説明

免震建物の水平変位計測装置

【課題】安価で、かつ、既に設置されている免震装置に対して格別の設置スペースを確保する必要もなく、簡単に設置でき、水平変位の計測機能の精度もよい免震建物の水平変位計測装置を得る。
【解決手段】すべり部分である積層ゴム4と非すべり部分である滑り板5とからなる免震装置3を配設した免震建物において、すべり部分と水平方向で離間する位置に、水平方向の長尺部材7をすべり部分の水平移動による押圧で水平移動可能に、かつ、移動位置で停止可能に取り付けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地震時に免震建物の水平変位を計測する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
免震建物は、図1、図2にも示すように建物の基礎1と躯体2との間に免震装置3を設置したもので、免震装置3は例えば天然ゴムとインサートプレート(鋼板)の互層構造で水平方向に柔らかい特性を有する積層ゴム4で構成され、基礎1または躯体2のいずれかの側にステンレス板などによる滑り板5を配設し、この滑り板5と積層ゴム4とがスライド自在に組み合わさっている。
【0003】
そして、地震発生時には積層ゴム4が水平方向に変形しながら滑り板5の上または下を水平移動し、これにより水平方向の揺れを減少させている。
【0004】
図中6はセラミックファイバーなどによる耐火被覆を示し、これは、免震装置3を設置した例えば地下1階を駐車場や機械室として利用する場合に、この階の耐火性能を確保するために免震装置3の周囲に配設するものである。
【0005】
ところで、免震建物は施工後の維持管理のために、変位計を設置して大地震時の水平方向の変形を計測しなければならないことが義務付けられている。変位計としては、従来は例えばケガキ式の計測器を別途設置することが多い。
【0006】
前記従来技術は当業者間で一般的に行われているものであり、文献公知発明にかかるものではない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
計測器を別途設置する方法では、計測器が例えば40〜100万円もの高額のものであるためコスト高となるだけでなく、設置スペースも別途確保する必要があり、特に設置スペースの確保は後付けで計測器を設置することになるため困難な場合が多い。
【0008】
本発明の目的は前記従来例の不都合を解消するものとして、安価で、かつ、既に設置されている免震装置に対して格別の設置スペースを確保する必要もなく、簡単に設置でき、水平変位の計測機能の精度もよい免震建物の水平変位計測装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は前記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、すべり部分と非すべり部分とからなる免震装置を配設した免震建物において、すべり部分と水平方向で離間する位置に、水平方向の長尺部材をすべり部分の水平移動による押圧で水平移動可能に、かつ、移動位置で停止可能に取り付けたことを要旨とするものである。
【0010】
請求項1記載の本発明によれば、地震発生時にすべり部分が非すべり部分の上または下でこれにそって水平方向に移動すると、この移動にともなって長尺部材を押す。この押圧により長尺部材はスライドし、地震が収まった後もその移動位置に停止する。よって、長尺部材のスライド量を目盛りで見れば、変位量がわかる。また、長尺部材は定規のような部材で足りるから、設置スペースもわずかであり、コスト的にも安価である。
【0011】
請求項2記載の発明は、前記長尺部材は、基礎と躯体との間に配設される耐火被覆に水平移動可能に取り付けたことを要旨とするものである。
【0012】
請求項2記載の本発明によれば、長尺部材は耐火被覆に取り付けられるから、設置のためのスペースを別途格別に確保する必要がなく、設置が容易であり、また、地震が収まったときには耐火被覆は元の位置に復位するが長尺部材は移動位置に止まるから、耐火被覆の設置場所を基準にして耐火被覆に対する移動量をみることで変位量を簡単に計測できる。
【0013】
請求項3記載の発明は、前記長尺部材は、ノッチ式の留め具で基礎または躯体に水平移動可能に取り付けられることを要旨とするものである。
【0014】
請求項3記載の本発明は、定規形状のものを留め具で取り付けるだけでよいから、設置スペースを別途格別に確保する必要がなく、設置も容易で、また、地震が収まったときは、基礎または躯体に取り付けられている留め具は元の位置に復位するが長尺部材は移動位置に止まるから、留め具に対する長尺部材の移動量を見ることで変位量を簡単に計測できる。
【0015】
請求項4記載の発明は、前記長尺部材は、積層ゴムの周囲の4方向に配置されることを要旨とするものである。
【0016】
請求項4記載の本発明によれば、長尺部材は積層ゴムの周囲のスペースに簡単に配置できるから、どの方向の水平移動に対しても変位量を簡単に計測でき、どの方向でどのくらいの距離の最大変位が生じたかも判別できる。
【発明の効果】
【0017】
以上述べたように本発明の免震建物の水平変位計測装置は、定規状の部材を免震装置の周辺に配設するだけでよいから、安価で、かつ、既に設置されている免震装置に対して格別の設置スペースを確保する必要もなく、簡単に設置でき、地震発生時には滑り支承されている免震装置で実際に押された分だけをダイレクトに計測するから、水平変位の計測機能の精度もよいものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、図面について本発明の実施の形態を詳細に説明する。図1は本発明の免震建物の水平変位計測装置の第1実施形態を示す縦断正面図で、免震建物の構成は既に説明したとおり、免震装置の基礎1と躯体2との間に免震装置3を設置したもので、免震装置3は例えば天然ゴムとインサートプレート(鋼板)の互層構造で水平方向に柔らかい特性を有するすべり部分である積層ゴム4で構成され、基礎1の側にステンレス板などによる非すべり部分である滑り板5を配設し、この滑り板5と積層ゴム4とがスライド自在に組み合わさって、建物が滑り支承される。
【0019】
また、図中6はセラミックファイバーなどによる耐火被覆を示し、これは、免震装置3を設置した例えば地下1階を駐車場や機械室として利用する場合に、この階の耐火性能を確保するために免震装置3の周囲に配設している。
【0020】
かかる免震建物においては、地震時には、基礎1およびこの上に固定されている滑り板5は地震の震動によって水平方向に移動(横揺れ)するが、滑り板5の上に支承されている建物は積層ゴム4が滑り板5に滑り支承されていることで縁が切れて、積層ゴム4が滑り板5上を滑ることにより横揺れが軽減される。
【0021】
本発明はこのような滑り支承される免震建物に設置するものとして、地震の横揺れで移動する基礎1の上面で、積層ゴム4と水平方向で離間する位置に、水平方向の変位を計測する長尺部材7を配設した。
【0022】
この長尺部材7は、例えば図3、図4に示すように厚さ1〜2mm程度、幅15〜20mm程度の長尺なステンレス板の両端を上向きに90度折り曲げて、この折り曲げ部7aを積層ゴム4の水平移動により押される被押圧部としたもので、長尺な本体部7bには水平方向の移動量を示すための目盛り8が付してある。
【0023】
図中9は、本体部7bにスライド自在に組み合わさる断面コ字形のノッチ式の留め具で、本体部7bを基礎1上に留める。この場合、本体部7bの下面には磁石10を貼着して、磁石10による吸着力で平常時には基礎1上に固定され、地震時には積層ゴム4からの押圧で基礎1上を水平移動可能にしておく。
【0024】
長尺部材7の配置は、地震時の大きな変位のみ検出できればよいものとして、積層ゴム4の周面から例えば15〜20cm程度離間させた位置とし、かつ、積層ゴム4の周囲の4方向に配置する。
【0025】
長尺部材7の取付方法は、前記のような留め具9に限定されるものではなく、耐火被覆6が配設されている箇所では、この耐火被覆6に貫通孔11を形成し、この貫通孔11に変位計測長尺部材7の本体部7bを挿通し、折り曲げ部7aを貫通孔11の縁に係止する。
【0026】
次に作用について説明する。平常時は磁石10による吸着力で変位計測長尺部材7は本体部7bが基礎1の上に吸着されて積層ゴム4から所定距離はなれた位置にある。地震が発生すると、基礎1は横揺れするが、滑り板5の上に積層ゴム4を介して支承されている躯体2は横揺れが減少し、結果として基礎1上の長尺部材7の折り曲げ部7aが磁石10の吸着力に抗して積層ゴム4で水平方向に押される(図1の鎖線位置)。
【0027】
これにより、長尺部材7の本体部7bが基礎1上を滑って水平移動する。この場合、留め具9は基礎1に固定されていて移動しないから、留め具9に対する本体部7bの位置が変わる。そして、地震がおさまった後、躯体2および基礎1は元の位置に復位するが、本体部7bは留め具9によって移動位置に保持される。
【0028】
よって、目盛り8に対する留め具9の位置を、地震発生前と発生後とで比較し、どの位置にまで移動したかをみれば、水平変位量がわかる。
【0029】
同様にして、耐火被覆6に係止されている変位計測長尺部材7も、地震により積層ゴム4により折り曲げ部7aが押されて水平移動し先端が貫通孔11からさらに外方に突出する。そして、地震がおさまった後も、耐火被覆6から外方に突出した本体部7bは、突出分がそのまま突出している状態が保持されるから、耐火被覆6を基準点として突出長を計れば、水平変位量がわかる。
【0030】
そして、長尺部材7は積層ゴム4の周囲の4方向に配置したから、最大変位がどの方向で発生したかもわかる。
【0031】
前記第1実施形態は滑り板5を基礎1に固定した場合であるが、滑り支承の構造の免震建物であればこれに限定されるものではなく、第2実施形態として図2に示すように滑り板5を躯体2の側に取り付ける場合にも実施でき、この場合は、長尺部材7の折り曲げ部7aを下向きにして躯体2の下面に磁石10で取り付ける。また、中間免震層の建物であれば柱に取付ける場合もある。
【0032】
長尺部材7の構造および作用は第1実施形態と同様であるが、この第2実施形態では地震時には積層ゴム4が基礎1と一体となって横揺れし、滑り板5で縁切りされている躯体2に取り付けた測長尺部材7の折り曲げ部7aを押圧する。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の免震建物の水平変位計測装置の第1実施形態を示す縦断正面図である。
【図2】本発明の免震建物の水平変位計測装置の第2実施形態を示す縦断正面図である。
【図3】本発明の免震建物の水平変位計測装置の要部である長尺部材の本体部側の斜視図である。
【図4】本発明の免震建物の水平変位計測装置の要部である長尺部材の斜視図である。
【符号の説明】
【0034】
1 基礎 2 躯体
3 免震装置 4 積層ゴム
5 滑り板 6 耐火被覆
7 測長尺部材 7a 折り曲げ部
7b 本体部 8 目盛り
9 留め具 10 磁石
11 貫通孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
すべり部分と非すべり部分とからなる免震装置を配設した免震建物において、すべり部分と水平方向で離間する位置に、水平方向の長尺部材をすべり部分の水平移動による押圧で水平移動可能に、かつ、移動位置で停止可能に取り付けたことを特徴とする免震建物の水平変位計測装置。
【請求項2】
前記長尺部材は、基礎と躯体との間に配設される耐火被覆に水平移動可能に取り付けたことを特徴とする請求項1記載の免震建物の水平変位計測装置。
【請求項3】
前記長尺部材は、ノッチ式の留め具で基礎または躯体に水平移動可能に取り付けられることを特徴とする請求項1記載の免震建物の水平変位計測装置。
【請求項4】
前記長尺部材は、積層ゴムの周囲の4方向に配置されることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の免震建物の水平変位計測装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−38804(P2006−38804A)
【公開日】平成18年2月9日(2006.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−223150(P2004−223150)
【出願日】平成16年7月30日(2004.7.30)
【出願人】(000001373)鹿島建設株式会社 (1,387)
【Fターム(参考)】