説明

入浴装置

【課題】浴槽内の湯層の上面に良好な泡層を形成する。
【解決手段】入浴装置Aは、上面が開放された貯湯部11と、貯湯部11の上面の開口縁から外側へ片持ち状に張り出すフランジ部20とが一体に形成された浴槽10と、貯湯部11内に供給されて湯層の上面を覆うように泡層を形成するための気泡を吐出する吐泡口35と、フランジ部20の上面に形成され、吐泡口35から貯湯部11に向かって下り勾配となるように傾斜して貯湯部11の内壁面に連なる緩傾斜面28とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入浴装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上面が開放された浴槽と、浴槽に向けて気泡を吐出する吐泡口とを備えた入浴装置が開示されている。吐泡口から浴槽内に吐出された気泡は、浴槽内の湯層の上面を覆うように泡層を形成する。泡層に身体を漬けた状態で半身浴を行えば、疲労回復やストレス解消等のリフレッシュ効果を得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−245215号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の入浴装置では、吐泡口から吐出された気泡が、浴槽内の湯層上に、直接、落下するようになっている。そのため、落下の衝撃が原因となって、気泡が砕けたり、泡立って気泡の粒径が不揃いになったりし易く、身体に触れたときに心地良さを感じる泡層を形成することが難しい。
本発明は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、浴槽内の湯層の上面に良好な泡層を形成できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための手段として、請求項1の発明は、上面が開放された貯湯部と、前記貯湯部の上面の開口縁から外側へ片持ち状に張り出すフランジ部とが一体に形成された浴槽と、前記貯湯部内に供給されて湯層の上面を覆うように泡層を形成するための気泡を吐出する吐泡口と、前記フランジ部の上面に形成され、前記吐泡口から前記貯湯部に向かって下り勾配となるように傾斜して前記貯湯部の内壁面に連なる緩傾斜面とを備えているところに特徴を有する。
【0006】
請求項2の発明は、請求項1に記載のものにおいて、前記貯湯部の内壁面には、前記緩傾斜面よりも急な角度であって前記緩傾斜面の下流端に滑らかに連なる急傾斜面が形成されているところに特徴を有する。
【0007】
請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載のものにおいて、前記吐泡口からの気泡の吐出方向と、前記緩傾斜面の傾斜方向とが概ね平行をなしているところに特徴を有する。
【0008】
請求項4の発明は、請求項1ないし請求項3のいずれかに記載のものにおいて、前記吐泡口からの気泡の吐出方向が、略水平方向とされており、前記吐泡口を上方から覆い隠す吐泡口カバーを備えているところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0009】
<請求項1の発明>
吐泡口から吐出された気泡は、緩傾斜面上をゆっくり移動し、貯湯部の内壁面を伝って湯層の上面に静かに供給される。本発明によれば、吐泡口から吐出された気泡は、落下の衝撃を受けないので、砕けたり、泡立って粒径が不揃いになったりする虞がない。したがって、良好な泡層を形成することができる。
【0010】
<請求項2の発明>
緩傾斜面上をゆっくり移動した気泡は、衝撃を受けることなく急傾斜面上へ移行し、この急傾斜面上を速やかに伝い流れて湯層の上面に供給される。本発明によれば、気泡に衝撃を与えることなく、気泡を速やかに湯層の上面に供給することができる。
【0011】
<請求項3の発明>
もし、吐泡口からの気泡の吐出方向が緩傾斜面よりも急な角度で傾斜していた場合には、吐泡口からの気泡の吐出速度が緩傾斜面上の気泡の移動速度よりも速くなるので、吐出された気泡の流れが吐泡口の近傍で滞ることが懸念される。その点、本発明では、吐泡口からの気泡の吐出方向と、緩傾斜面の傾斜方向とを概ね平行としたことにより、気泡の吐出時の速度と、緩傾斜面上における移動速度がほぼ同じ速度となるので、吐出された気泡の流れが吐泡口の近傍で滞る虞はない。
【0012】
<請求項4の発明>
吐泡口を吐泡口カバーで覆い隠したことにより、美観の向上を図ることが可能である。また、気泡は、吐泡口から略水平方向に吐出されるので、吐泡口カバーによって吐出経路が妨げられる虞はない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施形態1の入浴装置を浴槽の長辺に沿って切断した状態をあらわす断面図
【図2】図1の部分拡大断面図
【図3】入浴装置を浴槽の短辺に沿って切断した状態をあらわす断面図
【図4】入浴装置の部分拡大平面図
【図5】入浴装置の使用状態をあらわす概略断面図
【図6】入浴装置の外観斜視図
【図7】浴槽の積層構造を模式的にあらわす部分拡大断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
<実施形態1>
以下、本発明を具体化した実施形態1を図1〜図7を参照して説明する。本実施形態の入浴装置Aは、心身のリラックス効果や疲労回復やストレス解消等のリフレッシュ効果を得るための半身浴を主たる目的としたものであり、特徴的な形態の浴槽10と、浴槽10内に形成する泡層Lbとによって、快適な半身浴を長時間に亘って行えることを実現した。勿論、浴槽10内で身体を洗うこともできる。本実施形態の入浴装置Aは、図1に示すように、浴槽10と、フレーム50と、気泡供給装置60とを備えて構成されている。尚、以下の説明における入浴装置A(浴槽10)の前後方向については、浴槽10において吐泡口カバー36が配置されている側を前側とする。
【0015】
<浴槽10>
図1,3,6に示すように、浴槽10は、上面が開放された箱形をなす貯湯部11と、貯湯部11の上面の開口縁から外方へ張り出した形態のフランジ部20とを一体化に形成したものである。貯湯部11は、前後方向に長い略長方形をなす底壁部12と、底壁部12の左右両側縁部から斜め上外方へ立ち上がる左右対称な一対の側壁部13と、底壁部12の前縁部から斜め上前方へ立ち上がる前壁部14と、底壁部12の後縁部から斜め上後方へ立ち上がる後壁部15とを備えて構成されている。これらの壁部12〜15同士が連なる部分は、いずれも、滑らかな曲面で構成されている。
【0016】
図1,3に示すように、底壁部12は、全領域に亘り排水勾配を持たせた略水平な壁部となっている。図3,6に示すように、底壁部12の幅方向における右側縁部には、前後方向における略中央位置に開口する排水口16が形成されている。底壁部12の厚さは、排水口16の近傍を除いて一定である。図3に示すように、側壁部13は、その全領域に亘って平面状をなしている。側壁部13の厚さは、全領域に亘って一定であり、底壁部12よりも薄い。右側の側壁部13の下端縁部には、その前端に近い位置に開口する取水口17が形成されている。右側の側壁部13の上端部には、前後方向における略中央部に開口するオーバーフロー口18が形成されている。
【0017】
図1に示すように、前壁部14は、貯湯部11の内面側に向かって僅かに膨らむように湾曲している。前壁部14の厚さは、その下端縁部(底壁部12に連なる縁部)において最大であり、この最大厚さ寸法は底壁部12の厚さと同じである。前壁部14の厚さは、上方に向かって次第に薄くなり、上端縁部において最小となる。前壁部14の最小厚さは、側壁部13の厚さと同じ寸法である。この前壁部14の内壁面は急傾斜面19となっている。この急傾斜面19の水平面に対する傾斜角度は、前壁部14の下端部において最大(約60°)であり、前壁部14の上端部において最小(約45°)である。
【0018】
図1に示すように、後壁部15は、貯湯部11の内面側に向かって僅かに膨らむように湾曲している。後壁部15の厚さは、その下端縁部(底壁部12に連なる縁部)において最大であり、この最大厚さ寸法は底壁部12の厚さと同じである。後壁部15の厚さは、上方に向かって次第に薄くなり、上端縁部において最小となる。後壁部15の最小厚さは、側壁部13の厚さと同じ寸法である。
【0019】
図6に示すように、フランジ部20は、貯湯部11の上面の開口縁から全周に亘って略水平外向きに張り出しており、フランジ部20の外周形状は前後方向に長い長方形である。フランジ部20は、概ね水平であるが、図1〜3に示すように、全周に亘り内側(貯湯部11側)に向かって下り勾配となるように僅かに傾斜している。また、図1,3に示すように、フランジ部20の厚さ寸法は、その全領域に亘って一定であり、側壁部13、前壁部14の上端部、及び後壁部15の上端部と同じ寸法である。
【0020】
図6に示すように、フランジ部20のうち右側の側壁部13の上端縁から右方へ張り出す右フランジ21と、前壁部14の上端縁から前方へ張り出す前フランジ22は、いずれも張り出し寸法が比較的大きい。これに対し、フランジ部20のうち左側の側壁部13の上端縁から左方へ張り出す左フランジ23と、後壁部15の上端縁から後方へ張り出す後フランジ24は、いずれも張り出し寸法が右フランジ21及び前フランジ22よりも小さい。つまり、右フランジ21と前フランジ22は幅広で、左フランジ23と後フランジ24は幅狭である。右フランジ21の左側縁部(貯湯部11に近い縁部)における後端部に近い位置には、貯湯部11内に給湯するための水栓金具25aが、給湯装置(図示省略)に接続された状態で設けられている。また、水栓金具25aの後方には、シャワー用の水栓金具25bが立設されている。
【0021】
図2,4,6に示すように、前フランジ22のうち後縁部を除いた領域は、左右両フランジ21,23の前端部に対して面一状に連なる前側縁部26となっている。前フランジ22の後縁部は、前側縁部26及び左右両フランジ21,23の前端部に対して段差状に低くなった緩傾斜部27となっている。緩傾斜部27の上面は、緩傾斜面28となっている。緩傾斜面28の幅方向における形成範囲は、前壁部14の上端縁の全幅領域と同じ範囲である。緩傾斜面28の前後方向の寸法は、前側縁部26の前後方向の寸法よりも小さい。
【0022】
緩傾斜面28は、前側縁部26の上面と同じ角度で後方(貯湯部11側)に向かって一定の下り勾配となるように僅かに(水平方向に近い角度で)傾斜している。図2に示すように、緩傾斜面28の傾斜角度は急傾斜面19の傾斜角度よりも小さい。緩傾斜面28の下流端28E(後端)は、前壁部14の急傾斜面19の上端部に対し弧状面29を介して滑らかに連なっている。
【0023】
緩傾斜部27の幅方向中央位置には、取付孔30が上下に貫通して形成されている。取付孔30には、左右対称な形態の吐泡部材31が取り付けられている。図2に示すように、吐泡部材31は、軸線を上下方向に向けた筒状取付部32と、筒状取付部32の上端に連なる水平な板状をなす本体部33とを備えて構成されている。この吐泡部材31は、上から筒状取付部32を取付孔30に嵌入するとともに、本体部33を緩傾斜面28に載置した状態で、前フランジ22に取り付けられている。
【0024】
図2に示すように、本体部33内には、水平なスリット状をなし、筒状取付部32の中空に連通する拡散空間34が形成されている。この拡散空間34の後端は、本体部33の後端面において水平なスリット状をなす吐泡口35として開口している。この吐泡口35からは、後述する気泡発生装置61から送り出された気泡が、貯湯部11内に向けて吐出されるようになっている。
【0025】
図2に示すように、本体部33の前後寸法は、緩傾斜部27(緩傾斜面28)の前後寸法よりも小さく、本体部33の前端縁は緩傾斜面28の前端縁に近い位置にある。したがって、吐泡口35は、緩傾斜面28の後端(下流端28E)よりも少し前方(上流側)の位置、即ち緩傾斜面28の下流端28Eよりも少し高い位置で開口している。図4に示すように、本体部33の幅寸法は緩傾斜部27の全幅の約1/3であり、幅方向における吐泡口35の形成領域は、本体部33のほぼ全幅に亘る。したがって、幅方向における吐泡口35の形成領域も、緩傾斜部27(緩傾斜面28)の全幅における中央部の約1/3の範囲に亘る。
【0026】
図2に示すように、本体部33の下面は、後方に向かって下るように傾斜した緩傾斜面28に当接させている。そして、本体部33の厚さは、前端から後端に向かって次第に大きくなっている。これにより、本体部33の上面は水平な向きとなっている。本体部33の高さ寸法は、その全領域に亘り、前側縁部26の上面と緩傾斜面28との高低差よりも小さい。したがって、上下方向において、吐泡口35は、前側縁部26の上面よりも下方の領域で開口している。吐泡口35の下端縁と緩傾斜面28との高低差は僅かである。
【0027】
図2に示すように、拡散空間34の高さは全領域に亘って一定であり、吐泡口35の開口高さと同じである。そして、この拡散空間34は緩傾斜面28と平行に傾いている。したがって、吐泡口35からの気泡の吐出方向は、緩傾斜面28と平行な方向である。また、吐泡口35は、拡散空間34のうち最も低い後端で開口しているので、吐泡口35からの気泡の吐出方向は、緩傾斜面28の下り勾配方向と同じ向き(平行)である。ここで、下り勾配方向とは、緩傾斜面28上において傾斜角度が最も大きくなる方向であって、貯湯部11に向かって下る方向をいう。
【0028】
図2,4に示すように、緩傾斜部27には、本体部33(吐泡部材31)の上方を全領域に亘って覆い隠す吐泡口カバー36が取り付けられている。吐泡口カバー36は、図示しない凹凸嵌合構造によって水平方向に位置決めされるともに、吐泡部材31の本体部33の上面に載置された状態で着脱可能に設置されている。吐泡口カバー36の厚さは、吐泡部材31の本体の上面と前側縁部26の上面との高低差と同じか、それよりも少し小さい寸法なので、設置された吐泡口カバー36の高さは、前側縁部26の上面とほぼ同じ高さである。また、吐泡口カバー36は、幅方向において緩傾斜面28のほぼ全幅に亘る大きさである。
【0029】
図2に示すように、吐泡口カバー36の前後寸法は、緩傾斜面28の前後寸法よりも少し小さく、吐泡口カバー36の前端縁は緩傾斜面28の前端に近い位置に配置されている。吐泡口カバー36の後端面は、後方に向かって下り勾配となるように傾斜している。この吐泡口カバー36の後端面の傾斜角度は、急傾斜面19の上端部の傾斜角度とほぼ同じ角度である。また、吐泡口カバー36の後端部は、急傾斜面19の上端部を斜め前上方へ延長した仮想面37よりも前方に位置している。この吐泡口カバー36は、枕としても使用することができる。
【0030】
図7に示すように、浴槽10は、その全領域に亘って積層構造をなしている。浴槽10は、FRP(繊維強化プラスチック)からなる基板38によって形状が保持されている。基板38の裏面(貯湯部11の外面であり、フランジ部20の下面)には、裏面用塗膜層39が形成されている。基板38の表面側には、ウレタン発泡体からなるクッション層40が積層されている。クッション層40の表面側には、ゴム製の防水層41が積層されている。防水層41の表面には、表面用塗膜層42が形成されている。基板38の厚さ、裏面側塗膜層の厚さ、防水層41の厚さ、及び表面側塗膜層の厚さは、いずれも、浴槽10の全領域に亘って均一である。一方、クッション層40は、部位によって厚さが異なっている。このようなクッション層40とゴム製の防水層41を備えた浴槽10は、貯湯部11の内面が凹むように弾性変形し得るようになっているとともに、フランジ部20の上面が凹むように弾性変形し得るようになっている。
【0031】
<フレーム50>
図1に示すように、フレーム50は、浴槽10の四隅とほぼ対応する位置に配置された4本の支柱51を有する。4本の支柱51の下端部同士は、前後方向に長い2本の長尺梁52と、幅方向(左右方向)に長い2本の短尺梁53とによって連結されている。4本の支柱51の上端部は、平面上において4本の支柱51を結ぶ長方形よりも一回り大きい長方形をなす方形枠54によって連結されている。左右両長尺梁52の長さ方向における略中央部と、方形枠54の左右両長辺梁55の長さ方向における略中央部とは、左右一対の補強柱56によって連結されている。左右両長尺梁52の間には、幅方向に長くい前後一対の支持梁57が差し渡されている。前側の支持梁57よりも前方においては、左右両長尺梁52の前端部同士の間に、左右方向に長い梯子梁58が差し渡されている。
【0032】
フレーム50には浴槽10が取り付けられている。浴槽10を取り付けた状態では、貯湯部11の底壁部12が、その前後両端縁部において、前後一対の支持梁57に載置された状態で固定されている。また、前フランジ22は、方形枠54の前側の短辺梁59に載置された状態で固定され、後フランジ24は、方形枠54の後側の短辺梁59に載置された状態で固定されている。右フランジ21は、方形枠54の右側の長辺梁55に載置された状態で固定され、左フランジ23は、方形枠54の左側の長辺梁55に載置された状態で固定されている。
【0033】
<気泡供給装置60>
図1,5に示すように、気泡供給装置60は、気泡発生装置61と循環路62とを備えて構成されている。気泡発生装置61は、製泡路(図示省略)と、この製泡路に接続されたコンプレッサ(図示省略)とを有する。また、製泡路の途中には、製泡路内で撹拌翼を回転させる機構を用いた撹拌手段(図示省略)が設けられている。循環路62は、貯湯部11内の貯湯空間と、浴槽10の取水口17から気泡発生装置61に至る流入路63と、気泡発生装置61内の製泡路と、気泡発生装置61から吐泡部材31の筒状取付部32に至る流出路64と、吐泡部材31とによって構成されている。
【0034】
貯湯部11内の貯湯空間内には、所定量の湯が水栓金具25aから流し込まれるとともに、その湯内に発泡剤が投入されることにより、所定水位まで発泡用液剤が貯められて、湯層Lhが形成されるようになっている。貯湯部11に貯められた発泡用液剤(発泡剤が混入された湯)は、取水口17、流入路63、製泡路、流出路64及び吐泡部材31を順に通り、吐泡口35から吐出されて貯湯部11内に供給される経路で、循環するようになっている。
【0035】
<作用>
本実施形態の入浴装置Aの使用方法を説明する。半身浴をする際には、まず、水栓金具25aから貯湯部11内へ適量の湯を入れ、その湯の中に発泡剤を投入して発泡液剤を作る。これにより、貯湯部11内には所定水位の湯層Lh(発泡液剤の層)が形成される。次に、気泡供給装置60を起動する。すると、貯湯部11内の発泡液剤が、取水口17、流入路63、発泡装置内の製泡路、流出路64、吐泡部材31を順に通過して貯湯部11に戻る経路で循環する。
【0036】
循環する発泡液剤は、製泡路を通過する際に、コンプレッサから供給された空気を混入されるともに撹拌されることにより、気泡を含んだ状態となり、吐泡部材31に供給されて、吐泡口35から貯湯部11内へ吐出される。
【0037】
吐泡部材31に供給された気泡は、筒状取付部32内を押し上げられるように通過した後、拡散空間34内において幅方向に拡がりながら後方へ移動し、吐泡口35から吐出される。吐泡口35から吐出した気泡は、緩傾斜面28上に流れ出す。このとき、吐泡口35と緩傾斜面28との高低差はごく僅かであるため、吐泡口35から緩傾斜面28へ移動するときに気泡が衝撃を受けることはない。また、吐泡口35からの気泡の吐出方向、即ち拡散空間34内を吐泡口35に向かって移動する方向は、緩傾斜面28の傾斜方向と平行な方向であるが、その技術的意義は次の通りである。
【0038】
もし、吐泡口35からの気泡の吐出方向が緩傾斜面28よりも急な角度で傾斜していた場合には、吐泡口35からの気泡の吐出速度が緩傾斜面28上の気泡の移動速度よりも速くなるので、吐出された気泡の流れが吐泡口35の近傍で滞ることが懸念される。その点、本実施形態では、吐泡口35からの気泡の吐出方向と、緩傾斜面28の傾斜方向とを概ね平行としたことにより、気泡の吐出時の速度と、緩傾斜面28上における移動速度がほぼ同じ速度となるので、吐出された気泡の流れが吐泡口35の近傍で滞る虞はない。
【0039】
緩傾斜面28上に流れ込んだ気泡は、緩傾斜面28の緩い傾斜にしたがって後方へゆっくりと移動し、緩傾斜面28の下流端28E(後端縁)に到達すると、弧状面29を通過して急傾斜面19上を伝い、速やかに下降する。急傾斜面19は、緩傾斜面28よりも急な角度であるが、緩傾斜面28の下流端28Eに滑らかに連なっているので、気泡が衝撃を受けることはない。急傾斜面19を伝って流れ落ちた気泡は、湯層Lhの上面に静かに供給される。したがって、気泡は、衝撃を与えられることなく、速やかに湯層Lhの上面に供給されて泡層Lbを形成する。泡層Lbが所定の厚さになったところで、気泡供給装置60を停止する。以上により、貯湯部11への気泡の供給が完了する。
【0040】
この後、時間の経過に伴い、泡層Lbの気泡の状態が変化する。即ち、貯湯部11に供給されたばかりの気泡は、泡径が数10〜数100μmの微細なクリーム状のものであるが、時間が経過すると、気泡が徐々に崩れ、泡径が大きくなっていく。また、泡径が大きくなるのに伴い、気泡から水分が分離することによって気泡の流動性が低くなっていく。この間に、気泡はメレンゲ状となる。そして、最終的には、息を吹きかけると飛んでいくような重さを感じない雲のような軽い泡となる。よって、図5に示すように、この貯湯部11に浸かって半身浴をすれば、様々な状態の泡を楽しむことができ、入浴者Pは、リラックス効果とリフレッシュ効果を得ることができる。
【0041】
入浴中、幅広の右フランジ21と前フランジ22には、飲み物、雑誌、テレビ、携帯電話等、リラックス・リフレッシュするのに必要なものを、濡らさずに置いておくことができる。また、入浴者Pは、脚を貯湯部11内に漬けた状態でフランジ部20に坐ることもできる。さらに、入浴者P以外の人も、フランジ部20に坐ることができる。
【0042】
本実施形態の入浴装置Aは、次のような特徴を有する
(1)半身浴の場合は、湯層Lhの水位を低くして入浴者Pの上半身を露出させるので、浴槽10内の湯の温度低下を抑えることが必要である。この点に関して、本実施形態では、湯層Lhの上面を覆う泡層Lbが断熱層として機能するので、湯層Lhの温度低下が抑えられる。
【0043】
(2)浴槽10を構成するクッション層40はウレタン発泡体からなり、このウレタン発泡体も断熱層として機能するので、湯層Lhの温度低下が抑えられる。さらに、ウレタン発泡体は熱伝導率が低いので、貯湯部11の内面の温度低下が抑えられ、入浴者Pの身体が貯湯部11の内面に触れたときに冷たさを感じることもない。
【0044】
(3)湯層Lhの温度が浴槽10近傍の雰囲気温度より高いと、湯層Lhから生じた湯気による湿度上昇が懸念される。しかし、本実施形態では、湯層Lhの上面を泡層Lbで覆っているので、湯気の発生が抑えられている。したがって、本実施形態の浴槽10(入浴装置A)は、専用の浴室に限らず、リビングルーム等への設置にも適している。
【0045】
(4)本実施形態では、発泡剤として、人の肌への刺激が少なく、気泡が消滅し難い材料のものが選択されている。これにより、長時間に亘る半身浴が可能になった。
【0046】
(5)半身浴の場合、湯槽の水位が比較的低いため、入浴者Pが受ける浮力は小さい。そのため、半身浴を長時間に亘って続けた場合、身体のうち貯湯部11の内面(特に、底壁部12、前壁部14、後壁部15)に当たって体重を支えている部分(特に、臀部や背中)において、入浴者Pが痛みや不快感等を覚えることが懸念される。しかし、本実施形態では、浴槽10がクッション層40とゴム製の防水層41を有しているので、入浴者Pの体重が浴槽10の内面に作用すると、浴槽10の内面が、体重に応じて入浴者Pの身体に馴染むように凹む。これにより、身体と浴槽10の内面との接触面積が大きくなるので、浴槽10側から身体側に作用する単位面積当たりの反力が低減され、痛みや不快感等が軽減される。
【0047】
(6)貯湯部11においては、入浴者Pの体重により、底壁部12のうち臀部が当たっている部分が凹むように変形すると、その凹み形状が臀部の滑り防止効果を発揮する。したがって、入浴者Pの身体が底壁部12上で滑る虞がなく、入浴者Pの位置と姿勢が安定する。
【0048】
(7)入浴者Pが、貯湯部11内に脚を入れた状態でフランジ部20に腰掛けると、入浴者Pの体重により、フランジ部20のうち臀部が当たっている部分が凹むように変形する。この場合も、凹み形状が臀部の滑り防止効果を発揮するので、入浴者Pがフランジ部20上で滑り難い。
【0049】
(8)浴槽10の表面は、クッション層40とゴム製の防水層41によって弾性的に凹み易くなっている。この弾力性により、入浴者Pがバランスを崩す等して浴槽10に手や身体をぶつけても、その衝撃が吸収されるので、入浴者Pが不快感を覚え難い。
【0050】
(9)気泡発生装置61はコンプレッサの駆動に伴う振動を発生し、この振動はフレーム50を介して浴槽10に伝わる。しかし、浴槽10はウレタン発泡体からなるクッション層40を有しているので、浴槽10の外面(基板38)に伝わった振動はクッション層40で吸収される。したがって、入浴者Pが貯湯部11の内面やフランジ部20の上面に触れても、振動を感じ難い。
【0051】
(10)貯湯部11を構成する前壁部14の急傾斜部19や後壁部15は、入浴者Pの背もたれとして利用されるので、入浴者Pからの繰り返し荷重によって凹むように変形することが懸念される。しかし、本実施形態では、前壁部14と後壁部15に傾斜を付けているので、通常の浴槽のように垂直に近い角度で立ち上がっているものに比べて体重の負荷が分散され、入浴者Pが背もたれとして利用しても、急傾斜部19や後壁部15が凹むように変形する虞はない。
【0052】
本実施形態の入浴装置Aは、上面が開放された貯湯部11と、貯湯部11の上面の開口縁から外側へ片持ち状に張り出すフランジ部20とが一体に形成された浴槽10と、貯湯部11内に供給されて湯層Lhの上面を覆うように泡層Lbを形成するための気泡を吐出する吐泡口35とを備えており、吐泡口35から吐出された気泡が貯湯部11内へ至る経路に特徴を有する。
【0053】
本実施形態とは異なり、吐泡口から吐出された気泡が、貯湯部内の湯層上に、直接、落下するようになっている場合には、落下の衝撃が原因となって、気泡が砕けたり、泡立って気泡の粒径が不揃いになったりし易く、身体に触れたときに心地良さを感じる泡層を形成することが難しい。
【0054】
この対策として、本実施形態では、フランジ部20の上面に、吐泡口35から貯湯部11に向かって下り勾配となるように傾斜して貯湯部11の内壁面に連なる緩傾斜面28を形成した。この構成によれば、吐泡口35から吐出された気泡は、緩傾斜面28上をゆっくり移動し、貯湯部11の内壁面を伝って湯層Lhの上面に静かに供給されることになる。このように、吐泡口35から吐出された気泡は、落下の衝撃を受けないので、砕けたり、泡立って粒径が不揃いになったりする虞がない。したがって、良好な泡層Lbを形成することができる。
【0055】
また、本実施形態の入浴装置Aは、吐泡口35からの気泡の吐出方向を略水平方向に向けており、吐泡口35を上方から覆い隠す吐泡口カバー36を備えている。この構成によれば、吐泡口35を吐泡口カバー36で覆い隠したことによって、美観の向上を図ることが可能となっている。また、気泡は、吐泡口35から略水平方向に吐出されるので、吐泡口35の上方に配置された吐泡口カバー36によって気泡の吐出経路が妨げられる虞はない。
【0056】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
(1)上記実施形態では、緩傾斜面の下流端に急傾斜面が滑らかに連なるようにしたが、緩傾斜面の下流端に、貯湯部の鉛直に切り立った内壁面が連なるようにしてもよい。
(2)上記実施形態では、吐泡口からの気泡の吐出方向と、緩傾斜面の傾斜方向とを概ね平行となる方向としたが、気泡の吐出方向は、緩傾斜面の傾斜方向に対して直角に近い角度で交差する方向であってもよい。
(3)上記実施形態では、吐泡口からの気泡の吐出方向を後向きとしたが、気泡の吐出方向は、横向き(右向き又は左向き)や、前後方向及び左右方向の両方向に対して斜めの方向であってもよい。
(4)上記実施形態では、吐泡口からの気泡の吐出方向を略水平な方向としたが、気泡の吐出方向は、斜め上向き、ほぼ真上方向、斜め下向き、ほぼ真下方向のいずれであってもよい。
(5)上記実施形態では、吐泡口を上方から覆い隠す吐泡口カバーを設けたが、吐泡口カバーは、吐泡口を覆い隠さない形態であってもよい。
(6)上記実施形態では、フランジ部を構成する4つのフランジのうち吐泡口カバーが設けられている前フランジに吐泡口を配置したが、吐泡口は、吐泡口カバーが設けられていないフランジ(右フランジ、左フランジ、後フランジのいずれかのフランジ)に配置してもよい。
(7)上記実施形態では、吐泡口を1つだけとしたが、複数の吐泡口を設けてもよい。この場合、前後左右のいずれか1つのフランジに複数の吐泡口を配置してもよく、異なるフランジに個別に吐泡口を配置してもよい。
(8)上記実施形態では、幅方向における吐泡口の開口領域を、緩傾斜部の約1/3の範囲としたが、吐泡口の開口領域は、1/3より狭くてもよく、1/3より広くてもよい。
(9)上記実施形態では、幅方向における吐泡口の開口領域を緩傾斜部の一部だけとしたが、吐泡口は、緩傾斜部の全幅に亘って開口してもよい。
(10)上記実施形態では、浴槽がクッション層を有するものであったが、本発明は、浴槽がクッション層を有しない場合にも適用できる。
(11)上記実施形態では、浴槽内に貯めた発泡剤入りの湯を、発泡装置を経由する経路で循環させることによって、気泡を浴槽に供給するようにしたが、浴槽に貯めた湯を循環させず、上水から供給された水と発泡剤とを混合して得られた気泡を浴槽に供給してもよい。
(12)上記実施形態では、撹拌手段として、製泡路内で撹拌翼を回転させる機構を用いたが、撹拌手段としては、製泡路内に螺旋状の撹拌板を固定して設けるスタティックミキサを用いる方法や、単に製泡路を長くして製泡路を流れる間に撹拌・混合させる方法等を用いることができる。
【符号の説明】
【0057】
A…入浴装置
Lb…泡層
Lh…湯層
10…浴槽
11…貯湯部
19…急傾斜面
20…フランジ部
28…緩傾斜面
28E…緩傾斜面の下流端
35…吐泡口
36…吐泡口カバー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上面が開放された貯湯部と、前記貯湯部の上面の開口縁から外側へ片持ち状に張り出すフランジ部とが一体に形成された浴槽と、
前記貯湯部内に供給されて湯層の上面を覆うように泡層を形成するための気泡を吐出する吐泡口と、
前記フランジ部の上面に形成され、前記吐泡口から前記貯湯部に向かって下り勾配となるように傾斜して前記貯湯部の内壁面に連なる緩傾斜面とを備えていることを特徴とする入浴装置。
【請求項2】
前記貯湯部の内壁面には、前記緩傾斜面よりも急な角度であって前記緩傾斜面の下流端に滑らかに連なる急傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1記載の入浴装置。
【請求項3】
前記吐泡口からの気泡の吐出方向と、前記緩傾斜面の傾斜方向とが概ね平行をなしていることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の入浴装置。
【請求項4】
前記吐泡口からの気泡の吐出方向が、略水平方向とされており、
前記吐泡口を上方から覆い隠す吐泡口カバーを備えていることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の入浴装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−231955(P2012−231955A)
【公開日】平成24年11月29日(2012.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−102578(P2011−102578)
【出願日】平成23年4月29日(2011.4.29)
【出願人】(302045705)株式会社LIXIL (949)
【Fターム(参考)】