がそれぞれマイクロレンズ4jによって確実に集光された後、各マイクロレンズ4jから画素数に対応した光が液状媒体8を通して感光体2に到達するようになる。これにより、感光体2に静電潜像が書き込まれる。
この例の画像形成装置1の他の構成および他の作用効果は前述の例と同じである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【図1】本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の一例を模式的にかつ部分的に示す図である。
【図2】図1に示す例の光書込装置に用いられるライヘッドを示し、(a)は正面図、(b)は平面図である。
【図3】感光体上の液状媒体とライヘッドとの関係を説明する図である。
【図4】実験結果の写真を示す図である。
【図5】本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の他の例の光書込装置に用いられるライヘッドを示す正面図である。
【図6】本発明にかかる画像形成装置の実施の形態の更に他の例の光書込装置に用いられるライヘッドを示す正面図である。
【符号の説明】
【0064】
1…画像形成装置、2…感光体、3…帯電装置、4…光書込装置、4a…ラインヘッド、4b…ファイバアレイ基板、4c…有機EL素子、4j…マイクロレンズ、5…現像装置、6…転写装置、7…クリーニング装置、8…液状媒体、9…液状媒体塗布装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を集光するとともに集光した光を被照射体にコヒーレント状に射出するファイバアレイ基板と、前記ファイバアレイ基板にライン状に配列されかつ光を射出する複数の発光素子と、前記ファイバアレイ基板により前記発光素子から射出された光が集められて射出された光をそれぞれ前記被照射体に伝達するとともに、屈折率が1より大きくかつ膜厚が前記発光素子から射出される光の波長より大きい液状媒体とからなることを特徴とする光書込装置。
【請求項2】
光を集光するとともに集光した光を被照射体にコヒーレント状に射出するファイバアレイ基板と、前記ファイバアレイ基板にライン状に配列されかつ光を射出する複数の発光素子と、前記ファイバアレイ基板にこれらの発光素子にそれぞれ対応して配列されかつ前記発光素子から射出された光を集めて被照射体に射出する、前記発光素子の数と同数以下のマイクロレンズと、前記マイクロレンズから射出された光をそれぞれ前記被照射体に伝達するとともに、屈折率が1より大きくかつ膜厚が前記発光素子から射出される光の波長より大きい液状媒体とからなることを特徴とする光書込装置。
【請求項3】
ライン状に配列されかつ光を射出する複数の発光素子と、これらの発光素子にそれぞれ対応して配列されかつ前記発光素子から射出された光を集めて被照射体に射出する、前記発光素子の数と同数以下のマイクロレンズと、前記マイクロレンズから射出された光をそれぞれ前記被照射体に伝達するとともに、屈折率が1より大きくかつ膜厚が前記発光素子から射出される光の波長より大きい液状媒体とからなることを特徴とする光書込装置。
【請求項4】
前記液状媒体は、シリコンオイルおよびフッ素オイル等のオイル、グリセリン、および水のいずれか1つであることを特徴とする請求項1ないし3のいずれか1記載の光書込装置。
【請求項5】
静電潜像が形成される像担持体と、前記像担持体を帯電する帯電装置と、前記像担持体に静電潜像を書き込む光書込装置と、前記像担持体上の静電潜像をトナーで現像して前記像担持体上にトナー像を形成する現像装置と、前記像担持体上のトナー像を転写する転写装置と、前記像担持体上の転写残りのトナーを除去するクリーニング装置とを少なくとも備え、
前記光書込装置は請求項1ないし4のいずれか1記載の光書込装置であるとともに、前記像担持体は前記被照射体であり、更に前記像担持体に前記液状媒体を塗布する液状媒体塗布装置が設けられていることを特徴とする画像形成装置。
【請求項6】
前記液状媒体塗布装置は前記像担持体の回転方向上流側で、前記帯電装置と前記光書込装置との間、前記クリーニング装置と前記帯電装置との間、転写装置と前記クリーニング装置との間のいずれか1の間に設けられていることを特徴とする請求項5記載の画像形成装置。
【請求項7】
前記現像装置は、トナーとキャリア液とからなる液体現像剤により前記静電潜像を現像する現像装置であり、前記液状媒体は前記キャリア液からなることを特徴とする請求項5記載の画像形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−238622(P2008−238622A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−83507(P2007−83507)
【出願日】平成19年3月28日(2007.3.28)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】