説明

全固体電池の製造方法

【課題】それほど高い成形圧力を必要とすることなく電池性能が良好な全個体電池の製造方法を提供する。
【解決手段】正極活物質および無機固体電解質からなる正極材層1と、負極活物質および無機固体電解質からなる負極材層2との間に、無機固体電解質層3が配置されるとともに、上記各極材層における無機固体電解質層とは反対側表面に集電体45がそれぞれ配置されてなる全固体電池の製造方法であって、上記各極活物質および上記無機固体電解質として粉末状のものを用いるとともに、少なくとも、上記各極材層1,2および/または無機固体電解質層3を加圧装置により加圧成形する際に、加圧と同時に振動を付与する振動付与加圧工程を具備する方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は全固体電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話・PDA・ノートパソコンなどの高機能化に伴い、長時間使用が可能であり、且つ小型・軽量で、安全性の高い二次電池が強く要望されている。しかし、従来から使用されてきた可燃性の有機溶媒を含むリチウム二次電池は過充電時や濫用時に液漏れや発火の危険性がある。そのため、電池の高エネルギー密度化に伴い、安全性の確保が重要な課題とされてきた。
【0003】
このような課題を解決する電池として、有機電解液に比べて化学的に安定で且つ漏液や発火の問題のない固体電解質を電解質として用いた全固体電池の研究開発が鋭意行われている。
【0004】
ところで、このような全固体電池の製造方法としては、電池の構成材料の粉末を加圧してペレット状にする方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−257962号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述した特許文献1のように、全固体電池は構成材料の粉末を加圧することにより形成されるが、粉末材料の粒子間の密着性が電池性能に大きい影響を与えるため、電解質液タイプの電池性能に近づけるためには、高い成形圧力が必要となる。
【0007】
すなわち、性能の良い電池を得るためには、高い加圧性能を有する高価な設備が必要になるとともに、高容量つまり大面積の電池を得るためには、高い成形圧力を広範囲に且つ均一に付加しなければならず、技術的にも限界があった。
【0008】
そこで、本発明は、それほど高い成形圧力を必要とすることなく電池性能が良好な全個体電池の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明の全固体電池の製造方法は、正極活物質および無機固体電解質からなる正極材層と、負極活物質および無機固体電解質からなる負極材層との間に、無機固体電解質層が配置されるとともに、上記各極材層における無機固体電解質層とは反対側表面に集電体がそれぞれ配置されてなる全固体電池の製造方法であって、
上記各極活物質および上記無機固体電解質として粉末状のものを用いるとともに、少なくとも、上記各極材層および/または無機固体電解質層を加圧装置により加圧成形する際に、加圧と同時に振動を付与する振動付与加圧工程を具備する方法である。
【0010】
また、請求項2に記載の全固体電池の製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、振動が10kHz〜2MHzの超音波である方法である。
また、請求項3に記載の全固体電池の製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、各極材層および/または無機固体電解質層を加圧装置により加圧成形する際に、加圧だけを行う加圧工程を具備する方法である。
【0011】
また、請求項4に記載の全固体電池の製造方法は、請求項1に記載の製造方法において、振動付与加圧工程の前後に、当該振動付与加圧工程よりも高い圧力で、加圧装置にて加圧だけを行う加圧工程を具備する方法である。
【0012】
また、請求項5に記載の全固体電池の製造方法は、請求項1乃至4のいずれかに記載の製造方法において、全固体電池がリチウムイオン二次電池とする方法である。
【発明の効果】
【0013】
上記全固体電池の製造方法によると、原料として粉末状のものを用いるとともに、その加圧成形時に、加圧力と超音波振動とを同時に加えるようにしたので、加圧力により生じた粒子間の摩擦が低下し且つ粒子の微小な動きにより、固体電解質のパッキング状態が密となり、極活物質と固体電解質との良好な接合界面を形成することができる。
【0014】
この結果、成形圧力(圧縮成形圧力)が低い場合でも、従来の高い成形圧力を印加して得られる電池と同程度の電池性能が得られる。したがって、加圧力が低くても良いため、大面積の電池の製造が可能となり、高容量の二次電池が得られる。
【0015】
また、上記摩擦の低下により、成形圧力が低くても粒子同士の接触状態(密着性)が良好な層が得られるため、内部抵抗が低くなり、したがって高レートでの出力特性が得られる。
【0016】
また、上記摩擦の低下により、摩擦による粒子に作用している応力ストレスが解消されるので、時間の経過に伴うイオン伝導度の低下を防止することができる。言い換えれば、充放電に伴う極活物質の膨張収縮による各層のほぐれ(粒子間の密着性の低下)が抑制されるので、優れたサイクル特性が得られる。
【0017】
さらに、使用時に圧力を維持する必要がないので、加圧用パッケージを必要とせず、したがって高いエネルギー密度が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態に係る全固体電池の概略構成を示す断面図である。
【図2】同実施の形態に係る全固体電池の製造方法に使用する加圧装置の概略構成を示す模式断面図である。
【図3】本発明の他の実施の形態に係る全固体電池の製造方法に使用する加圧装置の概略構成を示す模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態に係る全固体電池の製造方法を図1および図2に基づき説明する。
なお、本実施の形態においては、全固体電池が全固体リチウムイオン二次電池である場合について説明する。
【0020】
まず、図1に基づき全固体リチウムイオン二次電池の基本的構成について説明する。
この全固体リチウムイオン二次電池(以下、単に、二次電池ともいう)は、正極材層1と負極材層2との間に無機固体電解質であるリチウムイオン伝導性固体電解質よりなる固体電解質層3が配置(積層)され、正極材層1の固体電解質層3とは反対側の表面に正極集電体4が、また負極材層2の固体電解質層3とは反対側の表面に負極集電体5がそれぞれ配置(積層)されたものである。
【0021】
そして、上記正極材層1は、正極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との混合物が用いられ、また上記負極材層2は、負極活物質とリチウムイオン伝導性固体電解質との混合物が用いられており、これら各極材層1,2および固体電解質層3の構成材料(原料)としては、それぞれ粉末状のものが用いられる。
【0022】
このように、各極材層1,2として、それぞれ極活物質にリチウムイオン伝導性固体電解質を混合したものを用いたのは、電子伝導性に加えてイオン伝導性を向上させるために、極材の粒子同士を密着させて粒子間の接合点や面を多く存在させることにより、イオン伝導パスをより多く確保するためである。
【0023】
上記正極材層(正極材)としては、例えば酸化物系ではコバルト酸リチウム(LiCoO)、ニッケル酸リチウム(LiNiO)、マンガン酸リチウム(LiMnO)などが用いられる。一方、負極材層(負極材)としては、例えば天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛炭素繊維、樹脂焼成炭素などが用いられる。
【0024】
上記リチウムイオン伝導性固体電解質としては、特に限定されるものでもなく、例えば有機化合物、無機化合物または有機・無機両化合物からなる材料を用いることができ、またリチウムイオン電池分野で公知のものを使用することができる。特に、硫化物系無機固体電解質はイオン伝導性が他の無機化合物より高いことが知られている。
【0025】
上記集電体としては、銅、マグネシウム、ステンレス鋼、チタン、鉄、コバルト、ニッケル、亜鉛、アルミニウム、ゲルマニウム、インジウム、リチウム、錫、またはこれらの合金等からなる板状体、箔状体若しくは粉体が用いられる。この他、各種材料を成膜したものも用いることができる。
【0026】
次に、全固体リチウムイオン二次電池の製造方法について説明する。
本発明に係る製造方法は、加圧装置を用いて原料の粉末を加圧成形して正極材層1、負極材層2、固体電解質層3などを得る際に、超音波振動を付与するようにしたものである。
【0027】
ここで、超音波振動を付与し得る加圧装置の概略構成を図2に基づき説明する。
この加圧装置11は、下部支持体12に支持されるとともに上面13aに材料が載置される受け体13と、上部支持体14側に保持されるとともに下面15aが加圧面(プレス面ともいう)にされた押さえ体15と、この上部支持体14に加圧力を付与する力発生手段(図示しないが、例えば油圧シリンダなどが用いられる)とから構成され、さらに押さえ体15には超音波振動を発生し得る超音波発生装置16が設けられている。なお、受け体13はフランジ部13bにより下部支持体13側に、また押さえ体15はフランジ部15bにより上部支持体14側にそれぞれ取り付けられている。
【0028】
上記加圧装置11としては、単動プレスまたはロールプレスが用いられ、その加圧力(印加圧力)は、10〜10000kg/cmの範囲にされている。
また、上記超音波発生装置16にて発生される超音波の振動数(サイクル数)は、10kHz〜2MHzの範囲にされている。
【0029】
そして、本実施の形態では、2種類の加圧方法(加圧工程)が用いられる。すなわち、加圧装置11により加圧成形する際に加圧だけを行う加圧工程Aと、加圧装置11により加圧成形する際に加圧と同時に超音波振動を付与する振動付与加圧工程Bとが用いられる。
【0030】
ここで、基本的な加圧例について説明しておく。
例えば、正極材層(勿論、負極材層、固体電解質層でもよい)1を加圧成形する場合、3段階でもって、すなわち3つの加圧行程でもって行われる。
【0031】
例えば、第1の加圧工程では、加圧装置11にて10〜10000kg/cmの圧力で加圧だけが行われ、次の第2の加圧工程では、加圧装置11にて10〜1500kg/cmの圧力による加圧と超音波振動付与とが同時に行われ、次の第3の加圧工程では、第1の加圧工程よりも高い100〜10000kg/cmの圧力で加圧だけが行われる。すなわち、2つの加圧工程Aと、1つの振動付与加圧工程Bとが用いられて、全固体リチウムイオン二次電池が製造される。
【0032】
上記3段階で加圧を行った場合の作用について説明しておく。
1回目に高い圧力で加圧すると、粒子に高い応力が発生するとともにストレス(歪)も発生する。なおこの状態で放置すると、従来のように、時間が経つにつれてストレスが解放され、粒子間に空隙ができるため、粒子同士の密着性が低下してしまう。
【0033】
2回目の加圧では、その圧力を1回目よりも低くするとともに、超音波振動を付加することにより、1回目の加圧で発生した粒子間のストレスが除去される。なお、このときの圧力を1回目と同じように高くした場合には、超音波による振動を強くする必要が生じる。
【0034】
そして、3回目の加圧では、その圧力を2回目よりも高くすることにより、ストレスが除去された粒子同士の増し絞めを行う。これにより、従来のように時間の経過とともに粒子間の密着性が低下することもなく、比較的、低い圧力で高い電池性能が得られる。
【0035】
以下、上述した加圧方法を用いた全固体リチウムイオン二次電池の製造方法の具体例について説明する。
この具体例では、まず、正極材層1、固体電解質層3および負極材層2をそれぞれ成形した後、これら各層を積層して仮積層体を得、そしてこの仮積層体の上下に集電体4,5を形成する方法である。
【0036】
すなわち、加圧装置11の受け体13の上面13aに正極材の粉末材料とリチウムイオン固体電解質の粉末材料との混合物を載置した後、押さえ体15を介して、加圧工程Aにより正極材層1を得る。
【0037】
次に、同様の方法により、負極材層2および固体電解質層3を、加圧工程Aにより得る。
次に、これら3つの層を、加圧装置11の受け体13の上面13aに重ねて載置し、押さえ体15を介して振動付与加圧工程Bを実行して仮積層体を得る。
【0038】
そして、この仮積層体の上下面に、それぞれ集電体4,5を配置し加圧工程Aまたは振動付与加圧工程Bにより加圧成形を行なえば、全固体リチウムイオン二次電池が得られる。
【0039】
ところで、上記の説明においては、仮積層体を形成してから、各集電体を形成するように説明したが、これらの積層順序、すなわち各層および各集電体の形成順序については限定されるものでもなく、任意の順序にて形成することができ、またその加圧方法についても限定されないが、振動付与加圧工程Bは少なくとも1回含まれる。
【0040】
例えば、正極集電体4の表面に正極材の粉末材料を載置して加圧工程Aにて正極材層1の成形を行った後、その上面に、固体電解質の粉末材料を載置して加圧工程Aにて固体電解質層3を形成して2層の仮積層体を得る。そして、負極集電体5の表面に負極材の粉末材料を載置して加圧工程Aにて負極材層2を形成して仮積層体を得る。そして、上記2層の仮積層体の表面にこの仮積層体を載置するとともに、振動付与加圧工程Bにより、両積層体の接合を行なえばよい。
【0041】
このように、各層の積層順番および用いる加圧工程については、任意に組み合わせることができる。
本発明に係る製造方法を概略的に説明すれば、加圧装置を介しての加圧(圧力印加)だけを行う加圧工程Aと、加圧装置を介しての加圧と同時に超音波振動による加圧を行う振動付与加圧工程Bとを含み、各層の加圧成形(圧縮成形)に際しては、始めから振動付与加圧工程Bで加圧成形しても良く、または、最初は加圧工程Aにより仮成形層を得た後、振動付与加圧工程Bにて成形層を完成させても良い。例えば、加圧工程Aと振動付与加圧工程Bとを交互に行い、しかもその加圧力を段階的に高くすることもできる。要するに、加圧工程A、振動付与加圧工程Bの実行回数、順序(順番)、加圧力、超音波振動の周波数および出力は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【0042】
上述したように、全固体リチウムイオン二次電池の原料として粉末状のものを用いるとともに、その加圧成形時に、加圧力と超音波振動とを同時に加えるようにしたので、固体電解質のパッキング状態が密となり、極活物質と固体電解質との良好な接合界面を形成することができる。
【0043】
この結果、成形圧力(圧縮力)が低い場合でも、従来の高い成形圧力を印加して得られる電池と同程度の電池性能が得られる。すなわち、加圧力が低くても良いため、大面積の電池の製造が可能となり、高容量の二次電池が得られる。
【0044】
また、成形圧力が低くても良いため、内部抵抗が低くなり、したがって高レートでの出力特性が得られる。
また、加圧力と同時に超音波振動を付与するので、加圧力により生じた粒子間摩擦による粒子に作用している応力ストレスが解消されるので、時間の経過に伴うイオン伝導度の低下を防止することができる。言い換えれば、充放電に伴う極活物質の膨張収縮による各層のほぐれ(圧密度の低下)が抑制されるので、優れたサイクル特性が得られる。
【0045】
さらに、使用時に圧力の維持を図る必要がないので、加圧用パッケージを必要としなく、したがってエネルギー密度が高くなる。
ところで、上記実施の形態においては、超音波発生装置を1台設けた場合について説明したが、例えばその力が足りない場合には、図3に示すように、押さえ体15の両側面に、一対の超音波発生装置16,16を配置すればよい。この場合、振動子に振動方向変換部材を装着して、左右に配置された2台の超音波発生装置から出力される各振動力を上下方向に変化させるとともに、両者を合成させるようにしてもよい。
【0046】
また、上記実施の形態においては、全固体電池として、全固体リチウムイオン二次電池について説明したが、このものに限定されるものではない。すなわち、リチウムイオン電池または二次電池でなくてもよい。
【符号の説明】
【0047】
1 正極材層
2 負極材層
3 固体電解質層
4 正極集電体
5 負極集電体
11 加圧装置
13 受け体
15 押さえ体
16 超音波発生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質および無機固体電解質からなる正極材層と、負極活物質および無機固体電解質からなる負極材層との間に、無機固体電解質層が配置されるとともに、上記各極材層における無機固体電解質層とは反対側表面に集電体がそれぞれ配置されてなる全固体電池の製造方法であって、
上記各極活物質および上記無機固体電解質として粉末状のものを用いるとともに、少なくとも、上記各極材層および/または無機固体電解質層を加圧装置により加圧成形する際に、加圧と同時に振動を付与する振動付与加圧工程を具備することを特徴とする全固体電池の製造方法。
【請求項2】
振動が10kHz〜2MHzの超音波であることを特徴とする請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項3】
各極材層および/または無機固体電解質層を加圧装置により加圧成形する際に、加圧だけを行う加圧工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項4】
振動付与加圧工程の前後に、当該振動付与加圧工程よりも高い圧力で、加圧装置にて加圧だけを行う加圧工程を具備することを特徴とする請求項1に記載の全固体電池の製造方法。
【請求項5】
全固体電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の全固体電池の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−89388(P2012−89388A)
【公開日】平成24年5月10日(2012.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−236012(P2010−236012)
【出願日】平成22年10月21日(2010.10.21)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】