説明

免震建物用の排水配管構造

【課題】免震建物の可動範囲が大きい場合でも容易にかつ十分に対応することができる免震建物用の排水配管構造を提供することを課題とする。
【解決手段】地盤に固定される下側管11と、免震建物1の屋内排水設備に接続される上側管9と、該下側管11と該上側管9との境界部に配置される板状体12とを有しており、該板状体12には該下側管11と該上側管9とを連通する連通口13が設けられ、該上側管9の下端と該板状体12とは横方向に相互摺動可能とされている免震建物用の排水配管構造を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は免震建物用の排水配管構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、地震が発生したときに免震建物の床側排水管と底側排水管とが水平方向に相対的に大きな動きをしても、床側排水管と底側排水管との連通状態を保って排水を行なうことができる床下排水管の構造として、床側排水管の一端にフレキシブル管の一端が接続されると共に、このフレキシブル管の他端側が床側排水管の前記一端開口部を通じて内部奥方に引出し可能に差し込まれた構造が一般に提供されている。
この場合、床側排水管と底側排水管との水平方向における相対的な動きにより、フレキシブル管が床側排水管からこの差込み長さ寸法よりも短い長さ寸法引き出されても、床側排水管と底側排水管とがフレキシブル管を通じて連通状態を維持できるようになっている(特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開2003−253718号公報(第3−5頁、第1−5図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら上記従来の構成では、免震建物の可動範囲が大きい場合には、免震建物の大きな可動範囲に対応するために長いフレキシブル管を使用しなければならず、フレキシブル管の管長に制限がある場合には、対応することが困難であるという問題があった。
また上記従来の構成では、地震の揺れによって床側排水管の一端(ホッパー部)からフレキシブル管の一端が抜けてしまった場合、フレキシブル管が(ホッパー部)から抜けたままとなるので、排水が撒き散らされるという問題があり、フレキシブル管と床側排水管とを再び接続する労力や手間がかかるという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上記従来の課題を解決するための手段として、地盤に固定される下側管11と、免震建物1の屋内排水設備に接続される上側管9と、該下側管11と該上側管9との境界部に配置される板状体12とを有しており、該板状体12には該下側管11と該上側管9とを連通する連通口13が設けられ、該上側管9の下端と該板状体12とは横方向に相互摺動可能とされている免震建物用の排水配管構造を提供するものである。
この場合、該上側管9の下端と該板状体12とは相互上下動可能とされており、該上側管9は該板状体12に向けて付勢されていることが望ましい。
また、該板状体12の周縁には周壁部15が設けられていることが望ましい。
更に、該板状体12の連通口13の周縁には環状凹部14が設けられていることが望ましい。
また更に、該上側管9の下端には封止部材10が取り付けられていることが望ましい。
また、該板状体12の表面には弾性シート16が取り付けられていることが望ましい。
【発明の効果】
【0006】
本発明では、地盤に固定される下側管11と免震建物1の屋内排水設備に接続される上側管9との境界部に板状体12が配置されており、該上側管9の下端と該板状体12とが横方向に相互摺動可能とされているため、免震建物1の可動範囲が大きい場合であっても、該板状体12のサイズを大きくするだけで、免震建物1の大きな可動範囲に容易にかつ十分に対応することができる。
また、上側管9の下端と板状体12とが横方向に相互摺動可能とされているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該板状体12の連通口13の位置とずれた場合でも、その後に免震建物1が平常時の位置に復帰したときには、該上側管9の位置が該板状体12の連通口13の位置が同じになり、該板状体12の連通口13を介して該上側管9と下側管11は再び接続される。
更に、上側管9の下端と板状体12とが横方向に相互摺動可能とされているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該板状体12の連通口13の位置とずれた場合であっても、該上側管9の下端は該板状体12の平坦な上面に当接しており、該上側管9から排水が撒き散らされるのを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下、本発明を実施例1〜実施例3により詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
本発明を図1〜図5に示す一実施例によって説明する。
図1〜図3に示すように、免震建物1の屋内排水設備の排水口(図示せず)にはそれぞれ屋内排水管である可撓管2の上流側が接続されており、該複数本の可撓管2の下流側は集中排水ます3Aの流入受口4にそれぞれ接続されている。
【0009】
該集中排水ます3Aの周囲側面には複数個の流入受口4が設けられており、該集中排水ます3Aの下面には一個の流出口5Aが設けられており、更に、該集中排水ます3Aの上面には蓋体6が着脱自在に取り付けられている(図2参照)。また、該集中排水ます3Aの四隅には垂直支持杆7がそれぞれ取り付けられており、該集中排水ます3Aは該垂直支持杆7によって免震建物1の床下に上下摺動可能に垂架支持されるとともに、該垂直支持杆7に嵌着されたばね8によって下向きに付勢された状態とされている。
【0010】
そして、該集中排水ます3Aの下面の流出口5Aには上側管9の上流側が接続されており、該上側管9の下端には封止部材であるゴムパッキン10が取り付けられている(図3参照)。本実施例では、該ゴムパッキン10の材料として、耐久性を向上させるために硬度の大きいゴム材料を使用している。
【0011】
一方、地盤に固定される下側管11は床下に埋設されており、該下側管11の下流側は屋外排水ます(図示せず)に接続されている。そして、該下側管11の上流側と該上側管9の下流側との境界部には板状体である防水パン12が配置されており、該防水パン12の中央部には該下側管11と該上側管9とを連通する連通口13が設けられている。図3に示すように、該防水パン12の連通口13の周縁には環状凹部14が設けられており、また、該防水パン12の周縁には周壁部15が設けられており、更に、該防水パン12の表面には弾性シートであるゴムシート16が取り付けられている。
【0012】
このように、免震建物側の上側管9の下端と地盤側の防水パン12とは横方向に相互摺動可能とされているとともに、該上側管9の下端と該板状体とは僅かに相互上下動可能とされており、該上側管9は該防水パン12に向けてばね8によって付勢されている。
本実施例では、平常状態で、上側管9の下端が該防水パン12の環状凹部14に落ち込んだ状態で安定に位置するようにされている。
【0013】
上記のような免震建物用の排水配管構造において、地震が発生して免震建物側の上側管9と地盤側の防水パン12とが横方向に相互摺動した場合には、図4および図5に示すように、該上側管9がばね8の付勢力に抗して僅かに上方に摺動し、該上側管9の下端が該防水パン12の環状凹部14から脱け出すとともに、該上側管9の下端は該防水パン12の平坦な上面を横方向に摺動する。
【0014】
そして地震の揺れが収まった後、免震建物1の免震装置(図示せず)の復元力によって該上側管9は再びもとの位置に戻り、再び上側管9の下端が該防水パン12の環状凹部14に落ち込んで安定に位置することとなる。
【0015】
上記のように、地盤に固定される下側管11と免震建物1の屋内排水設備に接続される上側管9との境界部に防水パン12が配置されており、該上側管9の下端と該防水パン12とが横方向に相互摺動可能とされているため、免震建物1の可動範囲が大きい場合であっても、該防水パン12のサイズを大きくするだけで、免震建物1の大きな可動範囲に容易にかつ十分に対応することができる。
【0016】
また、上側管9の下端と防水パン12とが横方向に相互摺動可能とされているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置とずれた場合でも、その後に免震建物1が平常時の位置に復帰したときには、該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置が同じになり、該防水パン12の連通口13を介して該上側管9と下側管11は再び接続される。
【0017】
更に、上側管9の下端と防水パン12とが横方向に相互摺動可能とされているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置とずれた場合であっても、該上側管9の下端は該防水パン12の平坦な上面に当接しており、該上側管9から排水が撒き散らされるのを防止することができる。
【0018】
該上側管9の下端と該防水パン12とが相互上下動可能とされており、該上側管9が該防水パン12に向けて付勢されているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置とずれた場合であっても、該付勢された上側管9の下端が該防水パン12の平坦な上面に当接して、該上側管9から排水が撒き散らされるのを確実に防止することができる。
【0019】
該防水パン12の周縁に周壁部15が設けられているので、地震の揺れによって該上側管9の下端が該防水パン12の上面から瞬間的に離れ、該上側管9から排水が僅かに流出した場合であっても、該排水は該防水パン12の周壁部15によって受け止められ、該防水パン12の外側に流れ出ることがない。
【0020】
該防水パン12の連通口13の周縁に環状凹部14が設けられているので、地震の揺れによって該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置とずれた後に免震建物1が平常時の位置に復帰する場合、該上側管9の位置が該防水パン12の連通口13の位置が同じになったときに、該防水パン12の連通口13の環状凹部14に該上側管9の下端が落ち込んで、該防水パン12の連通口13を介して該上側管9と下側管11が確実に接続される。また、平常時においても、該防水パン12の連通口13の上に該上側管9が安定に位置することができる。
【0021】
該上側管9の下端にゴムパッキン10が取り付けられているので、該ゴムパッキン10を介して該上側管9の下端が該防水パン12の上面に密着して封止され、排水が撒き散らされるのをより確実に防止することができるとともに、汚臭が漏れるのを防止することができる。
【0022】
該防水パン12の表面にゴムシート16が取り付けられているので、該ゴムシート16を介して該防水パン12の上面に該上側管9の下端が密着して封止され、排水が撒き散らされるのをより更に確実に防止することができるとともに、汚臭が漏れるのを確実に防止することができる。その上、該ゴムシート16によって該ゴムパッキン10の磨耗を低減することができ、該ゴムパッキン10の耐久性を向上させることができる。
【実施例2】
【0023】
図6には他の実施例が示される。
図1〜図5に示した実施例1では、下面に流出口5Aが設けられた集中排水ます3Aを使用していたのに対して、図6に示す本実施例では、側面に流出口5Bが設けられた集中排水ます3Bを使用している。そして、該集中排水ます3Bの側面の流出口5Bには側管17が取り付けられ、該側管17には90°エルボ18を介して上側管9が接続されている。
【0024】
本実施例の構成は、上記のような相違がある以外は実施例1と同様の構成であり、したがって、本実施例でも、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【実施例3】
【0025】
図7には更に他の実施例が示される。
図1〜図5に示した実施例1に対して、本実施例では、免震建物1の屋内排水設備であるトイレ19からの排水を単独で屋外に連絡する場合を例示する。
図7に示すように、トイレ19の排水口に接続されている屋内排水管でる直管2Cには、上側管9が上下摺動可能に接続されており、また、該上側管9の上部には取付板20が取り付けられており、該取付板20の四隅には垂直支持杆7がそれぞれ取り付けられている。そして、該上側管9は該垂直支持杆7によって免震建物1の床下に上下摺動可能に垂架支持されるとともに、該垂直支持杆7に嵌着されたばね8によって下向きに付勢された状態とされている。
【0026】
そして、本実施例の構成は、上記のような相違がある以外は実施例1と同様の構成であり、したがって、本実施例でも、実施例1と同様の作用効果を奏することができる。
【0027】
以上、本発明の実施の形態を実施例により説明したが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではなく、請求項に記載された範囲内において目的に応じて変更・変形することが可能である。
例えば、上記実施例以外、地盤に固定される下側管11は床下に埋設されていなくてもよく、図8に示すように、床上に配置されて地盤に固定されていてもよい。
また、上記実施例では、ばね8を使用して上側管9を板状体に向けて付勢するものとして説明したが、上記実施例以外、上側管9が取り付けられる集中排水ます3の自重によって下向きに付勢されていてもよい。
更に、上記実施例では、封止部材であるゴムパッキン10と弾性シートであるゴムシート16とを併用するものとして説明したが、本発明では、少なくとも上側管9の下端と板状体である防水パン12の上面とを密着させて排水管路を封止することができれば良いとの観点から、ゴムパッキン10とゴムシート16とのいずれか一方のみを用いても良い。また、同様の観点から、連通口13の開口周縁に封止部材でるゴムパッキン10を取り付けることにより、該上側管9の下端と連通口13とを密着させる等しても良い。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、免震建物の可動範囲が大きい場合でも容易にかつ十分に対応することができる免震建物用の排水配管構造として、産業上利用することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】実施例1の免震建物用の排水配管構造の説明側面図である。
【図2】集中ますの説明側面図である。
【図3】下側管と上側管との境界部の説明側断面図である。
【図4】免震建物用の排水配管構造(相互摺動状態)の説明側面図である。
【図5】下側管と上側管との境界部(相互摺動状態)の説明側断面図である。
【図6】実施例2の免震建物用の排水配管構造の説明側面図である。
【図7】実施例3の免震建物用の排水配管構造の説明側面図である。
【図8】他の実施例の免震建物用の排水配管構造の説明側面図である。
【符号の説明】
【0030】
1 免震建物
9 上側管
10 封止部材(ゴムパッキン)
11 下側管
12 板状体(防水パン)
13 連通口
14 環状凹部
15 周壁部
16 弾性シート(ゴムシート)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
地盤に固定される下側管と、免震建物の屋内排水設備に接続される上側管と、該下側管と該上側管との境界部に配置される板状体とを有しており、該板状体には該下側管と該上側管とを連通する連通口が設けられ、該上側管の下端と該板状体とは横方向に相互摺動可能とされていることを特徴とする免震建物用の排水配管構造。
【請求項2】
該上側管の下端と該板状体とは相互上下動可能とされており、該上側管は該板状体に向けて付勢されている請求項1に記載の免震建物用の排水配管構造。
【請求項3】
該板状体の周縁には周壁部が設けられている請求項1または請求項2に記載の免震建物用の排水配管構造。
【請求項4】
該板状体の連通口の周縁には環状凹部が設けられている請求項1〜請求項3のいずれかに記載の免震建物用の排水配管構造。
【請求項5】
該上側管の下端には封止部材が取り付けられている請求項1〜請求項4のいずれかに記載の免震建物用の排水配管構造。
【請求項6】
該板状体の表面には弾性シートが取り付けられている請求項1〜請求項5のいずれかに記載の免震建物用の排水配管構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−241774(P2006−241774A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−56941(P2005−56941)
【出願日】平成17年3月2日(2005.3.2)
【出願人】(000000505)アロン化成株式会社 (317)
【Fターム(参考)】