説明

内燃機関の冷却構造

【課題】 シリンダブロックの、シリンダボアを囲むウオータジャケットの内部にスペーサを装着し、ウオータジャケット内を流れる冷却水の流れを規制するようにしたV型6気筒内燃機関において、各シリンダブロックおよびシリンダヘッドの冷却性能の差を低減できるようにした。
【解決手段】 一対のシリンダブロックB1、B2の各ウオータジャケット13に、2つの吐出口P1 ,P2 にヘッド差hのある一つのウオータポンプPで冷却水を供給するようにしたもにおいて、各ウオータジャケット13内に挿入されるスペーサ14F,14Rに設けた制限壁部14Fc,14Rcにより、各ウオータジャケット13内を流れる冷却水の流れを制御して、ヘッド差hによる冷却水の流動抵抗の差を吸収できるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クランク軸を軸架したクランクケースに、そのクランク軸方向に並列する少なくとも一対の、第1、第2のシリンダブロックが一体に形成され、それら第1、第2のシリンダブロックのデッキ面上にそれぞれ第1、第2のシリンダヘッドが固定される多気筒内燃機関において、各シリンダブロックには、そこに設けたシリンダボアを囲むように形成されたウオータジャケットの内部にスペーサを装着し、該スペーサでウオータジャケット内を流れる冷却水の流れを規制して前記シリンダボアの冷却状態を調整するようにした内燃機関の冷却構造に関する。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関において、シリンダブロックのシリンダボアを囲むウオータジャケット内にスペーサを挿入し、シリンダブロックの一端側に備えられる冷却水導入口の近傍にシリンダヘッド側に供給される冷却水の流れを規制する規制壁部を設け、シリンダブロックのウオータジャケットの排気側に供給される冷却水流量を多く確保するようにしたものは、下記特許文献1により公知である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−264286号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記従来のものは、直列の多気筒内燃機関において、ウオータジャケットに供給される冷却水の流量を制御するようにしたものであり、たとえばV型多気筒内燃機関のように、複数のシリンダブロックが並列して設けられる多気筒内燃機関の複数のシリンダブロックおよびシリンダヘッドのウオータジャケットへの冷却水の流量を制御するものではない。
【0005】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたもので、クランク軸を軸架したクランクケースに、そのクランク軸方向に並列する少なくとも一対の、第1、第2のシリンダブロックが一体に形成され、それら第1、第2のシリンダブロックのデッキ面上にそれぞれ第1、第2のシリンダヘッドが固定される多気筒内燃機関において、複数のシリンダブロックおよびシリンダヘッドのウオータジャケットに供給される冷却水の流れを制御して、各シリンダブロックおよびシリンダヘッドが均等に冷却できるようにした、新規な内燃機関の冷却構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、請求項1に記載された発明によれば、クランク軸を軸架したクランクケースに、そのクランク軸方向に並列する少なくとも一対の、第1、第2のシリンダブロックが一体に形成され、各シリンダブロックには、そこに設けたシリンダボアを囲むように形成されたウオータジャケットの内部に第1、第2のスペーサを装着し、それらのスペーサでウオータジャケット内を流れる冷却水の流れを規制して前記シリンダボアの冷却状態を調整するようにした内燃機関の冷却構造において、
前記第1、第2のシリンダブロックには、そのクランク軸方向の一端側に、前記ウオータジャケットに連通する第1、第2の冷却水入口部と、シリンダブロック側の前記ウオータジャケットから前記シリンダブロック上に固定される第1、第2のシリンダヘッドのヘッド側ウオータジャケットへ通じる第1、第2の短絡通路とが設けられ、前記第1、第2のスペーサは、前記シリンダボアの周囲を全周に亘って囲むように一体に形成されて、シリンダブロック側のウオータジャケット内の冷却水の流れを規制する第1、第2のスペーサ本体部と、それらのクランク軸方向の一端側に、該第1、第2のスペーサ本体部に連結されて前記第1、第2の冷却水入口部から第1、第2の前記短絡通路への冷却水の流れを制限する第1、第2の制限壁部とを有し、前記第1のシリンダブロックに設けられる前記第1の冷却水入口部と前記第1の短絡通路との距離が、第2のシリンダブロックに設けられる前記第2の冷却水入口部と前記第2の短絡通路との距離よりも大きく形成され、前記第1のシリンダブロックに設けられる前記第1の制限壁部による冷却水の流れの制限量は、前記第2のシリンダブロックに設けられる前記第2の制限壁部による冷却水の流れの制限量よりも大きいことを特徴とする、内燃機関の冷却構造が提案される。
【0007】
請求項2に記載された発明によれば、請求項1の構成に加えて、前記第1、第2のシリンダブロックに設けた前記第1、第2の冷却水入口部の下流端は、シリンダブロック側のウオータジャケット内の第1、第2のスペーサに設けた第1、第2の開口にそれぞれ対向していることを特徴とする、内燃機関の冷却構造が提案される。
【0008】
請求項3に記載された発明によれば、請求項1または2の構成に加えて、前記第1のシリンダブロックに設けられる前記第1の制限壁部の前記シリンダボアの径方向の厚みは、前記第2のシリンダブロックに設けられる前記第2の制限壁部の前記シリンダボアの径方向の厚みよりも大きいことを特徴とする、内燃機関の冷却構造が提案される。
【0009】
請求項4に記載された発明によれば、請求項1、2、または3の構成に加えて、前記第2のシリンダブロックに設けられる前記第2の制限壁部には、前記第1のシリンダブロックに設けられる前記第1の制限壁部よりも前記第2の冷却水入口部から前記第2の短絡通路への冷却水の流れに沿って大きくて延出するガイド面が設けられることを特徴とする、内燃機関の冷却構造が提案される。
【0010】
請求項5に記載された発明によれば、請求項1、2、3または4の構成に加えて、前記第1、第2の短絡通路に前記シリンダボアの軸方向で対向する前記第1、第2のスペーサ本体部の冷却水出口側は、前記第1、第2のスペーサ本体部の該冷却水出口側を除く残余の部分に対して前記シリンダボアの径方向の外側にオフセットして設けられ、該出口側の外側表面と前記第1、第2の制限壁部の外側表面は面一に形成されることを特徴とする、内燃機関の冷却構造が提案される。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の構成によれば、第1のシリンダブロックに設けられる、第1の冷却水入口部と第1の短絡通路との距離が、第2のシリンダブロックに設けられる、第2の冷却水入口部と第2の短絡通路との距離よりも大きく形成されるものにおいて、第1のシリンダブロックに設けられる第1の制限壁部による冷却水の流れの制限量は、第2のシリンダブロックに設けられる第2の制限壁部による冷却水の流れの制限量よりも大きくしたので、第1シリンダブロックと第1シリンダヘッドおよび第2シリンダブロックと第2シリンダヘとの間の冷却性能の差を低減でき、内燃機関の出力向上に寄与することができる。
【0012】
請求項2の構成によれば、第1、第2のシリンダブロックに設けた第1、第2の冷却水入口部の下流端は、シリンダブロック側のウオータジャケット内の第1、第2のスペーサに設けた第1、第2の開口にそれぞれ対向しているので、第1、第2の冷却水入口部から第1、第2のスペーサを装着したウオータジャケットへ流れる冷却水の流れ抵抗を低減することができる。
【0013】
請求項3の構成によれば、第1のシリンダブロックに設けられる第1の制限壁部のシリンダボアの径方向の厚みは、前記第2のシリンダブロックに設けられる第2の制限壁部の前記シリンダボアの径方向の厚みよりも大きくしたので、第1、第2の制限壁部による冷却水の流量規制が容易になる。
【0014】
請求項4の構成によれば、第2のシリンダブロックに設けられる前記第2の制限壁部には、第1のシリンダブロックに設けられる第1の制限壁部よりも第2の冷却水入口部から前記第2の短絡通路への冷却水の流れに向けて大きくて延出するガイド面を設けたので、第1、第2の制限壁部による冷却水の流量制限の差を簡単容易に現出することができる。
【0015】
請求項5の構成によれば、第1、第2の短絡通路にシリンダボアの軸方向で対向する第1、第2のスペーサ本体部の冷却水出口側は、第1、第2のスペーサ本体部の該冷却水出口側を除く残余の部分に対してシリンダボアの径方向の外側にオフセットして設けたので、第1、第2スペーサの内側を流れる冷却水の流量を多くすることができ、冷却水温度の上がるウオータジャケットの下流側での冷却性能を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明冷却構造を備えたV型6気筒内燃機関の側面図。
【図2】図1の2矢視のV型6気筒内燃機関の斜視図。
【図3】(A)第1スペーサの斜視図、(B)第2スペーサの斜視図。
【図4】図1の4−4線に沿う第1、第2シリンダブロックの平面図。
【図5】図4の5矢視仮想線囲い部分の拡大図。
【図6】(A)図3の6(A)矢視図、(B)図3の6(B)矢視図。
【図7】(A)図3の7(A)矢視図、(B)図3の7(B)矢視図。
【図8】図5の8−8線拡大断面図。
【図9】図5の9−9線拡大断面図。
【図10】図5の10−10線拡大断面図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図1〜図10に基づいて本発明を、自動車に搭載されるV型6気筒内燃機関に実施した場合の実施の形態について説明する。
【0018】
図1、2において、V型6気筒内燃機関の内燃機関本体Eは、通常のようにクランク軸CSを回転自在に軸架したクランクケースCCと、このクランクケースCCの上部に一体に並設されてV空間を挟んで自動車の前方側(FR側)に向かって傾斜される第1のシリンダブロック(フロントバンク)B1と、自動車の後方側(RR側)に向かって傾斜される第2のシリンダブロック(リヤバンク)B2と、第1、第2のシリンダブロックB1,B2のデッキ面11a,11a上にそれぞれガスケットGを介して固定される第1のシリンダヘッドH1と第2のシリンダヘッドH2を備える。
【0019】
図1、2に示すように、前後方向にV字型に配置される第1、第2のシリンダブロックB1,B2の、各シリンダ列線L1方向(クランク軸CS方向)の一端側、すなわちタイミングトレーン側には、ウオータジャケット13に冷却水を供給するための一つのウオータポンプPが設けられる。このウオータポンプPは、渦巻き型の遠心ポンプであって、第1のシリンダブロックB1および第2のシリンダブロックの一端側に、それら間のV空間を跨いで固定されており、通常のようにクランク軸CSによりタイミングトレーン(図示せず)を介して回転駆動される。
【0020】
第1、第2のシリンダブロックB1,B2は、V型内燃機関の構造上、各3個のシリンダボア12a・・がシリンダ列線L1方向(クランク軸CS方向)に互いに齟齬して設けられる(図4参照)以外に、基本的に同じ構造であるので、以下に、同じ構成部材には同じ符合を付して説明する。
【0021】
図4、5に示すように、第1、第2のシリンダブロックB1、B2には、シリンダ列線L1方向(クランク軸CS方向)に沿って3個のシリンダボア12aを形成する3個のシリンダスリーブ12が埋設されており、それらのシリンダスリーブ12の外周面を囲むようにウオータジャケット13が形成される。
【0022】
本実施の形態の第1、第2のシリンダブロックB1,B2は、サイアミーズ型であって隣接するシリンダスリーブ12間にはウオータジャケット13が形成されておらず、よってウオータジャケット13は3個のシリンダスリーブ12の外周面を個々に囲むのではなく、3個のシリンダスリーブ12の全体を囲んでおり、これにより機関本体Eのシリンダ列線L1方向の寸法の短縮化が図られる。
【0023】
前記ウオータジャケット13は、第1、第2のシリンダブロックB1,B2の、第1、第2のシリンダヘッドH1,H2が固定されるデッキ面11a,11a上に開口しており、そのウオータジャケット13,13は、そこからクランクケースCC側に向けて一定の深さで下向きに延びており、そのウオータジャケット13,13の内部に、第1、第2シリンダブロックB1,B2のデッキ面11a,11aの開口側からそれぞれ挿入された合成樹脂製の、一体成形される第1、第2のスペーサ14F,14Rが配置される。
【0024】
尚、本明細書において「上下方向」とは、シリンダ軸線L2方向のシリンダヘッド側が「上」と定義され、シリンダ軸線L2方向のクランクケース側が「下」と定義される。
【0025】
図1,2に示すように、一つのウオータポンプPは、その2つの吐出口P1 ,P2 が、そのポンプ軸Psの両側に上下方向のヘッド差h(図6参照)を隔てて設けられていて、第1、第2のシリンダブロックB1、B2の一端面に、同じく前記ヘッド差hを隔てて設けられる、後述の第1、第2の冷却水入口部16F,16Rの上流端にそれぞれ連通される。
【0026】
第1、第2のシリンダブロックB1,B2のシリンダ列線L1方向、すなわちクランク軸CS方向のタイミングトレーン側の一端側には、第1、第2の冷却水入口部16F,16Rが形成され、これらの冷却水入口部16F,16Rの上流端は、ウオータポンプPの2つの吐出口P1 ,P2 に連通し、それらの下流端は、第1、第2のシリンダブロックB1,B2のウオータジャケット13,13の、後述する第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbにより仕切られる冷却水の入り口側Inと出口側Ouとに連通し、その出口側Ouでは、ウオータジャケット13,13に形成される第1、第2の短絡通路17F,17Rを介してヘッド側ウオータジャケット30,30の連通孔301 ,301 に短絡連通される。
【0027】
而して、この実施の形態では、後に詳述するように、第1の冷却水入口部16Fから第1の短絡通路17F(ウオータジャケット13に形成される)に至るまでの距離l1 (図6参照)が、第2の冷却水入口部202 から第2の短絡通路17R(ウオータジャケット13に形成される)に至るまでの距離l2 (図6参照)よりも短く設定されており、また、第1及び第2の冷却水入口部16F,16Rから第1、第2のシリンダヘッドH1,H2のヘッド側ウオータジャケット30,30へ流れる冷却水の流れ抵抗の差を低減して、第1シリンダブロックB1および第1シリンダヘッドH1と、第2シリンダブロックB2および第2シリンダヘッドH2との冷却性能の差を低減できるように、前記第1、第2のスペーサ14F,14Rの第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbには、冷却水の流れを規制する第1、第2の制限壁部14Fc,14Rcが一体に形成される。
【0028】
次に、前記第1および第2のスペーサ14F,14Rの構造について詳細に説明する。
【0029】
第1、第2のスペーサ14F,14Rは、シリンダ列線L1のタイミングトレーン側の端部の構造が相違する以外、それらの基本的な構造は同じであるので、同じ構成部材には、同じ符合が付してある。
【0030】
図3,4から明らかなように、第1、第2のスペーサ14F,14Rは、第1、第2のシリンダブロックB1,B2の3個のシリンダスリーブ12…の外周の大部分をそれぞれ囲むスペーサ本体部14Fa,14Raを備える。第1、第2のスペーサ14F,14Rは、ウオータジャケット13,13に沿う閉じた形状に一体に形成されていて切断部を持たないため、そのスペーサ14F,14Rは剛性は高いものとなる。スペーサ本体部14Fa,14Raのシリンダ軸線L2方向の高さは、その全周に亙って基本的に一定である。
【0031】
図3〜7に示すように、第1、第2のスペーサ14F,14Rのシリンダ列線L1方向の一端側、つまり第1、第2シリンダブロックB1,B2のタイミングトレーン側の端部には、冷却水の入口側(吸気側)Inおよび冷却水の出口側(排気側)Ouの間から上下に突出する仕切壁14Fb,14Rbが一体に設けられる。これらの仕切壁14Fb,14Rbはスペーサ本体部14Fa,14Raよりも上下方向に長く延びている。
【0032】
また、第1、第2のスペーサ14F,14Rのシリンダ列線L1方向の他端側、つまりシリンダブロック11のトランスミッション側の端部には、上部支持脚14iと下部支持脚14jが上下方向に延びている。
【0033】
従って、第1、第2のスペーサ14F,14Rが、ウオータジャケット13内に装着されると、第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbの下端がウオータジャケット13,13の底面に接触し、その上端がシリンダブロック11F,11RおよびシリンダヘッドH1、H2間にそれぞれ挟持されたガスケットGの下面に接触することで、第1、第2のスペーサ14F,14Rのタイミングトレーン側の一端側の上下方向の位置決めがなされる。また、第1、第2のスペーサ14F,14Rのトランスミッション側の他端部は、下部支持脚14jの下端がウオータジャケット13の底面に接触し、上部支持脚14iの上端がガスケットGの下面に接触することで、上下方向の位置決めがなされる。
【0034】
図6に最も明瞭に示すように、第1、第2のスペーサ14F,14Rのタイミングトレーン側の一端部の上下方向の中間部には、それらの冷却水の入口側(吸気側)Inに偏して第1、第2の開口14Fo,14Roがそれぞれ穿設されており、第1スペーサ14F側の第1の開口14Foは、第2のスペーサ14Rの第2の開口14Roよりも、ウオータポンプPの吐出口P1 ,P2 の前記ヘッド差hだけ高い位置にあり、それらの開口14Fo,14RoがいずれもウオータポンプPの2つの吐出口P1 ,P2 の位置と一致するようにされている。
【0035】
図5,6に示すように、第1のスペーサ14Fのシリンダ列線L1方向のタイミングトレーン側の一端部において、第1の冷却水の入口側Inと第1の冷却水出口側Ouとの間を仕切る仕切壁14Fbの外面には、前記第1の開口14Fo(前記第2の開口14Roよりも高い位置)に隣接して、冷却水の流れを規制する第1の制限壁部14Fcが一体に形成されている。この第1の制限壁部14Fcの厚さt1 (後述の第1の制限壁部14Rcの厚さt2 よりも厚い、図5参照)は、第1の仕切壁14Fbの残余の部分よりも肉厚に形成されており、その第1の制限壁部14Fcの側縁sは、第1の開口14Foの一側を上下方向に延びて第1のスペーサ14Fの外表面よりも段差を存して隆起しており、第1の開口14Foから第1の仕切壁14Fbの外表面を通って第1の冷却水の出口側Ouへ流れる冷却水の流を遮るようにして、冷却水に所定の流れ抵抗を与えるようにしている。また制限壁部14Fcの上縁uは、第1の仕切壁14Fbを横切り、第1のスペーサ14Fの上面に連続するように湾曲状に延びている。
【0036】
従って、ウオータポンプPからの第1の冷却水入口部16F→第1の開口14Fo→第1の仕切壁14Fb→第1の短絡通路17F→連通孔301 を経て第1シリンダヘッドH1のウオータジャケット30に流れる冷却水は、第1の制限壁部14Fcによってその流れが規制される。
【0037】
また、第2のスペーサ14Rの一端部において、第2の冷却水の入口側Inと第2の冷却水出口部Ou間を仕切る第2仕切壁14Rbの外面には、そこを流れる冷却水の流れを規制する第2の制限壁部14Rcが一体に形成されている。この第2制限壁部14Rcの厚さt2 は、第1制限壁部14Fcの厚さt1 よりも薄く形成されており、その第2の制限壁部14Rcの外表面には、前記第2の開口14Foの一側より、第2のスペーサ14Fの上縁に向かって湾曲状に延びる滑らかなガイド面gが形成されている(図6参照)。
【0038】
従って、ウオータポンプPから第2の冷却水入口部202 →第2の開口14Ro→第2の仕切壁14Rb→短絡通路17R→連通孔301 を通過して第2のシリンダヘッドH2のヘッド側ウオータジャケット30に流れる冷却水は、第2の制限壁部14Rcにより規制されるが、前記第1の制限壁部14Fcによる流れの規制よりもその流れ抵抗が低減される。
【0039】
図5に示すように、第1、第2のスペーサ本体部14Fa,14Raはウオータジャケット13の内側壁面13aに沿うように配置されているが、第1、第2の冷却水の出口側Ouのうち、シリンダ軸線L2方向で前記第1、第2の短絡通路17F,17Rと対向する部分14Ff,14Rfだけは、第1、第2のスペーサ本体部14Fa,14Raの他の残りの部分に対してシリンダボア12aの径方向外側にオフセットしており、そのオフセットした部分14Ff,14Rfの外表面は、ウオータジャケット13の外側壁面13bに沿うように配置されて、前記第1、第2の制限壁部14Fc,14Rcの外表面と面一に形成されている。そしてスペーサ14F,14Rの冷却水出口部Ou,Ouの上方に、第1、第2シリンダヘッドH1,H2のウオータジャケット30の下面に開口する2個の連通孔301 が臨んでいる。
【0040】
これにより、冷却水は、第1、第2のスペーサ本体部14Fa,14Raの内側を流れる流量が多くなり、冷却水温度が上がる下流側であっても有効な冷却が可能になり、さらに、冷却水の入口側Inへの流れを抑制することができる。
【0041】
図3、4、7、10に示すように、第1、第2のスペーサ14F,14Rの、各スペーサ本体部14aの3個のシリンダボア12aが相互に近接する狭搾部分の上部には、それぞれ、シリンダ列線L1方向に延びる軸間当て部材14s…が一体に形成され、これらの軸間当て部材14s…は、第1、第2シリンダブロックB1,B2の各隣合うウオータジャケット13のシリンダボア12a間に係合して、第1、第2シリンダブロックB1、B2に対する第1、第2のスペーサ14F,14Rのシリンダ列線L1方向に位置決めがなされる。各軸間当て部材14sの下面は、円弧面14rを介して第1、第2のスペーサ14F,14Rの内面に滑らかに接続されており、それらのスペーサ14F,14Rのウオータジャケット13への着脱操作をし易くしている。
【0042】
また、図3,6に示すように、第1、第2のスペーサ14F,14Rのシリンダ列線L1方向の両端部の上部には、引っ掛け溝14gあるいは段差14dがそれぞれ形成されており、これらの引っ掛け溝14gあるいは段差14dは、第1、第2のスペーサ14F,14Rの、ウオータジャケット13への挿入操作、あるいはそこからの取出操作をし易くしている。
【0043】
図3に示すように、第1、第2のスペーサ14F,14Rのシリンダ列線L1方向のタイミングトレーン側の下部外面には、それらの誤組防止用の突起14eがそれぞれ一体の突設されており、これらの突起14eは、ウオータジャケット13を流れる冷却水の流れに影響を及ぼさない位置に設定するようにする。
【0044】
第1、第2のスペーサ14F,14Rを、第1、第2シリンダブロックB1,B2内の各ウオータジャケット13,13の内部に装着すると、第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbの下端がウオータジャケット13,13の底壁にそれぞれ接触し、その上端が第1,第2シリンダブロックB1,B2および第1、第2のシリンダヘッドH1,H2間に挟持されたガスケットGの下面に接触することで、第1、第2のスペーサ14F,14Rのタイミングトレーン側の端部が上下方向に位置決めされ、また第1、第2のスペーサ14F,14Rのトランスミッション側の部分は、下部支持脚14j,14jの下端がウオータジャケット13の底壁に接触し、上部支持脚14i,14iの上端がガスケットGの下面に接触することで、上下方向に位置決めされる。
【0045】
そして、第1,第2シリンダブロックB1,B2内の各ウオータジャケット13,13の内部には、第1、第2のスペーサ14F,14Rの上縁とガスケットGの下面との間にそれぞれ上部冷却水通路13cが区画され、第1、第2のスペーサ14F,14Rの下縁とウオータジャケット13,13の底部との間に下部冷却水通路13dが区画される。
【0046】
第1、第2のスペーサ14F,14Rのスペーサ本体部14a,14aの径方向の厚さは上下方向に亙って一定であり、ウオータジャケット13の径方向の幅よりも小さく設定される。第1、第2のスペーサ14F,14Rを、第1、第2ウオータジャケットB1,B2の内部に装着したとき、スペーサ本体部14a,14aの外周面とウオータジャケット13,13の外側壁面13bとの間には隙間が形成される。
【0047】
次に、上記構成を備えた本発明の実施の形態の作用を説明する。
【0048】
第1、第2シリンダブロックB1,B2のデッキ面111 ,112 上に第1,第1のシリンダヘッドH1,H2を組み付ける前の状態では、各デッキ面111 ,112 に露出する3個のシリンダスリーブ12…のシリンダボア12a…の外周を囲むようにそれぞれウオータジャケット13,13が開口しており、それらの開口からウオータジャケット13,13の内部に、第1,第2のスペーサ14F,14Rが挿入される。その後に、第1、第2シリンダブロックB1,B2のデッキ面11a,11a上に、それぞれガスケットG、Gを重ね合わせた状態で第1,第2のシリンダヘッドH1,H2が締結される。
【0049】
第1、第2のスペーサ14F,14Rの組付状態において、第1,第2の仕切壁14Fb,14Rbの下端と下部支持脚14j,14jの下端とがウオータジャケット13の底面に接触し、第1,第2の仕切壁14Fb,14Rbの上端と上部支持脚14i,14iの上端とが、それぞれガスケットGの下面に接触することで、第1,第2のスペーサ14F,14Rがシリンダ軸線L2方向に位置決めされる。
【0050】
内燃機関の運転時に、前記ウオータポンプPからの冷却水は、その2つに吐出口P1 ,P2 より、第1,第2のシリンダブロックB1,B2の第1、第2の冷却水入口部16F,16R内に分流して流入する。
【0051】
図8に示すように、第1、第2のシリンダブロックB1の第1、第2の冷却水入口部16F,16Rにそれぞれ流入した冷却水は、それらの下流端から第1、第2のスペーサ14F,14Rの第1、第2の開口14Fo,14Roを経てウオータジャケット13,13内に流入する。ウオータジャケット13,13の内壁に当たった冷却水は、それらの内壁と第1、第2のスペーサ14F,14Rとの間の間隙が小さいため、第1、第2のスペーサ14F,14Rの外側を多く流れる。
【0052】
ところで、第1、第2の開口14Fo,14Roを通過した冷却水の半部は、ウオータジャケット13,13の冷却水入口側(吸気側)In,Inへと流れ、一方、その他の半部は、第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbに設けた第1、第2の制限壁部14Fc,14Rcの外表面を経てウオータジャケット13,13の冷却水の出口側(排気側)Ou,Ouへと流れる。
【0053】
第1、第2の冷却水入口部16F、16Rから仕切壁14Fb,14Rbにより分岐されて冷却水入口側(吸気側)In、Inに流入した冷却水は、図3,7に矢印aに示すように、第1、第2シリンダブロックB1,B2のウオータジャケット13,13の上部冷却水通路13c,13cおよび下部冷却水通路13d,13dに流入し、上部冷却水通路13c,13cおよび下部冷却水通路13d,13dの略全長を流れ、第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbの反対側の冷却水の出口側Ou,Ouから第1、第2シリンダヘッドH1,H2の連通孔301 ,201 よりヘッド側ウオータジャケット30,30に流れる。
【0054】
シリンダボア12a…のシリンダ軸線L2方向上部および下部は、スペーサ14の上下の上部冷却水通路13cおよび下部冷却水通路13dを流れる冷却水によって充分に冷却されるため、シリンダボア12a…に摺動自在に嵌合するピストンの高温になり易い頂部およびスカート部の冷却性能を確保して過熱を防止することができる。
【0055】
一方、第1、第2の仕切壁14Fb,14Rbを経てウオータジャケット13,13の冷却水の出口側(排気側)Ou,Ouへ流れた冷却水は、図3,6に矢印bに示すように、第1、第2の制限壁部14Fc,14Rcの外面を通って、第1、第2の短絡通路17F,17Rより連通孔301 ,301 を経て第1、第2シリンダヘッドH1,H2のヘッド側ウオータジャケット30,30へと短絡して流れ、第1、第2シリンダヘッドH1,H2を冷却する。
【0056】
ところで、前述したように、第1のスペーサ14Fの第1の仕切壁14Fbに設けた第1の制限壁部14Fcにより規制されて流れる冷却水の流動抵抗は、第2スペーサ14Rの第2の仕切壁14Rbに設けた第2の制限壁部14Rcにより規制されて流れる冷却水の流動抵抗よりも大きくなるように設定されているので、第1、第2制限壁部14Fc,14Rcにより、前記ウオータポンプPのヘッド差hに起因するよる冷却水の流れ抵抗の差を吸収することができ、第1のシリンダブロックB1および第1シリンダヘッドH1と、第2シリンダブロックB2および第2シリンダヘッドH21との冷却性能の差を低減して、それらを均等に冷却することができる。
【0057】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明はその要旨を逸脱しない範囲で種々の設計変更を行うことが可能である。
【0058】
例えば、前記実施の形態ではV型6気筒内燃機関を例示したが、本発明は、少なくとも互いに並列される一対のシリンダブロックを有する形式の多気筒内燃機関に対して適用することができる。また前記実施の形態では、各シリンダブロックに3個のシリンダボアを有する形式の多気筒内燃機関を例示したが、各シリンダブロックに、1、2個あるいは4個以上のシリンダボアを有する形式の多気筒内燃機関に対して適用することができる。
【符号の説明】
【0059】
12a シリンダボア
13 ウオータジャケット
14F 第1のスペーサ
14R 第2のスペーサ
14Fa 第1のスペーサ本体部
14Ra 第2のスペーサ本体部
14Fo 第1の開口
14Ro 第2の開口
14Fb 第1の仕切壁
14Rb 第2の仕切壁
14Fc 第1の制限壁部
14Rc 第2の制限壁部
16F 第1の冷却水入口部
16R 第2の冷却水入口部
17F 第1の短絡通路
17R 第2の短絡通路
B1 第1のシリンダブロック
B2 第2のシリンダブロック
H1 第1のシリンダヘッド
H2 第2のシリンダヘッド
G ガスケット
In 冷却水の入口側
Ou 冷却水の出口側
L1 クランク軸線(シリンダ列線)
L2 シリンダ軸線
g ガイド面
1 ,l2 距離
1 ,t2 厚み

【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸(CS)を軸架したクランクケース(CC)に、そのクランク軸方向(L1)に並列する少なくとも一対の、第1、第2のシリンダブロック(B1,B2)が一体に形成され、各シリンダブロック(B1,B2)には、そこに設けたシリンダボア(12a)を囲むように形成されたウオータジャケット(13)の内部に第1、第2のスペーサ(14F,14R)を装着し、それらのスペーサ(14F,14R)でウオータジャケット(13)内を流れる冷却水の流れを規制して前記シリンダボア(12a)の冷却状態を調整するようにした内燃機関の冷却構造において、
前記第1、第2のシリンダブロック(B1,B2)には、そのクランク軸方向(L1)の一端側に、前記ウオータジャケット(13)に連通する第1、第2の冷却水入口部(16F,16R)と、シリンダブロック側の前記ウオータジャケット(13)から前記シリンダブロック(B1,B2)上に固定される第1,第2シリンダヘッド(H1,H2)のヘッド側ウオータジャケット(30)へ通じる第1、第2の短絡通路(17F,17R)とが設けられ、
前記第1、第2のスペーサ(14F,14R)は、前記シリンダボア(12a)の周囲を全周に亘って囲むように一体に形成されて、シリンダブロック側のウオータジャケット(13)内の冷却水の流れを規制する第1、第2のスペーサ本体部(14Fa,14Ra)と、それらのクランク軸方向(L1)の一端側に、該第1、第2のスペーサ本体部(14Fa,14Ra)に連結されて前記第1、第2の冷却水入口部(16F,16R)から前記第1、第2の短絡通路(17F,17R)への冷却水の流れを制限する第1、第2の制限壁部(14Fc,14Rc)とを有し、
前記第1のシリンダブロック(B1)に設けられる前記第1の冷却水入口部(16F)と前記第1の短絡通路(17F)との距離(l1 )が、第2のシリンダブロック(B2)に設けられる前記第2の冷却水入口部(16R)と前記第2の短絡通路(17R)との距離(l2 )よりも大きく形成され、前記第1のシリンダブロック(B1)に設けられる前記第1の制限壁部(14Fc)による冷却水の流れの制限量は、前記第2のシリンダブロック(B2)に設けられる前記第2の制限壁部(14Rc)による冷却水の流れの制限量よりも大きいことを特徴とする、内燃機関の冷却構造。
【請求項2】
前記第1、第2のシリンダブロック(B1,B2)に設けた前記第1、第2の冷却水入口部(16F,16R)の下流端は、シリンダブロック側のウオータジャケット(13)内の第1、第2のスペーサ(14F,14R)に設けた第1、第2の開口(14Fo,14Ro)にそれぞれ対向していることを特徴とする、前記請求項1に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項3】
前記第1のシリンダブロック(B1)に設けられる前記第1の制限壁部(14Fc)の前記シリンダボア(12a)の径方向の厚み(t1 )は、前記第2のシリンダブロック(B2)に設けられる前記第2の制限壁部(14Rc)の前記シリンダボア(12a)の径方向の厚み(t2 )よりも大きいことを特徴とする、前記請求項1または2に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項4】
前記第2のシリンダブロック(B2)に設けられる前記第2の制限壁部(14Rc)には、前記第1のシリンダブロック(B1)に設けられる前記第1の制限壁部(14Fc)よりも前記第2の冷却水入口部(16R)から前記第2の短絡通路(17R)への冷却水の流れに向けて大きく延出するガイド面(g)が設けられることを特徴とする、前記請求項1、2、または3に記載の内燃機関の冷却構造。
【請求項5】
前記第1、第2の短絡通路(17F,17R)に前記シリンダボア(12a)のシリンダ軸方向(L2)で対向する前記第1、第2のスペーサ本体部(14Fa,14Ra)の冷却水出口側(Ou)は、前記第1、第2のスペーサ本体部(14Fa,14Ra)の該冷却水出口側(Ou)を除く残余の部分に対して前記シリンダボア(12a)の径方向の外側にオフセットして設けられ、該出口側(Ou)の外側表面と前記第1、第2の制限壁部(14Fc,14Rc)の外側表面は面一に形成されることを特徴とする、前記請求項1、2、3または4に記載の内燃機関の冷却構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−113124(P2013−113124A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257342(P2011−257342)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】