説明

分岐鎖アミノ酸を含有する焼菓子

【課題】COPD患者等、食欲が低下し、腹部膨満感を伴う患者の栄養状態を改善するための、高脂質でかつ分岐鎖アミノ酸を含む総合栄養食品を提供する。
【解決手段】分岐鎖アミノ酸として、イソロイシン、ロイシンおよびバリンを合計1.0〜4.0g/100kcal、脂質を35〜50エネルギー%含有し、さらに、デンプンを分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.1〜1.2重量部含有してなる焼菓子により、上記課題が解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、手軽に分岐鎖アミノ酸およびエネルギーを摂取することができる、病者向けの総合栄養食品に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢の有病患者の運動栄養において、慢性閉塞性肺疾患(COPD)や骨折時のリハビリテーションの際の栄養介入がない場合、体重減少などの低栄養のリスクが高くなるが、総合栄養食品の摂取によって低栄養のリスクを少なくすることが知られている。このような患者の多くは食欲不振を伴うため、通常の食事に加えて補食として、総合栄養食品を摂取することが好ましい。(非特許文献1)
【0003】
特に、COPD患者において、症状および障害の進行とともに体重が減少することが知られている。体重減少のある患者は、体重減少のない患者に比べ有意に生存率が低くなるため、積極的な栄養療法が実施される。その栄養療法においては、呼吸商の低い脂質を主体とし、呼吸筋のタンパク合成促進作用や異化抑制作用があるイソロイシン、ロイシンおよびバリンの3種類の分岐鎖アミノ酸の摂取が推奨されている。(非特許文献2)
【0004】
また、COPD患者は、換気障害に基づく呼吸筋酸素消費量の増大によって必要エネルギー量が増加しているにもかかわらず、息切れや肺の過膨張により、食欲低下や腹部膨満感を伴っており、いかにして、少量で効率良く食べるかを工夫することが必要である。(非特許文献3)
【0005】
しかしながら、これまでに一般的に用いられている総合栄養食品には分岐鎖アミノ酸は十分に配合されておらず、また液状、ゲル状、ゾル状または、粉末を水に溶解して飲用するタイプが主流であり、摂取エネルギーに対する容量が多く、腹部膨満感が増大するため、COPD患者のような病者に適したものとは言えなかった。
【0006】
以上の状況に鑑み、食欲低下や腹部膨満感を伴う患者が摂取しやすいような形態の総合栄養食品を検討した結果、本発明者らは、分岐鎖アミノ酸を配合した高エネルギーの焼菓子形態が最適であると考えた。しかし、このような焼菓子を調製する場合、脂質エネルギー比を高く、容量が小さくなるように配合を調整しなければならない。その結果、焼菓子の骨格となるグルテンを含む小麦粉や、たんぱく原料、あるいは食物繊維を十分に配合することができないといった問題があった。
【0007】
更に、生地中の油脂や分岐鎖アミノ酸が、小麦粉に含まれるグルテンの骨格形成能を阻害するため、通常の焼菓子の調製方法では、焼成前後の保形性および焼成後に食品として好ましい硬さを付与することができないといった問題があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】高田和子、FoodStyle21 Vol2 No.7/2007
【非特許文献2】吉川雅則、症候の評価と治療の実際(水・電解質管理)4.呼吸不全患者、日内会誌.92、p770−776、2003
【非特許文献3】日本呼吸ケア・リハビリテーション学会呼吸リハビリテーション委員会編、呼吸リハビリテーションマニュアル−患者教育の考え方と実践−.照林社、東京、2007
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、上述の状況を鑑みてなされたもので、COPD患者等、食欲が低下し、腹部膨満感を伴う患者の栄養状態を改善するものであり、高脂質でかつ分岐鎖アミノ酸を含む焼菓子形態の分岐鎖アミノ酸含有総合栄養食品を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記目的を達成すべく、鋭意研究を重ねた結果、分岐鎖アミノ酸として、イソロイシン、ロイシンおよびバリンを合計1.0〜4.0 g/100 kcal、脂質を35〜50エネルギー%含有する焼菓子において、保形用にデンプン所定量を含有することにより、焼成前後に保形性を有し、さらに焼成後も適度な固さを保つことができる焼菓子を製造できることを見出した。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の(1)〜(6)に示したものである。
(1)分岐鎖アミノ酸として、イソロイシン、ロイシンおよびバリンを合計1.0〜4.0 g/100 kcal、脂質を35〜50エネルギー%含有し、さらに、デンプンを分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.1〜1.2重量部含有してなる焼菓子。
(2)前記デンプンが、ワキシーコーンデンプン、タピオカデンプン、もち米デンプン、馬鈴薯デンプンから選ばれる少なくとも1種である(1)に記載の焼菓子。
(3)焼成後の保形性が1.0〜1.15であり、焼成後の硬さが20〜80Nである(1)または(2)に記載の焼菓子。
(4)イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合が1:1.8〜2.2:0.9〜1.1である(1)ないし(3)のいずれかに記載の焼菓子。
(5)さらに、ビタミンまたはミネラルが配合されてなる(1)ないし(4)のいずれかに記載の焼菓子。
【発明の効果】
【0012】
本発明の焼菓子は、分岐鎖アミノ酸を含有し、かつ脂質を多く含有するにもかかわらず、焼成前後に保形性を有し、さらに焼成後も適度な硬さを保つことができる。そのため、上記のCOPD患者等のような、食欲が低下し、腹部膨満感を伴う患者でも、効果的に分岐鎖アミノ酸が補給できる総合栄養食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の焼菓子を詳細に説明する。
本発明に示される「焼菓子」とは、生地を賦型後、加熱焼成して成形したものを意味する。生地に使用する原料は、従来焼菓子を調製する際に使用されているものはいずれも可能であり、例えば、小麦粉、糖類、食用油脂を主原料とし、必要に応じて食塩、乳製品、卵、膨張剤などを加えたものである。この目的に合致する焼菓子に属するものの代表例としては、クッキー類、ビスケット類、サブレ類などを挙げることができる。
【0014】
本明細書において、「保形性」は、7mm厚の均一な板状に伸ばした生地を、直径6cmの円形型により型抜きし、円盤状に成形された生地を上から見た場合の、焼成前の投影面積に対する焼成後の投影面積の比により判断される。
【0015】
また、本明細書において、「硬さ」は、生地を一定の厚さの均一な板状に伸ばした生地を、直径5.5〜8cmの型により型抜きし、円盤状に成型された生地をオーブン等で焼成して得た該焼菓子を、クリープメーター(MODEL RHEONER2、株式会社山電)を用いて、破断強度試験を行った場合の「最大荷重」により判断される。
【0016】
本発明の焼菓子に使用する分岐鎖アミノ酸とは、イソロイシン、ロイシンおよびバリンであり、本発明の焼菓子におけるこれらの分岐鎖アミノ酸の配合量は、100kcalあたり1.0〜4.0gの範囲である。分岐鎖アミノ酸の配合量が、1.0gより少ないと、目的とする分岐鎖アミノ酸量を摂取できなくなり、好ましくない。また、4.0gを越えると、焼成後の焼菓子が十分な保形性および硬さを有さなくなり、食品として好ましくない。また、イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合は特に限定されないが、栄養学的なバランスを考慮すると、1:1.8〜2.2:0.9〜1.1であることが好ましい。この配合割合は、体たんぱく質合成にとって最適な比率に近く、ヒトの母乳中に含まれる分岐鎖アミノ酸の割合にも近い。
【0017】
本発明の焼菓子には、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、従来から食品に慣用されるたんぱく質原料を配合してもよい。植物性たんぱく質原料として、例えば、大豆たんぱく、濃縮大豆たんぱく、小麦たんぱく、コーングルテンミールなどが例示できる。また、動物性たんぱく質原料として、例えば、牛乳、脱脂乳などの乳製品の他、カゼイン、カゼインナトリウム、カゼインマグネシウム、カゼインカルシウム、乳清、トータル・ミルク・プロテイン(TMP)、ミルク・プロテイン・コンセントレート(MPC)などの乳たんぱく、卵白、コラーゲン、プロタミンなどを例示することができる。
【0018】
たんぱく質を配合する場合、たんぱく質の割合は、5〜20エネルギー%、好ましくは10〜15エネルギー%の範囲である。たんぱく質の割合が、5エネルギー%より少ないと、目的とするたんぱく質量を摂取できなくなり、好ましくない。また、20エネルギー%を越えると、脂質エネルギーを摂取できなくなり、好ましくない。
【0019】
本発明の焼菓子は、保形性を付与するためにデンプンを含有する。本発明において、デンプンとは、デンプン質原料となる植物の子実や塊茎、根茎に存在している、アミロースまたはアミロペクチンから成る高分子化合物であり、工業的に利用しやすいように、分離、精製したもの、またはそれらに修飾を加えたものを指す。
【0020】
含有するデンプンとしては、従来、食品で利用されている公知の各種デンプンが1種単独または2種以上混合して使用できる。例えば、これらデンプンは、馬鈴薯、キャッサバ、とうもろこし、ワキシーコーン、うるち米、もち米、小麦、甘藷、サゴ、ワラビ、蓮、クズ、緑豆などを原料にして製造されたものが挙げられる。また、このようなデンプン原料を元に製造されたアルファ化デンプンや、エステル化、酸化、エーテル化処理を受けた加工デンプンを用いてもよい。加工デンプンの具体的な化合物としては、アセチル化アジピン酸架橋デンプン、アセチル化リン酸架橋デンプン、アセチル化酸化デンプン、オクテニルコハク酸デンプンナトリウム、酢酸デンプン、酸化デンプン、ヒドロキシプロピルデンプン、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋デンプン、リン酸モノエステル化リン酸架橋デンプン、リン酸化デンプン、リン酸架橋デンプン、デンプングルコール酸ナトリウムがあげられる。
これらのデンプンの中で、特に、ワキシーコーンデンプン、タピオカデンプン、もち米デンプン、馬鈴薯デンプンから少なくとも1種以上を使用すると、焼成後の固さを十分に保つことができることから好ましい。
【0021】
本発明の焼菓子に配合するデンプンの配合量は、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.1〜1.2重量部である。デンプンの配合量が0.1重量部より少ないと、焼成後の焼菓子が十分な硬さと保形性を有さなくなり、食品として好ましくない。また、1.2重量部を超えると、焼成品の水分量が多くなり、長期保存に適さなくなり好ましくない。
【0022】
本発明の焼菓子に配合する脂質としては、従来から食品で利用されている公知の各種の食用油脂類が、1種単独でまたは2種以上混合して使用できる。例えば、アマニ油、エゴマ油、オリーブ油、ゴマ油、米油、米糠油、サフラワー油、シソ油、大豆油、コーン油、ナタネ油、胚芽油、パーム油、パーム核油、ヒマワリ油、綿実油、ヤシ油、ナッツ油、落花生油、カカオ脂などの植物性油脂やラード、牛脂、魚油、乳脂などの動物性油脂、中鎖脂肪酸、高度不飽和脂肪酸、DHA、EPA、ジアシルグリセロールなどの加工油脂、また、これら油脂を含有するバター、マーガリン、ショートニングなどの油脂加工品などが挙げられる。
【0023】
本発明の焼菓子中の脂質の割合は、35〜50エネルギー%、好ましくは40〜50エネルギー%の範囲である。脂質の割合が、35エネルギー%より少なくなると、目的とするエネルギーを脂質として摂取できなくなり、好ましくない。また、50エネルギー%より多くなると、十分なタンパク質量が摂取できなくなり、好ましくない。ここで、エネルギー%とは、本発明の焼菓子の総エネルギーに対する脂質由来のエネルギーの比を百分率で表した数値である。
【0024】
本発明の焼菓子は、さらにデンプン以外の糖質を含有することが好ましい。糖質としては、従来から食品で利用されてきている公知の各種のもののいずれも使用できる、例えば、ブドウ糖(グルコース)、乳糖(ラクトース)、果糖(フルクトース)などの単糖類、蔗糖、グラニュー糖、麦芽糖、トレハロース、マルトース、イソマルトースなどの二糖類、グリコーゲン、デキストリン(デンプンが熱、酸、酵素その他の作用によって分解された種々の分解生成物)や、水飴、還元水飴、はちみつ、異性化糖、転化糖、オリゴ糖(イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、キシロオリゴ糖、ゲンチオオリゴ糖、ニゲロオリゴ糖、テアンデオリゴ糖、大豆オリゴ糖など)、粉飴、糖アルコール(マルチトール、エリスリトール、ソルビトール、パラチニット、キシリトール、ラクチトールなど)、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)などが挙げられる。これらは1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせてもよい。前述の脂質およびたんぱく質のエネルギー%に関する記載から明らかな通り、本発明の焼菓子の糖質は30〜60エネルギー%であるので、これら甘味成分の配合には糖質のエネルギー%に留意して配合する必要がある。
【0025】
また、従来公知もしくは将来知られうる甘味成分も糖類の代わりに用いることができ、具体的には、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、スクラロース、アリテーム、ネオテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、サッカリン、サッカリンナトリウム、ステビア抽出物、ステビア末などが挙げられる。
【0026】
本発明の焼菓子は、本発明の主旨を逸脱しない範囲内で、食物繊維を配合してもよい。例えば、グアーガム酵素分解物、低分子化アルギン酸ナトリウム、グルコマンナン、イヌリン、リンゴ食物繊維などの水溶性食物繊維やコーンファイバー、レジスタントスターチ、サイリウム種皮、ビートファイバー、アップルファイバー、サトウキビ食物繊維、小麦ふすま、発酵大麦ファイバー、エンドウファイバー、夕顔果実食物繊維、シトラスファイバー、セルロース、小麦ファイバー、オート麦ファイバー、ポテトファイバー、大豆ファイバーなどの不溶性食物繊維が挙げられる。
【0027】
本発明の焼菓子を製造する際には、製品の種類に応じて通常用いられる適当なビタミン類やミネラル類などの成分を配合することが出来る。
本発明の焼菓子に用いるビタミン類としては、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ナイアシン、パントテン酸、葉酸、ビオチン、ビタミンC、ビタミンA、ビタミンD、ビタミンE、ビタミンKなどが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが、栄養学的観点から好ましい。ビタミンとしては、ビタミン誘導体を使用してもよい。
【0028】
ビタミンの配合量としては、焼菓子100kcalあたり、下記の範囲が適当である。
ビタミンB1 0.1〜40mg、好ましくは0.3〜25mg
ビタミンB2 0.1〜20mg、好ましくは0.33〜12mg
ビタミンB6 0.1〜60mg、好ましくは0.3〜10mg
ビタミンB12 0.1〜100μg、好ましくは0.60〜60μg
ナイアシン 1〜300mg、好ましくは3.3〜60mg
パントテン酸 0.1〜55mg、好ましくは1.65〜30mg
葉酸 10〜1000μg、好ましくは60〜200μg
ビオチン 1〜1000μg、好ましくは14〜500μg
ビタミンC 10〜2000mg、好ましくは24〜1000mg
ビタミンA 0〜3000μg、好ましくは135〜600μg
ビタミンD 0.1〜50μg、好ましくは1.5〜5.0μg
ビタミンE 1〜800mg、好ましくは2.4〜150mg
ビタミンK 0.5〜1000μg、好ましくは2〜700μg
【0029】
本発明の焼菓子に用いるミネラル類として、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウム、リンおよび亜鉛などが挙げられ、これら複数をできる限り組み合わせて配合するのが栄養学的観点から好ましい。これらは、無機電解質成分として配合されていても良いし、有機電解質成分、として配合されていてもよい。無機電解質成分としては、例えば、塩化物、硫酸化物、炭酸化物、リン酸化物などのアルカリ金属またはアルカリ土類金属の塩類が挙げられる。また、有機電解質成分としては、有機酸、例えばクエン酸、乳酸、アミノ酸(例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸など)、アルギン酸、リンゴ酸またはグルコン酸と、無機塩基、例えばアルカリ金属またはアルカリ土類金属との塩類が挙げられる。例えば、塩化カルシウム、クエン酸カルシウム、グリセロリン酸カルシウム、グルコン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ステアリン酸カルシウム、ステアロイル乳酸カルシウム、炭酸カルシウム、乳酸カルシウム、ピロリン酸二水素カルシウム、硫酸カルシウム、リン酸三カルシウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸二水素カルシウム、未焼成カルシウム、塩化マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、リン酸三マグネシウム、グルコン酸亜鉛、硫酸亜鉛などが挙げられる。
【0030】
ミネラルの配合量としては、焼菓子100kcalあたり、下記の範囲が適当である。
ナトリウム 5〜6000mg、好ましくは10〜3500mg
カリウム 1〜3500mg、好ましくは25〜1800mg
マグネシウム 1〜740mg、好ましくは25〜300mg
カルシウム 10〜2300mg、好ましくは250〜600mg
リン 1〜3500mg、好ましくは25〜1500mg
亜鉛 0.1〜30mg、好ましくは1〜15mg
【0031】
本発明の焼菓子は、前記主成分の他に、必要に応じて、栄養価を高めたり、風香味を付与したり、着色したりする目的で用いられる種々の添加物を更に含有することができる。該添加物としては、例えば、風香味付与を目的とする香料(合成香料および天然香料)、醤油、味噌、化学調味料、風味物質(チーズ、チョコレート、ココアパウダーなど)など、着色を目的とするカラメル、天然着色料など、その他、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、レシチンなど)、安定剤、防腐剤などをそれぞれ挙げることができる。これらの添加剤はそれぞれ1種単独でも2種以上組み合わせても利用することができる。
【0032】
なお、本発明の焼菓子には、食塩、イースト、酵素、膨張剤などを必要に応じて添加することもできる。酵素としては、例えば、製菓用に一般によく知られている各種のプロテアーゼ、アミラーゼ、セルラーゼなどを例示することができる。膨張剤としては、食品業界で汎用されている、例えば炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウムなどおよびこれらを含むものを例示することができる。その代表例としては市販のベーキングパウダーを例示することができる。これら食塩、イースト、酵素、膨張剤などの添加配合量は、通常これらが焼菓子に配合される場合と同等であり、一般には約1重量%程度までである。
【0033】
本発明に係る焼菓子の製造方法においては、まず上記各成分を含有する生地を作成する。これは上記各成分の所定量を水と混合し、混合物を混練することにより行ない得る。上記各成分の混合、混練による生地の調製は、得られる生地が均一になるように適宜通常の装置、条件などを利用して行うことができる。例えばまず粉末状の各原料成分を秤量、混合し、混合粉末に水および水分を多く含む液状動物性たんぱく質素材(牛乳、全卵など)を混合する。この際、水および液状たんぱく質素材は予め約50℃程度に加温して用いることもでき、これによって得られる生地の温度を約30〜35℃程度に上げて生地を柔らかくして、引続く生地の成型を容易にすることができる。
【0034】
本発明では、次いで上記で得られる生地を任意の形状に賦型する。この賦型は、通常の方法に従い、例えば、麺棒あるいは、デポジター、圧延ローラーなどの機械を用いて生地を伸ばし、型抜きして行う。その際の形状は任意のものとすることができる。製造の容易性、得られる食品の食べやすさなどを考慮すれば、通常、厚さ4〜8mm程度の板状体などとするのが望ましい。これら賦型物の大きさおよび長さは最終製品の食べ易さ、取扱いの容易さなどを考慮して適宜定めればよい。必要に応じ生地を裁断してもよい。
【0035】
本発明においては上記生地を加熱焼成することを不可欠とし、これによって、分岐鎖アミノ酸を含有する本発明の目的とする焼菓子形態の総合栄養食品を得ることができる。
加熱焼成の条件は、使用した原料素材、生地の水分含量などに応じて適宜選択でき、一般に製菓製造において採用されているそれらの条件と特に異なるものではない。通常、加熱温度範囲は約60〜250℃の範囲から選ばれ、加熱時間は約2〜60分の範囲から選ばれる。殊に好ましい温度および時間は約160〜220℃および8〜15分程度である。上記加熱焼成のための熱源としては、特に制約はなく熱水、蒸気、電気ヒーター、ガスオーブンなどの燃焼熱を利用するもの、電子レンジなどのマイクロ波、遠赤外線、赤外線などの各種のものを用いることができる。
【0036】
本発明の焼菓子の製造に際しては、上記に説明した組成範囲に基づいて、後述の実施例の方法や、焼菓子の製造法として従来から知られている方法、もしくは今後新しく提供される方法を利用することができる。
【0037】
本発明の焼菓子の保形性は、1.0〜1.15の範囲であることが好ましい。焼菓子の保形性が1.0より小さいと、焼菓子がボソボソとした食感になり、好ましくない。また、1.15を越えると、焼成後の焼菓子の形が悪くなり、好ましくない。
【0038】
本発明の焼菓子の焼成後の硬さは、20〜80 Nの範囲であることが好ましい。焼菓子の硬さが20 Nより小さいと、焼菓子が脆くなり、製造上好ましくない。また、80 Nを越えると硬くなりすぎ、食品として好ましくない。
【実施例】
【0039】
次に、実施例を挙げて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
表1に示す配合に基づき、調製法1の方法により焼菓子を得た。脂質エネルギー比は45%、分岐鎖アミノ酸は1.7g/100kcalになるように調整した。デンプン原料は、分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.8重量部配合した。得られた焼菓子について、評価法1および2に記載の方法で保形性および硬さを評価した。表3に示すように、得られた焼菓子の保形性は1.0、硬さは27Nであった。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】

【0043】
(調製法1)
マーガリン(株式会社ADEKA)、グラニュー糖および乳化剤(サンソフトNo.818H、太陽化学株式会社)を4.8L容ステンレスボウルに入れ、ミキサー(KitchenAid 型式:KSM5、平面ビーター、株式会社エフ・エム・アイ)を用い、速度目盛り2で2分間ミキシングした。次に、凍結全卵(製菓用、キユーピータマゴ株式会社)を加えて、速度目盛り2で2分間ミキシングした。さらに、ミクロカルマグSおよびビタミンミックスを加えて、速度目盛り2で3分間ミキシングした後、ロイシン、イソロイシン、バリン(L−ロイシン、L−イソロイシン、L−バリン、いずれも協和発酵バイオ株式会社)、デンプン原料としてワキシーコーン由来のアルファ化デンプン(ワキシーアルファーY、三和澱粉工業株式会社)、濃縮大豆たんぱく(ARCON S、日本新薬株式会社)を加えて、速度目盛り1で30秒間、速度目盛り2で30秒間ミキシングした。最後に、小麦粉(日清フラワー薄力小麦粉、日清フーズ株式会社)を加えて、速度目盛り1で30秒間、速度目盛り2で1分間ミキシングして焼菓子用生地を調製した。得られた生地を麺棒で7mm厚の均一な板状に伸ばし、直径6cmの型により型抜きした。その後、型抜きした生地をオーブンレンジ(品番:NE−M250、松下電器産業株式会社)で170℃、14分間焼成し、焼菓子を得た。
【0044】
(評価法1)
実施例1から7の焼菓子と比較例1から8の試料の保形性は、円盤状に成形された生地を上から見た場合の、焼成前の投影面積に対する焼成後の投影面積の比を画像解析ソフト(Scion Image、Scion Corporation)を用いてThreshold機能により閾値を設定し、2値化処理を行い、計測した。計測は、n=3で行い、結果は平均値で記した。結果を表3に示す。
【0045】
(評価法2)
実施例1から7の焼菓子と比較例1から8の焼菓子の硬さは、焼成して得た焼菓子を、クリープメーター(MODEL RHEONER2、株式会社山電)を用いて、破断強度試験を行った場合の最大荷重を指標とした。感圧軸は、長さ3cm、幅1mmの楔形を用いて試験を行った。計測はn=5で行い、結果は平均値で示した。結果を表3に示す。
【0046】
【表3】

【0047】
(実施例2)
実施例1において、デンプン原料をタピオカ由来の酢酸デンプン、(タピオカアルファーTP−2、三和澱粉工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た。得られた焼菓子の保形性は1.01、硬さは25Nであった。結果を表3に示す。
【0048】
(実施例3)
実施例1において、デンプン原料をもち米由来のアルファ化デンプン(モチールアルファー、上越スターチ株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た。得られた焼菓子の保形性は1.07、硬さは29Nであった。結果を表3に示す。
【0049】
(実施例4)
実施例1において、デンプン原料を馬鈴薯由来のヒドロキシプロピルリン酸架橋デンプン(エリアンVC120、松谷化学工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して焼菓子を得た。得られた焼菓子の保形性は1.0、硬さは29Nであった。結果を表3に示す。
【0050】
(実施例5)
実施例1において、デンプン原料を小麦由来のアルファ化デンプン(小麦澱粉マル食、日本新薬株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.03、硬さは9Nであった。結果を表3に示す。
【0051】
(実施例6)
実施例1において、デンプン原料をとうもろこしデンプン(日食コーンスターチY、日本食品化工株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.04、硬さは15Nであった。結果を表3に示す。
【0052】
(比較例1)
実施例1において、デンプン原料をグラニュー糖に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.16、硬さは17Nであった。結果を表3に示す。
【0053】
(比較例2)
実施例1において、デンプン原料をDE(分解度)11に調整されたタピオカデキストリン(パインデックス#2、松谷化学工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.18、硬さは18Nであった。結果を表3に示す。
【0054】
(比較例3)
実施例1において、デンプン原料をDE18に調製されたタピオカデキストリン(TK−16、松谷化学工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.19、硬さは25Nであった。結果を表3に示す。
【0055】
(比較例4)
実施例1において、デンプン原料をDE25のとうもろこしデキストリン(サンデック#250、三和澱粉工業株式会社)に変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.18、硬さは18Nであった。結果を表3に示す。
【0056】
(実施例7)
表3のようにマーガリンを150.00g、グラニュー糖を114.00g、デンプン原料としてワキシーアルファーYを6.00gに変えた以外は、実施例1と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。このとき、脂質エネルギー比は41%、分岐鎖アミノ酸は2.0g/100kcalになるように調製した。得られた試料の保形性は1.06、硬さは23Nであった。結果を表3に示す。
【0057】
【表4】

【0058】
【表6】

−:測定は実施せず
【0059】
(実施例8)
実施例7において、グラニュー糖を105.0g、ワキシーアルファーYを15.00gに変えた以外は、実施例7と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.0、硬さは27Nであった。結果を表4に示す。
【0060】
(実施例9)
実施例7において、グラニュー糖を60.00g、ワキシーアルファーYを60.00gに変えた以外は、実施例7と全く同じ調製法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は1.0、硬さは42Nであった。結果を表4に示す。
【0061】
(比較例7)
実施例7において、グラニュー糖を120.00g、ワキシーアルファーYを無配合に変えた以外は、実施例7と全く同じ調整法を繰り返して試料を得た。得られた試料の保形性は、1.0、硬さは19Nであった。結果を表4に示す。
【0062】
(比較例8)
実施例7において、グラニュー糖を39.90g、ワキシーアルファーYを80.00gに変えた以外は、実施例7と全く同じ調整法を繰り返したが、混練後の生地がまとまらず、引き続く圧延作業が不可能であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐鎖アミノ酸として、イソロイシン、ロイシンおよびバリンを合計1.0〜4.0 g/100 kcal、
脂質を35〜50エネルギー%含有し、
さらに、デンプンを分岐鎖アミノ酸1重量部に対して0.1〜1.2重量部含有してなる
焼菓子。
【請求項2】
前記デンプンが、ワキシーコーンデンプン、タピオカデンプン、もち米デンプン、馬鈴薯デンプンから選ばれる少なくとも1種である請求項1に記載の焼菓子。
【請求項3】
焼成後の保形性が1.0〜1.15であり、焼成後の硬さが20〜80Nである請求項1または2に記載の焼菓子。
【請求項4】
イソロイシン、ロイシンおよびバリンの配合割合が1:1.8〜2.2:0.9〜1.1である請求項1ないし3のいずれかに記載の焼菓子。
【請求項5】
さらに、ビタミンまたはミネラルが配合されてなる請求項1ないし4のいずれかに記載の焼菓子。

【公開番号】特開2013−66410(P2013−66410A)
【公開日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−206430(P2011−206430)
【出願日】平成23年9月21日(2011.9.21)
【出願人】(000109543)テルモ株式会社 (2,232)
【Fターム(参考)】