説明

光電式エンコーダ

【課題】光軸を傾けて光学系を小型化しても、像面全体でピントが合うようにして、コン
トラストの低下を防ぐ。
【解決手段】メインスケール20と受光素子34の間にレンズ42が挿入されたレンズ光学系を持つ光電式エンコーダにおいて、前記メインスケール20の表面、レンズ42の主面、及び、受光素子34の像面の3者を延長した面が1箇所で交わるシャインプルーフの関係となるように配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電式エンコーダに係る。特に、メインスケールと受光素子の間に、レンズとアパーチャが挿入されたテレセントリック光学系を持つ光電式エンコーダの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されているように、図1に示す如く、メインスケール20と、受光部30を構成する例えば受光素子アレイ34の間に、レンズ42、及び、テレセントリック光学絞りとしてのアパーチャ44からなるレンズ光学系(テレセントリック光学系)40を挿入して、図2に示す如く、レンズ42とメインスケール20のスケール21及び受光素子アレイ34上の受光素子35間の距離a、bを調整することにより、倍率設定ができるようにされた光電式エンコーダが考えられている。図1において、10は光源、fはレンズ42の焦点距離である。
【0003】
このテレセントリック光学系40を用いた光電式エンコーダでは、メインスケール20上の像をレンズ光学系(42、44)を通して受光素子アレイ34上に投影させる。ここで、アパーチャ44をレンズ42の焦点位置に配置することで、メインスケール20とレンズ42間の距離(ギャップ)が変動しても、レンズ42とアパーチャ44と受光素子アレイ34の位置関係が変動しなければ、受光素子アレイ34上に結像される像の倍率変動を抑えることができる。
【0004】
又、特許文献2には、シャインプルーフの条件を利用してレチクル投影光学系の側方の狭い隙間からウェハ上に入射することが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2004−264295号公報
【特許文献2】特開平10−82611号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1のようなテレセントリック光学系を用いた光電式エンコーダを反射型で構成する場合、図3に示すようにアパーチャ44が中心部に形成されたハーフミラー46を挿入すると、ハーフミラー46を2回通過して受光素子34に到達する光量が(1/2)×(1/2)=(1/4)に減少してしまい、到達光量を確保しようとすると、光源10への供給電流が4倍必要になる。又、光軸がメインスケール20の表面に対して垂直になるので、光学系が小型化できない。図において、12は、光源10から出た光を平行光線化するためのコリメートレンズである。
【0007】
一方、図4のように、光軸を斜めにすると、図5のように、中心部と端部でエアギャップが異なってしまい、たとえば中央で合焦させると上下でピンボケを生じて、受光面全域でコントラストを確保することができず、信号検出効率が低下してしまうという問題点を有していた。
【0008】
なお、シャインプルーフの条件をテレセントリック光学系を用いた光電式エンコーダに用いることは、考えられていなかった。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、光軸を傾けて光学系を小型化しても、像面全体でピントが合うようにして、コントラストの低下を防ぐことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、メインスケールと受光素子の間にレンズ光学系が配設された光電式エンコーダにおいて、前記メインスケールの表面、レンズの主面、及び、受光素子の像面の3者を延長した面が一箇所で交わるシャインプルーフの関係となるように配置したことにより、前記課題を解決したものである。
【0011】
又、前記メインスケールの表面とレンズ主面がなす角度と、レンズ主面と受光素子の像面がなす角度を同じとしたものである。
【0012】
又、前記レンズ光学系を、レンズと、その焦点位置に配設されたアパーチャからなるテレセントリック光学系としたものである。
【0013】
本発明は、又、メインスケールと受光素子の間に、第1のレンズと、少なくとも第2のレンズを、その焦点が前記第1のレンズの焦点位置に来るように挿入したレンズ光学系とすると共に、前記メインスケールの表面、前記第1のレンズの焦点と前記第2のレンズの焦点を含み、且つ、光軸に対して垂直な焦点面、及び、受光素子の像面の3者を延長した面が1箇所で交わるシャインプルーフの関係となるようにして、倍率も補正できるようにしたものである。
【0014】
又、前記メインスケールの表面と焦点面がなす角度と、焦点面と受光素子の像面がなす角度を同じとしたものである。
【0015】
又、前記レンズ光学系を両側テレセントリック光学系にしたものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、図6に示す如く、被写体面、レンズ主面、像面の3者を延長した面が1箇所で交われば、像面全体でピントが合うというシャインプルーフの条件を満足するので、像面全体でピントが合う。従って、光軸を傾けて光学系を小型化しても、コントラストの低下を防ぐことができる。
【0017】
なお、図6のA’点とB’点の倍率は異なり、被写体が歪んで写るが、第1のレンズと第2のレンズを、お互いの焦点を一致させて連結したレンズ光学系とした場合は、倍率を補正して、被写体の歪みを防ぐこともできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
【0019】
本発明の第1実施形態は、図7に示す如く、スケール20上の被写体面、レンズ42の主面、及び、受光素子34上の像面が、シャインプルーフの条件を満足し、且つ、被写体面とレンズ主面のなす角度θ1と、レンズ主面と像面のなす角度θ2が一致するように、スケール20、レンズ42、及び、受光素子34を配置したものである。
【0020】
本実施形態においては、θ1=θ2なので、像の光学倍率
M=tanθ2/tanθ1=1
の1倍光学系となる。
【0021】
特にθ1=θ2=45°の時は、θ1+θ2=90°になり、組立が容易である。
【0022】
又、図8に示す変形例のように、レンズ42の焦点位置にアパーチャ44を配設したテレセントリック光学系40にすることもできる。
【0023】
又、図9に示す第2実施形態のように、θ1≠θ2として、M倍光学系とすることもできる。
【0024】
次に、図10を参照して、本発明の第3実施形態を詳細に説明する。
【0025】
本実施形態は、焦点面46の反対側に、レンズ42(第1のレンズとも称する)と同じ第2のレンズ48を、その焦点が第1のレンズ42の焦点に来るように逆向きに挿入したレンズ光学系50とし、被写体面、第1のレンズ42と第2のレンズ48の焦点を含み、且つ、光軸に対して垂直な面(焦点面と称する)面、及び、像面がシャインプルーフの条件を満足すると共に、被写体面とアパーチャ面のなす角度θ1と、アパーチャ面と像面のなす角度θ2が一致するように、スケール20、レンズ光学系50、及び、受光素子34を配置したものである。
【0026】
本実施形態においては、入側の第1のレンズ42と出側の第2のレンズ48が同じ物であるため、第1のレンズ42で発生する収差を第2のレンズ48でほぼ完全に逆補正することができ、収差をほぼ完全にキャンセルして、信号検出効率を大きく改善することができる。
【0027】
又、第2のレンズ48の焦点が第1のレンズ42の焦点に来るように挿入されているので、第2のレンズ48を出た光は平行光となり、第1実施形態に比べて像の台形歪み(倍率)が補正される。
【0028】
特にθ1=θ2=45°の時は、θ1+θ2=90°になり、組立が容易である。
【0029】
又、図11に示す変形例のように、レンズ光学系50を、第1のレンズ42と第2のレンズ48の焦点位置にアパーチャ44を配設した両側テレセントリック光学系51にすることもできる。
【0030】
又、図12に示す第4実施形態のように、θ1≠θ2として、M倍光学系とすることもできる。この場合、入側レンズ42と出側レンズ48が違う物となるので、収差を取り切れない恐れがあるが、ギャップ方向の組立許容範囲は拡大できる。
【0031】
ここで、2つのレンズを、お互いの焦点を一致させて連結したレンズ光学系において、2つのレンズの焦点を含み、且つ、光軸に対して垂直な焦点面をレンズ系の主面としてシャインプルーフの原理を適用する理由を述べる。図13のような、入側レンズ42の焦点距離がf1、出側レンズ48の焦点距離がf2のレンズ光学系50において、物体を傾けた際の像のピント位置s2’を考える。
【0032】
(i)s1=−f1(光軸上)の時:
2’=f2
(ii)s1≠−f1(光軸外)の時:
(1/s1’)=(1/s1)+(1/f1
より、
1’=s11/(s1+f1
よって、出側レンズ48にとっての物体位置は、
2=−(f1+f2−s1’)=−(s12+f12+f12)/(s1+f1
【0033】
従って、
(1/s2’)=(1/s2)+(1/f2)より
2’={f2(s12+f12+f12)}/f12
=(f22/f12)・s1+f2+(f22/f12)・f1
2’−f2=(f22/f12)(s1+f1
【0034】
図13より、
Δx’=(f22/f12)・Δx …(1)
【0035】
ここで、物体の高さをy、像の高さをy’とすると、
y’=βy=−(f2/f1)・y
【0036】
今、y=θ1Δxとおくと、(1)式より
y’=βy=−(f2/f1)・y
=−(f2/f1)・θ1Δx
=−(f2/f1)・θ1・(f12/f22)・Δx’
=−θ1・(f1/f2)・Δx’
【0037】
よって、物体面をθ1傾けた場合、像面をθ1・(f1/f2)傾けると、全面にピントが合うこととなる。又、このことから、物体面と像面の延長線の交点は焦点面46に来ることとなる。
【0038】
なお、前記実施形態においては、いずれも、スケール20に対して受光素子34を傾けて組み立てなければならず、組み立てに注意を要する。そこで、図14を参照して、スケール20と受光素子34を平行に構成することが可能な、本発明の第5実施形態を詳細に説明する。
【0039】
本実施形態は、図10に示した第3実施形態と同様の光電式エンコーダにおいて、図14に示す如く、メインスケール20側のレンズ光学系50(第1のレンズ光学系とも称する)に加えて、受光素子34側にも、第3、第4のレンズ62、68でなる第2のレンズ光学系60を追加し、メインスケール20の表面、第1のレンズ光学系50の焦点面46、及び、第3実施形態で受光素子34があった面(仮想面と称する)の3者、及び、該仮想面、第2のレンズ光学系60の焦点面66、及び、受光素子34の像面の3者が、それぞれシャインプルーフの関係を満足するようにしたものである。
【0040】
本実施形態において、特にθ1=θ2=θ3=θ4=45°とした場合には、スケール20と受光素子34を平行に構成することができ、組み立てが容易になると共に、スケール20と受光素子34がオフセットしているので、光源10のスペースもとり易い。
【0041】
又、図15に示す変形例のように、光軸と焦点面46が交差する位置にアパーチャ44を、また、光軸と焦点面66が交差する位置にアパーチャ64を配設して、両側テレセントリック光学系51、61にすることもできる。
【0042】
なお、第1のアパーチャ44で開口数NAが規定されているので、第2のアパーチャ64は省略することもできる。
【0043】
又、前記レンズ42、48、62、68としては、高精度であるが高価な平凸レンズや両凸レンズの他、歪曲収差が大きいが安価な、球状のボールレンズ、光線をレンズ媒質内で放物線状に屈折させる、屈折率分布型の筒状のGRINレンズ(セルフォックレンズとも称する)、又は、ドラムレンズ等の同じレンズを対で用いて、収差を相殺することもできる。
【0044】
本発明は、インデックス格子と受光素子が別体とされたもの、両者が一体とされた受光素子アレイを有するもの、どちらにも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】テレセントリック光学系を用いた光電式エンコーダの要部構成を示す斜視図
【図2】同じく平面図
【図3】ハーフミラーを用いた先行技術を示す光路図
【図4】光軸を設けた先行技術を示す光路図
【図5】図4の問題点を示す図
【図6】本発明の原理を示す図
【図7】本発明の第1実施形態の要部構成を示す光路図
【図8】本発明の第1実施形態の変形例を示す光路図
【図9】本発明の第2実施形態の要部構成を示す光路図
【図10】本発明の第3実施形態の要部構成を示す光路図
【図11】本発明の第3実施形態の変形例を示す光路図
【図12】本発明の第4実施形態の要部構成を示す光路図
【図13】両側テレセントリック光学系へのシャインプルーフの原理の適用法を示す光路図
【図14】本発明の第5実施形態の要部構成を示す光路図
【図15】本発明の第5実施形態の変形例を示す光路図
【符号の説明】
【0046】
10…光源
20…メインスケール
30…受光部
34…受光素子
40…テレセントリック光学系
42、48、62、68…レンズ
44、64…アパーチャ
46、66…焦点面
50、60…レンズ光学系
51、61…両側テレセントリック光学系

【特許請求の範囲】
【請求項1】
メインスケールと受光素子の間に、レンズ光学系を持つ光電式エンコーダにおいて、
前記メインスケールの表面、レンズの主面、及び、受光素子の像面の3者を延長した面が1箇所で交わるシャインプルーフの関係となるように配置したことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項2】
前記メインスケールの表面とレンズ主面がなす角度と、レンズ主面と受光素子の像面がなす角度を同じとしたことを特徴とする請求項1に記載の光電式エンコーダ。
【請求項3】
前記メインスケールの表面とレンズ主面がなす角度と、レンズ主面と受光素子の像面がなす角度が45°であることを特徴とする請求項2に記載の光電式エンコーダ。
【請求項4】
前記レンズ光学系は、レンズと、該レンズの焦点位置に配設されたアパーチャからなるテレセントリック光学系であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項5】
メインスケールと受光素子の間に、レンズ光学系を持つ光電式エンコーダにおいて、
第1のレンズと受光素子の間に、少なくとも第2のレンズを、その焦点が前記第1のレンズの焦点に来るように挿入したレンズ光学系とすると共に、
前記メインスケールの表面、前記第1のレンズの焦点と前記第2のレンズの焦点とを含み、且つ、光軸に対して垂直な焦点面、及び、受光素子の像面の3者を延長した面が1箇所で交わるシャインプルーフの関係となるようにしたことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項6】
前記メインスケールの表面と前記焦点面がなす角度と、前記焦点面と受光素子の像面がなす角度を同じとしたことを特徴とする請求項5に記載の光電式エンコーダ。
【請求項7】
前記メインスケールの表面と前記焦点面がなす角度と、前記焦点面と受光素子の像面がなす角度が45°であることを特徴とする請求項6に記載の光電式エンコーダ。
【請求項8】
メインスケールと受光素子の間に、複数のレンズ光学系が挿入された光電式エンコーダであって、
メインスケール側のレンズ光学系、及び、受光素子側のレンズ光学系が、それぞれ、シャインプルーフの関係を満足するようにしたことを特徴とする光電式エンコーダ。
【請求項9】
前記メインスケールの表面と受光素子の像面が平行であることを特徴とする請求項8に記載の光電式エンコーダ。
【請求項10】
前記レンズ光学系が、両側テレセントリック光学系であることを特徴とする請求項5乃至9のいずれかに記載の光電式エンコーダ。
【請求項11】
前記レンズ光学系を構成するレンズが、同じボールレンズ、GRINレンズ又はドラムレンズの対であることを特徴とする請求項5乃至10のいずれかに記載の光電式エンコーダ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2006−284564(P2006−284564A)
【公開日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55414(P2006−55414)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.セルフォック
【出願人】(000137694)株式会社ミツトヨ (979)
【Fターム(参考)】